説明

スポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【目的】スポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【構成】鉄含有率8〜12wt%の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、pH1〜3,H22 濃度0.01〜0.5wtの%水溶液に浸漬し酸化被膜を形成させた後、表面が平坦部と凸部からなり平坦部の面積率が20〜70%のロールを用いて調質圧延を施す。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用防錆鋼板として、リン酸塩処理性を損うことなく、スポット抵抗溶接性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年自動車体防錆の観点から、高耐食性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が多用されている。自動車用防錆鋼板として使用される場合、車体組立工程においてスポット抵抗溶接により接合され、その後化成処理、塗装工程に送られる。一般に亜鉛系めっき鋼板は、スポット溶接時にめっき層中の亜鉛が、現在電極として多用されているCuと合金を形成しやすいため、電極表層部に形成された脆い合金層の離脱により電極の損耗が激しく、ドレッシングなしで連続して溶接可能な打点数(連続打点数)が冷延鋼板に比べて低くなるという欠点がある。
【0003】亜鉛系めっき鋼板のスポット溶接時における上記のような問題点を解決すべく種々の提案がなされている。例えば、特開昭59−93900号公報には電解酸化処理により、または特開昭60−63394号公報には金属塩類を塗布することにより溶接性が向上する旨が開示されている。また、溶融亜鉛めっきの場合、溶融めっき後、水または水溶液を塗布し保熱または加熱処理してめっき表面に不活性皮膜を形成させる技術が開示されている。さらに特開平1−283384号公報には酸含有の酸化剤水溶液に接触させ、酸化膜の生成処理を行うことが開示されている。
【0004】しかし、これらの方法によってもなお、冷延鋼板並の安定したスポット溶接性を得るには至っていないばかりか、これらの方法では表面に強固な不活性皮膜が生成し、リン酸塩処理後の外観に付着ムラが発生するという問題が発生する。したがって、スポット溶接及び均一リン酸塩処理の両性能を満足させる鋼板及びその製造方法の確立が必要である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、スポット溶接及び均一リン酸塩処理の両性能を満足させる鋼板及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】合金化溶融亜鉛めっき鋼板を連続的にスポット溶接した場合、ZnとCuとの合金化により電極は消耗していくが、この場合、電極先端の形状は次第に凹状になっていく。一方、冷延鋼板の場合には、このような連続打点時において電極先端が凹状に消耗していくといった変化は認められず、電極はむしろ凸状になっていく。電極先端の凹化は、結果的に電極と鋼板間の通電面積の増大すなわち溶接電流密度の低下につながり、ナゲット形成に不利になる。
【0007】合金化溶融Znめっき上の酸化被膜は、金属ZnとCuとの直接接触を防止し、Zn−Cu合金化を抑制し、電極の凹化を防止すると考えられるが、一方では、このような酸化物は、溶接後の自動車製造工程である化成処理時に表面が不活性なため健全な被膜ができず、化成処理性、さらには耐水二次密着性が悪くなる問題がある。
【0008】本発明者らは、このスポット溶接性と化成処理性を両立させるため種々の検討を重ねた結果、酸化処理を施した後調質圧延を行うことで両立が可能であるという知見を得た。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表面に鉄含有率8〜12wt%の合金化溶融亜鉛めっき層と、その上に酸化処理被膜層を有し、かつ、酸化被膜層表面が平坦部と凹部とからなり、その平坦部面積率が20〜70%であることを特徴とするスポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0009】また、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理した鋼板を加熱合金化して鉄含有率8〜12wt%の合金化溶融亜鉛めっきした後、該鋼板を酸化処理し、さらに調質、圧延を施して、調質圧延ロールと鋼板の接触によって形成される平坦部面積率を20〜70%とすることを特徴とするスポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0010】さらに、合金化溶融亜鉛めっきした鋼板を、過酸化水素を0.01〜0.5wt%含み、pH1〜3に調整した処理液に接触させて酸化処理を行うと好適である。
【0011】
【作用】次に本発明の工程について作用と共に説明する。本発明にいう合金化溶融Znめっき鋼板は、溶融Znめっきを行った後、Znめっき層と鋼板の合金化を行った鋼板であり、めっき層中には、Znの他にFe,Al等の合金元素が含まれる。Alは浴中に添加され、合金化を制御する作用をなす。酸化処理は、スポット溶接性を改善するために、電解酸化処理、加熱酸化処理、酸含有の酸化剤水溶液に接触させる処理等がある。酸化処理後、表面は不活性な酸化被膜で被覆されている。
【0012】酸化処理後、調質圧延を行う。このとき圧延ロールと鋼板との接触で、鋼板表面に平坦部が形成される。この平坦部の面積を20〜70%とした理由を説明する。平坦部の面積が20%未満であると、リン酸塩処理時に処理付着量ムラが発生し、自動車用塗装後にもムラが認められるため手直し等の作業が必要となる。平坦部が70%を超えると、酸化処理による溶接性改善効果がなくなり、電極の損耗が激しく電極交換等でやはり作業性が悪くなる。
【0013】調質圧延により発生する平坦部は、表面分析で圧延ロールの接触しなかった谷部に比較し酸素量が激変しており、平坦部では、ロールとの接触で酸化被膜が除去されたと推定できる。このように酸化被膜が除去されるとリン酸塩処理初期の鋼板の溶解が促進され、初期核が発生しやすく、均一な処理が可能となる。反対に平坦部が増加しすぎると、溶接時の電極寿命を改善する不活性被膜量が減少し、酸化処理の効果がなくなる。平坦部の面積率は、SEM(ScanningElectron Microscope)による表面写真を画像解析することにより容易に測定できる。上記の酸化処理による溶接性改善効果を得るためには、合金化処理時の鉄含有率を8〜12%に制御することが必要である。鉄含有率が8%未満では、次に示す酸化処理においける酸化被膜量が少く、反対に鉄含有率が12%を超えると酸化は行えるがパウダリング性が悪く、プレス時にめっき層が剥離し表面欠陥が発生しやすい。
【0014】本発明で過酸化水素の濃度の下限を0.01wt%と定めたのは、過酸化水素水溶液に接触させることによる溶接性の改善効果は過酸化水素の濃度依存性が大きく、濃度が0.01wt%未満では十分な改善効果が得られないからである。また過酸化水素の濃度が0.5wt%を超えると溶接性に必要な酸化被膜量が飽和するため、処理液の濃度管理を行うために過酸化水素の濃度は0.01〜0.5wt%にするのが好ましい。
【0015】本発明では過酸化水素水溶液のpHを1〜3としているが、その理由を次に説明する。過酸化水素水溶液に合金化溶融Znめっき鋼板を接触させて溶接性の改善を行う際、水溶液が中性領域にあるときは、十分な溶接性改善効果を得るためには、液との接触時間を長時間にする必要があり、溶融Znめっきライン、電気めっきライン等の連続ラインで実施するには、操業上または設備上困難な点が多くなる。本発明者らは液との接触時間が短時間であっても溶接性が十分に改善されるような方法を検討した結果、過酸化水素水溶液のpHを3以下の酸性水溶液にすることで上記目的を達成することができることを見出した。
【0016】酸性水溶液中のH+ イオンはめっき層のZnを以下に示す電気化学反応式で溶解させる。
Zn→Zn2++2e- (Zn溶解反応)
2H+ +Fe- →H2 ↑(H+ 還元反応)
この時、Znの溶解により生ずる電子はH+ 、Fe3+の還元反応で消費され電気的中性が保たれる。さて、H+ 還元反応が盛んに起こると反応が行われている場所でH+ イオンが減少し、pHが高くなり、Zn2++2OH- →ZnO+H2 Oなる反応でZnOが生成し、スポット溶接性の改善が行われるのであるが、もし溶液中pHが1.0未満となると、上述の反応場所でのpH上昇が起こらず、したがってZnOが生成せずスポット溶接性が改善されないばかりか、Znの溶解が多く密着性が悪くなる。
【0017】水溶液のpHを3以下に調整するためには、塩酸、硫酸、硝酸等の酸類によって行うが、本発明はpH調整に使用する酸類の種類を特に規定するものではない。本発明において、pHが1〜3、0.01〜0.5wt%の過酸化水素水溶液をめっき鋼板と接触させる具体的手段は、特に限定するものではないが、実際に連続ラインで実施可能な方法としては、上記水溶液槽への浸漬、または上記水溶液のスプレー処理、ロールコータ等による塗布等が挙げられる。
【0018】また上記水溶液をめっき鋼板と接触させる際の温度については特に規定するものではなく、常温下はもとより、溶融Znめっき鋼板または合金化溶融Znめっき鋼板のめっき直後、または合金化処理直後の高温状態において適用してもよい。
【0019】
【実施例】鋼中にCを0.002wt%含有する極低炭素鋼(板厚0.7mm)を使用し、鋼板の両面にゼンジミア式の連続溶融めっきラインで溶融亜鉛めっきを施した後、同ラインの合金化炉で合金化処理を行った片面当たり付着量45g/m2でFe含有率が6〜14wt%の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を使用し、表1に示す本発明条件及び比較条件で処理を行った鋼板のスポット溶接性、耐水二次密着性評価による化成処理性の調査を行った。
【0020】〔溶接性〕
電極型:CF先端径:4.5mmφ先端角:120°外径:13mmφ材質:Cu−Cr溶接条件溶接電流:8.8KA通電時間:10サイクル加圧力:170kgf加圧条件通電前:30サイクル通電後:7サイクルアップダウンスロープ:無しスポット溶接性は、上記条件で連続して打点した場合、平均ナゲット径が4√t(t:板厚)になるときの打点数で評価した。結果を表1に示す。
【0021】〔リン酸塩処理性〕各種鋼板の試料(70mm×150mm×厚さ0.7mm)に自動車車体製造の工程を想定して以下のリン酸塩処理を行った。
(1)脱脂→水洗→表調→リン酸塩処理→水洗→乾燥の順で処理を行った。
(2)リン酸塩処理液は、日本パーカライジング社製パルボンドL3020を使用した。
処理後鋼板を目視観察し、付着ムラの発生を評価した。結果は表1に示す。
【0022】本発明によれば均一リン酸塩処理を劣化させることとしたスポット溶接時における連続打点性は表1に示したように著しく向上し、冷延鋼板と同レベルとなった。
【0023】
【表1】


【0024】
【発明の効果】自動車用防錆鋼板に要求される性能としては、スポット溶接性及びリン酸塩処理性がある。しかし従来技術においては、これら両性能を冷延鋼板並に両立させることが困難であった。本発明に開示するように、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸化処理後調質圧延を施し、圧延ロールとの接触により発生した平坦部面積を20〜70%にすること。さらに、酸化処理をFe含有率8〜12wt%のめっき層に、H22 濃度0.01〜0.5wt%、pH1〜3の水酸液で行うことで、スポット溶接時の電極ドレッシング頻度、交換頻度は従来に比較し格段に低下し、著しい生産性の向上が予想される。また、リン酸塩処理性も均一に処理が可能で作業効率の向上が得られ、製品製造上極めて有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、鋼板表面に鉄含有率8〜12wt%の合金化溶融亜鉛めっき層と、その上に酸化処理被膜層を有し、かつ、酸化被膜層表面が平坦部と凹部とからなり、その平坦部面積率が20〜70%であることを特徴とするスポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】 合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法おいて、溶融亜鉛めっき処理した鋼板を加熱合金化して鉄含有率8〜12wt%の合金化溶融亜鉛めっきした後、該鋼板を酸化処理し、さらに表面が平坦部と凸部からなりその平坦部面積率が20〜70%である圧延ロールを用いて調質圧延を施すことを特徴とするスポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】 前記酸化処理が過酸化水素を0.01〜0.5wt%含み、pH1〜3に調整した処理液を鋼板に接触させる処理である請求項2記載のスポット溶接性及びリン酸塩処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。