説明

スポット溶接方法及びスポット溶接装置

【課題】ギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良を抑制できるスポット溶接方法を提供すること。
【解決手段】鋼板W1及びW2を重ね合わせたワークWを一対の電極チップ21,22で挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で電極チップ21,22間に電流を流すことでワークWを溶接するスポット溶接方法において、ワークWを一対の電極チップ21,22で挟んで加圧を開始してから、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間に、一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とするスポット溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法及びスポット溶接装置に関する。詳しくは、複数の板材を重ね合わせたワークを一対の電極チップで挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で電極チップ間に電流を流すことでワークを溶接するスポット溶接方法及びスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の板材を重ね合わせたワークの接合にスポット溶接が利用されている。スポット溶接では、ワークを一対の電極チップで挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で電極チップ間に電流を流す。すると、通電により発生するジュール熱でワーク材が溶融し、電極チップ間のワーク内部にワーク材の溶融物であるナゲットが生成する。その後、加圧状態を維持しつつ通電を停止することにより、ナゲットが冷却固化してワークが溶接される。
【0003】
このようなスポット溶接では、溶接状態を管理するうえで、溶接部に生成されるナゲットの品質判定を行うことは重要である。そこで、例えば溶接初期に発生する電極チップの振動を検出し、その検出結果に基づいてナゲットの品質の良否を判定することで、溶接状態の良否を判定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。ただし、この技術では、従来のスポット溶接と同様に、初期設定された溶接条件でスポット溶接が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−170777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数の板材を重ね合わせたワークでは、板材間に隙間(以下、「ギャップ」という。)が生じる場合がある。ギャップの大きさ(距離)は、ワークの種類や部位によってばらつきがあるため、初期設定された溶接条件でスポット溶接を行うと、ギャップが十分に解消されず、板材同士の接触面積にばらつきが生じる。すると、溶接部に生成されるナゲットの大きさにもばらつきが生じるうえ、接触面積が小さい部位では電流密度が増大してスパッタが発生する等の問題があった。
【0006】
また、スポット溶接では、一対の電極チップの中心軸線がワークの面方向に対して直交する状態で溶接を行うのが望ましい。ところが、一対の電極チップの中心軸線がワークの面方向に対して傾いてしまう場合があり(以下、「面直ズレ」という。)、この場合には、先端が球面状の各電極チップとワークとの接触位置が、ワークの面方向において互いに離間する方向にずれてしまう。即ち、各電極チップとワークとの接触位置が、ナゲットの生成位置の中心から離間する方向にずれてしまうため、ナゲットの生成が困難になるという問題があった。また、面直ズレに加えてギャップも生じていた場合には、ギャップの解消がより困難になるという問題があった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、ギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良を抑制できるスポット溶接方法及びスポット溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、複数の板材(例えば、後述の鋼板W1,W2)を重ね合わせたワーク(例えば、後述のワークW)を一対の電極チップ(例えば、後述の可動電極チップ21、固定電極チップ22)で挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で当該電極チップ間に電流を流すことで前記ワークを溶接するスポット溶接方法を提供する。本発明のスポット溶接方法(例えば、後述のスポット溶接装置1により実行可能なスポット溶接方法)は、前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧を開始してから、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間(例えば、後述の加圧立ち上がり時間)に、前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とする。
【0009】
本発明では、ワークを一対の電極チップで挟んで加圧する際に、一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させる。これにより、各電極チップをワークに馴染ませることができ、ギャップや面直ズレを解消してナゲットを容易且つ安定して生成できる。従って、本発明によれば、ギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良を抑制できる。
また、本発明では、ワークを一対の電極チップで挟んで加圧を開始してから、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間に、一対の電極チップを振動させる。ここで、「所定の加圧力」とは、良好な溶接強度が得られるような適切な大きさのナゲットを生成できる加圧力として予め設定された加圧力を意味する。即ち、本発明によれば、加圧を開始してから加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの時間(以下、「加圧立ち上がり時間」という。)を利用して一対の電極チップを振動させるため、溶接工数を増加させることなく、上記の効果が得られる。
【0010】
この場合、前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化した後、前記一対の電極チップ間に電流を流している間に、前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることが好ましい。
【0011】
この発明では、加圧立ち上がり時間の経過後、一対の電極チップ間に電流を流している間も、一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させる。これにより、通電によって発熱して馴染み易くなったワークを各電極チップにさらに馴染ませることができ、加圧立ち上がり時間の振動では回避しきれなかったギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良を回避できる。
また、この発明では、通電時に一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させるため、一対の電極チップ間の加圧力に偏差が生じるとともに、加圧力の高い側と低い側とが交互に入れ替わる。すると、ナゲットは、加圧力が低い方向に拡大する特性を有するため、ワークの厚み方向にナゲットの成長が拡大する。即ち、従来のスポット溶接ではワークの厚み方向へのナゲットの成長を促進するのが困難であったところ、この発明によればワークの厚み方向へのナゲットの成長を容易に促進でき、従来よりも大きなナゲットを生成できる。
また、この発明によれば、通電時に一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることにより、発熱効率が向上し、溶接時間を短縮できる。
【0012】
また本発明は、複数の板材(例えば、後述の鋼板W1,W2)を重ね合わせたワーク(例えば、後述のワークW)を溶接するスポット溶接装置を提供する。本発明のスポット溶接装置(例えば、後述のスポット溶接装置1)は、互いに対向して配置され、進退機構(例えば、後述の送りねじ機構)により接近又は離隔する一対の電極チップ(例えば、後述の可動電極チップ21、固定電極チップ22)と、前記一対の電極チップ間に電流を流す電流源(例えば、後述のトランス)と、前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧したときの加圧力を検出する加圧力検出手段(例えば、後述の歪みゲージ17)と、を備える溶接ガン(例えば、後述の溶接ガン10)と、前記溶接ガンが先端に装着されたロボットアーム(例えば、後述のロボットアーム70)と、当該ロボットアームを構成するロボット軸(例えば、後述のロボット軸X)を駆動する駆動機構(例えば、後述のサーボモータ)と、を備えるロボット(例えば、後述のロボット50)と、前記溶接ガンと前記ロボットを制御して、前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で当該電極チップ間に電流を流すことで前記ワークを溶接する制御手段(例えば、後述の制御装置100)と、を備え、前記制御手段は、前記加圧力検出手段により前記加圧力が検出され始めてから前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間(例えば、後述の加圧立ち上がり時間)に、前記ロボットを制御することで前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とする。
【0013】
この場合、前記制御手段は、前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化した後、前記一対の電極チップ間に電流を流している間に、前記ロボットを制御することで前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることが好ましい。
【0014】
本発明のスポット溶接装置によれば、上記スポット溶接方法の発明と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良を抑制できるスポット溶接方法及びスポット溶接装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置の構成を示す側面図である。
【図2】ワークにギャップが生じたときの状態を示す図である。
【図3】面直ズレが生じたときの状態を示す図である。
【図4】ギャップが生じたワークに本発明の一実施形態に係るスポット溶接を適用したときの溶接部の状態を示す図であり、(A)が各電極チップを振動させる前の状態であり、(B)及び(C)が振動中の状態であり、(D)が振動後の状態である。
【図5】面直ズレが生じた場合に本発明の一実施形態に係るスポット溶接を適用したときの溶接部の状態を示す図であり、(A)が各電極チップを振動させる前の状態であり、(B)及び(C)が振動中の状態であり、(D)が振動後の状態である。
【図6】加圧立ち上がり時間のみ各電極チップを振動させたときの加圧力、溶接電流及び振動波の関係を示す図である。
【図7】加圧立ち上がり時間から通電中も継続して各電極チップを振動させたときの加圧力、溶接電流及び振動波の関係を示す図である。
【図8】通電中に各電極チップを加圧方向に振動させたときのナゲットの生成状態を示す図であり、(A)及び(B)が振動中の状態を示す図であり、(C)が振動後の状態を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るスポット溶接の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置1の構成を示す側面図である。本実施形態に係るスポット溶接装置1は、板材としての鋼板W1及びW2を重ね合わせたワークWを、一対の電極21,22で挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で電極チップ21,22間に電流を流すことで、ワークWを溶接する。
本実施形態に係るスポット溶接装置1は、本発明に係るスポット溶接方法の実行が可能となっている。
【0018】
本実施形態のスポット溶接装置1は、溶接ガン10と、ロボット50と、制御手段としての制御装置100と、を備える。
【0019】
溶接ガン10は、溶接ガン本体11と、溶接ガン本体11の先端に設けられた電極部15と、図示しない電流源としてのトランスと、溶接ガン本体11を支持する支持部90と、を備える。
溶接ガン本体11は、その上部に設けられたサーボモータ16と、このサーボモータ16に連結された進退機構としての図示しない送りねじ機構と、備える。
電極部15は、一対の電極チップとして、可動電極チップ21と、固定電極チップ22と(以下、単に「電極チップ21」、「電極チップ22」ともいう。)、を備える。これら可動電極チップ21と固定電極チップ22は、ワークWを挟んで互いに対向配置される。
【0020】
可動電極チップ21は、溶接ガン本体11の先端から下方に突出し、送りねじ機構に連結されたロッド12の先端に支持されている。可動電極チップ21は、その先端が球面状に形成された円柱状である。可動電極チップ21は、サーボモータ16により送りねじ機構を介してロッド12が上下動(図1のA2方向又はA1方向に移動)することで、後述する固定電極チップ22に対して進退可能となっている。
【0021】
固定電極チップ22は、溶接ガン本体11の先端に連結された連結部14から下方に延びるC形ヨーク13の先端に支持されている。固定電極チップ22は、C形ヨーク13の先端から上方に延びており、可動電極チップ21と同様にその先端は球面状に形成され、可動電極チップ21と同径の円柱状である。
【0022】
これら可動電極チップ21及び固定電極チップ22には、電流源としての図示しないトランスが接続される。例えば、トランスの正極が可動電極チップ21に接続され、その負極が固定電極チップ22に接続される。これにより、トランスから可動電極チップ21を経てワークWに流入する溶接電流は、固定電極チップ22に向かって流れ、固定電極チップ22を経てトランスに戻る。また、このような溶接電流が流れることにより、可動電極チップ21と固定電極チップ22間のワークWの厚み方向中央部分に、ワーク材の溶融物であるナゲット23が生成する。
【0023】
溶接ガン10のC形ヨーク13には、加圧力検出手段としての歪ゲージ17が設けられている。歪ゲージ17は、ワークWを可動電極チップ21と固定電極チップ22とで挟んで加圧したときの加圧力を検出する。歪ゲージ17の検出信号は、後述する制御装置100に送信される。
【0024】
支持部90は、後述するロボットアーム70の先端に装着されており、溶接ガン本体11を支持する。
支持部90は、支持ブラケット91と、基部97と、を含んで構成される。支持ブラケット91は、上板91aと、この上板91aに平行な下板91bと、を備える。これら上板91aと下板91bの間には、ガイドバー92が橋架されている。
【0025】
ガイドバー92には、その軸方向に摺動自在な支持板93が取り付けられている。支持板93は、基部97側から上板91a及び下板91bに対して平行に延び、その先端側で溶接ガン本体11を支持する。支持板93の基端側の上面には、筐体状の支持体94が設けられている。上板91aと支持体94の間には、ガイドバー92に巻回された第1コイルスプリング95が介装されている。同様に、下板91bと支持板93の間には、ガイドバー92に巻回された第2コイルスプリング96が介装されている。
【0026】
ロボット50は、ロボットアーム70と、図示しない駆動機構としてのサーボモータと、を備える。
ロボット50は、多軸ロボットであり、ロボットアーム70は、複数のロボット軸(図1ではロボット軸Xのみを示す。)と、これらの各ロボット軸により互いに軸支される複数の腕部(図1では第1腕部71と第2腕部72のみを示す。)と、を備える。上述したように、ロボットアーム70の先端には溶接ガン10が装着される。
サーボモータは、各ロボット軸を駆動することで、ロボットアーム70の先端に装着された溶接ガン10の位置及び姿勢を変化させる。
【0027】
制御装置100は、溶接ガン10及びロボット50を制御する。
より詳しくは、制御装置100は、溶接ガン10及びロボット50を制御することにより、ワークWを一対の電極チップ21,22で挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で電極チップ21,22間に電流を流すことでワークWを溶接する。
【0028】
また、制御装置100は、ロボット50のロボット軸を駆動するサーボモータを制御することにより、歪ゲージ17により加圧力が検出され始めてから加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの加圧立ち上がり時間に、ロボットアーム70を振動させることで一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させる。
より好ましくは、制御装置100は、加圧立ち上がり時間の経過後、一対の電極チップ21,22間に電流を流している間に、ロボットアーム70を振動させることで一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させる。
【0029】
以上の構成を備える本実施形態のスポット溶接装置1及びこのスポット溶接装置1で実行される本実施形態のスポット溶接方法は、各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させることで、ギャップ及び面直ズレによる溶接不良を抑制するものである。
ここで、溶接不良の原因となるギャップと面直ズレについて説明する。
図2は、ワークWを構成する鋼板W1とW2の間にギャップGが生じたときの状態を示す図である。このギャップGの大きさ(距離)は、ワークWの種類や部位によってばらつきがあるため、初期設定された溶接条件で溶接を行うと、ギャップGは十分に解消されず、鋼板W1,W2同士の接触面積にばらつきが生じる。すると、溶接部に生成されるナゲットの大きさにもばらつきが生じるうえ、接触面積が小さい部位では電流密度が増大してスパッタが発生するという問題がある。
【0030】
また図3は、面直ズレが生じたときの状態を示す図である。通常は図2に示すように、一対の電極チップ21,22の中心軸線YがワークWの面方向に対して直交する状態で溶接を行うのが望ましいところ、図3に示すように一対の電極チップ21,22の中心軸線YがワークWの面方向に対して傾く面直ズレが生じてしまう場合がある。この場合には、先端が球面状の各電極チップ21,22とワークWとの接触位置A1,A2が、ワークWの面方向において互いに離間する方向にずれてしまう。即ち、各電極チップ21,22とワークWとの接触位置A1,A2が、ナゲットの生成位置の中心Nから離間する方向にずれてしまうため、ナゲットの生成が困難になるという問題がある。また、面直ズレに加えてギャップも生じていた場合には、ギャップの解消がより困難になるという問題がある。
【0031】
これに対して、図4は、ギャップが生じたワークWに対して、本実施形態に係るスポット溶接を適用したときの溶接部の状態を示す図である。
図4の(A)に示すように、ワークWを挟んで加圧している各電極チップ21,22を振動させる前においては、鋼板W1とW2の間にギャップが形成されたままである。
そこで、本実施形態では、図4の(B)及び(C)に示すように、ロボットアーム70を振動させて各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向(図4(B)及び(C)の矢印方向)に振動させる。すると、各電極チップ21,22がワークWに馴染んでいき、鋼板W1及びW2がギャップG側に向かって凹んでいくため、ギャップが次第に解消されていく。
そして、図4の(D)に示すように、最終的には溶接部のギャップが完全に解消され、溶接部における鋼板W1とW2の接触面積が十分に確保される。これにより、ギャップによる溶接不良が回避される。
【0032】
また図5は、面直ズレが生じた場合に本実施形態に係るスポット溶接を適用したときの溶接部の状態を示す図である。
図5の(A)に示すように、面直ズレが生じた場合には、先端が球面状の各電極チップ21,22と鋼板W1,W2との接触位置A1及びA2が、ワークWの面方向において互いに離間する方向にずれるとともに、ナゲットの生成位置の中心Nから離間する方向にずれている。
そこで、本実施形態では、図5の(B)及び(C)に示すように、ロボットアーム70を振動させて各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向(図5(B)及び(C)の矢印方向)に振動させる。すると、各電極チップ21,22がワークWに馴染んでいき、溶接部におけるワークWの面が各電極チップ21,22の中心軸線Yに対して直交する形状に変化していく。これにより、面直ズレが解消され、各電極チップ21,22と鋼板W1,W2との接触位置A1及びA2が、中心軸線Y上に位置するようになり、ナゲットの生成位置の中心Nから最短距離に位置するようになる。このため、ナゲットの生成が容易になり、面直ズレによる溶接不良が回避される。
【0033】
次に、本実施形態で行う各電極チップ21,22の振動の条件について説明する。
本実施形態では、ロボットアーム70を振動させることで各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させればよい。例えば、ロボットアーム70を上下方向に振動させることで、各電極チップ21,22を加圧方向に振動させる。
また、本実施形態では、各電極チップ21,22の振動の周波数を、10Hz〜200Hzの低周波数とすることができる。これにより、各電極チップ21,22とワークWとの馴染みを良くし、ナゲットの成長が促進される。一方、振動の周波数を1kHz〜100kHzの高周波数とすることもできる。これにより、発熱効率が向上し、サイクルタイムの短縮化が可能となる。
また、振幅は特に限定されないが、例えば1mmとすることができる。
なお、本実施形態で行う各電極チップ21,22の振動は、ワークW自体を振動させるほどの振動ではないため、複数台のロボットで本実施形態の溶接を行っても他のロボットへの影響は無い。
【0034】
次に、本実施形態で行う各電極チップ21,22の振動の実行時期について説明する。
本実施形態では、少なくとも、歪ゲージ17により加圧力が検出され始めてから加圧力が所定の加圧力に達するまでの加圧立ち上がり時間に、一対の電極チップ21,22を振動させればよい。
図6は、加圧立ち上がり時間のみ、各電極チップ21,22を振動させたときの加圧力、溶接電流及び振動波の関係を示す図である。この図6に示すように、加圧立ち上がり時間のみ各電極チップ21,22を振動させることで、上述のようなギャップ及び面直ズレによる溶接不良が回避される。またこの場合、加圧立ち上がり時間を利用して各電極チップ21,22を振動させるため、溶接工数を増加させることがない。
【0035】
これに対して、図7は、加圧立ち上がり時間から通電中も継続して各電極チップ21,22を振動させたときの加圧力、溶接電流及び振動波の関係を示す図である。この図7に示すように、通電中も継続して各電極チップ21,22を振動させることにより(図7では、通電後の保持時間においても振動を継続している。)、通電によって発熱して馴染み易くなったワークWが、各電極チップ21,22にさらに馴染む。これにより、加圧立ち上がり時間の振動では回避しきれなかったギャップや面直ズレ等の外乱による溶接不良が回避される。
【0036】
ここで、図8は、通電中も継続して各電極チップ21,22を振動させたときのナゲットの生成状態を示す図である。この図8の(A)及び(B)に示すように、各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させると、各電極チップ21,22間の加圧力に偏差が生じるとともに、加圧力の高い側と低い側とが交互に入れ替わる。すると、通電時に生成するナゲット23は、加圧力が低い方向に拡大する特性を有するため、(C)に示すようにワークWの厚み方向にナゲットの成長が拡大し、従来よりも大きなナゲット24が生成される。
また、通電時に各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させることにより、発熱効率が向上し、溶接時間の短縮が可能となる。
【0037】
次に、本実施形態に係るスポット溶接装置1の動作について、図9を参照しながら説明する。
図9は、本実施形態に係るスポット溶接の一例を示すタイムチャートである。
先ず、時刻t0において、可動電極チップ21を固定電極チップ22に対して離隔させた状態で、ロボットアーム70の動作でワークWの溶接部位に溶接ガン10を移動させる。具体的には、固定電極チップ22の先端面が、ワークWの溶接部位の下面に当接する位置に溶接ガン10を移動させる。
【0038】
次いで、送りねじ機構の作用で可動電極チップ21をワークWに対して前進させる。これにより、時刻t1において、可動電極チップ21の先端面がワークWの上面に当接し、各電極チップ21,22による加圧が開始される。このとき、歪みゲージ17により加圧力が検出され始める。
【0039】
また時刻t1において、歪みゲージ17により加圧力が検出され始めたと同時に、ロボットアーム70を振動させることで各電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させる。これにより、各電極チップ21,22がワークWに馴染み、ギャップが解消されるとともに、面直ズレが解消される。
【0040】
次いで時刻t2において、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの加圧立ち上がり時間が経過した後、各電極チップ21,22による加圧力を維持しつつ、所定の溶接電流を供給する。すると、可動電極チップ21から固定電極チップ22に向かって、ワークWの内部を溶接電流が流れて通電する。これにより、各電極チップ21,22間におけるワークWの厚み方向の中央部において、ワーク材が溶融してナゲットが生成する。
【0041】
各電極チップ21,22間の通電は、時刻t3まで行う。また、時刻t2〜時刻t3までの通電中は、各電極チップ21,22の振動を継続する。これにより、各電極チップ21,22がワークWにさらに馴染むと同時に、各電極チップ21,22間に加圧力差が生じ、ワークWの厚み方向にナゲットの成長が拡大する。
【0042】
そして、時刻t3において、各電極チップ21,22間の通電を停止する。同時に、各電極チップ21,22の振動を停止する。
【0043】
各電極チップ21,22の通電及び振動を停止してから所定時間保持した後、時刻t4において、送りねじ機構の作用で可動電極チップ21をワークWに対して後退させる。これにより、ナゲットが冷却固化し、ワークWが溶接される。
【0044】
以上をまとめると、本実施形態のスポット溶接装置1及びこのスポット溶接装置1で実行される本実施形態のスポット溶接方法によれば、以下の効果が奏される。
即ち、本実施形態では、ワークWを一対の電極チップ21,22で挟んで加圧する際に、一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させる。これにより、各電極チップ21,22をワークWに馴染ませることができ、ギャップGや面直ズレを解消してナゲット23を容易且つ安定して生成できる。従って、本実施形態によれば、ギャップGや面直ズレ等の外乱による溶接不良を抑制できる。
また、本実施形態では、ワークWを一対の電極チップ21,22で挟んで加圧を開始してから、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの加圧立ち上がり時間に、一対の電極チップ21,22を振動させる。即ち、本実施形態によれば、加圧立ち上がり時間を利用して一対の電極チップ21,22を振動させるため、溶接工数を増加させることなく、上記の効果が得られる。
【0045】
また本実施形態では、好ましくは、加圧立ち上がり時間の経過後、一対の電極チップ21,22間に電流を流している間も、一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させる。これにより、通電によって発熱して馴染み易くなったワークWを各電極チップ21,22にさらに馴染ませることができ、加圧立ち上がり時間の振動では回避しきれなかったギャップGや面直ズレ等の外乱による溶接不良を回避できる。
また本実施形態では、通電時に一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させるため、一対の電極チップ21,22間の加圧力に偏差が生じるとともに、加圧力の高い側と低い側とが交互に入れ替わる。すると、ナゲット23は、加圧力が低い方向に拡大する特性を有するため、ワークWの厚み方向にナゲット23の成長が拡大する。即ち、従来のスポット溶接ではワークWの厚み方向へのナゲット23の成長を促進するのが困難であったところ、本実施形態によればワークWの厚み方向へのナゲット23の成長を容易に促進でき、従来よりも大きなナゲット24を生成できる。
また、本実施形態によれば、通電時に一対の電極チップ21,22を少なくとも加圧方向に振動させることにより、発熱効率が向上し、溶接時間を短縮できる。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態ではロボットアーム70を振動させることで各電極チップ21,22を振動させたがこれに限定されない。溶接ガン10を支持するロボットアーム70の先端部にサーボシリンダを設け、これにより各電極チップ21,22を振動させる構造としてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…スポット溶接装置
10…溶接ガン
17…歪みゲージ(加圧力検出手段)
21…可動電極チップ(一対の電極チップ)
22…固定電極チップ(一対の電極チップ)
50…ロボット
70…ロボットアーム
100…制御装置(制御手段)
W…ワーク
W1,W2…鋼板(板材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板材を重ね合わせたワークを一対の電極チップで挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で当該電極チップ間に電流を流すことで前記ワークを溶接するスポット溶接方法において、
前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧を開始してから、加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間に、前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項2】
前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化した後、前記一対の電極チップ間に電流を流している間に、前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接方法。
【請求項3】
複数の板材を重ね合わせたワークを溶接するスポット溶接装置において、
互いに対向して配置され、進退機構により接近又は離隔する一対の電極チップと、
前記一対の電極チップ間に電流を流す電流源と、
前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧したときの加圧力を検出する加圧力検出手段と、を備える溶接ガンと、
前記溶接ガンが先端に装着されたロボットアームと、当該ロボットアームを構成するロボット軸を駆動する駆動機構と、を備えるロボットと、
前記溶接ガンと前記ロボットを制御して、前記ワークを前記一対の電極チップで挟んで加圧し、所定以上の加圧力を維持した状態で当該電極チップ間に電流を流すことで前記ワークを溶接する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記加圧力検出手段により前記加圧力が検出され始めてから前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化するまでの間に、前記ロボットを制御して前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記加圧力が所定の加圧力に達して安定化した後、前記一対の電極チップ間に電流を流している間に、前記ロボットを制御して前記一対の電極チップを少なくとも加圧方向に振動させることを特徴とする請求項3に記載のスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71124(P2013−71124A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209637(P2011−209637)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】