説明

スポット溶接機

【課題】この発明は平坦な板状電極の上に立設した溶接ガンを具備しスポット溶接するもので、平面部の溶接個所と側面の溶接個所も被溶接物の移動反転を必要とせず、同時に溶接可能な作業効率の良くかつ操作性の良い溶接機を提案する。
【解決手段】被溶接物(W)を載置した平坦な板状電極(30)の上に立設された溶接ガン(2,3)は平面部のスポット溶接を行い、上部から吊るされた加圧通電アーム(4)と二枚の側面導電板(5,7)で被溶接物(W)を挟持し、加圧通電して側面のスポット溶接を実施するよう構成したスポット溶接機とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポット溶接機に係り、詳しくは、平坦な板状電極の上で上部電極として働く横向き姿勢もしくは縦向き姿勢の溶接ガンを備え、主として枠型の大きな被溶接物をいずれかの溶接ガンで挟み、作業者が手動で連続的に溶接するスポット溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種金属の板の結合には2枚の被溶接物を重ねて、上下電極で挟み、加圧、通電して溶接するスポット溶接が用いられ、中でも定置式スポット溶接機といわれる設備が広く使用されて来た。
【0003】
しかし、この設備の欠点は、上下電極の位置が固定されているため、大型構造体の被溶接物を溶接するときの、作業の困難さである。数個所もの溶接打点を溶接する際の、被溶接物の移動の困難さ、電極と被溶接物の干渉を避けるための、電極の交換など、大変な重作業および、手間のかかる作業となっている。
【0004】
そこで、困難な作業を簡便に出来る、平坦な板状電極を持ったテーブル型スポット溶接機や溶接ガンを、先々に発明考案し、提案してきた。(特許文献1〜3参照)
【0005】
従来のスポット溶接機を図7に示す。これは先に発明し提案した文献2の図面と同様の溶接機である。本発明以前の従来のものであり、この図7に基づき説明する。
【0006】
図7のように下電極である板状電極(30)の上部に立設した横向き姿勢の溶接ガン(2)または縦向き姿勢の溶接ガン(3)を双方あるいは一方を装備しているものである。作業者はこの上電極として働く溶接ガンを使用し、枠型の大きな被溶接物の平面のスポット溶接個所を連続的に溶接する。
【0007】
ところが、図7の従来のスポット溶接機には、以下の課題がある。
【0008】
平面部のスポット溶接個所は連続的に作業できるが、一方側面のスポット溶接個所は、被溶接物を反転し、側面を平面部に位置変えして溶接することとなる。これは大きな重い被溶接物を移動反転することなので作業者は大変な重作業でかつ手間のかかる作業となっている。
【0009】
そこで、側面の溶接方法としては、従来、ポータブルガンと称する溶接ガンを吊り下げる方式で作業をする方法がある。(特許文献4〜5参照)
【0010】
このポータブルガンは大別して溶接トランスを分離したタイプ(特許文献6)と一体タイプ(特許文献7)とがあるが、それぞれ、次のような問題がある。
【0011】
分離したタイプの場合は溶接トランスを他の場所へ設置している。そのため、ポータブルガンはコンパクトになる一方、溶接トランスから導電ケーブルを介してポータブルガンに通電する必要がある。溶接トランスの二次側のこの導電ケーブルは水冷ケーブルともいわれ、細い銅線の撚り線で構成され、ケーブルの中を冷却水を循環させるので、40mm程の径となり、重く、剛性の高いケーブルとなっている。そのため吊り下げたポータブルガンの操作が困難な作業となっている。また、経時的な繰り返しの使用により、ケーブルの銅線の断線が発生することなどで、導電ケーブルは消耗品となっている。
【0012】
一体タイプの場合は溶接トランスと一体で構成されているため、ポータブルガンそのものが大きくなり、かなりの重量となる。その上、溶接トランスへの一次側の電線も必要で、やはり、吊ったポータブルガンの操作が困難な作業となっている。
【0013】
そのため図7などに示す従来の溶接機(特許文献1〜3)に上記のポータブルガンを吊り下げる方式を採用し、移動反転の作業が削減できても、吊ったポータブルガンの操作が困難となる問題が残存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平7−110423号公報
【特許文献2】特開2002―224843号公報
【特許文献3】特許第4487178号公報
【特許文献4】特開2010―58153号公報
【特許文献5】特開平09−29448号公報
【特許文献6】特開平06−142940号公報
【特許文献7】特開平06−190563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のような問題を解決して、大きな被溶接物の側面に多数の溶接個所があっても、操作性が良く、効率の良い作業のできるスポット溶接機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は次の構成により上記課題を解決する。
<構成1>
被溶接物を載置する板状電極と、前記板状電極の上方に立設した溶接ガンを備えたスポット溶接機において、板状電極の端部に直角に立設した側面導電板と絶縁板を挟んで対向にもう一方の側面後導電板を添装し、上部から吊り下げた加圧通電アームが下降して被溶接物を挟着し、加圧通電してスポット溶接するように構成したことを特徴とするスポット溶接機。
【0017】
<構成2>
前記加圧通電アームを導電材料からなる二つのアームで構成し、この二つのアームは可撓性導電体で結合通電し、前記加圧通電アームにはエアシリンダを搭載して、回転軸を支点とした前記アームに装着された溶接チップで、前記被溶接物を加圧通電することを特徴とする構成1記載のスポット溶接機。
【0018】
<構成3>
前記加圧通電アームを導電材料からなる一体のアームで構成し、この一体アームにはエアシリンダを搭載して、前記エアシリンダのピストンロッドの先端に装着した溶接チップで前記被溶接物を狭着し、前記一体アームには可撓性導電体で電流を伝達し、前記一体アームに装着した他方の溶接チップで前記被溶接物を加圧通電することを特徴とする構成1記載のスポット溶接機。
【発明の効果】
【0019】
本発明は平坦な板状電極とその上で溶接ガンを作業者が操作し、所定の溶接ガンで被溶接物を挟み、加圧通電して溶接するスポット溶接機であって、平面部の溶接個所は溶接ガンを支持アームで容易に移動および旋回し溶接し、被溶接物の側面の溶接個所は、加圧通電アームで被溶接物を移動することなく連続的に溶接できる作業効率の良い溶接が可能である。また、ポータブルガンに必要な、消耗品である導電ケーブルや電気配線を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るスポット溶接機の実施例を示す正面図である。
【図2】同実施例の右側面図である。
【図3】図2の部分拡大図で被溶接物を加圧通電し溶接するときの状態を示す。
【図4】図1のA−A断面図で、可撓性導電体を装着した実施例の説明図である。
【図5】図4の可撓性導電体を削除した実施例の説明図である。
【図6】加圧通電アームが一体のときの実施例である。
【図7】従来のスポット溶接機の実施例を示す正面図である。
【図8】側面をスポット溶接する被溶接物の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図6は本発明に係るスポット溶接機の実施例であり、横向き姿勢または縦向き姿勢の溶接ガンと同時に側面をスポット溶接する側面導電板と上部から吊るされた加圧通電アームを具備したスポット溶接機である。
【0022】
添付する図を用いて実施例を説明すると、次のとおりである。
【実施例1】
【0023】
本発明のスポット溶接機の実施例を図1に正面図、図2に右側面図を示す。
図1、図2に示すように、本発明のスポット溶接機(1)は、被溶接物(W)を載置する銅板の板状電極(30)の上方に立設された溶接ガン(2,3)と上部から吊るされた加圧通電アーム(4)を具備し、溶接ガンは上部電極として働き、図7に示す従来のスポット溶接機(50)の横向き姿勢の溶接ガン(2)と縦向き姿勢の溶接ガン(3)双方またはいずれかの溶接ガンで構成し、この溶接ガンは平面部のスポット溶接を行い、加圧通電アーム(4)は側面のスポット溶接を行うものである。
【0024】
従来、図7の溶接機において図8に示すような被溶接物(W)をスポット溶接する際、先に平面部のスポット溶接を実施した後、側面の溶接部は被溶接物(W)を90度、反転して被溶接物の側面を板状電極(30)上に載置し図7に図示したいずれかの溶接ガン(2,3)でスポット溶接しており、大きく重量のある被溶接物(W)を反転移動するのは、大変な重作業であった。
【0025】
この重作業をなくすべく、実施例1は図1〜5に示す構成により、側面を効率良く実施できるスポット溶接を可能にした。
【0026】
具体的に本発明の溶接機の構成に従い、その作業の手順を説明すると、最初に側面に溶接個所のある被溶接物(W)を板状電極(30)上に載置する。このとき溶接個所のある側面を板状電極(30)の端部に直角に立設した銅を材料とする側面導電板(5)に突き当て当接する。
【0027】
次に、作業者は加圧通電アーム(4)を被溶接物(W)の側面の決められた溶接個所に移動する。この加圧通電アーム(4)には溶接トランスは不要で、導電ケーブルや電気配線もなく、そのため、従来のポータブルガンに比べると操作は容易である。加圧通電アーム(4)の昇降はエアシリンダとかスプリングバランサなどを活用し上下させる。また図1,2では、左右方向の移動に直動ガイド(15)を利用し、簡便に操作できるようにした実施例である。
【0028】
側面のスポット溶接は、溶接ONスイッチで加圧通電アーム(4)のエアシリンダ(12)が作動する。加圧通電アーム(4)の二つのアーム(8A、8B)は導電材料からなり、回転軸(20)を支点として回転するのでエアシリンダ(12)の作動により、被溶接物(W)に対し、開閉する。すなわち、被溶接物(W)の側面を側面導電板(5)、側面後導電板(7)と二つのアーム(8A、8B)で挟み込み、溶接チップ(11)で加圧する。図3が加圧通電し溶接するときの状態を示している。
実施例ではエアシリンダ(12)としたが、この代替として、油圧シリンダやモータ駆動機構での方法も可能である。(図示せず)
【0029】
被溶接物(W)を加圧後、前もって登録された溶接条件の電流が溶接トランス(16)の一方の電極と接続銅板(17)を介し接続した側面後導電板(7)から可撓性導電体(19)を経由しアーム(8A)先端の溶接チップ(11)から被溶接物(W)へと流れスポット溶接が1打点完了する。
この動作を繰り返し、側面のスポット溶接を連続して実施し完了する。図4に可撓性導電体(19)の装着した実施例を示すが、可撓性導電体(19)は呼称オンス銅板といわれ、0.2mm程の薄い銅板を重ね合わせ結合したもので弾力性があり、用途により種々の形状が使用される。
可撓性導電体(19)を使用しないで通電する方法として図5に示すようにバネ圧を利用し、二つのアーム(8A,8B)を接触させ通電する方法がある。図示していないが、バネ圧の代替としてエアシリンダによる空圧などでも可能である。
また、平面部のスポット溶接は、従来と同様でいずれかの溶接ガン(2,3)で連続的な溶接が可能である。
【実施例2】
【0030】
次に、加圧通電アーム(4)が一体のときの実施例を図6に示す。この実施例では一体アーム(22)にエアシリンダ(23)が搭載されこのエアシリンダ(23)のピストンロッドの先端に装着された溶接チップ(11)により被溶接物(W)が挟持され、もう一方の溶接チップ(11)により、加圧力が被溶接物(W)へ付加される。側面後導電板(7)からの電流を加圧側の溶接チップ(11)に伝達するため、ここでも、新たな可撓性導電体(24)が用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
主に枠型の大きな被溶接物を平面部は横向き姿勢の溶接ガンまたは縦向き姿勢の溶接ガンで被溶接物を挟みスポット溶接するが、被溶接物の移動や反転をせずに、側面個所のスポット溶接が連続的にでき、被溶接物の反転移動などの重作業を必要としない作業者に優しい溶接機として活用できる。また、ポータブルガンに必要な消耗品である導電ケーブルや電気配線を無くすことができる。
【符号の説明】
【0032】
1 スポット溶接機
2 横向き姿勢の溶接ガン
3 縦向き姿勢の溶接ガン
4 加圧通電アーム
5 側面導電板
6 導電ケーブル
7 側面後導電板
8Aアーム
8Bアーム
9 支持アーム
10吊り具
11溶接チップ
12エアシリンダ
14絶縁板
15直動ガイド
16溶接トランス
17接続銅板
18接続銅板
19可撓性導電体
20回転軸
21バネ
22一体アーム
23エアシリンダ
24可撓性導電体
30板状電極
40支持ポスト
50 従来のスポット溶接機
W 被溶接物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物を載置する板状電極と、前記板状電極の上方に立設した溶接ガンを備えたスポット溶接機において、
前記板状電極の端部に直角に立設した側面導電板と絶縁板を挟んで対向にもう一方の側面後導電板を添装し、上部から吊り下げた加圧通電アームが下降して前記被溶接物を挟着し、加圧通電してスポット溶接するように構成したことを特徴とするスポット溶接機。
【請求項2】
前記加圧通電アームを導電材料からなる二つのアームで構成し、この二つのアームは可撓性導電体で結合通電し、前記加圧通電アームにはエアシリンダを搭載して、回転軸を支点とした前記アームに装着された溶接チップで、前記被溶接物を加圧通電することを特徴とする構成1記載のスポット溶接機。
【請求項3】
前記加圧通電アームを導電材料からなる一体のアームで構成し、この一体アームにはエアシリンダを搭載して、前記エアシリンダのピストンロッドの先端に装着した溶接チップで前記被溶接物を挟着し、前記一体アームを可撓性導電体で電流を伝達し、前記一体アームに装着した他方の溶接チップで前記被溶接物を加圧通電することを特徴とする構成1記載のスポット溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245542(P2011−245542A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123690(P2010−123690)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000143112)株式会社向洋技研 (41)
【Fターム(参考)】