スポット溶接装置およびスポット溶接方法
【課題】 パネルの中央部分へのインダイレクト溶接にも好適なダイレクト溶接ガンを提供する。
【解決手段】 軸心方向にアクチュエータ5により駆動される可動電極2と相対する固定電極3とで挾持したワークWを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極2と固定電極3との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極2若しくは固定電極3が相対的に移動されて可動電極2の先端に固定電極3が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。
【解決手段】 軸心方向にアクチュエータ5により駆動される可動電極2と相対する固定電極3とで挾持したワークWを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極2と固定電極3との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極2若しくは固定電極3が相対的に移動されて可動電極2の先端に固定電極3が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル類をスポット溶接するスポット溶接装置およびスポット溶接方法に関し、特に、共通の溶接ガンでダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用するに好適なスポット溶接装置およびスポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から共通の溶接ガンでダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用するスポット溶接装置は提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
これは、ダイレクト溶接ガンの一方の電極チップに臨むワーク面に接続可能なインナ電極と、このインナ電極を必要に応じてワーク面から退避させるインナ電極駆動手段と、溶接ガンの他方の電極チップに当接すると共に絶縁材を介してワークを支承できるようにした下部電極とを備え、かつこの下部電極と前記インナ電極とを電気的に接続したインダイレクト電極装置をワークに配置して、共通のダイレクト溶接ガンによりダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用させるようにしたものである。
【特許文献1】特公平4−36788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップを備えるインダイレクト溶接ガンを用い、その一対の電極チップにより下部電極、ゲージおよびワークを挟んで溶接するものであるため、インダイレクト溶接の箇所がパネルの縁部分に近い領域に限定され、溶接ガンの一対の電極チップで挟めないパネルの中央部分等のインダイレクト溶接には、専用のインダイレクト溶接ガンが用いられていた。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、パネルの中央部分へのインダイレクト溶接にも好適なダイレクト溶接ガンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と相対する固定電極とで挾持したワークを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明では、可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能としたため、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップを備えるインダイレクト溶接ガンを用いる場合におけるパネルの中央部分へのインダイレクト溶接を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のスポット溶接装置およびスポット溶接方法を各実施形態に基づいて説明する。
【0009】
(第1実施形態)
図1〜図10は、本発明を適用したスポット溶接装置およびスポット溶接方法の第1実施形態を示し、図1はスポット溶接ガンの側面図、図2は図1のA−A断面図、図3は溶接インバータの二次配線の配線図、図4は二次配線切換ユニットの概略図、図5はインダイレクト溶接状態の説明図、図6はワークへのインダイレクト溶接状態の説明図、図7は図6でのワーク状態を示す断面図、図8はダイレクト溶接状態の説明図、図9はワークへのダイレクト溶接状態の説明図、図10は図9でのワーク状態を示す断面図である。
図1および図2において、本実施形態のスポット溶接装置におけるスポット溶接ガン1は、一対の対向配置された電極チップ2、3を備え、一方の電極チップ2はガン本体4に設けたサーボモータ5により軸方向に移動可能であり且つサーボモータ5により位置決めされる可動電極を構成し、他方の電極チップ3はガン本体4に揺動可能に軸支持された可動アーム6の先端に固定された固定電極を構成する。前記ガン本体4は、多軸駆動になる溶接ロボットのアームAMの先端に固定される。
【0010】
前記可動アーム6は、固定電極3を前記可動電極2に正対させるダイレクト位置(図示の実線位置)と、固定電極3を可動電極2に正対する位置から退避させたインダイレクト位置(図示の破線位置)との間で移動可能にガン本体4に軸支持7されている。前記可動アーム6は、ガン本体4に設けた空圧シリンダ8のピストンロット8Aを伸長させることにより、図中時計方向に揺動してガン本体4に設けたストッパ4Aに当接することでダイレクト位置に位置決めされ、空圧シリンダ8のピストンロッド8Aを収縮させることにより破線で示すインダイレクト位置に位置決めされるよう構成している。
【0011】
前記可動アーム6は、図2に示すように、ガン本体4を跨ぐ二又状の基部を備え、可動電極2を駆動するサーボモータ5の作用軸に直交する軸7に揺動可能に支持され、図1に示すように、ダイレクト位置に位置決めされた場合に、軸7と可動電極2および固定電極3は同一軸線上に位置するよう配列している。このため、ダイレクト溶接時に、例えば、サーボモータ5からの4×104N程度の加圧力が可動電極2と固定電極3との間に作用しても、空圧シリンダ8に反力を作用させることがなく、可動アーム6は揺動することなく固定電極3をそのダイレクト位置に保持し続けることができる。この軸7の位置は、可動電極2と固定電極3を結ぶ作用線に対してストッパ4Aが配置されている側とは反対側(図1では、左側)に位置させてもよく、この場合には、上記溶接荷重はストッパ4Aと軸7とにより受持つことができ、空圧シリンダ8にも反力が作用しない。従って、ダイレクト溶接時においては、溶接荷重はガン本体4の内力となり、溶接ロボットの各軸には作用することがない。
【0012】
また、可動アーム6がインダイレクト位置に位置決めされる場合には、固定電極3はガン本体4の横に退避され、可動電極2のみがガン本体4より突出された状態となる。このため、サーボモータ5を作動させて可動電極2を突出させてワークWに押当て、図示しないインナ電極との間で溶接電流を流すことによりインダイレクト溶接が可能となる。インダイレクト溶接においては、サーボモータ5からの溶接荷重は、例えば、3×102N程度であり、この溶接荷重はガン本体4を介して溶接ロボットの各軸に作用し、各軸により受持たれる。
【0013】
図3は、本実施形態における溶接インバータ9の二次配線を示し、一対の電極2、3とインナ電極10との間に配線される。そして、ダイレクト溶接時には、一対の電極2、3間で溶接電流が流され、インダイレクト溶接時には、可動電極2とインナ電極10との間で溶接電流が流される。固定電極3とインナ電極10との間の二次配線の切換は、溶接インバータ9に付属させた二次配線切換ユニット11により行われる。前記二次配線切換ユニット11は、図4に示すように、固定電極3に接続した端子3Aとインナ電極10に接続した端子10Aとが配列されており、その間に二次配線の一方の出力端に接続されている切換素子9Aを設け、この切換素子9Aをモータ等のアクチュエータ12により、ダイレクト溶接時には固定電極3側の端子3Aに接続させ、インダイレクト溶接時にはインナ電極10側の端子10Aに接続させるよう切換えるよう構成している。アクチュエータ12としては、前記可動アーム6への図示しない空圧供給バルブのアクチュエータに連動させてもよい。
【0014】
図5〜7は、インダイレクト溶接モードでの溶接要領を示すものであり、固定電極3は可動アーム6と共に空圧シリンダ8により可動電極2の先端側から退避したインダイレクト位置にあり、二次配線切換ユニット11により二次配線の一方は固定電極3からインナ電極10に切換えられる。そして、インダイレクト溶接箇所に溶接ロボットによりスポット溶接ガン1を位置決めして、サーボモータ5を駆動して可動電極2をワークWに押当ててインダイレクト溶接がなされる。溶接電流は溶接インバータ9の二次回路から溶接ガン1の可動電極2に流れ、溶接箇所に接合したワークW同士を溶接した後、ワークWを流れてインナ電極10を介して二次配線切換ユニット11の端子10Aから切換素子9Aを介して溶接インバータ9の二次回路へと流れる。
【0015】
前記インダイレクト溶接時においては、固定電極3が可動アーム6と共にインダイレクト位置に退避されているため、溶接ガン1をワークWと干渉させることなく移動可能であり、ワークWの周縁部分は勿論であるが、中央部分であってもインダイレクト溶接することができる。しかも、固定電極3および可動アーム6がインダイレクト位置に退避しているため、溶接ガン1をワークW表面に沿って任意に移動させることができ、溶接ガン1を移動および位置決めする溶接ロボットの移動軌跡を単純化でき、シミュレーションが容易であり、その作業速度を速めてサイクルタイムを短縮できる。
【0016】
このインダイレクト溶接における加圧力(溶接荷重)は、ダイレクト溶接における加圧力に対して5〜10%の3×102N程度であり、ダイレクト溶接時の加圧力からサーボモータ5の駆動力制御により任意に変更および調整が可能となっている。また、インダイレクト溶接時の溶接電流は、溶接インバータ9を制御することで、容易に調節することができる。
【0017】
図8〜図10は、ダイレクト溶接モードでの溶接要領を示すものであり、固定電極3は可動アーム6と共に空圧シリンダ8により可動電極2の先端側に位置したダイレクト位置に切換えられており、二次配線ユニット11により二次配線の一方はインナ電極10から固定電極3に切換えられる。そして、ダイレクト溶接箇所に溶接ロボットによりスポット溶接ガン1を位置決めして、サーボモータ5を駆動して可動電極2と固定電極3とによりワークWを挟んでダイレクト溶接がなされる。溶接電流は溶接インバータ9の二次回路から溶接ガン1の可動電極2に流れ、溶接箇所に接合したワークW同士を溶接した後、固定電極3を介して二次配線切換ユニット11の端子3Aから切換素子9Aを介して溶接インバータ9の二次回路へと流れる。
【0018】
前記ダイレクト溶接時においては、固定電極3が可動アーム6と共にダイレクト位置に位置されるため、電極2、3間にワークWを挟んで通常通りスポット溶接することができる。このダイレクト溶接における加圧力(溶接荷重)は、インダイレクト溶接における加圧力に対して10〜20倍の4×104N程度であり、インダイレクト溶接時の加圧力からサーボモータ5の駆動力制御により任意に増加および調整が可能である。また、ダイレクト溶接時の溶接電流は、溶接インバータ9を制御することで、容易に増加させて調節することができる。
【0019】
以上に説明したように、本実施形態におけるスポット溶接ガン1においては、固定電極3を可動アーム6と共に、可動電極2と正対するダイレクト位置と、可動電極2に正対する位置から退避させたインダイレクト位置とを切換えて使用可能であることから、ワークWの部位に応じてダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとを一つのスポット溶接ガン1により行うことができる。従って、夫々専用の溶接ガンを必要としないため、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とが混在するワークWにおいても、効率的に溶接することができ、サイクルタイムの短縮を図ることができると共に、一つのスポット溶接ガン1により溶接できるため、溶接設備の簡素化および低コスト化が可能となる。
【0020】
また、インダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とは、大幅に異なるが、可動電極2をサーボモータ5により駆動するものであるため、サーボモータ5の駆動電力をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで異なるように調整することで各溶接条件に適した溶接荷重を付与することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0021】
しかも、インダイレクト溶接時には可動電極2とインナ電極10との間でワークWに溶接電流を流すようにする一方、ダイレクト溶接時には可動電極2と固定電極3との間でワークWに溶接電流を流すように、二次配線を切換えるものであるため、各溶接に最適な溶接電流となるように、溶接インバータ9を制御することで、各溶接条件に適した溶接電流を付与でき、溶接品質を向上させることができる。しかも、前記した溶接荷重の付与と組合わせることで、各溶接品質をより一層向上させることができる。また、二次配線の切換を二次配線切換ユニット11により各溶接時における二次配線回路を自動的に切換えるものであるため、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時との間での溶接状態の切換えが容易となる。
【0022】
さらに、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とを固定電極3および可動アーム6を揺動させて切換えるものであるため、精密な機器であるサーボモータ5を動かすことなく切換ができ、可動電極2を基準にインダイレクト溶接とダイレクト溶接ができ、故障等に対する信頼性および溶接品質に対する信頼性を向上できる。
【0023】
また、可動アーム6および固定電極3の揺動中心は、可動電極2の作用軸に直交するか或いは可動アーム6のストッパ4Aが配置される側から離して配置しているため、ダイレクト溶接時の溶接荷重を内力とでき、可動アーム6をダイレクト位置に保持するアクチュエータ8の出力を低減させることができる。
【0024】
なお、上記実施形態において、可動アーム6のインダイレクト位置として、ワークWに対する逃げ部を後退させる方向に回動させた位置とするものについて説明したが、図示はしないが、この回動させる軸のみをサーボモータ5軸回りに90度回転させて、図1に対して直交するよう配置し、この軸回りに固定電極3および可動アーム6を回動させてこれらがサーボモータ5の横方向に位置する状態のインダイレクト位置としてもよい。このようにすると、固定電極3および可動アーム6がサーボモータ5と直交するまで退避させることができ、インダイレクト溶接時におけるワークWとの干渉をより一層回避させることができ、インダイレクト溶接の作業効率を向上できる。
【0025】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0026】
(ア)軸心方向にアクチュエータ5により駆動される可動電極2と相対する固定電極3とで挾持したワークWを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極2と固定電極3との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極2若しくは固定電極3が相対的に移動されて可動電極2の先端に固定電極3が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。このため、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップ2、3を備えるインダイレクト溶接ガン1を用いてパネルの中央部分へのインダイレクト溶接を好適に行うことができる。
【0027】
(イ)可動電極2を軸心方向に駆動するアクチュエータ5は、ワークWへの加圧力を制御可能なサーボモータ5により構成しているため、電流値の調整のみで溶接条件を調整してきたインダイレクト溶接の溶接条件に加圧力を組み合わせることができ、幅広い溶接条件に対応が可能となる。
【0028】
(ウ)スポット溶接装置は、ダイレクト溶接モードにおいて可動電極2と固定電極3との間に溶接電流を流通させ、インダイレクト溶接モードにおいて可動電極2とインナ電極10との間に溶接電流を流通させる二次配線切換ユニット11を備えるため、ダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとの切換えに応じて自動的に二次配線を切換えることができる。
【0029】
(エ)固定電極3は、溶接ガン1の本体4に対して揺動可能に支持された可動アーム6に配置され、前記可動アーム6はダイレクト溶接モードで固定電極3を可動電極2に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極3を可動電極2の先端側から退避させたインダイレクト位置とを切換え可能としているため、可動電極2の精密な位置決めおよび加圧力を制御する機器であるサーボモータ5を移動させることなくダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードに切換え可能であり、溶接品質の信頼性を維持できる。
【0030】
(第2実施形態)
図11は、本発明を適用したスポット溶接装置の第2実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、可動電極を揺動させることによりインダイレクト溶接とダイレクト溶接とを切換可能としたものである。なお、第1実施形態と同一装置、同一部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0031】
図11に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Aにおいては、固定電極3はガン本体4に対して移動しないよう固定されているのに対して、可動電極2がサーボモータ5を含めてガン本体4に対して揺動可能に配置されており、サーボモータ5を含めてシリンダ15により可動電極2の駆動軸を揺動させて、固定電極3に可動電極2を正対させて位置決めすることによりダイレクト溶接が実行可能であり、固定電極3に正対させることなく、破線図示のように、揺動させた位置でシリンダ15によりガン本体4に位置決めすることによりインダイレクト溶接を実行可能としている。
【0032】
このスポット溶接ガン1Aにおいては、実線図示の状態でガン本体4の軸を基準として、ダイレクト溶接させる構成は第1実施形態と同様であるが、インダイレクト溶接に際しては、サーボモータ5および可動電極2の作用軸を破線図示のように揺動させて位置決めするため、揺動させたサーボモータ5の作用軸を基準軸として、溶接ロボットの軸を座標変換して、可動電極2をワークWに正対させる必要がある。従って、スポット溶接ガン1Aのガン本体4が前記座標変換により回動させて、可動電極2およびサーボモータ5の軸がワークWに直角となるようにされる。サーボモータ5および可動電極2の作用軸のスイング量は、固定電極3および固定アーム6AがワークWと干渉しない程度にスイングさせればよいものであり、サーボモータ5および可動電極2のガン本体4よりの突出量に応じて前記スイング量は小さく設定することができる。なお、二次配線切換ユニット11のアクチュエータとしては、前記シリンダ15への図示しない空圧供給バルブのアクチュエータに連動させるようにすると、第1実施形態と同様に、切換作動させることができる。
【0033】
本実施形態のスポット溶接ガン1Aにおいても、可動電極2をサーボモータ5と共に、固定電極3と正対するダイレクト位置と、固定電極3に正対する位置から退避させたインダイレクト位置とを切換えて使用可能であることから、ワークWの部位に応じてダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとを一つのスポット溶接ガン1Aにより行うことができる。従って、夫々専用の溶接ガンを必要としないため、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とが混在するワークWにおいても、効率的に溶接することができ、サイクルタイムの短縮を図ることができると共に、一つのスポット溶接ガン1Aにより溶接できるため、溶接設備の簡素化および低コスト化が可能となる。
【0034】
また、インダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とは、大幅に異なるが、可動電極2をサーボモータ5により駆動するものであるため、サーボモータ5の駆動電力をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで異なるように調整することで各溶接条件に適した溶接荷重を付与することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0035】
しかも、インダイレクト溶接時には可動電極2とインナ電極10との間でワークWに溶接電流を流すようにする一方、ダイレクト溶接時には可動電極2と固定電極3との間でワークWに溶接電流を流すように、二次配線を切換えるものであるため、各溶接に最適な溶接電流となるように、溶接インバータ9を制御することで、各溶接条件に適した溶接電流を付与でき、溶接品質を向上させることができる。しかも、前記した溶接荷重の付与と組合わせることで、各溶接品質をより一層向上させることができる。
【0036】
さらに、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とは、小型軽量なサーボモータ5をスイングさせることで切換えるため、切換用のシリンダ15を小型化させることができる。
【0037】
なお、上記実施形態において、可動電極2およびサーボモータ5のインダイレクト位置として、固定電極3を支持するアーム6Aが存在する側とは反対側に回動させた位置とするものについて説明したが、図示はしないが、固定電極3およびアーム6Aが存在する面内に回動軸を配置して、可動電極2およびサーボモータ5をこれらの面に直交する方向に突出させた位置をインダイレクト位置としてもよい。このようにすると、固定電極3およびアーム6Aをサーボモータ5と直交させることができ、インダイレクト溶接時におけるワークWとの干渉をより一層回避させることができ、インダイレクト溶接の作業効率を向上できる。
【0038】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(ウ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0039】
(オ)可動電極2およびアクチュエータ5は、溶接ガン1Aの本体4に対して揺動可能に支持され、前記可動電極2はダイレクト溶接モードで固定電極3に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極3の先端側から退避させたインダイレクト位置とで切換え可能とされるため、インダイレクト溶接モードとダイレクト溶接モードとは、小型軽量なサーボモータ5をスイングさせることで切換えでき、切換用のシリンダ15を小型化させることができる。
【0040】
(第3実施形態)
図12は、本発明を適用したスポット溶接装置の第3実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、可動電極および/または固定電極を円弧状に移動可能にガン本体に配置し、可動電極と固定電極との円弧状の間隔を大きくすることでインダイレクト溶接を可能とし、両者の円弧状の間隔を狭くした状態でダイレクト溶接を可能とするものである。なお、第1および第2実施形態と同一装置、部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0041】
図12に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Bにおいては、可動電極2と固定電極3とは同一円弧上に配置され、いずれか一方の電極2、3が他方の電極3、2に対して円弧状に移動可能とされている。図示例では、可動電極2が図示しないサーボモータにより固定電極3に対して円弧状に接近離脱可能に配置されている。そして、実線で示すように、可動電極2を固定電極3に対して遠ざけた位置において可動電極2と図示しないインナ電極10との間でインダイレクト溶接が可能とされ、破線で示すように、可動電極2を円弧状に前進させて固定電極3に接近させることにより固定電極3と可動電極2とでワークWを挟んでダイレクト溶接が行なえるようにしている。前記インダイレクト溶接においては、実線で示す位置において、可動電極2がワークWに正対する座標において、ガン本体4の姿勢を保持してインダイレクト溶接が行われるよう溶接ロボットの各軸が制御される。また、前記ダイレクト溶接においては、破線で示す位置において、可動電極2と固定電極3とがワークWを挟んで正対する座標において、ガン本体4の姿勢を保持してダイレクト溶接が行われるよう溶接ロボットの各軸が制御される。このため、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで、溶接ロボットの軸制御を変更する必要がある。
【0042】
なお、上記実施例では、可動電極2のみを円弧状にサーボモータにより駆動するものについて説明しているが、図示しないが、可動電極2のサーボモータによる駆動は予め設定した円弧範囲とする一方、固定電極3をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで円弧上の位置を変更することにより切換えるようにしてもよい。この場合には、固定電極3を可動電極2から円弧状に後退させることによりインダイレクト溶接が可能となり、また、固定電極3を可動電極2に接近させた所定の位置に固定させることによりダイレクト溶接が可能となる。この方法では、ガン本体4の姿勢が、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで変化しないため、溶接ロボットの軸制御をインダイレクト溶接字とダイレクト溶接時とで変更する必要がない。
【0043】
前記可動電極2および/または固定電極3の円弧状での移動は、電極2、3を支持する円弧状部材16にラック17を形成し、ガン本体4にこのラック17に噛合うピニオン18を配置し、ピニオン18をサーボモータなどで駆動することにより、夫々円弧状に移動させることができる。
【0044】
本実施形態でも、第2実施形態と同様に、加圧力をサーボモータで制御可能であり、且つ、二次配線切換ユニット11により固定電極3とインナ電極10とを切換えることができる。
【0045】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(ウ)に加えて、以下に記載する効果を奏することができる。
【0046】
(カ)可動電極2および固定電極3は、同一円弧上に配置され、両電極2、3の間隔を拡大させたインダイレクト位置と両電極2、3を接近させたダイレクト位置とで切換え可能とされるため、インダイレクト溶接モードとダイレクト溶接モードとの切換えと両溶接モードでの加圧力調整を一つのモータで実行でき、軽量なスポット溶接ガン1Bを構成することができる。
【0047】
(第4実施形態)
図13〜図15は、本発明を適用したスポット溶接装置の第4実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、インダイレクト溶接時に溶接電流が流されるインナ電極をガン本体に配置したものである。なお、第1ないし第3実施形態と同一装置、部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0048】
図13および図14に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Cにおいては、可動電極2およびそれを駆動するサーボモータ5に隣接させて、インナ電極10Aおよびインナ電極10Aを駆動するアクチュエータ20を、その作用軸が概略平行となるようガン本体4に配置する構成としている。また、ガン本体4には、第1実施形態における可動アーム6および固定電極3を備えるよう構成している。そして、ワークWに接触させて配置するインナ電極10は廃止され、上記インナ電極10Aと固定電極3との間に二次配線が配線され、二次配線切換ユニット11によりいずれかが切換えて使用される。なお、可動電極2を駆動するサーボモータ5や二次配線切換ユニット11等の構成は第1実施形態と同様に備える。
【0049】
このスポット溶接ガン1Cによるダイレクト溶接時においては、インナ電極10Aは退避位置に後退しており、可動アーム6および固定電極3が図示しない空圧シリンダ8によりダイレクト位置に位置決めされ、可動電極2と固定電極3との間でワークWを挟んでスポット溶接がなされる。
【0050】
また、インダイレクト溶接時においては、固定電極3および可動アーム6が空圧シリンダ8によりインダイレクト位置に位置決めされ、インナ電極10Aはアクチュエータ20により前進駆動されて他方のパネルW2に接触される。可動電極2はインダイレクト溶接部の一方のパネルW1に接触され、一方のパネルW1は溶接されるべき他方のパネルW2と接触している。そして、可動電極2とインナ電極10Aとの間で溶接電流を流すことで一方のパネルW1と他方のパネルW2とがインダイレクト溶接される。なお、インナ電極10Aは前記溶接されるべき他方のパネルW2に効果的に接触するよう、一方のパネルW1表面に接触される可動電極2から予め設定した距離だけ離して配置される。
【0051】
図15は、ガン本体4に配置するインナ電極10Aと可動電極2との間隔をスライド機構21により調整可能としたものである。この構成によれば、可動電極2が接する一方のパネルW1の縁からパネルW1内方の位置に打点を移してインダイレクト溶接する場合においても、両電極2、10A間の間隔を大きくすることにより、他方のパネルW2表面にインナ電極10Aを接触させ続けることが可能となり、インダイレクト溶接の適用範囲を、一方のパネルW1の縁周辺に限定されることがない。
【0052】
なお、上記実施形態では、固定電極3および可動アーム6をダイレクト位置若しくはインダイレクト位置に位置決めすることにより、ダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを切換可能とするものについて説明しているが、図示しないが、第2実施形態に示すように、可動電極2およびサーボモータ5をガン本体4に対してダイレクト位置とインダイレクト位置とに位置決めするスポット溶接ガン1Aに適用する場合であってもよく、その場合には、インナ電極10Aおよびアクチュエータ20は、可動電極2およびサーボモータ5と共にダイレクト位置とインダイレクト位置とに位置決めするようにすればよい。また、第3実施形態のスポット溶接ガン1Bに適用する場合においては、可動電極2に隣接してインナ電極10Aを配置するようにすればよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、インナ電極10Aはガン本体4の可動アーム6とは反対側に配置するものについて説明しているが、図示しないが、例えば、可動アーム6が配置されている方向とは直交する方向にガン本体4から突出させて配置することもでき、可動アーム6が配置されている側を除いていずれの方向に配置してもよく、また、複数のインナ電極10Aをガン本体4の周囲に配置していずれか一つを選択してインナ電極10Aとして利用するものであってもよい。
【0054】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)、第2実施形態における効果(オ)および第3実施形態における効果(カ)に加えて、以下に記載する効果を奏することができる。
【0055】
(キ)可動電極2およびアクチュエータ5は、隣接した位置にインナ電極10Aおよびインナ電極10Aを軸心方向に駆動するアクチュエータ20とを備えるため、インナ電極10Aに対する二次配線を可動電極2に対する二次配線と同様に行え、ダイレクト溶接およびインダイレクト溶接時にインナ電極10Aに対する二次配線と干渉させることなくスポット溶接を行うことができる。
【0056】
(ク)インナ電極10Aおよびそのアクチュエータ20は、前記可動電極2およびそのアクチュエータ5に対する間隔が調整可能であるため、インダイレクト溶接の適用範囲を、一方のパネルW1の縁周辺に限定されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図2】同じく図1のA−A断面図。
【図3】溶接インバータの二次配線の配線図。
【図4】二次配線切換ユニットの概略図。
【図5】インダイレクト溶接状態の説明図。
【図6】ワークへのインダイレクト溶接状態の説明図。
【図7】図6でのワーク状態を示す断面図。
【図8】ダイレクト溶接状態の説明図。
【図9】ワークへのダイレクト溶接状態の説明図。
【図10】図9でのワーク状態を示す断面図。
【図11】本発明の第2実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図12】本発明の第3実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図13】本発明の第4実施形態を示すスポット溶接装置によるインダイレクト溶接状態を示す概略側面図。
【図14】本発明の第4実施形態を示すスポット溶接装置によるダイレクト溶接状態を示す概略側面図。
【図15】同じく第4実施形態におけるインナ電極と可動電極との相対位置を変更可能とした実施例の概略構成図。
【符号の説明】
【0058】
1、1A、1B、1C スポット溶接ガン
2 可動電極
3 固定電極
4 ガン本体
5 アクチュエータとしてのサーボモータ
6 可動アーム
7 軸
8 アクチュエータとしての空圧シリンダ
9 溶接インバータ
10 インナ電極
11 二次配線切換ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル類をスポット溶接するスポット溶接装置およびスポット溶接方法に関し、特に、共通の溶接ガンでダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用するに好適なスポット溶接装置およびスポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から共通の溶接ガンでダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用するスポット溶接装置は提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
これは、ダイレクト溶接ガンの一方の電極チップに臨むワーク面に接続可能なインナ電極と、このインナ電極を必要に応じてワーク面から退避させるインナ電極駆動手段と、溶接ガンの他方の電極チップに当接すると共に絶縁材を介してワークを支承できるようにした下部電極とを備え、かつこの下部電極と前記インナ電極とを電気的に接続したインダイレクト電極装置をワークに配置して、共通のダイレクト溶接ガンによりダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを兼用させるようにしたものである。
【特許文献1】特公平4−36788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップを備えるインダイレクト溶接ガンを用い、その一対の電極チップにより下部電極、ゲージおよびワークを挟んで溶接するものであるため、インダイレクト溶接の箇所がパネルの縁部分に近い領域に限定され、溶接ガンの一対の電極チップで挟めないパネルの中央部分等のインダイレクト溶接には、専用のインダイレクト溶接ガンが用いられていた。
【0005】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、パネルの中央部分へのインダイレクト溶接にも好適なダイレクト溶接ガンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と相対する固定電極とで挾持したワークを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明では、可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能としたため、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップを備えるインダイレクト溶接ガンを用いる場合におけるパネルの中央部分へのインダイレクト溶接を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のスポット溶接装置およびスポット溶接方法を各実施形態に基づいて説明する。
【0009】
(第1実施形態)
図1〜図10は、本発明を適用したスポット溶接装置およびスポット溶接方法の第1実施形態を示し、図1はスポット溶接ガンの側面図、図2は図1のA−A断面図、図3は溶接インバータの二次配線の配線図、図4は二次配線切換ユニットの概略図、図5はインダイレクト溶接状態の説明図、図6はワークへのインダイレクト溶接状態の説明図、図7は図6でのワーク状態を示す断面図、図8はダイレクト溶接状態の説明図、図9はワークへのダイレクト溶接状態の説明図、図10は図9でのワーク状態を示す断面図である。
図1および図2において、本実施形態のスポット溶接装置におけるスポット溶接ガン1は、一対の対向配置された電極チップ2、3を備え、一方の電極チップ2はガン本体4に設けたサーボモータ5により軸方向に移動可能であり且つサーボモータ5により位置決めされる可動電極を構成し、他方の電極チップ3はガン本体4に揺動可能に軸支持された可動アーム6の先端に固定された固定電極を構成する。前記ガン本体4は、多軸駆動になる溶接ロボットのアームAMの先端に固定される。
【0010】
前記可動アーム6は、固定電極3を前記可動電極2に正対させるダイレクト位置(図示の実線位置)と、固定電極3を可動電極2に正対する位置から退避させたインダイレクト位置(図示の破線位置)との間で移動可能にガン本体4に軸支持7されている。前記可動アーム6は、ガン本体4に設けた空圧シリンダ8のピストンロット8Aを伸長させることにより、図中時計方向に揺動してガン本体4に設けたストッパ4Aに当接することでダイレクト位置に位置決めされ、空圧シリンダ8のピストンロッド8Aを収縮させることにより破線で示すインダイレクト位置に位置決めされるよう構成している。
【0011】
前記可動アーム6は、図2に示すように、ガン本体4を跨ぐ二又状の基部を備え、可動電極2を駆動するサーボモータ5の作用軸に直交する軸7に揺動可能に支持され、図1に示すように、ダイレクト位置に位置決めされた場合に、軸7と可動電極2および固定電極3は同一軸線上に位置するよう配列している。このため、ダイレクト溶接時に、例えば、サーボモータ5からの4×104N程度の加圧力が可動電極2と固定電極3との間に作用しても、空圧シリンダ8に反力を作用させることがなく、可動アーム6は揺動することなく固定電極3をそのダイレクト位置に保持し続けることができる。この軸7の位置は、可動電極2と固定電極3を結ぶ作用線に対してストッパ4Aが配置されている側とは反対側(図1では、左側)に位置させてもよく、この場合には、上記溶接荷重はストッパ4Aと軸7とにより受持つことができ、空圧シリンダ8にも反力が作用しない。従って、ダイレクト溶接時においては、溶接荷重はガン本体4の内力となり、溶接ロボットの各軸には作用することがない。
【0012】
また、可動アーム6がインダイレクト位置に位置決めされる場合には、固定電極3はガン本体4の横に退避され、可動電極2のみがガン本体4より突出された状態となる。このため、サーボモータ5を作動させて可動電極2を突出させてワークWに押当て、図示しないインナ電極との間で溶接電流を流すことによりインダイレクト溶接が可能となる。インダイレクト溶接においては、サーボモータ5からの溶接荷重は、例えば、3×102N程度であり、この溶接荷重はガン本体4を介して溶接ロボットの各軸に作用し、各軸により受持たれる。
【0013】
図3は、本実施形態における溶接インバータ9の二次配線を示し、一対の電極2、3とインナ電極10との間に配線される。そして、ダイレクト溶接時には、一対の電極2、3間で溶接電流が流され、インダイレクト溶接時には、可動電極2とインナ電極10との間で溶接電流が流される。固定電極3とインナ電極10との間の二次配線の切換は、溶接インバータ9に付属させた二次配線切換ユニット11により行われる。前記二次配線切換ユニット11は、図4に示すように、固定電極3に接続した端子3Aとインナ電極10に接続した端子10Aとが配列されており、その間に二次配線の一方の出力端に接続されている切換素子9Aを設け、この切換素子9Aをモータ等のアクチュエータ12により、ダイレクト溶接時には固定電極3側の端子3Aに接続させ、インダイレクト溶接時にはインナ電極10側の端子10Aに接続させるよう切換えるよう構成している。アクチュエータ12としては、前記可動アーム6への図示しない空圧供給バルブのアクチュエータに連動させてもよい。
【0014】
図5〜7は、インダイレクト溶接モードでの溶接要領を示すものであり、固定電極3は可動アーム6と共に空圧シリンダ8により可動電極2の先端側から退避したインダイレクト位置にあり、二次配線切換ユニット11により二次配線の一方は固定電極3からインナ電極10に切換えられる。そして、インダイレクト溶接箇所に溶接ロボットによりスポット溶接ガン1を位置決めして、サーボモータ5を駆動して可動電極2をワークWに押当ててインダイレクト溶接がなされる。溶接電流は溶接インバータ9の二次回路から溶接ガン1の可動電極2に流れ、溶接箇所に接合したワークW同士を溶接した後、ワークWを流れてインナ電極10を介して二次配線切換ユニット11の端子10Aから切換素子9Aを介して溶接インバータ9の二次回路へと流れる。
【0015】
前記インダイレクト溶接時においては、固定電極3が可動アーム6と共にインダイレクト位置に退避されているため、溶接ガン1をワークWと干渉させることなく移動可能であり、ワークWの周縁部分は勿論であるが、中央部分であってもインダイレクト溶接することができる。しかも、固定電極3および可動アーム6がインダイレクト位置に退避しているため、溶接ガン1をワークW表面に沿って任意に移動させることができ、溶接ガン1を移動および位置決めする溶接ロボットの移動軌跡を単純化でき、シミュレーションが容易であり、その作業速度を速めてサイクルタイムを短縮できる。
【0016】
このインダイレクト溶接における加圧力(溶接荷重)は、ダイレクト溶接における加圧力に対して5〜10%の3×102N程度であり、ダイレクト溶接時の加圧力からサーボモータ5の駆動力制御により任意に変更および調整が可能となっている。また、インダイレクト溶接時の溶接電流は、溶接インバータ9を制御することで、容易に調節することができる。
【0017】
図8〜図10は、ダイレクト溶接モードでの溶接要領を示すものであり、固定電極3は可動アーム6と共に空圧シリンダ8により可動電極2の先端側に位置したダイレクト位置に切換えられており、二次配線ユニット11により二次配線の一方はインナ電極10から固定電極3に切換えられる。そして、ダイレクト溶接箇所に溶接ロボットによりスポット溶接ガン1を位置決めして、サーボモータ5を駆動して可動電極2と固定電極3とによりワークWを挟んでダイレクト溶接がなされる。溶接電流は溶接インバータ9の二次回路から溶接ガン1の可動電極2に流れ、溶接箇所に接合したワークW同士を溶接した後、固定電極3を介して二次配線切換ユニット11の端子3Aから切換素子9Aを介して溶接インバータ9の二次回路へと流れる。
【0018】
前記ダイレクト溶接時においては、固定電極3が可動アーム6と共にダイレクト位置に位置されるため、電極2、3間にワークWを挟んで通常通りスポット溶接することができる。このダイレクト溶接における加圧力(溶接荷重)は、インダイレクト溶接における加圧力に対して10〜20倍の4×104N程度であり、インダイレクト溶接時の加圧力からサーボモータ5の駆動力制御により任意に増加および調整が可能である。また、ダイレクト溶接時の溶接電流は、溶接インバータ9を制御することで、容易に増加させて調節することができる。
【0019】
以上に説明したように、本実施形態におけるスポット溶接ガン1においては、固定電極3を可動アーム6と共に、可動電極2と正対するダイレクト位置と、可動電極2に正対する位置から退避させたインダイレクト位置とを切換えて使用可能であることから、ワークWの部位に応じてダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとを一つのスポット溶接ガン1により行うことができる。従って、夫々専用の溶接ガンを必要としないため、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とが混在するワークWにおいても、効率的に溶接することができ、サイクルタイムの短縮を図ることができると共に、一つのスポット溶接ガン1により溶接できるため、溶接設備の簡素化および低コスト化が可能となる。
【0020】
また、インダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とは、大幅に異なるが、可動電極2をサーボモータ5により駆動するものであるため、サーボモータ5の駆動電力をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで異なるように調整することで各溶接条件に適した溶接荷重を付与することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0021】
しかも、インダイレクト溶接時には可動電極2とインナ電極10との間でワークWに溶接電流を流すようにする一方、ダイレクト溶接時には可動電極2と固定電極3との間でワークWに溶接電流を流すように、二次配線を切換えるものであるため、各溶接に最適な溶接電流となるように、溶接インバータ9を制御することで、各溶接条件に適した溶接電流を付与でき、溶接品質を向上させることができる。しかも、前記した溶接荷重の付与と組合わせることで、各溶接品質をより一層向上させることができる。また、二次配線の切換を二次配線切換ユニット11により各溶接時における二次配線回路を自動的に切換えるものであるため、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時との間での溶接状態の切換えが容易となる。
【0022】
さらに、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とを固定電極3および可動アーム6を揺動させて切換えるものであるため、精密な機器であるサーボモータ5を動かすことなく切換ができ、可動電極2を基準にインダイレクト溶接とダイレクト溶接ができ、故障等に対する信頼性および溶接品質に対する信頼性を向上できる。
【0023】
また、可動アーム6および固定電極3の揺動中心は、可動電極2の作用軸に直交するか或いは可動アーム6のストッパ4Aが配置される側から離して配置しているため、ダイレクト溶接時の溶接荷重を内力とでき、可動アーム6をダイレクト位置に保持するアクチュエータ8の出力を低減させることができる。
【0024】
なお、上記実施形態において、可動アーム6のインダイレクト位置として、ワークWに対する逃げ部を後退させる方向に回動させた位置とするものについて説明したが、図示はしないが、この回動させる軸のみをサーボモータ5軸回りに90度回転させて、図1に対して直交するよう配置し、この軸回りに固定電極3および可動アーム6を回動させてこれらがサーボモータ5の横方向に位置する状態のインダイレクト位置としてもよい。このようにすると、固定電極3および可動アーム6がサーボモータ5と直交するまで退避させることができ、インダイレクト溶接時におけるワークWとの干渉をより一層回避させることができ、インダイレクト溶接の作業効率を向上できる。
【0025】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0026】
(ア)軸心方向にアクチュエータ5により駆動される可動電極2と相対する固定電極3とで挾持したワークWを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、前記可動電極2と固定電極3との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極2若しくは固定電極3が相対的に移動されて可動電極2の先端に固定電極3が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能とした。このため、インダイレクト溶接を行う場合であっても対向する一対の電極チップ2、3を備えるインダイレクト溶接ガン1を用いてパネルの中央部分へのインダイレクト溶接を好適に行うことができる。
【0027】
(イ)可動電極2を軸心方向に駆動するアクチュエータ5は、ワークWへの加圧力を制御可能なサーボモータ5により構成しているため、電流値の調整のみで溶接条件を調整してきたインダイレクト溶接の溶接条件に加圧力を組み合わせることができ、幅広い溶接条件に対応が可能となる。
【0028】
(ウ)スポット溶接装置は、ダイレクト溶接モードにおいて可動電極2と固定電極3との間に溶接電流を流通させ、インダイレクト溶接モードにおいて可動電極2とインナ電極10との間に溶接電流を流通させる二次配線切換ユニット11を備えるため、ダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとの切換えに応じて自動的に二次配線を切換えることができる。
【0029】
(エ)固定電極3は、溶接ガン1の本体4に対して揺動可能に支持された可動アーム6に配置され、前記可動アーム6はダイレクト溶接モードで固定電極3を可動電極2に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極3を可動電極2の先端側から退避させたインダイレクト位置とを切換え可能としているため、可動電極2の精密な位置決めおよび加圧力を制御する機器であるサーボモータ5を移動させることなくダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードに切換え可能であり、溶接品質の信頼性を維持できる。
【0030】
(第2実施形態)
図11は、本発明を適用したスポット溶接装置の第2実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、可動電極を揺動させることによりインダイレクト溶接とダイレクト溶接とを切換可能としたものである。なお、第1実施形態と同一装置、同一部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0031】
図11に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Aにおいては、固定電極3はガン本体4に対して移動しないよう固定されているのに対して、可動電極2がサーボモータ5を含めてガン本体4に対して揺動可能に配置されており、サーボモータ5を含めてシリンダ15により可動電極2の駆動軸を揺動させて、固定電極3に可動電極2を正対させて位置決めすることによりダイレクト溶接が実行可能であり、固定電極3に正対させることなく、破線図示のように、揺動させた位置でシリンダ15によりガン本体4に位置決めすることによりインダイレクト溶接を実行可能としている。
【0032】
このスポット溶接ガン1Aにおいては、実線図示の状態でガン本体4の軸を基準として、ダイレクト溶接させる構成は第1実施形態と同様であるが、インダイレクト溶接に際しては、サーボモータ5および可動電極2の作用軸を破線図示のように揺動させて位置決めするため、揺動させたサーボモータ5の作用軸を基準軸として、溶接ロボットの軸を座標変換して、可動電極2をワークWに正対させる必要がある。従って、スポット溶接ガン1Aのガン本体4が前記座標変換により回動させて、可動電極2およびサーボモータ5の軸がワークWに直角となるようにされる。サーボモータ5および可動電極2の作用軸のスイング量は、固定電極3および固定アーム6AがワークWと干渉しない程度にスイングさせればよいものであり、サーボモータ5および可動電極2のガン本体4よりの突出量に応じて前記スイング量は小さく設定することができる。なお、二次配線切換ユニット11のアクチュエータとしては、前記シリンダ15への図示しない空圧供給バルブのアクチュエータに連動させるようにすると、第1実施形態と同様に、切換作動させることができる。
【0033】
本実施形態のスポット溶接ガン1Aにおいても、可動電極2をサーボモータ5と共に、固定電極3と正対するダイレクト位置と、固定電極3に正対する位置から退避させたインダイレクト位置とを切換えて使用可能であることから、ワークWの部位に応じてダイレクト溶接モードとインダイレクト溶接モードとを一つのスポット溶接ガン1Aにより行うことができる。従って、夫々専用の溶接ガンを必要としないため、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とが混在するワークWにおいても、効率的に溶接することができ、サイクルタイムの短縮を図ることができると共に、一つのスポット溶接ガン1Aにより溶接できるため、溶接設備の簡素化および低コスト化が可能となる。
【0034】
また、インダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とダイレクト溶接時の加圧力(溶接荷重)とは、大幅に異なるが、可動電極2をサーボモータ5により駆動するものであるため、サーボモータ5の駆動電力をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで異なるように調整することで各溶接条件に適した溶接荷重を付与することができ、溶接品質を向上させることができる。
【0035】
しかも、インダイレクト溶接時には可動電極2とインナ電極10との間でワークWに溶接電流を流すようにする一方、ダイレクト溶接時には可動電極2と固定電極3との間でワークWに溶接電流を流すように、二次配線を切換えるものであるため、各溶接に最適な溶接電流となるように、溶接インバータ9を制御することで、各溶接条件に適した溶接電流を付与でき、溶接品質を向上させることができる。しかも、前記した溶接荷重の付与と組合わせることで、各溶接品質をより一層向上させることができる。
【0036】
さらに、インダイレクト溶接とダイレクト溶接とは、小型軽量なサーボモータ5をスイングさせることで切換えるため、切換用のシリンダ15を小型化させることができる。
【0037】
なお、上記実施形態において、可動電極2およびサーボモータ5のインダイレクト位置として、固定電極3を支持するアーム6Aが存在する側とは反対側に回動させた位置とするものについて説明したが、図示はしないが、固定電極3およびアーム6Aが存在する面内に回動軸を配置して、可動電極2およびサーボモータ5をこれらの面に直交する方向に突出させた位置をインダイレクト位置としてもよい。このようにすると、固定電極3およびアーム6Aをサーボモータ5と直交させることができ、インダイレクト溶接時におけるワークWとの干渉をより一層回避させることができ、インダイレクト溶接の作業効率を向上できる。
【0038】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(ウ)に加えて以下に記載した効果を奏することができる。
【0039】
(オ)可動電極2およびアクチュエータ5は、溶接ガン1Aの本体4に対して揺動可能に支持され、前記可動電極2はダイレクト溶接モードで固定電極3に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極3の先端側から退避させたインダイレクト位置とで切換え可能とされるため、インダイレクト溶接モードとダイレクト溶接モードとは、小型軽量なサーボモータ5をスイングさせることで切換えでき、切換用のシリンダ15を小型化させることができる。
【0040】
(第3実施形態)
図12は、本発明を適用したスポット溶接装置の第3実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、可動電極および/または固定電極を円弧状に移動可能にガン本体に配置し、可動電極と固定電極との円弧状の間隔を大きくすることでインダイレクト溶接を可能とし、両者の円弧状の間隔を狭くした状態でダイレクト溶接を可能とするものである。なお、第1および第2実施形態と同一装置、部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0041】
図12に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Bにおいては、可動電極2と固定電極3とは同一円弧上に配置され、いずれか一方の電極2、3が他方の電極3、2に対して円弧状に移動可能とされている。図示例では、可動電極2が図示しないサーボモータにより固定電極3に対して円弧状に接近離脱可能に配置されている。そして、実線で示すように、可動電極2を固定電極3に対して遠ざけた位置において可動電極2と図示しないインナ電極10との間でインダイレクト溶接が可能とされ、破線で示すように、可動電極2を円弧状に前進させて固定電極3に接近させることにより固定電極3と可動電極2とでワークWを挟んでダイレクト溶接が行なえるようにしている。前記インダイレクト溶接においては、実線で示す位置において、可動電極2がワークWに正対する座標において、ガン本体4の姿勢を保持してインダイレクト溶接が行われるよう溶接ロボットの各軸が制御される。また、前記ダイレクト溶接においては、破線で示す位置において、可動電極2と固定電極3とがワークWを挟んで正対する座標において、ガン本体4の姿勢を保持してダイレクト溶接が行われるよう溶接ロボットの各軸が制御される。このため、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで、溶接ロボットの軸制御を変更する必要がある。
【0042】
なお、上記実施例では、可動電極2のみを円弧状にサーボモータにより駆動するものについて説明しているが、図示しないが、可動電極2のサーボモータによる駆動は予め設定した円弧範囲とする一方、固定電極3をインダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで円弧上の位置を変更することにより切換えるようにしてもよい。この場合には、固定電極3を可動電極2から円弧状に後退させることによりインダイレクト溶接が可能となり、また、固定電極3を可動電極2に接近させた所定の位置に固定させることによりダイレクト溶接が可能となる。この方法では、ガン本体4の姿勢が、インダイレクト溶接時とダイレクト溶接時とで変化しないため、溶接ロボットの軸制御をインダイレクト溶接字とダイレクト溶接時とで変更する必要がない。
【0043】
前記可動電極2および/または固定電極3の円弧状での移動は、電極2、3を支持する円弧状部材16にラック17を形成し、ガン本体4にこのラック17に噛合うピニオン18を配置し、ピニオン18をサーボモータなどで駆動することにより、夫々円弧状に移動させることができる。
【0044】
本実施形態でも、第2実施形態と同様に、加圧力をサーボモータで制御可能であり、且つ、二次配線切換ユニット11により固定電極3とインナ電極10とを切換えることができる。
【0045】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(ウ)に加えて、以下に記載する効果を奏することができる。
【0046】
(カ)可動電極2および固定電極3は、同一円弧上に配置され、両電極2、3の間隔を拡大させたインダイレクト位置と両電極2、3を接近させたダイレクト位置とで切換え可能とされるため、インダイレクト溶接モードとダイレクト溶接モードとの切換えと両溶接モードでの加圧力調整を一つのモータで実行でき、軽量なスポット溶接ガン1Bを構成することができる。
【0047】
(第4実施形態)
図13〜図15は、本発明を適用したスポット溶接装置の第4実施形態を示す概略構成図である。本実施形態においては、インダイレクト溶接時に溶接電流が流されるインナ電極をガン本体に配置したものである。なお、第1ないし第3実施形態と同一装置、部品には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0048】
図13および図14に示す本実施形態のスポット溶接ガン1Cにおいては、可動電極2およびそれを駆動するサーボモータ5に隣接させて、インナ電極10Aおよびインナ電極10Aを駆動するアクチュエータ20を、その作用軸が概略平行となるようガン本体4に配置する構成としている。また、ガン本体4には、第1実施形態における可動アーム6および固定電極3を備えるよう構成している。そして、ワークWに接触させて配置するインナ電極10は廃止され、上記インナ電極10Aと固定電極3との間に二次配線が配線され、二次配線切換ユニット11によりいずれかが切換えて使用される。なお、可動電極2を駆動するサーボモータ5や二次配線切換ユニット11等の構成は第1実施形態と同様に備える。
【0049】
このスポット溶接ガン1Cによるダイレクト溶接時においては、インナ電極10Aは退避位置に後退しており、可動アーム6および固定電極3が図示しない空圧シリンダ8によりダイレクト位置に位置決めされ、可動電極2と固定電極3との間でワークWを挟んでスポット溶接がなされる。
【0050】
また、インダイレクト溶接時においては、固定電極3および可動アーム6が空圧シリンダ8によりインダイレクト位置に位置決めされ、インナ電極10Aはアクチュエータ20により前進駆動されて他方のパネルW2に接触される。可動電極2はインダイレクト溶接部の一方のパネルW1に接触され、一方のパネルW1は溶接されるべき他方のパネルW2と接触している。そして、可動電極2とインナ電極10Aとの間で溶接電流を流すことで一方のパネルW1と他方のパネルW2とがインダイレクト溶接される。なお、インナ電極10Aは前記溶接されるべき他方のパネルW2に効果的に接触するよう、一方のパネルW1表面に接触される可動電極2から予め設定した距離だけ離して配置される。
【0051】
図15は、ガン本体4に配置するインナ電極10Aと可動電極2との間隔をスライド機構21により調整可能としたものである。この構成によれば、可動電極2が接する一方のパネルW1の縁からパネルW1内方の位置に打点を移してインダイレクト溶接する場合においても、両電極2、10A間の間隔を大きくすることにより、他方のパネルW2表面にインナ電極10Aを接触させ続けることが可能となり、インダイレクト溶接の適用範囲を、一方のパネルW1の縁周辺に限定されることがない。
【0052】
なお、上記実施形態では、固定電極3および可動アーム6をダイレクト位置若しくはインダイレクト位置に位置決めすることにより、ダイレクト溶接とインダイレクト溶接とを切換可能とするものについて説明しているが、図示しないが、第2実施形態に示すように、可動電極2およびサーボモータ5をガン本体4に対してダイレクト位置とインダイレクト位置とに位置決めするスポット溶接ガン1Aに適用する場合であってもよく、その場合には、インナ電極10Aおよびアクチュエータ20は、可動電極2およびサーボモータ5と共にダイレクト位置とインダイレクト位置とに位置決めするようにすればよい。また、第3実施形態のスポット溶接ガン1Bに適用する場合においては、可動電極2に隣接してインナ電極10Aを配置するようにすればよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、インナ電極10Aはガン本体4の可動アーム6とは反対側に配置するものについて説明しているが、図示しないが、例えば、可動アーム6が配置されている方向とは直交する方向にガン本体4から突出させて配置することもでき、可動アーム6が配置されている側を除いていずれの方向に配置してもよく、また、複数のインナ電極10Aをガン本体4の周囲に配置していずれか一つを選択してインナ電極10Aとして利用するものであってもよい。
【0054】
本実施形態においては、第1実施形態における効果(ア)〜(エ)、第2実施形態における効果(オ)および第3実施形態における効果(カ)に加えて、以下に記載する効果を奏することができる。
【0055】
(キ)可動電極2およびアクチュエータ5は、隣接した位置にインナ電極10Aおよびインナ電極10Aを軸心方向に駆動するアクチュエータ20とを備えるため、インナ電極10Aに対する二次配線を可動電極2に対する二次配線と同様に行え、ダイレクト溶接およびインダイレクト溶接時にインナ電極10Aに対する二次配線と干渉させることなくスポット溶接を行うことができる。
【0056】
(ク)インナ電極10Aおよびそのアクチュエータ20は、前記可動電極2およびそのアクチュエータ5に対する間隔が調整可能であるため、インダイレクト溶接の適用範囲を、一方のパネルW1の縁周辺に限定されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図2】同じく図1のA−A断面図。
【図3】溶接インバータの二次配線の配線図。
【図4】二次配線切換ユニットの概略図。
【図5】インダイレクト溶接状態の説明図。
【図6】ワークへのインダイレクト溶接状態の説明図。
【図7】図6でのワーク状態を示す断面図。
【図8】ダイレクト溶接状態の説明図。
【図9】ワークへのダイレクト溶接状態の説明図。
【図10】図9でのワーク状態を示す断面図。
【図11】本発明の第2実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図12】本発明の第3実施形態を示すスポット溶接装置の概略側面図。
【図13】本発明の第4実施形態を示すスポット溶接装置によるインダイレクト溶接状態を示す概略側面図。
【図14】本発明の第4実施形態を示すスポット溶接装置によるダイレクト溶接状態を示す概略側面図。
【図15】同じく第4実施形態におけるインナ電極と可動電極との相対位置を変更可能とした実施例の概略構成図。
【符号の説明】
【0058】
1、1A、1B、1C スポット溶接ガン
2 可動電極
3 固定電極
4 ガン本体
5 アクチュエータとしてのサーボモータ
6 可動アーム
7 軸
8 アクチュエータとしての空圧シリンダ
9 溶接インバータ
10 インナ電極
11 二次配線切換ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と相対する固定電極とで挾持したワークを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、
前記可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能としたことを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
前記スポット溶接装置は、インダイレクト溶接モードでの溶接時に可動電極との間でワークに溶接電流を流すインナ電極をワークに接触させて備えることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接装置。
【請求項3】
前記可動電極を軸心方向に駆動するアクチュエータは、ワークへの加圧力を制御可能なサーボモータにより構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスポット溶接装置。
【請求項4】
前記スポット溶接装置は、ダイレクト溶接モードにおいて可動電極と固定電極との間に溶接電流を流通させ、インダイレクト溶接モードにおいて可動電極とインナ電極との間に溶接電流を流通させる二次配線切換ユニットを備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のスポット溶接装置。
【請求項5】
前記固定電極は、溶接ガンの本体に対して揺動可能に支持された可動アームに配置され、前記可動アームはダイレクト溶接モードで固定電極を可動電極に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極を可動電極の先端側から退避させたインダイレクト位置とを切換え可能とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項6】
前記可動電極およびアクチュエータは、溶接ガンの本体に対して揺動可能に支持され、前記可動電極はダイレクト溶接モードで固定電極に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極の先端側から退避させたインダイレクト位置とで切換え可能とされることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項7】
前記可動電極および固定電極は、同一円弧上に配置され、両電極の間隔を拡大させたインダイレクト位置と両電極を接近させたダイレクト位置とで切換え可能とされることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項8】
前記可動電極およびアクチュエータは、隣接した位置にインナ電極およびインナ電極を軸心方向に駆動するアクチュエータとを備えることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項9】
前記インナ電極およびそのアクチュエータは、前記可動電極およびそのアクチュエータに対する間隔が調整可能であることを特徴とする請求項8に記載のスポット溶接装置。
【請求項10】
軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と固定電極との軸心を一致させ、正対する可動電極と相対する固定電極とでワークを加圧しつつ両電極間に溶接電流を流してワークをダイレクト溶接し、
前記可動電極若しくは固定電極を相対的に移動させ、ワークにインナ電極と前記可動電極とを接触させて両電極間に溶接電流を流してインダイレクト溶接することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項11】
前記アクチュエータは、ダイレクト溶接時におけるワークへの加圧力とインダイレクト溶接時とにおけるワークへの加圧力とを異ならせることを特徴とする請求項10に記載のスポット溶接方法。
【請求項12】
前記固定電極とインナ電極への二次配線は、前記可動電極若しくは固定電極の相対的な移動に応じて切換えられることを特徴とする請求項10または請求項11に記載のスポット溶接方法。
【請求項1】
軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と相対する固定電極とで挾持したワークを加圧しつつスポット溶接するスポット溶接装置であり、
前記可動電極と固定電極との軸心を一致させて正対するダイレクト溶接モードと、可動電極若しくは固定電極が相対的に移動されて可動電極の先端に固定電極が位置しないインダイレクト溶接モードとを切換可能としたことを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
前記スポット溶接装置は、インダイレクト溶接モードでの溶接時に可動電極との間でワークに溶接電流を流すインナ電極をワークに接触させて備えることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接装置。
【請求項3】
前記可動電極を軸心方向に駆動するアクチュエータは、ワークへの加圧力を制御可能なサーボモータにより構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスポット溶接装置。
【請求項4】
前記スポット溶接装置は、ダイレクト溶接モードにおいて可動電極と固定電極との間に溶接電流を流通させ、インダイレクト溶接モードにおいて可動電極とインナ電極との間に溶接電流を流通させる二次配線切換ユニットを備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のスポット溶接装置。
【請求項5】
前記固定電極は、溶接ガンの本体に対して揺動可能に支持された可動アームに配置され、前記可動アームはダイレクト溶接モードで固定電極を可動電極に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極を可動電極の先端側から退避させたインダイレクト位置とを切換え可能とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項6】
前記可動電極およびアクチュエータは、溶接ガンの本体に対して揺動可能に支持され、前記可動電極はダイレクト溶接モードで固定電極に正対させるダイレクト位置とインダイレクト溶接モードで固定電極の先端側から退避させたインダイレクト位置とで切換え可能とされることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項7】
前記可動電極および固定電極は、同一円弧上に配置され、両電極の間隔を拡大させたインダイレクト位置と両電極を接近させたダイレクト位置とで切換え可能とされることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項8】
前記可動電極およびアクチュエータは、隣接した位置にインナ電極およびインナ電極を軸心方向に駆動するアクチュエータとを備えることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれか一つに記載のスポット溶接装置。
【請求項9】
前記インナ電極およびそのアクチュエータは、前記可動電極およびそのアクチュエータに対する間隔が調整可能であることを特徴とする請求項8に記載のスポット溶接装置。
【請求項10】
軸心方向にアクチュエータにより駆動される可動電極と固定電極との軸心を一致させ、正対する可動電極と相対する固定電極とでワークを加圧しつつ両電極間に溶接電流を流してワークをダイレクト溶接し、
前記可動電極若しくは固定電極を相対的に移動させ、ワークにインナ電極と前記可動電極とを接触させて両電極間に溶接電流を流してインダイレクト溶接することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項11】
前記アクチュエータは、ダイレクト溶接時におけるワークへの加圧力とインダイレクト溶接時とにおけるワークへの加圧力とを異ならせることを特徴とする請求項10に記載のスポット溶接方法。
【請求項12】
前記固定電極とインナ電極への二次配線は、前記可動電極若しくは固定電極の相対的な移動に応じて切換えられることを特徴とする請求項10または請求項11に記載のスポット溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−159235(P2006−159235A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352883(P2004−352883)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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