説明

スポット溶接装置及びスポット溶接方法

【課題】溶接部における圧痕や溶接部周りの母材の変形を抑えることができるスポット溶接装置、及びスポット溶接方法を提供する。
【解決手段】スポット溶接装置1では、電極2に絞り部14が設けられているため、絞り部14によって電流の通電領域が絞られ、溶接部Wのナゲット径L1を電極径L2よりも小さくすることができる。このため、スポット溶接装置1では、通電時において、溶接部Wを含む溶接部W周りの十分な面積を加圧部12によって加圧しながら溶接部Wの形成を行うことができる。したがって、スポット溶接装置1を用いて溶接部Wを形成した場合、溶接部Wにおける圧痕のへこみ量、及び溶接部W周りの外板4,5の変形を同時に抑えることができる。外板4,5の接合体を用いたステンレス車両では、圧痕や歪みが目立たず、外観上の見栄えが良好なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接装置及びスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばステンレス車両の組み立てにはスポット溶接が多用されている。スポット溶接では、例えば薄板鋼板といった溶接対象となる母材を一対の電極で挟み込み、電極で母材を加圧しながら電流を流すことにより、ジュール熱によって母材を局所的に溶融させて接合が行われる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2953354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したスポット溶接では、加圧力によって電極が母材に食い込み、母材の表面がへこむことによって圧痕が生じてしまう。これに対し、一方の電極に銅板電極などを用いることにより、母材への電極の食い込みを低減させることも考えられる。しかしながら、母材が薄板である場合には、溶接部のへこみは小さくなるものの、溶接部周りに浮き上がり変形が生じて母材全体が歪むおそれがある。スポット溶接を用いてステンレス車両を製作する場合、ステンレス車両は一般に無塗装であるため、スポット溶接による圧痕や母材の歪みが目立つと、外観上の見栄えが悪化するという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、溶接部における圧痕や溶接部周りの母材の変形を抑えることができるスポット溶接装置、及びスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係るスポット溶接装置は、重ね合わされた薄板鋼板を一対の電極で挟み込み、電極で薄板鋼板を加圧しながら通電させて溶接部を形成するスポット溶接装置であって、電極は、電流の通電領域を絞ることによって溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくさせる絞り部と、絞り部によって絞られた電流を薄板鋼板に向けて通すと共に溶接部を含む溶接部周りを加圧する加圧部とを備えたことを特徴としている。
【0007】
このスポット溶接装置では、絞り部によって電流の通電領域を絞ることによって溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくし、溶接部を含む溶接部周りの十分な面積を加圧部によって加圧しながら溶接部の形成を行うことができる。したがって、溶接部における圧痕のへこみ量、及び溶接部周りの母材の変形を同時に抑えることができる。このスポット溶接装置を例えばステンレス車両の外板の溶接に用いることにより、圧痕や歪みが目立たない車両の製作が可能となる。
【0008】
また、加圧部は、電極の本体部と同材質であることが好ましい。この場合、加圧部による溶接部周りの冷却機能を十分に確保できるので、健全なナゲットを形成できる。
【0009】
また、絞り部は、電極径よりも小径の開口部が設けられた絶縁板によって形成されていることが好ましい。この場合、絶縁板の開口部によって絞り部をより確実に形成できる。
【0010】
また、絶縁板は、フェノール樹脂からなることが好ましい。この場合、絶縁板の耐熱性及び耐加圧性を十分に確保できる。
【0011】
また、電極の本体部には、絶縁板の開口部と略同径の凹部が設けられる一方で、加圧部には、凹部に対応する凸部が設けられ、電極は、絶縁板の開口部が通された加圧部の凸部を電極の本体部の凹部に係合してなることが好ましい。この場合、絞り部及び加圧部を有する電極を簡単に構成できる。また、電極の本体部に対して絶縁板及び加圧部が着脱自在となるので、必要に応じて絶縁板及び加圧部の交換を行うことも可能となる。
【0012】
また、本発明に係るスポット溶接方法は、重ね合わされた薄板鋼板を一対の電極で挟み込み、電極で薄板鋼板を加圧しながら通電させて溶接部を形成するスポット溶接方法であって、電流の通電領域を絞ることによって溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくしつつ、溶接部を含む溶接部周りを加圧しながら溶接部を形成することを特徴としている。
【0013】
このスポット溶接方法では、絞り部によって電流の通電領域を絞ることによって溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくし、溶接部を含む溶接部周りの十分な面積を加圧部によって加圧しながら溶接部の形成を行うことができる。したがって、溶接部における圧痕のへこみ量、及び溶接部周りの母材の変形を同時に抑えることができる。このスポット溶接方法を例えばステンレス車両の外板の溶接に用いることにより、圧痕や歪みが目立たない車両の製作が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接部における圧痕や溶接部周りの母材の変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るスポット溶接装置及びスポット溶接方法の一実施形態を示す図である。
【図2】図1に示したスポット溶接装置の電極の構成を示す分解斜視図である。
【図3】従来のスポット溶接装置を用いた場合の溶接部及び母材の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るスポット溶接装置及びスポット溶接方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るスポット溶接装置及びスポット溶接方法の一実施形態を示す図である。同図に示すように、スポット溶接装置1は、重ね合わされた薄板鋼板を一対の電極2,3で挟み込み、これらの電極2,3で薄板鋼板を加圧しながら通電させて溶接部Wを形成する装置である。本実施形態では、溶接対象である薄板鋼板として、ステンレス車両の形成に用いられる厚さ1.5mm程度の外板4,5を例示する。
【0018】
スポット溶接装置1の電極2,3は、全体として例えば直径が約30mmの円柱状をなしている。電極2は、図1及び図2に示すように、本体部11と、本体部11の先端に設けられた加圧部12と、本体部11及び加圧部12の間に配置された絶縁板13とによって構成されている。本体部11は、例えばクロム銅によって形成されており、本体部11における先端面11aの中央部分には、内径が5mm程度の円柱状の凹部11bが設けられている。また、凹部11bの内壁面には、ネジ溝が形成されている。
【0019】
加圧部12は、本体部11と同様に例えばクロム銅によって形成されている。加圧部12の厚さは、例えば5mm程度となっており、加圧部12における基端面12aの中央部分には、本体部11の凹部11bに対応して、外径が5mm程度の円柱状の凸部12bが設けられている。凸部12bの外壁面には、凹部11bのネジ溝に対応するネジ溝が設けられており、凸部12bを凹部11bに螺入することにより、加圧部12は、本体部11に対して装着可能となっている。
【0020】
絶縁板13は、例えば耐熱性及び耐加圧性に優れるフェノール樹脂によって形成されている。絶縁板13の厚さは、例えば2mm程度となっており、絶縁板13の中央部分には、直径が5mm程度の円形の開口部13aが設けられている。開口部13aの内壁面には、ネジ溝が形成されており、凸部12bを開口部13aに螺入することにより、絶縁板13は、加圧部12に対して装着可能となっている。
【0021】
図1に示すように、電極2は、絶縁板13が装着された加圧部12の凸部を本体部11の凹部11bに螺入することによって形成されている。したがって、電極2の先端部分には、本体部11と加圧部12との間に絶縁板13が介在することによって本体部11を通る電流の通電領域を絞る絞り部14が形成され、溶接部Wにおけるナゲット径L1を電極径L2よりも小さくすることが可能となっている。なお、外板4,5を挟んで電極2と対向する電極3の材質は、電極2の本体部11と同様にクロム銅とすることが好ましい。
【0022】
以上の構成を有するスポット溶接装置1を用いて外板4,5の溶接を行う場合、まず、重ね合わせた外板4,5を治具等で保持する。そして、図1に示すように、溶接箇所を電極2,3で挟み込むと共に、一定の加圧力を外板4,5に加えながら通電を行うことにより、溶接部Wを形成する。
【0023】
ここで、従来のスポット溶接装置を用いた場合では、図3(a)に示すように、加圧力によって電極21,22が外板4,5に食い込み、溶接箇所において外板4,5の表面がへこむことによって、溶接部Vの圧痕が目立ち易いという問題があった。この問題を解決するためには、図3(b)に示すように、一方の電極を銅板電極23とし、外板4,5への電極21,23の食い込みを低減させることも考えられる。
【0024】
しかしながら、外板4,5のように母材が薄板である場合には、溶接部Vの圧痕そのものは小さくなるものの、溶接部V周りに浮き上がり変形が生じて母材全体が歪むおそれがある。この場合、溶接部Vを中心に母材が凸状となり、圧痕が却って目立ってしまう場合がある。
【0025】
これに対し、スポット溶接装置1を用いた場合では、電極2に上述した絞り部14が設けられているため、この絞り部14によって電流の通電領域が絞られ、溶接部Wのナゲット径L1は、電極径L2よりも小さくなる。ナゲット径L1の大きさは、絶縁板13の開口部13aの径と加圧部12の厚さとによって概ね制御することができる。本実施形態では、30mm程度の電極径L2に対し、ナゲット径L1は6mm〜7mm程度となる。
【0026】
そして、溶接部Wのナゲット径L1を電極径L2よりも小さくすることで、スポット溶接装置1では、通電時において、溶接部Wを含む溶接部W周りの十分な面積を加圧部12によって加圧しながら溶接部Wの形成を行うことができる。したがって、このスポット溶接装置1を用いて溶接部Wを形成した場合、溶接部Wにおける圧痕のへこみ量、及び溶接部W周りの外板4,5の変形を同時に抑えることができる。外板4,5の接合体を用いたステンレス車両では、圧痕や歪みが目立たず、外観上の見栄えが良好なものとなる。
【0027】
例えば図3(b)に示したような従来のスポット溶接装置を用いた場合の溶接部Wの圧痕の平滑度は、0.02mm〜0.05mm程度である。これに対し、スポット溶接装置1を用いた場合の溶接部Wの圧痕の平滑度は0.005mm程度であり、平滑度を1桁程度向上させることが可能となっている。
【0028】
また、スポット溶接装置1では、加圧部12が電極2の本体部11と同材質のクロム銅で形成されているので、加圧部12による溶接部W周りの冷却機能が十分に確保され、健全なナゲットを形成できる。さらに、絞り部14が電極径L2よりも小径の開口部13aを有する絶縁板13によって形成されているので、開口部13aによって絞り部14をより確実に形成できる。
【0029】
また、電極2の本体部11には、絶縁板13の開口部13aと略同径の凹部11bが設けられる一方で、加圧部12には、凹部11bに対応する凸部12bが設けられ、電極2は、絶縁板13の開口部13aが通された加圧部12の凸部12bを電極2の本体部11の凹部11bに螺入してなる。これにより、絞り部14及び加圧部12を有する電極2を簡単に構成できる。また、電極2の本体部11に対して絶縁板13及び加圧部12が着脱自在となっているので、必要に応じて絶縁板13及び加圧部12の交換を行うことも可能となる。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、30mm程度の電極径L2に対して6mm〜7mm程度のナゲット径L1となるように絶縁板13の開口部13aの径、及び加圧部12の厚さを設定しているが、電極径L2に対するナゲット径L1の比は、例えば外板4,5の板厚などに応じて適宜設定できる。また、電極2,3の材料は、上述したクロム銅のほか、アルミナ分散銅、銀タングステン、ベリリウム合金などを用いることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1…スポット溶接装置、2,3…電極、4,5…外板(薄板鋼板)、11…本体部、11b…凹部、12…加圧部、12b…凸部、13…絶縁板、13a…開口部、14…絞り部、L1…ナゲット径、L2…電極径、W…溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた薄板鋼板を一対の電極で挟み込み、前記電極で前記薄板鋼板を加圧しながら通電させて溶接部を形成するスポット溶接装置であって、
前記電極は、電流の通電領域を絞ることによって前記溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくさせる絞り部と、前記絞り部によって絞られた前記電流を前記薄板鋼板に向けて通すと共に前記溶接部を含む溶接部周りを加圧する加圧部とを備えたことを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
前記加圧部は、前記電極の本体部と同材質であることを特徴とする請求項1記載のスポット溶接装置。
【請求項3】
前記絞り部は、前記電極径よりも小径の開口部が設けられた絶縁板によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスポット溶接装置。
【請求項4】
前記絶縁板は、フェノール樹脂からなることを特徴とする請求項3記載のスポット溶接装置。
【請求項5】
前記電極の本体部には、前記絶縁板の開口部と略同径の凹部が設けられる一方で、前記加圧部には、前記凹部に対応する凸部が設けられ、
前記電極は、前記絶縁板の開口部が通された前記加圧部の前記凸部を前記電極の本体部の前記凹部に係合してなることを特徴とする請求項3又は4記載のスポット溶接装置。
【請求項6】
重ね合わされた薄板鋼板を一対の電極で挟み込み、前記電極で前記薄板鋼板を加圧しながら通電させて溶接部を形成するスポット溶接方法であって、
電流の通電領域を絞ることによって前記溶接部のナゲット径を電極径よりも小さくしつつ、前記溶接部を含む溶接部周りを加圧しながら前記溶接部を形成することを特徴とするスポット溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−50985(P2011−50985A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201888(P2009−201888)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】