説明

スポット溶接装置

【課題】複数個のワークが積層されて形成された積層体に対してスポット溶接を施す際、ワーク同士の接触面にナゲットを十分に成長し得るスポット溶接装置を提供する。
【解決手段】スポット溶接装置を構成する溶接ガン14は、例えば、溶接チップとしての下チップ20及び上チップ22と、上チップ22を変位させる変位軸にブラケットを介して設けられた補助電極34a、34bとを具備する。これら補助電極34a、34bは、アクチュエータの作用下に、下チップ20に対して接近又は離間する方向に変位する。補助電極34a、34bは、下チップ20と上チップ22が積層体40aを挟持するとき、積層体40aの最外に配置された金属板46aに当接する。上チップ22から下チップ20へ向かう電流i1が流れる際、上チップ22から補助電極34a、34bへ向かう分岐電流i2が流れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のワークを積層して形成される積層体に対してスポット溶接を行うためのスポット溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図22は、いわゆるハイテン鋼からなり且つ厚みが大きく、このために電気抵抗が大きな高抵抗ワーク1、2同士をスポット溶接にて接合する場合を模式的に示した要部正面図である。この場合、2枚の高抵抗ワーク1、2が積層されることによって積層体3が形成された後、該積層体3が、第1溶接チップ4と第2溶接チップ5に挟持・加圧される。さらに、第1溶接チップ4と第2溶接チップ5の間に通電がなされ、これに伴って高抵抗ワーク1、2同士の接触面近傍の部位が発熱して溶融部6となる。その後、溶融部6は凝固し、ナゲットと呼称される固相となる。
【0003】
ここで、高抵抗ワーク1、2は電気抵抗が大きいので、通電の際に前記接触面近傍に発生するジュール熱が大きい。このため、図23に示すように、溶融部6が比較的短時間に大きく成長し、その結果、溶融部6が飛散し易く(スパッタが発生し易く)なる。従って、高抵抗ワーク1、2同士をスポット溶接にて接合する場合、スパッタが発生することを回避するべく溶接電流を高精度に制御する必要があるが、このような制御は容易ではない。なお、この点は、厚みが小さいハイテン鋼の場合においても同様である。
【0004】
また、3枚以上のワークを接合する場合、ワークの材質及び厚みは同一であるとは限らず、例えば、図24に示すように、最外に位置するワーク(低抵抗ワーク7)の厚みが最小である場合もある。なお、この図24における積層体8は、図22及び図23に示される高抵抗ワーク1、2上に、軟鋼からなり電気抵抗が小さい低抵抗ワーク7をさらに積層して形成されたものである。
【0005】
この積層体8に対してスポット溶接を行うと、低抵抗ワーク7と高抵抗ワーク2の接触面近傍に発生するジュール熱よりも、高抵抗ワーク1、2同士の接触面近傍に発生するジュール熱の方が大きくなる。後者の接触面近傍の方が、接触抵抗が大きいからである。
【0006】
従って、この積層体8は、先ず、高抵抗ワーク1、2同士の接触面に溶融部9が形成される。場合によっては、図25に示すように、低抵抗ワーク7と高抵抗ワーク2の接触面に溶融部が形成される前に、溶融部9が大きく成長することがある。このような状態で低抵抗ワーク7と高抵抗ワーク2の接触面に溶融部を形成するべく通電を続行すると、高抵抗ワーク1、2同士の接触面からスパッタが発生する懸念がある。
【0007】
しかしながら、通電を停止すると、低抵抗ワーク7と高抵抗ワーク2の接触面に十分な大きさの溶融部、ひいてはナゲットが形成されないので、低抵抗ワーク7と高抵抗ワーク2との接合強度を確保することが困難となる。
【0008】
そこで、本出願人は、特許文献1において、このような積層体に対してスポット溶接を行う際、低抵抗ワークに当接する第1溶接チップの加圧力を、第2溶接チップに比して小さく設定することを提案している。この場合、高抵抗ワークに対する低抵抗ワークの接触圧力が小さくなり、その結果、低抵抗ワークと高抵抗ワークの接触面の接触抵抗が大きくなる。これにより、該接触面に十分なジュール熱が発生する。従って、低抵抗ワークと高抵抗ワークの間のナゲットを、高抵抗ワーク同士の間に形成されるナゲットと略同等の大きさに成長させることが可能となり、結局、接合強度が優れた積層体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3894545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は特許文献1記載の技術に関連してなされたもので、積層体中のワーク同士の接触面近傍にナゲットを十分に成長させることが可能であり、しかも、スパッタが発生する懸念を払拭し得るスポット溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数個のワークを積層することで形成した積層体に対してスポット溶接を行うためのスポット溶接装置であって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップ又は前記第2溶接チップの少なくともいずれかを変位させるための第1変位機構と、
前記積層体の最外に位置する最外ワークにおける前記第1溶接チップが当接した部位とは別の部位に当接し、前記積層体を前記最外ワーク側から加圧するための加圧部材と、
前記加圧部材を前記第1溶接チップ又は前記第2溶接チップとは別個に変位させるための第2変位機構と、
前記加圧部材に加圧力を発生させるための加圧機構と、
を有することを特徴とする。
【0012】
この場合、第1溶接チップと加圧部材との合計加圧力が第2溶接チップの加圧力と均衡するので、第1溶接チップの加圧力が、第2溶接チップに比して小さくなる。従って、第1溶接チップ側と、該第1溶接チップに略対向する第2溶接チップとの間では、加圧力は、第1溶接チップ側から第2溶接チップに向かうにつれて作用範囲が広がるように分布する。このため、第1溶接チップが当接した最外のワークと、それに隣接するワークとの接触面に作用する力が、残余のワーク同士の接触面に作用する力に比して小さくなる。
【0013】
このような分布が生じる結果、最外のワークと、それに隣接するワークとの接触面積が、残余のワーク同士の接触面積に比して小さくなる。従って、最外のワークとそれに隣接するワークとの接触面の接触抵抗を大きくすることができ、これにより、ジュール熱に基づく発熱量を大きくすることができる。従って、該接触面に生成するナゲットを大きく成長させることが可能となり、結局、最外のワークとこれに隣接するワークとの接合強度を確保することができる。
【0014】
しかも、加圧部材によって金属板が押圧されるので、最外のワークがこれに隣接するワークから離間することが抑制される。従って、軟化した溶融部が最外のワークとこれに隣接するワークとの離間箇所からスパッタとして飛散することを防止することができる。
【0015】
その上、第1溶接チップを変位させる第1変位機構と、加圧部材を変位させる第2変位機構とが別個に設けられているので、第1溶接チップと加圧部材を積層体に対して個別に当接又は離間させることが容易である。すなわち、加圧部材による積層体に対する加圧力を容易に制御することが可能である。
【0016】
なお、加圧部材を、第1溶接チップとは逆の極性である補助電極で構成し、前記通電を行う際、第1溶接チップから補助電極に向かう分岐電流、又は、補助電極から第1溶接チップに向かう分岐電流のいずれかを生じさせるようにしてもよい。
【0017】
この場合、第1溶接チップから補助電極に向かう電流、又はその逆方向に流れる電流が最外のワークの内部を流れるので、該電流によって、最外のワークと、これに隣接するワークとの接触面が十分に加熱される。その結果、前記接触面に十分な大きさのナゲットが成長するので、接合強度に一層優れた接合部が得られる。
【0018】
しかも、第1溶接チップと加圧部材(補助電極)を積層体に対して個別に当接又は離間させることが容易であるので、第1溶接チップから補助電極に向かう電流、又はその逆方向に流れる電流の発生、及び消失のタイミングを制御することも容易である。
【0019】
また、第2溶接チップ側に、該第2溶接チップとは逆の極性である別の補助電極を設け、前記第1溶接チップから前記補助電極(第1溶接チップ側の補助電極)に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流のいずれかを消失させた後に、前記別の補助電極(第2溶接チップ側の補助電極)から第2溶接チップに向かう分岐電流、又は、第2溶接チップから前記別の補助電極に向かう分岐電流のいずれかを流すようにしてもよい。
【0020】
この場合、第2溶接チップが当接する最外のワークと、これに隣接するワークとの接触面に、ナゲットを十分に成長させることができるようになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1溶接チップと第2溶接チップで積層体を挟持することに加え、前記積層体の最外に配置されたワークを加圧部材で加圧し、この状態でスポット溶接を行うようにしている。このため、積層体に対する加圧力が、第1溶接チップから第2溶接チップに向かうにつれて作用範囲が大きくなるように分布する。
【0022】
このように加圧力が分布する結果、前記最外のワークと、これに隣接するワークとの接触面の接触面積が小さくなり、それに伴って該接触面の接触抵抗が大きくなる。従って、該接触面を十分に加熱し得るジュール熱が発生するようになるので、この接触面に十分な大きさのナゲットを成長させることができる。これにより、最外のワークと、これに隣接するワークとが十分な接合強度で接合する。換言すれば、最外のワークと、これに隣接するワークとの間に十分な接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るスポット溶接装置の要部側面図である。
【図2】図1のスポット溶接装置の要部拡大正面図である。
【図3】溶接対象である積層体を下チップ、上チップ及び補助電極で挟持した状態を示す要部概略正面図である。
【図4】積層体の最上に位置するワークと、その直下のワークとの間に適切な面圧の分布が形成された状態の一例を示す正面模式図とグラフである。
【図5】前記積層体を下チップ及び上チップのみで挟持した状態を示す正面模式図である。
【図6】図3から通電を開始し、上チップから下チップ、及び補助電極に向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図7】図6から通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図8】補助電極のみを積層体から離間させる一方、上チップから下チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図9】図8に続いて上チップを積層体から離間させ、通電(スポット溶接)を終了した状態を示す縦断面模式図である。
【図10】図3とは別の積層体を下チップ、上チップ及び補助電極で挟持し、通電を開始した状態を示す縦断面模式図である。
【図11】図10から補助電極のみを積層体から離間させる一方、上チップから下チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図12】通電(スポット溶接)を終了した状態を示す縦断面模式図である。
【図13】図3及び図10とは別の積層体を下チップ、上チップ及び補助電極で挟持し、通電を開始した状態を示す縦断面模式図である。
【図14】通電(スポット溶接)を終了した状態を示す縦断面模式図である。
【図15】図3、図10及び図13とは別の積層体を下チップ、上チップ及び補助電極で挟持し、通電を開始した状態を示す縦断面模式図である。
【図16】補助電極を下チップ(第2溶接チップ)側に設けた溶接ガンの要部側面図である。
【図17】上チップ側の補助電極を積層体から離間させる一方、上チップから下チップへの通電を続行しながら、下チップ側の補助電極を積層体に当接させた状態を示す縦断面模式図である。
【図18】下チップ側の前記補助電極を積層体から離間させる一方、上チップから下チップへの通電を続行した状態を示す縦断面模式図である。
【図19】図3とは逆に、下チップ及び補助電極から上チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図20】積層体の最上に位置するワークと、その直下のワークとに、上チップから補助電極に向かう電流が流れる状態を示す縦断面模式図である。
【図21】補助電極を変位させるための変位機構がガン本体に設けられた溶接ガンの要部側面図である。
【図22】積層体を下チップ及び上チップのみで挟持する一般的なスポット溶接において、上チップから下チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図23】図22から溶融部が成長した状態を示す縦断面模式図である。
【図24】図22とは別の積層体を下チップ及び上チップのみで挟持するとともに、上チップから下チップに向かう電流を流した状態を示す縦断面模式図である。
【図25】図24から溶融部が成長した状態を示す縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るスポット溶接装置につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係るスポット溶接装置10の要部側面図であり、図2は、その要部拡大正面図である。このスポット溶接装置10は、アームを有するロボット(ともに図示せず)と、前記アームを構成する手首部12に支持された溶接ガン14とを有する。
【0026】
この場合、溶接ガン14は、ガン本体16の下方に配設された略C字形状の固定アーム18を具備する、いわゆるC型のものである。この固定アーム18の下方先端には、ガン本体16を臨むようにして、第2溶接チップとしての下チップ20が設けられ、該下チップ20は、ガン本体16に向かって延在している。
【0027】
ガン本体16には、第1溶接チップとしての上チップ22が設けられたホルダ24を図1及び図2における上下方向(矢印Y2方向又は矢印Y1方向)に変位させるためのボールねじ機構(図示せず)が収容されている。具体的には、ホルダ24は、ガン本体16から突出し且つ前記下チップ20に向かって延在する変位軸26の先端に取り付けられている。前記ボールねじ機構のボールねじは、この変位軸26を図1における上下方向に変位させ、これにより、ホルダ24を介して上チップ22を変位させる。
【0028】
すなわち、このボールねじ機構は、上チップ22を変位させるための第1変位機構である。なお、前記ボールねじは、前記ボールねじ機構を構成する図示しないサーボモータの作用下に回転動作する。
【0029】
上チップ22の胴部には、略平板形状のブラケット28が装着される。すなわち、該ブラケット28には、その直径が上チップ22の胴部の直径と略同等である貫通孔30が形成されており、この貫通孔30に上チップ22の胴部が通されて嵌合されている。
【0030】
図2に詳細に示すように、ブラケット28には、2個のアクチュエータ30a、30bが設けられ、これらアクチュエータ30a、30bを構成するチューブ32a、32bからは、加圧部材として機能する補助電極34a、34bが上チップ22と平行に延在するようにして突出している。これら補助電極34a、34bは、前記アクチュエータ30a、30bの作用下に、下チップ20に対して接近又は離間する方向(矢印Y1方向又はY2方向)に変位する。すなわち、アクチュエータ30a、30bは、補助電極34a、34bを変位させるための第2変位機構であり、且つ補助電極34a、34bの加圧力を発生させて制御する加圧力発生/制御機構である。
【0031】
溶接対象である積層体40aにつき若干説明すると、この場合、積層体40aは、3枚の金属板42a、44a、46aが下方からこの順序で積層されることによって構成される。この中の金属板42a、44aの厚みはD1(例えば、約1mm〜約2mm)に設定され、金属板46aの厚みはD1に比して小寸法のD2(例えば、約0.5mm〜約0.7mm)に設定される。すなわち、金属板42a、44aの厚みは同一であり、金属板46aはこれら金属板42a、44aに比して薄肉である。すなわち、金属板46aの肉厚は、積層体40aを構成する3枚の金属板42a、44a、46a中で最小である。
【0032】
金属板42a、44aは、例えば、いわゆるハイテン鋼であるJAC590、JAC780又はJAC980(いずれも日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能高張力鋼板)からなる高抵抗ワークであり、金属板46aは、例えば、いわゆる軟鋼であるJAC270(日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能絞り加工用鋼板)からなる低抵抗ワークである。金属板42a、44aは同一金属種であってもよいし、異種金属種であってもよい。
【0033】
前記下チップ20及び前記上チップ22は、これら下チップ20及び上チップ22の間に溶接対象である積層体40aを挟持し、且つ該積層体40aに対して通電を行うものである。なお、下チップ20及び補助電極34a、34bは電源50の負極に電気的に接続されており、一方、上チップ22は前記電源50の正極に電気的に接続されている。このため、本実施の形態では、上チップ22から下チップ20、及び補助電極34a、34bに向かって電流が流れる。このことから諒解される通り、上チップ22と補助電極34a、34bはともに、積層体40a中の最上に位置する金属板46aに当接するものの、その極性は互いに逆である。
【0034】
後述するように、上チップ22と補助電極34a、34bの離間距離Z1、Z2(図3参照)は、金属板46aと、その直下の金属板44aとの間に適切な面圧の分布が得られるように設定される。
【0035】
以上の構成において、前記ボールねじ機構を構成する前記サーボモータ、及び電源50は、制御手段としてのガンコントローラ52に電気的に接続されている。すなわち、これらサーボモータ、及び電源50の動作ないし付勢・滅勢は、ガンコントローラ52によって制御される。
【0036】
本実施の形態に係るスポット溶接装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、スポット溶接方法との関係で説明する。
【0037】
積層体40aに対してスポット溶接を行う際、換言すれば、金属板42a、44a同士を接合するとともに金属板44a、46a同士を接合する際には、先ず、前記ロボットが、下チップ20と上チップ22の間に積層体40aが配置されるように前記手首部12、すなわち、溶接ガン14を移動させる。
【0038】
ガン本体16が所定の位置まで降下した後、ガンコントローラ52の作用下に前記ボールねじ機構を構成する前記サーボモータが付勢され、これに伴って前記ボールねじが回転動作を開始する。これにより、上チップ22及び補助電極34a、34bが積層体40aに対してさらに接近するように、変位軸26が矢印Y1方向に向かって降下する。その結果、下チップ20と上チップ22の間に積層体40aが挟持される。
【0039】
その一方で、ガンコントローラ52がアクチュエータ30a、30bに制御信号を送る。この制御信号を受けたアクチュエータ30a、30bは、下降するように付勢される。その結果、補助電極34a、34bが積層体40aに接近するように、矢印Y1方向に向かって下降する。
【0040】
従って、該補助電極34a、34bが、下チップ20と上チップ22によって積層体40aが挟持されるのと同時、又はその前後に金属板46aに当接する。図3には、このときの模式的な縦断面図が示されている。
【0041】
ここで、上チップ22と補助電極34a、34bの離間距離Z1、Z2は、図4に示すように、金属板46aと金属板44aとの間の接触面に、上チップ22で押圧される箇所で面圧が最大となり、且つ補助電極34a、34bで押圧される箇所で、次に大きい面圧が得られるように設定される。なお、好適にはZ1=Z2である。
【0042】
換言すれば、前記接触面には、上チップ22の加圧による面圧、及び補助電極34a、34bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成される。これにより、図4に示すような加圧力の分布が形成される。以下、この分布につき詳述する。
【0043】
ガンコントローラ52は、金属板46aに対する上チップ22及び補助電極34a、34bの合計加圧力(F1+F2+F3)が、金属板42aに対する下チップ20の加圧力(F4)と均衡するように、前記ボールねじ機構のボールねじを回転動作させるサーボモータの回転付勢力、及びアクチュエータ30a、30bの推進力を制御する。この制御により、積層体40aに対する矢印Y1方向に沿って作用する加圧力(F1+F2+F3)と、矢印Y2方向に沿って作用する加圧力(F4)とが略同等となる。なお、F2=F3であることが好適である。
【0044】
すなわち、このとき、F1<F4が成り立つ。従って、積層体40aが下チップ20と上チップ22から受ける力は、図3に模式的に示すように、上チップ22から下チップ20に向かうにつれて作用範囲が広くなる(大きくなる)ように分布する。このため、金属板44a、46aの接触面に作用する力は、金属板42a、44aの接触面に作用する力に比して小さくなる。なお、離間距離Z1、Z2が過度に小さいために上チップ22の加圧による面圧、及び補助電極34a、34bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成されない場合、このような分布が形成され難くなる。
【0045】
図5は、補助電極34a、34bを用いずにF1=F4とした場合における積層体40aが下チップ20と上チップ22から受ける力の分布を模式的に示したものである。図5から諒解されるように、この場合、力は、上チップ22から下チップ20にわたって均等である。換言すれば、金属板44a、46aの接触面に作用する力と、金属板42a、44aの接触面に作用する力とが等しくなる。
【0046】
図3及び図5には、金属板44a、46aの接触面に作用する力の範囲を太実線で示している。図3及び図5を対比して諒解される通り、力が作用する範囲は、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して狭い。このことは、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比して金属板46aが金属板44aに対して押圧される範囲が狭いこと、換言すれば、接触面積が小さいことを意味する。
【0047】
ここで、このように上チップ22から下チップ20に至るまでの加圧力を分布させ、金属板44aに対する金属板46aの接触面積を小さくしたことに伴い、積層体40aから上チップ22に向かう反力が生じる。第1実施形態では、この反力を補助電極34a、34bで受けている。
【0048】
上記したように、補助電極34a、34bを支持するブラケット28は、ガン本体16に収容されるボールねじ機構に連結された変位軸26に支持されている。このため、補助電極34a、34bで受けた前記反力は、結局、ガン本体16(溶接ガン14)に吸収される。
【0049】
従って、この場合、積層体40aからの反力がロボットに作用することが回避される。このため、ロボットとして剛性が大きいものを採用する必要がない。換言すれば、ロボットとして小型のものを採用することができ、その結果、設備投資を低廉化することができる。
【0050】
次に、ガンコントローラ52は、電源50に通電開始の制御信号を発する。上チップ22、下チップ20の各々が電源50の正極、負極に接続されているため、図6に示すように、上チップ22から下チップ20に向かう電流i1が流れる。上記したように、上チップ22、下チップ20の各々が電源50の正極、負極に接続されているからである。そして、電流iに基づくジュール熱により、金属板42a、44aの間、及び金属板44a、46aの間がそれぞれ加熱され、加熱領域60、62が形成される。
【0051】
上記したように、図3に示される金属板46aと金属板44aとの接触面積は、図5に示される金属板46aと金属板44aとの接触面積に比して小さい。このため、金属板44a、46aの接触面における接触抵抗及び電流密度は、図3に示される場合の方が図5に示される場合に比して、換言すれば、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して大きくなる。すなわち、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比してジュール熱の発生量、換言すれば、発熱量が大きくなる。従って、F1<F4であるときには、図6に示すように、金属板42a、44aの接触面に生成する加熱領域60と、金属板44a、46aの接触面に生成する加熱領域62とが略同等の大きさに成長する。
【0052】
ここで、金属板46aには補助電極34a、34bも当接しており、この補助電極34a、34bの極性は負である。従って、上チップ22からは、上記した電流i1と同時に、補助電極34a、34bに向かう分岐電流i2が出発する。
【0053】
このように、本実施の形態においては、金属板42a、44aには流れず金属板46aにのみ流れる分岐電流i2が発生する。この結果、上チップ22及び下チップ20のみを使用する一般的なスポット溶接に比して金属板46aの内部を通過する電流値が大きくなる。
【0054】
従って、この場合、図7に示すように、金属板46aの内部に、前記加熱領域62とは別の加熱領域64が形成される。加熱領域64は、時間の経過とともに拡大し、図12に示すように、加熱領域62と一体化する。金属板44a、46aの接触面には、このようにして一体化した加熱領域62、64の双方から熱が伝達される。なお、以降の図面においては、上チップ22と補助電極34a、34bとが電気的に接続されて分岐電流i2が発生しているときには補助電極34a、34bの極性を図中に示し、逆に、上チップ22と補助電極34a、34bが電気的に絶縁された状態にあるために分岐電流i2が発生していないときには補助電極34a、34bの極性を示さないものとする。
【0055】
金属板42a、44aの接触面、金属板44a、46aの接触面は、前記加熱領域60、62、64によって加熱され、十分に温度上昇して溶融し始める。これにより形成された溶融部が冷却固化する結果、金属板42a、44aの間、金属板44a、46aの間にナゲット70、72がそれぞれ形成される。なお、図7においては、理解を容易にするためにナゲット70、72として示しているが、通電中は、液相である溶融部として存在する。以降の図面も同様である。
【0056】
補助電極34a、34bによる加圧力F2、F3を大きくするほど金属板44a、46a間のナゲット72を大きくすることができるが、加圧力F2、F3がある程度大きくなると、ナゲット72の大きさが飽和する傾向がある。換言すれば、加圧力F2、F3を過度に大きくしても、ナゲット72を一定の大きさ以上に成長させることは困難である。また、加圧力F2、F3を過度に大きくすると、加圧力F1、F2、F3の総和で加圧力F4と均衡させる関係上、加圧力F1を過度に小さくする必要がある。このため、金属板42a、44a間のナゲット70が小さくなる。
【0057】
従って、上チップ22による加圧力F1と、補助電極34a、34bによる加圧力F2、F3との差は、ナゲット70、72を可及的に大きくし得るように設定することが好ましい。
【0058】
また、分岐電流i2の割合を大きくするほど加熱領域64を大きくすることが可能であるが、分岐電流i2の割合を過度に大きくした場合、電流i1の電流値が小さくなるので、加熱領域60、62が小さくなる。このため、ナゲット72の大きさが飽和する一方、ナゲット70が小さくなる傾向がある。従って、分岐電流i2の割合は、ナゲット70が十分に成長する程度の電流i1が流れるように設定することが好ましい。
【0059】
なお、電流i1と分岐電流i2の割合は、例えば、上記したように上チップ22と補助電極34a、34bとの離間距離Z1、Z2(図3参照)を変更することで調節することが可能である。電流i1と分岐電流i2の好適な割合は、例えば、70:30である。
【0060】
溶融部が形成される間、金属板46aは、補助電極34a、34bで金属板44a側に押圧されている。この押圧により、低剛性の金属板46aが通電(加熱)に伴って反ること、すなわち、金属板44aから離間することが抑制される。このため、軟化した溶融部が金属板46aと金属板44aとの離間箇所からスパッタとして飛散することを防止することができる。
【0061】
溶融部、ひいてはナゲット72は、通電が継続される限り、時間の経過とともに成長する。従って、通電を所定の時間継続することにより、ナゲット72を十分に成長させることができる。
【0062】
この場合、金属板42a、44aに流れる電流i1の電流値は、一般的なスポット溶接に比して小さい。このため、金属板44a、46aの間の溶融部(ナゲット72)が大きく成長している間に金属板42a、44aの発熱量が過度に大きくなることが回避される。従って、スパッタが発生する懸念が払拭される。
【0063】
この間、電流i1によって金属板42a、44aの間にもナゲット70となる溶融部が形成される。分岐電流i2が継続して流れるようにすると、分岐電流i2を停止した場合に比して電流i1の全通電量が少なくなるので、加熱領域60、ひいてはナゲット70が若干小さくなる傾向がある。
【0064】
従って、ナゲット70をさらに成長させる場合には、図8に示すように、補助電極34a、34bのみを金属板46aから離間させて上チップ22から下チップ20への通電を続行することが好ましい。補助電極34a、34bが金属板46aから離間することに伴って電流i1の電流値が大きくなるので、通電終了までの電流i1の全通電量が多くなるからである。
【0065】
補助電極34a、34bのみを金属板46aから離間させるには、アクチュエータ30a、30bを上昇するように付勢し、これにより補助電極34a、34bを下チップ20から離間する方向(矢印Y2方向)に変位させればよい。
【0066】
この離間に伴い、分岐電流i2が消失する。このため、金属板46aには、上チップ22から下チップ20へ向かう電流i1のみが流れるようになる。これに伴って、加熱領域64(図7参照)が消失する。
【0067】
その一方で、金属板42a、44aにおいては、通常のスポット溶接時と同様の状態が形成される。すなわち、厚みが大きい金属板42a、44aではジュール熱による発熱量が増加し、その結果、加熱領域60が広がるとともにその温度が一層上昇する。金属板42a、44aの接触面は、この温度上昇した加熱領域60に加熱され、これにより、該接触面近傍の温度が十分に上昇して溶融し、溶融部(ナゲット70)の成長が促進される。
【0068】
以降は、溶融部(ナゲット70)が十分に成長するまで、例えば、図9に示すように、ナゲット72となる溶融部と一体化するまで通電を継続すればよい。通電継続時間に対するナゲット70の成長の度合いは、テストピース等を用いたスポット溶接試験で予め確認しておけばよい。
【0069】
ここで、金属板42a、44aの接触面は、金属板44a、46a同士の間にナゲット72を成長させる際に電流i1が通過することに伴って形成された加熱領域60によって予め加熱されている。このため、金属板42a、44a同士は、ナゲット70となる溶融部が成長する前になじみが向上している。従って、スパッタが発生し難い。
【0070】
以上のように、本実施の形態によれば、金属板44a、46aの間のナゲット72を成長させる際、金属板42a、44aの間のナゲット70を成長させる際の双方でスパッタが発生することを回避することができる。
【0071】
所定時間が経過して前記溶融部が十分成長した後、通電を停止するとともに、図9に示すように、変位軸26を上昇させることで上チップ22を金属板46aから離間させる。又は、変位軸26を上昇させて上チップ22を金属板46aから離間させることによって、上チップ22と下チップ20を電気的に絶縁するようにしてもよい。
【0072】
なお、スポット溶接の開始から終了するに至るまでの上記した動作は全て、ガンコントローラ52の制御作用下に営まれる。
【0073】
このようにして通電が停止されることに伴い、金属板42a、44aの発熱も終了する。時間の経過とともに溶融部が冷却固化し、これにより、ナゲット70を介して金属板42a、44aが互いに接合される。
【0074】
以上のようにして、積層体40aを構成する金属板42a、44a同士、金属板44a、46a同士が接合され、製品としての接合品が得られるに至る。
【0075】
この接合品においては、金属板42a、44a同士の接合強度と同様に、金属板44a、46a同士の接合強度も優れる。上記したように金属板46aに分岐電流i2が流されたことに伴って、金属板44a、46aの間のナゲット70が十分に成長しているからである。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、スパッタが生成することを回避しつつ、金属板44a、46aの間に、金属板42a、44aの間のナゲット70と略同程度の大きさのナゲット72を成長させることができ、これにより、金属板44a、46a同士の接合強度が優れた成形品を得ることができる。
【0077】
しかも、スポット溶接装置10は、既存のスポット溶接装置における変位軸26に対し、アクチュエータ30a、30bが設けられたブラケット28を装着することで構成することが可能である。従って、補助電極34a、34bを設けることに伴ってスポット溶接装置の構成が複雑化したり、大型化したりすることを回避することができる。このため、溶接対象が複雑な形状のものであったとしても、補助電極34a、34b及び上チップ22を溶接対象に干渉させることなく所定の溶接箇所に配置させることができる。
【0078】
なお、溶接対象は積層体40aに特に限定されるものではなく、金属板の個数、素材、厚みが種々相違する様々な積層体を溶接することが可能である。以下、この点につき具体例を挙げて説明する。
【0079】
図10に示す積層体40bは、厚みが最小である金属板44bを、金属板42b、46bで挟むようにして形成される。例えば、金属板42bは、ハイテン鋼からなる高抵抗ワークであり、金属板44b、46bは、軟鋼からなる低抵抗ワークである。
【0080】
上チップ22と下チップ20のみで積層体40bに対してスポット溶接を行う場合、金属板42b、44bの接触面が優先的に溶融する。金属板42bが高抵抗ワークであるために、金属板42b、44bの接触抵抗が金属板44b、46bの接触抵抗よりも大きいからである。従って、金属板44b、46bの接触面にナゲットを十分に成長させるべく上チップ22から下チップ20への通電を継続すると、金属板42b、44bの接触面からスパッタが発生する懸念がある。
【0081】
これに対し、補助電極34a、34bを用いる第2実施形態によれば、図10に示すように、金属板42b、44bの接触面、及び金属板44b、46bの接触面の双方に加熱領域74、76が形成される。上記の積層体40aにおける場合と同様に、分岐電流i2が金属板46b内を流れることにより、金属板44b、46bの接触面が十分に加熱されるからである。
【0082】
これにより、図11に示すナゲット78、80が形成される。分岐電流i2を消失させた後に電流i1を継続して流すことにより、例えば、図12に示すように、金属板42b、44bの接触面、及び金属板44b、46bの接触面の双方に跨るようにして十分に成長したナゲット82を形成することができる。
【0083】
積層体40a、40bに対するスポット溶接に関する以上の説明から諒解されるように、補助電極34a、34bを用いることにより、加熱領域、ひいてはナゲットを、該補助電極34a、34bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
【0084】
なお、金属板42bがハイテン鋼、金属板44b、46bが軟鋼である組み合わせに特に限定されるものではないことは勿論である。
【0085】
次に、図13に、ハイテン鋼からなる金属板42cに対してハイテン鋼からなる金属板44cが積層された積層体40cに対し、補助電極34a、34bを用いてスポット溶接を行う場合を示す。補助電極34a、34bを用いない場合、図22及び図23に示すように、金属板42c、44c(高抵抗ワーク1、2)の接触面において、溶融部6が比較的短時間で大きく成長する。このため、スパッタが発生し易くなる。
【0086】
これに対し、補助電極34a、34bを用いる本実施の形態によれば、図13に示すように、金属板42c、44cの接触面に加熱領域84が形成されるとともに、金属板42c、44cの接触面よりも上方、換言すれば、金属板44cにおける補助電極34a、34bに近接する側に加熱領域86が形成される。分岐電流i2が金属板44c内を流れることにより、該金属板44c内が十分に加熱されるからである。すなわち、この場合においても、加熱領域、ひいてはナゲット(図14参照)を、該補助電極34a、34bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
【0087】
そして、その結果、金属板42c、44cの接触面が軟化してシール性が向上する。従って、図14に示すように十分に成長したナゲット88を形成するべく電流i1を継続して流しても、スパッタが発生し難くなる。
【0088】
次に、図15に示す積層体40dに対してスポット溶接を行う場合につき説明する。なお、積層体40dは、軟鋼からなり低抵抗な金属板42d、ハイテン鋼からなり高抵抗な金属板44d、46d、軟鋼からなり低抵抗な金属板90dを下方からこの順序で積層して構成される。また、金属板42d、90dの厚みは、金属板44d、46dに比して小さく設定されている。
【0089】
この場合、上チップ22側に補助電極34a、34bを設けるとともに、下チップ20側に補助電極34c、34dを設ける。これら補助電極34c、34dは、電源50の正極に対して電気的に接続されており、従って、その極性は下チップ20と逆である。なお、このような補助電極34c、34dを得るためには、図16に参考として示すように、上チップ22に設けたブラケット28及びアクチュエータ30a、30bと同様に構成されたブラケット92及びアクチュエータ30c、30dを下チップ20側に設ける構成を採用すればよい。この場合、下チップ20にブラケット28を装着すればよい。
【0090】
そして、先ず、図15に示すように、上チップ22と下チップ20で積層体40dを挟持すると同時に、又はその前後に補助電極34a、34bのみを金属板90dに当接させる。その後、通電を開始し、上チップ22から下チップ20に向かう電流i1と、上チップ22から補助電極34a、34bに向かう分岐電流i2とを流す。これにより、上記と同様に、金属板44d、46dの接触面と、金属板46d、90dの接触面とにナゲット94、96がそれぞれ形成される。
【0091】
次に、図17に示すように、アクチュエータ30a、30bの作用下に補助電極34a、34bを上昇させ、これにより上チップ22との電気的接続を切断することで分岐電流i2を消失させると同時に、又はその前後に補助電極34c、34dを金属板42dに当接させる。これにより、最下の金属板42dの内部に、補助電極34c、34dから下チップ20に向かう分岐電流i3が流れる。
【0092】
分岐電流i2の消失に伴って、ナゲット96の成長が停止する。その一方で、上チップ22から下チップ20に向かう電流i1が継続して流れているので、金属板44d、46dの接触面におけるナゲット96が成長するとともに、分岐電流i3によって、金属板42d、44dの接触面にナゲット98が新たに形成される。
【0093】
次に、図18に示すように、補助電極34c、34dを金属板42dから離間させて分岐電流i3を消失させ、これによりナゲット98の成長を停止させる。この後も電流i1を継続して流すことにより、金属板44d、46dの接触面におけるナゲット96のみを成長させて、例えば、ナゲット94、98と一体化することもできる。
【0094】
また、5枚以上の金属板で積層体を構成するようにしてもよいことは勿論である。
【0095】
以上とは別に、図19に示すように、金属板42aに当接した下チップ20から、金属板46aに当接した上チップ22に向かう電流を流すようにしてもよい。この場合にも、金属板46aに当接した補助電極34a、34bの極性を上チップ22と逆にする。すなわち、下チップ20及び補助電極34a、34bを電源50の正極に電気的に接続する一方、上チップ22を電源50の負極に電気的に接続する。これにより、下チップ20から上チップ22に向かう電流i1と、補助電極34a、34bから上チップ22に向かう分岐電流i2とが発生する。
【0096】
また、図16に示すように、正の極性の下チップ20を第1溶接チップ、負の極性の上チップ22を第2溶接チップとするとともに、負の極性の補助電極34c、34dを下チップ20側に設けるようにしてもよい。
【0097】
さらに、図20に示すように、分岐電流i2を、上チップ22が接触した金属板46aのみならず、該金属板46aの直下に位置する金属板44aにも流れるようにしてもよい。
【0098】
さらにまた、アクチュエータ30a、30bを、ブラケット28ではなく、図21に示すように、ガン本体16に設けるようにしてもよい。
【0099】
いずれの場合においても、補助電極は、上記した2本の長尺棒状の補助電極34a、34bに特に限定されるものではない。例えば、1本又は3本以上の長尺棒状体であってもよい。3本以上を用いる場合は、上記の2本の場合と同様に、複数本の補助電極を最外の金属板に対して同時に当接又は離間させるようにしてもよい。また、補助電極は、下チップ20又は上チップ22を囲繞する円環形状体のものであってもよい。
【0100】
なお、上記した実施の形態においては、上チップ22(又は下チップ20)から補助電極34a、34bに向かう分岐電流i2を流すようにしているが、補助電極34a、34bと電源50とを電気的に絶縁し、分岐電流i2を発生させることなくスポット溶接を行うようにしてもよい。この場合、補助電極34a、34bは、単なる加圧用部材として機能する。
【0101】
この場合にも、上チップ22から下チップ20に至るまでの加圧力が図3に示すように分布するので、補助電極34a、34bによる押圧を行わない場合(図4参照)に比して、金属板42aと金属板44aとの接触面積が大きくなる。このため、金属板42a、44aの接触面における接触抵抗及び電流密度が大きくなるので、ジュール熱の発生量、換言すれば、発熱量が大きくなる。従って、金属板42a、44aの接触面において、十分な大きさの加熱領域、ひいてはナゲットが成長する。
【0102】
さらに、上記した実施の形態では、C型の溶接ガンを例示して説明したが、溶接ガンはいわゆるX型のものであってもよい。この場合、下チップ20及び上チップ22を、開閉自在な1組のチャック爪の各々に設け、該1組のチャック爪を開動作又は閉動作することによって、下チップ20と上チップ22とを互いに離間又は接近させればよい。
【符号の説明】
【0103】
3、8、40a〜40d…積層体 6、9…溶融部
10…スポット溶接装置 14…溶接ガン
16…ガン本体 18…固定アーム
20…下チップ 22…上チップ
26…変位軸 30a〜30d…アクチュエータ
34a〜34d…補助電極 36…トランス
42a〜42d、44a〜44d、46a〜46d、90d…金属板
50…電源 52…ガンコントローラ
60、62、64、74、76、84、86…加熱領域
70、72、78、80、82、88、94、96、98…ナゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のワークを積層することで形成した積層体に対してスポット溶接を行うためのスポット溶接装置であって、
前記積層体を挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップと、
前記第1溶接チップ又は前記第2溶接チップの少なくともいずれかを変位させるための第1変位機構と、
前記積層体の最外に位置する最外ワークにおける前記第1溶接チップが当接した部位とは別の部位に当接し、前記積層体を前記最外ワーク側から加圧するための加圧部材と、
前記加圧部材を前記第1溶接チップ又は前記第2溶接チップとは別個に変位させるための第2変位機構と、
前記加圧部材に加圧力を発生させるための加圧機構と、
を有することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のスポット溶接装置において、前記加圧部材が、前記第1溶接チップとは逆の極性である補助電極であり、前記第1溶接チップ及び前記第2溶接チップの間で通電を行う際、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流のいずれかを生じさせることを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項3】
請求項2記載のスポット溶接装置において、前記第2溶接チップ側に設けられて該第2溶接チップとは逆の極性である別の補助電極をさらに有し、前記第1溶接チップから前記補助電極に向かう分岐電流、又は、前記補助電極から前記第1溶接チップに向かう分岐電流のいずれかを消失させた後、前記別の補助電極から前記第2溶接チップに向かう分岐電流、又は、前記第2溶接チップから前記別の補助電極に向かう分岐電流のいずれかを生じさせることを特徴とするスポット溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−76125(P2012−76125A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224303(P2010−224303)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】