説明

スミス−マゲニス症候群の処置を目的とする医薬を得るためのアゴメラチンの使用

【課題】染色体の微少欠損による希有な遺伝的障害であるスミス−マゲニス(Smith-Magenis)症候群の処置を目的とする薬学的組成物の提供。
【解決手段】アゴメラチン、即ち、下式で示されるN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩の一つを、それ自体のみ、または薬学的に許容され得る一つもしくはそれ以上の賦形剤との組合せとして含む薬学的組成物。特に、アゴメラチンの結晶系II型を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で示されるアゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩の使用であって、スミス−マゲニス(Smith-Magenis)症候群の処置を目的とする医薬を得るための使用に関する。
【0004】
アゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドは、一方では、メラトニン作用系レセプターのアゴニストであり、他方では、5−HT2Cレセプターのアンタゴニストであるという、二重の特徴を有する。これらの特性のため、中枢神経系、より特別には重度うつ病、季節性情動障害、睡眠障害、心血管病態、消化系病態、時差ぼけによる不眠および疲労、食欲障害、ならびに肥満症の処置において活性である。
【0005】
アゴメラチン、その製造、および治療におけるその使用は、欧州特許出願公開第0 447 285号および第1 564 202号公報に記載されている。
【0006】
本出願人は、ここに、アゴメラチンまたはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩が、スミス−マゲニス症候群の処置における使用を可能とする価値ある特性を有することを見出した。
【0007】
Ann Smithらが1982年に記載した[Smith, A.C.M. et al., 1986, Am. J. Med. Genet., 24, 393-414]スミス−マゲニス症候群(SMS)は、染色体の微少欠損による希有な遺伝的障害である。この特に重篤な障害は、小児に、異形性症候群、特に言語獲得に関連する、知恵遅れ、注意不足を伴う活動亢進、ならびに重篤な行動および睡眠障害に付随する自己攻撃を引き起こす[Smith, A.C.M. et al., 1998, Am. J. Med. Genet., 81, 186-191]。
【0008】
これらの要素には、この障害に直面する、ハンディキャップを受け入れなければならないばかりか、それに加えて極端な生活条件(絶えず乱される夜間、絶え間ない用心の増大、小児の制御されるべき攻撃)に曝される小児の一家の苦悩を付け加えることが必要であって、これらは、ほとんどの場合、家族単位の全面的崩壊へと導く。
【0009】
発生率は、25,000の生存出産中1症例である。診断は、臨床的徴候に基づき、高精度核型分析による第17染色体からの欠失の立証によって確認される。最近、メラトニンの逆転した概日リズムが立証され、睡眠障害および行動傷害の原因である充分な可能性がある[De Leersnyder, H., 2006, Trends in Endocrinology and Metabolism, 17(7), 29-298]。
【0010】
SMSに対する真に満足すべき、かつ認証された処置は存在しないものの、現在最も用いられている薬物は、行動障害を制御するための神経弛緩剤、睡眠剤、精神刺激剤、抗うつ剤、抗精神病剤およびカルバマゼピンである。これらの処置は、胃腸障害、体重増加、異常脂質血症、性機能不全、遅発性ジスキネジーおよび心血管性衝撃のような、数多くの二次的効果の原因となっている[Richelson, E. et al., 1999, J. Clin. Psychiatry, 60(10), 5-14;Trenton, A.J. et al., 2003, CNS Drugs, 17(5), 307-324;Freedman, R. et al., 2003, New Engl. J. Med., 343, 1738-1749]。その上、これらの処置は、重大な睡眠障害およびある種の行動障害(その衝撃は、小児とその家族に特に破壊的である)の原因である、メラトニン分泌の脱同期化に関しては、いかなる活性もない。
【0011】
現在、メラトニン分泌の脱同期化を処置するための大方針は、外来性メラトニンの日没後投与に付随する、メラトニンの内因性分泌を遮断するためのβ−アドレナリン作用性アンタゴニストの午前投与である[De Leersnyder, H., et al., 2003, J. Med. Genet., 40, 74-78]。しかし、メラトニンは、行動障害に関しては、活性が皆無である。したがって、小児のこの孤立した病態に対する新規な処置を利用可能にすることには、非常な関心が持たれる。特に、重大な睡眠障害と行動障害との同時緩和を可能とする処置を完成することは、小児およびその一家がより穏当な生活の質を取り戻すのを許すと思われる。
【0012】
本出願人は、ここに、アゴメラチンが、その薬理学的特徴に基づいて、この適応症に特に適切であることを見出した。実際、アゴメラチンは、行動障害と、乱れた概日リズムの再同期化とに同時に作用するのを可能にする。その上、アゴメラチンは、薬物相互作用が皆無であり、最適の受容性状況を有する。すなわち、4,000人を上回る患者が、実施された臨床試験の途上でアゴメラチンに接触しており、優れた臨床的および生物学的認容性を観察することが可能であった。
【0013】
上記により、本発明は、アゴメラチン、ならびにその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸または塩基との付加塩の使用であって、スミス−マゲニス症候群の処置を目的とする薬学的組成物を得るための使用に関する。
【0014】
本発明は、特に、欧州特許出願公開第1 564 202号公報に記載された、結晶形IIとして得られたアゴメラチンの使用であって、スミス−マゲニス症候群の処置を目的とする薬学的組成物を得るための使用に関する。
【0015】
この薬学的組成物は、経口、非経口、経皮、経鼻、直腸または経舌経路による投与に適切な形態で、また特に注射可能製剤、錠剤、舌下錠、トローチ剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、トローチ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏、経皮ゲル等々の形態で提供されよう。
【0016】
アゴメラチンに加え、本発明による薬学的組成物は、希釈剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色剤、甘味料等々から選ばれる、1種類またはそれ以上の賦形剤もしくは担体を含む。
【0017】
非限定的な例を目的として、
・希釈剤としては、乳糖、デキストロース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセリンが、
・潤滑剤としては、シリカ、タルク、ステアリン酸ならびにそのマグネシウムおよびカルシウム塩、ポリエチレングリコールが、
・結合剤としては、ケイ酸アルミニウムおよびマグネシウム、澱粉、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびポリビニルピロリドンが、
・崩壊剤としては、寒天、アルギン酸およびそのナトリウム塩、発泡性混合物が
列挙され得る。
【0018】
有用な投与量は、患者の年齢および体重、投与経路、障害の性質、ならびに付随する何らかの処置に応じて変動し、24時間あたりアゴメラチン1〜50mgに渉る。
【0019】
好ましくは、アゴメラチンの日次用量は、1日25mgであろうが、1日50mgまで増量できる可能性もある。
【0020】
薬学的組成物:
活性成分25mgをそれぞれ含有する1,000錠を製造するための処方:
N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド...25g
乳糖一水和物...........................62g
ステアリン酸マグネシウム.....................1.3g
ポビドン...............................9g
無水コロイド状シリカ.......................0.3g
グリコール酸ナトリウムセルロース..................30g
ステアリン酸...........................2.6g
【0021】
臨床的研究
スミス−マゲニス症候群の小児で、探索フェーズIIの研究を実施した。1〜5mg/kgのアゴメラチンを、10mg/kgのアセブトロール、すなわちβ1−アドレナリン作用性アンタゴニストと同時投与した。主な分析基準は、処置の30日後、ならびに処置の3、5および15ヶ月後の連続30日からなる5期間に渉って記録された挙動記録法のパラメーターと、行動障害を査定するのを可能とするアッヘンバッハ(Achenbach)アンケートとであった。
【0022】
得られた結果は、アゴメラチンによって、夜間覚醒の頻度および持続時間の減少(日中のうたた寝の持続時間の減少を伴う)があったことを示している。アゴメラチンを投与されたこれらの小児に関する主要な臨床的改善が、この病態における専門医によって認められた。すなわち、平穏で深い睡眠、破られることのより少ない夜間、およびより遅い朝の目覚めが初めて記録された。行動に関連する真の進歩も、観察された。これらの主要な効果は、家族にも到達し、この処置の家族生活に対する非常に肯定的な結果の後、温情に基づく処置の継続を要望したのであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゴメラチンもしくはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩のうち一つの使用であって、スミス−マゲニス症候群の処置を目的とする医薬を得るための使用。
【請求項2】
アゴメラチンを、結晶形IIとして得ることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
アゴメラチン、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩の一つを、それ自体のみ、または薬学的に許容され得る一つもしくはそれ以上の賦形剤との組合せとして含む薬学的組成物であって、スミス−マゲニス症候群の処置を目的とする医薬の製造に用いるための薬学的組成物。
【請求項4】
アゴメラチンを、結晶形IIとして得ることを特徴とする、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
スミス−マゲニス症候群の処置に用いるための、アゴメラチンもしくはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、またはその水和物、結晶形、および薬学的に許容され得る酸もしくは塩基との付加塩の一つ。
【請求項6】
スミス−マゲニス症候群の処置に用いるためのアゴメラチンの結晶形II。

【公開番号】特開2008−127395(P2008−127395A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−302457(P2007−302457)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】