説明

スラグのCa2+溶出量試験方法及びスラグの評価方法

【課題】 スラグから溶出するCa2+の溶出量を正確に且つ迅速に測定するためのCa2+溶出量試験方法を提供すると共に、該Ca2+溶出量試験方法により得られるCa2+の溶出量に基づいて、スラグの海洋土木建築材料としての適否を評価する評価方法を提供する。
【解決手段】 本発明のCa2+溶出量試験方法は、スラグの質量に対して1000倍以上の質量比の純水にスラグを浸漬させ、スラグを浸漬させた以降のpHを測定し、測定したpH値に基づいてスラグからのCa2+の溶出量を求めることを特徴とし、また、本発明のスラグの評価方法は、スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、上記の本発明のCa2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉スラグや各種製錬スラグなどのスラグから溶出するCa2+の溶出量を測定するための溶出量試験方法、並びに、この溶出量試験方法による試験結果を用いたスラグの評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の製錬工程及び精錬工程においては、高純度で上質な金属を得るために種々のスラグが発生し、製鉄所においても、高炉スラグ、転炉スラグ、取鍋スラグ、予備処理スラグなどの組成の異なる種々のスラグが発生する。これらのスラグは、路盤材、土壌改良材、地盤改良材、セメントやコンクリートの骨材、石材のみならず、海洋における、潜堤材、裏ごめ材、裏埋め材、盛土材、サンドコンパクション、SCPサンドマット、浅場造成材などの海洋土木建築材料として利用されている。
【0003】
これらのスラグのうちで、遊離CaO(「遊離石灰」或いは「フリーライム」ともいう)を含有する、転炉スラグ、取鍋スラグ、溶銑予備処理スラグなどは、沿岸海域で利用したときに、スラグ中の遊離CaOが海水に溶出し、海水のpHが上昇することによって、海水の白濁現象が発生する場合もあることが知られている。この白濁現象は、以下のメカニズムで発生する。つまり、遊離CaOが海水に溶出してCa(OH)2が形成され、これによって海水のpHが上昇し、pHの上昇に伴って海水に溶解していたMg2+がMg(OH)2となって析出し、この析出物で海水が白濁して白濁現象が発生する。また、海水中のCa2+もpHの上昇に伴って海水に含まれる炭酸イオン(CO32-)と反応して、CaCO3を析出し、これも白濁の原因となる。尚、製鉄所で発生するスラグのうちで、高炉スラグを除くスラグは製鋼精錬工程で発生するので、まとめて「製鋼スラグ」と呼ばれており、この製鋼スラグには、含有量はそれぞれ異なるものの、遊離CaOが含有されている。
【0004】
白濁化の原因となる、Mg(OH)2及びCaCO3自体は無害であるが、工事期間中の白濁現象は、外観上の問題から港湾工事を進める上での障害となることがある。また、白濁の発生は、遊離CaOの溶解に起因する海水のpH上昇を示唆しており、環境上、留意しなければならない。
【0005】
ところで、最近の製鋼プロセスにおいては、脱珪処理、脱硫処理、脱燐処理及び脱炭処理の各工程の効率的な分割化が進み、多種多様な製鋼スラグが発生しており、その形状、組織は多岐にわたり、製鋼スラグにおける遊離CaOの溶解挙動も複雑となっている。
【0006】
そこで、製鋼スラグを沿岸海域で利用するにあたり、このような種々の製鋼スラグのなかから、白濁現象を発生しないスラグを選定するための試験方法が、特許文献1に提案されている。特許文献1によれば、「遊離CaO分が0〜10.0質量%、硫黄分が0〜1.0質量%の範囲である製鋼スラグであって、2倍の質量比の海水に浸漬させて3時間経過した時点における海水のpHが10.5以下となる製鋼スラグ」であれば、白濁現象は防止されるとしている。つまり、製鋼スラグの2倍の質量比の海水に浸漬させて、3時間経過した時点における海水のpHが10.5以下であるならば、当該製鋼スラグからのCa2+の溶出量は少なく、沿岸海域に敷設した場合の白濁が防止できるというものである。
【特許文献1】特開2003−26456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案された試験方法には、以下の問題点がある。
【0008】
即ち、特許文献1では、溶媒として海水を用いているために、溶出したCa2+が海水に含まれる炭酸イオンと反応してCaCO3を析出させてしまい、この析出物はpHを上昇させる機能を有していないことから、海水のpH変化とスラグからのCa2+の溶出量とが比例せず、海水のpH変化の観察からは、スラグからのCa2+の溶出量を正確に測定することはできない。また、析出したCaCO3がスラグの表面を覆い、スラグからのCa2+の溶出を妨げる役割を担うこともあり、より一層スラグからのCa2+の溶出量を正確に測定することが困難となる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、製鋼スラグや各種製錬スラグなどのスラグから溶出するCa2+の溶出量を正確に且つ迅速に測定するためのCa2+溶出量試験方法を提供するとともに、このCa2+溶出量試験方法により得られるCa2+の溶出量に基づいて、スラグの海洋土木建築材料としての適否を評価する評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための第1の発明に係るスラグのCa2+溶出量試験方法は、スラグの質量に対して1000倍以上の質量比の純水を溶媒として該溶媒にスラグを浸漬させ、スラグを浸漬させた以降の前記溶媒のpHを測定し、前記溶媒のpH測定値に基づいてスラグからのCa2+の溶出量を求めることを特徴とするものである。
【0011】
第2の発明に係るスラグの評価方法は、スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、第1の発明に記載のスラグのCa2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とするものである。
【0012】
第3の発明に係るスラグの評価方法は、スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、第1の発明に記載のスラグのCa2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定め、当該溶出量が目標値よりも大きいときには、計算上で使用するスラグの粒度分布を変更し、前記粒度別のCa2+の溶出量と、変更したスラグの粒度分布とを用いて、粒度分布を変更したスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るCa2+溶出量試験方法によれば、溶媒として純水を用いているので、溶出したCa2+はCaCO3などの析出物を形成せず、溶媒のpH変化と溶出するCa2+とが1対1の相関関係となり、溶媒のpH変化から正確にCa2+の溶出量を測定することができ、また、溶媒である純水の質量をスラグの質量の1000倍以上とするので、溶媒のpH上昇が抑えられ、正確にCa2+の溶出量を測定することができる。また更に、溶媒のpHを測定するという比較的簡単な測定からCa2+の溶出量を測定することができ、従って、迅速にCa2+の溶出量を把握することができる。
【0014】
また、本発明に係るスラグの評価方法によれば、スラグの粒度別のCa2+の溶出量を求めるので、求めた粒度別のCa2+の溶出量とスラグの粒度分布とから、スラグ全体のCa2+溶出量が把握でき、海域用として利用する際の適否を評価することができる。そして、把握したCa2+溶出量が目標値よりも高い場合、つまり、海域用としての利用が不適と評価された場合には、求めた粒度別のCa2+の溶出量に基づき、粒度分布を変更させたときのスラグからのCa2+溶出量を求めることが可能であり、従って、スラグからのCa2+溶出量が目標値以下となるようにスラグの粒度分布を変更させることによって、Ca2+を溶出するスラグを海洋土木建築材料として利用する際の白濁現象を、未然に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明者等は、遊離CaOを含有し、Ca2+を溶出する製鋼スラグなどのスラグの海域利用を、安全且つ拡大させることを目的とし、Ca2+を溶出するスラグを海水に敷設した際に、海水のpHがどのぐらい変化し、白濁が起こるかを予測するために、スラグ粒子におけるアルカリ溶出の測定を検討した。
【0017】
現状、スラグからの溶出物のうちでアルカリに関与する因子は、遊離CaOの溶解のみと考えられるため、Ca2+溶出量の測定方法の開発を行った。ここで、Ca2+の溶出量の測定にあたり、溶媒のpH変化からCa2+の溶出濃度を換算することを目的とした。
【0018】
スラグからのCa2+の溶出は、下記の(1)式で表される。
CaO+H2O → Ca(OH) → Ca2++2OH-……(1)
つまり、スラグ中のCaO(酸化カルシウム)が水分と反応してCa(OH)2(水酸化カルシウム)に変化し、このCa(OH)2が水及び海水に溶解してCa2+(カルシウムイオン)と水酸化物イオン(OH-)を生成することで、アルカリ性となる。
【0019】
溶媒のpH測定値からCa2+溶出濃度を換算するためには、他の因子の影響を排除しなければならず、従って、海水は溶媒として使用できない。その理由は、海水にはCa2+の他にMg2+が含まれており、pHが上昇して高くなるとMg(OH)2が生成するために、海水のpHが、pH9.8付近から見掛け上変化しなくなる。そのために、海水では、pH測定値からCa2+溶出量を換算することができない。また、溶媒として純水を使用しても、Ca(OH)2はpH12.5近傍で飽和状態となることから、測定中に溶媒のpHが12.5以上にならないようにするために、溶媒に対してスラグの添加量を少なくしなければならない。
【0020】
以上のことから、溶媒には、純水として蒸留後イオン交換したイオン交換水を使用し、スラグと溶媒との質量比を1:1000として、測定を行なった。
【0021】
予め破砕された製鋼スラグを105℃で2時間乾燥して、付着水分を除去した後、このスラグから、0.075mm越え0.15mm以下、0.15mm超え0.425mm以下、0.6mm超え1.18mm以下、2.0mm超え4.75mm以下の4種類の粒度範囲のスラグを篩分器にて回収し、この4種類の粒度別のスラグ毎に測定を行なった。また、篩分器にて回収する際に、粒度分布も測定した。また更に、4種類に分別された粒度別のスラグ毎に化学成分を分析して、成分値のばらつきは分析の誤差範囲内であり、粒度による成分の変化はないことを確認している。
【0022】
粒度別に分別したそれぞれのスラグから1gのスラグを採取し、このスラグを、ビーカーに収容された1000mLの純水に浸漬させ、回転翼攪拌器にて200rpmの回転速度で攪拌しつつ、pH測定計を用いて溶媒のpHを測定した。
【0023】
各粒度におけるpH測定結果を図1に示す。図1に示すように、スラグ粒度の違いによって、pHの変化に差があることが確認された。つまり、スラグ粒度が細かいほど、pHの変化が大きく、且つ、最終的なpH値が高くなることが確認できた。スラグの化学成分組成は、前述したように同一であることから、pH変化の違いは粒度に起因するものであることが分かった。
【0024】
図1に示す溶媒のpH測定値からCa2+濃度を求めるにあたっては、以下に示すCa(OH)2の塩基酸解離定数を用いたイオン平衡計算から求めた。つまり、下記の(2)式〜(5)式に示す塩基酸解離定数を解き、[OH-]の三次関数から全Ca濃度(Cb)を求めるという方法である。
【0025】
Kb1=[OH-]×[Ca(OH)+]/[Ca(OH)2]=3.98×10-3…(2)
Kb2=[OH-]×[Ca2+]/[Ca(OH)+]=3.98×10-2…(3)
Cb(全Ca濃度)=[Ca(OH)2]+[Ca(OH)+]+[Ca2+] …(4)
[OH-]=[H+]+[Ca(OH)+]+2[Ca2+] …(5)
これらの(2)式〜(5)式を解くことによって、下記の(6)式が得られ、この(6)式に、各pHでの[OH-]の濃度を代入することにより、Ca2+の濃度を得ることができる。
【0026】
Cb=[OH-]3+3.98×10-3[OH-]2+1.58×10-4[OH-]/(3.98×10-3[OH-]+2×1.58×10-4) …(6)
表1に(6)式を用いてpH測定値からCa2+濃度を計算した結果を示す。表1に示すように、溶媒のpHと溶媒中のCa2+濃度とは、1対1の関係であることが分かる。尚、一部の溶出試験では、溶媒中のCa2+濃度をICP発光分析によって測定しており、ICP発光分析の結果と表1に示す結果とが一致することを確認している。
【0027】
【表1】

【0028】
このようにして得られる溶媒のpHと溶媒中のCa2+濃度との関係を用いて、図1に示すpH測定値をCa2+の濃度に換算すると、図2に示すCa2+濃度と経過時間との関係が得られる。尚、図2では、粒度が2.0mm超え4.75mm以下のスラグのデータを省略しているが、粒度が2.0mm超え4.75mm以下のスラグのデータは、粒度が0.6mm超え1.18mm以下のスラグのデータよりも更にCa2+濃度の低い側に位置することを確認している。
【0029】
以上の説明のように、溶媒として純水を用い、この溶媒にスラグを浸漬させ、溶媒のpHを測定することで、溶媒のpH測定値に基づいてスラグからのCa2+の溶出量を精度良く且つ迅速に測定できるとの知見が得られた。
【0030】
本発明に係るスラグのCa2+溶出量試験方法は、上記知見に基づきなされたものであり、スラグの質量に対して1000倍以上の質量比の純水を溶媒として該溶媒にスラグを浸漬させ、スラグを浸漬させた以降の前記溶媒のpHを測定し、前記溶媒のpH測定値に基づいてスラグからのCa2+の溶出量を求めることを特徴とする。
【0031】
本発明のCa2+溶出量試験方法を実施する上で、溶媒である純水は、スラグの質量の1000倍以上であればよく、上限は特に規定する必要はないが、余りに多くなるとハンドリングが困難になることから、スラグの質量の2000倍程度を上限とすればよい。また、pH測定計も特別な仕様を必要とせず、市販のpH測定計で充分である。また、本発明で用いる純水は、溶出したCa2+の反応に影響を及ぼさない程度の清浄度であればよく、蒸留水、イオン交換水、蒸留後イオン交換したイオン交換水を使用できる。
【0032】
このように、本発明に係るスラグのCa2+溶出量試験方法によれば、溶媒として純水を用いているので、溶出したCa2+はCaCO3などの析出物を形成せず、溶媒のpH変化と溶出するCa2+とが1対1の相関関係となり、溶媒のpH測定値から正確にCa2+の溶出量を測定することができる。また、溶媒である純水の質量をスラグの質量の1000倍以上とするので、溶媒のpH上昇が抑えられ、正確にCa2+の溶出量を測定することができる。
【0033】
ところで、前述した図2に示す曲線の勾配がCa2+の溶出速度となる。図2からも明らかなように、スラグの粒度が小さいほど、Ca2+の溶出速度が速いことが確認できた。即ち、スラグの化学成分が同一の場合には、粒径の小さいものの比率が多いスラグほど、Ca2+の溶出速度が速く、海洋土木建築材料として使用したときには白濁現象が起こりやすいこと分かる。
【0034】
図3に、図2に示す経過時間30分までのCa2+溶出速度の平均値と、スラグ1gあたりの表面積との関係を示す。尚、図3中のスラグAが、前述した図1及び図2の試験データを示したスラグであり、スラグBは組成の異なる別の製鋼スラグのデータである。また、スラグ1gあたりの表面積を求めるにあたり、スラグの形状を球体と仮定するとともに、スラグの密度を、充填における見掛け比重(2500kg/m3)として計算した。
【0035】
図3に示すように、スラグのCa2+の溶出速度は単位質量あたりの表面積と相関があることが分かった。また、このCa2+溶出速度と単位質量あたりの表面積との関係は、スラグAとスラグBとを比較すると両者は異なることから、スラグの化学成分組成によって異なることも確認できた。
【0036】
従って、スラグからのCa2+溶出量は、粒度別にスラグを分別し、分別した粒度別にCa2+溶出量を求めれば、求めた粒度別のCa2+溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とから、容易に推定できることが分かった。そして、推定したCa2+溶出量を、経験上から定まる白濁発生のCa2+溶出量(=目標値)と比較すれば、スラグの海洋土木建築材料としての適否を容易に評価できることが分かった。つまり、Ca2+溶出量が目標値を超えた場合には、白濁の可能性があることから、不適と評価する。
【0037】
また、Ca2+溶出量の推定結果から、Ca2+の溶出量が目標値よりも多く、当該スラグは海洋土木建築材料として適していないと評価された場合でも、粒度別に分別したスラグのなかで、Ca2+の溶出量が多い、粒度の最も小さいスラグを計算上全量削除する、或いは、粒度の最も小さいスラグの一部分を計算上削除するなどして粒度分布構成を変更し、粒度分布を変更したスラグでCa2+溶出量の計算をし直すことよって、Ca2+溶出量を目標値以下にすることが可能であることを知見した。
【0038】
本発明に係るスラグの評価方法は、この検討結果に基づきなされたものであり、スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、前記Ca2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とする。この場合に、Ca2+の溶出量が目標値よりも大きいときには、計算上で使用するスラグの粒度分布を変更し、前記粒度別のCa2+の溶出量と、変更したスラグの粒度分布とを用いて、粒度分布を変更したスラグからのCa2+の溶出量を定めることができる。
【0039】
本発明のスラグの評価方法を実施する上で、スラグを粒度別に分別する際に、スラグの最大サイズと最小サイズとの範囲にもよるが、少なくとも3種類以上に分類することが好ましく、望ましくは4種類以上とする。分別数が少ないと、仮に、Ca2+の溶出量が目標値よりも大きくなったときに、計算上で粒度分布を変更する際の障害となる恐れがあるからである。つまり、篩分器での再度の篩分け作業が必要になる可能性があるからである。また、粒径が1mm以上のスラグ粒子からはCa2+の溶出は少ないので、粒径が1mm以上のものはまとめて1つのグループとして分別しても構わない。
【0040】
このように、本発明に係るスラグの評価方法によれば、スラグの粒度別のCa2+の溶出量を求めるので、求めた粒度別のCa2+の溶出量とスラグの粒度分布とから、スラグ全体のCa2+溶出量が把握でき、海域用として利用する際の適否を的確に評価することができる。そして、把握したCa2+溶出量が目標値よりも高い場合には、粒度分布を変更させたときのスラグからのCa2+溶出量を求めることが可能であり、スラグからのCa2+溶出量が目標値以下となるように、スラグの粒度分布を変更させることによって、スラグを海洋土木建築材料として利用する際の白濁現象を、未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】純水を溶媒として該溶媒にスラグを浸漬させたときの溶媒のpH変化を、スラグ粒度の違いにより比較して示す図である。
【図2】図1に示すpH測定値をCa2+濃度に換算して示す図である。
【図3】図2に示すCa2+溶出速度の測定値と、スラグ1gあたりの表面積との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグの質量に対して1000倍以上の質量比の純水を溶媒として該溶媒にスラグを浸漬させ、スラグを浸漬させた以降の前記溶媒のpHを測定し、前記溶媒のpH測定値に基づいてスラグからのCa2+の溶出量を求めることを特徴とする、スラグのCa2+溶出量試験方法。
【請求項2】
スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、請求項1に記載のスラグのCa2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とする、スラグの評価方法。
【請求項3】
スラグを粒度別に分別し、分別した粒度別に、請求項1に記載のスラグのCa2+溶出量試験方法を用いてCa2+の溶出量を求め、求めた粒度別のCa2+の溶出量と、スラグを粒度別に分別することによって求められるスラグの粒度分布とを用いて、分別する前のスラグからのCa2+の溶出量を定め、当該溶出量が目標値よりも大きいときには、計算上で使用するスラグの粒度分布を変更し、前記粒度別のCa2+の溶出量と、変更したスラグの粒度分布とを用いて、粒度分布を変更したスラグからのCa2+の溶出量を定めることを特徴とする、スラグの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−150757(P2009−150757A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328445(P2007−328445)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】