説明

スラストニードル軸受

【課題】スラストころ軸受の形状が複雑な場合であっても、強度を低下することなく、また、製造が容易なスラストころ軸受の提供を実現すべく発明したものである。
【解決手段】保持器3の内径側フランジ部6と、円輪部7と、円輪部の内径側端部に円筒状のフランジ部8とから構成されるコの字状環状部9に、保持器3とは別部材である、円輪部21と、その両端に設けられた円筒状の内外径側フランジ部22,23とからなるコの字状環状部材20を挿入し、円輪部7の内径側端部に設けたフランジ部8の端部41を加締め、コの字状環状部9とコの字環状部材20とを組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストニードル軸受であって、特に、自動車用変速機のメインシャフトに対して、回転自在に支持する為の回転支持部に使用されるスラストニードル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機に組み込まれるメインシャフトにギヤを回転可能に支持する回転支持部の構造として、従来から、例えば特許文献1に記載された様な構造が知られている。図5は、特許文献1に記載された構造の1例を示している。この回転支持部の構造は、小径部31aおよび大径部31bを有する軸31と、小径部31aの径方向外側に配置される外方部材32と、小径部31aの外径面および外方部材32の内径面の間に配置されるラジアルころ軸受33と、大径部31bおよび外方部材32の端面の間に配置されるスラストころ軸受11とを備える。
【0003】
ラジアルころ軸受33は、複数のころ33aと、隣接するころ33aの間隔を保持する保持器33bとを備え、小径部31aの外径面と外方部材32の内径面とを軌道面とするケージ&ローラタイプの針状ころ軸受であって、軸31に負荷されるラジアル荷重を支持する。
【0004】
スラストころ軸受11は、複数のころ12と、隣接するころ12の間隔を保持する保持器13とを備える。
【0005】
保持器13は、環状の部材であって、金属製の平板をプレス加工等によって折り曲げて形成されている。そして、ころ12を収容する複数のポケット17が形成されて径方向に延在する柱部16と、柱部16の内周に形成される内周鍔部15とを有する。
【0006】
内周鍔部15は、保持器13の軸方向に延びる円筒部15aと、円筒部15aの軸方向両端部に径方向外側に屈曲する第1および第2屈曲部15b,15cとを含み、第1および第2屈曲部15b,15cは、それぞれ径方向外側に延びる壁面15d,15eを有している。
【0007】
第1屈曲部15bから延びる壁面15dは、所定の長さの直線部分を有し、その先は保持器13の軸方向に屈曲しながら径方向外側に延び、柱部16と、さらにその外側に保持器13の外周に沿って外周鍔部18とが形成されている。
【0008】
第2屈曲部15cから延びる壁面15eは、ポケット17の手前まで径方向外側に直線的に延びて、先端が保持器13の軸方向内側、すなわち壁面15dの方向に折り曲げられている。そして、内周鍔部15の断面形状は、4つの角がそれぞれ所定の曲率を持った略四角形状となっている。
【0009】
そして、スラストころ軸受11は、大径部31bの端面と第2屈曲部15cから外径方向に延びる壁面15eとが対面し、ラジアルころ軸受33の保持器33bの軸方向端面と第1屈曲部15bから外径方向に延びる壁面15dの直線部分とが対面するように配置されている。
【0010】
特許文献1では、ラジアルころ軸受33とスラストころ軸受11とを図5に示すように配置することによって、軌道輪を省略しても壁面15dの直線部分でラジアルころ軸受33の軸方向への移動を規制している。また、内周鍔部15の断面形状を略四角形状として剛性を向上することによって、ラジアルころ軸受33との接触によって内周鍔部15が変形するのを防止している。
【0011】
ところで、上記のスラストころ軸受11では、その保持器13の内周鍔部15は、鋼板をバーリング加工や曲げ加工することによって形成される。しかし、形状が複雑であり、材料である鋼板に大きな変形や絞りが施されるため、保持器肉厚が薄くなったり、また、熱処理も軟窒化処理となったりしてしまい、保持器の案内形式が、ラジアルころ軸受の保持器端面で案内される場合や、軸で案内される場合では、その強度の低下が懸念されていた。また、略四角形状のような内周鍔部を成形した後に、バレル研磨や黒染加工処理等の水処理を行なう場合に、内周鍔部に水等の加工液が浸透することとなり、乾燥が不十分な場合には、加工液が内周鍔部内に残ってしまい、その使用時に加工液がにじみ出て、錆や異物等のいわゆるコンタミをもたらす原因となる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−14414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、スラストころ軸受の形状が複雑な場合であっても、強度を低下することなく、また、製造が容易なスラストころ軸受の提供を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、請求項1に記載のスラストころ軸受は、放射状に配置される複数のころと、全体を円輪状に作られて前記複数のころを転動自在に保持するポケットと、径方向一端部に断面ロの字形状の環状部とを有する保持器と、を備えたスラストころ軸受であって、前記環状部は、前記保持器の径方向一端部から軸方向に伸びる第一フランジ部と、前記第一フランジ部の端部から前記複数のころとは径方向反対側に設けられた円輪部と、前記円輪部の端部から軸方向に伸びる第二フランジ部とから成るコの字状環状部と、コの字状環状部材からなることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載のスラストころ軸受は、前記環状部が、前記第二フランジ部を加締めてなることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載のスラストころ軸受は、前記環状部が、前記コの字状環状部材を加締めてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、保持器は、従来に比べ、曲げ加工の工程が少なくて済むので、絞り等による薄肉化を軽減できる。また、保持器のコの字状環状部とコの字状環状部材を別々に成形できるので、バレル研磨や黒染加工処理等の水処理を行なう場合には、それらの水処理を済ませた後に、保持器のコの字状環状部とコの字状環状部材とを組み合わせれば良いので、従来のように内周鍔部内に加工液が残る可能性はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の断面図である。
【図3】本発明の変形例の断面図である。
【図4】本発明の変形例の断面図である。
【図5】従来のスラスト軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第一の実施の形態を示している。このスラストころ軸受1は、放射状に配置される複数のころ2と、全体を円輪状に作られて前記複数のころを転動自在に保持するポケットを有する保持器3とからなり、図示しない2つの部材の間に配置され、その2部材の相対回転を自在としている。
【0020】
保持器3は、ころ2を保持するポケットを有する円輪状の主部4と、その両端に設けられた円筒状のフランジ部5,6とからなり、保持器3の内径側フランジ部6の端部から内径側に円輪部7が設けられ、円輪部7の内径側端部に円筒状のフランジ部8が設けられる。また、保持器3の内径側フランジ部6と、円輪部7と、円輪部の内径側端部に円筒状のフランジ部8とから、コの字状環状部9が構成される。
【0021】
保持器3とは別部材であるコの字状環状部材20は、円輪部21と、その両端に設けられた円筒状の内外径側フランジ部22,23とからなる。
【0022】
図1に示すように、保持器3の内径側フランジ部6と円輪部7の内径側端部に設けたフランジ部8との間に、コの字状環状部材20を挿入し、円輪部7の内径側端部に設けたフランジ部8の端部41を加締め、コの字状環状部9とコの字環状部材20とを組み合わせる。
【0023】
図2は、本発明の第二の実施の形態を示している。このスラストころ軸受1は、放射状に配置される複数のころ2と、全体を円輪状に作られて前記複数のころ2を転動自在に保持するポケットを有する保持器3とからなり、図示しない2つの部材の間に配置され、その2部材を相対回転を自在としている。
【0024】
保持器3は、ころ2を保持するポケットを有する円輪状の主部4と、その両端に設けられた円筒状のフランジ部5,6とからなり、保持器3の内径側フランジ部6の端部から内径側に円輪部7が設けられ、円輪部7の内径側端部に円筒状のフランジ部8が設けられる。また、保持器の内径側フランジ部6と、円輪部7と、円輪部の内径側端部に円筒状のフランジ部8とから、コの字状環状部9が構成される。
【0025】
保持器3とは別部材であるコの字状環状部材20は、円輪部21と、その両端に設けられた円筒状の内外径側フランジ部22,23とからなる。
【0026】
図2に示すように、保持器3の内径側フランジ部6の内径側に、コの字状環状部材20の外径側フランジ部22が沿うように、また、円輪部7の内径側端部に設けたフランジ部8の内径側に、コの字状環状部材20の内径側フランジ部23が沿うように、コの字環状部材20を挿入し、コの字環状部材20の内径側フランジ部23の端部42を加締め、コの字状環状部9とコの字環状部材20とを組み合わせる。
【0027】
上記第一の実施の形態や第二の実施の形態のようにすることで、従来に比べ、保持器を折り曲げる工程が少なくて済むので、絞り等による薄肉化を軽減できる。また、バレル研磨や黒染加工処理等の水処理を行なう場合には、それらの水処理を済ませた後に、保持器のコの字状環状部とコの字状環状部材とを組み合わせれば良いので、従来のように内周鍔部内に加工液が残る心配はない。
【0028】
また、図3、図4に示す変形例のように、コの字環状部材20の内外径側フランジ部22,23の端部に面取り43,44を施し、保持器3の折れ曲がり部45,46との干渉を防ぐための逃げ部47,48を設けても良い。このようにすることで、組立性が向上する。
【0029】
また、保持器のコの字状環状部とコの字状環状部材を別々に成形できるので、それぞれの熱処理や材料を変えることもでき、保持器には軟膣化処理を施し、コの字状環状部材は、強度の大きな材料を用い、熱処理や皮膜を施すといったこともできる。また、黒染加工処理をコの字状環状部材にだけ施せば、識別にもなる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、スラストころ軸受とラジアルころ軸受とを隣接して配置した回転支持部であれば、自動車の変速機に限らず、各種産業機械の回転支持部として利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 スラストころ軸受
2 ころ
3 保持器
4 主部
5 外径側フランジ部
6 内径側フランジ部
7 円輪部
8 内径側フランジ部
9 コの字状環状部
11 スラストころ軸受
12 ころ
13 保持器
15 内周鍔部
15a 円筒部
15b 第1屈曲部
15c 第2屈曲部
15d 壁面
15e 壁面
16 柱部
17 ポケット
20 コの字状環状部材
21 円輪部
22 外径側フランジ部
23 内径側フランジ部
31 軸
31a 小径部
31b 大径部
32 外方部材
33 ラジアルころ軸受
33a ころ
41 端部
42 端部
43 面取り
44 面取り
45 折れ曲がり部
46 折れ曲がり部
47 逃げ部
48 逃げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に配置される複数のころと、
全体を円輪状に作られて前記複数のころを転動自在に保持するポケットと、径方向一端部に断面ロの字形状の環状部とを有する保持器と、
を備えたスラストころ軸受において、
前記環状部は、前記保持器の径方向一端部から軸方向に伸びる第一フランジ部と、前記第一フランジ部の端部から前記複数のころとは径方向反対側に設けられた円輪部と、前記円輪部の端部から軸方向に伸びる第二フランジ部とから成るコの字状環状部と、
コの字状環状部材からなることを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項2】
前記環状部は、前記第二フランジ部を加締めてなることを特徴とする請求項1記載のスラストころ軸受。
【請求項3】
前記環状部は、前記コの字状環状部材を加締めてなることを特徴とする請求項1記載のスラストころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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