説明

スラスト軸受用保持器ならびにこれを用いたスラスト軸受および3列複合円筒ころ軸受

【課題】 コストを低減したスラスト軸受用保持器ならびにこれを用いたスラスト軸受および3列複合円筒ころ軸受を提供する。
【解決手段】 スラスト軸受用保持器は、複数の保持器分割片11によって形成されている。各保持器分割片11は、周方向一方側の端面に形成される凸円弧状面13と、他方側の端面に形成される凹円弧状面14とを備えている。複数の保持器分割片11が全体として環状に配置されることにより保持器が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スラスト軸受用保持器ならびにこれを用いたスラスト軸受および3列複合円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、マシニングセンタのテーブル旋回用軸受として、3列複合円筒ころ軸受が使用されている。この3列複合円筒ころ軸受において、保持器は、通常、黄銅製の一体品として削り出し加工で製作されている。
【0003】
一方、スラスト軸受用保持器を複数の保持器分割片によって形成することが、特許文献1、特許文献2などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−61644号公報
【特許文献2】特開2007−255606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黄銅製の一体品として削り出し加工で製作されている保持器は、コストが高いという問題があった。そこで、保持器が複数の保持器分割片によって形成される構成を採用することで、コストを低減することが考えられる。しかしながら、特許文献1のものでは、複数の保持器分割片同士をボルトで締結する必要があり、また、特許文献2のものでは、複数の保持器分割片同士を溶接する必要があり、いずれも、複数の保持器分割片によって保持器を得るための工数がかかるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、コストを低減したスラスト軸受用保持器ならびにこれを用いたスラスト軸受および3列複合円筒ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるスラスト軸受用保持器は、複数の保持器分割片によって形成されるスラスト軸受用保持器であって、各保持器分割片は、周方向一方側の端面に形成される凸円弧状面と、他方側の端面に形成される凹円弧状面とを備えており、複数の保持器分割片が全体として環状に配置されることにより保持器が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明のスラスト軸受用保持器によると、複数の保持器分割片が全体として環状に配置されることで保持器が形成されているので、コストが高い黄銅製の一体品による削り出し加工が不要となる。また、複数の保持器分割片同士をボルトで締結したり溶接したりする必要がない。したがって、コストを低減することができる。
【0009】
複数の保持器分割片は、合成樹脂材料で形成されていることが好ましい。材質を合成樹脂とすることで、射出成形による製作が可能となり、より一層のコスト低減が可能となる。
【0010】
この発明によるスラスト軸受は、1対の軌道部材と、1対の軌道部材間に配された複数の円筒ころと、複数の円筒ころを保持する保持器とを備えたスラスト軸受において、保持器が上記のスラスト軸受用保持器とされるとともに、1対の軌道部材のいずれか一方に、各保持器分割片の径方向外方への移動を防止する環状凸部が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
この発明のスラスト軸受によると、保持器のコストを低減することができ、また、回転中の円筒ころの飛び出しを確実に防止することができる。
【0012】
この発明による3列複合円筒ころ軸受は、径方向外方に開口する凹所を有する環状の第1軌道部材と、第1軌道部材の凹所にころ配置空間をおいて挿入されている第2軌道部材と、第1軌道部材と第2軌道部材との間に配置された3列の円筒ころとからなり、3列の円筒ころがスラスト荷重を受ける2列の円筒ころと、ラジアル荷重を受ける1列の円筒ころとからなる3列複合円筒ころ軸受において、スラスト荷重を受ける2列の円筒ころをそれぞれ保持する保持器が、上記のスラスト軸受用保持器とされていることを特徴とするものである。
【0013】
この発明の3列複合円筒ころ軸受によると、保持器のコストを低減することができる。
【0014】
3列複合円筒ころ軸受の第2軌道部材には、各保持器分割片の径方向外方への移動を防止する環状凸部が設けられていることがあり、このようにすると、回転中の円筒ころの飛び出しを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のスラスト軸受用保持器によると、各保持器分割片は、周方向一方側の端面に形成される凸円弧状面と、他方側の端面に形成される凹円弧状面とを備えており、複数の保持器分割片が全体として環状に配置されることにより保持器が形成されているので、コストが高い黄銅製の一体品による削り出し加工が不要であり、しかも、複数の保持器分割片同士をボルトで締結したり溶接したりする必要もないので、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明によるスラスト軸受用保持器および3列複合円筒ころ軸受の1実施形態の要部を示す縦断面図である。
【図2】図2は、1つの保持器分割片を示す平面図である。
【図3】図3は、複数の保持器分割片が並べられた状態(保持器の一部)を示す平面図である。
【図4】図4は、図3の断面図である。
【図5】図5は、保持器分割片の他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0018】
図1から図5までは、この発明のスラスト軸受用保持器を3列複合円筒ころ軸受に適用した実施形態を示している。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0019】
3列複合円筒ころ軸受(1)は、径方向外方に開口する環状凹所(2a)を有する環状の第1軌道部材(2)と、第1軌道部材(2)の凹所(2a)内にころ配置間隙をおいて挿入されている第2軌道部材(3)と、両軌道部材間(2)(3)に配置された3列の円筒ころ(4)(5)(6)とを備えている。
【0020】
各軌道部材(2)(3)は、軸方向が上下方向とされており、第1軌道部材(2)は、軸(9)に固定され。第2軌道部材(3)は、旋回テーブル(10)に取り付けられている。第1軌道部材(2)は、上側軌道部材(2b)と下側軌道部材(2c)とからなり、これらは、ボルトによって結合されるようになされている。第2軌道部材(3)の外周部分は、第1軌道部材(2)の外周面よりも径方向外方に突出しており、ここに、旋回テーブル(10)への取付けのためのボルト挿通孔(3a)が設けられている。
【0021】
3列の円筒ころ(4)(5)(6)は、第1軌道部材(2)の凹所(2a)の上面と第2軌道部材(3)の上面との間に配されてスラスト荷重を受ける第1列の複数の円筒ころ(4)と、第1軌道部材(2)の凹所(2a)の下面と第2軌道部材(3)の下面との間に配されてスラスト荷重を受ける第2列の複数の円筒ころ(5)と、第1軌道部材(2)の凹所(2a)の底面(円周面)と第2軌道部材(3)の内周面との間に配されてラジアル荷重を受ける第3列の複数の円筒ころ(6)とからなる。
【0022】
第1列の複数の円筒ころ(4)は、上側のスラスト軸受用保持器(7)によって保持されており、第2列の複数の円筒ころ(5)は、下側のスラスト軸受用保持器(8)によって保持されている。第3列の複数の円筒ころ(6)は、保持器によって保持されない総ころタイプとされている。
【0023】
環状の上側軌道部材(2b)と、上側軌道部材(2b)ところ配置間隙をおいて対向する環状の第2軌道部材(3)と、両軌道部材間(2b)(3)に配置された複数の円筒ころ(4)と、複数の円筒ころ(4)を保持する上側のスラスト軸受用保持器(7)とによって第1のスラスト軸受(31)が形成されている。また、環状の下側軌道部材(2c)と、下側軌道部材(2c)ところ配置間隙をおいて対向する環状の第2軌道部材(3)と、両軌道部材間(2c)(3)に配置された複数の円筒ころ(5)と、複数の円筒ころ(5)を保持する下側のスラスト軸受用保持器(8)とによって第2のスラスト軸受(32)が形成されている。
【0024】
上側および下側のスラスト軸受用保持器(7)(8)は、複数の保持器分割片(11)によって形成されている。各保持器分割片(11)は、図2に示すように、円筒ころ(4)(または円筒ころ(5))を保持するように中央に設けられたポケット(12)と、周方向一方側の端面に形成された凸円弧状面(13)と、他方側の端面に形成された凹円弧状面(14)とを備えている。
【0025】
複数の保持器分割片(11)は、図3に示すように、隣り合う保持器分割片(11)の凸円弧状面(13)の内径側縁部と凹円弧状面(14)の内径側縁部とが接するように並べられて、全体として環状に配置されており、これにより、各スラスト軸受用保持器(7)(8)が形成されている。この構成とすることで、円筒ころ(4)(5)の形状が同じでスラスト軸受用保持器(7)(8)の径が異なる場合には、同じ保持器分割片(11)を使用してその数を増減することで対応できる。
【0026】
第2軌道部材(3)の上下面に、複数の保持器分割片(11)で形成されたスラスト軸受用保持器(7)(8)の径方向外方への移動を防止する上下環状凸部(15)(16)が設けられている。
【0027】
上側軌道部材(2b)と下側軌道部材(2c)とがボルトによって結合されることで、円筒ころ(4)(5)は、弾性変形した状態で、第1軌道部材(2)と第2軌道部材(3)との間に挟持され、複数の保持器分割片(11)同士が互いに結合されていなくても、各保持器分割片(11)および円筒ころ(4)(5)が両軌道部材(2)(3)間から脱落することはない。そして、仮に締付けのボルトが緩んだ場合であっても、上下環状凸部(15)(16)によって、各保持器分割片(11)の径方向外方への移動が防止され、回転中に円筒ころ(4)(5)が飛び出すことはない。
【0028】
各保持器分割片(11)は、ポリアミド樹脂製の射出成形品とされている。各保持器分割片(11)の凸円弧状面(13)および凹円弧状面(14)は、1つのRからなる同一形状の湾曲面とされている。各保持器分割片(11)の凸円弧状面(13)および凹円弧状面(14)は、複数のRからなる湾曲面であってもよく、凸円弧状面(13)と凹円弧状面(14)とが異なる形状の湾曲面であってもよい。
【0029】
また、隣り合う保持器分割片(11)同士は、図4に示すように、互いに重ね合わされていないが、図5に示すように、凸円弧状面(13)(または凹円弧状面(14))の上下の中央部に、凸円弧状面(13)の円弧方向に沿う係合溝(21)が設けられるとともに、凹円弧状面(14)(または凸円弧状面(13))の上下の中央部に、係合溝(21)に対応する凸条(22)が設けられて、係合溝(21)と凸条(22)とが嵌まり合う構成としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
(1):3列複合円筒ころ軸受、(2):第1軌道部材、(2a):凹所、(2b):上側軌道部材、(2c):下側軌道部材、(3):第2軌道部材、(4)(5)(6):円筒ころ、(7)(8):スラスト軸受用保持器、(11):保持器分割片、(13):凸円弧状面、(14):凹円弧状面、(15)(16):環状凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の保持器分割片によって形成されるスラスト軸受用保持器であって、各保持器分割片は、周方向一方側の端面に形成される凸円弧状面と、他方側の端面に形成される凹円弧状面とを備えており、複数の保持器分割片が全体として環状に配置されることにより保持器が形成されていることを特徴とするスラスト軸受用保持器。
【請求項2】
複数の保持器分割片は、合成樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1のスラスト軸受用保持器。
【請求項3】
1対の軌道部材と、1対の軌道部材間に配された複数の円筒ころと、複数の円筒ころを保持する保持器とを備えたスラスト軸受において、保持器が請求項1または2のスラスト軸受用保持器とされるとともに、1対の軌道部材のいずれか一方に、各保持器分割片の径方向外方への移動を防止する環状凸部が設けられていることを特徴とするスラスト用軸受。
【請求項4】
径方向外方に開口する凹所を有する環状の第1軌道部材と、第1軌道部材の凹所にころ配置空間をおいて挿入されている第2軌道部材と、第1軌道部材と第2軌道部材との間に配置された3列の円筒ころとからなり、3列の円筒ころがスラスト荷重を受ける2列の円筒ころと、ラジアル荷重を受ける1列の円筒ころとからなる3列複合円筒ころ軸受において、スラスト荷重を受ける2列の円筒ころをそれぞれ保持する保持器が、請求項1または2のスラスト軸受用保持器とされていることを特徴とする3列複合円筒ころ軸受。
【請求項5】
第2軌道部材に、各保持器分割片の径方向外方への移動を防止する環状凸部が設けられていることを特徴とする請求項4の3列複合円筒ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−96505(P2013−96505A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239925(P2011−239925)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】