説明

スラックスの裏地およびその製造方法

【課題】 着用者の股部や脚部を締付けないととともに、ヒップの丸みをできるだけ潰さずにヒップアップ効果のあるスラックスの裏地を提供する。
【解決手段】 伸縮性を有する編地素材からなる裏地本体1とこれに取付けたスライドファスナー2および弾性テープ3からなる。裏地本体は左側の股上部Aと脚部Bとを構成する左側布11、右側の股上部Aと脚部Bとを構成する右側布12、脚部Bの一部を構成する補助布13、および左右のヒップアップ用補強布14からなる。左側布および右側布のヒップ部1eは布地が伸ばされて膨らみが形成されている。補助布は、略長方形状であり、一方の長辺の縁部が左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫着され、他方の長辺の縁部が左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラックスの裏地およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、スラックスのように、着用状態で腹部から腰部,ヒップ部にかけての体形が比較的はっきりとあらわれる衣服を着るときは、女性の場合はファウンデーションとしてガードルを着用して体形を補整するのが一般的である。また、最近では美脚パンツとしてヒップが上って、脚が長く見えるようにデザインしたり、カッティングしたスラックス(ズボン)が女性用のみならず男性用のものでも流行っている。しかし、体形補整用としてガードルを着用するという手段は効果的ではあるが、なかなか煩わしいことである。また、男性の場合はガードルを着用するという習慣がない。
【0003】
実用新案登録第3008616号公報(特許文献1)には、細身のスラックスの一種であるカルソンパンツにおいて、前身頃の大腿部よりウエスト部にかけての内側に伸縮性の少ない弾力性の強いパワーネットを腹部矯正用として張設し、ウエスト周辺部と外脇縫目と内脇縫目で止着し、後身頃のウエスト周辺部とヒップラインとの間に伸縮性の大きい弾力性の弱いストレッチネットを張設し、ウエスト周辺部と外脇縫目で止着し、且つ上記ストレッチネットに上部を重ねヒップラインより上方のヒップ形状補整ラインから股下の大腿部の間に腹部矯正用の生地と同生地の伸縮性の少ない弾力性の強いパワーネットを張設し、上記ストレッチネットの下端と外脇縫目と内脇縫目で止着し、ヒップラインとヒップ形状補整ラインの間を帯状の2重矯正部としていることを特徴とするヒップアップ用矯正スラックスが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されているスラックスは、スラックスの製造中に、すなわち前身頃と後身頃とを縫い合わすために外脇縫目や内脇縫目を縫う際に同時に腹部矯正用パワーネットやストレッチネットやヒップ補正用パワーネットを所定位置にて縫着しなければならず非常に手間がかかる。しかも、パワーネットやストレッチネットは伸縮性があるので縫製し難く、その上、パワーネットやストレッチネットのような伸縮性,弾力性をもった編地素材の縫製には、それ専用の特殊な縫製機械が必要であり、小規模な縫製業者にとってこのような特種な縫製機械を常備することは、経済的負担が相当大きいという問題がある。
【0005】
更に、特許文献1のスラックスにおいては、ヒップ補正用パワーネットおよびストレッチネットはスラックスの後身頃だけに設けられたものであり、その両端は外脇縫目に縫着されているので、ヒップを強く押さえ付けているだけであり、ヒップを上に持ち上げるという効果は殆ど期待できない。
【0006】
本発明者は先に上述のような問題を解決したスラックスの裏地を特許第3509309号公報(特許文献2)において提案した。特許文献2のスラックスの裏地は、特許文献1に開示されているもののように各パーツの裏地をスラックス表地にいちいち縫着するのではなく、伸縮性を有する編地素材であるパワーネットにて、細目のアンダーパンツ形状をなす半製品として構成し、裏地のウエスト部をスラックス表地のウエスト部内側に縫い付けて、スラックス表地に裏地を取付けるようにした。具体的には、このスラックスの裏地は、パワーネットからなる左側布と右側布の股上同士を前中心はぎ部と後中心はぎ部とで接いで股上部を形成し、左側布と右側布の各股下の各端縁同士を内側はぎ部で接いで股下部を形成してアンダーパンツ形状とした。また、パワーネットを所定幅のテープ状に裁断して左右の補強片とし、この補強片を後側股部付近からそれぞれ左右の脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るようにして左側布および右側布にそれぞれ縫着した。このように補強片を後身頃だけでなく、脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るように縫着したので、補強片は着用者のヒップ部を下から押し上げるように作用し、更に前側では着用者の腹部を押さえるように作用する。
【特許文献1】実用新案登録第3008616号公報
【特許文献2】特許第3509309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示のスラックスの裏地はヒップアップ効果は大きいが、パワーネットによりヒップの丸みを押え付ける傾向がある。また、身体は厚みがあるが、体形補整のため細めにサイズを設定するので、パワーネットが伸縮性を有していても身体の厚み分に充分に対応することができない。すなわち、スラックスを着用した際に、裏地の股上部は着用者の腹部を押えるとともにヒップアップのために締付け感がある程度にピッタリと身体に密着することが望まれるが、このようにすると、裏地により着用者の股部や脚部も締付け状態となり、窮屈であり、着用感がよくないという問題が生じた。
【0008】
本発明は上記のような特許文献2の裏地の問題を解決し、着用者の股部や脚部を締付けず、より一層快適な着用感を得られるとともに、ヒップの丸みをできるだけ潰さずしかもヒップアップ効果のあるスラックスの裏地を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の裏地は伸縮性を有する生地で製作されるので、通常のスラックスの表生地のパターンに採用される股刳りのカーブのように曲率の小さなカーブを描いていると縫い合わせ難い。そのため本発明は曲率の小さなカーブは殆ど使用せずに、着用者の股部の厚みおよび脚部の太さに対応するようにパーツを設計して、縫製が容易であるようなスラックスの裏地を提供することを目的とする。
【0010】
また、裏地を構成するパーツの数が多くなると、それだけ縫製に手間が掛るので、本発明は、できるだけパーツの数を増やさずに、着用感がよいスラックスの裏地を提供しようとするものである。
【0011】
更に、本発明はスラックスのファスナー付けに関しても、本発明の裏地を使用することによりに、従来より簡単に行えるような裏地を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、前述ような本発明のスラックスの裏地を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、股上部と脚部とを有するアンダーパンツ形状のスラックスの裏地であって、該裏地は左側の股上部とこれに連続した左側の脚部とを構成する左側布、右側の股上部とこれに連続した右側の脚部とを構成する右側布、脚部の一部を構成する補助布、および左右のヒップアップ用補強布からなり、前記左側布、右側布、補助布および補強布が伸縮性を有する編地素材であり、前記左側布と右側布の股上部は、後中心側の縁部が互いに縫い合わされ、前中心側ではウエスト部の上端からスライドファスナーが前記左側布と右側布の前中心側の縁部に取付けられて、前記左側布と右側布の前中心の縁部が前記スライドファスナーにより開閉自在であり、前記スライドファスナーの下止めより下方の股上部の前中心側の縁部が互いに縫い合わされおり、前記ヒップアップ用補強布は後側股部付近からそれぞれ左右の脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るようにして前記左側布および右側布にそれぞれ縫着されており、前記補助布は略長方形状であり、その長辺の長さは前記左側布または右側布の脚部の長さの約2倍であり、前記補助布の一方の長辺の縁部が前記左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫い合わされ、前記補助布の他方の長辺の縁部が前記左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫い合わされており、前記ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部は布地が伸ばされて膨らみが形成されており、前記裏地は更に弾性テープを含んでおり、該弾性テープは伸張した状態で前記縫い合わされた後中心縁部の少なくとも下方部分に縫い付けられて、前記後中心縁部の下方部分にギャザーを形成しており、前記裏地はそのウエスト部をスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて取付けられ、前記スラックス表地における前開きの縁部が裏地の前記スライドファスナーに縫着されることを特徴とするスラックスの裏地により前記目的を達成する。
【0014】
伸縮性を有する編地素材がパワーネットである場合は、前記左側布と右側布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の横方向に設定され、前記補助布は裏地は伸縮性の大きい方向が短辺の方向に設定されており、前記左右の補強布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の縦方向に設定されいることが好ましい。
【0015】
スラックス表地に本発明の裏地を取付ける場合、ヒップアップ用補強布および弾性テープがスラックス表地に面するようにしてもよいし、逆にスラックス表地には接しない、裏地の内側に位置するようにしてもよい。特に、スラックス表地の股上部がゆとりがあまりない細めのものでは、裏地の形状が外観に影響しないように、ヒップアップ用補強布および弾性テープが裏地の内側に位置するようにすることが好ましい。
【0016】
また、本発明によれば、股上部と脚部とを有するアンダーパンツ形状のスラックスの裏地を形成するように伸縮性を有する編地素材を裁断して、左側の股上部とこれに連続した左側の脚部とを構成する左側布、右側の股上部とこれに連続した右側の脚部とを構成する右側布、脚部の一部を構成する略長方形状の補助布、および左右のヒップアップ用補強布を形成する工程、前記左側布および右側布それぞれに前記補強布を、後側股部付近から左右の脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るように縫着する工程、前記左側布および右側布の股上部の後中心側の縁部を互いに縫い合わせる工程、前記ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部の箇所に凸型を押付けて熱処理加工を行って、ヒップ部の箇所の布地を伸ばして膨らみを形成する工程、前記左側布と右側布の股上部の前中心側の縁部の下方部分を互いに縫い合わす工程、前記補助布の一方の長辺の縁部を前記左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫い合わせ、前記補助布の他方の長辺の縁部を前記左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫い合わせる工程、前記縫い合わせた後中心縁部の下方部分に弾性テープを伸張した状態で縫い付ける工程、前記左側布と右側布の股上部の前中心側の縁部の上方部分にスライドファスナーを取付ける工程を含むことを特徴とするスラックスの裏地の製造方法により前記目的を達成する。
【0017】
更に、本発明は、前記方法により製造されたスラックスの裏地のウエスト部をスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて、裏地をスラックス表地に取付け、前記スラックス表地における前開きの縁部を裏地のスライドファスナーに縫着することを特徴とするスラックスの裏地の取付け方法により前記目的を達成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスラックスの裏地は股上部と脚部とを有するアンダーパンツ形状のスラックスの裏地であり、伸縮性を有する編地素材で構成しているので、この裏地をスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて取付けると、スラックス着用状態で、裏地が着用者の腰部,ヒップ部,腹部および大腿部等に弾力もってフィットして、体形補整を行なうことができる。
【0019】
本発明によれば、伸縮性を有する編地素材からなる補助布が脚部の一部を構成しており、この補助布が略長方形状であり、その長辺の長さは前記左側布または右側布の脚部の長さの2倍であり、補助布の一方の長辺の縁部が左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫い合わされ、補助布の他方の長辺の縁部が前記左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫い合わされている。このように左側布および右側布に補助布を縫い付けたことにより、股上部はピッタリりとしているにも拘らず、特許文献2のように左側布と右側布を前中心と後中心において縫い合わせた場合に比較して、股刳り寸法(ウエストライン前中心から股下を通り、ウエストライン後中心までの長さ)は補助布の短辺の長さ分だけ長くなり、股の箇所に補助布の短辺の長さ分のゆとりを持たせられる。それととともに、特許文献2のように左側布と右側布のそれぞれの股下の端縁同士を縫い合わせた場合に比較して、脚部の周長が補助布の短辺の長さ分だけ長くなる。このように、略長方形の補助布を使用することにより、股上部は従来と同様にフィットさせているにも拘らず、着用者の股部に裏地が食い込んだりせず、そして脚部を締付け過ぎたりせず、着用感が極めてよい。
【0020】
また、補助布の形状を長方形または実質的に長方形状としているので、左側布および右側布との縫い合わせも直線状態であるので、熟練を要さずにミシンにより簡単に綺麗に縫製できる。
【0021】
更に、補助布を使用することにより、股刳りの箇所に曲率の小さなカーブを使用しなくてもよいので、縫製が容易である。
【0022】
また、本発明によればアンダーパンツ形状の裏地本体を構成するパーツは1枚の補助布が増えるだけであり、その形状が略長方形であるので、伸縮性を有する生地でも裁断が容易である。しかも補助布の縫製に関しては、直線状に縫うだけであるので縫い易く、手間も掛らない。
【0023】
本発明によれば、ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部の布地が伸ばされて膨らみが形成されているので、スラックスの着用者のヒップの丸みを押し潰さず、綺麗にヒップアップした状態とすることができる。
【0024】
また、伸縮性を有する編地素材をパワーネットとし、左側布と右側布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の横方向に設定し、補助布は伸縮性の大きい方向が短辺の方向に設定し、前記左右の補強布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の縦方向に設定している。パワーネットは経編地で、生地の長手方向には伸縮性が大きいが、幅方向には伸縮性が小さい性質がある。従って、前述のような伸び方向となるように各パーツを裁断すると、左側布と右側布は着用者の胴回り方向および大腿部の周方向に伸び、そして補助布も大腿部の周方向に伸びるので、履き易く、大腿部に対して適度のフィット感は与えるが、窮屈な感じは与えない。一方、補強布は、左側布および右側布の上に縫着されており、横方向には伸び難いので、ヒップの下方部分を支える効果が大きく、また腹部の箇所ではしっかりと押え付けることができる。
【0025】
本発明では、裏地にファスナーを取付け、これをスラックス表地に対しても共通のファスナーとしているので、従来よりファスナー付けが簡単に行うことができる。また、本発明によればアンダーパンツ形状の裏地にファスナーを取付けて開閉自在としたので、従来のガードルと同様のヒップアップ効果や腹部の締付け効果が得られるにも拘らず、従来のガードルに比較して着脱が極めて容易でありる。そのため、本発明の裏地を取付けたスラックスを着脱する場合、本発明の裏地を使用していないスラックスを着脱するのと変わりなく、容易に履いたり脱いだりすることができる。
【0026】
本発明の方法によれば、ヒップアップ効果が大きく、腹部の締付け力があり、しかも着用者の股部に裏地が食い込んだりせず、そして脚部を締付け過ぎたりせず、着用感が極めてよいアンダーパンツ形状の裏地を容易に製造することができる。
【0027】
本発明の方法によれば、ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部の箇所に凸型を押付けて熱処理加工(いわゆるモールド加工)を行って、ヒップ部の箇所の布地を伸ばして膨らみを形成するので、着用者のヒップの丸みを潰さず、綺麗なヒップラインを作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に示した実施例に基いて本発明を詳細に説明する。図1(a)は本発明のスラックスの裏地を平らに置いた状態の正面図、図1(b)はその背面図である。図2は裏地本体を構成するパーツを示す平面図、図3はパーツを裁断する際の型入れの一実施例を示す平面図である。
【0029】
本発明のスラックスの裏地は図1に示すように股上部Aと脚部Bとを有するアンダーパンツ形状をしており、伸縮性を有する編地素材からなる裏地本体1とこれに取付けたスライドファスナー2および弾性テープ3からなる。
【0030】
裏地本体1は図1および図2に示すように、左側の股上部Aとこれに連続した左側の脚部Bとを構成する左側布11、右側の股上部Aとこれに連続した右側の脚部Bとを構成する右側布12、脚部Bの一部を構成する補助布13、および左右のヒップアップ用補強布14からなる。
【0031】
左側布11と右側布12の股上部Aは、図1(a)に示すように前中心1aにおいては、股上部Aの下方部分の縁部11a、12a(図2参照)が互いに縫い合わされおり、ウエスト部1c(裏地本体1の上端から1〜3cmの幅の胴回り部分)の上端からスライドファスナー2が左側布11と右側布12の縁部に取付けられている。スライドファスナー2の上端から下止め22までは左側布11と右側布12のファスナー取付け縁部11c、12c(図2参照)に取付けられ、スライドファスナー2の下止め22から下端までは左側布11と右側布12の縁部11a、12aに取付けられる。裏地本体1の前中心1aはスライドファスナー2のスライダー21を上下することにより開閉自在である。
【0032】
また、左側布11と右側布12の後身頃の股上部Aは、図1(b)示すように、後中心1bにおいて縁部11b、12b(図2参照)が互いに縫い合わされている。縫い合わせた縁部11b、12bの下方部分に弾性テープ3が伸張した状態で縫い付けられる。縫着された後は、弾性テープは収縮するので、後中心1bの下方部分の左側布11と右側布12にはギャザー1dが形成されている。
【0033】
ヒップアップ用補強布14は後側の股部付近からそれぞれ左右の脇部を通りウエスト部1cの前側中央部まで至るようにして左側布11および右側布12にそれぞれ縫着されている。
【0034】
また、図1(b)に示すように、後身頃においてヒップアップ用補強布14より上方の左側布11および右側布12におけるヒップ部1eは布地が伸ばされて膨らみが形成されている(本発明の裏地を平らに置くと、膨らみが形成され部分は襞が生ずるので図1(b)では襞を模式的に線で表した)。このようにヒップ部1eに膨らみを形成したことおよびギャザー1dを形成したことにより、着用者のヒップの丸みに対応したゆとりを本発明の裏地にもたせ、ヒップの丸みを潰さないようにしている。
【0035】
更に、補助布13は図2に示すように略長方形状であり、図1(a)に示すように補助布13の一方の長辺の縁部13aが左側布11および右側布12の脚部Bの前側の縁部11d、12dに縫い合わされ、図1(b)に示すように補助布13の他方の長辺の縁部13bが左側布11および右側布12の脚部Bの後側の縁部11e、12eに縫い合わされている。このように補助布13が左側布11および右側布12に取付けられるので、補助布13の短辺の長さ分だけ、身体の股部の厚みおよび脚部の太さに対してのゆとりを生じさせる。
【0036】
補助布13の長辺の長さは左側布11または右側布12の脚部Bの長さの約2倍である。すなわち、補助布13の長辺13a、13bは左側布11および右側布12の脚部Bの縁部と縫い合わされるので、左側布11、右側布12および補助布13が全く伸縮性がないとすると、一方の長辺13aの長さは脚部Bにおける前側の縁部11dの長さと縁部12dの長さを合計した長さから2つの縁部11a、12aの縫い代分を引いた長さとなり、他方の長辺13bの長さは脚部Bにおける後側の縁部11eの長さと縁部12eの長さを合計した長さから2つの縁部11b、12bの縫い代分を引いた長さとなる。しかし、左側布11、右側布12および補助布13が伸縮性を有するので、そこまで厳密な長さでなくてもよい。
【0037】
なお、前中心1aの下端および後中心1bの下端が股部の箇所であり、本発明の裏地を平らに置くと股部における補助布13は余った状態となり、立体的な凹凸が生じるが、図1(a)および図1(b)において補助布13はこのような凹凸を描かず、模式的に示した。
【0038】
裏地本体1を構成する伸縮性を有する編地素材として、パワーネット(無地パワーネット、柄パワーネット、サテン調パワーネット、トリコネット等)やツーウェイトリコット等を用いることができる。特に、パワーネットは伸縮性に方向性がある経編地であり、経編地の長手方向に伸縮性が大きく、幅方向の伸縮性は小さいという特徴がある。
【0039】
このため、パワーネットを使用する場合は、左側布11と右側布12は共に伸縮性の大きい方向をアンダーパンツ形状裏地の横方向(胴回り方向)とし、補助布13は伸縮性の大きい方向を短辺の方向とし、左右のヒップアップ用補強布14は共に伸縮性の大きい方向をアンダーパンツ形状裏地の縦方向(着用時の上下方向)とすることが好ましい。このようにすると、着用者の胴回り方向、身体の(股部)の厚み方向および大腿部の周方向に伸縮性が大きく、適度のフィット感は与えるが、窮屈な感じは与えない。一方、ヒップアップ用補強布14は腹部やヒップの下側では横方向に伸びず、腹部をしっかりと押え付け、そしてヒップの下方部分をしっかりと支える。
【0040】
図1に示した実施例では本発明のアンダーパンツ形状裏地の脚部には何も設けられていないが、左右の脚部Bの下端にレースを縫着してもよい。或は脚部Bの下端部に飾りのステッチを掛けてもよい。
【0041】
本発明のアンダーパンツ形状の裏地はスラックス表地(スラックスの形状になっているもの)に取付けられる。その場合、裏地のウエスト部1cをスラックス表地のウエスト部の内側に本縫い(直線縫い)ミシンにて容易に縫い付けることができる。また、スラックス表地における前開きの縁部が裏地のスライドファスナー2のテープ部23に縫着される。このように、裏地に取付けたスライドファスナー2は製品であるスラックスのファスナーとして利用される。従って、製品であるスラックスを着用する際は、ファスナー2のスライダー21を下げて、前を開けるが、同時に本発明のアンダーパンツ形状裏地の前も開けられるので、スラックスを履きやすい。そして、スライダー21を上げてファスナー2を閉じれば、スラックスの前開きが閉じられ、同時に本発明の裏地により腹部の引締め効果とヒップアップ効果が得られる。
【0042】
このように本発明の裏地はウエスト部1cとスライドファスナー2のテープ部23をスラックスの表地に縫い付けるだけであるので、本発明の裏地が身体にフィットするように細めであるにも拘らず、ゆったりした形状のスラックスであってもスラックスの表地を引張ったりしない。
【0043】
また、ゆったりした形状のスラックスの場合は、ヒップアップ用補強布14および弾性テープ13がスラックス表地に面するように、そして左側布11、右側布12および補助布13をそれぞれ縫合わせた縫い代部分がスラックス表地に面するようにして、裏地をスラックス表地に取付けることが好ましい。このようにすると、製品であるスラックスの内側(すなわち裏地の内側)には出っ張りがなく、見た目も綺麗である。
【0044】
逆に、ヒップ部分が着用者にフィットするようなタイプのスラックスの場合はヒップアップ用補強布14および弾性テープ13が、スラックス表地には接しない、裏地の内側に位置するようにして、スラックス表地に裏地を取付けることが好ましい。このようにすると、補強布14、弾性テープ13および縫い代による出っ張りがスラックスの外表面に影響を与えることがない。
【0045】
以下に、本発明のスラックスの裏地の製造方法を説明する。
【0046】
図3は図2に示した裏地本体1を構成する各パーツの型入れ(パターンレイアウト)を、伸縮性を有する編地素材としてパワーネットを使用した場合の一例で示している。図3において矢印は伸縮性の大きな方向を示しており、経編地の長さ方向と一致する。すなわち、左側の股上部Aとこれに連続した左側の脚部Bとを構成する左側布11と右側の股上部Aとこれに連続した右側の脚部Bとを構成する右側布12は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の横方向になるように型入れし、脚部Bの一部を構成する略長方形状の補助布13は伸縮性の大きい方向が短辺の方向になるように型入れし、左右のヒップアップ用補強布14は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の縦方向になるように型入れして、これらを裁断して、各パーツを作成する。
【0047】
次に、作成された左側布11および右側布12それぞれに補強布14を、後側股部付近から左右の脇部(図1において符号1fで示した)を通りウエスト部1cの前側中央部まで至るように縫着する。図4は右側布12に補強布14を縫着した状態を示す平面図である。縫着する場合、千鳥縫いミシンで、例えば4点千鳥縫いで縫い付けることが好ましい。
【0048】
補強布14を縫い付けた左側布11および右側布12を、図5に示すように、股上部Aの後中心側の縁部11b、12bを、例えば本縫いミシンにて、互いに縫い合わせる。
【0049】
ヒップアップ用補強布14より上方の左側布11および右側布12におけるヒップ部1eの箇所に凸型を押付けて熱処理加工を行って、ヒップ部1eの箇所の布地を伸ばして膨らみを形成する。この場合、図5に示したように、縫い合わせた左側布11と右側布12を広げた状態で、モールド加工機により熱処理加工を行う。本発明に使用するモールド加工機は特に限定されないが、例えば図6に模式的に示したように穴または凹部52を有する布置きテーブル51と、上下動可能な四角い布押え枠53と、凸型54を有し上下動可能な支持体55とを含んでいる。凸型54は加熱されており、下降した際には穴または凹部52の中に挿入される。このような装置でモールド加工を行う場合、先ず、布置きテーブル51の上に縫い合わせた左側布11と右側布12を広げて、ヒップ部1eの箇所が穴52に一致するように、すなわち、2つの穴52の間に後中心1bが位置し、ヒップアップ用補強布14が穴52を塞がずにその周囲に位置するように、布地11、12を置く。そして、布押え枠53を下げて、左側布11と右側布12の周りを押え、布11、12が動かないようにする。次に、例えば180℃±10℃に加熱した凸型54を有する支持体55を下降させる。凸型54は左側布11および右側布12のヒップ部1eの箇所の布地を伸ばしながら穴52の中まで下降する。この状態を約16秒保った後、凸型54を上昇させる。この後、布押え枠53を上昇させ、布地11、12を布置きテーブル51から取り除く。このようにして、ヒップ部1eの箇所の布地は伸ばされ、膨らみを形成した状態で熱固定される。このように縫い合わせた左側布11と右側布12を広げ状態でモールド加工を行うことは、作業が行い易く、膨らみを形成すべき箇所を確認して行えるので便利である。
【0050】
次に、左側布11と右側布12の股上部Aの前中心15a側の縁部の下方部分11a、12aを互いに本縫いミシンにより縫い合わす。これにより、股上部Aの下方部分は筒状となる。
【0051】
その後、補助布13の一方の長辺の縁部13aを左側布11および右側布12の脚部Bの前側の縁部11dと12dに本縫いミシンにより連続して縫い合わせる。すなわち、補助布13の一方の長辺の長さの半分を左側布11の縁部11dに縫い合わせ、残りの半分を右側布12の縁部12dに縫い合わせる。また、補助布の他方の長辺の縁部13bを左側布11および右側布12の脚部Bの後側の縁部11e、12eに本縫いミシンにより同様に連続して縫い合わせる。これにより、筒状の左右の脚部Bが形成される。
【0052】
このように、左側布11と右側布12の脚部だけでなく、補助布13を用いて脚部Bを構成したので、左側布11および右側布12の脚部の縁部11d、12d、11e、12eは曲率の小さなカーブは殆ど使用していない。このため、補助布13と左側布11および補助布13と右側布12との縫製が容易である。
【0053】
好ましくは、前述のように縫い合わせた後中心縁部11b、12bの縫い代、縫い合わせた前中心縁部11a、12aの縫い代および補助布13と縫い合わせた脚部Bの縁部11d、12d、11e、12e、13a、13bの縫い代をそれぞれ割り、割った縫い代に千鳥縫いミシンによりを千鳥縫い掛けて、縫い代を割った状態で固定する。
【0054】
縫い合わせた後中心縁部11b、12bの下方部分に弾性テープ3を伸張した状態で縫い付ける。例えば、8cmのゴム紐を12cmに伸ばした状態で千鳥縫いミシンにより縫い付ける。縫い終わると、弾性テープ3は収縮し、弾性テープ3の左右の布地11、12にギャザー1dが形成される。
【0055】
左側布11と右側布12の股上部Aの前中心1aの縁部の上方部分にスライドファスナー2を取付ける。この場合、左側布11と右側布12のファスナー取付け縁部11c、12cをスライドファスナー2の上端から下止め22までのファスナーテープ部23に、そしてスライドファスナー2の下止め22から下端までのファスナーテープ部23は左側布11と右側布12の縁部11a、12aに、本縫いミシンまたは千鳥縫いミシンにより縫着する。
【0056】
以上で本発明の裏地を製造できるが、筒状に縫製された左右の脚部Bの裾部分に飾りとして、ステッチをかけたり、或はレースを縫着したりしてもよい。
【0057】
このようにして製造したスラックスの裏地は次のようにしてスラックス表地に取付ける。裏地のウエスト部1cをスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて、スラックス表地における前開きの縁部を裏地のスライドファスナーのファスナーテープ部23に縫着する。この場合、裏地におけるヒップアップ用補強布14および弾性テープ13がスラックス表地に面するようにして、裏地をスラックス表地に取付けてもよいし、或はヒップアップ用補強布14および弾性テープ13がスラックス表地には接しない、裏地の内側に位置するようにして、裏地をスラックス表地に取付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のスラックスの裏地の一実施例を平らに置いた状態を示し、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【図2】本発明の裏地本体を構成するパーツを示す平面図である。
【図3】本発明の裏地を構成するパーツを裁断する際の型入れの一実施例を示す平面図である。
【図4】右側布に補強布を縫着した状態を示す平面図である。
【図5】補強布を縫い付けた左側布および右側布を、股上部の後中心側の縁部で縫い合わせた状態を示す平面図である。
【図6】モールド加工機の一実施例を模式的に示した斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
A 股上部
B 脚部
1 裏地本体
1e ヒップ部
2 スライドファスナー
3 弾性テープ
11 左側布
12 右側布
13 補助布
14 ヒップアップ用補強布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
股上部と脚部とを有するアンダーパンツ形状のスラックスの裏地であって、該裏地は左側の股上部とこれに連続した左側の脚部とを構成する左側布、右側の股上部とこれに連続した右側の脚部とを構成する右側布、脚部の一部を構成する補助布、および左右のヒップアップ用補強布からなり、前記左側布、右側布、補助布および補強布が伸縮性を有する編地素材であり、前記左側布と右側布の股上部は、後中心側の縁部が互いに縫い合わされ、前中心側ではウエスト部の上端からスライドファスナーが前記左側布と右側布の前中心側の縁部に取付けられて、前記左側布と右側布の前中心の縁部が前記スライドファスナーにより開閉自在であり、前記スライドファスナーの下止めより下方の股上部の前中心側の縁部が互いに縫い合わされおり、前記ヒップアップ用補強布は後側股部付近からそれぞれ左右の脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るようにして前記左側布および右側布にそれぞれ縫着されており、前記補助布は略長方形状であり、その長辺の長さは前記左側布または右側布の脚部の長さの約2倍であり、前記補助布の一方の長辺の縁部が前記左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫い合わされ、前記補助布の他方の長辺の縁部が前記左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫い合わされており、前記ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部は布地が伸ばされて膨らみが形成されており、前記裏地は更に弾性テープを含んでおり、該弾性テープは伸張した状態で前記縫い合わされた後中心縁部の少なくとも下方部分に縫い付けられて、前記後中心縁部の下方部分にギャザーを形成しており、前記裏地はそのウエスト部をスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて取付けられ、前記スラックス表地における前開きの縁部が裏地の前記スライドファスナーに縫着されることを特徴とするスラックスの裏地。
【請求項2】
前記伸縮性を有する編地素材がパワーネットであって、前記左側布と右側布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の横方向に設定され、前記補助布は伸縮性の大きい方向が短辺の方向に設定されており、前記左右の補強布は共に伸縮性の大きい方向がアンダーパンツ形状裏地の縦方向に設定されいることを特徴とする請求項1記載のスラックスの裏地。
【請求項3】
前記裏地は更にレースを含んでおり、該レースは左右の脚部の下端に縫着されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のスラックスの裏地。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のスラックスの裏地が、ヒップアップ用補強布および弾性テープがスラックス表地に面するようにして、スラックス表地に取付けられていることを特徴とするスラックス。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載のスラックスの裏地が、ヒップアップ用補強布および弾性テープが、スラックス表地には接しない、裏地の内側に位置するようにして、スラックス表地に取付けられていることを特徴とするスラックス。
【請求項6】
股上部と脚部とを有するアンダーパンツ形状のスラックスの裏地を形成するように伸縮性を有する編地素材を裁断して、左側の股上部とこれに連続した左側の脚部とを構成する左側布、右側の股上部とこれに連続した右側の脚部とを構成する右側布、脚部の一部を構成する略長方形状の補助布、および左右のヒップアップ用補強布を形成する工程、前記左側布および右側布それぞれに前記補強布を、後側股部付近から左右の脇部を通りウエスト部の前側中央部まで至るように縫着する工程、前記左側布および右側布の股上部の後中心側の縁部を互いに縫い合わせる工程、前記ヒップアップ用補強布より上方の左側布および右側布におけるヒップ部の箇所に凸型を押付けて熱処理加工を行って、ヒップ部の箇所の布地を伸ばして膨らみを形成する工程、前記左側布と右側布の股上部の前中心側の縁部の下方部分を互いに縫い合わす工程、前記補助布の一方の長辺の縁部を前記左側布および右側布の脚部の前側の縁部に縫い合わせ、前記補助布の他方の長辺の縁部を前記左側布および右側布の脚部の後側の縁部に縫い合わせる工程、前記縫い合わせた後中心縁部の下方部分に弾性テープを伸張した状態で縫い付ける工程、前記左側布と右側布の股上部の前中心側の縁部の上方部分にスライドファスナーを取付ける工程を含むことを特徴とするスラックスの裏地の製造方法。
【請求項7】
前記縫い合わせた後中心縁部、前記縫い合わせた前中心縁部および前記補助布と縫い合わせた脚部の縁部をそれぞれ割って千鳥縫いする工程が前記弾性テープを縫い付ける工程の前にあることを特徴とする請求項6記載のスラックスの裏地の製造方法。
【請求項8】
筒状に縫製された左右の脚部の裾部分にステッチをかける工程を含むことを特徴とする請求項6または請求項7記載のスラックスの裏地の製造方法。
【請求項9】
筒状に縫製された左右の脚部の裾部分にレースを縫着する工程を含むことを特徴とする請求項6または請求項7記載のスラックスの裏地の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9の何れかに記載の方法により製造されたスラックスの裏地のウエスト部をスラックス表地のウエスト部の内側に縫い付けて、前記裏地をスラックス表地に取付け、前記スラックス表地における前開きの縁部を前記裏地のスライドファスナーに縫着することを特徴とするスラックスの裏地の取付け方法。
【請求項11】
前記裏地におけるヒップアップ用補強布および弾性テープがスラックス表地に面するようにして、前記裏地をスラックス表地に取付けることを特徴とする請求項10記載のスラックスの裏地の取付け方法。
【請求項12】
前記裏地におけるヒップアップ用補強布および弾性テープがスラックス表地には接しない、裏地の内側に位置するようにして、前記裏地をスラックス表地に取付けることを特徴とする請求項10記載のスラックスの裏地の取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−191833(P2007−191833A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13146(P2006−13146)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000144256)株式会社三景 (3)
【Fターム(参考)】