説明

スラブの幅圧下用プレス金型、スラブの幅圧下装置及びスラブの幅圧下方法

【課題】ロール幅圧下に先立ってスラブの長手方向両端部について金型幅圧下を行うにあたり、幅圧下後のクロップ切断量を削減することのできる、スラブの幅圧下用プレス金型、スラブの幅圧下装置及びスラブの幅圧下方法を提供する。
【解決手段】金型平行部11と金型傾斜部12とを有するスラブの幅圧下用プレス金型5において、少なくとも金型平行部11に線状溝21が設けられ、かつ線状溝21の先進側15(プレス金型の金型傾斜部12を有する反対側)断面形状については、溝底部から金型表面までの形状が溝傾斜部22を形成し、溝傾斜部22がプレス金型表面25となす角度θが平均で30°未満であり、線状溝21の後進側16断面形状については側壁部23を形成している。線状溝の先進側に傾斜部を有しているので、スラブが拘束を受けずに先進側にスリップすることができ、金型幅圧下後の端面の形状が直線状の好ましい形状となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属スラブを対象とするスラブの幅圧下用プレス金型、スラブの幅圧下装置及びスラブの幅圧下方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板をはじめとする金属板の熱間圧延においては、連続鋳造で金属スラブを鋳造し、その金属スラブを熱間圧延して金属板としている。熱間圧延に供する金属スラブの幅については、圧延後の金属板の所要幅に応じて定められ、広幅から狭幅まで種々の幅の金属スラブが必要とされる。
【0003】
連続鋳造で鋳造する金属スラブの幅を熱間圧延に供する金属スラブの幅と同一とすることができるが、例えば狭幅の金属スラブを連続鋳造する場合、広幅スラブの連続鋳造に比較して連続鋳造の生産性が損なわれることとなる。そこで、連続鋳造においては一律に広幅の金属スラブを鋳造し、熱間圧延の必要に応じて金属スラブの幅圧下を行い、熱間圧延用の狭幅の金属スラブを形成した上で熱間圧延することが行われる。これにより、熱間圧延で使用する金属スラブの幅にかかわらず、常に広幅スラブの連続鋳造を行うことによって連続鋳造の生産性を向上することが可能となる。
【0004】
金属スラブ(以下単に「スラブ」ともいう。)の幅圧下に際しては、スラブの幅方向両側に配置された圧下用ロールによってロール幅圧下を行う。
【0005】
ロール幅圧下によってスラブの幅圧下を行うと、スラブの長手方向両側に塑性変形伸びが発生し、長手方向の両端部がフィッシュテール状またはタング状の形状となり、この部分はクロップとして切断除去する必要があり、製品の歩留りを低下させる要因となっている。
【0006】
ロール幅圧下を行う前に予めスラブの長手方向両端部をプレス金型を用いて幅圧下しておき、その後にロール幅圧下を行うこととすれば、ロール幅圧下のみによる幅圧下に比較して、長手方向両端部のフィッシュテール状またはタング状の形状を軽減することができる。例えば特許文献1には、スラブの先端部と後端部を先細形状に金型プレス処理した後、スラブの全長にわたってロール幅圧下によって所定幅までスラブ幅を減少させる幅圧下方法が開示されている。スラブの金型プレス成形には、スラブの幅方向両側に配置されたプレス金型が用いられる。プレス金型は、スラブの両側面と平行な金型平行部と、この金型平行部に連接して設けられスラブ側面との角度を有する金型傾斜部とを有する一対の金型として形成される。
【0007】
金型幅圧下に際しては、スラブの搬送方向先端側の長手方向端部を幅圧下する場合には、前記金型傾斜部を有する側がスラブの搬送方向と反対側を向くようにプレス金型を配置し、スラブ幅方向両側からプレス金型によってスラブを幅圧下する。ここでは、プレス金型の金型傾斜部を有する側を後進側、その反対側を先進側と呼ぶことにする。なお、スラブの搬送方向後端側の長手方向端部を幅圧下する場合には、金型傾斜部を有する側がスラブの搬送方向に向くようにプレス金型を配置する。
【0008】
プレス金型によって幅圧下を行うに際し、金型傾斜部がスラブと接する面については、金型傾斜部に垂直な方向に対して押圧力が働く。そのためスラブには、プレス金型の後進側に向く分力が働くことになる。スラブの搬送方向先端側の長手方向端部を幅圧下する場合を例にとると、スラブを搬送方向と反対側に押し戻そうとする分力が働くので、スラブと金型との間でスリップが生じて、スラブが幅圧下プレス装置内で停止し、あるいは搬送方向と逆方向に押し戻され、スラブの進行が不能になることがある。
【0009】
そこで特許文献2においては、プレス金型の金型平行部と金型傾斜部の一方又は両方の面に多数の線状溝を設け、それによってスラブを拘束して、スラブとプレス金型間のスリップを防止するようにしている。
【0010】
また特許文献3においては、熱間圧延後の製品に生じる上記線状溝起因のエッジ疵を防止する目的で、線状溝の溝底から立ち上がっている側壁が角度60°〜85°の範囲で傾いているプレス金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−79401号公報
【特許文献2】実開平5−5201号公報
【特許文献3】特開2007−229727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ロール幅圧下によるスラブの幅圧下に先だって、予めスラブの長手方向両端部をプレス金型によって幅圧下を行うのは、長手方向両端部のフィッシュテール状の形状を軽減するためである。ところが、前記特許文献2に記載のように押圧面に線状溝を設けたプレス金型を用いて金型幅圧下を行うと、金型幅圧下後の長手方向両端部のスラブ形状が直線状ではなく、幅方向両側端に比較して幅方向内方側が長手方向外側に張り出した形状となることがわかった。これでは、ロール幅圧下に金型幅圧下を組み合わせるにもかかわらず、幅圧下後に行うクロップ処理でのクロップ切断量を十分に削減することができない。
【0013】
本発明は、ロール幅圧下に先立ってスラブの長手方向両端部について金型幅圧下を行うにあたり、幅圧下後のクロップ切断量を削減することのできる、スラブの幅圧下用プレス金型、スラブの幅圧下装置及びスラブの幅圧下方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
スラブの長手方向両端部をプレス金型によって幅圧下した際、スラブは幅が圧下された分、長手方向と厚み方向に広がろうとする。ところが、プレス金型の押圧面に線状溝が形成されている場合は、スラブ側面がこの線状溝に噛み込むこととなるので、プレス金型と接しているスラブ側面は長手方向に伸びることができない。そのため、金型プレスを行っているスラブの長手方向端部については、幅方向両側端部はプレス金型の線状溝に拘束されて伸びず、一方で幅方向内方側については拘束がないので長手方向外側に伸びることが可能である。金型幅圧下が完了した後、幅方向両側端に比較して幅方向内方側が長手方向外側に張り出した形状となるのは、これが原因であることが判明した(図3(c)参照)。
【0015】
幅圧下のためのプレス金型の押圧面に線状溝を設けるに際して、線状溝の断面形状において、後進側(プレス金型の金型傾斜部を有する側)については、スラブが後進側方向にスリップを防止するために側壁を設けてスラブを受け止める必要がある。一方、線状溝の断面形状のうち先進側(プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側)については溝傾斜部とし、溝傾斜部がプレス金型表面となす角度が平均で30°未満とすることにより、スラブが長手方向に伸びたときにスラブが拘束を受けずに先進側にスリップすることができるので、スラブの長手方向への伸び方がスラブ幅方向で均一化され、金型幅圧下後のスラブ長手方向端面の形状が、幅方向に直線状の好ましい形状となることを見出した(図3(b)参照)。
【0016】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、即ち、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)金属スラブ10と接する面としてスラブ側面に平行な金型平行部11とスラブ側面との角度を有する金型傾斜部12とを有するスラブの幅圧下用プレス金型5であって、プレス金型の金型傾斜部12を有する側を後進側16、その反対側を先進側15と呼び、少なくとも金型平行部11に線状溝21が設けられ、かつ金型傾斜部12に設けられた線状溝21の一部又は全部及び金型平行部11に設けられた線状溝21の先進側断面形状については、溝底部から金型表面までの形状が溝傾斜部22を形成し、溝傾斜部22がプレス金型表面25となす角度θが平均で30°未満であり、線状溝21の後進側断面形状については側壁部23を形成し、側壁部23がプレス金型表面25となす角度が31°〜直角であることを特徴とするスラブの幅圧下用プレス金型。
(2)金属スラブ10をその長手方向に搬送するスラブ搬送装置8と、金属スラブ10の幅両側に配置したプレス金型5と、プレス金型5によってスラブを幅方向に金型幅圧下を行うプレス装置6とを有し、プレス金型5として上記(1)に記載の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とするスラブの金型幅圧下装置。
(3)金属スラブ10の長手方向両端部又は一方の端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型5によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行うスラブの幅圧下方法において、プレス金型5として上記(1)に記載の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とするスラブの幅圧下方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、スラブの幅圧下用プレス金型において、プレス金型の押圧面に金型傾斜部に線状溝が設けられ、線状溝の断面形状について、プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側(先進側)については、溝底部から金型表面までの形状が溝傾斜部を形成し、該溝傾斜部がプレス金型表面となす角度が平均で30°未満とする。線状溝の後進側断面形状については側壁部を設ける。これにより、スラブが長手方向に伸びたときにスラブが拘束を受けずに先進側にスリップすることができるので、スラブの長手方向への伸び方がスラブ幅方向で均一化され、金型幅圧下後のスラブ長手方向端面の形状が、幅方向に直線状の好ましい形状となる。その結果、スラブの幅圧下用プレス金型、スラブの幅圧下装置及びスラブの幅圧下方法において、ロール幅圧下に先立ってスラブの長手方向両端部について金型幅圧下を行うにあたり、幅圧下後のクロップ切断量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のプレス金型を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は線状溝の部分断面図である。
【図2】本発明のプレス金型における線状溝の形状例を示す図である。
【図3】金型幅圧下を行う際のスラブ長手方向端面の形状変化を示す図であり、(a)は幅圧下前、(b)は本発明の幅圧下後、(c)は従来例の幅圧下後である。
【図4】スラブ幅圧下装置の全体概念図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】金型幅圧下の経過を示す図である。
【図6】本発明のプレス金型における線状溝の形状例を示す図である。
【図7】プレス金型における線状溝の形状例を示す図であり、(a)は本発明例、(b)は従来例である。
【図8】本発明の線状溝における溝傾斜部の傾き角θとスリップ発生率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図4に示すように、連続鋳造機1を出た金属スラブは、加熱炉2に装入されて加熱され温度が均一化される。次いで加熱炉2から搬出した金属スラブ10は金型幅圧下装置3に導かれる。金型幅圧下装置3においては、スラブの幅方向両側にプレス金型5が配置されている。プレス金型5は、スラブの両側面と平行な金型平行部11と、この金型平行部に連接して設けられた金型傾斜部12とを有する一対の金型として形成される。金型傾斜部12は、金型平行部11に対して10〜15°程度の傾斜をもって形成される。図5に示すように、スラブ幅方向両側に配置されたプレス金型5でスラブの長手方向両端部を幅方向からプレスする。図5(a)の状態から、図5(b)(c)のように幅方向に必要に応じて複数回、次いで図5(d)のように長手方向にスラブを移動し、さらに図5(e)(f)のように複数回の幅圧下を行うことにより、スラブの長手方向両端部の形状を先細形状とすることができる(図5(g))。
【0020】
次いで、スラブはロール幅圧下装置4に導かれる。ロール幅圧下装置4においては、スラブの幅方向両側に圧下用ロール7が配置され、幅圧下量に見合ったロール間隔で圧下用ロール7を配置し、圧下用ロール7の間にスラブ10を送り込むことにより、ロール幅圧下が行われる。
【0021】
金型幅圧下に際しては、スラブの搬送方向先端側の長手方向端部を幅圧下する場合には、金型傾斜部12を有する側がスラブの搬送方向と反対側を向くようにプレス金型5を配置し、スラブ幅方向両側からプレス金型5によってスラブを幅圧下する(図5)。ここでは、プレス金型の金型傾斜部12を有する側を後進側16、その反対側を先進側15と呼ぶことにする。なお、スラブの搬送方向後端側の長手方向端部を幅圧下する場合には、金型傾斜部を有する側がスラブの搬送方向に向くようにプレス金型を配置する。
【0022】
プレス金型によって幅圧下を行うに際し、金型傾斜部がスラブと接する面については、金型傾斜部に垂直な方向に対して押圧力が働く。そのためスラブには、プレス金型の後進側に向く分力が働くことになる。スラブの搬送方向先端側の長手方向端部を幅圧下する場合を例にとると、スラブを搬送方向と反対側に押し戻そうとする分力が働くので、スラブと金型との間でスリップが生じて、スラブが幅圧下プレス装置内で停止し、あるいは搬送方向と逆方向に押し戻され、スラブの進行が不能になることがある。スラブのスリップを防止する目的で、プレス金型においては、プレス金型のスラブと接する押圧面に線状溝が設けられる。
【0023】
そこで、本発明の幅圧下用プレス金型について説明する。
【0024】
本発明のプレス金型においても、図1(a)に示すように、プレス金型5のスラブと接する押圧面である金型平行部11と金型傾斜部12に線状溝21が設けられている。線状溝21の線状方向については、スラブの搬送方向と平行でさえなければ幅圧下時にスラブを拘束することができるが、スラブの搬送方向に対して30°超の角度とすれば拘束力を発揮することができる。線状溝の線状方向をプレス金型の押圧面にスラブの搬送方向と直角の方向に向けると最も好ましい。
【0025】
線状溝21は、プレス金型5の押圧面を形成する金型傾斜部12及び金型平行部11のうち、少なくとも金型平行部11に設ける。幅圧下中において、スラブ側面が金型傾斜部12に接しているときに、後進側に向けた力がスラブに付与され、スラブがスリップするので、線状溝21を少なくとも金型平行部11に設けておけば、スリップ防止の効果を発揮するからである。線状溝21を金型傾斜部12にも設けるとより好ましい。押圧面に設ける線状溝21の数は限定されない。通常は金型傾斜部12及び金型平行部11に、合計で15〜30個程度の線状溝21が設けられる。
【0026】
本発明は、線状溝の断面形状に特徴がある。断面とは、線状溝の線状方向に垂直な断面である。
【0027】
ロール幅圧下によるスラブの幅圧下に先だって、予めスラブの長手方向両端部をプレス金型によって幅圧下を行うのは、長手方向両端部のフィッシュテール状の形状を軽減するためである。ところが、押圧面に線状溝を設けた従来のプレス金型を用いて金型幅圧下を行うと、金型幅圧下前には長手方向端面14のスラブ形状が直線であったものが(図3(a))、金型幅圧下後の長手方向端面14のスラブ形状が直線状ではなく、幅方向両側端に比較して幅方向内方側が長手方向外側に張り出した形状となることがわかった(図3(c))。これでは、ロール幅圧下に金型幅圧下を組み合わせるにもかかわらず、幅圧下後に行うクロップ処理でのクロップ切断量を十分に削減することができない。
【0028】
スラブの長手方向両端部をプレス金型によって幅圧下した際、スラブは幅が圧下された分、長手方向と厚み方向に広がろうとする。ところが、プレス金型の押圧面に線状溝が形成されている場合は、スラブ側面がこの線状溝に噛み込むこととなるので、プレス金型と接しているスラブ側面は長手方向に伸びることができない。そのため、金型プレスを行っているスラブの長手方向端面14については、幅方向両側端部はプレス金型の線状溝に拘束されて伸びず、一方で幅方向内方側については拘束がないので長手方向外側に伸びることが可能である。金型幅圧下が完了した後、幅方向両側端に比較して幅方向内方側が長手方向外側に張り出した形状となるのは、これが原因であることが判明した。
【0029】
そこで、図7(a)に示すように、線状溝21の断面形状のうち先進側15(プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側)の形状を種々変更し、金型幅圧下時のスリップ発生状況を評価した。使用したプレス金型5のスラブ長手方向形状は、金型平行部11の長さが500mm、金型傾斜部12の長さが850mmである。金型傾斜部12は金型平行部11に対して13°傾斜している。線状溝21の数は、金型平行部11に6個、金型傾斜部12に14個である。線状溝21の深さdは2mm、溝底部24に幅W=10mmの底面を有し、線状溝21の断面形状のうち後進側16(プレス金型の金型傾斜部を有する側)はプレス金型表面25に対して垂直とし、先進側15(プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側)については溝傾斜部22とし、溝傾斜部22がプレス金型表面に対する角度(傾き角θ)を5〜60°の範囲で変化させた。金型幅圧下時のスリップ発生状況については、複数の異なるスラブに対する幅圧下にてスリップが確認されたスラブの本数比としてスリップ発生率(%)を評価した。結果を図8に示す。図8から明らかなように、傾き角θが30°以上と大きいとスリップが発生しないが、傾き角θが30°未満でスリップが発生し始め、傾き角θが15°以下ではスリップ発生率が100%となることがわかった。
【0030】
そこで本発明においては、線状溝21の断面形状のうち先進側15(プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側)については溝傾斜部22とし、溝傾斜部22がプレス金型表面25となす角度(傾き角θ)が平均で30°未満とする。これにより、スラブが長手方向に伸びたときにスラブが受ける拘束が低減して先進側にスリップすることができるので、スラブの長手方向への伸び方がスラブ幅方向で均一化され、金型幅圧下後のスラブ長手方向端面の形状が、幅方向に直線状の好ましい形状となる(図3(b)参照)。傾き角θは30°未満であると好ましい。25°以下であるとより好ましい。15°以下であるとスリップ率が100%となるのでさらに好ましい。
【0031】
線状溝断面形状における溝傾斜部22は、図2(a)に示すように、溝底部24からプレス金型表面25までのいずれの部分もプレス金型表面となす角度が平均で30°未満であることとすることができる。あるいは、図2(d)に示すように、プレス金型表面25と接する部分(起点26)から溝底部24と接する部分(終点27)までの間にプレス金型表面となす角度が30°以上の急勾配部28を一部有していても良い。この場合、溝傾斜部のうち急勾配部28が占める比率は、線状溝の深さ方向で50%以下とする。そして、溝傾斜部22がプレス金型表面25となす角度(傾き角θ)が平均で30°未満とする。溝傾斜部のプレス金型表面における起点26と、線状溝底面における終点27とを直線で結び、その直線がプレス金型表面となす角度が30°未満であればよい。
【0032】
幅圧下のためのプレス金型の押圧面に線状溝を設けるに際して、線状溝の断面形状において、後進側16(プレス金型の金型傾斜部を有する側)については、スラブが後進側方向にスリップするのを防止するために側壁部23を設けてスラブを受け止める必要がある。側壁部23は、図2(a)に示すように、プレス金型表面25に対して直角とすることができる。図2(c)に示すように、直角ではなく角度を有する場合、側壁部23とプレス金型表面25との角度φが31°以上であれば、スラブが後進側方向にスリップするのを防止することができる。40°以上であるとより好ましい。側壁部23がプレス金型表面25に対して垂直であっても、図6に示すように、断面形状における側壁部と溝底部との接点部分にR部を設けておけば、熱間圧延後の製品に生じる線状溝起因のエッジ疵を防止することができる。R部の曲率半径は線状溝深さの20%以上程度とすればよい。
【0033】
線状溝の深さはスラブのサイズや圧下条件によって選定すべきであるが、例えば0.1〜3mmの範囲程度とすればよい。
【0034】
線状溝の溝底部24には、図2(a)に示すように、プレス金型表面と平行である底面部を設けることができる。図2(b)に示すように、底面部を設けず、溝傾斜部と側壁部のみで形成されることとしてもよい。底面部を設ける場合、底面部の幅Wは、多くても線状溝深さdの20倍程度とすればよい。
【0035】
プレス金型の金型平行部11に線状溝21を設ける場合、設けた線状溝21のすべてについて、本発明の溝傾斜部22を設ける。金型平行部11については、金型プレス時にスラブが先進方向にスリップする必要があるからである。一方、金型傾斜部12に設けた線状溝21については、その一部又は全部に本発明の溝傾斜部22を設ける。金型傾斜部12に設けた線状溝21のうち、最も後進側16に設けた線状溝については、金型幅圧下中においてスラブ側面がこの線状溝を先進側にスリップすることがないので、必ずしも本発明の溝傾斜部を設ける必要はない。最も後進側から5個程度の線状溝についても同様である。一方、最も後進側から10個よりも先進側の線状溝については、金型幅圧下時にスラブ側面が先進側にスリップする必要が生じる可能性が高いので、本発明の溝傾斜部を設ける。
【0036】
図4に基づいてさらに本発明を説明する。
【0037】
本発明のスラブの金型幅圧下装置3は、金属スラブ10をその長手方向に搬送するスラブ搬送装置8と、金属スラブの幅両側に配置したプレス金型5と、プレス金型5によってスラブを幅方向に金型幅圧下を行うプレス装置6とを有し、プレス金型5として上記本発明の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とする。
【0038】
本発明のスラブの幅圧下方法は、金属スラブの長手方向両端部又は一方の端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型5によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行うスラブの幅圧下方法において、プレス金型5として上記本発明の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とする。
【0039】
連続鋳造を完了し、加熱炉2で加熱され温度が均一化されたスラブは、金属スラブをその長手方向に搬送するスラブ搬送装置8によって、スラブを金型幅圧下装置3に移動する。スラブ搬送装置8は、搬送ロールを多数並べた搬送テーブルとして構成される。金型幅圧下装置3においては、スラブの幅方向両側に本発明のプレス金型5が配置されている。プレス金型5にはスラブを幅方向に圧下するためのプレス装置6が接続される。プレス装置6としては、油圧圧下装置、電動モーター、クランク装置、圧下開度調整装置を好適に用いることができる。
【0040】
まず、スラブの長手方向先端部をプレス金型の位置に配置し、プレス金型の金型傾斜部がスラブ搬送方向後進側を向くように配置し、図5に示すように、スラブ幅方向両側に配置されたプレス金型5でスラブの長手方向先端部を幅方向からプレスする。図5(a)の状態から、図5(b)(c)のように幅方向に必要に応じて複数回、次いで図5(d)のように長手方向にスラブを移動し、さらに図5(e)(f)のように複数回の幅圧下を行うことにより、スラブの長手方向先端部の形状を先細形状とすることができる(図5(g))。スラブの長手方向後端部の形状を先細形状とする場合には、スラブの長手方向後端部をプレス金型の位置に配置し、プレス金型の金型傾斜部がスラブ搬送方向前進側を向くように配置し、プレス金型でスラブの長手方向後端部を幅方向からプレスする。こうして、スラブの長手方向両端部の形状を先細形状とすることができる。
【0041】
本発明のスラブの幅圧下方法においては次いで、幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行う。ロール幅圧下装置4の1回あたりの圧下量が大きいほど圧下荷重が増大する。ロール幅圧下装置の最大許容荷重から、1回あたりの圧下量の許容最大値が求まる。スラブの幅圧下量が大きい場合には、複数回に分けてロール幅圧下を行うこととなる。
【0042】
本発明の金型幅圧下装置を用いた幅圧下、及び本発明のスラブの幅圧下方法によって、金型幅圧下後のスラブ長手方向端部の形状が直線状に近くなるので、幅圧下を終了した後のクロップロスを低減することができる。
【0043】
本発明のプレス金型は、連続鋳造直後の金属スラブを対象とする幅圧下のみならず、スラブを熱間圧延して鋼帯とする熱間圧延装置において、熱間圧延に先立って行う幅圧下に用いても好適な効果を得ることができる。
【実施例】
【0044】
図4に示すように、連続鋳造機1で鋳造した鋼スラブを対象とし、長手方向両端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型5によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行うに際し、本発明を適用した。連続鋳造直後の鋼スラブの形状は、厚さが280mm、幅が1800mmである。幅圧下後のスラブ幅は1500mmである。
【0045】
連続鋳造後の鋼スラブを加熱炉2に装入し、スラブ表面温度が1100℃程度になるように加熱する。次いで加熱炉から搬出した金属スラブは金型幅圧下装置3に導かれる。金型幅圧下装置3においては、スラブの幅方向両側にプレス金型5が配置されている。プレス金型5は、スラブの両側面と平行な金型平行部11と、金型平行部11に連接して設けられた金型傾斜部12とを有している。スラブ幅方向両側に配置されたプレス金型5は、プレス装置6によってスラブに押し付けられ、スラブの長手方向両端部を幅方向からプレスする。金型幅圧下の結果として、鋼スラブはスラブ長手方向両端部が先細形状となる。
【0046】
次いで、スラブはロール幅圧下装置4に導かれる。ロール幅圧下装置4においては、スラブの幅方向両側に圧下用ロール7が配置され、幅圧下量に見合ったロール間隔で圧下用ロールを配置し、圧下用ロール7の間にスラブを送り込むことにより、ロール幅圧下が行われる。圧下用ロールの直径は1000mm、圧下荷重の許容最大値は1400トンである。
【0047】
使用したプレス金型5の本発明例、比較例に共通する形状について説明する。スラブ長手方向形状は、金型平行部11の長さが500mm、金型傾斜部12の長さが850mmである。金型傾斜部12は金型平行部11に対して13°傾斜している。線状溝21の数は、金型平行部11に6個、金型傾斜部12に14個である。線状溝21の深さdは2mm、溝底部24に幅Wが30mmの底面を有する。線状溝21の断面形状のうち後進側16(プレス金型の金型傾斜部を有する側)はプレス金型表面25に対して垂直な側壁部24としている。溝底部24と側壁部23との間に曲率半径1mmのR部を有している。
【0048】
本発明例のプレス金型においては、図7(a)に示すように、先進側15(プレス金型の金型傾斜部を有する側の反対側)の線状溝断面形状については傾き角が10°の溝傾斜部22としている。それに対し比較例のプレス金型においては、図7(b)に示すように、先進側15の線状溝断面形状をプレス金型表面に対して垂直な側壁部23bとしている。
【0049】
スラブの幅圧下量を300mmとし、本発明例及び比較例のプレス金型を用い、金型幅圧下とそれに引き続いてロール幅圧下を行い、その後にクロップ切断を行った。切断したクロップ長さの平均値が、比較例では40mmであったのに対し、本発明例では35mmと低減し、本発明のプレス金型を用いることによるクロップ切断量の低減効果が明らかである。
【符号の説明】
【0050】
1 連続鋳造機
2 加熱炉
3 金型幅圧下装置
4 ロール幅圧下装置
5 プレス金型
6 プレス装置
7 圧下用ロール
8 スラブ搬送装置
10 スラブ
11 金型平行部
12 金型傾斜部
13 スラブ側面
14 スラブ長手方向端面
15 先進側
16 後進側
21 線状溝
22 溝傾斜部
23 側壁部
24 溝底部
25 プレス金型表面
26 起点
27 終点
28 急勾配部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スラブと接する面としてスラブ側面に平行な金型平行部とスラブ側面との角度を有する金型傾斜部とを有するスラブの幅圧下用プレス金型であって、プレス金型の金型傾斜部を有する側を後進側、その反対側を先進側と呼び、少なくとも前記金型平行部に線状溝が設けられ、かつ前記金型傾斜部に設けられた線状溝の一部又は全部及び前記金型平行部に設けられた線状溝の先進側断面形状については、溝底部から金型表面までの形状が溝傾斜部を形成し、該溝傾斜部がプレス金型表面となす角度が平均で30°未満であり、線状溝の後進側断面形状については側壁部を形成し、該側壁部がプレス金型表面となす角度が31°〜直角であることを特徴とするスラブの幅圧下用プレス金型。
【請求項2】
金属スラブをその長手方向に搬送するスラブ搬送装置と、金属スラブの幅両側に配置したプレス金型と、該プレス金型によってスラブを幅方向に金型幅圧下を行うプレス装置とを有し、前記プレス金型として請求項1に記載の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とするスラブの金型幅圧下装置。
【請求項3】
金属スラブの長手方向両端部又は一方の端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロールによってロール幅圧下を行うスラブの幅圧下方法において、前記プレス金型として請求項1に記載の幅圧下用プレス金型を用いることを特徴とするスラブの幅圧下方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218441(P2011−218441A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93425(P2010−93425)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】