説明

スラブ調複合仮撚糸、それを用いてなる織編物およびスラブ調複合仮撚糸の製造方法

【課題】セルロース誘導体をベースとした糸条を鞘糸にしてスラブ調複合仮撚を施すことで、光沢感、吸放湿性というセルロース系繊維の特長に加え、上質なシャリ感という物理的特性を付与した織物を提供する。
【解決手段】芯部に位置する糸条aに対し鞘部に位置する糸条bが1重に巻き付いてなる部分と3重に巻き付いてなる部分を糸長手方向に交互に有する複合仮撚加工糸であり、その糸条bが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなるスラブ調複合仮撚糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、婦人衣料用途に好適なセルロースエステル系スラブ調複合仮撚糸およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、本発明で用いられるセルロースエステル組成物が熱可塑性を有するため本複合仮撚加工によって強固でスラブ部を付与されたスラブ調複合仮撚糸およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、スラブ調複合仮撚糸として、芯糸に対し過剰供給された鞘糸が三重巻付構造を持ったスラブ部と該鞘糸が一重巻付構造を持った道中部とで構成されたスラブ調複合仮撚糸が多数提案されている。(例えば、特許文献1参照)
また、上品な光沢や吸放湿性などの特徴を織物に付与するため、ビスコースやキュプラなどからなるレーヨン繊維や、セルロースジアセテートおよびセルローストリアセテートなどからなるセルロース単一エステル繊維などのセルロース系繊維を用いてのスラブ調複合仮撚糸も提案されているが(例えば、特許文献2等)、いずれも構成成分が熱可塑性を有してない原因でスラブ巻付状態が弱く、後工程時の糸摩擦により道中部に糸割れが生じ、スラブの崩れが発生するなどの問題が発生していた。
【0003】
また、芯糸をセルロース繊維とポリエステル系繊維の2本以上の糸条で構成し、芯糸相互の糸条のもつれによる効果でスラブ崩れのないスラブ調複合仮撚糸が得られるとしている技術もあるが(特許文献2参照)、当該技術鞘糸にポリエステル系繊維などの熱可塑性繊維を用いないと、後工程通過性が不十分なレベルであった。また鞘糸にポリエステル系繊維などを用いると、セルロース繊維が表面に出てこず、シャリ感や上品な光沢を得ることができなかった。
【特許文献1】特公昭45−28018号公報
【特許文献2】特開2002−115132号公報
【特許文献3】特開平7−34345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上述のポリエステル繊維やセルロースアセテート系繊維では達成できなかった、スラブ巻付形状が良くスラブ崩れの発生しない、セルロースエステル系スラブ調複合仮撚糸およびその製造方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする他の課題は、セルロースエステル系繊維が本来有する吸放湿性や光沢感などの利点とスラブ部によるシャリ感、表面観を併せ持つ織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成する本発明のセルロースエステル系スラブ調複合仮撚糸は、以下の構成からなるものである。
【0006】
すなわち、芯部に位置する糸条aに対し鞘部に位置する糸条bが一重に巻き付いてなる部分と三重に巻き付いてなる部分を糸長手方向に交互に有する複合仮撚糸であって、繰り返し伸長後のスラブ崩れ率(CF1)が5%以下であり、糸条bが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなるスラブ調複合仮撚糸、である。
【0007】
また、好ましくは、芯部を構成する糸条aが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなり、複合加工糸の初期引張抵抗度が10cN/dtex以上25cN/dtex以下であることを特徴とするスラブ調複合仮撚糸、である。
【0008】
また、好ましくは、セルロースエステルが、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートからなる群から選ばれた少なくとも1種のセルロースエステルであることを特徴とするスラブ調複合仮撚糸、である。
【0009】
また、好ましくは、セルロースエステル組成物が、水溶性可塑剤を2〜25wt%含有することを特徴とするスラブ調複合仮撚糸、である。
【0010】
または、前記スラブ調複合仮撚糸を少なくとも一部に用いてなり、20℃・65%RHにおける吸湿率が1〜10%であることを特徴とする織編物。
【0011】
または、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなる糸条bを仮撚加工中の糸条aの加撚域に1.3〜2.5倍の比率で過供給し、100℃以上150℃以下の仮撚加工温度で仮撚加工することを特徴とするスラブ調複合仮撚糸の製造方法、である。
【0012】
また、好ましくは、セルロースエステル組成物が、水溶性可塑剤を2〜25wt%含有することを特徴とするスラブ調複合仮撚糸の製造方法、である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、従来得られなかったセルロース誘導体をベースとした糸条を鞘糸にしてスラブ調複合仮撚を施すことで、光沢感、吸湿性というセルロース系繊維の特長に加え、上質なシャリ感という物理的特性を織編物に付与することができる。
【0014】
また、本発明の織編物は、衣料として特に婦人衣料素材に好適であるが、それ以外に和装やスポーツ衣料などにも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のスラブ調複合仮撚糸は、芯部に位置する糸条aに対し鞘部に位置する糸条bが一重に巻き付いてなる部分と三重に巻き付いてなる部分を糸長手方向に交互に有する複合仮撚糸である。
【0016】
本発明のスラブ調複合仮撚糸において、糸条bはセルロースエステル組成物よりなるが、そのセルロースエステル組成物の主成分であるセルロースエステルは、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたものである。糸条bが炭素数2のアシル基であるアセチル基のみによって置換された、セルロースジアセテートやセルローストリアセテートなどのセルロースアセテートからなると、ポリマー組成物としての熱可塑性が殆どないため、仮撚加工時の十分な熱セットを受けることができず、巻付き状態を得ることができない。また、アシル基の炭素数が18未満であれば置換しても、仮撚糸の強度および耐熱性が低下することがない。
【0017】
ここで炭素数が3以上18以下であるアシル基の具体例としては、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基およびオクタデカノイル基などがあげられる。また、水酸基を置換するアシル基は1種類である必要はなく、炭素数2のアセチル基と炭素数3のプロピオニル基によって置換されたセルロース混合エステルであってもよい。
【0018】
また、本発明のスラブ調複合仮撚糸の繰り返し伸長後のスラブ崩れ率(CF1)は5%以下であることが重要である。元来、セルロース繊維からなるスラブ調複合仮撚糸は、例えば整経や製織時に糸が張力を受け、鞘糸が糸長手方向にずれて偏在化し、スラブくずれとなりやすい。このスラブくずれの発生を防ぐには、繰り返し伸長後も解けないスラブ形態にすることが重要である。
【0019】
本発明のスラブ調複合仮撚糸のスラブ部分は、鞘糸であるセルロースエステル組成物よりなる糸条bが適度な熱可塑性を有するために、融着しやすく、芯糸である糸条aに強固に巻き付くことができることで、繰り返し伸長後のスラブ崩れ率(CF1)を5%以下にすることができ、準備・製織時にもスラブ崩れは発生しにくく、表面品位の良い織物を得ることができる。ここでスラブ崩れ率(CF1)が5%を超えると、織物表面品位が悪いばかりでなく、製織時に毛羽が発生するなど、工程通過性にも問題が発生する。さらに好ましいスラブ崩れ率(CF1)は3%以下であり、低ければ低いほど好ましい。
【0020】
ここでスラブ崩れ率(CF1)は次の測定方法で求めた値をいう。定速伸長型引張試験機を用い、1デシテックス当たり0.08826cNの初荷重をかけた状態で一定間隔のつかみに取付け、一定の引張速度で10%の伸度まで引き伸ばし、直ちに、同じ速度で除重し、完全に除重する。その後、糸条aと糸条bが分離している部分の糸条bの長さの合計長を測定し、この作業を10回繰り返し行なった平均値を(CF)(cm)とする。そして、下記の式でスラブ崩れ率(CF1)を求める。
CF1(%)=CF/50×100
また、本発明で芯部を構成する糸条aも、糸条bと同様に、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなることが好ましい。糸条aが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなることで吸放湿性や光沢感にさらに優れた織編物を得ることができる。
【0021】
さらに本発明のスラブ調複合仮撚糸の初期引張抵抗度が10cN/dtex以上25cN/dtex以下であることが好ましい。また、初期引張抵抗度が10cN/dtex以上25cN/dtex以下であることが好ましい。初期引張抵抗度が10cN/未満であると、糸が伸ばされやすく、三重部の巻付部がくずれやすい。また25cN/dtexを越えるとセルロースの特徴であるソフト感が得られにくくなる。
【0022】
ここで初期引張抵抗度は次の測定方法で求めた値をいう。引張試験器を用い、試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行い、応力(cN/dtex)−伸長率(%)曲線を5本得る。得られたそれぞれの曲線に対して、初期直線部分と平行な伸度0%の点を通る直線を引き、伸度10%の時の接線上の応力を読みとって、これを10倍した値をその試料の初期引張抵抗度とする。なお、測定のn数は5とし、平均値をもってその繊維の初期引張抵抗度とする。
【0023】
本発明においては、糸条aと糸条bのいずれもが、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなることが好ましいが、本発明で採用し得る具体的なセルロースエステルの例としては、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、また、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートカプロネート、セルロースアセテートカプリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートパルミテート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースアセテートフタレートおよびセルロースプロピオネートブチレートなどが挙げられる。中でも、製造が容易なことおよび耐熱性が優れていることから、本発明では、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートからなる群から選ばれた少なくとも1種のセルロースエステルが、特に好適である。
【0024】
また、セルロースの水酸基のアシル基による置換割合(置換度)は、セルロースを構成するグルコース単位あたり3個存在する水酸基のうち、2.4〜3.0個に相当する水酸基がアシル基によって置換されていることが好ましい。水酸基の置換度は、2.5〜2.9個がより好ましく、2.6〜2.8個が最も好ましい。ただし、セルロースエステルが2種類以上のアシル基によってエステル化されたものである場合には、置換度とは、全てのアシル基による置換度のトータルを意味する。
【0025】
少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルは、公知の方法によって合成し得ることができる。
【0026】
また、本発明で用いられるセルロースエステル組成物は、前述のセルロースエステルを主成分とするものであるが、セルロースエステルの他に可塑剤を2〜25wt%含有するセルロースエステル組成物も好適に採用される。
【0027】
可塑剤を含有するセルロースエステル組成物からなるセルロースエステル系繊維は、仮撚加工時の熱セット性が良好であり、その結果、強固な捲縮を有するスラブ調複合仮撚糸が得られる。可塑剤の含有量は、2wt%〜25wt%であることが好ましい。含有量が2wt%以上であれば、セルロースエステル組成物全体の熱可塑性と熱セット性が良好となり、また、含有量が25wt%以下であれば、スラブ調複合仮撚糸の強度や耐熱性を過度に低下させることがない。本発明において、セルロースエステル組成物中の可塑剤含有量は、より好ましくは5〜20wt%であり、最も好ましくは10〜18wt%である。
【0028】
可塑剤は、仮撚加工時には繊維に熱可塑性を付与する重要な役目を果たすが、最終製品である織物や編物等の繊維構造物中に残存してしまう場合、耐熱性の低下や染色堅牢度の悪化などの望ましくない影響を及ぼす。そのため、本発明における可塑剤は水溶性であることが好ましい。ここで水溶性とは室温水あるいは加熱された水に対する溶解度が2wt%以上であることを意味している。
【0029】
本発明で用い得る水溶性可塑剤としては、具体的には、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよびこれらの変性体および共重合体などを挙げることができる。水溶性可塑剤としてポリエチレングリコールを用いる場合には、その分子量は400〜2000であることが好ましく、500〜1500であることが最も好ましい。
【0030】
本発明において糸条aや糸条bを構成するセルロースエステル系繊維は、セルロースエステルおよび可塑剤を少なくとも含んでなるセルロースエステル組成物を、公知の溶融押出紡糸機において加熱溶融した後、口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻き取る方法により製造することができる。この際、紡糸温度は180〜260℃が好ましく、さらに好ましくは190〜250℃である。紡糸温度を180℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上する。また、紡糸温度を260℃以下にすることにより、セルロースエステル組成物の熱分解が抑制される。
【0031】
また、本発明における糸条aや糸条bを構成するセルロースエステル系繊維の断面形状は、円形であっても異型であっても構わないが、上品な光沢を生ずることから、三角や六葉などの凸部や凹部を有する異形断面形状が好ましい。
【0032】
本発明のスラブ調複合仮撚糸の糸条bを構成する繊維の単繊維繊度は、シャリ感を構築させる観点から1dtex以上が好ましく、ソフトな風合いを得る観点から5dtex以下であることが好ましい。
【0033】
また、糸条aを構成する繊維の単繊維繊度においては、強度を保つ点から1.5dtex以上が好ましく、ソフトな風合いを得る観点から10dtex以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明のスラブ調複合仮撚糸の好ましいトータル繊度は、しなやかな風合いを得る観点から、好ましくは75dtex以上400dtex以下である。
【0035】
次に、本発明のスラブ調複合仮撚糸の製造方法を説明する。
【0036】
本発明のスラブ調複合仮撚糸の製造方法は、少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなる糸条bを仮撚加工中の糸条aの加撚域に1.3〜2.5倍(30%以上250%以下)の比率で過供給し、100℃以上150℃以下の仮撚加工温度で仮撚加工することを特徴とする。
【0037】
糸条aに対して糸条bが1.3〜2.5倍、好ましくは1.5〜2.2倍の比率で過供給される。糸条aに対して糸条bの供給比率が1.3倍より小さいと三重に巻き付いてなる部分は形成されず、2.5倍より大きいと鞘糸である糸条bが弛緩し糸切れする。
【0038】
以下、図1にしたがって本発明のスラブ調複合仮撚糸の製造方法の好ましい態様を具体的に説明する。
【0039】
糸条aは定常的に、安定して供給される。一方、糸条bは供給ローラ1に過供給され、振支点ガイド3、振支点ゾーン4を通って、仮撚ゾーンに挿入される。これにより、糸条bが、糸条aの外側に糸軸方向に三重に巻き付いてなる部分(三重捲回構造を成すスラブ部)と一重に巻き付いてなる部分(一重捲回構造を成す道中部)とが交互に繰り返されて形成される。糸条bは熱可塑性を有するため、加撚域で第1ヒーター5により熱が付与されることで糸条aに強固に巻き付いた形状になり、糸条aと糸条b、すなわち芯鞘が分離しにくく、糸がしごかれてもネップの発生を抑えることができる。
【0040】
仮撚加工に用いる施撚体6としては、ピン、フリクション、ベルトニップなどを用いることができるが好ましくは撚数が安定しているピンタイプである。
【0041】
また、仮撚加工温度は100℃以上150℃以下、好ましくは、110℃以上140℃以下の範囲とする必要がある。仮撚加工温度が100℃より低いと巻付状態が弱くなる。仮撚加工温度が150℃より高いと、繊維の熱劣化により単糸切れが頻繁に発生しやすくなるばかりか、さらには、糸切れの発生を引き起こしやすく、操業上著しい障害になる。
【0042】
複合仮撚糸の三重に巻き付いてなる部分の長さは、鞘糸(糸条b)のオーバーフィード率、振支点ガイド3から芯糸(糸条a)までの距離により変えることが可能で、鞘糸(糸条b)のオーバーフィード率が大きく、振支点ガイド3から芯糸までの距離が長い方が三重に巻き付いてなる部分の長さは長くなる。
【0043】
また、工程通過性の観点から、仮撚数は1000T/m以上3500T/m未満にすることが好ましい。仮撚数が1000T/m未満であると、スナールが多発し、織編物工程通過性が悪くなる。また、3500T/m以上であると、仮撚時の糸切れが発生しやすくなる。より好ましい仮撚数の範囲は、1200T/m以上300T/m未満である。
【0044】
走行する糸条は、施撚体6、フィードローラ(第3ローラー)7を通過した後に解撚され、第2ヒーター8により再熱セットされた後、最終的にワインダー10へと巻き取られる。必要に応じ、フィードローラ(第4ローラー)9後に交絡あるいは混繊を付与してもよい。
本発明のスラブ調複合仮撚糸を用いて、織物もしくは編物(以下、織編物)を製織もしくは編成することができる。本発明で用いられるベースとなるセルロースエステル組成物が、セルロース由来であることによって、衣料用布帛として用いられる場合に吸放湿性や発色性、接触冷感など良好な特性を発現する。
【0045】
本発明の織編物は、本発明のスラブ調複合仮撚糸を少なくとも一部に用いてなり、織編物の形態としては特に制限はなく、任意の組織および糸構成の織編物であってもよい。
また、本発明の織編物は、20℃・65%RHにおける吸湿率が1〜10%であれば、吸放湿性が良好であって、衣料用用途に非常に好適である。吸湿率は織編物の快適性の観点から、2%以上であることが好ましく、4%以上であることが最も好ましい。ここで吸湿率とは次の測定方法で測定した値をいう。すなわち、繊維試料を用意し、その絶乾時の重量(W0)を測定する。この試料を20℃65%RHの状態に調湿された恒温恒湿器中に24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W20)を測定して下記式により求める。
吸湿率(%)=(W20−W0)/W0
【実施例】
【0046】
以下、実施例により、本発明のスラブ調複合仮撚糸とその製造方法について詳細に説明する。なお、実施例中の物性は次の方法により求めた。
A.繰り返し伸長後のスラブ崩れ率(CF1)
自記記録装置付定速伸長型引張試験機を用い、1デシテックス当たり0.08826cNの初荷重をかけた状態で試料を50cmのつかみの間隔に取付、引張速度を20cm/minとして、10%の伸度まで引き伸ばし、直ちに、同じ速度で除重し、完全に除重する。その後、糸条aと糸条bが分離している部分の糸条bの長さの合計長を測定した。この作業を10個の試料について行い(n=10)、10回の平均値CF(cm)を算出した。
下記の式でスラブ崩れ率(CF1)を求めた。
CF1(%)=CF/50×100
B.初期引張抵抗度
インストロン社製引張試験器(インストロン5500R)を用い、試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行い、応力(cN/dtex)−伸長率(%)曲線を5本得た。得られたそれぞれの曲線に対して、初期直線部分と平行な伸度0%の点を通る直線を引き、伸度10%の時の接線上の応力を読みとって、これを10倍した値をその試料の初期引張抵抗度とした。なお、測定のn数は5とし、5回の平均値をもって繊維の初期引張抵抗度とした。
C.吸湿率
繊維試料約1gを用意し、その絶乾時の重量(W0)を測定した。この試料を20℃65%RHの状態に調湿された恒温恒湿器(ナガノ科学機械製LH−20−11M)中に24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W20)を測定して下記式により求めた。
吸湿率(%)=(W20−W0)/W0
D.風合い(シャリ感)
実施例および比較例のそれぞれの生地を手に持ったときの感触で相対的にシャリ感を大変大きく感じるものを◎、大きく感じるものを○、ほとんど感じないものを△、大きく感じないものを×とし、無作為に選んだ5人の評価の平均に近いものを特性とした。
【0047】
E.光沢感
実施例および比較例のそれぞれの生地を見たときに相対的に光沢感を大変大きく感じるものを◎、大きく感じるものを○、ほとんど感じないものを△、大きく感じないものを×とし、無作為に選んだ5人の評価の平均に近いものを特性とした。
【0048】
F.表面品位
実施例および比較例のそれぞれの生地の表面を観察したときに、表面品位が大変良いものを◎、良いものを○、悪いものを×、少し悪いを△とし、無作為に選んだ5人の評価の平均に近いものを特性とした。
【0049】
(実施例1)
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80部(エステル置換度:2.7)と可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製PEG600)20部を含むセルロースエステル組成物を、二軸エクストルーダーで混練してペレットを得た。このペレットを、棚式乾燥機で80℃×8hrの条件で真空乾燥を行って絶乾状態とした後、溶融紡糸機にて紡糸温度260℃、紡糸速度1000m/分の条件で溶融紡糸を行い、105dtex−36fの鞘糸糸条bを得た。
【0050】
一方、芯糸糸条aには105dtex−24fのポリエステル通常糸を使用し、図1の装置により、仮撚数2000T/M、第1ヒーターの温度130℃、第2ヒーター温度120℃、第2供給ローラーの中心と仮撚加撚中の芯糸糸条aとの距離を50mm、仮撚加撚域への芯糸糸条aのオーバーフィード率を5%、鞘糸糸条bの芯糸仮撚域へのオーバーフィード率90%、糸速70m/で仮撚加工を行った結果、三重に巻き付いてなる部分(三重捲回構造を成すスラブ部)と、一重に巻き付いてなる部分(一重捲回構造を成す道中部)とが交互に繰り返されるスラブ調複合仮撚糸が得られた。
このスラブ調複合仮撚糸を経糸・緯糸に用いて、レピア織機を用いて平織物を作成したところ、従来の製織工程中に生じていたスラブ崩れがなく、三重捲回構造を成すスラブ部によるシャリ感に優れ表面品位も良好であった表面品位も良好な織物が得られた。また吸放湿性や光沢感も良好であった。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80部(エステル置換度:2.7)と可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製PEG600)20部を含むセルロースエステル組成物を、二軸エクストルーダーで混練してペレットを得た。このペレットを、棚式乾燥機で80℃×8hrの条件で真空乾燥を行って絶乾状態とした後、溶融紡糸機にて紡糸温度260℃、紡糸速度1000m/分の条件で溶融紡糸を行い、105dtex−24fの芯糸糸条a、105dtex−36fの鞘糸糸条bを得た。
【0052】
その後、実施例1と同じようにして、スラブ調複合仮撚糸を作成し、織物を作成したところ、従来の製織工程中に生じていたスラブ崩れがなく、三重捲回構造を成すスラブ部によるシャリ感に優れ表面品位も良好であった。また吸放湿性や光沢感も良好であった。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で105dtex−24fの芯糸糸条a、105dtex−36fの鞘糸糸条bを得た。その後、図1の装置により、仮撚数2000T/M、第1ヒーターの温度105℃、第2ヒーター温度100℃とした以外は実施例1と同様に、スラブ調複合仮撚糸を作成し、織物を作成したところ、従来の製織工程中に生じていたスラブ崩れが少なく、三重捲回構造スラブによるシャリ感に優れ、表面品位も良好であった。また吸放湿性や光沢感も良好であった。結果を表1に示す。
【0054】
その後、実施例1と同じようにして、スラブ調複合仮撚糸を作成し、織物を作成したところ、従来の製織工程中に生じていたスラブ崩れがなく、三重捲回構造を成すスラブ部によるシャリ感に優れ表面品位も良好であった表面品位も良好な織物が得られた。また吸放湿性や光沢感も良好であった。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
供給する糸条aおよびbとしてセルロースジアセテートフィラメント繊維糸条(110dtex−20f)を用い、第1ヒーターの温度を200℃、第2ヒーター温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてスラブ調複合仮撚糸を得た。その後も実施例1と同様にして織物を作成したところ、スラブ巻付形態が不充分がゆえの糸割れが発生し、製織中に糸切れが多発し、得られた織物の表面もきたないものであった。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例2)
供給する糸条aおよびbとしてポリエチレンテレフタレート繊維糸条(110dtex−24f)を用いて、第1ヒーターの温度を200℃、第2ヒーター温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてスラブ調複合仮撚糸を得た。その後も実施例1と同様にして織物を作成したところ、かたいジャリジャリした風合いの織物が得られた。また吸放湿性や光沢感は不十分なものであった。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のスラブ調複合仮撚加工糸は、特に婦人衣料用途に好適であり、それ以外に和装やスポーツ衣料などにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のセルロースエステル系スラブ調複合仮撚加工糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。
【符号の説明】
【0060】
A:芯糸を構成する糸条(糸条a)
B:鞘糸を構成する糸条(糸条b)
1:第1供給ローラー
2:第2供給ローラー
3:振支点ガイド
4:振支点ゾーン
5:第1ヒーター
6:施撚体
7:第3ローラー
8:第2ヒーター
9:第4ローラー
10:ワインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に位置する糸条aに対し鞘部に位置する糸条bが一重に巻き付いてなる部分と三重に巻き付いてなる部分を糸長手方向に交互に有する複合仮撚糸であって、繰り返し伸長後のスラブ崩れ率(CF1)が5%以下であり、該糸条bが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなることを特徴とするスラブ調複合仮撚糸。
【請求項2】
前記糸条aが少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなり、複合仮撚糸の初期引張抵抗度が10cN/dtex以上25cN/dtex以下であることを特徴とする請求項1に記載のスラブ調複合仮撚糸。
【請求項3】
前記セルロースエステルが、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートからなる群から選ばれた少なくとも1種のセルロースエステルであることを特徴とする請求項1または2に記載のスラブ調複合仮撚糸。
【請求項4】
前記セルロースエステル組成物が、水溶性可塑剤を2〜25wt%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラブ調複合仮撚糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のスラブ調複合仮撚糸を少なくとも一部に用いてなり、20℃・65%RHにおける吸湿率が1〜10%であることを特徴とする織編物。
【請求項6】
少なくとも一部の水酸基が炭素数3〜18のアシル基によって置換されたセルロースエステルを主成分とするセルロースエステル組成物からなる糸条bを、仮撚加工中の糸条aの加撚域に1.3〜2.5倍の比率で過供給し、100℃以上150℃以下の仮撚加工温度で仮撚加工することで糸条aに対し糸条bが1重に巻き付いてなる部分と3重に巻き付いてなる部分を糸長手方向に交互に有することができるスラブ調複合仮撚糸の製造方法。
【請求項7】
前記セルロースエステル組成物が、水溶性可塑剤を2〜25wt%含有することを特徴とする請求項6記載のスラブ調複合仮撚糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−190083(P2008−190083A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26360(P2007−26360)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】