説明

スリップリング装置および回転摺動機構

【課題】一旦スリップリング装置が実機に組付けられると、内筒リングでの摺動部位における接触電位差を計測することができない。
【解決手段】複数段の信号電極リング19と、複数のブラシ23と、複数段の電源電極リング16、17と、電源電極リング16、17の下方に設けられた円筒状の計測用リング26と、各電源電極リング16、17の内側を通って上方に引出された第1の配線材28と、上方にて短絡され折返されて各信号電極リング19内部を通り測定対象の何れかの信号電極リング19に接続される第2の配線材31と、計測用リング26に接触する位置および離れる位置をとる補助ブラシ33とを備え、補助ブラシ33は、計測用リング26に接触し、測定対象の信号電極リング19が回転中のこの信号電極リング19の外周面およびブラシ23間の摺動部位に通電させることを特徴とするスリップリング装置1が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態はスリップリング装置および回転摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
スリップリング装置は電極リングを回転駆動し、ブラシをリング外周面に摺接させ、回転側と固定側との間で電気的結合を行う。
【0003】
本発明者は、スリップリング装置に通電したときの接触点における接触電位差と、接触点の温度とを計測する実験を行った。ブラシ材質には銀黒鉛や金を用いた。接触点とはリング外周面上のリング及びブラシ間の通電接触点を指す。接触電位差とは、リング外周面にブラシを接触させた状態でのリング外周面及びブラシ間の電圧降下を指す。
【0004】
リングの回転時、リング外周面にブラシを接触させた状態での外周面及びブラシ間の電流密度を上昇させると、リング外周面及びブラシ間の接触電圧降下が増大した。接触電位差が限界値を超えると、電流密度が大きくなって通電接触点にスパークが発生することを確認した。接触点の金属の温度がこの金属の融点を上回って金属が溶けることを確認した。接触点の温度は発火点よりも低いことを要する。接触電位差から、接触点の温度を得るための関係を求めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−125927号公報
【特許文献2】特開2003−34284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、信号電極リングが電源電極リング内に収納され、スリップリング装置が実機に組込まれると、リング外周面及びブラシ間の接触電位差の異常な上昇が発生しているかどうかを診断することができない。スリップリング装置は内筒リングを信号段リングとし、外筒リングを電力段リングとする2重構造、あるいは3重構造を持つ。内筒リングの内壁側又は外壁側にブラシが設けられる。一旦スリップリング装置が実機に組付けられると、内筒リングでの摺動部位における接触電位差を計測することができない。
【0007】
スリップリング装置は、種々異なる環境において使用される。温度や湿気の変化が、ブラシ及びリング周面間の接触状態を劣化させることがある。実機にスリップリング装置が組込まれると、接触電位差を監視して、スリップリング装置の動作の診断や、故障の予測を行うことができず、寿命を予測することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、それぞれ円筒状の複数段の信号電極リングと、これらの信号電極リングの外周部側方に設けられた複数のブラシと、これらのブラシおよび前記複数段の信号電極リングを内側に有する円筒状の複数段の電源電極リングと、これらの電源電極リングの下方に設けられた円筒状の計測用リングと、一端がこの計測用リングに接続され各電源電極リングの内側を通って他端が各信号電極リングの上方に引出された第1の配線材と、各一端がこの第1の配線材に前記上方にて短絡され前記上方より折返されて前記各信号電極リング内部を通り各他端のうちの何れかが測定対象の信号電極リングに接続される複数の第2の配線材と、前記複数の第2の配線材の何れかとともに測定端子対を成し、前記計測用リングに接触する位置および前記計測用リングから離れる位置をとる補助ブラシとを備え、この補助ブラシは、前記計測用リングに接触し、前記測定対象の信号電極リングが回転中のこの信号電極リングの外周面および前記ブラシ間の摺動部位に通電させることを特徴とするスリップリング装置が提供される。
【0009】
また、別の一実施形態によれば、それぞれ円筒状の複数段の信号電極リングと、これらの信号電極リングの外周部側方に設けられた複数のブラシと、これらのブラシおよび前記複数段の信号電極リングを内側に有する円筒状の複数段の電源電極リングと、これらの電源電極リングの下方に設けられた円筒状の計測用リングと、一端がこの計測用リングに接続され各電源電極リングの内側を通って他端が各信号電極リングの上方に引出された第1の配線材と、各一端がこの第1の配線材に前記上方にて短絡され前記上方より折返されて前記各信号電極リング内部を通り各他端のうちの何れかが測定対象の信号電極リングに接続される複数の第2の配線材と、前記複数の第2の配線材の何れかとともに測定端子対を成し、前記計測用リングに接触する位置および前記計測用リングから離れる位置をとる補助ブラシと、この補助ブラシに接続された外部電源と、この外部電源が印加した点検用の信号に対する前記測定端子対によるインピーダンスを計測するための計測器とを、備え、前記補助ブラシは、前記計測用リングに接触し、前記測定対象の信号電極リングが回転中のこの信号電極リングの外周面および前記ブラシ間の摺動部位に通電させ、前記計測器はオンラインで回転摺動中の前記摺動部位の接触電圧降下をモニタして自己点検を行うことを特徴とする回転摺動機構が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は実施の形態に係るスリップリング装置の斜視図であり、(b)はカバーを取り払った状態のスリップリング装置の斜視図である。
【図2】実施の形態に係るスリップリング装置に用いられるアウターリング単体の正面図である。
【図3】実施の形態に係るスリップリング装置の上面図である。
【図4】実施の形態に係るスリップリング装置に用いられる金ワイヤブラシの斜視図である。
【図5】実施の形態に係るスリップリング装置に用いられるスイッチ回路の構成の一例を示す図である。
【図6】実施の形態に係るスリップリング装置を含む実施の形態に係る回転摺動機構の構成図である。
【図7】実施の形態に係るスリップリング装置による複数段の信号電極リングの診断方法を説明するための図である。
【図8】従来の測定装置例を示す図である。
【図9】(a)は図8の測定装置の測定回路の構成例を示す図であり、(b)、(c)はそれぞれ図8の測定装置による測定結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に係るスリップリング装置および回転摺動機構について、図1乃至図9を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0012】
実施の形態の説明に先立って、実施の形態に係るスリップリング装置および回転摺動機構に至る過程で検討した内容について述べる。表1は金ワイヤブラシをリング外周面に接触させたときの接触電位差と接触温度との関係例である。
【表1】

【0013】
440mV程度の接触電位差では、スパークが発生した。440mVという数値は、金の融点温度に相当する接触電位差に近い値である。スパークを起こさずに接触摺動を保つ必要がある。約430mv以下を限界領域として接触電位差の値の範囲をこの限界領域内にすることが必要である。接触電位差が約430mv以下である電圧値の接触電位差が加えられている間、スリップリングは破壊されず、可逆的にリング外周面及びブラシ間で信号バイアスを与えることができることを確認した。そこで、実機にスリップリング装置を組込んだ後、接触点の温度と接触電位差との関係を計測することにより、スリップリング装置の動作の診断や、故障予測を行うことが可能となる。
【0014】
一実施の形態に係るスリップリング装置は、信号電極リングと、この信号電極リングの外周面に接触摺動する金ワイヤブラシと、リング外周面及びブラシ間の回転摺動部位の接触電位差を計測する信号折返し点検用の閉回路と、この閉回路に信号バイアスを与える計測用リングとを有する。このスリップリング装置は、診断時に、この計測用リングに、電源とオシロスコープ(計測器)とを接続することによって、実機搭載後、動作診断や故障予測を行えるようにするものである。
【0015】
図1(a)は実施の形態に係るスリップリング装置の斜視図である。図1(b)はカバーを取り払った状態のスリップリング装置の斜視図である。図2はアウターリング単体の正面図である。図3は内外リング、ブラシ及びブラシホルダの配置構造を示すスリップリング装置の上面図である。図3ではカバーを取り払った状態の同じスリップリング装置の構造例が示されており、矢印Aは図2の正面方向に対応する。これらの図中、同じ符号を持つ要素は互いに同じ要素を表す。
【0016】
スリップリング装置1は、上下軸線方向に沿って回転する軸体10と、この軸体10の回転とともに回転する中空円筒状のアウターリング11と、このアウターリング11の内部に配置されたインナーリング12と、アウターリング11の外周部を覆うカバー13とを備えている。軸体10はロータシャフトである。複数段の電極リングが軸体10が軸受14を介して固定体15に回転駆動自在に支持されている。アウターリング11は電力給電用の電源段リングである。インナーリング12は信号伝送用の信号段リングである。カバー13は外筒体である。
【0017】
インナーリング12は軸体10の外周面に固定されている。アウターリング11の内周面がインナーリング12の外周面に対して接触しないようにしてこれらのインナーリング12及びアウターリング11は内外互いに嵌挿されている。アウターリング11は、スリップリング装置1に接続された電源からの直流電力を、スリップリング装置1に接続された例えばアンテナ指向装置100に給電する。
【0018】
アウターリング11は、図2に示すように、それぞれグラウンド電位が印加される例えば偶数n段の接地電極リング16と、それぞれプラス電位が印加されるn段のプラス電極リング17と、それぞれが一段の接地電極リング16及び一段のプラス電極リング17間を電気的に絶縁する複数の絶縁板18とを備えている。各接地電極リング16の外周面及び各プラス電極リング17の外周面の側方にはそれぞれブラシ34が設けられている。各ブラシ34は各外周面と接触し摺動する。
【0019】
インナーリング12は、それぞれ信号が印加される複数段の信号電極リング19と、それぞれ信号電極リング19間用の図示しない絶縁材とを備えている。インナーリング12内部を通る配線材28(第1の配線材)と、インナーリング12外部及びアウターリング11内部間の空隙を通る配線材31(第2の配線材)とはフランジ部21に設けられた開口から上方に引出されている。配線材28、31はシールド電線である。配線材28、31は、アンテナ指向装置100側に各一端をオープンにした状態でインナーリング12内、又は空隙を通されている。配線材28の他端は計測用リング26内側の内周面27に電気的に接続されている。配線材31の他端はインナーリング12内側の内壁に電気的に接続されている。配線材28、31は折返し点検用の閉回路を構成しており、直接には目視できないインナーリング12の外周面上での金ワイヤブラシ23(ブラシ)との接続状況を閉回路により観測可能にされている。
【0020】
各信号電極リング19は金属筒体から成り、内側の内周壁面と外側の外周壁面とを有する。各信号電極リング19の外周壁22には金めっきが施されている。金めっきは外周壁22上で周回形成され上下方向に帯状の幅を有する。信号電極リング19の外周外方には複数の金ワイヤブラシ23が設けられている。各金ワイヤブラシ23にはそれぞれ配線材20が接続されている。これらの配線材20は下方に引出されている。
【0021】
各金ワイヤブラシ23は、軸方向から見て左右一対で「ハ」の字状に配置され且つ上下複数段設けられ、それぞれ信号電極リング19の外周金めっき部に接触してこの信号電極リング19と電気的に結合する。ブラシホルダ25は板状の静止物であり絶縁材料からなる。ブラシホルダ25は接地電極リング16(又はプラス電極リング17)の内側と接しないようにして起立固定されている。
【0022】
図4は金ワイヤブラシ23の斜視図である。同図には、左右一対のうちの一方の金ワイヤブラシ23が上下複数段に亘って配置された例が示されている。既述の符号は上述した要素と同じ要素を表す。各金ワイヤブラシ23は例えば10本程度の細線状の金ワイヤ24から成る。各金ワイヤ24の一端は外周壁22に線接触しそれぞれ他端はブラシホルダ25によって保持される。各金ワイヤ24の他端は一列に束ねられており、一つの金ワイヤブラシ23は薄厚ないしは一片状のブラシ体を呈する。金ワイヤ24の湾曲部は信号電極リング19の外周壁の曲率曲率とほぼ同じ曲げ半径を有する。湾曲は予め形成される。
【0023】
本実施形態では、アウターリング11が、積層配置された接地電極リング16及びプラス電極リング17の最下部の下方に計測用リング26を設けている。計測用リング26は環状の電極リングであり、各接地電極リング16及び各プラス電極リング17と同軸的に配置されている。計測用リング26の内周面27に接続された配線材28は、各接地電極リング16及び各プラス電極リング17の内周壁側に沿ってフランジ部21の上方に予め引出されてある。この配線材28の他端には第1のコネクタ29が設けられる。なお、ラッチ回路46については後述する変形例にて説明する。
【0024】
この第1のコネクタ29は、スリップリング装置1の点検時に第2のコネクタ29に直結されてフランジ部21の上方にて折返されるようになっている。スイッチ回路30は折返し点検時に用いられる方路切替え用の回路である。第2のコネクタ29にはスイッチ回路30の一端子が電気的に接続されている。点検時、これらの2つのコネクタ29は互いに直結され、スイッチ回路30を含む閉路が生成される。
【0025】
図5はスイッチ回路30の構成の一例を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。スイッチ回路30の機能は例えばマトリックススイッチ回路により実現される。マトリックススイッチ回路は、複数の入力ラインと複数の出力ラインとのクロスによって生成されたクロスポイントをスイッチングする。スイッチ回路30は複数段の信号電極リング19のうちの何れか1つを選択し、選択した1つの信号電極リング19及び計測用リング26からなる直列回路要素を生成する。
【0026】
同図の例では、スイッチ回路30は、(1)から(10)と付された10段の信号電極リング19から、(1)の信号電極リング19を選択する。スイッチ回路30は、互いに独立した第一段目の信号電極リング19とコネクタ29に接続された配線材28との間を短絡する。スイッチ回路30は、全てのクロスポイント素子のうち、1つの信号電極リング19間を通電させるクロスポイント素子だけをオンにするとともに残りのクロスポイント素子をオフに切替えるようにする。
【0027】
また、配線材31は分岐されており、分岐先が各信号電極リング19に電気的に接続されている。スイッチ回路30が選択した信号電極リング19に接続された配線材31だけが通電機能を発揮する。選択されていない信号電極リング19に接続された配線材31はオープンのままにされる。
【0028】
図2において、計測用リング26の外周面32の外方には補助ブラシ33が設けられている。補助ブラシ33は、外周面32に接触する位置と、この外周面32から離れる位置とをとるように保持される。補助ブラシ33は取付具などにより保持されている。スリップリング装置1が実機として稼動中は、補助ブラシ33は計測用リング26の外周面32から離れた位置にセットされる。セットは人が行う。スリップリング装置1が接触電位差を計測する作業を始める前に、補助ブラシ33は計測用リング26の外周面32に接触する位置にセットされる。このセットも人が行う。
【0029】
本実施形態では、スリップリング装置1に外付けするオシロスコープによって信号電極リング19の外周面22、及び金ワイヤブラシ23の接触電位差を測定する。スリップリング装置1が実機に組込まれた後、点検作業時のみこの接触電位差を計測するための被測定ラインを計測する。作業者は、主に外周面22及び金ワイヤブラシ23からなる被測定ラインを直列回路要素として含む閉回路を組む。作業者は、電源及びオシロスコープを閉回路に接続した後、接触電位差を測定する。閉回路は、計測用リング26、補助ブラシ33、配線材28、第1及び第2のコネクタ29、スイッチ回路30、配線材31、2段の選択される信号電極リング19、及び2片の金ワイヤブラシ23からなる。
【0030】
点検作業を開始する前に、コネクタ29を外して2つのコネクタ29を短絡する。補助ブラシ33を計測用リング26の外周面に接触させる。補助ブラシ33に電源やオシロスコープを取付ける。閉回路の一端子対に、電源からの点検用の信号を印加し、オシロスコープで接触電位差の異常値が現れるかどうかを判定するようにする。スリップリング装置1が実機に組付けられた後、インナーリング12の外周面上の摺動部位における接触電位差が計測可能になっている。
【0031】
信号及び電力のうち電力の伝送について述べると、各接地電極リング16及び各プラス電極リング17は金属筒体から成り、何れも内側の内周壁面と外側の外周壁面とを有する。各外周壁には銀めっきが施されている。帯状の銀めっきがリング外周壁面上で周回形成されている。各接地電極リング16の外周面と、各プラス電極リング17の外周面とは、それぞれブロック状に形成されたブラシ34と接触摺動する。これらのブラシ34は各接地電極リング16及び各プラス電極リング17の外周面に当接した状態でそれぞれブラシホルダ35に保持されている。ブラシ34及びブラシホルダ35は静止物である。各ブラシホルダ35は絶縁材料からなりブラシ取付板36に取付けられる。
【0032】
ブラシ34の材質は黒鉛(カーボン)に銀Agを混合させた成分を有する。n個のブラシ34と、接地電極リング16の外周壁とはスリップリングを構成し、各スリップリングにグラウンド(GND)電位が与えられる。残りのn個のブラシ34と、プラス電極リング17の外周壁とはスリップリングを構成し、各スリップリングにプラス電位が与えられる。各ブラシホルダ35にはブラシ34と導通するための端子、接点及び電線と、電源と導通するための端子、接点及び電線とが取付けられている。各ブラシ34はスプリング等を介してリング内周面に押さえ付けられる。軸体10とブラシ34とが電気的に結合されるようになっている。
【0033】
図1、図4に示すように、スリップリング装置1は、それぞれアウターリング11の外周部側方に上下平行に立設した例えば4本のピラー37を備えている。各ピラー37は静止物であり回転体に対して常に静止している。これらのピラー37の上部は、フランジ部21に固定されている。フランジ部21は静止物であり回転体に対して常に静止している。
【0034】
図6は実施形態に係る回転摺動機構の構成図である。同図にはスリップリング装置1の折返し点検時の測定系が示されている。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。折返し点検とは、スリップリング装置1に電源、負荷、及び測定器を接続し、閉回路を使って折返し試験を行うことにより金ワイヤブラシ23の接触点での温度と接触電位差との関係を測定することを指す。負荷とは測定時に電源に対して挿入される負荷を指す。
【0035】
上述の構成のスリップリング装置1が車両システム等の実機に組込まれる。電力の給電のため、スリップリング装置1と、電力用電源との間に、ホット用のプラス配線及びリターン用のグラウンド配線が接続される。スリップリング装置1の実運用を人が始める。補助ブラシ33は、計測用リング26の外周面32より離して浮かせておく。計測用リング26のインピーダンス等を予め高い精度で計測しておき、高い信頼性を持つ計測用リング26を使うようにする。評価対象の信号電極リング19、金ワイヤブラシ23及び補助ブラシ33の電気的特性の精度よりも高い精度を保証された電気的特性を計測用リング26に与えるためである。
【0036】
予め決められた時間を経過した後、点検のため、スリップリング装置1の動作を停止させる。引き続き準備を行う。準備方法は、人が補助ブラシ33を外周面32に接触させる。スリップリング装置1を含む回転摺動機構38に対し、同図左側の非回転側に外部電源39の一端子対をケーブル40により接続する。外部電源39の一端子対にオシロスコープ41のプローブ42を接続する。回転側であるアンテナ指向装置100側に配線材28、31などを含む配線材43が引出されており、何れか必要な1本又はそれ以上の配線材43を選ぶ。そうして外された2つのコネクタ29を直結して主ラインと計測ラインとを短絡させる。折返し測定が可能になる。
【0037】
図7は複数段の信号電極リング19の診断方法を説明するための図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。診断方法は、二個の信号電極リング19の系として行う。例えば10段のうち2段を、一段ずつずらしながら接触電圧を観測する。図7(a)から図7(g)では同じ符号を付したものどうしは互いに同じ要素を表す。
【0038】
図7(a)に示すように、スイッチ回路30は第1段目(1)の信号電極リング19と、第2段目(2)の信号電極リング19とを選択する。それぞれの外周面22、金ワイヤブラシ23間の2箇所の摺動接触点が閉回路44に直列回路要素として組込まれる。これらの2箇所の接触点と、外部電源39からの点検用の信号と、値が既知の負荷抵抗器45とにより、トータルのインピーダンス値が決まる。スリップリング装置1を回転させながら、オシロスコープ41の電圧レベルを見る。接触点にてリング、ブラシ間が良好に接触している最中は、接触電圧降下は無く、0V波形あるいは摺動時に発生する抵抗分により現れる数mV程度の電圧波形が観測される。これにより、異常無しと作業者は判定する。
【0039】
図7(b)に示すように、スイッチ回路30は第2段目(2)と、第3段目(3)とを選択する。オシロスコープ41の電圧レベルが上がり、異常な値の接触電圧降下が観測されるとする。第3段目(3)が故障しているかもしれないと判断する。
【0040】
引き続き、図7(c)に示すように、スイッチ回路30は第3段目(3)と、第4段目(4)とを選択して同様に観測する。異常電圧値が観測されると、(3)が故障していることが判明する。図7(d)、図7(e)、…、図7(f)及び図7(g)と順番にスイッチ回路30が切替え選択する都度、オシロスコープ41の電圧波形が正常値であることを観測する。これにより、外周面22上のインピーダンス成分の検出によって、第3段目(3)の信号電極リング19を特定することができる。
【0041】
また、接触電位差が約430mv以下であることを確認しつつ運用することができる。
【0042】
製品完成状態でスリップリング装置1の分解を伴わずに信号電極リング19の内部の接点状況を知ることが出来る。実機運用中にあっても回転側に配したスイッチ回路30によって計測用ラインに折返しを行うことで、被測定ラインの診断が実機への配線によりオンラインで実施可能となる。オシロスコープ41は接触点でのインピーダンス値の変化を電気的ノイズとして測定する。電圧値が閾値を超えたら、信号電源リング19の交換が必要であることを判断する。また、電圧波形0Vが続く場合、(1)、(2)のペア、(2)、(3)のペア、…から(9)、(10)のペアを選択切替えして電圧波形0Vを確認することを繰返す。
【0043】
図8は従来のリング、ブラシ間の接触点の状況を診断する場合の測定装置例を示す図である。図9(a)は図8の測定装置の測定回路の構成例を示す図である。図9(b)、図9(c)は図8の測定装置による測定結果の例を示す図である。
【0044】
図8に示す測定装置では、インバータ50、誘導電動機51が、2段の信号電極リングからなる従来の回転摺動機構52を回転駆動する。回転摺動機構52は銀黒鉛又は金の接点のスリップリングを有する。2片のブラシ53はそれぞれリング外周面54と摺動接触する。一方のリング外周面54には補助ブラシ55が摺動接触する。金ワイヤブラシであるブラシ53の接触状況、及びリング外周面54の表面状況の定量的把握のため、補助ブラシ55を用いて接触電圧降下を測定している。回転摺動機構52は、すり合わせと呼ばれる慣らし運転を行う必要がある。すり合わせ後の性能検査のために補助ブラシ55を取付ける。
【0045】
図9(a)に示すように、従来例では、回転摺動機構52に外部電源56、負荷抵抗器57をつなぎ、更に上下2つのリング外周面54の導通状況をそれぞれペンレコーダ58をつないで観測している。2つのリング外周面54間は線材60により円筒内部において短絡させている。
【0046】
この例では、左側のプラス側のリング外周面54には、主ブラシとしてのプラス用のブラシ53に加えて補助ブラシ55を接触させる必要がある。右側の接地側のリング外周面54には、主ブラシとしてのもう一つのマイナス用のブラシ59に加えて更に補助ブラシ60を接触させる必要がある。つまり、必ず補助ブラシ55、60を使わなければならない。ところが、回転摺動機構52を有する製品スリップリング装置に補助ブラシ55、60を装備することはできない。計測用の補助ブラシ55をリング外周面54に接触させておくという使い方はできない。補助ブラシ60をリング外周面54に接触させて製品の寿命を短くするような使い方はできない。接触点の接触電位差を計測するとしたら図8、図9の例のような測定装置を使って、回転停止状態で各リング外周面54の導通性能のみ確認し、回転時の接触抵抗の劣化を予測することのみしか行えない。
【0047】
また、例えば銀黒鉛ブラシの場合、通電状態における回転摺動により黒鉛が配向してリング表面に潤滑層を形成するため、補助ブラシについても一緒にすり合わせを行う必要がある。一緒にすり合わせを行わない場合、リング表面状態に悪影響を与えるため、すり合わせの実施後に回転摺動時の接点状況の検査を実施することは難しい。
【0048】
金接点ブラシの場合であっても、リング表面に接触抵抗を減らすための潤滑油を塗布する必要があるため、補助ブラシを追加するとスリップリング部位の寿命を縮める要因となっている。
【0049】
また、スリップリング装置の運用中に接点状況を定量化することは困難であり、運用を停止して診断を実施する必要がある。一般に回転摺動機構が大型化するとブラシの接点部分が装置内部に配置されるため、直接目視等により診断し、残存寿命の予測や予防整備の要否を判断することは困難である。
【0050】
特に内筒スリップリングが信号段を構成し、外筒スリップリングが電力段を構成するという2重構造のスリップリング装置では、内筒スリップリングの診断は困難である。
【0051】
これに対して、実施形態に係るスリップリング装置1は、アンテナ指向装置100側において配線材28、31を短絡させて折返し点検が可能である。また、点検中でも、スイッチ回路30が被測定ラインを一時的に切断して計測ラインに接続を戻すことによって、運用中における折返し点検が可能になる。インナーリング12のリング外周面上の接触状態をアウターリング11をばらさずに予測できるようになる。2重構造ではインナーリング12は触診できないが、スリップリング装置1によれば非破壊計測を行える。
【0052】
補助ブラシ33は運用時にはリング外周面から浮かせて使用し、計測時のみリング外周面に取付けることにより、摺動摩耗による計測用リング26の劣化を防止できる。補助ブラシ33をアウターリング11の一番下に配置することにより、比較的容易に作業者がアクセスすることができ、メンテナンスが容易にできる。
【0053】
以上のように、スリップリング装置1によれば、補助ブラシ33を常時接触させることなく回転摺動機構38の接触電位差など接触点の接触の具合を定量化することができる。インピーダンス変化を電圧の瞬時変化で計測することにより精度の高い検査を容易に実施できるようになり、信頼性の向上を図ることができるようになる。
【0054】
スリップリング装置1及び回転摺動機構38の分解を伴うことなくアウターリング11の内部診断が可能となり、整備性の向上を図ることができる。
【0055】
スリップリング装置1を搭載した実機の運用を中断することなく、接触点の接触の具合をモニタすることが可能となる。スリップリング装置1の診断間隔を延伸することができ、整備性の向上を図ることができる。
【0056】
(変形例)
(1)カバー13の下方に、小窓や開口穴のような作業口47を予め形成しておいてもよい。カバー13の一番下側に計測用リング26が配置されてあるため、計測用リング26及びその周囲を容易に清掃できるようにする。カバー13を外した状態で電気的な点検計測を行うことにより、ノイズが大きくなってきたかどうかの診断が容易に行える。ノイズのレベルが点検の都度増大することが確認できれば、閾値に達したかどうかを容易に判定できるようになる。
【0057】
(2)運用時には、計測用リング26にブラシ33を浮かせる等によりブラシ33が非接触の状態にする。あるいはブラシ33を取り外すことで接点状態の劣化を防止するようにする。被測定ラインに対し精度の高い診断を可能にするためである。
【0058】
(3)図4のスイッチ回路30の構成は種々変更可能である。切替えの方法はスイッチ回路30以外の回路を用いてもよい。図4と異なる回路により実施したに過ぎない発明に対して本発明の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0059】
(4)上記実施の形態では、プラス電極リング、接地電極リングを交互に配置した例であったが、アウターリング11の上半分に全てのプラス電極リングを寄せて積重し下半分に接地電極リングを寄せて積重して構成してもよい。nは偶数であったが、奇数でもよい。計測用リング26を2段以上確保しておいてもよい。これらの電極リングの積層配置を変えた場合の効果は上記実施形態の効果と同様の効果が得られる。
【0060】
(5)上記実施の形態では、アウターリング11は、上段側の接地電極リング16をグラウンド電位に用いて下段側のプラス電極リング17をプラス電位に用いていたが、上段側電極リングの電位や極性と、下段側電極リングの電位や極性との組み合わせは、マイナス電位及びグラウンド電位や、グラウンド電位及びマイナス電位としてもよく、あるいはマイナス電位及びプラス電位、プラス電位及びマイナス電位、マイナス電位及びマイナス電位としてもよい。これらの電位や極性を変えた場合の効果は上記実施形態の効果と同様の効果が得られる。
【0061】
(6)スイッチ回路30内又はスイッチ回路30に直列にラッチ回路46を設けておいてもよい。ラッチ回路46は、ラインが接地したことを検出し、プルアップ又はプルダウンしておいた端子電圧の変化を保持する。信号についてはオシロスコープ41により、何十mV以上のスパイク状のノイズが出たときに、ラッチ回路46がラインの電圧値の変化を保持している場合、故障を検出し易くなる。これにより、スリップリング装置1は自己診断も可能になる。
【0062】
(7)実施形態に係るスリップリング装置1を運用系と、冗長系とにそれぞれ準備するようにもできる。
【0063】
(8)上記実施形態では、接触点でのインピーダンスを電圧値によって定量化していたが、点検用信号として電流を用いたり、あるいは直接インピーダンスを計測してもよい。
【0064】
(9)実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得る。これらの変更を行って実施したに過ぎない発明に対して本実施形態に係るスリップリング装置の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0066】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0067】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…スリップリング装置、10…軸体、11…アウターリング、12…インナーリング、13…カバー、14…軸受、15…固定体、16…接地電極リング、17…プラス電極リング、18…絶縁板、19…信号電極リング、20…配線材、21…フランジ部、22…外周壁、23…金ワイヤブラシ(ブラシ)、24…金ワイヤ、25…ブラシホルダ、26…計測用リング、27…内周面、28…配線材(第1の配線材)、29…コネクタ、30…スイッチ回路、31…配線材(第2の配線材)、32…外周面、33…補助ブラシ、34…ブラシ、35…ブラシホルダ、36…ブラシ取付板、37…ピラー、38…回転摺動機構、39…外部電源、40…ケーブル、41…オシロスコープ、42…プローブ、43…配線材、44…閉回路、45…負荷抵抗器、46…ラッチ回路、47…作業口、100…アンテナ指向装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ円筒状の複数段の信号電極リングと、
これらの信号電極リングの外周部側方に設けられた複数のブラシと、
これらのブラシおよび前記複数段の信号電極リングを内側に有する円筒状の複数段の電源電極リングと、
これらの電源電極リングの下方に設けられた円筒状の計測用リングと、
一端がこの計測用リングに接続され各電源電極リングの内側を通って他端が各信号電極リングの上方に引出された第1の配線材と、
各一端がこの第1の配線材に前記上方にて短絡され前記上方より折返されて前記各信号電極リング内部を通り各他端のうちの何れかが測定対象の信号電極リングに接続される複数の第2の配線材と、
前記複数の第2の配線材の何れかとともに測定端子対を成し、前記計測用リングに接触する位置および前記計測用リングから離れる位置をとる補助ブラシとを備え、
この補助ブラシは、前記計測用リングに接触し、前記測定対象の信号電極リングが回転中のこの信号電極リングの外周面および前記ブラシ間の摺動部位に通電させることを特徴とするスリップリング装置。
【請求項2】
前記補助ブラシは、前記外周面に接触する位置、および前記外周面から離れる位置をとり、前記閉回路を用いた計測時のみ前記計測用リングに接触することを特徴とする請求項1記載のスリップリング装置。
【請求項3】
前記スイッチ回路は、前記各信号電極リングの上方において前記第1の配線材と、被測定ラインに含まれる前記第2の配線材とを接続することを特徴とする請求項1又は2記載のスリップリング装置。
【請求項4】
それぞれ円筒状の複数段の信号電極リングと、
これらの信号電極リングの外周部側方に設けられた複数のブラシと、
これらのブラシおよび前記複数段の信号電極リングを内側に有する円筒状の複数段の電源電極リングと、
これらの電源電極リングの下方に設けられた円筒状の計測用リングと、
一端がこの計測用リングに接続され各電源電極リングの内側を通って他端が各信号電極リングの上方に引出された第1の配線材と、
各一端がこの第1の配線材に前記上方にて短絡され前記上方より折返されて前記各信号電極リング内部を通り各他端のうちの何れかが測定対象の信号電極リングに接続される複数の第2の配線材と、
前記複数の第2の配線材の何れかとともに測定端子対を成し、前記計測用リングに接触する位置および前記計測用リングから離れる位置をとる補助ブラシと、
この補助ブラシに接続された外部電源と、
この外部電源が印加した点検用の信号に対する前記測定端子対によるインピーダンスを計測するための計測器とを、備え、
前記補助ブラシは、前記計測用リングに接触し、前記測定対象の信号電極リングが回転中のこの信号電極リングの外周面および前記ブラシ間の摺動部位に通電させ、前記計測器はオンラインで回転摺動中の前記摺動部位の接触電圧降下をモニタして自己点検を行うことを特徴とする回転摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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