説明

スルフォン化熱可塑性樹脂繊維及びその製造方法、ケミカルフィルタ用シート並びにケミカルフィルタ

【課題】イオン交換容量が多く、繊維の強度が高いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維及びその製造方法、並びに前記繊維からなる、成形加工性に優れるケミカルフィルタ用シート、及び塩基性ガス状汚染物質の除去性能に優れるケミカルフィルタの提供。
【解決手段】イオン交換容量が1m当量/g以上であることを特徴とするスルフォン化熱可塑性樹脂繊維。硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、加熱温度が70〜150℃であり、且つ加熱温度と加熱時間の積(t×h)が、下記式(1); −0.66m+120≦t×h≦−2m+500 (1)(式(1)中、tは加熱温度を示し、mは硫酸水溶液の濃度(重量%)を示し、hは加熱時間を示す。)の範囲となる条件下で加熱し、スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換容量が多いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維及びその製造方法、ケミカルフィルタ用シート並びにケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造や液晶製造の分野では、クリーンルーム中で、半導体や液晶の製造が行われており、該クリーンルーム中の塩基性ガス状汚染物質を低減することが要求されている。該塩基性ガス状汚染物質には、例えば、アンモニアがあり、アンモニアは、半導体製造時の露光工程において、露光時の解像性の悪化やウエハ表面の曇りの原因となるので、該クリーンルーム中のアンモニアの量を低減する必要がある。そして、該塩基性ガス状汚染物質を除去するために、ケミカルフィルタが設置される。この時、該ケミカルフィルタは、通常、被処理空気の通気方向に対して垂直となるように設置される。
【0003】
該ケミカルフィルタは、単位面積当たりイオン交換容量が多い程、あるいは、反応速度が速いほど、初期の除去性能及び該除去性能の持続性に優れるので、単位体積当りのイオン交換容量が多いケミカルフィルタが要求されている。また、被処理空気の通気方向に対して垂直となるように設置されるため、強度が高いことが要求されている。また、用途により、該ケミカルフィルタの形状が異なるため、該ケミカルフィルタは、様々な形状に加工されることが可能でなければならない。すなわち、該ケミカルフィルタを製造するためのケミカルフィルタ用シートには、優れた成形加工性が要求されている。
【0004】
これらの要求を満たすケミカルフィルタ又はケミカルフィルタ用シートを製造するためには、イオン交換容量が多く且つ強度が高い繊維が必要となる。
【0005】
イオン交換容量が多く、且つ反応速度が速い樹脂としては、例えば、スルフォン化ポリスチレン樹脂が知られている。
【0006】
また、イオン交換容量が多い樹脂組成物としては、例えば、特許文献1の特開2003−277626号公報には、(a)主鎖にエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択された1種類以上の結合を有する熱可塑性樹脂及び(b)側鎖にイオン交換基が導入され、主鎖が芳香環を介する連結構造を含有する芳香族系熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−277626号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、該スルフォン化ポリスチレン樹脂は、非常に脆く、繊維にした時に、強度が低い。そこで、従来より、繊維内部に補強繊維を入れるか、又は強度の高い樹脂とポリマーアロイ化し、強度を高めることが行われてきた。しかし、それでもなお、繊維の強度が低いという問題があった。また、補強繊維を混合しなければならないため、単位重量当りのイオン交換容量が低くなるという問題もあった。更には、複雑な製造方法が必要となるため、製造コストが高いという問題もあった。
【0009】
そこで、繊維の強度が高いスルフォン化樹脂を得る方法として、ポリエチレン樹脂等をスルフォン化する方法、又はビニルスルフォン等のスルフォン基を有するビニル性モノマーを重合させる方法が考えられる。
【0010】
しかし、ポリエチレン樹脂等をスルフォン化する方法では、該樹脂にある程度の量のスルフォン基を導入することはできるが、導入量には限界があり、それ以上に導入量を増やすために、スルフォン化剤の濃度を高くしたり、反応温度を高くすると、該樹脂が分解するという問題があった。また、ビニルスルフォンの重合物は、分子量が高くならないか又は塊状に重合するため、繊維として用いることができないという問題があった。また、分子量が多い繊維状のものを得るためには、スルフォン基を有しないビニル性モノマーと共重合させる必要があり、そのため、イオン交換容量を多くできないという問題もあった。
【0011】
また、特許文献1の特開2003−277626号公報記載の熱可塑性樹脂組成物は、成形加工性が従来のものに比べ改善されているものの、繊維状にした時に、該繊維内部にもスルフォン化された樹脂が存在することになるため、ケミカルフィルタ製造用の繊維としては、強度が不十分であるという問題があった。また、スルフォン基を有しない樹脂を混合する必要があるため、イオン交換容量の向上には限界があるという問題もあった。
【0012】
従って、本発明の目的は、イオン交換容量が多く、繊維の強度が高いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維及びその製造方法を提供することにある。また、イオン交換容量が多く、強度が高く、成形加工性に優れるケミカルフィルタ用シート、及び塩基性ガス状汚染物質の除去性能に優れるケミカルフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂繊維に、特定の濃度の硫酸水溶液を、特定の割合で混合させた硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、特定の条件で加熱反応させると、該熱可塑性樹脂が、分解することなく、表面に多量にスルフォン化されること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、イオン交換容量が1m当量/g以上であるスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、熱可塑性樹脂繊維(a)に、硫酸濃度が20〜95重量%である硫酸水溶液(b)が、1〜20の重量比((b)/(a))で含有されている硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、加熱温度が70〜150℃であり、且つ加熱温度と加熱時間の積(t×h)が、下記式(1);
−0.66m+120≦t×h≦−2m+500 (1)
(式(1)中、mは硫酸水溶液の濃度(重量%)を示し、tは加熱温度(℃)を示し、hは加熱時間(時間)を示す。)
の範囲内となる条件下で加熱し、スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得る、加熱反応工程を有するスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、前記本発明(1)記載のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造されるケミカルフィルタ用シートを提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、前記本発明(3)記載のケミカルフィルタ用シートを成形して得られるケミカルフィルタを提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維は、イオン交換容量が多く、繊維の強度が高い。また、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法は、熱可塑性樹脂繊維に、多くのスルフォン基を導入することができるので、イオン交換容量の多いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を製造することができる。また、本発明のケミカルフィルタ用シートは、イオン交換容量が多く、強度が高く、成形加工性に優れ、本発明のケミカルフィルタは、塩基性ガス状汚染物質の除去性能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維は、表面に多数のスルフォン基を有しており、内部には殆どスルフォン基を有しない。すなわち、該スルフォン化熱硬化性樹脂繊維は、熱可塑性樹脂繊維の表面に、多くのスルフォン基が導入されている。なお、該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維が、内部には殆どスルフォン基を有していないことは、該繊維の断面のエネルギー分散型X線分光法(energy dispersive X-ray spectroscopy;EDX)により確認することができる。
【0020】
スルフォン基が導入されている熱可塑性樹脂繊維としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂繊維、アラミド繊維、アクリル繊維等が挙げられる。
【0021】
該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維のイオン交換容量は、1m当量/g以上、好ましくは2〜16m当量/g、特に好ましくは4〜12m当量/gである。
【0022】
該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径は、0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.5〜20μmである。該平均繊維径が、0.01μm未満だと引張強度が低くなり易く、また、100μmを超えると、表面積が小さいため、単位重量当りのイオン交換容量が小さくなり易い。
【0023】
該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維は、繊維内部にスルフォン基を殆ど有していないため、該繊維の強度が高く、また、該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造されるケミカルフィルタ用シートは成形加工性に優れる。
【0024】
本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法は、熱可塑性樹脂繊維(a)に、硫酸濃度20〜95重量%である硫酸水溶液(b)が、1〜20の重量比(該熱可塑性樹脂繊維(a)に対する該硫酸水溶液(b)の重量比;(b)/(a))で含有されている硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、加熱し、スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得る、加熱反応工程を有する。
【0025】
該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を得る方法としては、以下の方法が挙げられる。
(i)先ず、該熱可塑性樹脂繊維に、該硫酸水溶液(b)の混合比が、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維中の該硫酸水溶液(b)の含有比より多くなるように、すなわち、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を調製するために必要な量より過剰に、該硫酸水溶液(b)を混合し、次いで、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物から、該硫酸水溶液(b)を除去し、該熱可塑性樹脂繊維(a)に、該硫酸水溶液(b)が、1〜20((b)/(a))の重量比で含有されている該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を得る方法。
(ii)先ず、該熱可塑性樹脂繊維に、該硫酸水溶液(b)の混合比が、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維中の該硫酸水溶液(b)の含有比より多くなるように、すなわち、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を調製するために必要な量より過剰に、該硫酸水溶液(b)を混合し、次いで、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物を、5分以上、好ましくは5分〜24時間、5〜60℃に保持する硫酸吸着工程を行い、次いで、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物から、該硫酸水溶液(b)を除去し、該熱可塑性樹脂繊維(a)に、該硫酸水溶液(b)が、1〜20((b)/(a))の重量比で含有されている該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を得る方法。
【0026】
該熱可塑性樹脂繊維としては、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂繊維、アラミド繊維、アクリル繊維等が挙げられる。これらのうち、ポリエステル繊維が、スルフォン化され易いので、単位重量当りのイオン交換容量が高くなる点で好ましい。
【0027】
該熱可塑性樹脂繊維の平均繊維径は、0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.5〜20μmである。
【0028】
また、該熱可塑性樹脂繊維は、開繊されている繊維であることが、該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の単位重量当りのイオン交換容量が多くなる点で好ましい。該開繊されている熱可塑性樹脂繊維は、該熱可塑性樹脂繊維を、水又は該硫酸水溶液(b)中で、攪拌機等を用いて攪拌し、該熱可塑性樹脂繊維相互の絡まりを解くことにより得られる。この時、攪拌等の前に該熱可塑性樹脂繊維を、長さ1〜20mm、好ましくは2〜10mmにカットし、水中又は該硫酸水溶液(b)中で、攪拌機等を用いて攪拌することが、該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の単位重量当りのイオン交換容量が多くなる点で特に好ましい。なお、開繊するとは、繊維相互の絡みを解くことを言う。
【0029】
該硫酸水溶液(b)の硫酸濃度は、20〜95重量%、好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは50〜80重量%である。該硫酸濃度が、20重量%未満だとスルフォン化が起こり難く、また、95重量%を超えると該加熱反応工程で、該熱可塑性樹脂繊維が分解し易くなる。
【0030】
該(i)又は該(ii)の方法では、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)を混合する際、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合割合は、特に制限されないが、重量比(硫酸水溶液(b)/熱可塑性樹脂繊維(a))で2〜200であることが、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維中に、該硫酸水溶液(b)が均一に分散し易い点で好ましく、5〜100が特に好ましい。
【0031】
該熱可塑性樹脂繊維に、該硫酸水溶液(b)を混合する方法としては、特に制限されず、例えば、該硫酸水溶液(b)を攪拌しながら、該熱可塑性樹脂繊維を少しずつ加える方法、反応容器に入れられている該熱可塑性樹脂繊維に、該硫酸水溶液(b)を加え含浸させる方法等が挙げられる。
【0032】
該(ii)の方法は、該硫酸吸着工程を有する。該硫酸吸着工程では、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物を、5〜60℃、好ましくは10〜50℃、特に好ましくは20〜40℃で、5分以上、好ましくは5分〜24時間、特に好ましくは10分〜12時間、更に特に好ましくは30分〜4時間保持する。該保持の際の保持時間及び保持温度が、上記範囲であることにより、後記加熱反応工程でのスルフォン化が起こり易くなる。該保持時間が、24時間より長くなるか又は該保持温度が60℃より高くなると、該熱可塑性樹脂繊維の分解が起こり易くなる。
【0033】
該硫酸吸着工程を行なうことにより、該熱可塑性樹脂繊維の表面に、硫酸が吸着されるので、該加熱反応工程でのスルフォン化が起こり易くなる。従って、該硫酸吸着工程を有することが、イオン交換容量が高いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得ることができる点で好ましい。
【0034】
該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物の保持は、該混合物を、静置して行なってもよいし、あるいは、攪拌しながら又は該混合物が入れられた反応容器を振騰させながら行ってもよく、特に制限されない。これらのうち、攪拌しながら行なうことが、該硫酸水溶液(b)の接触効率が高くなり、硫酸が吸着され易い点で好ましい。
【0035】
上記(i)の方法では、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合後、上記(ii)の方法では、該硫酸吸着工程後、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液(b)の混合物から、該硫酸水溶液(b)を除去し、該熱可塑性樹脂繊維に、該硫酸水溶液(b)が、1〜20の重量比((b)/(a))で、好ましくは2〜15の重量比で、特に好ましくは3〜10の重量比で含有されている、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を得る。該重量比の範囲より該硫酸水溶液(b)の含有量が少ないと、スルフォン化が起こり難く、また、該重量比の範囲より該硫酸水溶液(b)の含有量が多いと、該熱可塑性樹脂繊維の分解が起こる。該除去をする方法としては、特に制限されず、吸引濾過、遠心分離等公知の方法を採用することができる。
【0036】
そして、該硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、加熱温度が70〜150℃であり、且つ加熱温度と加熱時間の積(t×h)が、下記式(1);
−0.66m+120≦t×h≦−2m+500 (1)
(式(1)中、mは該硫酸水溶液(b)の濃度(重量%)を示し、tは加熱温度(℃)を示し、hは加熱時間(時間)を示す。)
の範囲内となる条件下で加熱し、該熱可塑性樹脂繊維のスルフォン化を行い、スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得る。
【0037】
該加熱温度(t)は、70〜150℃、好ましくは80〜130℃である。また、該加熱温度と加熱時間の積(t×h)は、「(−0.66m+120)以上且つ(−2m+500)以下」、すなわち「−0.66m+120≦t×h≦−2m+500」(式(1))であり、好ましくは「(−0.66m+140)以上且つ(−2m+400)以下」、すなわち「−0.66m+140≦t×h≦−2m+400」である。該加熱温度(t)が、70℃未満だとスルフォン化が起こり難く、また、150℃を超えると該熱可塑性樹脂繊維が分解する。また、該加熱温度と加熱時間の積(t×h)が、該式(1)の範囲未満だとスルフォン化が起こり難く、また、該式(1)の範囲を超えると該熱可塑性樹脂繊維の分解が起こる。
【0038】
例えば、該硫酸水溶液(b)の濃度(m)が、90重量%の場合、加熱温度と加熱時間の積(t×h)は、「−0.66×90+120≦t×h≦−2×90+500」の範囲、すなわち、「60.6≦t×h≦320」の範囲になければならないので、加熱温度を100℃とするならば、加熱時間は0.606時間以上3.2時間以内としなければならない。また、例えば、該硫酸水溶液(b)の濃度(m)が、85重量%の場合、加熱温度と加熱時間の積(t×h)は、「−0.66×85+120≦t×h≦−2×85+500」の範囲、すなわち、「63.9≦t×h≦330」の範囲になければならないので、加熱温度を80℃とするならば、加熱温度は0.8時間以上4.12時間以内としなければならない。
【0039】
また、該加熱反応工程により得られるスルフォン化熱可塑性樹脂繊維は、水洗等により、該繊維の表面に付着している硫酸又は硫酸水溶液を除去することができる。また、更に、乾燥を行なうことができる。
【0040】
このように、上記特定の条件で、該加熱反応工程を行うことにより、該熱可塑性樹脂の分解を低く抑えつつ、且つ該熱可塑性樹脂の表面に多量にスルフォン基を導入することができるので、イオン交換容量が高く且つ繊維強度が高いスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得ることができる。具体的には、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法において、原料であるスルフォン化前の熱可塑性樹脂繊維の引張強度(X)に対するスルフォン化後の熱可塑性樹脂繊維の引張強度(Y)の低下率(Z)(下記式(2)により求められる値)は、50%以下、好ましくは40%以下、特に好ましくは20%以下であり、熱可塑性樹脂を原料に用いて従来のスルフォン化方法でスルフォン化を行う場合に比べ、該低下率(Z)が小さい。なお、該従来のスルフォン化方法で得られるスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の多くは、非常に脆い繊維であるため、ケミカルフィルタ用シートに加工することができず、該低下率(Z)は50%以下となることはない。
Z(%)=(X−Y)×100/X (2)
また、該スルフォン化後の熱可塑性樹脂繊維のイオン交換容量は、1m当量/g以上である。すなわち、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法では、引張強度の低下率を低く抑えつつ、高いイオン交換容量を有するスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を製造することができる。
【0041】
上記のようにして得られるスルフォン化熱可塑性樹脂繊維は、前記本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維と同様の物性を有しており、従って、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法は、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造に好適に用いられる。また、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法によれば、繊維内部に補強繊維を入れることや、強度の高い樹脂とのポリマーアロイ化すること等の手法を行わなくとも、強度が高いスルフォン化熱可塑性樹脂を得ることができるので、安価にイオン交換容量の多い樹脂繊維を製造することができる。
【0042】
本発明のケミカルフィルタ用シートは、本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造される織布又は不織布である。該織布又は該不織布を製造する方法としては、特に制限されず、常法により行うことができる。また、該スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を、単独で用いて該織布又は該不織布にすることができるが、必要に応じて、低密度ポリエチレン樹脂繊維、高密度ポリエチレン樹脂繊維、有機バインダーを、該織布又は該不織布にする際に混合し、該織布又は該不織布にすることもできる。
【0043】
該ケミカルフィルタ用シートの単位面積当りのイオン交換容量は、0.01〜16当量/m、好ましくは0.04〜4.8当量/mであり、該ケミカルフィルタ用シートの厚みは、通常0.01〜5mmであり、該ケミカルフィルタ用シートの単位面積当りの重量は、通常10〜1000g/mである。
【0044】
該ケミカルフィルタ用シートは、イオン交換容量が多い本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造されているので、単位面積当たりのイオン交換容量が高く、また、繊維内部にスルフォン基を殆ど有しない本発明のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造されているので、成形加工性に優れる。
【0045】
該ケミカルフィルタ用シートは、後述するエアフィルタの製造に使用される場合、あるいは、フィルタを包む材料として用いられる場合等がある。
【0046】
本発明のケミカルフィルタは、本発明のケミカルフィルタ用シートを成形して得られる。
【0047】
該ケミカルフィルタとしては、例えば、コルゲート状ハニカム構造を有するケミカルフィルタ、プリーツ構造のケミカルフィルタ等が挙げられる。該コルゲート状ハニカム構造を有するケミカルフィルタは、該ケミカルフィルタ用シートをコルゲート加工し、次いで、コルゲート状の該ケミカルフィルタ用シートと平坦状の該ケミカルフィルタ用シートとを交互に積層して得られ、また、該プリーツ構造のケミカルフィルタは、該ケミカルフィルタ用シートをプリーツ加工し、プリーツ状の該ケミカルフィルタ用シートと平坦状の該ケミカルフィルタ用シートとを交互に重ね得られる。
【0048】
該ケミカルフィルタは、単位面積当りのイオン交換容量が多い本発明のケミカルフィルタ用シートを成形加工して得られるものなので、塩基性ガス状汚染物質の除去性能が高い。
【0049】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
(スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造)
0.1dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(引張強度:4.1CN/dtex)5gをイオン交換水2Lにいれ、攪拌器を用いて攪拌して、繊維を開繊した。その後、アスピレ−ターを用いて濾過を行った。この操作を2回繰り返し、更に、水洗し、100℃で乾燥して、開繊繊維を得た。該開繊繊維を、硫酸濃度が80%の硫酸水溶液200gに混合し、攪拌しながら、1時間、25℃に保持した。1時間保持後、開繊繊維:硫酸水溶液の重量比率が、1:4になるようにアスピレ−ターを用いて吸引して硫酸水溶液を除去し、硫酸水溶液含有繊維を得た。該硫酸水溶液含有繊維を、恒温器に入れて、110℃で、1時間加熱反応させた。この時、加熱温度と加熱時間の積は、前記式(1)の範囲内である。加熱反応により得られた繊維を、イオン交換水を用いて水洗した。該水洗は、繊維を2Lのイオン交換水に入れて攪拌し、次いで濾紙上に移し、吸引しながら水分の除去するという水洗操作を、濾液のpHが4以上になるまで繰り返すことにより行った。得られた繊維を、110℃で乾燥して、スルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維を得た。
【0051】
(スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の物性測定)
1.引張強度の測定
JIS L 1013に準拠して行ったところ、該スルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維の引張強度は、3.2CN/dtexであった。この時、スルフォン化前後での引張強度の低下率は、22%((4.1−3.2)×100/4.1)であった。
2.イオン交換容量の測定
次に、得られたスルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維を採取し、乾燥重量を測定したところ0.847gであった。次に、採取した繊維を、0.1N水酸化ナトリウム水溶液(比重1.004)100mlに加え、攪拌しながら2時間中和反応を行った。中和反応後の水溶液を濾過し、得られた濾液50.00mlを、0.1Nの塩酸水溶液(比重1.001)で中和適定した。該中和滴定に要した塩酸水溶液量は24.61mlであり、該スルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維のイオン交換容量を計算したところ、6.02m当量/gであった。
【0052】
(ケミカルフィルタの製造)
上記と同様の方法で、スルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、これを用いて不織布を製造した。先ず、該スルフォン化ポリエチレンテレフタレート繊維9g及び低密度ポリエチレン繊維(平均繊維径:1.5dtex)1gを、イオン交換水10Lに加え、攪拌器で10分間攪拌した。次に、直径150mmの濾過器にろ紙を敷き、該濾過器に、混合液を流し込みながら、静かに濾過し、シート状の濾過物を得た。この濾過物を100℃の乾燥機で乾燥し、その後に130℃で熱プレスし、厚さ0.3mmのシート状成形体を得た。得られたシート状物の坪量(単位面積当たりの重量)は、平均で約130g/mであった。
【0053】
(ケミカルフィルタの性能評価試験)
得られたシート状物を用い、以下の試験条件で、アンモニア除去率の測定を行った。試験開始直後のアンモニアの除去率は99.3%、19時間経過後の除去率は90.7%であった。
・通気ガスの組成:アンモニアを240μg/m含む空気
・通気ガスの温度及び湿度:23℃、50%RH
・除去対象ガス:アンモニア
・通気風速:0.5m/s
・ケミカルフィルタの設置方向:被処理空気の通気方向に対して、直交する方向
【0054】
(比較例1)
実施例1で用いた0.1dtexのポリエチレンテレフタレート繊維5gを、80%硫酸水溶液200gに加え、80℃で、1時間攪拌を行なったところ、繊維は該硫酸水溶液に完全に溶解して、透明の溶液となった。次いで、該溶液を水に投入したところ、塊状の樹脂が得られるのみで、繊維状のものは得られなかった。
【0055】
(比較例2)
(スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造)
硫酸水溶液含有繊維を、恒温器に入れて、加熱反応させる際に、110℃で、1時間加熱反応させる代わりに、110℃で、4時間加熱反応させる以外は、実施例1と同様の方法で行ったところ、黒色の粉末状のものが得られるのみで、繊維状のものは得られなかった。この時、加熱温度と加熱時間の積は、前記式(1)の範囲外である。
【0056】
(実施例2)
(スルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造)
0.1dtexのポリエチレンテレフタレート繊維5gに代えて、0.1dtexのアクリル繊維(引張強度:3.7CN/dtex)5gとする以外は、実施例1と同様の方法で行い、スルフォン化アクリル繊維を得た。
(スルフォン化悦可塑性樹脂繊維の物性測定)
1.引張強度の測定
上記のようにして得られたスルフォン化アクリル繊維を用いる以外は、実施例1と同様の方法で行ったところ、引張強度は、2.9CN/dtexであり、引張強度の低下率は、22%((3.7−2.9)×100/3.7)であった。
2.イオン交換容量の測定
次に、得られたスルフォン化アクリル繊維を採取し、乾燥重量を測定したところ1.747gであった。次に、採取した繊維を、0.1N水酸化ナトリウム水溶液(比重1.003)100mlに加え、攪拌しながら2時間中和反応を行った。中和反応後の水溶液を濾過し、得られた濾液50.00mlを、0.1Nの塩酸水溶液(比重1.005)で中和適定した。該中和滴定に要した塩酸水溶液量は30.43mlであり、該スルフォン化アクリル繊維のイオン交換容量を計算したところ、2.24m当量/gであった。
【0057】
(ケミカルフィルタの製造)
上記と同様の方法で、スルフォン化アクリル繊維を製造し、これを用いて不織布を製造した。先ず、該スルフォン化アクリル繊維10g及び低密度ポリエチレン繊維(平均繊維径:1.5dtex)1gを、イオン交換水10Lに加え、攪拌器で10分間攪拌した。次に、直径150mmの濾過器にろ紙を敷き、該濾過器に、混合液を流し込みながら、静かに濾過し、シート状の濾過物を得た。この濾過物を100℃の乾燥機で乾燥し、その後に130℃で熱プレスし、厚さ0.3mmのシート状成形体を得た。得られたシート状物の坪量(単位面積当たりの重量)は、平均で約150g/mであった。
【0058】
(ケミカルフィルタの性能評価試験)
得られたシート状物を用いる以外は、実施例1と同様の方法で行ったところ、試験開始直後のアンモニアの除去率は99.3%、8時間経過後の除去率は91.2%であった。
【0059】
【表1】

1)PET:ポリエチレンテレフタレート繊維
2)アクリル:アクリル繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換容量が1m当量/g以上であることを特徴とするスルフォン化熱可塑性樹脂繊維。
【請求項2】
熱可塑性樹脂繊維(a)に、硫酸濃度が20〜95重量%である硫酸水溶液(b)が、1〜20の重量比((b)/(a))で含有されている硫酸水溶液含有熱可塑性樹脂繊維を、加熱温度が70〜150℃であり、且つ加熱温度と加熱時間の積(t×h)が、下記式(1);
−0.66m+120≦t×h≦−2m+500 (1)
(式(1)中、mは硫酸水溶液の濃度(重量%)を示し、tは加熱温度(℃)を示し、hは加熱時間(時間)を示す。)
の範囲となる条件下で加熱し、スルフォン化熱可塑性樹脂繊維を得る、加熱反応工程を有することを特徴とするスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項3】
前記加熱反応工程の前段に、前記熱可塑性樹脂繊維を、前記硫酸水溶液に混合し、次いで、該熱可塑性樹脂繊維及び該硫酸水溶液の混合物を、5分以上、5〜60℃に保持する硫酸吸着工程を有すること特徴とする請求項2記載のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1記載のスルフォン化熱可塑性樹脂繊維を用いて製造されることを特徴とするケミカルフィルタ用シート。
【請求項5】
前記請求項4記載のケミカルフィルタ用シートを成形して得られることを特徴とするケミカルフィルタ。

【公開番号】特開2006−161234(P2006−161234A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357582(P2004−357582)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】