説明

スロッシング防止装置

【課題】 スロッシングを防止できる経済的なスロッシング防止装置を提供すること。
【解決手段】 貯留容器2内の液体のスロッシングを軽減するスロッシング防止装置であって、液面から液内に向かって下方に離れた位置までの間に、横向きのスロッシング防止部材5が貯留容器内壁から離れた状態で設けられていることを特徴とする。スロッシング防止部材5は貯留容器2内に立設された支柱6により支持されたり、支柱6に対して上下方向に位置調整可能に設けられている。また、スロッシング防止部材5はこれに連結された浮体と重錘とにより、液面から液内に向かって離れた位置までの間に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油タンク,上水道用タンク,農業用水用タンク,工業用水道用タンク等の各種液体貯留タンクあるいは貯液槽などの液体を収容した貯留容器内に設けられて、当該液体によるスロッシングを防止するためのスロッシング防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体が入った貯留容器が地震波等により揺動すると、図9に示すように、液体表面に大波が立ち、この大波が容器の壁面を衝撃するスロッシング現象が発生する。このようなスロッシングによる震災例として、(1)新潟地震(1964年6月16日)による石油タンク火災、(2)日本海中部地震(1983年5月26日)による石油タンク火災、(3)十勝沖地震(2003年9月26日)による石油タンク火災等が知られている。
【0003】
地震の入力速度(cm/sec.)に伴ってスロッシング波高は大きくなり、震災例をみると地震の周期が長く(長周期地震動)内容液のスロッシング周期と近いことから共振を起こしたと考えられる。特に、貯留容器と液体とによって定まる固有振動数と、地震等の振動数とが一致すると、共振現象により激しいスロッシングが起き貯留容器が破損することもありえる。この激しいスロッシング現象を防止ないしは抑制するために従来色々な方法が考案されてきた。
【0004】
例えば、(A)浮屋根式タンクにおいて浮屋根に板状体とスプリングによる抵抗体を取り付け、スロッシングを防止する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。前記(A)の場合は、固定屋根式タンクにはそのまま適用できないという課題がある。
【0005】
また、(B)内溶液表面に袋を設置し、袋内に圧力空気を注入することで内溶液の圧力を高めることによりスロッシング振動数を高めてタンクと共振しないようにする方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。前記(B)の場合は、内溶液の圧力が上昇するため、貯留容器に接続される配管の耐圧力を高めるか減圧弁などの減圧装置が必要となる。
【0006】
また、(C)貯留槽容器内面の内溶液表面に設置された平面部によりスロッシングを防止する方法も知られている(例えば、特許文献3参照。)。前記(C)の場合は、スロッシングの波圧は当該平面部を介して壁面に作用するため、壁面の補強が必要となる。
【0007】
また、(D)内溶液表面に浮いたL形状のパネル開口部からのオーバーフローとパネルの上下動によりエネルギーを消費する方法(例えば、特許文献4参照。)、前記(D)の場合は、波間に浮かんだ船と同様でスロッシングを防止する効果はあまり期待できない。
【0008】
また、(E)複数の流体流通孔を有する上下の多孔板を貯留槽内壁に固定し、上下の多孔板間に複数の金属製球体を転動可能に配置して、液体の移動に伴う金属製球体の移動によって液体の移動エネルギーを吸収しスロッシングを抑制するようにする方法も知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0009】
前記(E)の場合には、地震時に金属製球体が液体貯留層の横方向一方に偏ったり、あるいは他方に偏ったりするので、偏った場合には、それ以外の部分についてはエネルギー吸収効果が小さいという問題がある。また、金属製球体であるので、貯留容器内壁の金属製内壁面と衝突すると、金属音が生じ騒音公害を生じるという問題がある。
【特許文献1】特開平9−142575「浮屋根式貯蔵タンク」
【特許文献2】特開平8−26388「容器内の液体のスロッシング防止装置」
【特許文献3】特開平9−272593「スロッシング防止装置およびスロッシング防止方法」
【特許文献4】特開平11−301788「スロッシング防止パネル」
【特許文献5】実開平6−76191「スロッシング防止装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、前記(A)の方法は浮屋根式タンクに限定され、固定屋根式タンクに適用するにはタンク内に浮屋根状の浮体構造物の設置が必要となり費用が嵩む課題がある。
また、前記(B)の方法は大きな水位変動を繰り返す上水や農水用貯水槽では、巨大な袋が必要となり適用が困難であり費用も高くなるという課題がある。前記(C)の方法は水位変動が大きく水位が一定しない貯水槽では平面部の設置位置が特定できないという問題がある。
【0011】
また、前記(D)の方法ではパネルは内溶液表面に浮かんでいる状態であり、波間に浮かんだ船と同様でスロッシングを防止する効果はあまり期待できないという問題がある。
また、前記(E)の方法では、金属製球体が偏った場合には、それ以外の部分についてはエネルギー吸収効果が小さいという問題がある。また、金属製球体であるので、貯留容器内壁の金属製内壁面と衝突すると、騒音公害を生じるという問題がある。
【0012】
本発明者は、液体のスロッシングを防止するために模型貯留容器内に種々のスロッシング防止部材を配置する試行錯誤をした結果、模型貯留容器内の液面から液内に、スロッシング防止部材を設けることでスロッシングを防止できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、前記従来の課題を有利に解決し、簡単な構造でスロッシングを防止できる経済的なスロッシング防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明のスロッシング防止装置においては、貯留容器内の液体のスロッシングを軽減するスロッシング防止装置であって、液面から液内に向かって下方に離れた位置までの間に、横向きのスロッシング防止部材が貯留容器内壁から離れた状態を保持されるように設けられていることを特徴とする。
第2発明では、第1発明のスロッシング防止装置において、前記スロッシング防止部材は貯留容器内に立設された支柱により支持されていることを特徴とする。
第3発明では、第2発明のスロッシング防止装置において、スロッシング防止部材は支柱に対して上下方向に位置調整可能に設けられていることを特徴とする。
第4発明では、第1発明のスロッシング防止装置において、スロッシング防止部材はこれに連結された浮体と重錘とにより、液面から液内に向かって離れた位置までの間に配置されていることを特徴とする。
第5発明では、第1発明から第4発明のいずれかのスロッシング防止装置において、スロッシング防止部材は、平板または上下に貫通した側方開口凹部または孔による空隙を有する平板のいずれかの平板状の部材とされていることを特徴とする。
第6発明では、第1発明から第4発明のいずれかのスロッシング防止装置において、スロッシング防止部材は、上下に貫通した側方開口凹部または孔による空隙を有する骨組み構造版とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によると、貯留容器内の液体のスロッシングを軽減するスロッシング防止装置であって、液面から液内に向かって下方に離れた位置までの間に、横向きのスロッシング防止部材が貯留容器内壁から離れた状態を保持するように設けられている簡単な構造で、地震時等の共振によるスロッシングを確実に防止したり、共振していないスロッシングでも軽減または防止することができる。また、スロッシングの振動数を変えることなくスロッシング波高とその動水圧を軽減できるため、貯留容器の補強をする必要も無く、経済的である。
第2発明によると、貯留容器内に立設された支柱により容易にスロッシング防止部材を支持することができ、また、スロッシング防止部材が容器内液による波により作用力を受けた場合に支柱の弾性撓み変形により傾動することができ、大きな反力を容器に作用させることがない。
第3発明によると、貯留容器内の液体の搬出あるいは貯留容器内への液体の搬入により液面レベルが変化しても、スロッシング防止部材の位置調整して、効果的なスロッシング防止位置に配置させることができる。
第4発明によると、スロッシング防止部材を浮体と重錘を利用して容易に液面より下方にはなれた位置に正確に配置することができる。また、貯留容器内の液体の給排水により液面レベルが変動しても、その液面レベルに対応して、液面下の所定の位置に可動的に対応することができる。
第5発明によると、スロッシング防止部材を軽量にすることができ、製作および搬送設置作業が容易になる。
第6発明によるとスロッシング防止部材が骨組み構造となるので、板状の場合に比べて、より一層軽量化することができるばかりでなく、小さい部品を人孔などから貯留容器内等に搬送して組立設置することができため、組立設置作業が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1(a),(b)は、本発明の第1実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、この実施形態では、貯留容器2内に収容された水あるいは石油あるいはその他の液体3の液面4から下方に離れた位置に、水平な円板状の板体からなるスロッシング防止部材5が配置されていると共に、前記スロッシング防止部材5はその中心部に同心状に配置された支柱6の上端部に取付けられている。
【0016】
支柱6とスロッシング防止部材5との取付構造としては、支柱上端部にフランジを設けると共にスロッシング防止部材5に雌ねじ孔を設けてボルトにより固定してもよく、支柱上端部をスロッシング防止部材5に溶接により固定してもよく、支柱上端部をスロッシング防止部材5に嵌合して溶接する等の剛結合手段、あるいは、支柱上端部フランジにゴム板等の弾性体を介在させてボルトにより固定する弾性結合手段でもよく、地震前後においてスロッシング防止部材5が初期の水平状態に戻ろうとする復元性があるほうが、支柱6あるいは貯留容器2に過大な応力が作用しないので望ましい。また、支柱6も初期の垂直状態に戻ろうとする復元性があるほうが、支柱6あるいは貯留容器2に過大な応力が作用しないので望ましい。
【0017】
図示の形態では、支柱の下端部に座板9が溶接等により一体に設けられ、その座板9は貯留容器2の底板10に溶接等により固定されて、スロッシング防止装置1が構成されている。前記のスロッシング防止装置1の固有振動数は、貯留液3と貯留容器2との固有振動数と異なるように設定される。
【0018】
前記円板状のスロッシング防止部材5は、必要に応じ、図2に示すように、スロッシング防止部材5を中空部材としてその内部に、発泡樹脂あるいは貯留液などの充填材11を充填した複合構造としてもよく、この場合、充填材11によりスロッシング防止部材5の浮力調整することもできる。
【0019】
なお、本発明のスロッシング防止装置1は、貯液される小型の貯水槽から大型の石油タンク等の広範囲の貯留容器に適用することができるため、小型の貯留容器のスロッシング防止装置に適用する場合には、支柱6とスロッシング防止部材5とを一体成形等により製作した形態でもよい。
【0020】
前記のように構成されたスロッシング防止装置1では、地震時等の共振によるスロッシング発生状況になる前に、貯留液3の揺動により液体の揺動に遅れてスロッシング防止部材5は揺動し、スロッシング防止部材5を支持する支柱6も弾性変形領域内で傾動揺動し、すなわち、スロッシング防止部材5はそれ単独で、または支柱6と共に傾動揺動して、共振によるスロッシングを防止すると共に共振時以外のスロッシングも防止または軽減するスロッシング防止装置1として機能する。また、支柱6が弾性撓み変形しても、貯留容器2の内壁から離れた状態を保持するようにされている。なお、スロッシング防止メカニズムについては後記する。
【0021】
このように機能するスロッシング防止メカニズムとしては、下記(1)〜(3)のようなことが考えられる。
(1)スロッシング防止部材5を設置することにより、スロッシング防止部材5が邪魔板として作用し、スロッシング防止部材5によりその上下で貯留液が切られように分断され、スロッシング時の波の成長に必要な液(例えば水)がスロッシング防止部材5の上に供給されにくくなる。
(2)容器内の貯留液のスロッシングによる波圧により力を受けスロッシング防止部材5は変位する。スロッシング防止部材5は貯留液の動きに対し、滑りなどによりやや遅れて追従しはじめる。そのためスロッシングの周期とスロッシング防止部材5の周期の間に位相差が生じることになり、スロッシングは自由な振動を阻害される。
【0022】
(3)また、スロッシング防止部材5の傾動に伴う反射波による作用も期待できる。さらに、後記する実施形態のように、スロッシング防止部材5に貫通した凹部または貫通穴を空けると、液が穴を通り抜けるときにエネルギーが消費されるため、波の成長に必要なエネルギーが不足する。また、穴を通り抜ける液とスロッシング防止部材5上の液が干渉しあい、波の成長に必要なエネルギーが不足する。
【0023】
なお、本発明のスロッシング防止装置1に似て非なるものとして、図8に示すように、貯留液3の表面に保持されない平板31を単に浮かべただけでは、波の動きに平板31が同調して動くため波高はほとんど軽減されることはなく、また、平板31が貯留容器2の内壁に衝突し、貯留容器2の壁を破損する恐れもある。
【0024】
前記第1実施形態では、スロッシング防止部材5は、貯留液3の液面4から下方に離れた位置に設置されているが、スロッシング防止部材5を、貯留液3の液面4から貯留液内の下方の所定の位置までの間に配置すればよい。
【0025】
スロッシング防止部材5の下方の配置位置については、貯留液3が、地震等の水平振動時に可動液部となる上部と、水平振動時にほとんど可動しない固定液部とに分けて検討することが可能な液深(水の場合は、水深の意)の貯留容器の場合には、前記の可動液部に前記スロッシング防止部材5を配置すればよい。前記の可動液部の中でも、静液面(水の場合は静水面の意)時の液表面からスロッシングで発生するほぼ波高に相当する深さまでの位置に設けるのが望ましく、特に、液面下の位置でも、スロッシングで発生するほぼ波高に相当する深さの位置に配置するとスロッシング防止効果が高い。スロッシング時の波高dmax(図9参照)は、ハウスナーなどの慣用式で計算することができる。
【0026】
スロッシング防止部材5が貯留容器内壁面12に衝突しないようにするために、円板状のスロッシング防止部材5を貯留容器内壁面12から充分離れた位置に設ける必要がある。したがって、円板状のスロッシング防止部材5の外径は、支柱6の弾性撓みによりスロッシング防止部材5が水平変位しても十分貯留容器2の内壁面に接触しないように貯留容器2の内径よりも小さい寸法となるように設計で留意して設定する。
【0027】
前記のスロッシング防止部材5および支柱6の材質は、貯留容器2内の貯留液3の性質によって適宜設定される。例えば、貯留液3が上水であれば水質に影響を与えない鋼材等の材料を選定すればよい。平板からなるスロッシング防止部材5の支持方法としては、タンク等の貯留容器2では、タンク中央に設置された屋根支持の支柱があるため、その支柱によりスロッシング防止部材5を支持する支柱と併用しても良いし、別個に設置されている流入管を利用しても良いし、新たに支柱を設置しても良い。
【0028】
(第2実施形態)
図3(a),(b)は本発明の第2実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、スロッシング防止部材5に周方向に等角度間隔おいて上下に貫通した複数の貫通孔13を設けて、スロッシング防止部材5の空隙率を高めると共に、その軽量化を図り、搬送設置作業を容易にしている。
【0029】
このように、スロッシング防止部材5に貫通した貫通孔13を空けて空隙率を高めると、貯留液3が貫通孔13を通り抜けるときにエネルギーが消費されるため、波の成長に必要なエネルギーが不足するようになる。また、貫通孔を通り抜ける貯留液とスロッシング防止部材5上の貯留液が干渉しあい、波の成長に必要なエネルギーが不足するようになる。また、貫通孔13を設けることにより貯留液3が貫通孔13を通り抜けるときに強制的に方向変更されて、スロッシング防止部材5上部側の貯留液と干渉して波を打ち消し合う作用も生じる。また、スロッシング防止部材5の傾動に伴う反射波による作用も期待できる。なお、その他の構成は、前記実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。
【0030】
(第3実施形態)
図4(a),(b)は本発明の第3実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、この実施形態は、スロッシング防止部材5に貫通孔13ばかりでなく、上下に貫通し側方に開口する凹部でもよいことを示すための実施形態であり、スロッシング防止部材5に周方向外周縁部に、等角度間隔おいて上下に貫通した複数の半円状切り欠き等の側方開口凹部14を設けた形態である。このように周縁部に切り欠き等の側方開口凹部14を設け、空隙率を高め軽量化したスロッシング防止部材5としてもよい。このような側方開口凹部14を貫通孔13を有する前記実施形態のスロッシング防止部材5に設けてもよい。
【0031】
(第4実施形態)
図5(a)(b)は、本発明の第4実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、スロッシング防止部材5の中央部に上下方向に貫通する支柱挿通孔15を設けると共に下部にボルト挿通用横孔16を設け、前記スロッシング防止部材5を支持する支柱6側に上下方向に間隔を設けてボルト挿通用横孔17を設け、スロッシング防止部材5のボルト挿通用横孔16と支柱6の最適な位置のボルト挿通孔17とに渡ってボルト18を挿通しこれにねじ込まれるナット19により、スロッシング防止部材5を位置調整可能に設ける形態である。なお、大型のスロッシング防止部材5となる場合には、図示を省略するが、支柱6とスロッシング防止部材5とのいずれか一方に液圧ジャッキなどの位置調整装置を取り付け、他方に連結して、スロッシング防止部材5の上下方向の位置調整をするようにしてもよい。この場合、前記位置調整装置を、貯留液の液面レベルを検知する検知装置により自動的に駆動して、スロッシング防止部材5の位置調整をするとよい。
【0032】
このような形態であると、貯留容器2内の液体レベルに応じてスロッシング防止部材5を最適な位置に設置することができ、スロッシング軽減効果を高めることができる。
【0033】
(第5実施形態)
図6(a)(b)は、本発明の第5実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、この形態では、スロッシング防止部材5が骨組み構造の版状とされた骨組構造版とされ、より軽量化されていると共に組立容易にされた形態である。
【0034】
さらに説明すると、このスロッシング防止部材5は、図6(b)に示すように、複数の円弧状部材20を円形に配置してボルト等によって円形に一体化した外側環状部材21と、これに間隔をおいて内側に複数の円弧状部材20を円形に配置してボルト等によって円形に一体化した内側環状部材22と、これに間隔をおいて中心部の柱連結部材23とを、外側環状部材21と内側環状部材22との間または内側環状部材22と柱連結部材23との間に連結梁材24を配置してボルト等により一体化されて、2重環状のスロッシング防止部材5とされている。スロッシング防止部材5の材料としては、貯留液の化学的性質により鋼材などの各種金属製材料あるいは合成樹脂材料あるいはこれらの複合材料を使用すればよい。
【0035】
内側環状部材22,外側環状部材21および連結梁材24並びに柱連結部材23を構成する場合、矩形状断面内に発泡合成樹脂あるいは貯留液3と同材質の充填材11を充填して、軽量化を図ったり、より安価に製作できるようにしてもよく、これらにあわせてスロッシング防止部材5の浮力調整を図ることができる。
【0036】
前記のような骨組み構造のスロッシング防止部材5であると、これを構成する円弧状部材20あるいは連結梁材24等の短尺部品をタンク等の貯留容器に設けられている人孔等から容器内に搬入・搬出可能になるため、貯留容器内への搬送並びに貯留容器内での現場組立が容易で安価に施工できる。
【0037】
なお、前記の円弧状部材20および連結梁材24として、市販の鋼製パイプ材を使用し、円弧状部材5の周方向端部および半径方向の内側あるいは外側に適宜連結用フランジを設けると、さらに安価に製作できるスロッシング防止部材5とすることができる。
【0038】
(第6実施形態)
図7は、スロッシング防止部材5を可動浮き形式とした本発明の第6実施形態のスロッシング防止装置1を示すものであって、この形態では、円版状のスロッシング防止部材5の上部側に直接または図示のように連結条体あるいは連結棒材等の連結部材27を介して一つまたは複数の浮体28が連結され、また、スロッシング防止部材5の下側に直接または連結部材27を介して重錘29が配置され、これらの浮体28と重錘29とスロッシング防止部材5とがつりあった状態で、液体中にスロッシング防止部材5が液面から所定の距離離れた位置に位置保持するように配置されている。スロッシング防止部材5の部分は図1,3に示す平板状、図2に示す複合構造、あるいは図6に示すような骨組構造版としてもよい。
【0039】
このような形態は支持用の支柱が設置できない場合に有利な形態で、平板からなるスロッシング防止部材5が貯留液面4(静水時の液面)からスロッシングのほぼ波高寸法程度下方までの位置に設置されるように、重量バランスを考えた浮体28と重錘29を必要な個数スロッシング防止部材に取付ければよい。
【0040】
また、前記のスロッシング防止部材5の外周部と貯留容器2内面側とは、等角度間隔をおいて配置されたワイヤロープあるいはチェーン等の連結条体30またはバネ材(バネ板または圧縮コイルバネあるいは引張りコイルバネ)により連結し、その連結条体30の重量あるいはバネ材の付勢力により貯留容器2中央に中心が位置するように求心(付勢)され、スロッシング防止部材5が貯留容器2の内壁面から離れた状態を保持するようにされている。前記の連結条体30あるいはバネ材は、貯留容器2内径半径とスロッシング防止部材5の半径寸法との差より若干長い寸法としたり、それ以上の長さ寸法とすることができる。バネ板とした場合には巾寸法は適宜設定される。前記の連結条体30あるいはバネ板によりスロッシング防止部材5が貯留容器2に衝突防止を図ることができる。なお、スロッシング防止部材5と貯留容器2とを等角度間隔をおいて配設されるバネ付勢された伸縮自在な連結部材により連結することにより、スロッシング防止部材5の中心を貯留容器2の中央に求心(付勢)し、貯留容器2の内壁面から離れた状態を保持することでもよい。なお、図示を省略するが、防舷材等の緩衝材をスロッシング防止部材5側の周縁部に設置してもよい。
【0041】
図7に示す板状のスロッシング防止部材5に、複数の浮体28および重錘29を付属させる場合には、120°等の等角度間隔をおいて取り付けたり、または等角度間隔をおいて対称に取り付ければよい。浮体28および重錘29の設置位置および設置数は、スロッシング防止部材5の重量等を考慮して設計により適宜設定される。
【0042】
浮体形式のスロッシング防止部材5としては、図6に示すような骨組構造版あるいは2重環状の骨組構造版のスロッシング防止部材5を使用してもよい。
【0043】
このような形態のスロッシング防止部材5では、図示を省略するが、外側環状部材21または内側環状部材22に、等角度間隔等により対称に浮体28と重錘29を配置して直接取付けるか、連結条体27を介して連結し、貯留容器2内の液面から下方に離れた位置までに配設すればよい。
【実施例1】
【0044】
次に、本発明のスロッシング防止装置を模型化して振動台実験をした結果について説明する。図10に模型化したスロッシング防止部材5を設置した貯留容器を示す。
貯留容器として、外径直径600mm、内径直径580mm、深さ800mm、貯留液として水を用い水深500mmとしたアクリル樹脂管による貯留容器2の模型を振動台に設置し、スロッシング防止部材5を設けた場合と、比較例としてスロッシング防止部材5を設けない場合(ノーマルの場合)について、2galの正弦波の加振を与えた。
スロッシング防止部材5の形状は、図1、3に示す円形等の平板状と、図6に示す2重環状の骨組構造版の2種類とした。
スロッシング防止部材5を平板とした場合は、その平板の直径を345mmとし、平板の板厚を1mmと7mmとの2種類とし、これら2種類について、上下方向の貫通孔13の有無および貫通孔13の平面総面積による平板の空隙率(平板の直径寸法により単純に積算される平面面積に対する貫通孔13の平面総面積の比)を、0%、25%、50%、67.7%と変化させた平板を準備した。
各平板および骨組構造版状のスロッシング防止部材5の設置深さは、想定されるスロッシング波高の2割程度の水面から2cmとした。
また、円版状の2重骨組構造版のスロッシング防止部材5は、円形断面とした外側環状部材(外骨)の外径を335mm、内径を304mm、円形断面とした内側環状部材(内骨)の外径を224mm、内径193mmとした。
いずれも直径5mmの鋼棒製支柱6の上部にスロッシング防止部材5を固定する形式とし、支柱6の上端を水面からわずかに突出させ、全長を500mmの棒を取り付け金具に固定)とした。
支柱6の下部は貯留容器2の底板に前記取り付け金具を介して固定した。
前記の各種の平板および骨組構造版(表1と図11では、単に骨組と記した)のスロッシング防止部材5の場合と、比較例としてスロッシング防止部材5を設けない場合について振動台実験をした結果を表1と図11に示す。また、スロッシング防止部材5を設けた場合には、共振によるスロッシングを起こさず、共振によるスロッシングを確実に防止できた。
表1およびその一部の動水圧と波高とスロッシング防止部材について棒グラフとした図11に示す実験結果から、平板状のスロッシング防止装置1を設置することにより、スロッシングによる波高および動圧は、スロッシング防止装置を設けない場合(ノーマルの場合)に比べ、著しく(約40%以下)軽減できることがわかる。
また、平板の厚みが同じであれば空隙率の小さい方が、空隙率が同じであれば厚みの厚い方が良好な軽減効果を示すことがわかる。さらに、スロッシング振動数は変化せず基本的な動的挙動に影響を与えないことがわかる。
【0045】
【表1】

【0046】
また、本発明のスロッシング防止装置1を使用すると、浮屋根形式あるいは固定屋根形式の貯留容器の形式に関係なく、また、円形、角形の貯留容器の平面形状にも関係なく、スロッシング振動数を変えることもなく、地震の方向性による低減効果の差もほとんどない。また、貯留容器や接続する配管などの補強も不要であり、従来のように液面全面を覆う必要がないので経済的であり、平板状の装置が貯留容器の壁面に衝突する恐れもない。
【0047】
本発明は、地上式または地下式あるいは半地下式いずれの形態の貯留容器に適用でき、また、貯留容器自体の形状形態としては、平面円筒状または直方体状あるいは球体状等、適宜の形態の貯留容器に適用することができる。
【0048】
本発明を実施する場合、平面長方形状の貯留容器の場合には、本発明のスロッシング防止装置を平面的に間隔をおいて並列して複数設けるようにしてもよい。
【0049】
また、本発明を実施する場合、支柱支持形式あるいは浮体および重錘を使用した浮き形式のスロッシング防止装置の場合、上下方向に間隔あるいは重合するようにスロッシング防止部材を複数設けるようにしてもよい。
【0050】
本発明を実施する場合、スロッシング防止部材5として骨組構造版の形態の場合に、側方開口凹部14を有する形態の骨組構造版としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図2】図1におけるスロッシング防止部材の変形形態を示す縦断正面図である。
【図3】本発明の第2実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図5】本発明の第4実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図6】本発明の第5実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図7】本発明の第6実施形態のスロッシング防止装置を示すものであって、(a)は貯留槽に設けた状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図8】(a)は液面上に浮き平板を設けた場合の挙動を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図9】(a)はスロッシングが生じている状態を示す縦断正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図10】スロッシング防止部材を設置した貯留容器の模型を示す図である。
【図11】模型貯留容器内にスロッシング防止部材を設けた場合と設けない場合について振動台実験をした結果について、棒グラフとした説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 スロッシング防止装置
2 貯留容器
3 貯留液
4 液面
5 スロッシング防止部材
6 支柱
9 座板
10 底板
11 充填材
12 内壁面
13 貫通孔
14 凹部
15 支柱挿通孔
16 ボルト挿通用横孔
17 ボルト挿通用横孔
18 ボルト
19 ナット
20 円弧状部材
21 外側環状部材
22 内側環状部材
23 柱連結部材
24 連結梁材
27 連結部材
28 浮体
29 重錘
30 連結条体
31 平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留容器内の液体のスロッシングを軽減するスロッシング防止装置であって、液面から液内に向かって下方に離れた位置までの間に、横向きのスロッシング防止部材が貯留容器内壁から離れた状態を保持されるように設けられていることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項2】
前記スロッシング防止部材は貯留容器内に立設された支柱により支持されていることを特徴とする請求項1に記載のスロッシング防止装置。
【請求項3】
スロッシング防止部材は支柱に対して上下方向に位置調整可能に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のスロッシング防止装置。
【請求項4】
スロッシング防止部材はこれに連結された浮体と重錘とにより、液面から液内に向かって離れた位置までの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスロッシング防止装置。
【請求項5】
スロッシング防止部材は、平板または上下に貫通した側方開口凹部または孔による空隙を有する平板のいずれかの平板状の部材とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスロッシング防止装置。
【請求項6】
スロッシング防止部材は、上下に貫通した側方開口凹部または孔による空隙を有する骨組み構造版とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のスロッシング防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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