説明

セキュリティスクリーニングシステムおよびセキュリティスクリーニング方法

【課題】セキュリティ性の判定精度の低下を許容範囲としながら、スループットを大幅に改善することができるセキュリティスクリーニングシステムを提供する。
【解決手段】多数の被験者SBの各々から個々に被験者IDをID取得部100が取得する。少数の被験者SBからなる複数のグループGRごとに一つに混合された検体SMを検体抽出部110が抽出する。グループGRごとに一つに混合されて抽出された検体SMを検体検査部120が検査する。混合されて検査された検体SMの検査結果からグループGRのセキュリティ性をグループ判定部130が判定する。グループGRごとにセキュリティ性の一つの判定結果と複数の被験者SBの被験者IDとを結果対応部140が対応させる。このため、検体SMの抽出と検査とセキュリティ性の判定とを、多数の被験者SBごとではなく、少数の被験者SBからなるグループGRごとに実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の被験者のセキュリティ性を判定するセキュリティスクリーニングシステムおよびセキュリティスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、爆発物や銃火器などの危険物を用いたテロ、覚醒剤、麻薬などの禁止薬物の流通、新型インフルエンザや未知の感染性病原体の発生、食品の汚染、大気汚染、水質汚染など、様々な脅威の存在が安全、安心な社会的生活を脅かしている。
【0003】
これらに対して、どのような対策、対処をとるかも重要な課題になってきている。脅威の対象が、何かの物質である場合、その物質を高感度で検出することで、未然に防ぐ、または、抑えるための対策を講じるのは、現実的な手段の一つである。
【0004】
現在、微量な物質を検査、検出する方法には、蛍光X線分析、質量分析器(MS:Mass Spectrometry)、イオンモビリティスペクトロメトリ(IMS:Ion Mobility Spectrometry)、ガスクロマトグラフィ(GC:Gas Chromatography)、液体クロマトグラフィ(LC:Liquid Chromatography)、化学反応を用いた化学発光法、化学的染色法、抗体や酵素、アプタマーなどの生体反応物質を使った免疫クロマトグラフィ、酵素免疫測定(ELISA:Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法、水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)法、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)センサー、バイオ発光法などの方法、焼結半導体式、定電位電解式、ガルバニ式、赤外線吸収式、などの各種ガスセンサーなど、多種多様の方法が存在する(以下、一括して微量物質検査方法と呼称する。また、その検査を行う装置を微量物質検査装置と呼称する)。
【0005】
これらの方法の中から、様々な検出対象物質に応じて効果の高い方法を選ぶことが可能で、例えば爆薬、麻薬などの物質を検査する目的では、IMS、化学的染色法、MSなどが用いられている。
【0006】
また、インフルエンザウイルスや病原体などの検出には、免疫クロマトグラフィなどの生体反応を用いた方法が、各種汚染物質については、GC、LCなどの方法が用いられている。
【0007】
現在、手荷物に付着した粒子形状物質を非接触でかつ高率で回収し、手荷物に危険な又は特定の試料物質が付着していたか否かを検査する技術、さらに、そのような検査の簡便化や自動化も目的とする提案がある。
【0008】
その付着物検査装置は、試料物質が付着した検査対象物に圧縮ガスを吹き付けて、剥離した試料物質を補集フィルタにより捕集する捕集部と、この捕集フィルタに捕集された試料物質を分析する検査部と、を備えるとともに、さらに手荷物を検査部に配送する手荷物配送部と、補集フィルタを捕集部から検査部へ搬送する搬送部とから構成される(特許文献1)。
【0009】
また、危険物探知装置における検出感度が十分でなく、危険物の蒸気圧が低い場合や、危険物の量が微量である場合には、濃縮過程を設けない限り検出できないという従来技術の欠点の解消を目的とした技術も提案されている。
【0010】
その技術では、ニトロ化合物に代表される危険物を負のコロナ放電を用いて効率的にイオン化し、生成した負イオンを質量分析計を用いて高感度に検出する。危険物の蒸気を高感度に検出することにより、危険物の有無を高速に判定することが可能となる(特許文献2)。
【0011】
さらに、短時間かつ精度よく検査対象を検査可能なセキュリティーゲートシステムおよびセキュリティーゲートの制御技術の提案もある。その技術では、主通路と、主通路中を移動する検査対象(例えば空港等の施設利用者)から取得した試料(例えば切符)を分析する質量分析器と、試料取得位置より検査対象の移動方向下流側にて主通路から分岐した少なくとも一つの分岐通路と、分岐通路の分岐部分に設けられ検査対象の流れを切り替えるための複数のゲートと、質量分析器による分析結果に基づいて複数のゲートの切替を制御する制御装置と、を備える(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006−097990号公報
【特許文献2】特開2000−028579号公報
【特許文献3】特開2007−187467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、微量物質検査方法を実際にセキュリティスクリーニングに用いるにはいくつかの問題がある。
【0014】
例えば、セキュリティ対策の必要性の高い空港では、X線透過像による危険物検査が基本的に全搭乗者および全荷物について、金属探知機を用いた危険物検査が全搭乗者について、行われている。一方、規制物質を物理的に検出するIMSやMS、化学発光式検出器による検査については、抽出サンプルについてのみ行っているのが現状である。
【0015】
これは、測定に必要な時間が長いために、たとえゲート当たりに一つの測定装置を置いたとしても、通過する人数を検査しきれなかったり、さらに装置が高額なため実質的に必要な装置数を用意することが難しかったりなどの問題があるためである。従って、脅威になる可能性のある物質を高感度で検出する装置や技術が存在するにもかかわらず、完全なセキュリティスクリーニングを実施できていない。
【0016】
このように、空港の例に限らず、種々の微量物質検査方法がセキュリティスクリーニングに応用されるために解決しなければならない課題として、第一に、検査時間が要求されるスループット以上にかかってしまう点が挙げられる。
【0017】
検査時間には、サンプルを収集するための時間や、検査結果の処理や判定を行うために、場合によっては個人や個体の認証用データベースなどと相互通信を行う時間などが含まれたり、感度や精度の向上とトレードオフの関係にある要素が含まれたりするため、大幅な短縮を期待することが難しい側面が多々ある。
【0018】
第二に挙げられるのは、検査コストの問題である。これには検査に必要な装置の導入に必要なコストや、実際に検査を行うサンプル数に比例して増える消耗品のコストがある。
【0019】
第三に挙げられる問題は、微量の物質を高感度で検査する際に起こりやすい問題である。通常、実験室などで高感度の検査を行う場合は、サンプルが接触する器具を、サンプルごとに念入りに洗浄を行ったり、使い捨て器具を使ったりするなど、サンプル同士が混合しないような配慮を行う。
【0020】
しかし、セキュリティスクリーニングに用いる場合は、多数のサンプルを連続的に処理することが求められるため、全ての器具をサンプルごとに洗浄、または、交換することはスループット、コストの両面で困難である。そのため、実際は共用の器具が存在したり、サンプルのパージが不十分だったりして、連続する検査の間でサンプルが混合してしまう可能性が排除できない問題がある。
【0021】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、スループットを大幅に改善することができるセキュリティスクリーニングシステムおよびセキュリティスクリーニング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のセキュリティスクリーニングシステムは、多数の被験者の各々から個々に被験者IDを取得するID取得手段と、少数の被験者からなる複数のグループごとに一つに混合された検体を抽出する検体抽出手段と、グループごとに一つに混合されて抽出された検体を検査する検体検査手段と、混合されて検査された検体の検査結果からグループのセキュリティ性を判定するグループ判定手段と、グループごとにセキュリティ性の一つの判定結果と複数の被験者の被験者IDとを対応させる結果対応手段と、を有する。
【0023】
本発明のセキュリティスクリーニング方法は、多数の被験者の各々から個々に被験者IDを取得し、少数の被験者からなる複数のグループごとに一つに混合された検体を抽出し、グループごとに一つに混合されて抽出された検体を検査し、混合されて検査された検体の検査結果からグループのセキュリティ性を判定し、グループごとにセキュリティ性の一つの判定結果と複数の被験者の被験者IDとを対応させる。
【0024】
なお、本発明の各種の構成要素は、その機能を実現するように形成されていればよく、例えば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたデータ処理装置、コンピュータプログラムによりデータ処理装置に実現された所定の機能、これらの任意の組み合わせ、等として実現することができる。
【0025】
また、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のセキュリティスクリーニングシステムのセキュリティスクリーニング方法では、多数の被験者の各々から個々に被験者IDをID取得手段が取得する。少数の被験者からなる複数のグループごとに一つに混合された検体を検体抽出手段が抽出する。グループごとに一つに混合されて抽出された検体を検体検査手段が検査する。混合されて検査された検体の検査結果からグループのセキュリティ性をグループ判定手段が判定する。グループごとにセキュリティ性の一つの判定結果と複数の被験者の被験者IDとを結果対応手段が対応させる。このため、検体の抽出と検査とセキュリティ性の判定とを、多数の被験者ごとではなく、少数の被験者からなるグループごとに実行する。従って、セキュリティ性の判定精度の低下を許容範囲としながら、スループットを大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のセキュリティスクリーニングシステムの論理構造を示す模式的なブロック図である。
【図2】本発明の実施の第一の形態のセキュリティスクリーニングシステムのセキュリティスクリーニング方法の具体例を示す模式図である。
【図3】二つのゲートでグループの被験者の組み合わせを相違させる具体例を示す模式図である。
【図4】全数nの被験者に対するセキュリティスクリーニングに要する時間の概算を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の実施の第二の形態のセキュリティスクリーニングシステムの微量物質検査装置である質量分析装置を用いて連続的に微量物質検査を繰り返したときの微量物質量と時間との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の一形態を図面を参照して以下に説明する。本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000は、多数の被験者SBの各々から個々に被験者IDを取得するID取得部100と、少数の被験者SBからなる複数のグループGRごとに一つに混合された検体SMを抽出する検体抽出部110と、グループGRごとに一つに混合されて抽出された検体SMを検査する検体検査部120と、混合されて検査された検体SMの検査結果からグループGRのセキュリティ性を判定するグループ判定部130と、グループGRごとにセキュリティ性の一つの判定結果SJと複数の被験者SBの被験者IDとを対応させる結果対応部140と、を有する。
【0029】
また、詳細には後述するが、本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000は、複数の検体抽出部110で被験者SBの組み合わせが相違する複数のグループGRから一つに混合された検体SMを抽出する。さらに、被験者SBが通過するゲート210,220を、さらに有し、検体抽出部110は、ゲート210,220に設置されている。
【0030】
上述のような構成において、本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000では、被験者SBが検査ゲート210,220を通過し、検体SMの採取が行われ、微量物質検査装置に搬送された際には、被験者IDと混合検体IDの組み合わせを作成し、情報管理用の記録媒体に記録する。結果として、一つの混合検体IDには、混合数分の被験者IDが対応する。
【0031】
被験者IDの取得手段には、被験者SBが有する固有の管理番号が記録されている紙媒体、バーコード、磁気テープ、電子的記録媒体などから、撮像素子や無線通信手段などを用いて読み取ったり、被験者SBが人物であった場合は、指紋、掌紋、静脈パターン、虹彩パターン、遺伝子配列、顔などの生体認証情報を専用の装置で読み取ったりする方法を用いることができる。
【0032】
また被験者IDに追加して、大きさ、重さ、色、匂い、などの、被験者SBに固有の情報とは言えないが、特徴に関する補足的な情報を組み合わせて記録することができる。被験者SBが人物である場合、性別、年齢、人種、服装なども補足情報として記録することができる(以下、これらを補足情報とする)。
【0033】
さらに、取得した被験者IDやその補足情報を用いて、既に存在するデータベースの中から対応する被験者SBに対応する、または、対応する可能性のあるデータ、例えば、既に行われた微量物質の検査結果や、その他セキュリティスクリーニングの判定に影響を与えうる情報などを抜き出し、その情報(以下、DB情報とする)を被験者IDや混合検体IDと組み合わせて記録することができる。
【0034】
以上のように、本実施の形態のセキュリティスクリーニング方法では、被験者SBが検査ゲート210,220を通過した時点で、被験者IDと混合検体IDの組み合わせが作成され、同時に、補足情報やDB情報が被験者IDに付与される。
【0035】
さらに微量物質の検査結果を得るために必要な時間が経過した後、微量物質情報が混合検体IDに付与される。セキュリティスクリーニングの判定は、補足情報やDB情報、微量物質情報が付与されるごとに行われる。
【0036】
具体的には、あらかじめ規定した危険度、安全度などの判定指標が、各種情報が追加されるごとに増減し、一定の閾値を上回ったり、下回ったりした時点で、総合的な判定結果を与える、などの方法をとることができる。
【0037】
場合によっては、被験者SBが最初に検査ゲート210,220を通過しただけで、最初の微量物質情報が存在しない状況でも、補足情報やDB情報のみで総合判定が出されることも考えられるが、基本的には、微量物質情報が判定指標を大きく左右する。
【0038】
本実施の形態のセキュリティスクリーニング方法では、全ての被験者SBが、二回以上検査ゲート210,220を通過する配置にすることで効果をより高めることができる。
【0039】
一つの検査ゲート210,220だけで総合判定を出す場合、それぞれの微量物質情報には、少なくとも混合数分の被験者SBからの検体SMが含まれるため、例えば検査員による調査などのセキュリティスクリーニング上の処理を行う場合は、その混合数分の被験者SB全てが対象となる。
【0040】
一方、全ての被験者SBが二回検査ゲート210,220を通過する配置とし、さらに一回目の検査で同じ混合検体IDに対応した各被験者SBは、二回目の検査で、別々の混合検体IDに対応するように配置すれば、有意な微量物質情報を持ち合わせている被験者SB候補を一意に抽出することができる。
【0041】
たとえ、二回目の検査で別々の混合検体IDに分配して検査されるよう特別な配慮を行わなくても、被験者SBの割り当てが自然に分散するようにするだけでも構わない。その分散度合いに応じて、有意な微量物質情報を持ち合わせている被験者SBの候補数を混合数よりも少なくすることができる。
【0042】
このように、本実施の形態のセキュリティスクリーニング方法は、一回の微量物質の検査に、複数の検体SMを重ね合わせることで、実効的なスループットの向上と、検査コストの低減を実現するものである。
【0043】
複数の検体SMを混合した結果、検査のノイズレベルが高まったとしても、それを補う高いS/N(Signal-to-Noise ratio)で微量物質を検査できる方法を用いること、さらに検体SMの混合に伴う情報の複合化を管理する情報システムを備えること、さらに複合化した情報から、特定の被験者IDなど目的の情報を絞り込むために検査ゲート210,220を複数設けることなどを組み合わせることで、このようなセキュリティスクリーニングを実現することができる。
【0044】
また、本実施の形態のセキュリティスクリーニング方法では、微量の物質をできる限り高感度で検査するため、複数の検体SMが少しでも混合した場合、本来は存在せず混合した結果として紛れ込んだ物質についても、有意な検出結果を出してしまう可能性がある。
【0045】
理想的には、検体SMが混合しない仕組みを作るべきであるが、実際は、スループットの低下とコストの上昇を抑える意味で、ある程度の検体SMの混合は許容した仕組みを構築することが、実質的な効果を高めることにつながる。
【0046】
そのため、本実施の形態のセキュリティスクリーニング方法では、一つの被験者IDに、一つ以上の混合検体IDを対応させて記録することができる。例えば、n番目と、n+1番目の混合検体SMの切り替えの際に、二つの検体SMが混合する可能性が排除できない場合に有効である。
【0047】
例えば、n番目の混合検体SMに対応する被験者IDには、n番目の検体SMを取得した時間より後に採取した、n+1番目以降の一つ以上の混合検体IDも追加して対応させたり、場合によっては時間的にさかのぼって、n−1番目以前の一つ以上の混合検体IDも対応させたりすることで、混合検体SM間で、さらに混合が起きた場合にも情報を洩らさずに、スクリーニング結果に反映することができる。
【0048】
実際に、ある被験者IDについての微量物質情報を集計する場合、例えばn−1番目から、n+2番目までの混合検体IDを参照することとし、それぞれの混合検体IDに付与している微量物質情報に、あらかじめ決定しておいた任意の係数を掛け合わせたものの合計などを、その被験者IDについての微量物質情報として採用するなどの最適化された仕組み決定しておくと良い。
【0049】
また、この仕組みをさらに高度化するためには、被験者ID、混合検体IDともに取得時間情報を組み入れ、その時間情報の差を引用して微量物質情報を積分など行う公式を用意することで、検体SMが混合する可能性を、より実情に近い形で反映した微量物質情報の算出を行うことができる。
【0050】
本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000のセキュリティスクリーニング方法では、多数の被験者SBの各々から個々に被験者IDをID取得手段が取得する。
【0051】
少数の被験者SBからなる複数のグループGRごとに一つに混合された検体SMを検体抽出部110が抽出する。グループGRごとに一つに混合されて抽出された検体SMを検体検査部120が検査する。
【0052】
混合されて検査された検体SMの検査結果からグループGRのセキュリティ性をグループ判定部130が判定する。グループGRごとにセキュリティ性の一つの判定結果と複数の被験者SBの被験者IDとを結果対応部140が対応させる。
【0053】
このため、検体SMの抽出と検査とセキュリティ性の判定とを、多数の被験者SBごとではなく、少数の被験者SBからなるグループGRごとに実行する。従って、セキュリティ性の判定精度の低下を許容範囲としながら、スループットを大幅に改善することができる。
【0054】
本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000を、より具体的に図2ないし図4を参照して以下に説明する。本実施の形態のセキュリティスクリーニングシステム1000は、例えば、空港において、搭乗者および荷物に対して行う、持ち込み・持ち出し禁止物品の微量物質検査に利用される。
【0055】
図2は、本実施形態のセキュリティスクリーニングシステム1000のセキュリティスクリーニング方法を示す模式図である。本実施形態では、被験者SBについて、第一、第二の二つのゲート210,220において微量物質の検査を行い、その結果を総合して通過可否を判定する。
【0056】
ここで被験者SBとは、搭乗者自身、機内への持ち込み荷物、預け入れ荷物の何れか、または、その三つの中の二つ以上の組み合わせを指す。まず、最初の被験者SBが第一ゲート210に到達すると、検査要求待ちのゲートは、自動的に被験者SBの接近を感知し、混合検体SMの収集を開始する。
【0057】
集めた検体SMは、直接検査装置内へ導入され、検査の開始を待つ。個々の被験者SBから、検体SMを取得する適切な方法としては、意図的な空気の流れを発生させて、被験者SBから発せられる気体分子や、粉塵に吸着している分子を集める方法や、被験者SBに吸着している物質をふき取ったりする方法を利用することができる。
【0058】
同時に、被験者SBに対応する被験者IDを取得する。被験者IDは、搭乗券やパスポート、クレジットカードなどから得ることができる。また、指紋、掌紋、静脈パターン、虹彩パターン、遺伝子情報、顔などの生体認証情報を専用装置を用いて読み取ることも可能である。
【0059】
被験者SBが搭乗者であった場合、性別、年齢、人種、服装などを適宜補足情報として記録する。また、荷物であった場合、重さ、大きさ、色、など、被験者SBに固有の情報とは言えないが、特徴に関する補足的(補足情報)な情報を組み合わせて記録する。補足情報の取得には、写真やビデオ映像を解析して、自動的に補足情報に追加する。
【0060】
さらに、被験者IDやその補足情報を用いて、既に存在するデータベースに照会を行う。その中から被験者SBに対応する、または、対応する可能性のあるデータ、例えば、既に行われた微量物質の検査結果や、その他セキュリティスクリーニングの判定に影響を与えうる情報などを抜き出し、その情報(以下、DB情報とする)を被験者IDと組み合わせて記録する。
【0061】
混合検体SMの最大の混合数や、混合検体SMを取得してから検査を行うまでの最長の待ち時間は、それぞれ設定数、設定時間としてあらかじめ決めておく。検体SMを取得した後、何れも設定値に達していなければ、次の検体SM取得を待つ。
【0062】
何れかが、設定値に達した時点で、その時点で取得している混合検体SMに対して、混合検体IDを取得し、微量物質情報の取得を開始する。
【0063】
本実施形態では、微量物質検査装置として、ルミノール化学発光法による微量物質検出装置を用いた。被験者SBからは、検体SMとして気体を採取し、反応容器中の溶液にバブリングまたは、吹き付けを行うことによって、混合検体SMの蓄積を行った。各被験者SBからの検体SM採取はそれぞれ10秒間行い、その間に平均10リットルの気体を採取した。
【0064】
得られた混合検体SMについては、ニトロ基などの特定の官能基に反応して化学発光反応を示す基質を加え、混合検体SMからの発光強度を、光子計数管を用いて測定を行った。検査時間は5分とした。
【0065】
各検体SMは、第一ゲート210において検体SMの取得が終わった直後、第二ゲート220へ移動し、同様に第二の検査を行った。第二の検査を行うに先立って、各被験者SBから取得した検体SMを、混合検体SMへの割り当てる際、その組み合わせを意図的に変更した。例として図3に、全16検体SMについて混合数を4として検査を行う場合について図示した模式図を示す。
【0066】
まず第一ゲート210では、1から4の被験者IDが付いた横一列分の被験者SBについて、混合サンプルの取得が行われ、引き続き、残りの12被験者SBについても、横並びの4人の被験者SBごとに一つの混合検体IDが対応する形で、検体SMの取得、微量物質の検査を行う。
【0067】
つぎに、第二ゲート220での検査に際しては、第一の検査で同じ混合検体SMに割り当てられた被験者SBが、それぞれ異なる混合検体SMの割り当てられるように再配置を行う。
【0068】
第一の検査において、ある混合検体SMから基準量以上の微量物質が検出された場合、その微量物質を保有していると疑われる被験者SBは4人存在するが、第二の検査でその4人を別々の混合検体SMに割り当てることによって、被験者SBの絞込みが可能になる。
【0069】
また、第一の検査で同じ混合検体SMに割り当てられた被験者SBが、完全に排他的になるように再割り当てを行わなくても、任意の分散度合いに応じて、被験者SBの絞込みが可能である。
【0070】
図4は、全数nの被験者SBに対するセキュリティスクリーニングに要する時間の概算を示す図である。図4(1)は、n個全ての被験者SBに対して一回ずつ検査を行った場合に要する時間を示している。一回の検査では、検体SM取得に要する時間Tsと、実際の検査に要する時間のTtを合わせた時間が必要である。
【0071】
そのため、トータルの検査時間は、
n(Ts+Tt)
となる。
【0072】
一方、本実施例の方法による図4(2)では、n個の被験者SBを、m個の混合検体SMに配分して検査を行う。そのため、一つの混合検体SMの検査に必要な時間は、混合数n/mのTsと一回分のTtの和nTs/m+Ttになる。
【0073】
この混合検体SMがm個あり、それぞれについて2回の検査を行うこととすると、トータルの検査時間は
2nTs+2mTt
となる。
【0074】
本実施例の方法が時間短縮の効果を有するには、
n(Ts+Tt)>2nTs+2mTt
従って、
(n−2m)/n>Tt/Ts
であればよい。
【0075】
例えば、100の被験者SBに対して、検査(1)を行った場合、Tsは10秒、Ttは300秒とすると、合計31000秒(8時間36分余り)必要であるのに対して、検査(2)の方法で、1混合検体SM当たり10被験者SB、10の混合検体SMに分けて二回の検査を行った場合、合計8000秒(2時間13分余り)で終了する。
【0076】
検査の回数は、検査(1)の場合は100回、検査(2)の場合は20回で済むため、一検査当たりに必要な消耗品コストは1/5となる。
【0077】
つぎに、本発明の実施の第二の形態を図5を参照して詳細に説明する。本実施形態は、空港において、搭乗者および荷物に対して行う、持ち込み・持ち出し禁止物品の微量物質検査に関するものである。
【0078】
実施の第一の形態と異なる点は、微量物質検査装置として質量分析装置(MS)を用いる点である。MSは、粉塵に吸着する物質や、空気中の微量物質を、比較的短い検査時間で高感度に検出可能である。
【0079】
図5は、MSを用いて連続的に微量物質検査を繰り返したときの微量物質量を、時間に対してプロットしたものである。MSの場合、検体SM取得時間と検査時間を合わせても10秒程度まで高速化が可能であるため、擬似的に微量物質量の連続的な変化を出力することが可能である。
【0080】
本実施形態は、連続的に測定を繰り返す微量物質検査装置を備えたゲートによって、任意の時間に通過する被験者SBの検体SMを取得し、加えて被験者ID、検体SMの取得時間などの情報を取得し、同じく時間情報を有する混合検体SMの微量物質情報と合わせて評価することによってセキュリティスクリーニングを行うものである。
【0081】
MSの測定は10秒程度で繰り返しているが、被験者SBが通過する時間間隔は10秒よりも短いことが十分ありうる。そのため、前の実施形態と同様に、一回の測定で、複数の被験者SBからの検体SMを含む混合検体SMに対して検査を行うことになる。また、本実施例では連続測定の間隔を短くするため、各測定間の気体のパージなどは行わない。そのため、測定間の検体SMの混合が十分起こりうる条件にある。
【0082】
そこで、図5(1)にある被験者SB通過時間tにゲートを通過した被験者SBに対応する微量物質情報は、あらかじめ決定したt−△Tからt−△Tまでの時間にまたがる複数の混合検体SMについて、その微量物質情報を積分した量を参照する。
【0083】
図5(1)のように第一ゲート210において、微量物質量が多く検出された時間帯に被験者ID7〜ID10までの複数の被験者SBがゲートを通過していた場合、第一ゲート210での検査結果では、およそ4被験者SBについて微量物質を保持している可能性が高いことが示唆される。
【0084】
これらの被験者SBに続けて第二ゲート220での検査を行った結果が、図5(2)である。図のように第二ゲート220での検査においては、ID7〜ID10の被験者SBのように第一ゲート210を連続的に通過した被験者SBが時間的にばらついてゲートを通過するように配慮することによって、ID7〜ID10の被験者SBの中で、第一、第二ゲート220の両方で、微量物質量の多い時間帯にゲートを通過したID7の被験者SBが、物質を保持していた可能性が高いことを見つけることができる。
【0085】
また、第一ゲート210における検査の結果、スクリーニングの必要性が高いと判定された被験者SBについては、第二ゲート220での検査において、通常とは異なる検査を行ってもよい。
【0086】
例えば、精度を向上させた厳重な検査により、最終判定の精度を向上させたり、爆発物を検出する特別な検査などを実行することにより、セキュリティ性を向上させるようなことができる。
【0087】
さらに、第一ゲート210における検査の結果、スクリーニングの必要性が高いと判定された被験者SBについては、例えば、第一ゲート210に到達する以前の行動を追跡調査したり、第一ゲート210を追加して以後の行動を監視することなどにより、セキュリティ性を向上させてもよい。
【0088】
上述のような作業は、例えば、タグ情報の継続的な取得、複数のビデオカメラによるネットワークでの個体追跡、顔面画像や身体特徴による向上認識、等の利用により可能となる。
【0089】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、本発明のセキュリティスクリーニングシステムは、空港における搭乗者ならびに荷物の危険物、および禁止物の検査や、流通システムにおける危険物、および禁止物検査、工業製品の安全性、品質管理、等に利用することができる。
【0090】
また、上記形態では、複数の検体抽出部110で被験者SBの組み合わせが相違する複数のグループGRから一つに混合された検体SMを抽出し、複数の検体抽出部110で抽出された検体SMの全部でセキュリティ性が不可の判定となった被験者SBを特定することを例示した。
【0091】
しかし、セキュリティ性の判定結果が不可のグループGRの被験者SBから検体抽出部110で個々に検体SMを再度抽出してもよく、セキュリティ性の判定結果が不可のグループGRの被験者SBから個々に検体SMを再度抽出する第二抽出部(図示せず)を、さらに有してもよい。
【0092】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0093】
100 ID取得部
110 検体抽出部
120 検体検査部
130 グループ判定部
140 結果対応部
210 第一ゲート
220 第二ゲート
1000 セキュリティスクリーニングシステム
GR グループ
SB 被験者
SJ 判定結果
SM 検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の被験者の各々から個々に被験者IDを取得するID取得手段と、
少数の前記被験者からなる複数のグループごとに一つに混合された検体を抽出する検体抽出手段と、
前記グループごとに一つに混合されて抽出された前記検体を検査する検体検査手段と、
混合されて検査された前記検体の検査結果から前記グループのセキュリティ性を判定するグループ判定手段と、
前記グループごとに前記セキュリティ性の一つの判定結果と複数の前記被験者の前記被験者IDとを対応させる結果対応手段と、
を有するセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項2】
複数の前記検体抽出手段で前記被験者の組み合わせが相違する複数の前記グループから一つに混合された前記検体を抽出する第二抽出手段を、さらに有する請求項1に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項3】
複数の前記検体抽出手段で抽出された前記検体の全部で前記セキュリティ性が不可の判定となった前記被験者を特定する被験者特定手段を、さらに有する請求項2に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項4】
前記被験者が通過するゲートを、さらに有し、
前記検体抽出手段は、前記ゲートに設置されている請求項1ないし3の何れか一項に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項5】
前記検体抽出手段は、前記セキュリティ性の判定結果が不可の前記グループの前記被験者から個々に前記検体を再度抽出する請求項1に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項6】
前記セキュリティ性の判定結果が不可の前記グループの前記被験者から個々に前記検体を再度抽出する第二抽出手段を、さらに有する請求項1に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項7】
前記第二抽出手段は、前記検体抽出手段とは相違する手法で前記検体を抽出する請求項2または6に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項8】
前記第二抽出手段は、前記検体抽出手段とは相違する前記検体を抽出する請求項2または6または7の何れか一項に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項9】
前記第二抽出手段は、前記検体抽出手段より高精度に前記検体を抽出する請求項2または6ないし8の何れか一項に記載のセキュリティスクリーニングシステム。
【請求項10】
多数の被験者の各々から個々に被験者IDを取得し、
少数の前記被験者からなる複数のグループごとに一つに混合された検体を抽出し、
前記グループごとに一つに混合されて抽出された前記検体を検査し、
混合されて検査された前記検体の検査結果から前記グループのセキュリティ性を判定し、
前記グループごとに前記セキュリティ性の一つの判定結果と複数の前記被験者の前記被験者IDとを対応させるセキュリティスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−174746(P2011−174746A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37471(P2010−37471)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】