説明

セクタアンテナ

【課題】指向性のシャープなアンテナ素子を複数個並べ、できるだけ小型の無指向性のセクタアンテナを実現する。
【解決手段】円柱状筒型であるアンテナ取付部と、方形の反射器と、方形の放射器とよりなる一対のアンテナ素子と、前記アンテナ取付部の周囲に3個の前記一対のアンテナ素子を略120°で配置し取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に用いられるアンテナに関するもので、複数のアンテナ素子を用いることにより、無指向性を実現するセクタアンテナに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開平9−135115号公報
【特許文献2】特開平9−284045号公報
【背景技術】
【0003】
上記特許文献に記載された発明は、複数のコーナリフレクタアンテナを使用して無指向性を実現するセクタアンテナに関するものである。
【0004】
無線LAN等の端末装置は基地局がどの方向にあっても電波を受信できるように水平面内360°のすべての方向にビームを向けられるようにするのが望ましい。
これを実現するアンテナとして、指向性を有するアンテナ素子を複数用いて,それぞれのアンテナ素子を水平面の360°の全方位をカバーする(無指向性とする)ように配置し,状況にあわせて適切なアンテナ素子を選択することができるセクタアンテナが考えられている。
また、セクタアンテナ用のアンテナ素子としてコーリニアアンテナに反射器を付加したものが多く使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数のアンテナ素子を複数個並べて無指向性を実現しようとするとアンテナ素子間の干渉が発生するため、各アンテナ素子を一定距離離さなければならず、全体が大型化してしまう。また、上記の反射器を付加したアンテナ素子の場合、利得を稼ぐためには段数を増やすことが必要となり、このため縦長になる傾向があり、同様に全体が大型化してしまう。
すなわち、セクタアンテナは大きく、小型化することが難しいという問題があった。
また、セクタアンテナは無指向性となっていることから、セクタアンテナによるダイバーシチ対応は難しいという問題もあった。
【0006】
そこで本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、できるだけ小型でかつ無指向性のダイバーシチ対応セクタアンテナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセクタアンテナは、円柱状筒型であるアンテナ取付部と、方形の反射器と、方形の放射器とよりなる一対のアンテナ素子と、前記アンテナ取付部の周囲に3個の前記一対のアンテナ素子を略120°で配置し、取付けたものである。
また、前記円柱状筒の内側表面を電波吸収体で塗布したものである。
そしてセクタアンテナの指向特性は、上記の配置により、3個それぞれの前記一対のアンテナ素子の水平指向特性が合成されたときに無指向性となるようにしている。
したがって、この発明によりできるだけ小型のセクタアンテナを実現することができる。
【0008】
さらに本発明のセクタアンテナは、前記反射器と前記放射器は基板がガラスエポキシ樹脂で作ることが可能で、該表面の所定部分を銅箔でエッチングして形成することができる。
また、アンテナ取付部に取付けられた略120°に配置した3個の一対のアンテナ素子の上部には、さらに3個の一対のアンテナ素子を取付けるようにしてもよい。
その結果、この発明により適切なダイバーシチ効果を得ることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンテナ素子間の干渉を防止することができ、各アンテナ素子の水平指向特性が合成され無指向性の小型のセクタアンテナを実現できる。さらに、ダイバーシチ対応の小型のセクタアンテナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態のセクタアンテナの外観図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態のセクタアンテナの外観図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態のセクタアンテナの外観図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態のセクタアンテナを製品状態にした構造図である。
【図5】本発明のアンテナ素子の外観図である。
【図6】本発明のセクタアンテナの定在波比の実測値である。
【図7】本発明の水平面内指向性の実測値である。
【図8】本発明の垂直面内指向性の実測値である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
<1.実施の形態のアンテナ素子の概要>
<2.第1の実施の形態>
<3.第2の実施の形態>
<4.第3の実施の形態>
<5.実験結果>
【0012】
<1.実施の形態のアンテナ素子の概要>

まず図5で、本発明にかかるセクタアンテナを構成するアンテナ素子について説明する。図5(a)は、アンテナ素子30の外観を表した斜視図である。図5(b)は給電線8が接続されているアンテナ素子30の上面図である。図5(c)は給電線8が接続されているアンテナ素子30の側面図である。
図5(a)にみられるように、アンテナ素子30は、例えば幅W1、高さL1とされている反射板4と幅W2、高さL2とされている放射器(ラジエータ)3で構成されている。
また、図5(c)に示されているように反射器4には、放射器3がスペーサ7を介して一定間隔r離して取り付けられている。スペーサ7は、例えばガラスエポキシ樹脂で形成されており、反射板4はガラスエポキシ樹脂全面に銅箔が被覆された基板で作ることができる。
【0013】
反射板4は高周波信号(電波)の放射を特定の方向に集中させる機能を有する。したがって、反射板4の大きさ(面積)は、アンテナ素子30の水平面指向性の電力半値幅( 以下「水平面半値幅」と称する) やF / B 比に大きな影響を与える。
水平面指向性とは、電波が水平面方向にどれだけの強さで放射されるかを表す特性のことである。水平面半値幅は、アンテナの水平面指向性を表すものであり、この値が小さいほど指向性がシャープ(鋭く)になる。また、F/B比とは、フロント/バック比のことであり、アンテナ正面に放射される電力とアンテナ後方に放射される電力との比により示され、F/B比の値が大きいほど、アンテナ正面方向の利得が大きい事を表す。
【0014】
一つのアンテナ素子30として好ましい特性は、サイドローブおよびバックローブを小さくしつつ、F/B値を適正な値とし、例えば3個のアンテナ素子を使用したときは全体として、水平面指向特性が360°となるような指向性を持たせることが好ましい。
言い換えると、その特性は半値幅が120°となることが好ましい。
【0015】
上記F/B比の値を大きくするためには、反射板4の横幅W1 を大きくし、アンテナ後方に放射される電力を小さくすれば良い。
また、反射器4と放射器3との間隔rも水平面指向性特性に影響する。
【0016】
本実施の形態では、反射板4の形状は方形(四角形)で、反射板4の幅W1と高さL1および反射板4と放射器3の間隔rの大きさで水平面指向性特性を制御する。
【0017】
反射器4の幅W1と高さL1および反射器4と放射器3の間隔rとアンテナ素子30の水平面指向性との関係は以下のとおりである。
【0018】
すなわち、反射器4の幅W1と長さL1が大きいと水平面指向特性はシャープになる。逆に幅W1と長さL1が小さいとその特性は拡がる。
【0019】
また、反射器4と放射器3との間隔rが小さいと水平面指向性は拡がり、間隔rが大きいと水平面指向性はシャープとなる。
【0020】
本実施の態様では、W1、L1およびrの最適な値として、W1≒18mm、L1≒70mmおよびr≒10mmとしている。
【0021】
放射器3は、電波を放射または取り込む素子である。放射器3の形状は方形(四角形)で、その幅W2と高さL2がアンテナ素子30の動作周波数を決定する。ガラスエポキシ樹脂を基板とし、反射板4の反対側の面の縁部3aが銅箔で被覆することにより形成できる。給電点6が反射器3の中央部の下側に設けられるとされている。放射器3はいわゆるパッチアンテナといわれるものである。
【0022】
図5(b)、(c)に示されているように、給電点6には給電線8が接続がされ、その芯線が給電点6を経由して反射器3の縁部3aの銅箔に接続される。給電線8のシールド線は反射部4の表面上の銅箔に接続される。
【0023】
図5(c)に示されているように、反射器4と放射器3とはスペーサ7を介して一定間隔r離して取り付けられている。
【0024】
放射器3の大きさはアンテナ素子の動作周波数に関係する。本実施の態様では、縁部3aの縦または横の長さが動作周波数の半波長となるようにしている。このとき、放射器3の材料の比誘電率の値によりその長さが調整される。
【0025】
本実施形態では、動作周波数は2.4GHzを想定しており、放射器3の材料(ガラスエポキシ樹脂の比誘電率が問題となる)等を考慮に入れ、W2≒27mm、L2≒37mmとしている。
【0026】
<2.第1の実施の形態>

図1(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態としてのセクタアンテナ1の外観図である。以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
図1(a)は、アンテナ取付部5に先に述べた反射板4と放射器3で構成された3個のアンテナ素子30を固定、取付けた斜視図であり、アンテナ取付部5は円柱状筒型とされている。
【0027】
図1(b)に示されているようにアンテナ取付部5の断面方向からみると、アンテナ取付部5の円周表面上にアンテナ素子30を一対として3個のアンテナ素子が略120°でそれぞれ配置、取り付けられている。これにより、各アンテナ素子30の水平指向特性が合成されたときは無指向性のセクタアンテナ1となるものである。
【0028】
本発明の実施の形態では、アンテナ取付部5の内側表面の全面には電波吸収体5が貼られている。これは、アンテナ素子30をアンテナ取付部に略120°で取り付けたとき各アンテナ素子30の干渉によるF/B比の悪化を改善するものである。
これにより、アンテナ素子30をできるだけ近接することができる。
【0029】
本実施の形態では、電波吸収体5は材料がMn−Znフェライトで構成され、透磁率が12程度のものを使用しているが、同様な電波吸収体を使用することもできる。
【0030】
電波吸収体5は、アンテナ取付部5の内側表面に限らず、アンテナ取付部5の表側の表面でも、内側表面と表側表面の間でも、何れの箇所に形成しても、同様の効果を発揮できる。
【0031】
本発明によれば、アンテナ素子間30の干渉を防止することができ、各アンテナ素子30の水平面指向特性が合成されたときは無指向性の小型のセクタアンテナ1を実現できる。
【0032】
<2.第2の実施の形態>

図2(a)、(b)は、本発明の第2の実施形態としてのセクタアンテナ10の外観図である。以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
図2(a)に示されているようにセクタアンテナ10は、第1の実施の形態のセクタアンテナ1を2つ重ねたものである。2つ重ねることによりダイバーシチ効果を得ようとするものである。
また、図2(b)に示されているようにアンテナ取付部5の断面方向からみると、アンテナ取付部5の円周表面上にアンテナ素子30を一対として3個のアンテナ素子が略120°でそれぞれ配置、取り付けられている。これにより、第1の実施の形態と同様に各アンテナ素子30の水平指向特性が合成されたときは無指向性となるものである。
【0033】
ダイバーシチ対応のアンテナとして、水平方向に2つのアンテナを並べることが行われている。例えば空間ダイバーシチ場合、2つのアンテナが1/2波長以上離れていれば、それぞれのアンテナの受信状態に相関はないと言われているので、ダイバ−シチ効果を得ることができる。
【0034】
しかし、水平軸に広角なアンテナの場合、水平方向にそのアンテナを並べたとしてもダイバーシチ効果を得ることはむつかしい。互いの干渉をなくすために間隔を離しても同じである。また、水平方向に並べると大型化してしまう。
そこで、垂直方向に上記広角なアンテナを重ねてダイバーシチ効果を得ようとするものである。
【0035】
第1の実施の形態のセクタアンテナ1を2つ重ねて、適切なダイバーシチ効果を得るためには垂直軸方向の指向性が互いに干渉しないようにすることが望ましい。
本発明の第2の実施形態においては、上記の反射器4の高さL1を変えることで垂直軸の指向性を調整することができる。
【0036】
すなわち、垂直方向に反射器4の高さL1を延ばすことにより、垂直面の指向性を狭くすることができ、これによりダイバーシチ効果を得ることができる。
【0037】
図4は、第1の実施の形態のセクタアンテナ1を最終の製品11の形にした構造図である。
高さ154mm、幅84mmのコンパクトな構造となっている。
【0038】
本発明によれば、小型でダイバーシチ対応のセクタアンテナ10を実現できる。
【0039】
<2.第3の実施の形態>

図3は、本発明の第3の実施形態としてのセクタアンテナ20の外観図である。以下の説明において、既に説明した部分と同様となる部分については同一符号を付して説明を省略する。
図3のセクタアンテナ20は、第1の実施の形態のセクタアンテナ1を3つ重ねたものである。3つ重ねることによりMIMO用セクタアンテナ20としたものである。
MIMOとは、送信と受信にそれぞれ複数アンテナを用いる伝送技術で、送信機と受信機の双方に複数のアンテナを配列し空間上で並列伝送を行なうものである。
すなわち、送信データを複数の信号列(ストリーム)に分け、複数のアンテナでそれらの信号列を同時に送信する方式であり、3つのアンテナを組み合わせれば、理論上3倍の信号列を伝送することが可能となる。
【0040】
MIMOのアンテナ数は決まっていないが、3つの指向性アンテナの組み合わせが一般的とされる。
屋内環境において、MIMO用アンテナとして求められる重要課題の1つに、到来波の方向に対する無線性能の依存性を抑制することがあげられる。すなわち、到来波の方向によって無線性能が変わらないことが必要である。これを実現するには、無指向性の複数のアンテナを配置すればよい。
しかし、3本のロッドアンテナ、ヘリカルアンテナ等を峡間隔で配置すると、各アンテナの指向性に切れ込みを生じ、方向によっては、理論的な信号列の確保が困難となる。
【0041】
本発明の第3の実施形態のセクタアンテナ20は、3枚で無指向性を構成するセクタアンテナを縦方向に配置することで、外形的には小型で、性能的には完全な無指向特性を得ることができ、且つ、セクタアンテナを用いることにより、妨害波等の到来方向の利得を低下させることができ、より効率的に信号列の伝送を可能とするものである。
【0042】
<5.実験結果>

図6〜図8は第1の実施の形態に係るセクタアンテナ1の必要となる特性の実験結果である。
図6はVSWR(定在波比)の実験結果である。横軸を周波数、縦軸をVSWRとしている。2.4GHzでVSWR=1.23、2.442GHzでVSWR=1.15、2.484GHzでVSWR=1.22、2.5GHzでVSWR=1.27となっており、2.4GHz帯で所望の性能を有している。
【0043】
図7は第1の実施の形態に係るセクタアンテナ1の水平面指向特性の実験結果である。
図7(a)は1セクタのみを選択したときの水平面指向特性である。水平面半値幅は120°となっている。利得は4.2dBiである。
【0044】
図7(b)は2セクタのみを選択したときの水平面指向特性である。水平面半値幅は240°となっている。利得は1.9dBiである。
【0045】
図7(c)は3セクタを選択したときの水平面指向特性である。水平面指向特性は無指向性となっている。利得は−0.1dBiである。
【0046】
図8は第1の実施の形態に係るセクタアンテナ1の垂直面指向特性である。垂直面半値幅は60°となっており、所望の値となっている。
【0047】
以上の実験結果より、本実施の形態に係るセクタアンテナ1のVSWRの値は、1.5以下(この値は一般的にアンテナの理想値といわれる)となっており、適切な値となっている。
また、水平面指向特性は1セクタの場合が水平面半値幅120°であり、2セクタの場合が水平面半値幅240°となり、3セクタの場合にはそれらが合成され無指向性となっている
【0048】
1、10、20 セクタアンテナ、3 放射器、4 反射板、5 アンテナ取付部、6 給電点、7 スペーサ、8 給電線、30 アンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状筒型であるアンテナ取付部と、
方形の反射器と、方形の放射器とよりなる一対のアンテナ素子と、
前記アンテナ取付部の周囲に3個の前記一対のアンテナ素子を略120°で配置し、取付けたセクタアンテナ。
【請求項2】
前記円柱状筒の内側表面を電波吸収体で塗布した請求項1に記載のセクタアンテナ。
【請求項3】
前記配置により、3個それぞれの前記一対のアンテナ素子の水平指向特性が合成され無指向性となる請求項2に記載のセクタアンテナ。
【請求項4】
前記反射器と前記放射器は基板がガラスエポキシ樹脂であり、該表面の所定部分を銅箔でエッチングしている請求項3に記載のセクタアンテナ。
【請求項5】
前記アンテナ取付部に取付けられた前記略120°に配置した3個の一対のアンテナ素子の上部に前記3個の一対のアンテナ素子をさらに取付けた請求項4に記載のセクタアンテナ。
【請求項6】
さらに前記3個の一対のアンテナ素子を上部に取付けた請求項5に記載のセクタアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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