説明

セクタギアの転造装置とその転造方法

【課題】セクタギアを高剛性で高能率に転造できるようにし、丸物歯車並みに転造できるようにする。
【解決手段】対向する第1主軸4と第2主軸5を、周速が一定になるように正転、逆転させて回転制御を行う。第1主軸4の前面端部に転造ロールダイス3を取り付け、第2主軸5の前面端部にセクタギア保持具21を介してセクタギア2を取り付ける。セクタギア保持具21は第2主軸5を支承する軸受体18の内輪18bに直結させた構成にし剛性を高めている。2つの主軸の回転制御と押し込み制御をCNC装置による制御によって高精度に、主軸前面端部で短時間の操作によりセクタギアの歯部の転造を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアの転造装置とその転造方法に関する。さらに詳しくは、部分的に歯車になっているセクタギアの歯部を転造ロールダイスにより転造する装置とその転造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から歯車を転造する技術及びその装置は、種々の形態が知られている。例えば、自動車等の産業分野では、動力伝達装置、変速装置等に多くの歯車が使用されているが、その一部にセクタギアも使用されている。又、カップリング装置において、ウォーム軸との間の減速動力伝達機構では、ウォームホイールと出力軸との関係で、変換機構としてセクタギアが駆動連結のために使用されている例が知られている。
【0003】
歯車は、通常、切削、研削加工、ワイヤカット加工、転造等の種々の加工法により製造され、使用条件に合う加工法が適用されている。このように製造される多くの歯車で、特に転造対象の歯車の現状は、全周に歯の形成された丸物歯車、即ち円筒歯車(例えば、平歯車)や傘歯車等がほとんどである。歯車の転造に関しては、本出願人も焼結等で製造された歯車を転造によって仕上げる製造技術を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
転造対象の歯車は、焼結素材の歯車であり丸物歯車である。プランジ式転造方式で、チャックに取り付けられた焼結素材の歯車を挟んで対向する2つのダイスで転造する構成のものである。焼結素材の歯車は押し込み転造に伴い、ダイスに倣い従動して回転する。この提案技術は、焼結素材の歯車を加熱する点に特徴がある。又、丸物歯車であるが、ローラダイスを使用して転造する例として、圧力角に応じた加工歯を有する3つのローラダイスを軸方向にずらしながら3工程により創成する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
更に、歯車の歯部と面取りを同時に行う構成の装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。以上述べた装置のダイスは丸形状のローラダイスであるが、平ダイスにより転造する技術も知られている。これは対向して設けられた一対の平ダイスを歯車を挟む状態に配置し、駆動位置を互いに同期させて平ダイスを直進させ歯車素材に押し付けて転造する構成のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−281264号公報
【特許文献2】特開2008−229665号公報
【特許文献3】特開平11−33661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、従来のいずれの歯車転造技術も全周に歯部の設けられた丸物歯車を対象とするものである。しかしながら、部分的に歯部の設けられたいわゆるセクタギアにおいては、その転造技術は確立されていない。セクタギアは、前述したように円周方向に部分的に歯部が形成されたもので、歯車としては対称的に丸形状になされた形状のものではない。
【0008】
このため従来のようなダイス構成によっては転造できない。仮に転造すると押し付け力が一方向になりバランスが取れないので不向きであり、従ってセクタギアにおいての転造技術は確立されていなかった。このため大半のセクタギアは切削加工等での製造が行われている。即ち、歯車を両ダイスで挟んで加工を施す等の対称性がないので、ダイス動力を利用して同期回転させて転造する従来の構成は困難である。転造の特徴は、切削、研削等と比較した場合に、加工の時間短縮が図られることから大幅なコスト削減が可能であることである。
【0009】
加工時間の短縮や設備コストの削減等により、生産性が向上し、特に大量生産の場合には使用エネルギーの削減にもなる。従って、従来丸物歯車で適用されていたように、セクタギアにおいても、切削、研削加工並みの精度を有する転造を施すことができれば理想であり、それが望まれている。自動車分野等で使用される歯車は、一般に機械構造用合金鋼を使用し、浸炭焼き入れ等を施し曲げ疲労強度、面圧疲労強度を高めている。通常このような歯車は、高精度を要することから切削、研削加工により行われ多くの加工工程を要している。
【0010】
近年、焼結鋼に鍛造や転造を施し、表面層を緻密化し強度を高めることが行われている。このような背景から特に丸物歯車においては、2つのローラダイスで転造する構成のものではあるが、回転軸移動式歯車仕上げ転造の種々の利点が注目されている。これは加工時間が短く、自動化しやすい、工具寿命が長い、仕上げ面が鏡面に近い仕上げである等によっている。本発明は、このような従来の問題点に鑑み、それを解決するために創案されたものであり、セクタギアにおいても高能率の転造加工を実現するようにしたもので、次の目的を達成する。本発明の目的は、セクタギアを高剛性で高能率に転造できるようにし、丸物歯車並みに転造できるようにしたセクタギアの転造装置とその転造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次の手段で達成される。
即ち、本発明1のセクタギアの転造装置は、
対向する2つの主軸を同期回転させ、この2つの主軸を軸線方向の直角方向に相対的に押し込み制御を行い、歯車を転造する転造装置において、前記2つの主軸の一方であり、端部にダイスが固定されている第1主軸と、前記2つの主軸の他方であり、端部にセクタギア保持具を介してセクタギアを保持する第2主軸と、前記第1主軸を正転、逆転駆動させる第1駆動装置と、前記第2主軸を正転、逆転駆動させる第2駆動装置と、前記第1主軸又は前記第2主軸を軸線方向の直角方向に相対的に移動させ位置決め押し込み動作を行う第3駆動装置とからなることを特徴とする。
【0012】
本発明2のセクタギアの転造装置は、本発明1において、
前記第1駆動装置及び前記第2駆動装置の回転制御と、前記第3駆動装置の位置決め押し込み動作制御は、予めプログラム化された数値制御指令に従って制御を行うCNC装置により制御されることを特徴とする。
本発明3のセクタギアの転造装置は、本発明1において、
前記セクタギア保持具は、端面に前記セクタギアを位置決め固定し着脱自在な取り付け部を有している構成になっていることを特徴とする。
【0013】
本発明4のセクタギアの転造装置は、本発明1において、
前記セクタギア保持具は、前記第2主軸を支承する軸受体の内輪に直結させた構成であることを特徴とする。
本発明5のセクタギアの転造装置は、本発明1において、
前記セクタギアの素材形状は、転造円周歯部の両端部位が、前記転造円周歯部の円周中心の径寸法より大きくなるように肉厚部を形成した形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明6のセクタギアの転造方法は、
対向する2つの主軸を同期回転させ、この2つの主軸を軸線方向の直角方向に相対的に押し込み制御を行い、歯車を転造する転造方法において、
前記主軸の一方の第1主軸の端部に転造加工を行うためのダイスを取り付ける工程と、前記主軸の他方の第2主軸の端部にセクタギア保持具を介してセクタギアの素材を取り付ける工程と、前記第1主軸を第1駆動装置により正転、逆転駆動させる工程と、前記第2主軸を第2駆動装置により正転、逆転駆動させる工程と、前記第1主軸又は前記第2主軸を軸線方向の直角方向に第3駆動装置を介して駆動し相対的に位置決め押し込み動作をして前記素材に前記セクタギアの歯部を転造する工程とからなることを特徴とする。
【0015】
本発明7のセクタギアの転造方法は、本発明6において、
前記セクタギア保持具に取り付ける工程の前に、前記セクタギアの素材形状を転造円周歯部の両端部位が、前記転造円周歯部の円周中心の径寸法より大きくなるように肉厚部を形成する形状工程を含むことを特徴とする。
本発明8のセクタギアの転造方法は、本発明6又は7において、
前記第1駆動装置及び前記第2駆動装置の回転制御と、前記第3駆動装置の位置決め押し込み動作制御は、予めプログラム化された数値制御指令に従って制御を行うCNC装置により制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセクタギアの転造装置とその転造方法は、2つの主軸構成の転造装置により高剛性に高精度にセクタギアの転造が可能となった。又、主軸の回転を1回転内で正転、逆転できるような回転駆動制御にし、又、主軸の回転制御と押し込み制御をCNC装置による制御にしたので、転造により加工されたセクタギアは丸物歯車と同様に高精度で緻密化された歯車とすることができた。更に、セクタギア保持具を主軸の軸受体に近接して設けたので、転造加工に際しセクタギアの取り付け取り外しを主軸前面端部で容易に行える構成になった。この結果、従来の切削加工等の加工法に比し、短時間で高能率に、低コストで高剛性にセクタギアを製造することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明によるセクタギアの転造装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】図2は、対向する2つの主軸構成を示す断面図である。
【図3】図3は、転造ロールダイスによるセクタギアの転造形態を示す説明図である。
【図4】図4は、2つの主軸の駆動の制御形態を示す説明図である。
【図5】図5は、セクタギアの取り付けベースを示す単体図である。
【図6】図6は、第2主軸の横移動の案内構成を模式的に示す説明図である。
【図7】図7は、転造対象のセクタギア素材を示す単体図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のセクタギア転造装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、セクタギア転造装置1の全体を示す正面図である。図2は、対向する2つの主軸構成の断面図で、図3は、ダイスによるセクタギアの転造形態を示す説明図である。図4は、2つの主軸の制御形態を示す説明図で、図5は、第2主軸の横移動の案内構成を模式的に示す部分説明図である。図6は、セクタギアの取り付けベースの単体を示す外観図である。図7は、適用するセクタギア素材の単体構成図である。
【0019】
本発明における転造対象のセクタギア(セクタギヤともいう)2とは、円筒歯車を一部、又は180度以上を切り欠いた形状の歯車である。例えば、扇形の歯車で一定角度内で往復運動を行う歯車である。この歯車の歯形形状は、インボリュート歯形、サイクロイド歯形等の一般的な歯形以外にセレーション等を含むものである。本実施の形態の転造装置は、2つの主軸を対向させて配置したものであり、セクタギア素材に転造加工を行い、歯部を形成させ、セクタギアを製造するものである。2つの主軸の一方の主軸は、転造ローラダイス3を取り付ける第1主軸4であり、他方の主軸はセクタギア2を転造加工するためのセクタギア素材(セクタギアの歯部が転造加工される前の状態のもの)をセクタギア保持具を介して保持するための第2主軸5である。
【0020】
本実施の形態で示す図1の構成は、カバーで覆われているので細部な構造は図示されていないが、このセクタギア転造装置1は、概略すると、本体Aに付随してCNC(computerized numerical control;コンピュータ数値制御)装置B、油圧ユニットC、クーラント装置D、操作盤E等で構成されている。本体Aには、2つの主軸を回転させるための回転駆動装置が、即ち第1主軸4の後端部に第1回転駆動装置6が、又第2主軸5の後端部に第2回転駆動装置7が配置されている。第1主軸4は、第1主軸4の軸線の周り方向に、第1主軸台9aに回転可能に支持されている。また、第2主軸5は、第2主軸5の軸線の周り方向に、第2主軸台9bに回転可能に支持されている。
【0021】
又、この2つの主軸の一方を軸線方向の直角方向に、即ち押し込み方向(矢印X方向)に移動(以降「横移動」という。)させるための駆動装置が設けられている。本実施の形態においては、第2主軸5を回転可能に搭載している第2主軸台9bを矢印X方向(図2、4参照)に横移動させる構成にしている。従って、この第2主軸台9bが取り付けられた移動台10を横移動させるための移動用駆動装置8が、本体Aの基台11に搭載されている。図示していないが、この2つの主軸、即ち第1主軸4と第2主軸5は、同期して回転駆動され、両主軸を回転駆動するためにノーバックラッシュタイプの精密減速機と等速ジョイントとで互いに連結されている。
【0022】
第1回転駆動装置6及び第2回転駆動装置7は、サーボモータでセミクローズドループ制御により回転が制御されている。この第1回転駆動装置6のサーボモータ、第2回転駆動装置7のサーボモータは、CNC装置Bで各々回転制御されている。同様に、横移動の押し込み方向に、2つの主軸の一方、即ち第2主軸5を横移動させる構造は、第1主軸台9b、移動台10を介して駆動される構造である。この横移動のための構造は、高剛性のV型ベアリングスライド10aを採用したものとなっている(図5参照)。即ち、この構造は、第2主軸5を搭載している第2主軸台9bが取り付けられた移動台10が、基台11に対し移動方向が規制されて横移動の押し込み方向(矢印X方向)のみの進退移動自在とされている。
【0023】
従って、第1主軸4を搭載している第1主軸台9aは基台11に固定されており、第2主軸台9bに搭載されている第2主軸5は第1主軸4に対し相対移動が可能である。前述したように、この移動台10(第2主軸5)の移動は、V型ベアリングスライド10aを介して高剛性に安定して案内することができる。この案内駆動は、油圧サーボ弁を用いた油圧駆動による移動用駆動装置8により、フルクローズドループ位置制御により行われている。移動台10は、基台11に対して、横移動の押し込み方向(矢印X方向)に、位置、速度等がCNC装置Bでフルクローズドループ位置制御される移動用駆動装置8を介して移動制御されている。図2は、2つの主軸(第1主軸4、第2主軸5)の構成を示す部分断面図である。第1主軸4は、2つの軸受体12、13により支承され、各々の軸受体12、13の内輪12a、13a内に嵌め込まれ、第1主軸台9aに回転自在に支持されている。
【0024】
第1主軸4の前面端部には、転造ロールダイス3が取り付けられている。この転造ロールダイス3は、第1主軸4とキー14を介して一体回転される。また、転造ロールダイス3は、第1主軸4にボルト15により着脱可能に固定されている。更に、第1主軸4の中間部には、スペースカラー16aが挿入されて配置されている。又、この転造ロールダイス3は高剛性を維持するため、軸受体12に近接して設けられている。転造ロールダイス3は、スペースカラー16bを介して支持部材17で挟み込み、ボルト15を第1主軸4の端部にねじ込むことで固定されている。
【0025】
このボルト15を外すことで、転造ロールダイス3は簡単に取り付け取り外しができ、歯形等の仕様が異なる他の転造ロールダイス3との交換が容易である。一方、第2主軸5は、2つの軸受体18、19により第2主軸台9bに支承され、軸受体18、19の内輪18a、19aに嵌め込まれて回転自在である。又、前述の第1主軸4と同様に、第2主軸5の中間部にもスペースカラー16cが挿入されて配置されている。主軸前面の内輪18aは、キー20を介して第2主軸5と一体回転するように規制された構成となっている。この内輪18aは段付形状をなし、軸受体18の支承部から外れた部位が内輪大径部18bを構成している。
【0026】
この内輪大径部18bの前端面には、セクタギア素材を取り付けるための取り付けベース(セクタギア保持具)21が設けられている。セクタギア素材に転造加工を行っているとき、取り付けベース21はセクタギア素材(セクタギア)を保持している。セクタギア素材は、セクタギア2に転造加工を行うための素材であって、歯部形成前(転造加工前)の状態のものである。この取り付けベース21は、セクタギア素材を取り付けるためのものであって、内輪大径部18bに4つのボルト23で固定されている。第2主軸5のねじ穴5aには、ねじ体24がねじ込まれている。ねじ体24のねじ穴には、止めねじ25がねじ込まれている。止めねじ25の先端部が第2主軸5のねじ穴の端部に当接することにより、ねじ体24の雄ねじが第2主軸5の雌ねじに対してゆるまないように固定されている。ねじ体24のねじ穴の一部は、セクタギア素材を取り付けるための固定ボルト22をねじ込むためのねじ穴となる。
【0027】
取り付けベース21は、図6に示すようにセクタギア2の外周より寸法の小さい円板状を成している。この前端面には、セクタギア素材(セクタギア2)の取り付けのために、扇形(V形)の凹みである切欠き部21aが形成されている。この切欠き部21aは、セクタギア2、セクタギア素材の外形に合わせた凹形状を成し、セクタギア素材を取り付け可能に余裕のある形状となっている。切欠き部21aの段差高さ(凹みの深さ)は、セクタギア2、セクタギア素材の肉厚に一致させている。この取付けベース21は、セクタギア2、セクタギア素材の取付け用の切欠き部21aの両側の対称位置に逃げ用切欠き部21bが形成されている。この取付けベース21は、2つの逃げ用切欠き部21b間が、切欠き部21aを挟んで所定の肉厚を有する凸部21cとなっている。
【0028】
この凸部21cの一方の側壁には、2つのねじ穴21dが形成されていて、切欠き部21aの外側、即ち逃げ用切欠き部21bの側から固定ねじ部材21h、21hをねじ込むことができる(図3参照)。又、この凸部21cの他方の側壁は、基準面21eとなっている。即ち、2つの固定ねじ部材21h、21hをねじ込むことにより、セクタギア素材を基準面21eに押圧して所定位置に位置決めしている。更に、この取り付けベース21の周面の等角度位置の4箇所に、座グリ穴、貫通穴であるボルト穴21fが設けられている。この座グリ穴、ボルト穴21fは、この取り付けベース21をボルト23により内輪大径部18bに取り付けるためのものである(図2参照)。
【0029】
取り付けベース21はこのような構成になっていて、セクタギア2を転造加工するときには、このセクタギア素材をこの切欠き部21aに挿入し、固定ねじ部材21h、21hでセクタギア素材を基準面21eに押し付け、セクタギア素材は取り付けベース21に位置決めされる。更に、固定ボルト22を、セクタギア2の穴部2d、ボルト穴21gに挿入後、固定ボルト22をねじ体24にねじ込むことにより、このセクタギア素材が取り付けベース21に固定される。このセクタギア素材の取り付け位置は、転造ロールダイス3に対向しており、取り付けベース21が内輪大径部18bに直接取り付けられることで、軸受体18に近接して設けられているので、高剛性を維持した構成になる。
【0030】
又、転造加工されたセクタギア2は、ねじ体24にねじ込まれた固定ボルト22を緩めた後取り外し、位置決め用の固定ねじ部材21h、21hによるねじ止め(ねじ固定)を解除することで、次に転造加工するためのセクタギア素材と容易に交換することができる。また、取り付けベース21も、セクタギアの種類によって交換することができる。この構成は、2つの主軸(第1主軸4、第2主軸5)の前面側で交換操作できるようにしている。即ち、セクタギア2とセクタギア素材との交換操作、転造ロールダイス3、取り付けベース21の交換操作等を本体Aの前面側で作業者が行える構成としているので、安定して、短時間に容易に行える。又、セクタギア2と転造ロールダイス3の取り付け位置が、軸受体12、18に近接して配置されているので、転造に伴う一方への押圧力にも耐えられる高剛性の転造が行える。
【0031】
取り付けベース21は前述したように、内輪大径部18bに直接固定されているので、第2主軸5が回転駆動されるとセクタギア2(セクタギア素材)は内輪大径部18bを介して回転駆動される。セクタギア素材がこの取り付けベース21に固定されたときは、図3に示すように、セクタギア2の歯部形成部分2aが、取り付けベース21からよりはみ出した状態となる。図4に示すように、第1主軸4、及び第2主軸5は、独立して、CNC装置Bで、第1主軸4の軸線の周り方向、及び第2主軸5の軸線の周り方向に、回転位置、速度を制御されて回転可能である。また、第1主軸4のサーボモータ、及び第2主軸5のサーボモータは、第1主軸4、第2主軸5が1回転内で正転、逆転できるようにCNC装置Bで回転制御されている。即ち、転造の際には、転造ロールダイス3とセクタギア2の歯部が同一直径であると、第1主軸4と第2主軸5とは向き(回転方向)は異なるものの同期して同じ回転制御される。
【0032】
転造ロールダイス3とセクタギア2の歯部が同一直径でない場合には、転造ロールダイス3とセクタギア2の回転周速が一定になるように回転制御される。同時にセクタギア2の歯面を均一にし、緻密化するために、転造ロールダイス3とセクタギア2の正転、逆転を繰り返すように回転制御される。正転、逆転を行うことで、歯面を良好な状態にする調整が図られ、歯面の仕上がりがよくなる。第2主軸台9bが横移動することで、第1主軸4と第2主軸5とは軸線方向の直角方向に相対して相対移動が可能である。このための移動用駆動装置8、移動体10が第2主軸5(第2主軸台9b)側に設けられている。
【0033】
本実施の形態においては、図5に示すように第2主軸5を搭載した第2主軸台9bを案内部であるV型ベアリングスライド10a、移動台10を介して横移動させるようにしている。この移動用駆動装置8は、油圧サーボ弁を用いたフルクローズドループ位置制御により矢印X方向(図4参照)に進退移動自在に駆動される。従って、本構成は、第1主軸4の軸線の周り方向、第2主軸5の軸線の周り方向、第2主軸5の横移動方向(矢印X方向)の3軸の位置、速度等が、CNC装置Bで制御されるサーボ駆動式の構成としている。このようなサーボ駆動式構成にしたことで、高精度のセクタギアの転造加工を可能にしている。
【0034】
本実施の形態の構成においては、2つの主軸(第1主軸4、第2主軸5)の回転同期誤差は例えば0.1度以下としている。又、横移動の位置制御では、第1主軸4に対する第2主軸5の軸間距離を例えば最小1μm単位で位置調整できるようになっている。この制御は前述のように、2つの主軸(第1主軸4、第2主軸5)を同期回転させながら、即ち転造ロールダイス3とセクタギア2の周速が一致するように回転制御することで達成している。横移動については、第2主軸台9bを所定の速度で押し込み、第1主軸4、第2主軸5間の間隔が所望の設定値に達したとき、規定時間その状態を保持させ、正転、逆転を繰り返してセクタギア2の転造加工を完了する。
【0035】
第1主軸4、第2主軸5の正転、逆転を繰り返して転造加工を行うことは、特に焼結鋼等の焼結素材からなるセクタギア2に対して効果が大きい。セクタギア素材が焼結素材製である場合には、歯面を緻密化し、歯すじを平坦にし、気孔を消滅させる等の効果がある。又、セクタギア素材が、点(例えば、セクタギア2の穴部2dの中心)を中心として、一定形状の円弧を描くものであると、転造加工されたセクタギア2の両側の歯部端部は転造の押圧でセクタギア2の円周方向に沿ってセクタギア2の側壁部2b側に、張り出しダレてしまう。これは、転造圧力が一定であると、両端部ではセクタギア素材の弾性等により圧力が逃げるためである。
【0036】
この結果、セクタギア2の円周中心による円弧形状の径寸法(半径Rで示す)より、両端部のみの歯たけが小さくなってしまう問題点がある。その解決手段として、本実施の形態においては、セクタギア素材の歯部端部側に円周中心の円弧形状より径方向外側に肉厚部2cを形成するようにしている。従って、転造前のセクタギア素材の形状は、円周中心による一定の円弧形状に対し、歯部両端部位を肉厚にし体積を大きくした形状としている。
【0037】
この形状にしたことで、セクタギア2の歯部両端部位は転造の際、肉厚部2cの一部はセクタギア2の側壁部2b側に張り出すが、歯たけは小さくならず両端部位を含め歯部全周に亘って均一な正規の歯部を形成することができる。この肉厚部2cの形成はどのような形状であってもよいが、実施の形態においては、図7の寸法Sで示すようにセクタギア2を転造するためのセクタギア素材の両端部をRより外側に体積を大きくし、即ち円周中心による一定の円弧形状の径寸法に対し径方向外側に円弧R1で示すなめらかな形状の肉厚部2cを形成するようにしている。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されないことはいうまでもなく、目的、趣旨を変えない範囲において変更可能なこともいうまでもない。例えば、転造ロールダイスの転造歯部はロール全周に設ける必要はなく、セクタギアを転造する範囲のみを転造歯としてもよい。これにより転造ロールダイスのコストダウンが図られる。
【符号の説明】
【0039】
1…セクタギア転造装置
2…セクタギア
3…転造ロールダイス
4…第1主軸
5…第2主軸
6…第1回転駆動装置
7…第2回転駆動装置
8…移動用駆動装置
9a…第1主軸台
9b…第2主軸台
10…移動台
12、13、18、19…軸受体
21…取り付けベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2つの主軸(4、5)を同期回転させ、この2つの主軸(4、5)を軸線方向の直角方向に相対的に押し込み制御を行い、歯車を転造する転造装置において、
前記2つの主軸の一方であり、端部に、転造加工を行うためのダイス(3)が固定されている第1主軸(4)と、
前記2つの主軸の他方であり、端部に、セクタギア保持具(21)を介してセクタギア(2)を保持する第2主軸(5)と、
前記第1主軸(4)を正転、逆転駆動させる第1駆動装置(6)と、
前記第2主軸(5)を正転、逆転駆動させる第2駆動装置(7)と、
前記第1主軸(4)又は前記第2主軸(5)を軸線方向の直角方向に相対的に移動させ位置決め押し込み動作を行う第3駆動装置(8)と
からなるセクタギアの転造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセクタギアの転造装置において、
前記第1駆動装置(6)及び前記第2駆動装置(7)の回転制御と、前記第3駆動装置(8)の位置決め押し込み動作制御は、予めプログラム化された数値制御指令に従って制御を行うCNC装置(B)により制御される
ことを特徴とするセクタギアの転造装置。
【請求項3】
請求項1に記載のセクタギア転造装置において、
前記セクタギア保持具(21)は、端面に前記セクタギア(2)を位置決め固定し着脱自在な取り付け部(21a)を有している構成になっている
ことを特徴とするセクタギアの転造装置。
【請求項4】
請求項1に記載のセクタギアの転造装置において、
前記セクタギア保持具(21)は、前記第2主軸(5)を支承する軸受体の内輪(18b)に直結させた構成である
ことを特徴とするセクタギアの転造装置。
【請求項5】
請求項1に記載のセクタギアの転造装置において、
前記セクタギア(2)の素材形状は、転造円周歯部の両端部位が、前記転造円周歯部の円周中心の径寸法より大きくなるように肉厚部(2c)を形成した形状である
ことを特徴とするセクタギアの転造装置。
【請求項6】
対向する2つの主軸(4、5)を同期回転させ、この2つの主軸(4、5)を軸線方向の直角方向に相対的に押し込み制御を行い、歯車を転造する転造方法において、
前記主軸(4、5)の一方の第1主軸(4)の端部に転造加工を行うためのダイス(3)を取り付ける工程と、
前記主軸(4、5)の他方の第2主軸(5)の端部にセクタギア保持具(21)を介してセクタギア(2)の素材を取り付ける工程と、
前記第1主軸(4)を第1駆動装置(6)により正転、逆転駆動させる工程と、
前記第2主軸(5)を第2駆動装置(7)により正転、逆転駆動させる工程と、
前記第1主軸(4)又は前記第2主軸(5)を軸線方向の直角方向に第3駆動装置(8)を介して駆動し相対的に位置決め押し込み動作をして前記素材に前記セクタギア(2)の歯部を転造する工程と
からなるセクタギアの転造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のセクタギア転造方法において、
前記セクタギア保持具(21)に取り付ける工程の前に、前記セクタギア(2)の素材形状を転造円周歯部の両端部位が、前記転造円周歯部の円周中心の径寸法より大きくなるように肉厚部(2c)を形成する形状工程を含む
ことを特徴とするセクタギアの転造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のセクタギア転造方法において、
前記第1駆動装置(6)及び前記第2駆動装置(7)の回転制御と、前記第3駆動装置(8)の位置決め押し込み動作制御は、予めプログラム化された数値制御指令に従って制御を行うCNC装置により制御される
ことを特徴とするセクタギアの転造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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