説明

セサミン類を分離製造する方法

【課題】脱臭スカムという廃棄物から、高純度で効率的に、かつ簡単、安価にセサミン類を分離製造すること。
【解決手段】セサミン類を分離製造する方法において、ゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカムを静置し、その上層の液状部分を除いて得た固形部分を原料とし、原料に一種類の溶剤による温度の異なる二回以上の処理だけからなる洗浄・精製工程を施してセサミン類を分離製造することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セサミン類の分離製造方法に関する。より具体的には、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物から、一種類の溶剤による処理温度の異なる複数の処理だけで、セサミン類を高純度で効率的に、かつ容易、安価に分離製造する方法に関する。
ここで、本発明において、セサミン類は、セサミンおよび/またはエピセサミンを指す。
【背景技術】
【0002】
ゴマ種子には様々な種類のゴマリグナンが存在しており、通常、セサミンが0.1〜0.5重量%程度含まれる他、セサモール、セサモリン、セサミノール等が含有されていることが知られている。また、ゴマ種子から搾油した未精製ゴマ油にはゴマリグナンとしてセサミンが0.5〜1.0重量%程度含有されている。
さらに、ゴマ油を活性白土等で処理を行うと、セサミンの他にセサミンの光学的転位生成物で、本来のゴマ種子には存在していないエピセサミンが生成されることも知られている(特許文献1)。
【0003】
これらセサミン等を主成分とするゴマリグナンには、ピレスリン系殺虫剤に対して強い共力効果(特許文献1)、Δ―不飽和化酵素阻害(特許文献2)、肝機能改善(特許文献3)、片頭痛の抑制ないし予防治療(特許文献5)、アルコール代謝の促進、血中過酸化脂質の生成抑制、発癌の抑制など、多くの生理活性機能をもつ重要な物質(特許文献6)であり、これらの生理活性機能に基づく健康食品としての有用性が期待され、その重要性が増している。
【0004】
ゴマ油、ゴマ種子やゴマ粕からセサミン類を分離する方法としては、例えば、ゴマ油とは実質的に非混和性であり、かつセサミン類を抽出、溶解することができる種々の有機溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メタノール、エタノール等)を用いて、抽出、濃縮し、溶剤画分から溶剤を蒸発除去してセサミン類を得る方法(抽出分離法)などが知られている(特許文献2、3)。
【0005】
また、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物、例えばゴマ油の精製(脱臭)工程で生じる脱臭留出物である脱臭スカムなどからセサミン等を分離する方法も種々知られており、例えば、(1)ゴマ油脱臭留出物をエタノール濃度55%以上のエタノール−水混合溶液と混合して、その混合系から溶液画分を分離し、分離した該溶液画分を吸着剤で吸着処理した後、該吸着剤から脱着溶出させ、セサミン、セサモリンを得る方法(特許文献4)、(2)ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留し、その留出物をさらに分子蒸留するか、または、(3)該留出物をエステル化反応及び/またはエステル交換反応させた後、その反応処理物をさらに分子蒸留して、セサミン、エピセサミンを得る方法(特許文献1、5)、(4)ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留し、その留出物を水、水性溶媒またはこれらの混合溶媒と混合した後、その混合系中にてアルカリ存在下にセサミン類を析出させる方法(特許文献5、6)、さらに、(5)ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留し、その留出物を40重量%以上のエタノールを含有するエタノール水溶液と混合して、その混合系から溶液区分を分離した後、該溶液区分にアルカリを添加してセサミン類を析出させる方法(特許文献5)などが知られている。
【0006】
また、抽出分離、分子蒸留、析出または脱着溶出後に、更に再結晶処理を施すことによって、セサミン類の濃度を高めることができることも知られているところである(特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−25764号公報
【特許文献2】特開平3−27319号公報
【特許文献3】特開平4−9331号公報
【特許文献4】特公平6−89353号公報
【特許文献5】特開2003−183172号公報
【特許文献6】特開平10−7676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、従来のゴマ油等から溶剤によるセサミン類の抽出分離法について、従来、各種の有機溶媒を用いて、セサミン類をゴマ油から直接抽出する方法が提案されているとして、有機溶媒として、メタノールを用いる例、アセトン/水を用いる例、冷却した石油エーテルを用いる例、アセトニトリルを用いる例、γ−ブチロラクトンを用いる例等を例示して、「これらの従来法には、1)得られる抽出物がセサミン類の他にセサモリンやグリセライド等を相当量含有しているため、該抽出物におけるセサミン類の濃度が低い、2)ゴマ油のセサミン類含有率は多くても1重量%程度であるため、有機溶媒の使用量が多い、3)使用した有機溶媒を留去するためのエネルギーコストが膨大である、4)ゴマ油中に有機溶媒の残留が避けられないため、特に上記のような有機溶媒を使用する場合には、食品衛生上の面で実際上、該ゴマ油を食用に供することができなくなってしまう、という課題がある。」と記載している。
【0009】
また、特許文献6には、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物を原料とする従来の方法について、「特許文献1の従来法には、分子蒸留それ自体が厄介である上に、分子蒸留を効率良く行なうためには留出物の前処理が必要であり、しかも留出物からのセサミン類の回収率が低いという欠点がある。また特許文献4の従来法には、吸着処理で回収されるセサミン類の純度が低く、純度を高めようとすると、その精製が必要であり、結果的に留出物からのセサミン類の回収率も低くなってしまうという欠点がある。」と記載されている。
【0010】
本発明は上述の如き従来法の問題点を解決する新たなセサミン類の分離製造方法、すなわちセサミン類を高純度で効率的に、かつ簡単、安価に分離製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究した結果、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物、例えばゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカムを静置し、その上層の液状部分を除いて得た固形部に、含水量の低いエタノールを作用させると、意外にも、その処理温度によっては、セサミン類を溶解させずに混在するオイルや高級脂肪酸やステロールなどの不純物だけを抽出除去する溶剤として使用できることを発見した。この知見は、従来法におけるセサミン類の分離が、有機溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メタノール、エタノール等)、または有機溶剤−水混合溶液を用いて、セサミン類自体を抽出、溶解して行うものであったことからは予想外のことであった。そこで、この知見を基に多くの実験、検討を経て、ただ一種類の溶剤を用いて、処理温度の異なる複数の固液分離処理をするだけで、セサミン類を高純度で効率的に、かつ容易、安価に分離製造する方法を見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち、本発明は下記1〜10のセサミンを分離製造する方法に関する。
1.セサミン類を分離製造する方法において、ゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカムを静置し、その上層の液状部分を除いて得た固形部を原料とし、原料に一種類の溶剤による温度の異なる二回以上の処理だけからなる洗浄・精製工程を施してセサミン類を分離製造することを特徴とする方法。
2.温度の異なる二回以上の処理が、少なくとも常温で行う一回目の処理と、50℃以上の温度で行う二回目の処理からなる、上記1に記載のセサミン類を分離製造する方法。
3.溶剤がエタノールである上記1または2に記載のセサミン類を分離製造する方法。
4.エタノールが95容量%以上のエタノールである、上記3に記載のセサミン類を分離製造する方法。
5.洗浄・精製工程に続きさらに溶解・濾過、再結晶の各工程を施こすことを特徴とする上記1ないし4のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
6.溶解・濾過工程が、洗浄・精製工程と同一または異なる溶剤を用いて、沸点溶解し、温時濾過して濾液を得る工程である、上記5に記載のセサミン類を分離製造する方法。
7.洗浄・精製工程と異なる溶剤が、アセトンとエタノールの混合溶剤、またはアセトンと水の混合溶剤である、上記6に記載のセサミン類を分離製造する方法。
8.再結晶工程が、溶解・濾過工程で得た濾液の液温を下げて結晶を析出させ分離して溶剤除去前結晶(以後、「ウエット結晶」と略称する。)を得る工程である、上記5ないし7のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
9.続いて、乾燥、粉砕、篩選別、混合の少なくとも一つの工程を施すことを特徴とする、上記1ないし8のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
10.セサミン類がセサミンおよびエピセサミンである上記1ないし9のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物から簡単かつ安価にセサミン類を高純度かつ高収率で分離製造できる。また、原料として、通常廃棄されるゴマ油精製工程の脱臭工程で生じる脱臭留出物(脱臭スカム)を有効利用することができる。
より詳細には、原料としてゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留して得られるセサミン類を含有する留出物、例えば精製ゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカムを静置し、その上層の液状部分を除いて得た固形部を用いること、その原料に対して簡単かつ安価な手段を施すだけで、すなわち、ただ一種類の溶剤を用いて、処理温度を変えて複数の固液分離処理を施すだけで、セサミン類を高純度かつ高収率で分離製造できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】脱臭スカムからセサミン類を分離製造する方法の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[セサミン類]
本発明は、簡単かつ安価にセサミン類を高純度かつ高収率で分離製造できる。
本発明において、セサミン類は、セサミンおよび/またはエピセサミンを指す。セサミン類中のセサミンおよびエピセサミンのそれぞれの含有量は、用いる原料に由来する、すなわち、脱色の精製工程で採用する精製条件に依存する。例えば、脱色処理を軽度に行うか、または行わないと、セサミン類中のセサミンの含有量を高くすることができる。
実施例ではセサミン類中のセサミン含有量が95%以上の純度のものが得られた。
また、本発明で分離製造されるセサミン類は、90%以上の純度、特に95%以上の純度であることが好ましい。
分離製造されるセサミン類の形態は、特に限定されないが、必要に応じて、定法により、固体、粉末とすることができる。
【0016】
[原料としてのゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカム]
本発明で用いる原料は、ゴマ油を減圧下に水蒸気蒸留時に留出するものである。水蒸気蒸留時の温度及び圧力条件により、様々な組成の留出物が得られるが、これらの留出物のうちで、セサミン類を含有する留出物、好ましくはセサミン類をできるだけ多く含有する留出物を用いる。公知の温度及び圧力条件を採用してかかる好ましい留出物を得ることができる。
【0017】
また、ゴマ油の製造工場では、ゴマ種子を焙煎することなく、または焙煎した後、圧搾搾油または有機溶媒抽出して得たゴマ油から脱酸、脱色及び脱臭等の精製工程を経る場合がある。この場合の脱臭は、減圧下での水蒸気蒸留を利用しており、脱臭留出物(脱臭スカム)には比較的多くのセサミン類が含まれてくるので、本発明では、かかる留出物を用いることが有利である。具体的には、例えばTHINフィルム式の半連続式脱臭装置を用いた脱臭工程において、セサミン類の含有率は、真空ブースターに留出した留出物(所謂ブースタードレイン)では5〜30重量%程度、真空排気系外に留出した留出物中では3〜25重量%程度である。
このようなゴマ油精製工程の脱臭工程で生じる脱臭留出物(脱臭スカム)は、通常廃棄されるものであるので、この利用は、経済面のみならず環境面からも好ましいものである。
【0018】
[原料の選別:液部と固形部の分離]
初期段階で液部と固形部を分離する。原料として用いる留出物は、液温が高温時は全体として液状であるが、本発明では、上記留出物を固形部と液状部に分離するまで常温で静置した後、上層の液状部分を除いて得た固形部を原料とする。上層の液状部分はオイル部分を含むものである。液状部が混入している状態では、30℃以上加温するとセサミン類が溶解してしまうので、液状部を分離した固形部を原料として用いることが必要である。オイルまたは油溶性不純物の除去により、固形部のセサミン類含量は20ないし50%程度になる。
この固形部に溶剤、例えばエタノールおよび/またはアセトンを用いて処理する。洗浄・精製工程における処理はエタノール、その後の溶解・濾過、再結晶の各工程における処理はエタノールおよび/またはアセトンを用いることが好ましい。
【0019】
[溶剤]
本発明において用いる溶剤のうちエタノールは、洗浄・精製工程でセサミン類に混在するオイル(スカム液部)や高級脂肪酸やステロール骨格をもつ物質などの不純物だけを効率的に抽出除去する。また、溶解・濾過工程、および再結晶工程で効率的に純度の高いセサミン類を回収するためにも用いる。
食品添加を考慮して、洗浄溶剤はエタノールを使用する。溶媒純度について、溶剤を回収する場合、水混入による純度低下が考えられる。よって、溶媒純度と洗浄力の関係について検討した。試料はスカム固体部(セサミン類純度24.6重量%・揮発性物質0.6重量%)に、純度99.5%、95%、90%、80%のエタノールを用いて常温条件下で洗浄した(エタノール純度調整のため蒸留水を使用した)。表1の結果が得られた。

【表1】

このために、含水量の低い、すなわちエタノール純度が高いエタノールが用いられる。具体的には、エタノール含有量90容量%以上のエタノールが好ましく、95容量%以上のエタノールがより好ましく、さらに99容量%以上のエタノールが特に好ましい。
本発明では、この溶剤による処理温度の異なる複数の処理だけで、セサミン類を簡単かつ安価にセサミン類を高純度かつ高収率に分離製造するものである。
洗浄・精製工程の後の溶解・濾過、再結晶の各工程に用いる溶剤については、段落[0022]で説明する。
【0020】
[洗浄・精製工程]
本発明の洗浄・精製工程は、残留しているオイルの除去とステロール系の不純物の除去を目的としている。洗浄・精製工程では、溶剤での処理温度を順次上げる洗浄・精製処理を複数回繰り返して、セサミン類を溶解せずに混在するオイルや高級脂肪酸やステロールなどの不純物だけを抽出除去し、固液分離して得られる固形部中のセサミン類の純度を順次上げてゆき、最終的にセサミン類のウエット結晶(セサミン類含有92〜99.9%)を得ることができる。
上述したように水蒸気蒸留留出物からの固形部のセサミン類含有量は一様ではないので、それに応じて、適用する処理温度、洗浄・精製の繰り返す回数は適宜選択できる。
すなわち、洗浄後の固液分離して得られる固形部のセサミン類の純度をHPLC分析により測定、チェックし、洗浄・精製の処理温度や繰り返す回数等を選択する。固形部のセサミン類含有が低い段階では残留オイルも含まれているので高い処理温度ではセサミン類の歩留まりが悪くなるため、エタノール洗浄は低い温度で行い、セサミン含有量が高くなった段階ではセサミン類はエタノールにより溶解しにくくなっているので、処理温度を上げて、残留しているステロール系の不純物の除去をしっかり行うようにする。
例えば、(1)固形部にエタノールを加え、常温(20℃〜35℃)で撹拌しながら保持後、液部を分離除去する。
(2)次いで、残存固形部にエタノールを加え、撹拌しながら、50℃以上に加熱保持後、液部を分離除去する。液温は50℃以上に保つことが必要である。また、この工程では、残留しているオイルもあるので、60℃以上の加熱を行うとセサミン類の歩留まりが悪くなる。
(3)さらに、必要に応じ、残存固形部にエタノールを加え、撹拌しながら、(2)と同温度またはより高温度で加熱保持後、液部を分離除去し、固形部としてセサミンのウエット結晶を得ることを繰り返す例が挙げられる。仕込み時点でのセサミン類純度は90%程度以上になっているので、エタノールに溶解しにくくなっており、加熱温度を70℃に上げて、残留しているステロール系の不純物の除去をしっかり行う。処理後の固形部(ウエット結晶)セサミン類含量は、92〜99.9%になる。
【0021】
洗浄・精製工程で使用するエタノールの量は特に限定されないが、あまり少量であると不純物の溶解が不十分であり、多すぎると固形部分の分離効率が悪くなる。例えば、固形部の重量の0.5〜10倍量のエタノールが用いられる。温度の異なる二回以上の処理において、一回目は3〜10倍量、二回目は1〜5倍量、必要に応じ三回目は0.5〜3倍量と、順次固形部に対するエタノール量を減らしてゆくことが好ましい。
洗浄・精製工程で、撹拌されながら保持されたスラリーから、固体部と液部を分離する方法は、特に限定されず、従来から用いられている固液分離器、例えば濾過器、遠心分離器を用いることができる。
分離された液部を蒸留して回収されたエタノールは、洗浄・精製工程で再使用することができる。
洗浄・精製工程に続き、必要に応じ、さらに溶解・濾過、再結晶の各工程を施こすことができる。溶解・濾過、再結晶の各工程を施こすことにより、セサミン類の純度アップおよび脱色ができる。
【0022】
[溶解・濾過工程]
本発明の、溶解・濾過工程は、洗浄・精製工程で得たウエット結晶に、エタノールを用いる場合は、エタノール(バージンエタノールが好ましい)を加え、沸点溶解する。加えるエタノール量は、セサミン類が十分溶解する量が用いられ、例えば、ウエット結晶の15倍〜30倍量が好ましく用いられる。
また、アセトン:エタノール混合溶剤(アセトン:エタノール、9:1〜6:4)を用いることも、アセトン:水混合溶剤(アセトン:水、8:2〜5:5)を用いることもできる。アセトン:水混合溶剤では、より脱色効果が大きい。
溶解を確認後、温時濾過により異物を除去し、その後さらに精密濾過を行う。濾過は、従来から用いられている濾過器が使用でき、例えば、フィルタープレス、スパクラフィルター濾過器、加圧濾過器、メンブランフィルター式精密濾過機、多段式加圧濾過機、加圧濾盤型濾過器、密閉式精密濾過器、リーフフィルター加圧濾過器、ハステロイ加圧濾過器などを適宜用いることができる。
【0023】
本発明での溶解・濾過工程に続く再結晶工程では、溶解・濾過工程で得た濾液の液温を下げ、1次結晶を析出させ分離して1次ウエット結晶を得た後、必要に応じ、分離した濾液の液温をさらに下げ、2次結晶を析出させ分離して2次ウエット結晶を得ることができる。
結晶の分離は、特に限定されず、従来から用いられている固液分離器、例えば濾過器、遠心分離器を用いることができるが、遠心分離器が好ましい。なお、溶剤としてエタノールを用いた場合、この工程で分離された濾液を蒸留して回収されたエタノールは、洗浄・精製工程で再使用してもよい。
また、さらに必要に応じて、乾燥工程、粉砕工程、篩選別工程、混合工程の少なくとも一つの工程を施すことができる。
【0024】
得られた1次ウエット結晶、2次ウエット結晶は必要に応じて、混合または混合しないで、乾燥することにより、精製されたセサミン類高含有組成物を得ることができる。
得られたウエット結晶を乾燥する場合、1次ウエット結晶と2次ウエット結晶は、その性状を分析し、結晶の状態が異なる場合は、別々に分けて乾燥したほうが、その後の使用に有利である。
乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、風乾後、真空または減圧乾燥をすることができる。好ましくは減圧下(1〜100mmHg程度)で、30〜100℃、好ましくは40〜80℃程度に加熱して行うことができ、特に真空乾燥で40℃以下で行うのが好ましい。乾燥機は、従来から用いられている乾燥機使用でき、例えば棚式熱風乾燥機、棚式真空乾燥機、真空混合式乾燥機、箱形棚式乾燥機、コニカルドライヤー、振動流動乾燥機、箱形棚式熱風乾燥機、グラスライニングコニカルドライヤーなどを用いることができる。
【0025】
本発明において、最終的に粉末セサミン類を製造する場合では、上記の乾燥工程後、さらに、通常知られている、粉砕工程、篩選別工程、混合工程を施すことができる。例えば、パワーミル、ロールミル、スタンプミル、振動ボールミル、カッターミル、スルートミル、シュレダーミル、クラシックロールグラインダー、ディスクグラインダー、コーミル、ジェットミル粉砕機、エッジランナー、ハンマーミル、フェザーミルなどで粉砕し、除鉄後、振動篩選別により、所望の粒度範囲の粉末を得、次いで、例えば、Vブレンダー、Wブレンダー、パン型混合機、リボンブレンダー、ダブルコーンブレンダー、フラッシュブレンダー、ミクロブレンダーなどで混合し、均一な粉末を得ることができる。
【0026】
以下に本発明の詳細および効果を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
分離製造されたセサミン類の純度は、高速液体クロマトグラフィー法である下記の条件下で測定した。
カラム : Inertsil ODS-3(GL-SCIENCES社)
移動相 : 水:メチルアルコール=3:7(容積比)
流量 : 1.0ml/min
検出器 : UV Detector
測定波長: 290nm
標準品のピーク面積と比較して算出したセサミン含量及びエピセサミン含量の合計値をセサミン類含量とし、純度を算出した。実施例におけるウエット結晶のセサミン類含量はこの分析法で求め、乾燥後のセサミン類の純度はこの手法で算出した。
【実施例1】
【0027】
(セサミン類の分離製造)
ごま油精製の脱臭工程(210〜230℃・2〜4mmHgにて水蒸気蒸留)で生じた脱臭スカムを、固形部と液状部に分離するまで常温で静置した後、その上層の液状部分を除いて得た固形部を原料とした。この固形部に固形部の約3倍量の99%エタノールを加え、常温で撹拌しながら2時間以上保持後、遠心分離し濾液を分離除去した。分離した濾液から蒸留により回収したエタノールは以降の洗浄・精製工程に再使用する。次いで、固形部の重量の約1倍量の99%エタノールを加え、60℃で撹拌しながら2時間以上保持後、遠心分離し濾液を分離除去し、ウエット結晶(セサミン類含量91.2%、収率:対固形部重量32.2%)を得た。
【実施例2】
【0028】
実施例1で得たウエット結晶をさらに、固形部分の重量の約0.7倍量の99%エタノールを加え、70℃で撹拌しながら2時間以上保持し、遠心分離し濾液を分離除去し、ウエット結晶(セサミン類含量96.4%、収率:対固形部重量25.8%)を得た。
【実施例3】
【0029】
実施例2で得たウエット結晶を約20倍量の99%エタノール(バージンアルコール)を加え、沸点溶解し、温時濾過により異物除去し、次いで、精密濾過する。液温を下げ、1次結晶を析出させ遠心分離でウエット結晶を得、ついで、さらに液温を下げ2次結晶を析出させ遠心分離でウエット結晶を得た。これにより、セサミン類(乾燥後の純度98.6%)が得られた。
この段階での収率は、脱臭スカムの固形部重量に対して16.4%であった。
【実施例4】
【0030】
実施例1と同様な原料に、99%エタノールを用い常温で撹拌しながら2時間以上保持後、遠心分離し濾液を分離除去した。次いで99%エタノールを加え50℃で撹拌しながら2時間保持後、遠心分離し濾液を分離除去しウエット結晶を得、さらに同温度での処理を繰り返した以外は、実施例1と同様な方法でウエット結晶を得た。このセサミン類純度は95.6%、収率は対固形部重量14.7%であった。
【実施例5】
【0031】
実施例1と同様な処理で得たウエット結晶に、アセトン:エタノール(7:3)混合溶剤を加え、56℃で撹拌し、溶解後濾過した。次いで20℃まで冷却結晶化し、可溶部を除去した。さらにエタノール、60℃で洗浄後、ウエット結晶を乾燥した。このセサミン類純度は96%、収率は対固形部重量13.3%であった。
【実施例6】
【0032】
実施例1と同様な処理で得たウエット結晶に、アセトン:水(7:3)混合溶剤を加え、50℃で撹拌し、溶解後濾過した。次いで−15℃で4時間静置処理(冷却結晶化)し、可溶部を除去後、ウエット結晶を乾燥した。このセサミン類純度は99%、収率は対固形部重量12%であった。
【実施例7】
【0033】
(粉末セサミン類の製造)
実施例2と同様な方法で得たセサミン類に乾燥工程として、風乾または、真空乾燥を行った。次いで、粉砕工程で、粉砕機にて粉砕し、粉末化する。篩選別により、60メッシュパスの粉末を得た。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、原料として通常廃棄される、ゴマ油精製工程の脱臭工程で生じる脱臭留出物(脱臭スカム)が用いられるので、廃棄物の有効利用という産業上の効果も奏する。
脱臭スカムという廃棄物から、高純度で効率的に、かつ簡単、安価に分離製造したセサミン類は産業上の利用可能性が高いものと期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン類を分離製造する方法において、ゴマ油製造の脱臭工程で生じる脱臭スカムを静置し、その上層の液状部分を除いて得た固形部を原料とし、原料に一種類の溶剤による温度の異なる二回以上の処理だけからなる洗浄・精製工程を施してセサミン類を分離製造することを特徴とする方法。
【請求項2】
温度の異なる二回以上の処理が、少なくとも常温で行う一回目の処理と、50℃以上の温度で行う二回目の処理からなる、請求項1に記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項3】
溶剤がエタノールである請求項1または2に記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項4】
エタノールが95容量%以上のエタノールである、請求項3に記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項5】
洗浄・精製工程に続きさらに溶解・濾過、再結晶の各工程を施こすことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項6】
溶解・濾過工程が、洗浄・精製工程と同一または異なる溶剤を用いて、溶解し、温時濾過して濾液を得る工程である、請求項5に記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項7】
洗浄・精製工程と異なる溶剤が、アセトンとエタノールの混合溶剤、またはアセトンと水の混合溶剤である、請求項6に記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項8】
再結晶工程が、溶解・濾過工程で得た濾液の液温を下げて結晶を析出させ分離して溶剤除去前結晶を得る工程である、請求項5ないし7のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項9】
続いて、乾燥、粉砕、篩選別、混合の少なくとも一つの工程を施すことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。
【請求項10】
セサミン類がセサミンおよびエピセサミンである請求項1ないし9のいずれかに記載のセサミン類を分離製造する方法。



【図1】
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【公開番号】特開2012−224570(P2012−224570A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92590(P2011−92590)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【特許番号】特許第4863532号(P4863532)
【特許公報発行日】平成24年1月25日(2012.1.25)
【出願人】(596170550)かどや製油株式会社 (3)
【Fターム(参考)】