説明

セトラキサートを含有する美白剤

【課題】新たな美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【解決手段】胃炎・潰瘍治療薬として用いられてきたセトラキサート又はその塩が、シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着をもたらす疾患等による色素沈着症の予防及び/又は治療剤としても有用であることを初めて見出したものである。
本発明により、新たに、セトラキサート又はその塩を含有する美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セトラキサートを含有する美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着症は、皮膚にメラニン色素が過剰に沈着して生じるものである。メラノサイト中の細胞質顆粒メラノソームで、チロシンがチロシナーゼにより酸化されて、ドーパ、ドーパキノンが生合成され、更にドーパキノンは紫外線による自動酸化によってインドールキノン等になり、複雑な経路を経てメラニンが生合成されることが知られている。このような色素沈着症は、特に女性にとって美容上好ましくないものである。
【0003】
従来、ビタミンC及びビタミンC・Eを主薬とする製剤に、シミ、そばかす、日焼け・かぶれによる色素沈着症状の緩和等の効果が認められており、美白効果を高めるためにL−システインやビタミンB群を配合したものも見受けられる(例えば、非特許文献1参照)。これらのものが、皮膚の色素沈着症の予防・治療剤、又は美白剤として用いられてきたが、その効果の点で必ずしも満足できるものではなかった。
【0004】
一方、胃炎・潰瘍治療薬であるセトラキサート塩酸塩は、
1)胃粘膜微小循環の改善を主作用とし、さらに胃粘膜内プロスタグランジン生合成増加作用や胃粘膜粘液の保持及び合成促進作用等の細胞保護作用とともに、
2)粘膜内でのペプシノーゲンの活性化抑制・生成抑制や抗カリクレイン作用による胃液分泌抑制等の攻撃因子抑制作用も併せ持ち、
防御・攻撃因子両面での作用により胃粘膜病変を治療する薬剤である(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
これまでに、セトラキサートに美白作用があるということは知られていないが、セトラキサート内服における主代謝物がトラネキサム酸であること(例えば、非特許文献2参照)、トラネキサム酸単剤の内服において、色素沈着症の一種である肝斑の改善作用が報告されている(特許文献1)。
【非特許文献1】第14版 一般薬 日本医薬品集、じほう 2003 419頁
【非特許文献2】2006 医療薬 日本医薬品集、じほう 2005 1149頁
【特許文献1】特開平4−243825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、胃炎・潰瘍治療薬であるセトラキサートの新たな薬理作用を探索すべく鋭意研究を重ねた。その結果、セトラキサート又はその塩が優れた美白作用を有することを見出した。
【0007】
従って、本発明は、これまで胃炎・潰瘍治療薬として用いられてきたセトラキサート又はその塩が、シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着をもたらす疾患等による色素沈着症の予防及び/又は治療剤としても有用であることを初めて見出したものである。本発明により、新たな美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
1.セトラキサート又はその塩を含有する美白剤、
2.セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩である上記1に記載の美白剤、
3.剤形が経口投与製剤である上記1.又は上記2.に記載の美白剤、
4.セトラキサート又はその塩を含有する色素沈着症の予防及び/又は治療剤、
5.セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩である上記4.に記載の色素沈着症の予防及び/又は治療剤、
6.剤形が経口投与製剤である上記4.又は上記5.に記載の色素沈着症の予防及び/又は治療剤、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるセトラキサート又はその塩は、後記実施例から明らかなように、優れた美白作用、色素沈着抑制作用を有するので、シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着をもたらす疾患等による色素沈着症の予防及び/又は治療剤や美白剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかるセトラキサート又はその塩は、公知の化合物であり、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、公知の方法に基づき製造することができる。セトラキサートの塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等を挙げることができるが、本発明においては、塩酸塩が好ましい。なお、セトラキサート塩酸塩(塩酸セトラキサート)は第15改正日本薬局方に収載されている。
【0011】
本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤は、美白の他、シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着をもたらす疾患等による色素沈着症の予防及び/又は治療を目的としている者に投与するものである。
【0012】
本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤は、さらに公知の美白効果を示す成分や美白効果を増強する成分を加えてもよい。これらの成分としては、例えば、L−システイン、その誘導体又はそれらの塩(L−システイン;N−アセチル−L−システイン;L−ホモシステイン;L−システイン酸;L−ホモシステイン酸;L−システインスルフィン酸;S−スルフィノ−L−システイン;S−スルホ−L−システイン;シスチン(システインの二量体)等)、ハイドロキノン又はその誘導体(ハイドロキノン;ハイドロキノン−β−D−グルコース(アルブチン)等のハイドロキノン配糖体等)、グルコサミン又はその誘導体(グルコサミン;アセチルグルコサミン等のグルコサミンエステル類;グルコサミンメチルエーテル等のグルコサミンエーテル類等)、ヒノキチオール又はその誘導体(ヒノキチオール;ヒノキチオールグルコシド等のヒノキチオール配糖体等)、アゼライン酸、その誘導体又はそれらの塩(アゼライン酸;アゼライン酸モノアルキルエステル等のアゼライン酸モノエステル類;アゼライン酸ジアルキルエステル等のアゼライン酸ジエステル類等)、L−アスコルビン酸、その誘導体又はそれらの塩(L−アスコルビン酸;L−アスコルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸カリウム、L−アスコルビン酸カルシウム等のL−アスコルビン酸塩;L−アスコルビン酸モノステアレート、L−アスコルビン酸モノパルミテート、L−アスコルビン酸モノオレエート等のアスコルビン酸モノアルキル又はモノアルケニルエステル類;L−アスコルビン酸ジステアレート、L−アスコルビン酸ジパルミテート、L−アスコルビン酸ジオレエート等のL−アスコルビン酸ジアルキルまたはジアルケニルエステル類;L−アスコルビン酸トリステアレート、L−アスコルビン酸トリパルミテート、L−アスコルビン酸トリオレエート等のL−アスコルビン酸トリアルキル又はトリアルケニルエステル類;L−アスコルビル硫酸、L−アスコルビル硫酸ナトリウム、L−アスコルビル硫酸カリウム、L−アスコルビル硫酸マグネシウム、L−アスコルビル硫酸カルシウム等のL−アスコルビン酸硫酸エステル類;L−アスコルビルリン酸、L−アスコルビルリン酸ナトリウム、L−アスコルビルリン酸カリウム、L−アスコルビルリン酸マグネシウム、L−アスコルビルリン酸カルシウム等のL−アスコルビン酸リン酸エステル類等;L−アスコルビン酸グリコシド等のアスコルビン酸配糖体等)、トコフェロール類(α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール等)、トコトリエノール類(α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等)、ユビキノン類(コエンザイムQ(CoQ)、コエンザイムQ(CoQ)、コエンザイムQ(CoQ)、コエンザイムQ(CoQ)、コエンザイムQ10(CoQ10)等)、カロチン類(カロテン、ルテイン、ビオラキサンチン、スピリロキサンチン、スフェロイデン等)、パントテン酸、その誘導体又はそれらの塩(パントテン酸;パントテニルアルコール;パントテニルエチルエーテル;アセチルパントテニルエチルエーテル;ベンゾイルパントテニルエチルエーテル;ジカルボエトキシパントテン酸エチルエステル;パンテテイン;パンテチン;ホスホパンテテイン等)、フラボン類(フラボン、アピゲニン、ルテオリン及びこれらの配糖体等)、イソフラボン又はその誘導体(イソフラボン;イソフラボン配糖体等)、フラバノン又はその誘導体(ナリンゲニン、エリオジクチオール、ナリンギン等)、カテキン類(カテキン、カテキンガラート、ガロカテキン等)、フラボノール類(ケンフェロール、クエルセチン、ミリセチン及びこれらの配糖体等)、グリチルリチン酸、その誘導体又はそれらの塩(グリチルリチン酸;グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等のグリチルリチン酸塩等)、グリチルレチン酸、その誘導体又はそれらの塩(グリチルレチン酸;グリチルレチン酸ステアリル等のグリチルリチン酸アルキルエステル類等)、コウジ酸、その誘導体又はそれらの塩(コウジ酸;コウジ酸モノブチレート、コウジ酸モノカプレート、コウジ酸モノパルミテート、コウジ酸モノステアレート等のコウジ酸モノアルキルエステル類;コウジ酸ジブチレート、コウジ酸ジパルミテート、コウジ酸ジステアレート、コウジ酸ジオレエート等のコウジ酸ジアルキルエステル類等)、エラグ酸、その誘導体又はそれらの塩(エラグ酸;エラグ酸テトラメチルエーテル等のエラグ酸エーテル類;エラグ酸テトラアセタート、エラグ酸テトラベンゾアート等のエラグ酸アシル誘導体等)、グルタチオン、その誘導体又はそれらの塩(グルタチオン;S−ラクトイルグルタチオン等のS−アシルグルタチオン類;N,S−ジオクタノイルグルタチオンジステアリル、N,S−ジパルミトイルグルタチオンジセチル等のN,S−ジアシルグルタチオンジエステル類等)、トラネキサム酸又はその塩、レゾルシノール又はその誘導体(レゾルシノール;4−n−ブチルレゾルシノール、4−イソアミルレゾルシノール、4−シクロヘキシルレゾルシノール、5−メチルレゾルシノール等のアルキル化レゾルシノール;4−クロロレゾルシノール、4−ブロモレゾルシノール等のハロゲン化レゾルシノール等)、グリコーゲン、ヨクイニン又はその抽出物、ハマメリス又はその抽出物、ユキノシタ又はその抽出物、ジンコウ又はその抽出物、チャ又はその抽出物、イタドリ又はその抽出物、メリッサ又はその抽出物、タイム又はその抽出物、カワラヨモギ又はその抽出物、セイヨウノコギリソウ又はその抽出物、オトギリソウ又はその抽出物、セイヨウオトギリ又はその抽出物、シャクヤク又はその抽出物、ボタン又はその抽出物、スペインカンゾウ又はその抽出物、カンゾウ又はその抽出物、クワ又はその抽出物、マグワ又はその抽出物、シマグワ又はその抽出物、クララ又はその抽出物、ウワウルシ又はその抽出物、ヘラヤハズ又はその抽出物、ハリアミジ又はその抽出物、ヒジキ又はその抽出物、フシツナギ又はその抽出物、イワヒゲ又はその抽出物、ダルス又はその抽出物、ヤナギモク(オオバモク)又はその抽出物、エゾノネジモク又はその抽出物、フシスジモク又はその抽出物、イシモズク又はその抽出物、モウセンゴケ又はその抽出物、コモウセンゴケ又はその抽出物、ラベンダー又はその抽出物、オウレン又はその抽出物、ハトムギ又はその抽出物、イワナシ又はその抽出物、アメリカイワナシ又はその抽出物、パッション・フラワー又はその抽出物、クダモノトケイ又はその抽出物、ウォーターレモン又はその抽出物、トケイソウ又はその抽出物、月葉西番蓮又はその抽出物、蛇王藤又はその抽出物、杯葉西番蓮又はその抽出物、ワイルドパンジー又はその抽出物、ニオイスミレ又はその抽出物、スミレ又はその抽出物、コスミレ又はその抽出物、ノジスミレ又はその抽出物、ニョイスミレ又はその抽出物、ツクシスミレ又はその抽出物、シロスミレ又はその抽出物、エゾノタチツボスミレ又はその抽出物、ネパールスミレ又はその抽出物、シロバナスミレ又はその抽出物、マルバケスミレ又はその抽出物、フキスミレ又はその抽出物、タチツボスミレ又はその抽出物、地草果又はその抽出物、スミレサイシン又はその抽出物、ツボスミレ又はその抽出物、威霊仙又はその抽出物、テッセン又はその抽出物、カザグルマ又はその抽出物、センニンソウ又はその抽出物、杜仲又はその抽出物、トゲミノマサキ又はその抽出物、ツリバナ又はその抽出物、アスパラガス又はその抽出物、イブキトラノオ又はその抽出物、エンドウ豆又はその抽出物、エイジツ又はその抽出物、オウゴン又はその抽出物、オノニス又はその抽出物、キイチゴ又はその抽出物、クジン又はその抽出物、ケイケットウ又はその抽出物、ゴカヒ又はその抽出物、サイシン又はその抽出物、サンザシ又はその抽出物、サンペンズ又はその抽出物、シラユリ又はその抽出物、センプクカ又はその抽出物、ソウハクヒ又はその抽出物、大豆又はその抽出物、茶又はその抽出物、トウキ抽出物、糖蜜又はその抽出物、ビャクレン又はその抽出物、ブナノキ又はその抽出物、ブドウ種子又はその抽出物、フローデマニータ又はその抽出物、ホップ又はその抽出物、マイカイカ又はその抽出物、モッカ又はその抽出物、羅漢果又はその抽出物、アロエ又はその抽出物、アルテア又はその抽出物、アルニカ又はその抽出物、アシタバ又はその抽出物、インチンコウ又はその抽出物、イラクサ又はその抽出物、ウコン又はその抽出物、オウバク又はその抽出物、カミツレ又はその抽出物、キンギンカ又はその抽出物、クレソン又はその抽出物、コンフリー又はその抽出物、サルビア又はその抽出物、シコン又はその抽出物、シソ又はその抽出物、シラカバ又はその抽出物、トウキンセンカ又はその抽出物、ニワトコ又はその抽出物、ホオウ又はその抽出物、ムクロジ又はその抽出物、レンゲソウ又はその抽出物、ヨモギ又はその抽出物、ユーカリ又はその抽出物、ノイバラ又はその抽出物、イチョウ又はその抽出物、ヤシャジツ又はその抽出物、ジコッピ又はその抽出物、ミクロメルムミヌツム(Micromelum minutum)又はその抽出物、ミクロメルム プベセンス(Micromelum pubescens)又はその抽出物、バハクジ又はその抽出物、ボウカ又はその抽出物、スズメウリ又はその抽出物、ラズベリー又はその抽出物、カキョク又はその抽出物、胎盤抽出物等を挙げることができるが、上記のもののみに限定されるべきものではない。これらの成分は1つのもののみを配合してもよく、また、2種以上のものを組み合わせて配合してもよい。本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤には、公知の「美白効果を示す成分や美白効果を増強する成分」以外の成分を、さらに加えてもよい。
【0013】
本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤は、経口的又は非経口的に投与(服用)することができ、投与に際しては、セトラキサート又はその塩に、適当な製剤添加物を加え製剤化することもできる。経口的に投与できる製剤(経口投与製剤)の剤形としては、錠剤、カプセル剤、散剤(細粒を含む)、顆粒剤、トローチ剤等の固形製剤、液剤(シロップ剤を含む)ゼリー剤等の剤形を挙げることができる。また、非経口的に投与できる製剤(非経口投与製剤)の剤形としては、エキス剤、硬膏剤、酒精剤、座剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、点眼剤、注射剤等の剤形を挙げることができる。本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤は、剤形として経口投与製剤であることが好ましい。また、本発明にかかるセトラキサート又はその塩は、ローション、クリーム、化粧水、乳液、フォーム剤、ファンデーション、パック剤、皮膚洗浄剤等の化粧料組成物に配合することもできる。
【0014】
製剤化は、公知の製造技術により行なうことができる。製剤化にあたり、製剤中に加えられる製剤添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、保湿(湿潤)剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味剤、甘味剤、色素、香料、噴射剤等を挙げることができる。これらの製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して、適当量を加えればよい。例えば、本発明にかかる美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤の剤形が錠剤の場合、乳糖、結晶セルロース等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等をコーテイング剤として、ステアリン酸マグネシウム等を滑沢剤として使用することができる。また、剤形が散剤又はカプセル剤の場合、乳糖又は精製白糖等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、トウモロコシデンプン等を吸着剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等を結合剤として使用することができる。
【0015】
本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤は、服用者の性別、年齢、症状、投与(服用)方法、投与(服用)回数、投与(服用)時期等により、適宜検討を行ない、適当な投与(服用)量を決めればよい。例えば内服で、セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩の場合、このものの1回投与量は、通常、50mg〜800mgであり、100mg〜400mgが好ましく、これを1日に1〜4回投与すればよい。本発明の美白剤、色素沈着症の予防及び/又は治療剤の剤形が、経口固形製剤で、セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩の場合には、1回投与量中に含有されるセトラキサート塩酸塩の含有量は、通常、50mg〜800mgであり、100mg〜400mgが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下に、試験例等を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
(試験例1)色素沈着抑制効果
1.試験方法
1.1 紫外線(UVB)照射時間の検討
6週齢の雌性Kwl:A−1系褐色モルモット(SPF)を2匹用いて、紫外線(UVB)照射時間を検討した。すなわち、1匹のモルモットを腹位に固定し、背部正中線をはさんで左右対称に、2cm×2cmの正方形の紫外線照射部位を各3箇所の計6箇所設けた。紫外線照射部位以外を遮光し、SEランプ(波長250〜350nm、FL20S・E、東芝社製)5本を用いて40cmの距離から紫外線(UVB)照射を行った。照射時間は8、10、12、14、16、18分とし、翌日照射部位の皮膚反応(紅斑の有無および程度)を観察した。
【0017】
次に他の1匹のモルモットを用いて、皮膚反応がみられた最小時間と皮膚反応がみられなかった最大時間の間をさらに15秒間隔に照射時間を設定し、先と同様にして、8箇所の照射部位を設けた後、皮膚反応を観察して、本試験での紫外線(UVB)照射時間を12分30秒間に定めた。
1.2 試験検体
下記投与量になるように注射用水に溶解し、試験検体を調製した。
検体(1):対照(無添加)
検体(2):セトラキサート塩酸塩(第一製薬社製) 750mg/kg/day
1.3 紫外線照射
6週齢の雌性Kwl:A−1系褐色モルモット(SPF)4匹を1群にわけ検討した。すなわち、紫外線照射日(試験検体投与開始日、2日目および4日目:紫外線照射回数計3回)に、固定板を用いてモルモットを腹位に固定した。モルモット背部正中線をはさんで左右どちらかの2cm×2cmの正方形1箇所を紫外線照射部位とし、紫外線照射部位以外は遮光した。SEランプ(波長250〜350nm、FL20S・E、東芝社製)5本を用いて40cmの距離から紫外線(UVB)を12分30秒間照射した。試験検体は、試験期間(28日間)中、1日2回経口投与した。なお、試験検体の投与は、紫外線照射日では紫外線照射後に、色素沈着の判定日は判定後に行った。
1.4 色素沈着の判定
試験検体投与開始日の検体投与前(紫外線照射前)、投与開始後14日、21日、28日に、照射部位を色彩色差計(CR−300、ミノルタ社製)を用いてL値(明度)を測定し、ΔL値(観察日のL値−紫外線照射前のL値)を求めた。ΔL値が大きいほど、効果が高いことを示す。
2. 試験結果
表1にセトラキサート塩酸塩を投与した場合におけるΔL値を示す。
表1


表1から明らかなように、セトラキサート塩酸塩投与群(検体2)は、対照群(検体1)と比較して有意な色素沈着抑制作用を示した。すなわち、セトラキサート塩酸塩は、優れた美白作用を有することがわかった。
【0018】

(試験例2)メラノサイト増殖抑制効果
1.1 試験方法
試験に使用した動物はDBA/2N系マウスであり、マウスの背部からSEランプによる紫外線(UVB)を1日1回15分間、18日間照射を繰り返した。
【0019】
試験検体はセトラキサート塩酸塩およびトラネキサム酸で、投与量はいずれも150mg/Kg/dayの混合液で、投与回数は1日2回、試験期間(18日間)中経口投与した。
1.2 メラノサイト数の観察
紫外線誘発によるメラノサイト増殖活性化抑制効果を検討した。
【0020】
評価は、最終照射翌日に耳介を摘出し、常法に従い、DOPA染色による標本を作製し、1mm当たりのメラノサイト数を測定し、無処置群のメラノサイト数と比較し、抑制率を次式により求めた。
【0021】
メラノサイト抑制率(%)=(1−被験物質投与群/無処置群)×100
・ 試験結果
表2にセトラキサート塩酸塩およびトラネキサム酸を投与した場合におけるメラノサイト抑制率を示す。
表2
試験検体(mg/Kg) メラノサイト抑制率(%)
――――――――――――――――――――――――――――――
セトラキサート塩酸塩(150) 35.1
トラネキサム酸(150) 36.3
――――――――――――――――――――――――――――――

いずれの試験検体も優れたメラノサイト数の減少効果(メラノサイト増殖活性化抑制効果)がみられた。また、セトラキサート塩酸塩150mg/kgを投与したときの効果は、その代謝物であるトラネキサム酸を150mg/kgを投与した場合の効果と同等であった。
【0022】
セトラキサート塩酸塩の効果が、その代謝物であるトラネキサム酸のみによるものであれば、メラノサイト抑制率はセトラキサート塩酸塩の方が低くなる。その理由として、トラネキサム酸を150mg/Kg投与した場合と同等の効果を得るためには、セトラキサートはその約1.6倍(Katagiri, et al., Journal of Health Science, Vol.51 No.2 2005 p.258)の240mg/Kgの投与が必要とされるからである。従って、表2の結果から、セトラキサート塩酸塩の美白作用は、代謝物であるトラネキサム酸の作用のみによるものではなく、セトラキサート塩酸塩自体が、優れた美白作用を有することがわかった。
【0023】

(製剤例)
1. 錠剤
1.1 成分
1錠中 (mg)
セトラキサート塩酸塩 200
乳糖 120
ステアリン酸マグネシウム 5
トウモロコシデンプン 50
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
1.2 製法
上記の成分及び分量をとり、第14改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造した。
【0024】

2. 細粒剤
2.1 成分
1包中 (mg)
セトラキサート塩酸塩 200
結晶セルロース 80
アスパルテーム 10
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 適量
2.2製法
上記の成分及び分量をとり、第14改正日本薬局方製剤総則「散剤」の項に準じて細粒剤を製造した。
【0025】

3. カプセル剤
3.1 成分
1〜2カプセル中 (mg)
セトラキサート塩酸塩 200
ステアリン酸マグネシウム 3
トウモロコシデンプン 40
ヒドロキシプロピルセルロース 適量
3.2 製法
上記の成分及び分量をとり、第14改正日本薬局方製剤総則「散剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明にかかるセトラキサート又はその塩は、優れた色素沈着抑制作用を有するので、シミ、そばかす、日やけ、皮膚の炎症や刺激による黒ずみ、ステロイド等の薬物による皮膚の黒化症等の色素沈着をもたらす疾患等による色素沈着症の予防及び/又は治療剤、又は美白剤として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セトラキサート又はその塩を含有する美白剤。
【請求項2】
セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩である請求項1に記載の美白剤。
【請求項3】
剤形が経口投与製剤である請求項1又は請求項2に記載の美白剤。
【請求項4】
セトラキサート又はその塩を含有する色素沈着症の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
セトラキサート又はその塩がセトラキサート塩酸塩である請求項4に記載の色素沈着症の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
剤形が経口投与製剤である請求項4又は請求項5に記載の色素沈着症の予防及び/又は治療剤。


【公開番号】特開2008−110967(P2008−110967A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258035(P2007−258035)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】