説明

セパレータの表面処理方法

【課題】熱硬化性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータを酸処理法によって表面処理するに際し、電気的特性や物理的特性機械的特性を損なうことなく、持続的に親水性を付与し得る表面処理方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータを界面活性剤含有無機酸中に浸漬し、80〜100℃で加熱処理した後、親水性有機溶媒中に浸漬する。上記セパレータの表面処理方法により、熱硬化性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータの電気的特性や物理的特性機械的特性を損なうことなく、セパレータ表面に持続的な親水性を付与することができ、それによって凝縮した水滴を有効に排出除去し、燃料電池の円滑な運転を達成せしめることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータの表面処理方法に関する。さらに詳しくは、熱硬化性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータの表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の発電時の反応においては、水が生成する。燃料電池は、通常水素ガスおよび酸素ガスに電池の運転温度に近い温度の飽和水蒸気を含ませて加湿することにより湿潤状態を保っており、これに生成した水が加わって過飽和になり、水滴が凝縮してくる。この凝縮した水滴は、燃料電池の運転に大きな影響を与えることが知られており、反応ガスの流れによって排出除去することが望まれる。
【0003】
燃料電池用セパレータは、一般に熱硬化性樹脂と黒鉛とを混合、混練、粉砕した材料を圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形法によって成形される。かかるセパレータからの凝縮した水滴の排出のためには、セパレータ表面の親水性を向上させることが有効であり、表面親水化方法としては物理的方法、物理化学的方法、化学的方法等が用いられている。
【0004】
物理的方法としては、ショットブラスト処理法やエアブラスト処理法等があるが、これらの処理法によってもたらされる効果は、疎面化による表面積の増加と表面に付着した離型剤等の撥水性物質の除去にあり、これにより材料本来の持つ水との親和性が発現することになるが、これが親水性向上の上限となる。
【特許文献1】特開2005−197222号公報
【特許文献2】特開2005−302621号公報
【0005】
物理化学的方法としては、低温プラズマ処理法、コロナ放電処理法、常圧放電プラズマ処理法、真空紫外光照射処理法等があり、これらの処理法による効果はすぐれているものの、効果の持続性に乏しく、経時的に親水性が次第に低下してくるという問題がみられる。
【特許文献3】WO 99/40642
【特許文献4】特開2002−25570号公報
【特許文献5】特開2003−142116号公報
【0006】
また、化学的方法としては、酸処理法とアルカリ処理法とに大別される。酸処理法としては酸性溶液中に浸漬する方法が提案されているが、酸浸漬のみでは効果の発現にバラツキが生ずるという問題がみられる。一方、アルカリ処理法としてはアルカリ水溶液中に浸漬する方法が提案されているが、それによる親水性効果は表面に付着した撥水性物質の除去による効果であって、材料本来の物性が親水性向上の上限となる。
【特許文献6】特開平11−297338号公報
【特許文献7】特開2005−71699号公報
【0007】
これらの表面処理法以外の方法としては、親水性物質、例えば酸化けい素の粉末を予め材料中に配合して成形する方法も提案されているが、この方法ではセパレータ材の要求機能である導電性を低下させるという問題がみられる。
【特許文献8】特開平10−3931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱硬化性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータを酸処理法によって表面処理するに際し、電気的特性や物理的特性(機械的特性)を損なうことなく、持続的に親水性を付与し得る表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、上記燃料電池用セパレータを界面活性剤含有無機酸中に浸漬し、80〜100℃で加熱処理した後、親水性有機溶媒中に浸漬するセパレータの表面処理方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセパレータの表面処理方法により、熱硬化性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータの電気的特性や物理的特性(機械的特性)を損なうことなく、セパレータ表面に持続的な親水性を付与することができ、それによって凝縮した水滴を有効に排出除去し、燃料電池の円滑な運転を達成せしめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
燃料電池用セパレータを成形するために用いられる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられるが、耐食性やコストの面からはフェノール樹脂が好んで用いられる。
【0012】
フェノール樹脂としては、一般式

で表わされるノボラック型フェノール樹脂、一般式

で表わされるクレゾール型ノボラック樹脂または一般式

で表わされるレゾルシン型フェノール樹脂のいずれをも用いることができる。
【0013】
これらの各種フェノール樹脂において、フェノール類としてはフェノール以外にo-,m-またはp-クレゾール、2,3-,2,4-,2,5-,2,6-,3,4-または3,5-キシレノール、p-第3ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、レゾルシノール等の少くとも一種を用いることもできる。
【0014】
また、黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛、膨張黒鉛等の少なくとも一種が用いられる。黒鉛の平均粒径は、約30〜120μm、好ましくは50〜100μmのものが用いられ、これ以下の平均粒径のものを用いるとセパレータの電気的特性が低下するようになり、一方これ以上の平均粒径のものを用いると成形されたセパレータの外観が悪化するようになる。
【0015】
黒鉛は、熱硬化性樹脂および内部離型剤との合計量中約75〜90重量%、好ましくは約80〜90重量%の割合で用いられる。これ以下の充填割合では導電性が低下し、一方これ以上の割合で用いると流動性が悪化し、成形が困難となる。一般に、上記合計量中約0.5〜1重量%の割合で内部離型剤が用いられ、内部離型剤としては例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックス等が挙げられる。
【0016】
以上の各成分は、ブレンダ、ヘンシェルミキサ、ニーダ等を用いて予備混合を行った後、ロール、加圧ニーダ、二軸押出機等の混練機を用いて、約80〜120℃で約1〜20分間程度混練が行われる。混練した混練物は、粉砕機により粉砕し、セパレータ成形材料とする。粉砕後の成形材料の平均粒径は1mm以下であることが好ましく、これ以上の平均粒径のものを用いると粒塊が残り易く、得られた成形品の外観を悪化させることになる。
【0017】
成形材料は、所望形状の金型に充填して、セパレータ形状に圧縮成形する。成形は、一般に約10〜100MPaの成形圧力で、約150〜250℃の温度で1分間以上、好ましくは2分間以上行えばよく、離型時に変形を起こさなければよい。また、アフターキュア等により完全硬化させてもよい。
【0018】
成形されたセパレータは、必要に応じてエアブラスト処理、研磨処理等の物理的表面処理法(粗面化による有効表面積の拡大)を適用した後、界面活性剤含有無機酸中に浸漬し、約80〜100℃で加熱処理した後、親水性有機溶媒中に浸漬する親水化表面処理法が適用される。
【0019】
セパレータ表面の親水性の向上のためには、バインダー樹脂である熱硬化性樹脂、好ましくはフェノール樹脂への酸処理による極性基の付与が必要となる。酸処理に用いられる酸は、極性基の付与という目的から強酸でなければならず、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸が用いられる。酸の濃度は、約0.1〜10N、好ましくは約0.5〜6Nであり、これ以下の酸濃度では処理効果がみられず、一方これ以上の濃度の酸を用いるとセパレータの強度低下につながり好ましくない。
【0020】
極性基の付与に際しては、セパレータ表面が疎水性のため濡れ難く、部分的に処理むらが発生するので、酸処理液中に約0.1〜5重量%程度の濃度で界面活性剤を添加しておき、処理むらの発生を防止することが必要とされる。界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤が好んで用いられるが、この他ノニルフェノール等の非イオン性界面活性剤を用いることもできる。
【0021】
酸処理温度は、約80〜100℃であることが好ましい。酸処理温度が低すぎると処理時間が長くなり、酸処理温度が高いと短時間での処理が可能となり、さらに界面活性剤の溶解度も高くなるので好ましい。このような酸処理温度での酸処理は、一般に数分乃至24時間程度行われ、その後水洗、乾燥が行われる。
【0022】
酸処理後、親水性有機溶媒中にさらに浸漬することで、親水性退行の原因と考えられる極性基の離散や極性基の内部反転が抑えられる。有機溶媒中への浸漬は、室温条件下で約1〜24時間程度行われ、このとき用いられる親水性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が好んで用いられる。有機溶媒浸漬後は、純水による洗浄および乾燥が行われる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0024】
実施例1
レゾール型フェノール樹脂(昭和高分子製品MCS-302)19重量%、人造黒鉛(日本黒鉛製品PAG-H100、平均粒径100μm)80重量%およびステアリン酸内部離型剤1重量%をニーダで3分間予備混合した後、加圧ニーダを用いて100℃、10分間の混練を行い、冷却後セイシン企業製クイックミルQMY-75を用いて粉砕した。得られた粉砕材料を、170℃、50MPa、5分間の条件下で圧縮成形を行い、100×100×2.1mmのセパレータ材料状成形品を得た。この成形品表面について、不二製作所製ニューマブラスタを用い、#400のアルミナ研削材を0.1MPaの噴射圧で、約200mmの距離から30秒間程度噴射して、表面処理を行った。
【0025】
この表面処理成形品を親水化処理するために、1重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム界面活性剤を溶解含有する2N硫酸処理液中に浸漬し、95℃で1時間保温した後、水洗、乾燥し、次いで親水性有機溶媒としてのメタノール中に、室温で4時間浸漬した後、取り出して水洗、乾燥させた。
【0026】
実施例2
実施例1において、親水化処理のためのメタノールをアセトンに変更した。
【0027】
実施例3
実施例1において、親水化処理のための硫酸濃度を0.2Nに変更した。
【0028】
実施例4
実施例1において、親水化処理のための硫酸濃度を6Nに変更した。
【0029】
比較例1
実施例1において、親水化処理工程の内メタノール浸漬工程が行われなかった。
【0030】
比較例2
実施例1において、親水化処理が行われなかった。
【0031】
比較例3
実施例1において、界面活性剤を含有させない2N硫酸が用いられ、またメタノール浸漬工程も行われなかった。
【0032】
以上の各実施例および比較例の成形品について、次の各項目の測定が行われた。
濡れ性評価(臨界表面張力):協和界面科学製Drop Masterを用い、表面張力の異なる溶液を用いて接触角を測定し、近似曲線で接触角が0°となる表面張力を臨界表面張力として測定
抵抗評価:成形品を金メッキ電極に挟み、荷重2MPa、電流1Aでの電圧を測定し、抵抗値を算出
曲げ強度:JIS K7171準拠
【0033】
得られた結果は、次の表に示される。なお、親水化処理の保持性を評価するため、親水化処理した試験片を室温下の純水中に保存し、720時間後の臨界表面張力を測定した。

実施例 比較例
測定項目
臨界表面張力 (mN/m)
表面処理直後 66 67 62 72 69 48 注)
表面処理720時間後 67 65 − − 54 − −
抵抗値 (mΩ・cm2) 6.3 6.3 6.2 6.0 6.0 6.3 6.2
曲げ強度 (MPa) 53 50 54 47 50 49 51

注) 接触角測定でバラツキが大きく、臨界表面張力を算出できなかった
これは界面活性剤を添加しなかったため、セパレータと硫酸との濡れ性が悪く、 親水化される部位にバラツキが生じたためであると考えられる

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と黒鉛との成形体よりなる燃料電池用セパレータを、界面活性剤含有無機酸中に浸漬し、80〜100℃で加熱処理した後、親水性有機溶媒中に浸漬することを特徴とするセパレータの表面処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により表面処理された燃料電池用セパレータ。