説明

セパレータ

【課題】溶接されるセパレータ間の接触抵抗を低減し、かつ作業の高速化が可能なセパレータを提供する。
【解決手段】アノードセパレータ20Aとカソードセパレータ20Bとを、互いに溶接して接合したセパレータである。当該セパレータは、アノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの互いに溶接される溶接部26の形状に対応して突出して形成された突状電極部63A,63Bを表面に有する1対の回転可能な電極ローラ61A,61Bによって、前記アノードセパレータおよびカソードセパレータの原材である2枚のワークW1,W2を重ねて両面側から挟んで一方向へ移動させつつ、前記突状電極部63A,63Bに電流を印加して当該突状電極部63A,63Bにより挟持した前記2枚のワークW1,W2を溶接して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池では、電解質膜の両面に電極を設けた膜電極接合体の両面にアノードセパレータとカソードセパレータを重ね、これらを複数積層した積層体を、外部から保持して固定することで燃料電池スタックを形成する。燃料電池では、互いに重なるアノードセパレータとカソードセパレータの接触抵抗を低減させることが有効であり、このための方法として、アノードセパレータとカソードセパレータを低融点合金等により接合する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−114444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1による方法では、低融点合金を溶融させるためにセパレータを加熱処理する必要があり、作業時間がかかる。
【0005】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、両セパレータ間の接触抵抗を低減可能であり、かつ作業の高速化が可能なセパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係るセパレータは、高分子電解質膜のアノード側に配置されるアノードセパレータとカソード側に配置されるカソードセパレータとを、互いに溶接して接合したセパレータである。当該セパレータは、前記アノードセパレータおよびカソードセパレータの互いに溶接される溶接部の形状に対応して突出して形成された突状電極部を表面に有する1対の回転可能な電極ローラによって、前記アノードセパレータおよびカソードセパレータの原材である2枚のワークを重ねて両面側から挟んで一方向へ移動させつつ、前記突状電極部に電流を印加して当該突状電極部により挟持した前記2枚のワークを溶接して形成される。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した本発明に係るセパレータは、セパレータの互いに溶接される溶接部の形状に対応して突出して形成された突状電極部を有する電極ローラにより、2枚のワークを溶接して形成されるため、ワークの幅方向が同時に溶接される。したがって、溶接された両セパレータ間の接触抵抗が低減するとともに、セパレータ製造時の作業の高速化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るセパレータを用いた燃料電池スタックを示す側面図である。
【図2】同燃料電池を示す平面図である。
【図3】同燃料電池スタックの部分拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るセパレータの1つを示す平面図である。
【図5】本実施形態に係るセパレータ溶接装置の全体を示す概略図である。
【図6】同製造装置のセパレータ成形部を示す斜視図である。
【図7】同製造装置のセパレータ溶接部を示す斜視図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う部分断面図である。
【図9】セパレータ溶接部の外周面を展開した部分平面図である。
【図10】本実施形態に係るセパレータ溶接方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、理解を容易にするために、図面によっては各構成要素が誇張して示されている。
【0010】
図1は、本実施形態に係るセパレータを用いた燃料電池スタックを示す側面図、図2は、同燃料電池を示す平面図、図3は、同燃料電池スタックの部分拡大断面図、図4は、本実施形態に係るセパレータの1つを示す平面図である。
【0011】
本実施形態に係るセパレータを用いた燃料電池スタック1は、図1〜3に示すように、燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(酸素)との反応により起電力を生じる単セル2を所定数だけ積層されている。
【0012】
積層された単セル2の両端には、集電板3およびエンドプレート4を配置し、締結手段5によってこれらを保持することにより燃料電池スタック1を構成する。締結手段5は、単セル2の積層方向に延在し、両エンドプレート4の側面にボルト6により締結される固定梁7であり、エンドプレート4の周囲に複数設けられる。なお、締結手段5はこの形態に限定されず、例えば単セル2の積層方向に延在する締結ボルトや、クランプ等を用いてもよい。
【0013】
一方のエンドプレート4には、燃料電池スタック1内部において燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却水のそれぞれを流通させるために、燃料ガス導入口8、燃料ガス排出口9、酸化剤ガス導入口10、酸化剤ガス排出口11、冷却水導入口12、および冷却水排出口13が形成されている。
【0014】
単セル2は、図3に示すように、膜電極接合体19と、膜電極接合体19の両側に配置されるセパレータ20とを有している。なお、膜電極接合体19のアノード側に配置されるセパレータ20をアノードセパレータ20Aと称し、カソード側に配置されるセパレータ20をカソードセパレータ20Bと称する。
【0015】
膜電極接合体19は、固体高分子電解質膜を、その両側から燃料極(アノード電極)と空気極(カソード電極)とによって挟み込んだ積層構造を有している。固体高分子電解質膜としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜などを使用することができる。燃料極および空気極のそれぞれは、触媒層およびガス拡散層を含んでいる。
【0016】
セパレータ20は、流路溝を形成するために、凹凸形状を有している。膜電極接合体19の両面のそれぞれにセパレータ20を配置することにより、燃料ガスを流通させるための燃料ガス流路21、酸化剤ガスを流通させるための酸化剤ガス流路22、および冷却水を流通させるための冷却水流路23を形成している。セパレータ20は、本実施形態では金属製の原材をプレス成形することにより成形しており、例えばステンレス製である。したがって、セパレータ20の流路は、プレス成形により形成される。燃料ガスは、燃料ガス導入口8から導入され、セパレータ20の燃料ガス流路21を流れ、燃料ガス排出口9から排出される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス導入口10から導入され、セパレータ20の酸化剤ガス流路22を流れ、酸化剤ガス排出口11から排出される。冷却水は、冷却水導入口12から導入され、セパレータ20の冷却水流路23を流れ、冷却水排出口13から排出される。
【0017】
セパレータ20には、図4に示すように、燃料ガス導入口8、燃料ガス排出口9、酸化剤ガス導入口10、酸化剤ガス排出口11、冷却水導入口12、および冷却水排出口13に対応して、複数の導入マニホールド25aおよび排出マニホールド25b(導入マニホールド25aおよび排出マニホールド25bを総じてマニホールド25と称する。)が設けられている。導入マニホールド25aおよび排出マニホールド25bは、流路21,22または23に連通する。セパレータ20は、これらのマニホールド25からそれぞれの流路21,22または23へ特定の媒体を流入、排出させるために、特定のマニホールド以外のマニホールド25の回りが、シール材24により封止されている。
【0018】
アノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bは、図4において一点鎖線で示すように、縁部に環状に形成される外周溶接線26A(溶接部)と、燃料ガスおよび酸化ガス用の導入マニホールド25aおよび排出マニホールド25bの周囲を囲む開口溶接線26B(溶接部)とによって互いに溶接されている。外周溶接線26Aには、曲率半径R=4mmの屈曲部27Aが形成され、開口溶接線26Bには、曲率半径R=2mmの屈曲部27Bが形成される。
【0019】
シール材24は、セパレータ20および膜電極接合体19のそれぞれの間を密封するとともに、接合する機能を有している。シール材24には、例えば熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂には、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル等が使用できる。
【0020】
エンドプレート4は、絶縁材からなるが、セパレータ20および膜電極接合体19で構成される積層体14との間に他の絶縁部材が配置されれば、絶縁材でなくてもよい。
【0021】
次に、本実施形態に係るセパレータ溶接装置について説明する。
【0022】
図5は、本実施形態に係るセパレータ溶接装置の全体を示す概略図、図6は、同製造装置のセパレータ成形部を示す斜視図、図7は、同製造装置のセパレータ溶接部を示す斜視図、図8は、図7のVIII−VIII線に沿う部分断面図、図9は、セパレータ溶接部の外周面を展開した部分平面図である。
【0023】
本セパレータ溶接装置30は、図5に示すように、アノードセパレータ20Aを成形するアノード成形ライン31Aと、カソードセパレータ20Bを成形するカソード成形ライン31Bと、セパレータを溶接するセパレータ溶接部60と、セパレータ20を切断するセパレータ切断部70とを備えている。
【0024】
アノード成形ライン31Aおよびカソード成形ライン31Bは、いずれも、ワーク供給部32と、セパレータ成形部40と、セパレータ矯正部50とを有している。
【0025】
ワーク供給部32には、セパレータ20の原材であるワークWが巻回されたセパレータロール33が設けられており、セパレータロール33から第1,第2ワークW1,W2をセパレータ成形部40へ供給する。第1,第2ワークW1,W2の両側の縁部には、位置決め用のパイロット孔Hが一定間隔に並んで形成されている。
【0026】
セパレータ成形部40は、図6に示すように、表面にセパレータ20の形状が刻まれた対の成形ローラ41A,41Bを有しており、それぞれのライン31A,31Bで、ワーク供給部32から供給された第1,第2ワークW1,W2に、アノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの形状をプレス成形する。
【0027】
一方の成形ローラ41Aの表面には、両側の縁部に周方向に並ぶ絶縁性のパイロットピン42が複数形成されている。また、他方の成形ローラ41Bの表面には、両側の縁部に周方向に並ぶ嵌合孔43が複数形成されている。パイロットピン42および嵌合孔43は、第1,第2ワークW1,W2のパイロット孔Hと同間隔(同ピッチ)で形成されている。したがって、両成形ローラ41A,41Bにより第1,第2ワークW1,W2を挟持した際に、パイロットピン42がパイロット孔Hを貫通して嵌合孔43に嵌合することで、前記ワークWを成形ローラ41A,41Bに対して位置決めできる。
【0028】
セパレータ矯正部50は、成形ローラ41により成形された第1,第2ワークW1,W2の形状を矯正するための矯正ローラ51A,51Bを有している。矯正ローラ51A,51Bの表面には、成形ローラ41A,41Bと同様にセパレータ20の形状が刻まれている。なお、矯正ローラ51A,51Bの表面の形状は、第1,第2ワークW1,W2の形状を矯正できるのであれば必ずしもセパレータ20の形状が刻まれていなくてもよく、例えばセパレータ20の形状が部分的に刻まれていたり、または全く形状が刻まれていなくてもよい。
【0029】
また、矯正ローラ51A,51Bの表面には、成形ローラ41A,41Bと同様にパイロットピン(不図示)および嵌合孔(不図示)が複数形成されている。したがって、両矯正ローラ51A,51Bにより第1,第2ワークW1,W2を挟持した際に、パイロットピンがパイロット孔Hを貫通して嵌合孔に嵌合することで、ワークW1,W2を矯正ローラ51A,51Bに対して位置決めできる。
【0030】
セパレータ溶接部60は、図5,7〜9に示すように、アノードセパレータ20Aの形状が成形された第1ワークW1と、カソードセパレータ20Bの形状が成形された第2ワークW2とを、互いに重ねて加圧する一対の回転可能な電極ローラ61A,61Bを有している。電極ローラ61A,61Bは、油圧シリンダー等の押圧手段62に連結されて、第1,第2ワークW1,W2を所望の圧力で押圧することができる。
【0031】
各々の電極ローラ61A,61Bの表面には、セパレータ20の溶接線26に対応する位置で突出して形成された突状電極部63A,63Bが形成されている。各々の電極ローラ61A,61Bの突状電極部63A,63Bは、第1,第2ワークW1,W2を挟むように、互いに対応する位置に形成されている。
【0032】
また、各々の電極ローラ61A,61Bの表面には、第1,第2ワークW1,W2の面形状に対応して突出して形成された非導電性の押さえ部64A,64Bが設けられている。押さえ部64A,64Bは、例えば樹脂により形成される。放熱性各々の電極ローラ61A,61Bの押さえ部64A,64Bは、第1,第2ワークW1,W2を挟むように、互いに対応する位置に形成されている。押さえ部64A,64Bは、突状電極部63A,63Bの近傍に設けられることが好ましく、本実施形態では、電極ローラ61A,61Bの表面において突状電極部63A,63Bから所定間隔Xだけ離隔しての両側を挟むように形成されている。間隔Xは、本実施形態では、0.1mm〜0.3mm程度で設定されており、溶接時の熱を放熱する機能を果たす。電極ローラ61A,61Bは、外部の電流供給部66に接続されており、突状電極部63A,63Bに電流を印加することが可能となっている。
【0033】
電極ローラ61A,61Bの表面には、突状電極部63A,63Bおよび押さえ部64A,64Bが形成される部位と異なる表面部位に、樹脂製の絶縁材65が貼り付けられている。
【0034】
電極ローラ61A,61Bの表面には、成形ローラ41A,41Bと同様にパイロットピン67および嵌合孔68が複数形成されている。したがって、両電極ローラ61A,61Bにより第1,第2ワークW1,W2を挟持した際に、パイロットピン67がパイロット孔Hを貫通して嵌合孔68に嵌合することで、ワークWを電極ローラ61A,61Bに対して位置決めできる。
【0035】
また、本実施形態に係る溶接装置30は、電流供給部66および押圧手段62が接続される制御部69を有しており、押圧手段62による押圧力、電流供給部66の出力および周波数を任意に制御可能となっている。
【0036】
次に、本実施形態に係るセパレータ溶接方法について説明する。
【0037】
図10は、本実施形態に係るセパレータ溶接方法のフロー図である。
【0038】
まず、ワーク供給部32のセパレータロール33から、第1,第2ワークW1,W2を引き出して、セパレータ成形部40に供給する(ワーク供給工程)。
【0039】
次に、ワーク供給部32の成形ローラ41A,41Bにより、第1,第2ワークW1,W2に、アノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの形状をプレス成形する(セパレータ成形工程)。このとき、成形ローラ41A,41Bのパイロットピン42が第1,第2ワークW1,W2のパイロット孔Hを貫通して嵌合孔43に嵌合することで、第1,第2ワークW1,W2が成形ローラ41A,41Bに対して位置決めされる。これにより、第1,第2ワークW1,W2においてアノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの形状を正確な位置にプレス成形できる。このときのプレス成形精度は、例えば±0.003mm以内である。成形された第1,第2ワークW1,W2は、セパレータ矯正部50に搬送される。
【0040】
次に、セパレータ矯正部50の矯正ローラ51A,51Bにより、第1,第2ワークW1,W2におけるアノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの形状を矯正する(セパレータ矯正工程)。これにより、セパレータ成形工程におけるプレス加工において、表裏の伸び量(残留応力)の相違によって生じた反りを、矯正することができる。セパレータ矯正工程においても、矯正ローラ51A,51Bのパイロットピンが第1,第2ワークW1,W2のパイロット孔Hを貫通して嵌合孔に嵌合することで、第1,第2ワークW1,W2が矯正ローラ51A,51Bに対して位置決めされる。これにより、第1,第2ワークW1,W2におけるアノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bの形状を正確に矯正できる。矯正された第1,第2ワークW1,W2は、セパレータ溶接部60に搬送される。なお、このセパレータ矯正工程において、第1,第2ワークW1,W2の反りを完全に矯正しなくてもよく、反りを残した状態で、次のセパレータ溶接工程へ搬出してもよい。
【0041】
次に、セパレータ溶接部60において、第1ワークW1と第2ワークW2をシーム溶接する(セパレータ溶接工程)。セパレータ溶接工程では、第1ワークW1と第2ワークW2を重ねて1対の電極ローラ61A,61Bの間に一方向から送り込む。両電極ローラ61A,61Bは、制御部69によって、加圧力、電流出力および周波数が制御されつつ、第1,第2ワークW1,W2を突状電極部63A,63Bおよび押さえ部64A,64Bにより挟持する。これにより、第1,第2ワークW1,W2の外周溶接線26Aおよび開口溶接線26Bが、搬送方向の一方側から連続的に溶接される。このとき、両電極ローラ61A,61Bにより第1,第2ワークW1,W2を加圧しつつパイロットピン67が第1,第2ワークW1,W2のパイロット孔Hを貫通して嵌合孔68に嵌合するため、第1,第2ワークW1,W2が、両電極ローラ61A,61Bに対して位置決めされる。これにより、第1,第2ワークW1,W2の正確な位置を溶接することができる。このパイロット孔Hは、セパレータ成形工程にも用いられていることから、プレス成形精度と同程度の±0.003mm以内の溶接精度が可能となる。また、セパレータ成形工程(さらには、セパレータ矯正工程)に用いるパイロット孔Hを用いて位置決めするため、更なるパイロット孔を設けることなしに位置決めが可能である。
【0042】
溶接の際には、突状電極部63A,63Bの近傍に設けられる押さえ部64A,64Bが、第1,第2ワークW1,W2と接する。押さえ部64A,64Bは、第1,第2ワークW1,W2に形成される溝部に嵌合し、押さえ部64A,64Bの側面Sが、溝部を構成する側壁Tに当接する。これにより、セパレータが押さえ部64A,64Bに対して位置決めされて、外周溶接線26Aおよび開口溶接線26Bを精度よく突状電極部63A,63Bに位置決めできる。
【0043】
また、押さえ部64A,64Bが、第1,第2ワークW1,W2を両側から押圧して挟持するため、第1ワークW1と第2ワークW2の間の隙間が抑制される。さらに、溶接部も突状電極部63A,63Bにより押圧されるため、第1ワークW1と第2ワークW2の間の隙間がさらに抑制される。一般的に、溶接時に許容できる板材間の隙間は、接合する板厚の10%程度であり、ワークWの板圧を0.1mmとすれば、隙間を0.01mm以下に抑える必要がある。これに対し、本実施形態では、上述のように第1ワークW1と第2ワークW2の間の隙間が抑制されるため、セパレータ成形工程において生じるワークWのうねりの影響による溶接精度の低下、および第1,第2ワークW1,W2の隙間への溶融金属の溶け落ちによる品質劣化を抑えることが可能となる。
【0044】
また、両電極ローラ61A,61Bの表面には、絶縁材65が設けられているため、突状電極部63A,63B以外での短絡を防止することができる。
【0045】
この後、互いに溶接された第1,第2ワークW1,W2は、セパレータ切断部70に搬送され、切断刃や打ち抜きポンチ等で切断または打ち抜かれて、アノードセパレータ20Aおよびカソードセパレータ20Bが接合されたセパレータ20が完成する。
【0046】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0047】
通常のシーム溶接やレーザ溶接では、溶接線に沿って一筆書きのように溶接を行うため、溶接速度はいずれも2m/分程度であり、シーム溶接とレーザ溶接で溶接速度の差は見られない。しかし、本実施形態に係るセパレータ溶接方法で用いられるシーム溶接では、溶接線26に対応する形状で刻まれた突状電極部63A,63Bが表面に設けられた電極ローラ61A,61Bを用い、突状電極部63A,63Bの加圧力、電流の出力および周波数を制御することで、第1,第2ワークW1,W2を一方向から流すだけで溶接することができる。したがって、溶接を高速化するとともに、第1,第2ワークW1,W2を溶接してセパレータ20の内部抵抗を低減させることができる。溶接時間の一例として、通常のシーム溶接やレーザ溶接では、セパレータ1枚で約1分掛かるところ、本セパレータ溶接方法では、約0.5分で溶接することが可能となる。
【0048】
また、上述した通常のシーム溶接では、例えば屈曲部27A,27Bの曲率が大きい(曲率半径Rが小さい)場合には、溶接することができないが、本実施形態によれば、このような通常のシーム溶接では溶接できない形状であっても溶接することができる。これにより、セパレータ20の形状設計自由度が向上する。
【0049】
また、例えばレーザ溶接を用いる際には、ワークを固定するための冶具が必要であるが、レーザを照射するために溶接部上を固定することができない。したがって、ベースとなる板材にワークを設置し、このワークの外周溶接線の外側、内側、および開口溶接線の内側を固定するそれぞれの固定冶具を磁石等によりベースに対して固定して、レーザ溶接を行う方法がある。このようなレーザ溶接では、溶接の前にワークを固定する際に要する段取り時間が生じ、さらに設備コストも掛かる。これに対し、本実施形態では、突状電極部63A,63Bにより直接的に溶接部(外周溶接線26A、開口溶接線26B)を加圧できるため、上述のような固定冶具を必要とせず、溶接前の段取り時間を設けることなしに溶接可能であり、作業性に優れる。また、固定冶具が必要ないために、設備コストおよびランニングコストを低減できる。
【0050】
また、レーザ溶接では、溶接精度は±0.01mm程度であるが、本実施形態では、上述したように±0.003mmの溶接精度を実現でき、高精度かつ高品位な溶接が可能となる。
【0051】
また、セパレータ成形工程におけるプレス加工において、ワークWを逆反り方向(第1,第2ワークW1,W2の互いに接する側を凹形状とする方向)に反るように成形しておくことで、セパレータ溶接工程におけるシーム溶接によって面歪を抑制することができる。すなわち、シーム溶接はワークWを加圧するため、これを利用してプレス加工により生じた面歪を矯正する方向へ加圧を行うことで、矯正できる。さらに、溶接熱による焼鈍効果も加わるため、プレス加工ほどの強大な加圧力を必要とせずに、セパレータ溶接部60(押圧手段62)で発生可能な加圧力で形状を矯正できる。
【0052】
また、本実施形態では、制御部69により電流供給部66および押圧手段62を制御するため、電極ローラ61A,61Bの回転とともに変化する溶接部位に応じて、最適な溶接条件で溶接することが可能である。すなわち、変化する溶接部位に応じて、押圧手段62を制御することで面圧を最適に維持し、電流供給部66を制御することで溶接に最適な出力および周波数を確保できる。
【0053】
また、制御部69により押圧手段62の押圧力を制御することで、セパレータ成形工程で生じた面歪を矯正しつつ溶接することが可能である。これにより、セパレータ20の厚みのばらつきが抑制されて、燃料電池として積層した際の精度をも向上させることができる。
【0054】
また、レーザ溶接では、通常、溶接による歪を分散させるために、レーザの照射位置をワークWの幅方向へ交互に移動させつつ溶接するが、一方側を溶接すると他方側のワーク間の隙間が大きくなり、固定冶具による隙間の矯正が困難となって、セパレータの精度が低下する。これに対し、本実施形態では、幅のある電極ロール61A,61Bを用いて第1,第2ワークW1,W2の幅方向を同時に接合するため、このような問題を解消でき、セパレータ20の製品精度を向上させることができる。
【0055】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、溶接部位が外周溶接線26Aおよび開口溶接線26B以外に設けられてもよい。また、押さえ部64A,64Bや絶縁材65が設けられなくてもよい。また、押さえ部を樹脂ではなく、銅等の伝熱性の高い金属に、樹脂等の絶縁材料を被覆して形成してもよい。このようにすれば、溶接時の熱を押さえ部から良好に放熱することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 燃料電池スタック、
2 単セル、
19 膜電極接合体、
20A アノードセパレータ、
20B カソードセパレータ、
26A 外周溶接線(溶接部)、
26B 開口溶接線(溶接部)、
30 セパレータ溶接装置、
32 ワーク供給部、
33 セパレータロール、
40 セパレータ成形部、
41A,41B 成形ローラ、
50 セパレータ矯正部、
60 セパレータ溶接部、
61A,61B 電極ローラ、
62 押圧手段、
63A,63B 突状電極部、
64A,64B 押さえ部、
65 絶縁材、
66 電流供給部、
67 パイロットピン、
68 嵌合孔、
69 制御部、
R 曲率半径、
S 側面、
T 側壁、
W 前記ワーク、
W1 第1ワーク、
W2 第2ワーク、
X 間隔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜のアノード側に配置されるアノードセパレータとカソード側に配置されるカソードセパレータとを、互いに溶接して接合したセパレータであって、
前記アノードセパレータおよびカソードセパレータの互いに溶接される溶接部の形状に対応して突出して形成された突状電極部を表面に有する1対の回転可能な電極ローラによって、前記アノードセパレータおよびカソードセパレータの原材である2枚のワークを重ねて両面側から挟んで一方向へ移動させつつ、前記突状電極部に電流を印加して当該突状電極部により挟持した前記2枚のワークを溶接したことを特徴とするセパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−182140(P2012−182140A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−100152(P2012−100152)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【分割の表示】特願2008−34849(P2008−34849)の分割
【原出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】