説明

セミ−ケミカルパルプ製造方法および装置

【課題】 蒸解缶の抽出スクリーンにリグニンが付着するのを防止する方法を提供する。
【解決手段】 セミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽における黒液抽出スクリーンの閉塞を防止するための方法であって、該方法は、
リグノセルロース材料および緑液をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽に供給する工程、
リグノセルロース材料をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽で蒸解し、リグニンの一部又は全部をリグノセルロース材料から分離させ、リグニンを蒸解液に溶解させる工程、
セミ−ケミカルパルプ化プロセスにおいて蒸解槽で形成された溶解リグニン含有黒液を抽出スクリーン経由で抽出する工程、
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加え、抽出スクリーン又はその近傍のpHを高め、リグニンが抽出スクリーンに付着するのを防止する工程
を含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース材料からセミ−ケミカルパルプを製造するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セミ−ケミカルパルプ化プロセスは知られており、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。セミ−ケミカルパルプ化プロセスは、Lo−Solids(登録商標)蒸解を含むパルプ化プロセス、例えば特許文献3に開示されたパルプ化プロセスと相違する要件および運転条件を有する。
【0003】
セミ−ケミカルパルプ(製凾に用いられる波形媒体を製造するために通常用いられる歩留が65〜85%の範囲のパルプ)を製造するときには、NaOH、Na2CO3、Na2SO3、クラフト白液又はクラフト緑液などの数種の異なる化学薬剤が用いられ、いくつかの場合には、高い温度(160℃以上)と短い蒸解時間(1時間以内)がセミ−ケミカルパルプを製造するために用いられる。
【0004】
孤立しているセミ−ケミカルパルプ工場では、NaOH、Na2CO3およびNa2SO3が別々にあるいはコンビネーション又はサブコンビネーションして用いられており、これらの化学薬剤は、臭いが少ないこと、および特にNaOHおよび/またはNa2CO3を用いたときに、クラフト液のために通常用いられる比較的に簡単な回収システムで再生できることなどの利点を有する。各化学薬剤および化学薬剤の混合物は、用いられた木材のタイプ(例えば種々のタイプの濶葉樹)の相違によって、固有のパルプ特性を生ずる。従って、化学薬剤の特定のコンビネーション又はサブコンビネーションは、パルプ製造者の個々の基準に基いて選択される。
【0005】
簡単なプロセスであるが、保持時間が比較的に短いと、マルチ−ステージ蒸解プロセスを行うことを試みることを非現実的なものとしてしまう可能性がある。
【0006】
セミ−ケミカルパルプ製造設備がクラフトパルプ工場内で運転される場合には、化学薬剤補充の観点から緑液を使用することは意味があるかも知れない。緑液は、クラフト黒液を燃焼し、生成したスメルトを白液に溶解することにより得られる。白液は一般にNaOHとNa2Sとの混合物を含み、緑液は、黒液の燃焼により生じたスメルト中の化学薬剤とともにNaOHとNa2Sを含有する。消費済みの液が抽出される抽出スクリーンを設けた蒸解缶で緑液を用いると、極めてしばしば抽出スクリーンがリグニンで被覆されるようになる。
【0007】
この閉塞又は被覆は、蒸解の末期における低いpHにより溶液から沈殿したリグニンによって惹き起される。pHの低下は、炭酸イオン(CO32-)の消費によってもたらされる。アルカリ蒸解条件に曝されたリグニンの溶解性はpHの低下とともに減少するので、リグニンは粘稠のタール状物質を形成し、蒸解缶スクリーンを被覆し、蒸解缶スクリーンを、蒸解缶をシャットダウンして、清浄化しなければならない程度までに機能不全にしてしまう。
【0008】
この潜在的な問題を解消するために、このタイプの装置を有する、多くのパルプ工場では、蒸解の末期においてpHを高く保つために、実質的な量のクラフト白液を緑液とともに(例えば、総化学薬剤チャージの20〜30%まで)添加している。しかしながら蒸解の始期においてpHがより高いと、パルプ歩留に負の影響を与え、また白液は緑液よりも製造コストが高いので、運転が非経済的になってしまう。
【特許文献1】テムラー(Temler)に付与された米国特許第4,229,251号明細書
【特許文献2】ハモンド(Hammond)らに付与された米国特許第4,073,678号明細書
【特許文献3】マルコッシア(Marcoccia)らに付与された米国特許第5,489,363号明細書
【発明の開示】
【0009】
本発明のいくつかの態様は、一般に、セミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽における黒液抽出スクリーンの閉塞を防止するための方法に関するものであり、該方法は、
リグノセルロース材料および緑液をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽に供給する工程、
リグノセルロース材料をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽で蒸解し、リグニンの一部又は全部をリグノセルロース材料から分離させ、リグニンを蒸解液に溶解させる工程、
セミ−ケミカルパルプ化プロセスにおいて蒸解槽で形成された溶解リグニン含有黒液を抽出スクリーン経由で抽出する工程、
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加え、抽出スクリーン又はその近傍のpHを高め、リグニンが抽出スクリーンに付着するのを防止する工程
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のいくつかの態様は、蒸解槽中の黒液抽出スクリーンの閉塞を防止する、リグノセルロース材料のセミ−ケミカルパルプ化プロセスのための蒸解槽であって、該蒸解槽は、
蒸解槽に緑液を運搬する第1供給導管、
蒸解槽にリグノセルロース材料を運搬する第2供給導管、
リグニンがリグノセルロース材料から分離され、蒸解液に溶解される空間部、
セミ−ケミカルパルプ化プロセスにおいて蒸解槽で形成されたリグニン溶解黒液を抽出する、抽出導管に連結された抽出スクリーン、および
抽出スクリーン又はその近傍のpHを高めて、リグニンが抽出スクリーンに付着するのを防止するように、白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に送るための第3供給導管
を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のいくつかの態様は、一般に、蒸解の末期におけるpHを上昇させることに関するものであり、これにより、スクリーンが長期間に亘って清浄に保つことができる。pHを上昇させることは、蒸解の末期に、白液又はNaOH(又は他の塩基)を循環および/またはセントラルパイプを経由で添加することにより達成される。
【0012】
蒸解の末期の蒸解液(例えば、リグニンを伴なう黒液)のpHは10以上、好ましくは10〜13、最も好ましくは10〜12にすべきである。
【0013】
本発明のいくつかの態様によれば、抽出スクリーン又はその近傍のpHは、抽出スクリーンの上の液体のpHと比べて、高めることができ、これにより、抽出スクリーン又はその近傍におけるリグニンの溶解性を向上させることができる。
【0014】
いくつかの態様において、セミ−ケミカルパルプ化が行われる槽の抽出スクリーン又はその近傍におけるpHレベルを上昇させることができ、これによりリグニンの溶解性を増加させ、また抽出スクリーンの閉塞性を減少させることができる。
【0015】
図1は、蒸解缶110を含むセミ−ケミカルパルプ化装置100の部分を示し、蒸解缶110への入口部は、導管102を含み、この導管は、一般に、少なくとも緑液と、リグノセルロース材料含有の未蒸解パルプとを含有している。導管102(又は他の導管)より、例えばNaOH、Na2CO3、Na2SO3および/または白液のような他の化学薬剤が蒸解缶102に供給される。蒸解缶110の入口部は導管108も含み、この導管より、白液、NaOH(および/または他の塩基)、および/またはリグニンの溶解性を高く、抽出スクリーン閉塞性を減少させる他の薬剤が供給される。
【0016】
パルプは種々の抽出スクリーンを含む蒸解缶110で蒸解される。蒸解缶110は異なる高さに種々の抽出スクリーンを有するが、図1では抽出スクリーン112のみが、消費ないし使用済みの液(すなわち黒液)が蒸解缶110から除去抽出されるところに図示されている。黒液は、導管114経由で抽出され、導管114は、導管116と導管106とに分岐している。導管116の流体は導管108の流体(例えば白液および/またはNaOH)と混合されて、導管118経由で蒸解缶110に循環される。この循環ループは、リグニンの黒液への効率的な抽出を促進し、その結果、必要とされる白液および/またはNaOHの量を減少させる。
【0017】
導管118の末端は、抽出スクリーン112又はその近傍に位置されている。導管118の末端は、導管118の内容物を抽出スクリーン又はその近傍の集中した位置(concentrated location)に送るか又は上記内容物を蒸解缶内の抽出スクリーン112の実質的に全表面又はその近傍に送る。また導管118の末端は抽出スクリーン112に入り込んでいてもよい。添加点から抽出スクリーンまでの距離は、pHが抽出スクリーンの実質的な全表面を横切って増加し、抽出スクリーンへのリグニンの付着を防止するような距離である。
【0018】
図2は、蒸解缶210を含む、もう1つのセミ−ケミカルパルプ化装置200の一部を示すものであり、蒸解缶210への入口部は導管202を含み、この導管は、一般に、少なくとも緑液と未蒸解パルプを含有している。導管202より、例えばNaOH、Na2CO3、Na2SO3および/または白液のような他の化学薬剤が供給される。蒸解缶210の入口部は、白液、NaOH(および/または他の塩基)、および/またはリグニンの溶解性を高め、抽出スクリーンの閉塞性を減少させる、導管208よりの他の薬剤も含んでいる。
【0019】
パルプは、種々の抽出スクリーンを含有している蒸解缶210で蒸解される。蒸解缶210は異なる高さにおいて種々の抽出スクリーンを含有しているが、図2では、抽出スクリーン212のみが、消費ないし使用済みの液体(すなわち黒液)が蒸解缶210から除去抽出される場所に図示されている。図示された態様では、黒液が導管206経由で抽出される。
【0020】
液供給導管208は、(図示したように)蒸解缶のセンターパイプ220中を通っており、液供給導管208および/またはセンターパイプ220の末端は、スクリーン212又はその近傍に位置している。液供給導管208および/またはセンターパイプ220の末端は、液供給導管208および/またはセンターパイプ220の内容物を抽出スクリーン212又はその近傍の集中した位置に送るか又は抽出スクリーン212の実質的に全表面又はその近傍に送る。また、液供給導管208および/またはセンターパイプ220の末端は、抽出スクリーン212に入り込んでいてもよい。添加点から抽出スクリーンまでの距離は、pHが抽出スクリーンの実質的な全表面を横切って増加し、抽出スクリーンへのリグニンの付着を防止するような距離である。
【0021】
いくつかの態様によれば、さらに単一の方法又は槽において、循環ループとセンターパイプを結合させることも可能である。
【0022】
以上、本発明を現状で最も実用的で好ましい態様と考えられるものについて説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれる種々の変形例および応用例を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の蒸解缶の一態様を示すものである。
【図2】本発明の蒸解缶の他の態様を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽における黒液抽出スクリーンの閉塞を防止するための方法であって、該方法は、
リグノセルロース材料および緑液をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽に供給する工程、
リグノセルロース材料をセミ−ケミカルパルプ化のための蒸解槽で蒸解し、リグニンの一部又は全部をリグノセルロース材料から分離させ、リグニンを蒸解液に溶解させる工程、
セミ−ケミカルパルプ化プロセスにおいて蒸解槽で形成された溶解リグニン含有黒液を抽出スクリーン経由で抽出する工程、
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加え、抽出スクリーン又はその近傍のpHを高め、リグニンが抽出スクリーンに付着するのを防止する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
白液又は塩基を加える工程が、白液および塩基を蒸解槽に加えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩基がNaOHを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リグノセルロース材料を蒸解槽に供給する工程が、NaOH、Na2CO3、Na2SO3又は白液の少なくとも1種を蒸解槽に供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加える工程が、大部分のリグニンがリグノセルロース材料から抽出された蒸解の末期に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加える工程が、蒸解槽の中心を走行するセントラルパイプを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加える工程が、白液又はNaOHと溶解リグニン含有黒液との混合物を含む循環ループを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に加える工程が、抽出スクリーン又はその近傍において、抽出スクリーンの上の蒸解液のpHよりも高い、局在化された高いpHを作り出す、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
蒸解の末期における蒸解液のpHが10以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
蒸解の末期における蒸解液のpHが10〜13である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
蒸解の末期における蒸解液のpHが10〜12である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
蒸解槽中の黒液抽出スクリーンの閉塞を防止する、リグノセルロース材料のセミ−ケミカルパルプ化プロセスのための蒸解槽であって、該蒸解槽は、
蒸解槽に緑液を運搬する第1供給導管、
蒸解槽にリグノセルロース材料を運搬する第2供給導管、
リグニンがリグノセルロース材料から分離され、蒸解液に溶解される空間部、
セミ−ケミカルパルプ化プロセスにおいて蒸解槽で形成されたリグニン溶解黒液を抽出する、抽出導管に連結された抽出スクリーン、および
抽出スクリーン又はその近傍のpHを高めて、リグニンが抽出スクリーンに付着するのを防止するように、白液又は塩基を蒸解槽の抽出スクリーン又はその近傍に送るための第3供給導管
を含むことを特徴とする蒸解槽。
【請求項13】
第3供給導管が白液と塩基を供給する、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項14】
塩基がNaOHを含む、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項15】
第1および第2供給導管が単一供給導管からなる、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項16】
さらに、NaOH、Na2CO3、Na2SO3又は白液の少なくとも1種を蒸解槽に供給するための第4供給導管を含む、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項17】
抽出スクリーンが、大部分のリグニンがリグノセルロース材料から抽出された蒸解の末期の近くにおいて配置される、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項18】
第3供給導管が蒸解槽の中心を走行するセントラルパイプを含む、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項19】
第3供給導管が、黒液の一部を白液と塩基の混合物とともに循環させるための循環ループを含む、請求項12に記載の蒸解槽。
【請求項20】
第3供給導管が抽出スクリーン又はその近傍に位置し、抽出スクリーン又はその近傍において、抽出スクリーンの上の蒸解液のpHよりも高い、局在化された高いpHを作り出す、請求項12に記載の蒸解槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−41175(P2009−41175A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199466(P2008−199466)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(502075342)アンドリッツ インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】