説明

セミリボンドマグネシア−クロムれんが

【課題】真空処理を行う二次精錬設備に使用されるマグネシア−クロムれんがにおいて、組織劣化を抑制することで、れんがの損耗を減少させ、優れた耐用性を得ること。
【解決手段】少なくともマグネシアクロムクリンカーとクロム鉱を含む原料を混練、成形、焼成してなるセミリボンドマグネシア−クロムれんがにおいて、当該れんがのCr含有量が20.5質量%以上27.0質量%以下、Feの含有量をFeで換算したときのFe含有量が3.0質量%以上でかつCr/Feの質量比が4.8以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼プロセスにおけるRH脱ガス槽、DH脱ガス槽、VOD鍋などの真空処理を行う二次精錬設備に好適に用いられるマグネシア−クロムれんが(以下「マグクロれんが」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼プロセスにおいて溶鋼中の不純物を除去するために使用されるRH脱ガス槽、DH脱ガス槽、VOD鍋などの真空処理を行う二次精錬設備は、鋼の高純度化のニーズ増大に伴って使用頻度が増大している。これらの設備の内張り用耐火物としては、スラグあるいは溶鋼との化学反応による化学的浸食、温度変化による耐スポール性に優れた耐火物が必要であり、これらを満足する耐火物としてマグクロれんがが一般的に使用されている。
【0003】
この二次精錬用耐火物として用いられるマグクロれんがは、使用する原料の組み合わせによって、(1)ダイレクトボンドれんが、(2)リボンドれんが、(3)セミリボンドれんがの3種類に分類できる。ダイレクトボンドれんがは、マグネシアクリンカーとクロム鉱を主原料とする配合物を混練、成形、焼成して得られるれんがで、比較的耐スポール性に優れている反面、見掛け気孔率が大きくなるため耐食性はやや劣っている。リボンドれんがはマグネシアクリンカーとクロム鉱および/または酸化クロムを電気溶融あるいは高温で焼成して得られたマグネシアクロムクリンカー(以下「マグクロクリンカー」という。)を主原料とした配合物を混練、成形、焼成して得られるれんがで、比較的焼結し易いため緻密な組織を有することで耐食性に優れているが、耐スポール性には劣っている。セミリボンドれんがは、ダイレクトボンドれんがとリボンドれんがの中間的な特性を有するれんがで、マグクロクリンカーとマグネシアクリンカーおよび/またはクロム鉱を併用している。これらのマグクロれんがの具体的な成分や製造方法は、特許文献1、2および非特許文献1などに開示されている。
【0004】
しかし、本発明者らが従来のマグクロれんがを二次精錬設備に使用し、使用後のマグクロれんがの組織を観察したところ、れんが組織の劣化が見られ、これによって損耗が著しく増大していることがわかった。このような損耗の増大は、れんがの補修あるいは交換によるコストの増大あるいは装置の稼働率低下による生産性の低下を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2518559号公報
【特許文献2】特開2000−191364号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】耐火物手帳‘97、P265、耐火物技術協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、真空処理を行う二次精錬設備に使用されるマグクロれんがにおいて、組織劣化を抑制することで、れんがの損耗を減少させ、優れた耐用性を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、RH脱ガス槽、DH脱ガス槽、VOD鍋などの真空処理を行う二次精錬設備に用いられるマグクロれんがの損耗メカニズムについて鋭意検討を行った。その結果、マグクロれんがの稼働面付近ではCrやFe成分が還元されて金属相が析出し、れんが組織が劣化して損耗が著しく増大することを知見した。これは真空処理を行う二次精錬設備では、(1)真空処理のため低酸素分圧下で使用される、(2)昇温、脱酸のため処理中の槽内にアルミニウムなどの還元剤が投入されることにより、還元性雰囲気になるためと考えられる。
【0009】
そこで本願発明者は、CrとFeの還元を抑制する手法を検討した結果、マグクロクリンカーとクロム鉱を使用したセミリボンドれんがにおいて、Cr量とFe量を特定の範囲に規定することで、還元性雰囲気下でも組織劣化の少ないマグクロれんがが得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくともマグクロクリンカーとクロム鉱を含む原料を、混練、成形、焼成してなるセミリボンドマグクロれんがにおいて、当該れんがのCr含有量が20.5質量%以上27.0質量%以下、Feの含有量をFeで換算したときのFe含有量が3.0質量%以上でかつCr/Feの質量比が4.8以上であることを特徴とするセミリボンドマグクロれんがである。
【0011】
本発明では、Crの含有量は20.5質量%以上27.0質量%以下である必要がある。Cr量が20.5質量%未満ではスラグの浸透が著しく増大し、スラグの浸潤による変質部分が剥離損耗する場合がある。27.0質量%を超えるとCrのCrへの還元が顕著となり組織劣化により溶損が増大する。
【0012】
Feの含有量については、Cr/Feの質量比が4.8以上である必要がある。FeはCrと比較して還元され易いため、Cr/Feの質量比が4.8未満ではFeの還元が顕著になり、組織劣化によって溶損が増大する。一方、FeはCrと比較して低温度域でMgO中に固溶して焼結助剤の役割を果たしているため、3.0質量%以上である必要がある。3.0質量%未満では焼結不足によって溶損が顕著に増大する。
【0013】
本発明のセミリボンドマグクロれんがでは、Cr源、Fe源としてマグクロクリンカーとクロム鉱を併用して使用する必要がある。クロム鉱のみでは、クロム鉱中のCr、Feの濃度がマグクロクリンカー中の濃度より高いため、使用中の還元雰囲気の影響を受けやすく、組織劣化による溶損が大きくなる。一方、Cr源、Fe源としてマグクロクリンカーのみを使用する場合は、スラグとの反応性が高いクロム鉱を含まないため、スラグが稼働面から内部深くまで浸潤して好ましくない。マグクロクリンカーとクロム鉱を併用することで、還元性雰囲気下での安定性とスラグの浸潤防止を両立させることが可能となる。
【0014】
耐火原料中に占めるマグクロクリンカーおよびクロム鉱の割合は特に限定されるものではないが、マグクロクリンカーは例えば20質量%以上90質量%以下、クロム鉱は例えば3質量%以上30質量%以下である。また、マグクロクリンカーとクロム鉱の化学組成についても特に限定されるものではなく、一般的に耐火原料として使用される化学組成の原料を使用することが可能であり、例えば後述の表1に示すような化学成分の原料である。
【0015】
本発明は、マグクロクリンカーおよびクロム鉱を必須の原料としているが、耐スポール性改善のためマグネシアクリンカーを併用することも可能である。その使用量は耐火原料中に占める割合で例えば30質量%以上60質量%以下である。さらに本発明では耐火物の気孔の周囲にCrに富んだ相を析出させスラグ浸潤を抑制することを目的として酸化クロムを添加することが好ましい。その使用量は耐火原料中に占める割合で例えば3質量%以上20質量%以下である。その他にも本発明の効果を損なわない範囲で各種耐火原料を組み合わせることが可能で、例えばスピネル、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの各種クリンカーである。
【0016】
本発明のマグクロれんがは原料配合物に結合剤を添加して均一に混練して得られた坏土を成形、焼成して得ることが出来る。焼成温度は例えば1750℃以上1900℃以下が好ましく、より好ましくは1800℃以上1850℃以下である。
【0017】
ここで、マグクロれんがの組織劣化につながるCrとFe量に着目して上述の先行技術文献を整理すると以下の通りである。まず、従来の一般的なダイレクトボンドれんがのCrおよびFe含有量は、(Cr(質量%)、Fe(質量%))で表記すると、非特許文献1に記載の通り、(10、4)、(20、8)、(31、7)、(19、6)である。セミリボンドれんがとしては同様に(21、7)である。また、特許文献1の実施例2によれば、ダイレクトボンドれんがでは同様に(22.4、5.6)、(21.0、4.3)、同じく特許文献1の実施例3によれば、セミリボンドれんがでは、(22.8、5.0)、(20.0、3.6)である。特許文献2によれば、表2の使用原料の各組成と表3から表8の原料配合割合とから推定すると、表3から表7に示すセミリボンドれんがのCrとFeの質量%は、(29.7、2.8)、(31.7、2.8)、(21.8、2.8)、(31.7、2.8)、(16.8、2.4)、表8に示すリボンドれんがのCrとFeの質量%は、(24.0、4.0)である。
【0018】
しかしながら、ダイレクトボンドれんがは、比較的還元されやすいクロム鉱を多量に添加するため、還元性の厳しい使用条件においては耐食性に問題がある。一方、非特許文献1に記載されているセミリボンドれんがは還元され易いFeを多量に含むためやはり耐食性に問題がある。また、特許文献1のセミリボンドれんがのうち(22.8、5.0)はやはりFeが多すぎて耐食性が低下し、(20.0、3.6)についてはCr量が少なすぎて耐スラグ浸潤性に問題がある。特許文献2に記載のセミリボンドれんがとリボンドれんがはFeが少なすぎるため焼結不足によって溶損が顕著に増大する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセミリボンドマグクロれんがは、鉄鋼プロセスにおけるRH脱ガス槽、DH脱ガス槽、VOD鍋などの真空処理を行う二次精錬設備において、優れた耐用性を示し、鉄鋼業の生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】表2に示す各例のFe量とCr量をプロットしたもので、併せて本発明の範囲も示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0022】
表1に示す4種類の原料を、表2に示す配合割合で混合し、適量の結合剤と共にミキサーにて均一に混練して坏土を得た。これを一軸プレスにて並型形状に成形し、最高温度1800℃で焼成して供試れんがを作製した。この供試れんがを高周波誘導加熱炉に内張りして耐食性と耐スラグ浸潤性を評価した。低酸素分圧下におけるれんが組織の還元による影響を調査するため、炉内にアルゴンガスを吹き込みながら溶鋼を炉内で溶解させた後、CaOが70質量%、SiOが25質量%、Alが5質量%からなるスラグを溶鋼の上に投入した。試験条件は1750℃で5時間である。なお、図1は、表2に示す各例のFe量とCr量をプロットしたもので、併せて本発明の範囲も示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
試験後溶鋼とスラグを排出し、供試れんがを解体して稼働面の中央を縦方向に切断し、耐食性は最大浸食量の測定により、耐スラグ浸潤性はスラグが浸潤して緻密化した層の最大厚みの測定により評価した。耐食性は最大浸食量が5mm未満の場合を◎、5mm以上10mm未満の場合を○、10mm以上15mm未満の場合を△、15mm以上の場合を×とした。耐スラグ浸潤性については、スラグが浸潤して緻密化した層の最大厚みが3mm未満の場合を◎、3mm以上6mm未満の場合を○、6mm以上10mm未満の場合を△、10mm以上の場合を×とした。いずれも、◎、○、△、×の順に良好である。
【0026】
表2に示す通り、本発明の実施例は全て耐食性および耐スラグ浸潤性の両方において良好な結果となっていることが明らかである。本発明の化学成分の範囲外である比較例1から10の耐食性については、比較例3から10の結果が不良である。稼働面付近の断面を研磨して反射顕微鏡によって観察した結果、Fe量が少ない比較例3、5、7については焼結不足のため多孔質な組織を呈しており、このため溶損が大きくなったと推定される。Cr/Feの質量比が4.8未満の比較例4、6、8とCr含有量が27質量%を超える比較例9、10においては、稼働面付近を観察した結果、FeやCrが還元されてそれぞれFeやCrの金属相が析出し、稼働面付近の気孔率が内部と比較して増大している様子が観察された。この現象によって溶損が大きくなったと考えられる。
【0027】
比較例1から10の耐スラグ浸潤性については、比較例1から3が不良である。Cr量が20.5質量%より少ない比較例1と2はスラグの浸潤を抑制する効果を有するCrが少なすぎるためと考えられる。また、比較例3はCr量は本発明の範囲であるがFe量が少ないため、焼結不足により気孔径が大きくなり、スラグが浸潤し易くなったと思われる。
【0028】
比較例11については、化学成分は本発明の範囲に含まれるが、原料としてクロム鉱を含まない例であり、耐スラグ浸潤性が不良である。これは前述したように、スラグとの反応性が良好なクロム鉱を含まないためと考えられる。一方、原料として電融マグクロクリンカーを含まない比較例12は比較的還元され易いクロム鉱が多いため、耐食性に劣っている。
【0029】
従って、本発明による優れた耐食性と耐スラグ浸潤性を得るには、化学成分を所定の範囲内とすると共に、原料として少なくともマグクロクリンカーおよびクロム鉱を含むことが必要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマグネシアクロムクリンカーとクロム鉱を含む原料を混練、成形、焼成してなるセミリボンドマグネシア−クロムれんがにおいて、当該れんがのCr含有量が20.5質量%以上27.0質量%以下、Feの含有量をFeで換算したときのFe含有量が3.0質量%以上でかつCr/Feの質量比が4.8以上であることを特徴とするセミリボンドマグネシア−クロムれんが。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213517(P2011−213517A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81942(P2010−81942)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】