説明

セメントの製造方法

【課題】セメント原料中のP25量が変動した場合においても、セメントクリンカ中のP25量を所定の範囲内に保持することができるセメントの製造方法を提供する。
【解決手段】窯前4に設けられた主バーナ5からの火炎によって内部が1400℃以上の高温雰囲気下に保持されたセメントキルン1内に、窯尻部分2から内部に投入されたセメント原料を窯前4側へ送りつつ焼成してセメントクリンカを製造するセメント製造方法において、セメントキルン1内に、上記セメント原料中のP25量の変動量または製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量を補償する量の乾燥汚泥を投入することにより、上記セメントクリンカに含まれるP25の量を0.3〜1.0重量%の範囲内に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温雰囲気下に保持されたセメントキルンでセメント原料を焼成してセメントクリンカを製造する方法に係り、詳しくは上記セメントクリンカ中に含まれるP25量を所望の範囲内に制御することが可能となるセメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セメント製造設備においては、セメント原料をプレヒータにおいて所定の温度まで予熱してセメントキルンに導入し、当該セメントキルン内において、窯前に設けられた主バーナからの火炎によって約1450℃の高温雰囲気で焼成してセメントクリンカとした後に、当該セメントクリンカに急結防止用の二水石膏を加えて微粉砕することによりセメントを製造している。
【0003】
ところで、上記製造工程において得られたセメントクリンカ中には、セメント原料自体や燃料中に含まれるリン(P)分が取り込まれている。そして、このようにして取り込まれたリン分(P25)は、セメントの諸物性に影響を及ぼすことが知られており、最終的なセメントの品質を保持するために、上記セメントクリンカ中のP25量が所定の値を超えないように、セメント原料自体や燃料中のP25量を管理している。
【0004】
一方、上記セメントキルンの主バーナにおいて燃焼される燃料としては、通常石炭およびコークスを使用しているが、近年における燃料の高騰化に伴い、上記石炭等に、産業廃棄物である廃油等の副燃料を添加して上記燃料の一部として使用している。さらに、他の産業廃棄物である廃プラスチックや廃タイヤに加えて、下記特許文献1においては、下水汚泥、食品加工残渣汚泥、製紙汚泥等の含水有機性汚泥を造粒・乾燥して、いずれもセメント製造用の補助燃料として有効利用することが提案されている。
【0005】
しかしながら、上記有機性汚泥は、その固形分中にP25を5重量%以上含むことが多く、使用量によっては、セメントの凝結遅延や圧縮強さの低下を引き起こす虞があった。
【0006】
また、下記特許文献2においては、含水汚泥からリン成分の含有率を低減せしめる除リン工程、上記除リン工程より得られたリン成分の含有率が低減された含水汚泥を加熱乾燥する乾燥工程及び上記乾燥工程より得られた乾燥汚泥をセメント製造設備にてセメント製造用燃料及び原料として使用し、セメントを製造するセメント製造工程よりなり、該乾燥汚泥の固形分中に占めるリン含有率を4重量%以下に調整することを特徴とするセメントの製造方法が提案されている。
【0007】
当該セメントの製造方法にあっては、汚泥中のP25量を4重量%以下に低減することにより、これまでよりも大量の含水汚泥をセメント製造設備で処理することができるという利点はあるものの、セメント製造工程の投入する含水汚泥の量が過多になった場合やセメント原料中のP25量が増加した場合には、セメントクリンカ中のP25量が増加して、セメントの凝結遅延や圧縮強さの低下を招来するという問題点を有する。
【0008】
さらに、上述したセメントの凝結遅延や圧縮強さの変動に加えて、セメントクリンカの被粉砕性も、含有するP25の量によって変化する。このため、上記含水汚泥等の有機性汚泥をセメント製造工程に投入して、燃料の一部として有効利用しようとする際には、セメントの品質管理上、セメントクリンカ中のP25量を一定の範囲内に保持することが強く要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−217576号公報
【特許文献2】特開2004−203662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、セメント原料中のP25量が変動した場合においても、セメントクリンカ中のP25量を所定の範囲内に保持することができ、よってセメントの品質を安定的に維持することが可能になるセメントの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、窯前に設けられた主バーナからの火炎によって内部が1400℃以上の高温雰囲気下に保持されたセメントキルン内に、当該セメントキルンの窯尻部分から内部に投入されたセメント原料を上記窯前側へ送りつつ焼成してセメントクリンカを製造するセメント製造方法において、上記セメントキルン内に、上記セメント原料中のP25量の変動量または製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量を補償する量の乾燥汚泥を投入することにより、上記セメントクリンカに含まれるP25の量を0.3〜1.0重量%の範囲内に制御することを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記乾燥汚泥が、加熱処理された下水汚泥であり、かつ5mm以下の粒度に粉砕した後に、上記窯前側から上記セメントキルン内に投入することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記セメント原料中のP25量の変動量を測定し、当該変動量を補償する量の上記乾燥汚泥の量を計量して、上記セメントキルン内に投入することを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量を測定し、当該変動量を補償する量の上記乾燥汚泥の量を計量して、上記セメントキルン内に投入することを特徴とするものである。
【0015】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記主バーナの燃料は固体燃料をミルにおいて粉砕して得られた微粉固体燃料であるとともに、上記ミルに、上記乾燥汚泥を供給して上記固体燃料と共に粉砕して上記主バーナから上記セメントキルン内に投入することを特徴とするものである。
【0016】
これに対して、請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記主バーナの上方に設けた補助投入管から、上記乾燥汚泥を上記主バーナの火炎に向けて投入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜6のいずれかに記載の発明によれば、乾燥汚泥をセメントキルン内の1400℃以上の高温雰囲気中に乾燥汚泥を投入すると、上記高温雰囲気下において乾燥汚泥が燃焼・分解することにより、不燃分中のP25が、焼成されるセメント原料中に取り込まれる。
【0018】
したがって、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が不足した場合には、上記セメントキルン内に投入する乾燥汚泥の量を増加させることにより、容易かつ確実に上記セメントクリンカに含まれるP25の量を予め設定した0.3〜1.0重量%の範囲内に制御することができる。
【0019】
この際に、上記乾燥汚泥を、セメントキルン内における1400℃以上の高温雰囲気中に投入することにより、完全に燃焼・分解してP25を生成させることができ、よって効果的にセメントクリンカ中のP25量を調整することができる。
【0020】
この結果、セメント調合原料中のP25量が変動した場合や、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が減少した場合においても、セメントクリンカ中のP25量を0.3〜1.0重量%の範囲内に保持することができ、よってセメントの品質を安定的に維持することが可能になる。
【0021】
ここで、セメントクリンカ中のP25量を0.3〜1.0重量%の範囲内に保持することに限定した理由について説明すると、一般に、最終製品となるセメントにおいては、含有されるP25量の増加に伴って、エーライトの水和反応性促進による強度発現効果が得られものの、当該P25量が過多になると、クリンカ構成物の量の変化、つまりビーライト量の増加等によって強度が低下することが知られている。
【0022】
そこで、本発明者等は、セメント(=セメントクリンカ)中のP25量を変化させた場合のセメント硬化体強度の変化を確認するための実証実験を行った。図4は、上記実証実験の結果を示すものであって、セメント中のP25量を変化させた場合の3日後、7日後および28日後におけるセメント硬化体の圧縮強さの値を示すものである。
【0023】
そして、上記実証実験により、同図に見られるように、セメント硬化体の圧縮強さは、セメント中のP25量が0.3重量%以上で増加し、0.5重量%で最大値を示したものの、さらに増加するに連れて低下し、1.0重量%では0.1重量%と同等になるとの知見を得た。
【0024】
以上の知見に基づき、セメントキルン内に投入する乾燥汚泥の量を制御して、セメントクリンカ中のP25量を0.3〜1.0重量%の範囲内に保持するようにしたのである。この結果、セメントクリンカ中のP25量が変動する際に、セメントキルン内に投入する乾燥汚泥の量を、セメントクリンカ中のP25量が0.3〜1重量%以下となるように制御することにより、常に強度発現性が向上したセメントを製造することが可能になる。
【0025】
ちなみに、乾燥汚泥の投入によるP25量の調整を行わない場合には、他にP25量が多い廃棄物を原燃料として使用しない限り、上記セメントにおけるP25量は0.1重量%程度以下となる。
【0026】
したがって、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が減少した場合には、少なくとも当該P25量が0.3重量%以上となるようにセメントキルン内に乾燥汚泥を投入することにより、セメントの強度発現性を向上させることが可能になる。
【0027】
なお、上記乾燥汚泥の投入量を決定するに際しては、請求項3または4に記載の方法を採用することが可能である。ただし、当該乾燥汚泥を投入してから、上記燃焼・分解によって生じたP25がセメントクリンカ中に取り込まれるまでに時間差が生じるために、請求項4に記載の発明のように、製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量に対応して上記投入量を決定するよりも、請求項3に記載の発明のように、使用している原料が変わる際に、予め新たな原料中のP25量とこれまで使用した原料中のP25量とを比較して、その変動量を補償する量の乾燥汚泥を投入することが好ましい。
【0028】
また、近年においては、セメントキルン内に脱リンスラグ等のP25を含む産業廃棄物も原料の一部として投入されている。これらの廃棄物は、他の成分との関係で使用量が限定されており、上記セメントクリンカ中のP25量の変動に与える影響も少ないといえる。しかしながら、上記セメント原料におけるP25量の変動に加えて、上記廃棄物に含まれるP25量の変動も考慮して上記乾燥汚泥の投入量を決定すれば、より一層セメントクリンカ中のP25量の変動を上述した所定の範囲内に制御することが可能になる。
【0029】
さらに、投入する乾燥汚泥としては、請求項2に記載の発明のように、加熱処理された下水汚泥であって、かつ5mm以下の粒度に粉砕したものであることが好ましい。このような乾燥汚泥を使用することにより、セメントキルン内に窯前側から投入する際に、バーナにおいて閉塞が生じることを防止することができる。
【0030】
加えて、水分を有していない乾燥汚泥を用いることにより、燃焼時に気化熱を奪って熱効率を低下させることが無く、かつ予め5mm以下に粉砕しておくことにより、上記セメントキルン内の高温雰囲気下において、瞬時に完全に熱分解させて所望の量のP25を生成させることができる。
【0031】
また、セメントキルン内に投入する方法としては、請求項5に記載の発明のように、燃料とともに主バーナから投入しても良く、あるいは請求項6に記載の発明のように、上記主バーナの上方に設けた補助投入管から、上記主バーナの火炎に向けて投入することもできる。かかる構成を採用することにより、確実に最も高温雰囲気下にある主バーナの火炎近傍に上記乾燥汚泥を投入して燃焼・分解させることができる。
【0032】
この際に、主バーナの燃料が石炭である場合には、特に請求項5に記載の発明のように、石炭を微粉炭とする石炭ミルに上記乾燥汚泥を投入して上記石炭と共に粉砕して混合したうえで、上記主バーナからセメントキルン内に投入するようにすれば、より一層確実に当該乾燥汚泥を主バーナの火炎によって熱分解させることができるために好適である。
【0033】
さらに、上記石炭ミルに投入する前の汚泥は必ずしも極度に乾燥させる必要はなく、含水率で50%以下であれば良い。ちなみに、上記含水率が50%より大きいと、石炭ミル内に汚泥が付着する虞があり、30%未満では後述するように、乾燥に要する熱エネルギーが無駄になる。したがって、投入する汚泥の含水率は30〜50%が好ましい。
【0034】
また、石炭ミルで石炭を粉砕する際、安全上の問題よりミルから排出される微粉炭の温度を85℃以下に保つ必要がある。したがって、含水率が30〜50%の汚泥を投入すれば、ミル内への冷却用空気の導入量が削減でき、上述した乾燥に要する熱エネルギーと合わせて、さらなるコスト削減効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態を実施するためのセメント製造設備の概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を実施するためのセメント製造設備の概略構成図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を用いた実験結果を示すもので、乾燥汚泥を投入した場合のセメントクリンカ中のP25量の変動を示すグラフである。
【図4】セメントクリンカ中のP25量とセメント硬化体の圧縮強さとの関係を確認するための実証実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るセメントの製造方法の第1の実施形態を実施するためのセメント製造設備を示すもので、図中符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンである。このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、図中左方の窯尻部分2に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ3が設けられるとともに、図中右方の窯前4に、内部を加熱するための主バーナ5が設けられている。なお、図中符号6は、焼成後のセメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラである。
【0037】
ここで、プレヒータ3は、上下方向に直列的に配置された複数段のサイクロンによって構成されており、供給管7を介して最上段のサイクロンにセメント原料が供給されるとともに、最下段のサイクロンの底部には、内部のセメント原料をセメントキルン1の窯尻部分2へと送る移送管3aが接続されている。
【0038】
他方、窯尻部分2には、セメントキルン1から排出された燃焼排ガスを最下段のサイクロンへと供給する排ガス管3bが設けられているおり、最上段のサイクロンの上部から排出された排ガスが、図示されない排気ファンによって排気ライン8を介して排気されて行くようになっている。
【0039】
そして、セメントキルン1の主バーナ5には、燃料となる微粉炭(微粉固体燃料)の供給手段が設けられている。この供給手段は、上記燃料の元となる石炭、コークスおよび副燃料の混合物(固体燃料)を貯留する石炭サイロ10と、この石炭サイロ10から供給された石炭等を粉砕して所定の粒度の微粉炭とする乾式の石炭ミル11と、この石炭ミル11において得られた微粉炭を、図示されない供給ラインから供給される圧縮空気によって主バーナ5からセメントキルン1の内部へ投入する燃料供給管12とから構成されたものである。
【0040】
そしてさらに、このセメント製造設備においては、下水汚泥等の乾燥物を計量する計量器13が設けられ、この計量器13において計量された乾燥汚泥が、石炭サイロ10からの石炭と共に石炭ミル11へ供給されるようになっている。
ここで、計量器13は、図示されない蛍光X線分析等の周知の計測手段によって測定されたセメント調合原料中のP25量14、またはクリンカクーラ6から排出されたセメントクリンカ中のP25量15に基づいて決定された、投入すべき乾燥汚泥の量を計量するものである。
【0041】
次いで、以上の構成からなるセメント製造設備を用いた本発明に係るセメントの製造方法の第1の実施形態について説明する。
先ず、このセメント製造設備においては、石灰石、粘土、珪石および酸化鉄原料が粉砕混合されることによって得られたセメント原料が、供給管7からプレヒータ3の最上段のサイクロンに供給される。そして、この最上段のサイクロンに供給されたセメント原料は、順次下方のサイクロンへと落下するにしたがって、下方から上昇するセメントキルン1からの高温の排ガスによって予熱され、最終的に最下段のサイクロンから移送管3aを介してセメントキルン1に導入される。
【0042】
他方、石炭サイロ10内に貯留されている燃料の元となる石炭等は、適宜石炭ミル11に送られて粉砕され、微粉炭となって燃料供給管12からセメントキルン1の窯前4に設けられた主バーナ5へと供給される。そして、この主バーナ5からセメントキルン1内に投入された微粉炭が燃焼することにより、セメントキルン1内の窯前4側は、約1450℃以上の高温雰囲気下に保持されている。
【0043】
これにより、この窯尻部分2からセメントキルン1内に送られた上記セメント原料は、窯前4側へと徐々に送られる過程において、主バーナ5からの燃焼排ガスによって約1450℃まで加熱され、焼成されてセメントクリンカとなる。次いで、窯前4に到達したセメントクリンカは、クリンカクーラ6内に落下して図中右方に送られる。この際に、クリンカクーラ6内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて最終的に当該クリンカクーラ6から取り出される。
【0044】
また、これと併行して、このセメント製造設備に搬入された下水汚泥等の汚泥は、予め100℃〜300℃の加熱雰囲気下によって乾燥されて含水率が30〜50%とされており、セメント調合原料中のP25量14と比較して、計量器13において不足するP25量に相当する量の上記乾燥汚泥が計量され、石炭ミル11へと供給される。これにより、セメントクリンカ中のP25量が、常時0.3〜1重量%の範囲内に保持されるように制御する。
【0045】
なお、上記乾燥汚泥の計量は、クリンカクーラ6から排出されたセメントクリンカに含まれるP25量15が減少した場合に、減少したP25量に相当する量の上記乾燥汚泥を計量して石炭ミル11へと供給してもよい。
【0046】
そして、この石炭ミル11において、石炭サイロ10から供給される上記石炭等と混合されつつ5mm以下の粒度に微粉砕されて乾燥汚泥粉末となり、上記微粉炭とともに主バーナ5からセメントキルン1内に投入されて、1400℃以上の主バーナ5の火炎によって熱分解される。
【0047】
(実施例)
図3は、上記セメント製造設備を用いたセメント製造方法における実験結果を示すものである。
上記セメント製造設備において、セメントクリンカを時産130トンの割合で製造する際に、セメントクリンカ中のP25量が0.1重量%程度になることが予測された。
【0048】
そこで、これを補償するために、計量器13において、P25の含有量が6重量%の乾燥汚泥を計量して、6500kg/時の投入量(50kg−乾燥汚泥/t−クリンカ)で微粉炭と共に主バーナ5から投入した。
この結果、図3に見られるように、その後もクリンカクーラ6から排出されたセメントクリンカ中のP25量は0.4重量%前後で推移した。
【0049】
以上のように、上記セメントの製造方法によれば、セメント調合原料中のP25量が変動した場合や、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が減少した場合に、セメントキルン1の窯前4側から1400℃以上の高温雰囲気中に投入する乾燥汚泥粉末の量を増加させることにより、容易かつ確実にセメントクリンカに含まれるP25の量を予め設定した0.3〜1重量%の範囲内に制御することができる。
【0050】
特に、本発明においては、上記下水汚泥等の汚泥を加熱処理して乾燥させるとともに、予め5mm以下の粒度に粉砕して、主バーナ5から微粉炭(微粉固体燃料)とともにセメントキルン1内に投入しているために、上記汚泥に含まれる水分によってセメントキルン1内における熱効率を低下させることが無く、かつ上記乾燥汚泥を完全に分解させることができるために、効果的にセメントクリンカ中のP25量を調整することができる。
【0051】
したがって、セメント調合原料中のP25量が変動した場合や、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が減少した場合においても、常にセメントクリンカ中のP25量を0.3〜1重量%の範囲内に保持することができ、よってセメントの品質を安定的に維持することができる。
【0052】
また、含水率が30〜50%の汚泥を石炭ミルに投入すれば、ミル内への冷却用空気の投入量が削減でき、上述した乾燥に要する熱エネルギーと合わせて、さらなるコスト削減効果が期待できる。
【0053】
(第2の実施形態)
図2は、本発明に係るセメントの製造方法の第2の実施形態を実施するためのセメント製造設備を示すもので、図1に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この製造設備においては、また、計量器13において計量された乾燥汚泥を、5mm以下の粒度に粉砕して乾燥汚泥粉末とする粉砕機16が設けられている。そして、セメントキルン1の窯前4には、この粉砕機16によって粉砕された乾燥汚泥粉末を、圧縮空気と共にセメントキルン1内であって、かつ主バーナ5の火炎に向けて投入する補助投入管17が主バーナ5の上方位置に設けられている。
【0054】
以上の構成からなるセメント製造設備を用いた本発明に係るセメントの製造方法の第2の実施形態においては、セメント調合原料中のP25量14、またはクリンカクーラ6から排出されたセメントクリンカ中のP25量15に基づいて決定され、計量器13において計量された乾燥汚泥が、粉砕機16に供給される。そして、この粉砕機16において粉砕されることによって得られた上記乾燥汚泥粉末が、補助投入管17から主バーナ5の火炎に向けて投入され、1400℃以上の主バーナ5の火炎によって熱分解される。
【0055】
したがって、第2の実施形態に示したセメントの製造方法によっても、第1の実施形態に示したものと同様に、セメント調合原料中のP25量14が変動した場合や、製造されたセメントクリンカに含まれるP25量が減少した場合においても、常にセメントクリンカ中のP25量を上述した0.3〜1重量%の範囲内に保持することができ、よってセメントの品質を安定的に維持することが可能になる。
【0056】
なお、上記第1および第2の実施形態においては、いずれも乾燥汚泥をセメントキルン1の窯前側から、微粉炭(微粉固体燃料)とともに主バーナ5を通じてセメントキルン1内に、あるいは補助投入管17から主バーナ5の火炎に向けて投入する場合に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、プレヒータ、仮焼炉等、あるいは窯尻部分2側からセメントキルン1の内部へと供給することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
セメントを製造するに際して、セメントクリンカ中に含まれるP25の量を所望の範囲内に制御するために利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 セメントキルン
2 窯尻部分
4 窯前
5 主バーナ
10 石炭サイロ
11 石炭ミル
12 燃料供給管
13 計量器
16 粉砕機
17 補助投入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯前に設けられた主バーナからの火炎によって内部が1400℃以上の高温雰囲気下に保持されたセメントキルン内に、当該セメントキルンの窯尻部分から内部に投入されたセメント原料を上記窯前側へ送りつつ焼成してセメントクリンカを製造するセメント製造方法において、
上記セメントキルン内に、上記セメント原料中のP25量の変動量または製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量を補償する量の乾燥汚泥を投入することにより、上記セメントクリンカに含まれるP25の量を0.3〜1.0重量%の範囲内に制御することを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
上記乾燥汚泥は、加熱処理された下水汚泥であり、かつ5mm以下の粒度に粉砕した後に、上記窯前側から上記セメントキルン内に投入することを特徴とする請求項1に記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
上記セメント原料中のP25量の変動量を測定し、当該変動量を補償する量の上記乾燥汚泥の量を計量して、上記セメントキルン内に投入することを特徴とする請求項1または2に記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
製造された上記セメントクリンカに含まれるP25量の変動量を測定し、当該変動量を補償する量の上記乾燥汚泥の量を計量して、上記セメントキルン内に投入することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセメントの製造方法。
【請求項5】
上記主バーナの燃料は固体燃料をミルにおいて粉砕して得られた微粉固体燃料であるとともに、上記ミルに、上記乾燥汚泥を供給して上記固体燃料と共に粉砕して上記主バーナから上記セメントキルン内に投入することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセメントの製造方法。
【請求項6】
上記主バーナの上方に設けた補助投入管から、上記乾燥汚泥を上記主バーナの火炎に向けて投入することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−53057(P2013−53057A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32365(P2012−32365)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】