セメント板、固定構造体及びセメント板を固定する方法
【課題】ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、固定部材に対して十分に高い強度で固定されるセメント板を提供する。
【解決手段】セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板であって、セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とするセメント板。
【解決手段】セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板であって、セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とするセメント板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント板、固定構造体及びセメント板を固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント板はセメントを主な材料とする建材であり、屋根材や壁材などに利用されている。セメント板はセメント以外にも種々の成分を含有しており、例えば特許文献1に記載の木質セメント板はセメント系無機材料、木質材料、架橋型熱可塑性樹脂及びエポキシ樹脂を含有する硬化物からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4008154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、セメント板は、通常、ねじによって構造物(固定部材)に固定される。すなわち、ねじでセメント板に貫通孔を設けると、セメント板に雌ねじを有するねじ孔が形成され、これとねじの雄ねじとが噛み合ってセメント板が固定される。しかし、ねじの締め付け時のトルクが過大となると、ねじ孔に形成された雌ねじが破壊され、ねじが空転するようになる。この状態になると固定部材からセメント板が外れやすくなる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、固定部材に対して十分に高い強度で固定されるセメント板及びその固定方法、並びに、当該セメント板を備えた固定構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討によると、セメント板を製造に使用するセメント含有組成物のパルプ含有量を増大させるとねじの空転が生じにくくなる。本発明者らは、ねじの空転が生じにくい組成の検討過程において、セメント含有組成物に所定量の非架橋型熱可塑性樹脂を配合すると、ねじの空転がかえって生じやすくなるものの、ねじが空転した後であっても固定部材にセメント板が高い強度で固定された状態を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るセメント板は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるものであって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とする。
【0008】
上記セメント板によれば、セメント含有組成物が非架橋型熱可塑性樹脂等を上記所定の割合で含有することで、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、固定部材にセメント板を固定することができる。これは、ねじの空転時に発生する熱によって非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化する際にねじの雄ねじに対応する雌ねじがセメント板のねじ孔に形成されるためである。なお、上記特許文献1のセメント板も熱可塑性樹脂を含むが、この熱可塑性樹脂は架橋型であって加熱後に架橋され、再度加熱しても溶融しない。そのため、一度破壊されたねじ孔の雌ねじを再度形成することはできない。
【0009】
本発明に係る固定構造体は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板と、セメント板に対し固定される固定部材と、セメント板にねじ孔を形成してセメント板を固定部材に固定するねじとを備えたものであって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、ねじ孔はねじの雄ねじと対応した雌ねじを有し、当該雌ねじは非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化して形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
上記固定構造体によれば、セメント板のねじ孔に非架橋型熱可塑性樹脂の一部が再固化して形成された雌ねじが形成されていることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。
【0011】
本発明に係るセメント板の固定方法は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板を、ねじで固定部材に対し固定する方法であって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、ねじを締結する際に発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、これを再固化させることにより、ねじ孔にねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成することを特徴とする。
【0012】
上記固定方法によれば、セメント板のねじ孔に非架橋型熱可塑性樹脂の一部が再固化して形成された雌ねじが形成されていることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。また、ねじの空転が生じてもセメント板の固定が可能であるため、従来のようにねじの締め付けトルクが過大とならないように調整しながらねじの締め付けを行う必要がなくなり、作業効率の向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、セメント板を固定部材に十分に高い強度で固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】セメント板へのねじによる牙孔及び締め付けの時間とトルク(電流値)の関係を示すグラフである。
【図2】本発明に係る固定構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】(a)試験体の土台への設置位置を示す図、(b)試験体におけるねじ打ち込み位置を示す図である。
【図4】(a)試験体にねじを打ち込む工具の配置を示す図、(b)試験体にねじを打ち込む際に発生するトルクを電流値として測定する回路を示す図である。
【図5】(a)実施例1におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例1のねじ孔の断面写真である。
【図6】(a)実施例2におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例2のねじ孔の断面写真である。
【図7】(a)実施例3におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例3のねじ孔の断面写真である。
【図8】(a)比較例1におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例1のねじ孔の断面写真である。
【図9】(a)比較例2におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例2のねじ孔の断面写真である。
【図10】(a)比較例3におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例3のねじ孔の断面写真である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3の各ねじ孔の断面を比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(セメント板)
本実施形態のセメント板は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させたものである。ここで、セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対して、セメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有している。
【0017】
セメントは、クリンカーと石膏からなるポルトランドセメントが好ましく、例えば、普通ポルトランドセメントを用いることができる。普通ポルトランドセメントは高炉スラグ等を一定量含んでいてもよい。
【0018】
上記セメント含有組成物におけるセメントの含有量は、20〜40質量部であり、好ましくは25〜35質量部であり、より好ましくは29〜33質量部である。セメントの含有量が20質量部未満であると、セメント板の強度が不十分となり、他方、40質量部を超えるとセメント板の強度が過度に高くなる。
【0019】
パルプは、針葉樹等を原料とする木材パルプや、サトウキビ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする古紙パルプなどを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0020】
上記セメント含有組成物におけるパルプの含有量は、5〜10質量部であり、好ましくは5〜8質量部であり、より好ましくは6〜7質量部である。パルプの含有量が5質量部未満であると抄造が困難となり、他方、10質量部を超えると原料コストが増大し、セメント板の総発熱量も過大となる。
【0021】
無機材料からなる増量材は、フライアッシュや、パーライト、アタパルジャイト、ウォラストナイト、マイカ、炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムなどを用いることができる。また、市販のセメント板を破砕した再生粉も増量材として使用することもできる。
【0022】
上記セメント含有組成物における無機材料からなる増量材の含有量は、40〜70質量部であり、好ましくは40〜60質量部であり、より好ましくは45〜58質量部である。増量材の含有量が40質量部未満であると、セメント、パルプ、非架橋型熱可塑性樹脂のうち少なくともいずれか1種を増量する必要があるが、セメントを過度に増量する場合は高コスト及び過度の硬化が問題となり、パルプを過度に増量する場合はコスト増及び総発熱量の増加が問題となる。また、非架橋型熱可塑性樹脂を過度に増量する場合は総発熱量の増加及び強度低下が問題となる。他方、増量材の含有量が70質量部を超えるとセメント板の重量の増大が問題となる。
【0023】
非架橋型熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは50〜250℃であり、より好ましくは80〜220℃であり、さらに好ましくは100〜150℃である。ねじの空転による摩擦熱により、ねじ孔付近は150〜250℃程度に温度上昇することから、この温度以下の融点を有する非架橋型熱可塑性樹脂であればよい。このような樹脂としては、ポリエチレン等の汎用樹脂を用いることができ、例えば、汎用樹脂からなる廃プラスチック(廃プラ)も用いることができる。廃プラスチックを用いる場合は、セメント含有組成物中に均一に分散しやすいペレット形状であることが好ましい。また、非架橋型熱可塑性樹脂には、セメント板の強度維持のために従来より配合されるアクリル系樹脂繊維も含まれる。
【0024】
非架橋型熱可塑性樹脂の融点は、例えばJIS K 7121に規定されている樹脂の融解温度に係る測定方法を用いることによって測定することができる。
【0025】
なお、非架橋型熱可塑性樹脂の代わりに、エポキシ基やアミド基などの架橋可能な官能基を有する架橋型熱可塑性樹脂を使用した場合、当該樹脂はセメント板製造時に架橋されるため、ねじとの摩擦熱によって溶融せず、ねじの空転後にねじ孔に雌ねじを形成することはできない。
【0026】
上記セメント含有組成物における非架橋型熱可塑性樹脂の含有量は、5〜20質量部であり、好ましくは6〜17質量部であり、より好ましくは9〜16質量部である。非架橋型熱可塑性樹脂の含有量が5質量部未満であると、セメント板のねじ孔における雌ねじの形成が不十分となり、他方、20質量部を超えるとセメント板の難燃性が不十分となる。
【0027】
本実施形態に係るセメント板にあっては、ねじの締め付けトルクが過大となって、ねじが空転した場合、ねじの空転時に発生する熱によって非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融する。上記セメント板によれば、溶融した非架橋型熱可塑性樹脂が再固化してねじ孔に雌ねじが形成されることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。
【0028】
(セメント板の製造方法)
上記セメント板は、例えば、以下のような抄造工程を経て製造される。まず、セメント、パルプ、増量材、非架橋型熱可塑性樹脂、必要に応じてその他の成分を所定の割合で配合してセメント含有組成物を調製する。得られた組成物を4つのワイヤーシリンダーで抄き取り、ワイヤーシリンダーと接触するフェルトに生板を移す。移された板はメイキングロールで巻き取られ、複数の層を有する生板が成形される。成形された生板は圧締され、養生した後乾燥させ、セメント板が製造される。
【0029】
(セメント板の固定方法)
当該固定方法は、上記セメント板をねじで固定部材に固定する方法である。具体的には、ねじを締結する際に発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、再固化させることにより、セメント板のねじ孔にねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成する。
【0030】
上記方法において、セメント板にねじによってねじ孔を形成する工程では、固定部材に対してセメント板の位置決めを行い、ねじを回す工具(例えばインパクトドライバーなど)を用いて、ねじをセメント板に押し付けて回転させ、セメント板と固定部材を一体的に牙孔して締結する。その際、ねじの締め付けによって発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂が溶融する。
【0031】
溶融した非架橋型熱可塑性樹脂は、ねじの回転を終了してねじ孔内部付近の温度が低下することによって再固化する。この際に、ねじ孔にねじを挿入したままの状態とすることで、ねじの雄ねじと対応する雌ねじがねじ孔に形成される。この状態でもセメント板は固定部材に十分に固定できるが、より強く締結するため、ねじ孔に挿入されているねじをさらに工具を用いて締め付けてもよい。
【0032】
図1は、従来からある一般的なセメント板におけるねじの牙孔及び締め付けの時間とトルク(電流値)の関係を示すトルク曲線のグラフである。このセメント板は、アクリル系樹脂(非架橋型熱可塑性樹脂)の含有率は1質量%以下である。図1に示すとおり、ねじによりセメント板を牙孔するにしたがい、トルクは上昇する(図1(a)の状態)。その後、セメント板がねじにより貫通し、ねじ孔が形成されるとトルクは下降する(図1(b)の状態)。貫通後、ねじで締め付けを行うと再びトルクが上昇するが、トルクが過大になるとセメント板に形成されたねじ孔における雌ねじが破壊され、ねじは空転する(図1(c)の状態)。従来はできるだけ空転しないように、トルクが高い時間を長くすることが重要であった。
【0033】
一方、本実施形態に係る固定方法にあっては、従来のセメント板と比較すると短時間のうちにねじが空転するものの、セメント板に含まれる非架橋型熱可塑性樹脂が溶融した後、これが再固化することでねじ孔に雌ねじが形成される。これにより、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。また、当該固定方法によれば、従来のようにねじの締め付け時にトルクが過大とならないように調整する必要がないことから、従来と比較して作業効率の向上が図られる。
【0034】
(固定構造体)
図2に示す通り、本実施形態の固定構造体10は、上記セメント板1と、セメント板1が固定される固定部材5と、セメント板1を固定部材5に固定するねじ3とによって構成される。ねじ3によりセメント板1にはねじ孔1aが形成され、ねじ孔1aには雌ねじ1bが形成されている。この雌ねじ1bはセメント板1に含まれる非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、再固化して設けられたものであり、ねじ3の雄ねじ3aと対応している。ねじ孔1aに設けられた雌ねじ1bにより、ねじ3によってセメント板1が固定部材5に十分に高い強度で固定される。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
まず、セメント、パルプ、無機材料からなる増量材、非架橋型熱可塑性樹脂を表1のとおりの質量割合で配合してセメント含有組成物を調製し、各組成物から実施例1〜3及び比較例1〜3のセメント板を製造した。
【0037】
【表1】
【0038】
次に図3(a)のとおり、実施例1〜3及び比較例1〜3の各セメント板を試験体として、厚さ30mmの2つの土台の上部に設置し、試験体の両端をマグネットで固定した。
【0039】
試験体は、図3(b)のとおり、平面が縦50.0mm×横150.0mmのサイズとし、厚みは約15〜18mmとした。ねじは野地板ビス35(クボタ松下電工外装製、KLWB30;Φ4.2mm×35mm)を使用し、試験体の縦中央、横は37.5mm間隔で1つの試験体につき、3本のねじを打ち込むこととした。
【0040】
固定した試験体にねじを打ち込む際の加重約100Nが加わる治具と市販インパクトドライバー(株式会社マキタ製、製品名:TP130DRFX)を図4(a)のとおり設置し、タイマー制御で5秒間打ち込み(牙孔及び締め付け)、電源オフすることとした。
【0041】
ねじ打ち込み時のトルク発生を示す電流の経時変化を図4(b)に示す回路で測定した。その後、試験体の一部を切り出し、これをエポキシ樹脂に埋め込み、ねじ孔の断面を観察した。
【0042】
(実施例1)
廃プラスチックを6.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図5(a)に、ねじ孔の断面写真を図5(b)に示す。図中の「n=9」は試験回数を9回としたことを意味する。図5(a)のとおり、実施例1のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また図5(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが形成されていた。
【0043】
(実施例2)
廃プラスチックを10.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図6(a)に、ねじ孔の断面写真を図6(b)に示す。図6(a)のとおり、実施例2のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また、9つのトルク曲線のバラつきも少なかった。さらに図6(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが明瞭に形成されていた。
【0044】
(実施例3)
廃プラスチックを15.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図7(a)に、ねじ孔の断面写真を図7(b)に示す。図7(a)のとおり、実施例3のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また図7(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが明瞭に形成されていた。
【0045】
(比較例1)
廃プラスチックを配合していないセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図8(a)に、ねじ孔の断面写真を図8(b)に示す。図8(a)のとおり、比較例1のセメント板はトルク(電流値)の上昇が実施例1〜3と比べて遅く、トルク(電流値)の低下が完了したのは2〜3秒の間であった。また図8(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが形成されていることを確認できなかった。
【0046】
(比較例2)
廃プラスチックを1%だけ配合したセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図9(a)に、ねじ孔の断面写真を図9(b)に示す。図9(a)のとおり、比較例2のセメント板はトルク(電流値)の上昇及び低下の完了は実施例1〜3と比べて遅かった。また、図9(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが十分に形成されていなかった。
【0047】
(比較例3)
廃プラスチックを3%だけ配合したセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図10(a)に、ねじ孔の断面写真を図10(b)に示す。図10(a)のとおり、比較例3のセメント板はトルク(電流値)の上昇及び低下の完了は実施例1〜3とほぼ同じであった。しかし、図10(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが十分に形成されていなかった。
【0048】
実施例1〜3及び比較例1〜3の各ねじ孔の断面を並べたものを図11に示す。図11のとおり、実施例1〜3のねじ孔に形成された雌ねじは、比較例1〜3のものよりも明瞭であった。また、ねじが打ち込まれた状態の実施例1〜3及び比較例1〜3のセメント板について、ねじの打ち込み状態を検証するために手でねじの締結状態を確認したところ、実施例1〜3のセメント板においては、ねじ孔の雌ねじとねじの雄ねじとが噛み合っていた。これに対し、比較例1〜3のセメント板においては、ねじ孔の雌ねじの形成が不十分であるため、ねじを回転させなくてもねじがねじ孔から抜けてしまった。
【符号の説明】
【0049】
1…セメント板、1a…ねじ孔、1b…雌ねじ、3…ねじ、3a…雄ねじ、5…固定部材、10…固定構造体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント板、固定構造体及びセメント板を固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント板はセメントを主な材料とする建材であり、屋根材や壁材などに利用されている。セメント板はセメント以外にも種々の成分を含有しており、例えば特許文献1に記載の木質セメント板はセメント系無機材料、木質材料、架橋型熱可塑性樹脂及びエポキシ樹脂を含有する硬化物からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4008154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、セメント板は、通常、ねじによって構造物(固定部材)に固定される。すなわち、ねじでセメント板に貫通孔を設けると、セメント板に雌ねじを有するねじ孔が形成され、これとねじの雄ねじとが噛み合ってセメント板が固定される。しかし、ねじの締め付け時のトルクが過大となると、ねじ孔に形成された雌ねじが破壊され、ねじが空転するようになる。この状態になると固定部材からセメント板が外れやすくなる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、固定部材に対して十分に高い強度で固定されるセメント板及びその固定方法、並びに、当該セメント板を備えた固定構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討によると、セメント板を製造に使用するセメント含有組成物のパルプ含有量を増大させるとねじの空転が生じにくくなる。本発明者らは、ねじの空転が生じにくい組成の検討過程において、セメント含有組成物に所定量の非架橋型熱可塑性樹脂を配合すると、ねじの空転がかえって生じやすくなるものの、ねじが空転した後であっても固定部材にセメント板が高い強度で固定された状態を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係るセメント板は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるものであって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とする。
【0008】
上記セメント板によれば、セメント含有組成物が非架橋型熱可塑性樹脂等を上記所定の割合で含有することで、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、固定部材にセメント板を固定することができる。これは、ねじの空転時に発生する熱によって非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化する際にねじの雄ねじに対応する雌ねじがセメント板のねじ孔に形成されるためである。なお、上記特許文献1のセメント板も熱可塑性樹脂を含むが、この熱可塑性樹脂は架橋型であって加熱後に架橋され、再度加熱しても溶融しない。そのため、一度破壊されたねじ孔の雌ねじを再度形成することはできない。
【0009】
本発明に係る固定構造体は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板と、セメント板に対し固定される固定部材と、セメント板にねじ孔を形成してセメント板を固定部材に固定するねじとを備えたものであって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、ねじ孔はねじの雄ねじと対応した雌ねじを有し、当該雌ねじは非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化して形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
上記固定構造体によれば、セメント板のねじ孔に非架橋型熱可塑性樹脂の一部が再固化して形成された雌ねじが形成されていることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。
【0011】
本発明に係るセメント板の固定方法は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板を、ねじで固定部材に対し固定する方法であって、上記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、ねじを締結する際に発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、これを再固化させることにより、ねじ孔にねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成することを特徴とする。
【0012】
上記固定方法によれば、セメント板のねじ孔に非架橋型熱可塑性樹脂の一部が再固化して形成された雌ねじが形成されていることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。また、ねじの空転が生じてもセメント板の固定が可能であるため、従来のようにねじの締め付けトルクが過大とならないように調整しながらねじの締め付けを行う必要がなくなり、作業効率の向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ねじの締め付けトルクが過大となってねじが空転しても、セメント板を固定部材に十分に高い強度で固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】セメント板へのねじによる牙孔及び締め付けの時間とトルク(電流値)の関係を示すグラフである。
【図2】本発明に係る固定構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】(a)試験体の土台への設置位置を示す図、(b)試験体におけるねじ打ち込み位置を示す図である。
【図4】(a)試験体にねじを打ち込む工具の配置を示す図、(b)試験体にねじを打ち込む際に発生するトルクを電流値として測定する回路を示す図である。
【図5】(a)実施例1におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例1のねじ孔の断面写真である。
【図6】(a)実施例2におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例2のねじ孔の断面写真である。
【図7】(a)実施例3におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)実施例3のねじ孔の断面写真である。
【図8】(a)比較例1におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例1のねじ孔の断面写真である。
【図9】(a)比較例2におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例2のねじ孔の断面写真である。
【図10】(a)比較例3におけるトルク(電流値)の経時変化を示すグラフ、(b)比較例3のねじ孔の断面写真である。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3の各ねじ孔の断面を比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(セメント板)
本実施形態のセメント板は、セメント含有組成物を板状に成形して硬化させたものである。ここで、セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対して、セメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有している。
【0017】
セメントは、クリンカーと石膏からなるポルトランドセメントが好ましく、例えば、普通ポルトランドセメントを用いることができる。普通ポルトランドセメントは高炉スラグ等を一定量含んでいてもよい。
【0018】
上記セメント含有組成物におけるセメントの含有量は、20〜40質量部であり、好ましくは25〜35質量部であり、より好ましくは29〜33質量部である。セメントの含有量が20質量部未満であると、セメント板の強度が不十分となり、他方、40質量部を超えるとセメント板の強度が過度に高くなる。
【0019】
パルプは、針葉樹等を原料とする木材パルプや、サトウキビ等を原料とする非木材パルプ、古紙を原料とする古紙パルプなどを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0020】
上記セメント含有組成物におけるパルプの含有量は、5〜10質量部であり、好ましくは5〜8質量部であり、より好ましくは6〜7質量部である。パルプの含有量が5質量部未満であると抄造が困難となり、他方、10質量部を超えると原料コストが増大し、セメント板の総発熱量も過大となる。
【0021】
無機材料からなる増量材は、フライアッシュや、パーライト、アタパルジャイト、ウォラストナイト、マイカ、炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムなどを用いることができる。また、市販のセメント板を破砕した再生粉も増量材として使用することもできる。
【0022】
上記セメント含有組成物における無機材料からなる増量材の含有量は、40〜70質量部であり、好ましくは40〜60質量部であり、より好ましくは45〜58質量部である。増量材の含有量が40質量部未満であると、セメント、パルプ、非架橋型熱可塑性樹脂のうち少なくともいずれか1種を増量する必要があるが、セメントを過度に増量する場合は高コスト及び過度の硬化が問題となり、パルプを過度に増量する場合はコスト増及び総発熱量の増加が問題となる。また、非架橋型熱可塑性樹脂を過度に増量する場合は総発熱量の増加及び強度低下が問題となる。他方、増量材の含有量が70質量部を超えるとセメント板の重量の増大が問題となる。
【0023】
非架橋型熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは50〜250℃であり、より好ましくは80〜220℃であり、さらに好ましくは100〜150℃である。ねじの空転による摩擦熱により、ねじ孔付近は150〜250℃程度に温度上昇することから、この温度以下の融点を有する非架橋型熱可塑性樹脂であればよい。このような樹脂としては、ポリエチレン等の汎用樹脂を用いることができ、例えば、汎用樹脂からなる廃プラスチック(廃プラ)も用いることができる。廃プラスチックを用いる場合は、セメント含有組成物中に均一に分散しやすいペレット形状であることが好ましい。また、非架橋型熱可塑性樹脂には、セメント板の強度維持のために従来より配合されるアクリル系樹脂繊維も含まれる。
【0024】
非架橋型熱可塑性樹脂の融点は、例えばJIS K 7121に規定されている樹脂の融解温度に係る測定方法を用いることによって測定することができる。
【0025】
なお、非架橋型熱可塑性樹脂の代わりに、エポキシ基やアミド基などの架橋可能な官能基を有する架橋型熱可塑性樹脂を使用した場合、当該樹脂はセメント板製造時に架橋されるため、ねじとの摩擦熱によって溶融せず、ねじの空転後にねじ孔に雌ねじを形成することはできない。
【0026】
上記セメント含有組成物における非架橋型熱可塑性樹脂の含有量は、5〜20質量部であり、好ましくは6〜17質量部であり、より好ましくは9〜16質量部である。非架橋型熱可塑性樹脂の含有量が5質量部未満であると、セメント板のねじ孔における雌ねじの形成が不十分となり、他方、20質量部を超えるとセメント板の難燃性が不十分となる。
【0027】
本実施形態に係るセメント板にあっては、ねじの締め付けトルクが過大となって、ねじが空転した場合、ねじの空転時に発生する熱によって非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融する。上記セメント板によれば、溶融した非架橋型熱可塑性樹脂が再固化してねじ孔に雌ねじが形成されることで、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。
【0028】
(セメント板の製造方法)
上記セメント板は、例えば、以下のような抄造工程を経て製造される。まず、セメント、パルプ、増量材、非架橋型熱可塑性樹脂、必要に応じてその他の成分を所定の割合で配合してセメント含有組成物を調製する。得られた組成物を4つのワイヤーシリンダーで抄き取り、ワイヤーシリンダーと接触するフェルトに生板を移す。移された板はメイキングロールで巻き取られ、複数の層を有する生板が成形される。成形された生板は圧締され、養生した後乾燥させ、セメント板が製造される。
【0029】
(セメント板の固定方法)
当該固定方法は、上記セメント板をねじで固定部材に固定する方法である。具体的には、ねじを締結する際に発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、再固化させることにより、セメント板のねじ孔にねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成する。
【0030】
上記方法において、セメント板にねじによってねじ孔を形成する工程では、固定部材に対してセメント板の位置決めを行い、ねじを回す工具(例えばインパクトドライバーなど)を用いて、ねじをセメント板に押し付けて回転させ、セメント板と固定部材を一体的に牙孔して締結する。その際、ねじの締め付けによって発生する摩擦熱により非架橋型熱可塑性樹脂が溶融する。
【0031】
溶融した非架橋型熱可塑性樹脂は、ねじの回転を終了してねじ孔内部付近の温度が低下することによって再固化する。この際に、ねじ孔にねじを挿入したままの状態とすることで、ねじの雄ねじと対応する雌ねじがねじ孔に形成される。この状態でもセメント板は固定部材に十分に固定できるが、より強く締結するため、ねじ孔に挿入されているねじをさらに工具を用いて締め付けてもよい。
【0032】
図1は、従来からある一般的なセメント板におけるねじの牙孔及び締め付けの時間とトルク(電流値)の関係を示すトルク曲線のグラフである。このセメント板は、アクリル系樹脂(非架橋型熱可塑性樹脂)の含有率は1質量%以下である。図1に示すとおり、ねじによりセメント板を牙孔するにしたがい、トルクは上昇する(図1(a)の状態)。その後、セメント板がねじにより貫通し、ねじ孔が形成されるとトルクは下降する(図1(b)の状態)。貫通後、ねじで締め付けを行うと再びトルクが上昇するが、トルクが過大になるとセメント板に形成されたねじ孔における雌ねじが破壊され、ねじは空転する(図1(c)の状態)。従来はできるだけ空転しないように、トルクが高い時間を長くすることが重要であった。
【0033】
一方、本実施形態に係る固定方法にあっては、従来のセメント板と比較すると短時間のうちにねじが空転するものの、セメント板に含まれる非架橋型熱可塑性樹脂が溶融した後、これが再固化することでねじ孔に雌ねじが形成される。これにより、セメント板と固定部材とを十分に高い強度で固定できる。また、当該固定方法によれば、従来のようにねじの締め付け時にトルクが過大とならないように調整する必要がないことから、従来と比較して作業効率の向上が図られる。
【0034】
(固定構造体)
図2に示す通り、本実施形態の固定構造体10は、上記セメント板1と、セメント板1が固定される固定部材5と、セメント板1を固定部材5に固定するねじ3とによって構成される。ねじ3によりセメント板1にはねじ孔1aが形成され、ねじ孔1aには雌ねじ1bが形成されている。この雌ねじ1bはセメント板1に含まれる非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、再固化して設けられたものであり、ねじ3の雄ねじ3aと対応している。ねじ孔1aに設けられた雌ねじ1bにより、ねじ3によってセメント板1が固定部材5に十分に高い強度で固定される。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
まず、セメント、パルプ、無機材料からなる増量材、非架橋型熱可塑性樹脂を表1のとおりの質量割合で配合してセメント含有組成物を調製し、各組成物から実施例1〜3及び比較例1〜3のセメント板を製造した。
【0037】
【表1】
【0038】
次に図3(a)のとおり、実施例1〜3及び比較例1〜3の各セメント板を試験体として、厚さ30mmの2つの土台の上部に設置し、試験体の両端をマグネットで固定した。
【0039】
試験体は、図3(b)のとおり、平面が縦50.0mm×横150.0mmのサイズとし、厚みは約15〜18mmとした。ねじは野地板ビス35(クボタ松下電工外装製、KLWB30;Φ4.2mm×35mm)を使用し、試験体の縦中央、横は37.5mm間隔で1つの試験体につき、3本のねじを打ち込むこととした。
【0040】
固定した試験体にねじを打ち込む際の加重約100Nが加わる治具と市販インパクトドライバー(株式会社マキタ製、製品名:TP130DRFX)を図4(a)のとおり設置し、タイマー制御で5秒間打ち込み(牙孔及び締め付け)、電源オフすることとした。
【0041】
ねじ打ち込み時のトルク発生を示す電流の経時変化を図4(b)に示す回路で測定した。その後、試験体の一部を切り出し、これをエポキシ樹脂に埋め込み、ねじ孔の断面を観察した。
【0042】
(実施例1)
廃プラスチックを6.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図5(a)に、ねじ孔の断面写真を図5(b)に示す。図中の「n=9」は試験回数を9回としたことを意味する。図5(a)のとおり、実施例1のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また図5(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが形成されていた。
【0043】
(実施例2)
廃プラスチックを10.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図6(a)に、ねじ孔の断面写真を図6(b)に示す。図6(a)のとおり、実施例2のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また、9つのトルク曲線のバラつきも少なかった。さらに図6(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが明瞭に形成されていた。
【0044】
(実施例3)
廃プラスチックを15.0質量部配合した場合のセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図7(a)に、ねじ孔の断面写真を図7(b)に示す。図7(a)のとおり、実施例3のセメント板はトルク(電流値)の上昇が速く、1秒以内にはトルク(電流値)が低下し、その後はほぼ一定の値を示した。すなわち、ねじの打ち込み開始後1秒以内にねじが空転した。また図7(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが明瞭に形成されていた。
【0045】
(比較例1)
廃プラスチックを配合していないセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図8(a)に、ねじ孔の断面写真を図8(b)に示す。図8(a)のとおり、比較例1のセメント板はトルク(電流値)の上昇が実施例1〜3と比べて遅く、トルク(電流値)の低下が完了したのは2〜3秒の間であった。また図8(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが形成されていることを確認できなかった。
【0046】
(比較例2)
廃プラスチックを1%だけ配合したセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図9(a)に、ねじ孔の断面写真を図9(b)に示す。図9(a)のとおり、比較例2のセメント板はトルク(電流値)の上昇及び低下の完了は実施例1〜3と比べて遅かった。また、図9(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが十分に形成されていなかった。
【0047】
(比較例3)
廃プラスチックを3%だけ配合したセメント板に9回ねじを打ち込んだ時のトルク(電流値)の変化を図10(a)に、ねじ孔の断面写真を図10(b)に示す。図10(a)のとおり、比較例3のセメント板はトルク(電流値)の上昇及び低下の完了は実施例1〜3とほぼ同じであった。しかし、図10(b)のとおり、ねじ孔にはねじの雄ねじに対応する雌ねじが十分に形成されていなかった。
【0048】
実施例1〜3及び比較例1〜3の各ねじ孔の断面を並べたものを図11に示す。図11のとおり、実施例1〜3のねじ孔に形成された雌ねじは、比較例1〜3のものよりも明瞭であった。また、ねじが打ち込まれた状態の実施例1〜3及び比較例1〜3のセメント板について、ねじの打ち込み状態を検証するために手でねじの締結状態を確認したところ、実施例1〜3のセメント板においては、ねじ孔の雌ねじとねじの雄ねじとが噛み合っていた。これに対し、比較例1〜3のセメント板においては、ねじ孔の雌ねじの形成が不十分であるため、ねじを回転させなくてもねじがねじ孔から抜けてしまった。
【符号の説明】
【0049】
1…セメント板、1a…ねじ孔、1b…雌ねじ、3…ねじ、3a…雄ねじ、5…固定部材、10…固定構造体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とするセメント板。
【請求項2】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板と、前記セメント板に対し固定される固定部材と、前記セメント板にねじ孔を形成して前記セメント板を前記固定部材に固定するねじとを備えた固定構造体であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、
前記ねじ孔は前記ねじの雄ねじと対応した雌ねじを有し、当該雌ねじは前記非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化して形成されたものである固定構造体。
【請求項3】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板を、ねじで固定部材に対し固定する方法であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、
前記ねじを締結する際に発生する摩擦熱により前記非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、これを再固化させることにより、ねじ孔に前記ねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成することを特徴とする方法。
【請求項1】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有することを特徴とするセメント板。
【請求項2】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板と、前記セメント板に対し固定される固定部材と、前記セメント板にねじ孔を形成して前記セメント板を前記固定部材に固定するねじとを備えた固定構造体であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、
前記ねじ孔は前記ねじの雄ねじと対応した雌ねじを有し、当該雌ねじは前記非架橋型熱可塑性樹脂の一部が溶融した後、これが再固化して形成されたものである固定構造体。
【請求項3】
セメント含有組成物を板状に成形して硬化させてなるセメント板を、ねじで固定部材に対し固定する方法であって、
前記セメント含有組成物は、当該組成物の固形分100質量部に対してセメント20〜40質量部、パルプ5〜10質量部、無機材料からなる増量材40〜70質量部、非架橋型熱可塑性樹脂5〜20質量部を含有するものであり、
前記ねじを締結する際に発生する摩擦熱により前記非架橋型熱可塑性樹脂の一部を溶融させた後、これを再固化させることにより、ねじ孔に前記ねじの雄ねじに対応した雌ねじを形成することを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−201726(P2011−201726A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70236(P2010−70236)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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