説明

セメント混和材及びセメント組成物

【課題】凝結遅延を引き起こすことのなく効率的にセメントの水和発熱を抑制してコンクリートのひび割れを抑制するセメント混和材を提供する。
【解決手段】カルシウムアルミネートと凝結遅延剤を含有してなるセメント混和材において、カルシウムアルミネートのCaO/Alモル比が0.3〜0.9であり、カルシウムアルミネートのブレーン比表面積が1500〜8000cm/gであり、凝結遅延剤がデキストリン、有機酸、硫酸塩のうちの1種又は2種以上であることを特徴とするセメント混和材であることを特徴とする。また、セメントと該セメント混和材を含有するセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは安価に大きな構造物を構築できる優れた材料であるが、様々な要因によってひび割れるという課題があった。本発明でいうコンクリートとは、いわゆるコンクリート、及びセメントペースト、モルタルを含むものとする。ひび割れの原因の一つとして、水和発熱によるひび割れが挙げられる。セメントを水和させると水和熱が発生し、大量打設を行うとその熱がコンクリート内部に蓄積され、温度ひび割れが発生する。このため、最大寸法が80cm以上で、コンクリートと外気温の差が大きくなることが想定されるマスコンクリートの打設では、水和発熱量を抑制するための方法を選定する必要がある。水和発熱量の少ないビーライトの含有量を高めた低熱ポルトランドセメントを使用する方法は、硬化時の水和発熱量を低減できるばかりでなく、施工時の流動性の確保が容易であること等優れた性質を有している。しかしながら、生コン工場で保有しているセメントサイロは、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、及び早強ポルトランドセメントに使用される頻度が高く、低熱ポルトランドセメント用のサイロを確保することが難しいケースが多い。このため、サイロの増設といった新たな設備投資の必要がない混和材タイプの水和熱抑制材が強く求められており、種々の材料が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
セメントの水和熱抑制剤としては、セメントの水和を抑制する有機酸が知られている(特許文献1、2)。有機酸を用いた場合には水和熱を抑制する効果は得られるが、初期強度発現性が低下したり、セメントの凝結が極度に遅延する場合があった。このような課題を解消するために、有機酸と、アルカリ金属炭酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、及び水酸化物といった急結性アルカリ金属無機塩とを主成分とする混和材が提案された(特許文献3)。
【0004】
デキストリンがセメントの水和熱抑制剤として知られている(特許文献4、5)。また、水和熱を抑制する方法として、セメントに対して非晶質カルシウムアルミネートと石膏を添加してなる低発熱低乾燥収縮性セメント組成物や、粒度を調整した特殊セメント等が提案されている(特許文献6、7)。
【0005】
また、カルシウムアルミネートの1種であるアルミナセメントと凝結遅延剤からなるアルミナセメント組成物が知られている(特許文献8、9)。これは従来のアルミナセメントに比べて体積安定性に優れ、流動性、強度発現性、耐食性、耐磨耗性が優れる特徴があるが、セメント混和材としては検討されていない。
【0006】
【非特許文献1】JASS5 コンクリート標準示方書
【特許文献1】特開昭50−80315号公報
【特許文献2】米国特許第3427175号公報
【特許文献3】特公平07−12963号公報
【特許文献4】特公昭57−261号公報
【特許文献5】特開平01−242447号公報
【特許文献6】特開昭57−160947号公報
【特許文献7】特開昭64−9836号公報
【特許文献8】特開2000−16843号公報
【特許文献9】特許番号3278524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、凝結遅延を引き起こすことが少なくセメントの水和発熱を抑制してコンクリートのひび割れを抑制するセメント混和材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルシウムアルミネートと凝結遅延剤を含有してなるセメント混和材及びそれを用いたセメント組成物とその製造方法である。
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示すものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント混和材を使用することによって、凝結遅延を引き起こすことが少なくセメントの水和発熱を抑制するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
カルシウムアルミネートとは、CaOとAlを主成分とする化合物を総称するものであり、その具体例としては、例えば、CaO・2Al、CaO・Al、12CaO・7Al、11CaO・7Al・CaF、及び3CaO・3Al・CaF等と表される結晶性のカルシウムアルミネートや、CaOとAl成分を主成分とする非晶質の化合物が挙げられる。本発明では特に、CaO/Alモル比が0.3〜0.9であるカルシウムアルミネートを使用することが好ましい。
【0011】
カルシウムアルミネートを得る方法としては、CaO原料とAl原料等をロータリーキルンや電気炉等によって熱処理して得る方法が挙げられる。
カルシウムアルミネートを製造する際の熱処理温度は、1200〜2000℃が好ましく、1400〜1600℃の範囲がより好ましい。熱処理温度が低くなると所定の化合物が得られない場合があり、熱処理温度が高くなると不経済になる場合がある。
【0012】
カルシウムアルミネートを製造する際のCaO原料としては、例えば、石灰石や貝殻等の炭酸カルシウム、消石灰等の水酸化カルシウム、あるいは生石灰等の酸化カルシウムを挙げることができる。また、Al原料としては、例えば、ボーキサイトやアルミ残灰と呼ばれる産業副産物等が挙げられる。この際、主成分であるCaO、AlのほかにSiO、Fe、MgO、TiO、P、NaO、KO、フッ素、塩素、重金属類等の不純物を含む場合があるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。
【0013】
カルシウムアルミネートはCaO/Alモル比が0.3〜0.9であることが好ましく、0.4〜0.7であることがより好ましい。CaO/Alモル比が小さくなると凝結遅延が見られる場合があり、CaO/Alモル比が大きくなるとセメントに混和した場合の可使時間の確保が困難となったり、水和熱抑制効果が損なわれる場合がある。
【0014】
カルシウムアルミネートのガラス化率は特に限定されるものではなく、結晶質でも非晶質でも本発明には使用可能である。これらのうち、CaO/Alモル比が0.3〜0.9の範囲の1種を選択しても良いし、2種以上を選択しても良いし、2種以上を混合して所定の範囲内に調整したものを用いても良い。
【0015】
カルシウムアルミネートの粉末度は、ブレーン比表面積で1500〜8000cm/gが好ましく3000〜6000cm/gがより好ましい。ブレーン比表面積値が小さい粗粒では充分な水和熱抑制効果が得られない場合があり、ブレーン比表面積値が大きい微粉末では充分な可使時間を確保できない場合がある。
【0016】
凝結遅延剤とはポルトランドセメントの水和を遅延させる成分の総称であり、無機系ではフッ化物、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩等があり、有機系ではオキシカルボン酸塩やケトカルボン酸塩等の有機酸、糖類、アルコール類等が知られている。本発明では、硫酸塩、有機酸、糖類を使用することが好ましい。
【0017】
有機酸は特に限定されるものではなく、カルボン酸、オキシモノカルボン酸、オキシ多価カルボン酸、ポリカルボン酸、又はそれらの塩が挙げられる。具体的にカルボン酸としては、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、ヘプタン酸、ヘプトン酸、グルコン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アクリル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。また、これらの塩として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、並びに、亜鉛、銅、アルミニウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。本発明では、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。有機酸の使用量は特に限定されるものではないが、通常、カルシウムアルミネートと有機酸を含有するセメント混和材100部中、1〜20部が好ましく、5〜10部がより好ましい。有機酸の使用量が少なくなると可使時間の確保が不充分となる場合があり、有機酸を多く配合すると凝結遅延を生じ強度発現性が損なわれる恐れがある。
【0018】
デキストリンは、一般に化工澱粉とも呼ばれ、通常、澱粉を加水分解して得られる。中でも、酸を加えて分解して得られる酸焙焼デキストリンが最も一般的である。酸浸漬法で得られるもの、澱粉の酵素分解で得られるもの、無焙焼で得られるブリティッシュガム、あるいは澱粉に水を加えたものを加熱したり、アルカリや濃厚な塩類の溶液を加えてアルファー化したものを急速脱水乾燥して得られるアルファー化澱粉等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を阻害しない範囲で使用することが可能である。特に、デキストリンの20℃における冷水可溶分が5〜90%のものが好ましく、10〜65%がより好ましい。デキストリンの20℃における冷水可溶分が小さくなると充分な水和熱抑制効果が得られない場合があり、デキストリンの20℃における冷水可溶分が大きくなると凝結遅延を引き起こす恐れがある。デキストリンの使用量は特に限定されるものではないが、通常、カルシウムアルミネートとデキストリンを含有するセメント混和材100部中、1〜20部が好ましく、5〜10部がより好ましい。デキストリンの使用量が少なくなると充分な水和熱抑制効果が得られない場合があり、デキストリンを多く配合すると凝結遅延を引き起こす恐れがある。
【0019】
硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、カリみょうばん、硫酸カルシウム等が挙げられる。硫酸カルシウムとしては、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウのいずれも使用可能であるが、可使時間の確保や強度発現性の観点から無水セッコウ、特にII型無水セッコウの使用がより好ましい。硫酸塩の使用量は特に限定されるものではないが、通常、カルシウムアルミネートと硫酸塩を含有するセメント混和材100部中、50部以内が好ましく、10〜40部がより好ましい。硫酸塩の使用量が少なくなると可使時間の確保が不充分となる場合があり、硫酸塩を多く配合すると長期的に膨張してひび割れを生じ強度が低下する恐れがある。
【0020】
セメントは、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカ質物質を混合した各種混合セメント、高炉徐冷スラグや石灰石微粉末を混合したフィラーセメント、並びに都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等のポルトランドセメントが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0021】
本発明で使用するセメント混和材の使用量は特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、1〜20部が好ましく、3〜10部がより好ましい。セメント混和材の使用量が少なくなると充分な水和熱抑制効果が得られない場合があり、セメント混和材を多く使用すると強度発現性が低下する場合がある。
【0022】
本発明では、セメント混和材のほかに、砂や砂利等の骨材、減水剤、増粘剤、補強繊維、膨張材、防錆剤、防凍剤、粘土鉱物、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト等のイオン交換体、並びに高分子エマルジョン、粉末ポリマ−等の内の1種又は2種以上を本発明の目的を阻害しない範囲で併用することが可能である。
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
石灰質原料とアルミナ質原料を混合し、電気炉を用いて1600℃で溶融した溶融物を圧縮空気で吹き飛ばして冷却し、表1に示すCaO/Alモル比のクリンカ−を合成した。これらクリンカ−を粉砕して、ブレーン比表面積値で4000±200cm/gに調整してサンプル(以下、CAと略記する)を得た。これらCA100部に対し、凝結遅延剤としてデキストリンを10部配合してセメント混和材を調製した。単位セメント量315kg/m、単位水量170kg/m、s/a=48%(骨材中の細骨材率)としたコンクリートを基本配合とし、セメントとセメント混和材の合計100部中、セメント混和材を5部配合してコンクリートを練り混ぜて、硬化時間、圧縮強度、簡易断熱温度上昇量を測定した。結果を表1に示す。
【0024】
<使用材料>
カルシア源:生石灰、市販品
アルミナ源:ボーキサイト、市販品
セメント:高炉セメントB種、市販品
細骨材:姫川産天然砂
粗骨材:姫川産砕石
水:水道水
凝結遅延剤:王子コーンスターチ社デキストリン
【0025】
<測定方法>
硬化時間:コンクリート温度が練り上がり温度から5℃上昇した時点。
圧縮強度:JIS R 5201に準拠。
温度上昇量:コンクリートを直径15cm、高さ30cm、厚さ5cmの円筒発泡スチロール容器に詰めて密閉した後、コンクリート中心部の温度を測定した。最高温度と練り上がり温度の差を温度上昇量と定義した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すようにCaO/Alモル比が0.3〜0.9であるカルシウムアルミネートとデキストリンを併用することによって、混和材無添加よりもコンクリートの温度上昇量を抑制することができる。また、デキストリンだけを用いた場合はコンクリートの凝結が著しく遅延するのに対し、カルシウムアルミネートのCaO/Alモル比によって凝結時間がコントロールできることが分かる。なお、アルミナセメントのようにCaO/Alモル比が1に近いものは、凝結時間が短くなる現象が認められる。
【実施例2】
【0028】
使用するCAのCaO/Alモル比を0.5、ブレーン比表面積値で4000±200cm/gに固定し、使用する凝結遅延剤の種類と量を表2に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
凝結遅延剤の種類を変化させる場合、その種類に応じて添加率を調整する必要はあるものの、最適なCaO/Alモル比のカルシウムアルミネートと組み合わせることによってコンクリートの温度上昇量を抑制し、かつ適度な凝結時間を確保することが可能となる。
【実施例3】
【0031】
使用するCAのCaO/Alモル比を0.5、ブレーン比表面積値を4000±200cm/gとし、これら100部に対し凝結遅延剤としてデキストリンを10部配合したセメント混和材を調製した。セメントとセメント混和材の合計100部中のセメント混和材の配合量を表3に示すように変化させたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
混和材の置換率を高めるとコンクリートの圧縮強度が低下する傾向にあるが、温度上昇量の抑制効果はより顕著になる。
【実施例4】
【0034】
使用するCAのブレーン比表面積値を表4に示すように変化させたこと以外は実施例3と同様に行った。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
カルシウムアルミネートの粉末度を高めることによって、凝結時間が短くなる傾向にあるが、コンクリートの温度上昇抑制効果が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のセメント混和材を使用することによって、コンクリートの凝結遅延を引き起こすことのなく効率的にセメントの水和発熱を抑制して、コンクリートのひび割れを抑制することが可能となる。主に大型のコンクリート構造物を構築する際に有効な技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネートと凝結遅延剤を含有してなるセメント混和材。
【請求項2】
カルシウムアルミネートのCaO/Alモル比が0.3〜0.9であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
カルシウムアルミネートのブレーン比表面積が1500〜8000cm/gであることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項4】
凝結遅延剤が有機酸、デキストリン、硫酸塩のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項5】
セメントと請求項1に記載のセメント混和材を含有してなることを特徴とするセメント組成物。
【請求項6】
セメントと請求項1に記載のセメント混和材を含有してなることを特徴とするセメント組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−160537(P2006−160537A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350723(P2004−350723)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】