説明

セメント用凝結促進剤及びセメント組成物

【課題】 鉄筋腐食あるいはアルカリ骨材反応といった硬化体の耐久性に悪影響を及ぼす現象を起こすことがなく、しかも、凝結促進効果の優れた凝結促進剤及び該凝結促進剤を使用したセメント組成物を提供する。
【解決手段】 平均粒径0.7μm未満、好ましくは、0.05〜0.6μmに調整された炭酸カルシウムからなるセメント用凝結促進剤及び該凝結促進剤をセメント100質量部に対して0.1質量部以上10質量部未満含有するセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセメント用凝結促進剤及びセメント組成物に関するものである。さらに詳しくは、平均粒径0.7μm未満に調整された炭酸カルシウムからなるセメント用凝結促進剤及び該凝結促進剤を含有したセメント組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
モルタル、コンクリートをはじめとするセメント系水硬性組成物を使用した建設工事においては、施工性の確保、工期の短縮、養生設備の簡素化等の観点から、凝結硬化時間の制御が求められている。なかでも、寒冷地における施工性の確保、工期短縮、養生設備の簡素化等を目的とした凝結促進効果に対する要求が高まっており、優れた凝結促進効果を有する凝結促進剤の開発が期待されている。
【0003】
従来から提案されている代表的な凝結促進剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ化合物、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム等のカルシウム化合物、シアン系化合物が挙げられる。
【0004】
ところが、これらの化合物のうち塩化物やアルカリ化合物を使用すると、硬化体中の塩化物量あるいはアルカリ量が増加し、鉄筋腐食あるいはアルカリ骨材反応といった硬化体の耐久性に悪影響を及ぼす現象の発生する可能性が高まるため、現在では極めて限られた用途に適用されている。また、その他の化合物についても、一定の添加量を超えると凝結遅延作用を示す等の問題があり、実用例は非常に少ないのが現状である。
【0005】
また、従来、炭酸カルシウムをセメントに添加することにより、セメントの凝結が促進される傾向にあることは報告されている(非特許文献1)。しかし、かかる炭酸カルシウムは平均粒径が5μm程度の大きさのものであり、その効果は、凝結促進剤として使用するには低いものであった。そのため、上記炭酸カルシウムを使用して十分な凝結促進効果を得るには、セメント100質量部に対して20〜30質量部程度と多量に添加することが必要であり、凝結後の硬化体の強度発現性が低下するという問題があった。
【0006】
一方、粒径の小さい炭酸カルシウムをセメント組成物に使用した例としては、アルキレンオキサイド化合物と併用することにより、セメント組成物の自己収縮を低減する方法が報告されている(特許文献1)。しかし、かかる発明はセメント100質量部に対して炭酸カルシウムを10〜30質量部と多量に添加することにより自己収縮を低減するものであり、凝結促進剤としての使用については、意識もされていないし、その効果も確認されていない。即ち、実施例において示されている粒径は、最も小さいもので0.7μmであり、かかる粒径においては、後述する本発明の凝結促進剤としての効果は不十分である。
【0007】
【非特許文献1】セメント硬化体研究委員会報告書、67〜72頁、セメント協会発行、2001年
【特許文献1】特許第3500877号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、鉄筋腐食あるいはアルカリ骨材反応といった硬化体の耐久性に悪影響を及ぼす現象を起こすことがなく、しかも、凝結促進効果の優れた凝結促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねた結果、従来、凝結促進剤として適用されることのなかった炭酸カルシウムの粒径を特定の粒径より小さく調整することにより、顕著な凝結促進効果を発揮するとともに、硬化後の品質、特に強度発現性と耐久性に悪影響を及ぼさない凝結促進剤となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ってきた。その結果、炭酸カルシウムを平均粒径0.7μm未満に調整し、セメントに添加することにより、高い凝結促進効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、平均粒径0.7μm未満に調整された炭酸カルシウムからな
るセメント用凝結促進剤である。
【0012】
また、本発明は、平均粒径0.7μm未満の炭酸カルシウムをセメント100質量部に対して0.1質量部以上10質量部未満となる割合で含有することを特徴とするセメント組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセメント用凝結促進剤は、炭酸カルシウムを成分とするため、鉄筋腐食あるいはアルカリ骨材反応といった硬化体の耐久性に悪影響を及ぼす現象を起こすことがない。しかも、該炭酸カルシウムが0.7μm未満という微細な粒子径に調整されることによって優れた凝結促進効果を有する。また、その上、硬化後のセメント硬化体の強度発現性および耐久性に悪影響を与える成分を含まないため、用途において限定されず、セメントペースト、モルタル及びコンクリート等のセメント系水硬性組成物の凝結促進剤として汎用的に使用可能であり、その工業的価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明において、凝結促進剤を構成する炭酸カルシウムは、平均粒径が0.7μm未満に調整されることが重要である。かかる平均粒径は、より好適には0.6μm以下に調整されることが望ましい。即ち、炭酸カルシウムは、平均粒子径を0.7μm未満とすることによってその凝結促進効果が飛躍的に向上し、凝結促進剤として実用的な機能を発揮することができる。因みに、平均粒子径が0.7μm以上の炭酸カルシウムは、セメントの凝結時間を短くする傾向は示すものの、この傾向は、他の溶解性の塩を添加することによるセメント硬化への若干の影響と同程度であり、凝結促進剤としては不適である。
【0016】
また、前記炭酸カルシウムの粒子径は、その生産性を考慮すれば、0.05μm以上が好適である。
【0017】
本発明の凝結促進剤は、セメントに添加してセメント組成物を構成するが、そのセメント組成物中の含有量は、セメント100質量部に対して0.1以上10質量部未満、より好適には0.5〜7質量部に調整されることが望ましい。0.1質量部未満では、十分な凝結促進効果が得られない。また、10質量部以上になると、凝結後の強度発現性が低下する傾向にある。
【0018】
本発明において、平均粒径が0.7μm未満の炭酸カルシウムを得る方法は特に制限されない。例えば、石灰石等の炭酸カルシウムを主成分とする鉱物を、ボールミル、ローラーミル等に代表される公知の粉砕機により粉砕する方法、消石灰等のカルシウム塩と炭酸ガスとを反応させる方法等が挙げられる。また、粉砕による場合、その方式は、乾式粉砕、湿式粉砕のいずれでも構わない。
【0019】
本発明において、凝結促進剤の添加方法は特に制限されない。具体的には、セメントを水で混練してセメントペースト、モルタル及びコンクリートに代表されるセメント系水硬性組成物を調製する際に添加する方法、予めセメントに添加し、セメント系水硬性組成物を調整する方法、すでに調整されたセメント系水硬性組成物に後から添加する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明において、凝結促進剤をスラリーの形態で添加してもよい。スラリーの媒体は水が好ましい。スラリーの形態で添加する場合も、凝結促進剤の添加方法は特に制限されない。具体的には、セメントを水で混練してセメントペースト、モルタル及びコンクリートに代表されるセメント系水硬性組成物を調製する際にスラリーで添加する方法、すでに調整されたセメント系水硬性組成物に後からスラリーを添加する方法等が挙げられる。
【0021】
本発明において、セメントは、一般的に使用されるものであれば、特に制限なく使用できる。例えば、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定されているポルトランドセメント、JIS R 5211「高炉セメント」に規定されている高炉セメント、JIS R 5212「シリカセメント」に規定されているシリカセメント、JIS R 5213「フライアッシュセメント」に規定されているフライアッシュセメント等が使用できる。
【0022】
中でも、ポルトランドセメントがより好適に使用される。また、上記セメントは、ブレーン値が2000〜5000cm/gのものが好適に使用される。
【0023】
本発明の凝結促進剤は、本発明の効果を著しく阻害しない範囲で、セメント分散剤、空気量調製剤、防錆剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、膨張材、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、平均粒径0.7μm以上の石灰石微粉末、鉱物質微粉末等の公知の混和材料と同時に使用しても構わない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明の構成及び効果を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(1)平均粒径の評価方法
分散媒体としてエタノールを使用し、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて炭酸カルシウムの粒度分布を測定し、測定結果から平均粒径を算出した。
【0026】
(2)凝結時間の評価方法
凝結促進剤を添加したセメントペーストの凝結時間を、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定された方法により測定した。炭酸カルシウムはセメントの内割添加とした。
【0027】
実施例1〜2
平均粒径0.6及び0.2μmの炭酸カルシウムを、それぞれセメントの内割で3.0重量%となるように、セメント及びイオン交換水と練り混ぜてセメントペーストを得、その凝結時間を測定した。尚、セメントは市販の普通ポルトランドセメントを使用した。結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
炭酸カルシウムを添加せず、他の条件は実施例1と同様にセメントペーストの凝結時間を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
比較例2〜3
平均粒径8.5及び2.0μmの炭酸カルシウムを使用し、他の条件は実施例1と同様にしてセメントペーストを得、その凝結時間を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
比較例4
平均粒径0.4μmの二酸化ケイ素を使用し、他の条件は実施例1と同様にしてセメントペーストを得、その凝結時間を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

実施例3〜5
平均粒径0.5μmの炭酸カルシウムを、セメントの内割でそれぞれ1.0、5.0及び7.5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様の条件でセメントペーストを得、その凝結時間を測定した。結果を表2に示す。
【0032】
比較例5
平均粒径9.8μmの炭酸カルシウムを、セメントの内割で7.5質量%となるように添加した以外は実施例1と同様にしてセメントペーストを得、その凝結時間を測定した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

実施例6〜7
平均粒径0.5μmの炭酸カルシウムを使用し、炭酸カルシウムの添加量がセメントの内割で4.0及び7.0質量%となるよう、水、セメント、炭酸カルシウム、細骨材、粗骨材及びAE減水剤標準形を表3に示す割合で配合したコンクリート組成物の凝結時間及び圧縮強度を測定した。コンクリートの配合条件は、スランプ:18.0±2.5cm、空気量:4.5±1.5%とした。凝結時間はJIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」により、圧縮強度はJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」により測定した。試験温度は10℃とした。尚、セメントは市販の普通ポルトランドセメントを使用した。結果を表4に示す。
比較例6
炭酸カルシウムを添加せず、他の条件は実施例6と同様にコンクリートの凝結時間及び圧縮強度を測定した。配合を表3に、結果を表4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.7μm未満の炭酸カルシウムよりなるセメント用凝結促進剤。
【請求項2】
セメント100質量部に対して、平均粒径0.7μm未満の炭酸カルシウムを0.1質量部以上10質量部未満となる割合で含有することを特徴とするセメント組成物。
【請求項3】
セメント100質量部に対して、平均粒径0.7μm未満の炭酸カルシウムを0.1質量部以上10質量部未満となる割合で添加することを特徴とするセメント組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−111485(P2006−111485A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300307(P2004−300307)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】