説明

セメント系固化材の製造方法、土壌の固化処理方法、及び、固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法

【課題】高炉スラグ微粉末を原料に使用したセメント系固化材を土壌の固化処理に使用した場合であっても、固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能なセメント系固化材の製造方法を提供すること。
【解決手段】セメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合して第1のセメント系固化材を得る第1の工程と、第1の工程におけるRS×B/Crの値に基づいて、セメント・高炉スラグ微粉末の少なくとも一部を、他のセメント・高炉スラグ微粉末に変更して混合し、RS×B/Crの値が45×10以上である第2のセメント系固化材を得る第2の工程とを有するセメント系固化材の製造方法(RS=セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量(mg/kg);B=高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積(cm/g);Cr=セメント系固化材中の六価クロムの含有量(mg/kg))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化材の製造方法、土壌の固化処理方法、及び、固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、石灰石、粘土、硅石、酸化鉄等を主原料として製造される。セメントクリンカーの製造には、これらの主原料のほか、各種産業副産物や産業廃棄物が原燃料として有効利用されている。このため、原材料の選択によっては、セメントクリンカー中に、各種原燃料に由来するカドミウム、クロム、鉛、モリブデン等の重金属類が少量混入することがある。
【0003】
このように重金属類を含むセメントクリンカーを用いたセメントをモルタル硬化体やコンクリート硬化体の原料として使用する場合、これらの硬化体からの重金属の溶出量は極めて少なく、問題となる可能性は低い。しかしながら、重金属類を含むセメントクリンカーを用いたセメントをセメント系固化材の原料として使用する場合は、土の種類、配合条件、及びセメント系固化材の性状や種類によって、固化処理土からの六価クロム等の重金属類の溶出量が多くなってしまうことがある(例えば、非特許文献1)。
【0004】
重金属類の中でも、六価クロムは、他の重金属類とは異なり、クロム酸イオン(CrO2−)等の安定なオキソ陰イオンの状態で存在し、高pH条件下であっても難溶性の水酸化物を形成しないため、その溶出対策が比較的難しいといえる。六価クロムの溶出量は、特に関東ローム等の火山灰質粘性土を固化処理の対象とした場合に多くなることが知られている(例えば、特許文献1)。これは、火山灰質粘性土中にカルシウムイオンを多量に吸着する粘土鉱物(アロフェン等の非晶質粘土鉱物)が含まれており、これによってセメント本来の水和反応が阻害されるためである(非特許文献2)。
【0005】
これまで、固化処理土からの六価クロムの溶出対策としては、セメント系固化材に種々の還元性物質(第一鉄塩、高炉スラグ、硫黄化合物等)を添加し、固化処理土から溶出しやすい六価クロムを三価クロムに還元して無害化する技術が提案されている(例えば、特許文献2)。その中でも、高炉スラグ微粉末を還元性物質として使用する方法は、高炉スラグ微粉末の入手が容易である点及び高炉スラグ微粉末が比較的安価である点で実用上優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−249775号公報
【特許文献2】特開2001−342461号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高橋 茂、「セメントに含まれる微量成分の環境への影響」、セメント・コンクリート、2000年、No.640、p.20−29
【非特許文献2】後藤年芳他、「関東ロームの安定処理について」、土質工学シンポジウム発表会論文集、1991年、p.71−75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高炉スラグ微粉末を還元性物質として使用する場合、使用する高炉スラグ微粉末の還元特性が、製造会社や製造ロットごとに異なるため、固化処理対象の土壌の性状によっては六価クロム[Cr(VI)]の溶出を十分に抑制できないことがある。
【0009】
そこで、本発明は、高炉スラグ微粉末を原料に使用したセメント系固化材を土壌の固化処理に使用した場合であっても、固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能なセメント系固化材の製造方法を提供することを目的とする。また、そのような製造方法で製造されたセメント系固化材を用いることによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能な土壌の固化処理方法を提供することを目的とする。さらに、そのような製造方法で製造されたセメント系固化材を用いることによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能な固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、固化処理土からの六価クロムの溶出量は、単純に高炉スラグ微粉末の添加量に依存するのではなく、セメント系固化材中の六価クロムの含有量、セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量及び高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積に依存することを見出した。そして、セメント系固化材中の六価クロムの含有量(Cr,mg/kg)に対する、セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量(RS,mg/kg)と高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積(B,cm/g)の積(RS×B)の比(RS×B/Cr)(以下、この比を単に「RS×B/Cr」という場合がある。)を制御することにより固化処理土からの六価クロムの溶出量を効果的に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、セメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合して第1のセメント系固化材を得る第1の工程と、第1の工程におけるRS×B/Crの値に基づいて、セメント及び/又は高炉スラグ微粉末の少なくとも一部を、セメント及び/又は高炉スラグ微粉末とは硫化物硫黄濃度、B及び六価クロムの含有量の少なくとも一つが異なるセメント及び/又は高炉スラグ微粉末に変更して混合し、RS×B/Crの値が45×10以上である第2のセメント系固化材を得る第2の工程と、を有する、セメント系固化材の製造方法を提供する。この製造方法によれば、高炉スラグ微粉末をセメント系固化材の原料に使用する場合であっても、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能なセメント系固化材を得ることができる。これによって、固化処理土からの六価クロムの溶出量を、環境基準値(0.05mg/L)以下に低減することも可能である。
【0012】
ここで、本発明は、第2の工程において、RS×B/Crの値に基づいて、セメント、石膏及び高炉スラグ微粉末の混合比を変更することが好ましい。これにより、RS×B/Crの値を所望の値に調整することが容易になる。
【0013】
本発明のセメント系固化材の製造方法における第2の工程で混合する高炉スラグ微粉末は、硫化物イオンの溶出量が4.5〜11.0(mg/L)であることが好ましい。これによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することが可能なセメント系固化材を容易に製造することができる。
【0014】
また、本発明のセメント系固化材の製造方法は、第2の工程において、S/Crの値が0.09以上である第2のセメント系固化材を得ることが好ましい。ここで、Sはセメント系固化材中の硫化物イオン量(mg/L)を示し、Crは上記のものと同義である。これによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することが可能なセメント系固化材を容易に製造することができる。
【0015】
また、本発明のセメント系固化材の製造方法は、第2の工程で混合する高炉スラグ微粉末の硫化物硫黄の含有量が7000〜12000mg/kgであり、且つ、ブレーン比表面積が2400〜12000cm/gであることが好ましい。これによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することができる。
【0016】
また、第2の工程で混合する上記セメントにおけるCSの含有量は57〜70質量%、CSの含有量は8〜17質量%、CAの含有量は8〜13質量%、CAFの含有量は5〜9質量%であり、上記セメントの六価クロムの含有量は20〜55mg/kgであることが好ましい。なお、CS、CS、CA、CAFは以下の鉱物相を示す。
S:エーライト(3CaO・SiO
S:ビーライト(2CaO・SiO
A:アルミネート(3CaO・Al
AF:フェライト(4CaO・Al・Fe
【0017】
また、本発明は、第2のセメント系固化材の硫化物硫黄の含有量は1800〜3600mg/kgであり、且つ、ブレーン比表面積は3600〜6500cm/gであることが好ましい。これによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することができる。
【0018】
また、本発明は、上記の方法で製造されたセメント系固化材と土壌とを、該土壌1mに対してセメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を固化させる固化工程と、を有する固化処理方法を提供する。この固化処理方法によれば、十分な圧縮強度を維持しつつ六価クロムの溶出量が十分に低減された固化処理土を得ることができる。これによって、六価クロムの溶出量を、環境基準値(0.05mg/L)以下に低減することも可能である。
【0019】
また、本発明は、上記の方法で製造されたセメント系固化材と土壌とを、該土壌1mに対してセメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を固化させる固化工程と、を有する、固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法を提供する。これによって、六価クロムの溶出量を、環境基準値(0.05mg/L)以下に低減することも可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高炉スラグ微粉末を原料に使用したセメント系固化材を土壌の固化処理に使用した場合であっても、固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能なセメント系固化材の製造方法を提供することができる。また、そのような製造方法で製造されたセメント系固化材を用いることによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能な固化処理方法を提供することができる。さらに、そのような製造方法で製造されたセメント系固化材を用いることによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ六価クロムの溶出量を十分に低減することが可能な固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】セメント系固化材中の六価クロムの含有量に対する、セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量と高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積の積の比(RS×B/Cr)と、固化処理土からの六価クロムの溶出量との関係を示す図である。
【図2】セメント系固化材中の六価クロムの含有量に対する、セメント系固化材中の硫化物イオン量の比(S/Cr)と、固化処理土からの六価クロムの溶出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のセメント系固化材の製造方法、土壌の固化処理方法、及び、固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
<セメント系固化材の製造方法>
本実施形態のセメント系固化材の製造方法によって製造されるセメント系固化材は、セメント、石膏及び高炉スラグ微粉末を含む。
【0024】
本実施形態に係るセメント系固化材の製造方法は、セメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合して第1のセメント系固化材を得る第1の工程と、第1の工程におけるRS×B/Crの値に基づいて、セメント及び/又は高炉スラグ微粉末の少なくとも一部を、第1の工程で用いたセメント及び/又は高炉スラグ微粉末とは硫化物硫黄濃度、B及び六価クロムの含有量の少なくとも一つが異なるセメント及び/又は高炉スラグ微粉末に変更して混合し、RS×B/Crの値が45×10以上である第2のセメント系固化材を得る第2の工程と、を有する。
【0025】
第1の工程では、原材料であるセメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合して第1のセメント系固化材を得る。ボーグ式により算出されるセメントの鉱物組成は、CSの含有量が、好ましくは57〜70質量%、より好ましくは62〜69質量%、さらに好ましくは63〜66質量%、特に好ましくは64〜65質量%である。また、CSの含有量は、好ましくは8〜17質量%、より好ましくは9〜12質量%、さらに好ましくは9.5〜11質量%で、特に好ましくは10〜11質量%であり、CAの含有量は、好ましくは8〜13質量%、より好ましくは9〜13質量%、さらに好ましくは10.5〜13質量%、特に好ましくは11.5〜12.5質量%である。また、CAFの含有量は、好ましくは5〜9質量%、より好ましくは5〜7質量%、さらに好ましくは5〜6.5質量%、特に好ましくは5.5〜6.5質量%である。セメントの鉱物組成を上述の範囲とすることにより、適切な強度を有しつつ六価クロムの溶出量が十分に低減された固化処理土とすることができる。
【0026】
セメント中の六価クロムの含有量は、好ましくは20〜55mg/kg、より好ましくは22〜53mg/kg、さらに好ましくは27〜50mg/kg、特に好ましくは30〜45mg/kgである。
【0027】
セメントの原料としては、石灰石、硅石、粘土、鉄原料等の主原料以外に、石炭灰、建設発生土並びに各種焼却灰等の産業廃棄物及び副産物を使用することができる。ここで、石炭灰としては、石炭火力発電所等から発生するものであり、フライアッシュ、ボトムアッシュ等を使用することができる。建設発生土としては、建設工事の施工に伴い副次的に発生する残土、土壌、廃土等を使用することができる。焼却灰としては、都市ゴミ焼却灰、燃え殻、焼却残渣等を使用することができる。上述の原材料を用いて、ロータリーキルン等を用いた通常の方法により、セメントクリンカーを製造することができる。このようにして得られるセメントクリンカーに石膏を添加することによって、セメントを得ることができる。
【0028】
セメントに含まれる石膏は、SO基準で好ましくは0.5〜4.0質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%、さらに好ましくは1.5〜3.0質量%、特に好ましくは2.0〜3.0%である。セメント中におけるf.CaO(遊離の酸化カルシウム)の含有量は、好ましくは0.2〜0.8質量%、より好ましくは0.3〜0.7質量%、さらに好ましくは0.4〜0.65質量%、特に好ましくは0.50〜0.65%である。セメントの調製に使用する石膏は、二水石膏、無水石膏、半水石膏のいずれの形態でもよい。
【0029】
セメント系固化材の製造に使用する石膏は、二水石膏、無水石膏又は半水石膏のいずれの形態のものを使用してもよく、強度発現性の観点から二水石膏又は無水石膏を好ましく用いることができる。
【0030】
高炉スラグ微粉末としては、硫化物硫黄を含んだ高炉スラグ微粉末を用いる。このような高炉スラグ微粉末は、硫化物硫黄が六価クロムを三価クロムに還元する物質として作用するためである。
【0031】
固化処理土からの六価クロムの溶出量を低減するには、セメント系固化材中の高炉スラグ微粉末の含有割合を高くして、セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量を増やすことが好ましい。ただし、関東ロームのような火山灰質粘性土を固化処理する場合、セメント系固化材中の高炉スラグ微粉末の含有割合が高くなり過ぎると、セメントの水和生成物の低減により、固化処理土の強度が低下する傾向がある。このような観点から、セメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量の下限は、好ましくは1800mg/kg、より好ましくは2000mg/kg、さらに好ましくは2250mg/kg、特に好ましくは2515mg/kgである。一方、該含有量の上限は、好ましくは3600mg/kg、より好ましくは3400mg/kg、さらに好ましくは3300mg/kg、特に好ましくは3200mg/kgである。
【0032】
上述のセメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを、所定の割合で配合して、例えばボールミル等を用いて粉砕・混合し、第1のセメント系固化材を製造する。この第1のセメント系固化材は、所定の比(RS×B/Cr)を満足する第2のセメント系固化材を製造するための品質管理用のセメント系固化材であってもよく、また、第2のセメント系固化材と混合して使用してもよい。
【0033】
上記原材料の混合において、セメントの配合割合は、製造するセメント系固化材を基準として、好ましくは35〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%、さらに好ましくは45〜65質量%、特に好ましくは50〜65質量%である。石膏の配合割合は、製造するセメント系固化材を基準として、SO換算で、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは4〜14質量%、さらに好ましくは5〜12質量%、特に好ましくは6〜10質量%である。高炉スラグ微粉末の配合割合は、製造するセメント系固化材を基準として、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜45質量%、さらに好ましくは25〜45質量%、特に好ましくは30〜45質量%である。各成分の配合割合が上述の範囲であると、セメントの水和を阻害しやすい土壌を固化させる場合であっても十分な強度を有する固化処理土を得ることができる。また、固化処理の過程において、スラリーの粘度の上昇を抑制することが可能となり、また、六価クロムの溶出量を十分に低減することができる。
【0034】
なお、原材料の混合では、セメントに代えて、セメントクリンカーと石膏とを用いてもよい。この場合、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合してセメント固化材を得ることができる。また、セメント系固化材には、上述の成分の他に、石灰石粉、フライアッシュ、硅石粉、消石灰、シリカフューム、炭酸カルシウム、徐冷スラグ粉末等を配合してもよい。以上の工程によって、第1のセメント系固化材を製造することができる。
【0035】
第2の工程では、第1のセメント系固化材のRS×B/Crの値に基づいて、第1の工程で用いたセメント及び/又は高炉スラグ微粉末の少なくとも一部を、第1の工程で用いたセメント及び/又は高炉スラグ微粉末とは硫化物硫黄濃度、B(高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積)及び六価クロムの含有量の少なくとも一つが異なるセメント及び/又は高炉スラグ微粉末に変更する。そしてセメント、石膏及び高炉スラグ微粉末を混合し、RS×B/Crの値が45×10以上である第2のセメント系固化材を得る。
【0036】
ここで、セメント及び/又は高炉スラグ微粉末の「少なくとも一部」とは、セメント及び/又は高炉スラグ微粉末の全部分を指す場合と、一部分を指す場合とがある。例えば、第1の工程における混合に使用したセメント(第1のセメント)を変更する場合は、第1のセメントの全部を変更してもよく、又は、第1のセメントの一部のみを変更して混合し、第1のセメントと、新たに採用したセメントとを併せて使用してもよい。これによって第2の工程では第1のセメントとは硫化物硫黄濃度及び六価クロムの含有量の少なくとも一方が異なる第2のセメントを用いることとなる。また、例えば、第1の工程における混合に使用した高炉スラグ微粉末(第1の高炉スラグ微粉末)を変更する場合は、第1の高炉スラグ微粉末の全部を変更してもよく、又は、第1の高炉スラグ微粉末の一部のみを変更して混合し、第1の高炉スラグ微粉末と、新たに採用した高炉スラグ微粉末とを併せて使用してもよい。これによって第2の工程では第1の高炉スラグ微粉末とは硫化物硫黄濃度、B及び六価クロムの含有量の少なくとも一つが異なる第2の高炉スラグ微粉末を用いることとなる。
【0037】
第2の工程では、セメント及び高炉スラグ微粉末の硫化物硫黄濃度、B及び六価クロムの含有量を測定する。これらの測定に基づいてセメント(第2のセメント)及び/又は高炉スラグ微粉末(第2の高炉スラグ微粉末)を選択して本実施形態の製造方法の第2の工程に用いることができる。
【0038】
セメントを選択する場合、例えば、性状の異なる複数のセメントクリンカーの中から所望の性状を有するセメントクリンカーを選択し、石膏と混合することにより、所定の硫化物硫黄濃度及び六価クロム含有量を有するセメントを得ることができる。
【0039】
本実施形態のセメント系固化材の製造方法により製造される第2のセメント系固化材は、六価クロム及び硫化物硫黄を含有しており、RS×B/Crの値が45×10以上であり、好ましくは50×10以上であり、より好ましくは70×10以上であり、特に好ましくは100×10以上である。また、固化処理土の六価クロムの溶出量を十分に低減しつつ強度をより高く維持する観点から、当該比の値は、好ましくは45×10〜200×10であり、より好ましくは50×10〜190×10であり、さらに好ましくは70×10〜180×10であり、特に好ましくは100×10〜170×10である。このようなセメント系固化材は、重金属溶出抑制セメント系固化材として、土壌の固化処理用に好適に用いることができる。また、後述する図1のグラフによれば、RS×B/Crの値を算出することにより、セメント系固化材からの六価クロムの溶出量を、所望の値以下とすることができるかどうかについて予測することもできる。
【0040】
原材料の性状の変動等によってRS×B/Crの値が変動する場合は、RS×B/Crの値に基づいて、セメント、石膏及び高炉スラグ微粉末の混合比を変更することができる。これによって、固化処理土の強度を維持しつつ六価クロムの溶出を十分に低減することが可能なセメント系固化処理材を容易に製造することができる。
【0041】
セメント系固化材における硫化物硫黄とは、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」の中に規定されている「硫化物硫黄の定量方法」によって検出される化合物であり、その含有量は、該分析方法によって測定される。
【0042】
本実施形態の第2のセメント系固化材のブレーン比表面積は、好ましくは3600〜6500cm/g、より好ましくは3800〜6300cm/g、さらに好ましくは4000〜6000cm/g、特に好ましくは4200〜5500cm/gである。ブレーン比表面積が上述の範囲であれば、固化処理土の強度発現性及び固化前のセメント系固化材と土壌との混合物を含むスラリーの施工性を損なうことなく、固化処理土からの六価クロムの溶出量を十分に低減することができる。
【0043】
セメント系固化材中の六価クロムの含有量(Cr,mg/kg)の値は、セメント系固化材中のセメントの添加割合とセメント中の六価クロムの含有量とから、計算により求めることができる。第2のセメント系固化材における六価クロムの含有量の上限は、好ましくは30mg/kg、より好ましくは25mg/kg、さらに好ましくは20mg/kg、特に好ましくは17mg/kgである。六価クロムの含有量が上述の上限値を超えると、固化処理土の六価クロムの溶出量が高くなる傾向がある。
【0044】
本実施形態の第2のセメント系固化材中の(高炉スラグ微粉末由来の)硫化物イオン量(S)は、下記高炉スラグ微粉末の硫化物イオンの溶出量から、セメント系固化材中の高炉スラグ微粉末の添加割合を考慮した計算により求めることができる。例えば、下記高炉スラグ微粉末の硫化物イオンの溶出量(I)が5.0(mg/L)、セメント系固化材の製造における高炉スラグ微粉末の添加量が内割り添加でa質量%とすると、Sの値は、5.0×0.01×aという計算で求めることができる。
【0045】
第2の工程において、S/Crの値は、好ましくは0.09以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.12以上、特に好ましくは0.15以上である。この比が0.09以上であることにより、固化処理土の固化強度を維持しつつ、固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することが可能なセメント系固化材を容易に製造することができる。
【0046】
本明細書における高炉スラグ微粉末の硫化物イオンの溶出量(I)は、以下の手順で測定される数値である。まず、水と高炉スラグ微粉末とを、水に対する高炉スラグ微粉末の質量比が0.2となるように配合して撹拌し、高炉スラグ微粉末を水中に分散させ、分散液を調整する。そして分散液を1時間撹拌した後、静置して上澄液を採取する。この上澄液における硫化物イオンの量を、JIS K 0102:2008「工業用水試験方法」に基づいて測定する。この値は、好ましくは4.5〜11.0mg/Lであり、より好ましくは6.0〜11.0mg/Lであり、さらに好ましくは7.0〜11.0mg/Lであり、特に好ましくは8.0〜11.0mg/Lである。当該硫化物イオンの量が4.5〜11.0mg/Lであることにより、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することが可能なセメント系固化材を容易に製造することができる。
【0047】
高炉スラグ微粉末の硫化物硫黄の含有量は、通常、製造会社や製造ロット毎に異なる。本実施形態の第2の工程において使用する高炉スラグ微粉末の硫化物硫黄の含有量は、好ましくは7000〜12000mg/kg、より好ましくは7500〜11500mg/kg、さらに好ましくは8000〜11000mg/kg、特に好ましくは8500〜11000mg/kgである。硫化物硫黄の含有量が7000〜12000mg/kgであることにより、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することができる。
【0048】
また、本実施形態の第2の工程において使用する高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積(B)は、好ましくは2400〜12000cm/g、より好ましくは3000〜11500cm/g、さらに好ましくは4000〜11500cm/g、特に好ましくは5000〜11500cm/gである。これによって、固化処理土の固化強度を維持しつつ固化処理土からの六価クロムの溶出量を一層十分に低減することができる。
【0049】
上述の製造方法は、例えば、最初のバッチで第1の工程を行い、第1の工程で得られた第1のセメント系固化材のRS×B/Crの値を測定し、次のバッチで最初のバッチで得られた第1のセメント系固化材のRS×B/Crの値に基づいて原材料の変更や混合比の調整をして、第2のセメント系固化材を得る第2の工程を行ってもよい。そして、このようにして第1の工程及び第2の工程を繰り返して行ってもよい。また、例えば、連続的にセメント系固化材を製造する場合は、製造中にサンプリングを行ってRS×B/Crの値を測定し、その測定値に基づいて原材料の変更や混合比の調整をしてもよい。この場合は第1の工程と第2の工程とが連続的かつ繰り返し行われることとなる。
【0050】
<土壌の固化処理方法>
次に、本発明に係る土壌の固化処理方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態の固化処理方法は、上述の実施形態で製造されたセメント系固化材(第2のセメント系固化材)と土壌とを、該土壌1mに対してセメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を固化させる固化工程と、を有する。
【0051】
調製工程では、上述のセメント系固化材と土壌とを混合して混合物を調製する。セメント系固化材と土壌との混合比は、土壌1mに対して、セメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合する。これによって、固化処理土の圧縮強度を維持しつつ六価クロムの溶出量を十分に低減することができる。なお、土壌の性状に応じて、上記比率を調整することが好ましい。
【0052】
例えば、処理対象の土壌が、砂質土の場合は、土壌1mに対して、セメント系固化材が50kg〜150kg、好ましくは60kg〜120kg、さらに好ましくは75kg〜100kg、特に好ましくは80kg〜100kgとなる比率で混合する。なお、当該比率は、上述の範囲内で、固化処理土の強度、及び処理コスト等を考慮して設定することができる。固化処理に先立ち、あらかじめ一軸圧縮強度試験及び溶出試験等を行って、セメント系固化材の添加量を決定する。
【0053】
処理対象の土壌が、粘性土及び火山灰質粘性土、具体的には関東ローム等の場合は、土壌1mに対して、上述のセメント系固化材を好ましくは100kg〜400kg、より好ましくは150kg〜350kg、さらに好ましくは200kg〜320kg、特に好ましくは250kg〜300kgの比率で混合する。この場合も、あらかじめ一軸圧縮強度試験及び溶出試験等を行って、上述の比率の範囲内で、セメント系固化材の添加量を決定する。
【0054】
セメント系固化材と土壌との混合には、バックホウ、クラムシェル等による原位置混合方式とプラント混合装置等による事前混合方式を用いることができる。
【0055】
固化工程では、上述の通り調製した混合物の締固めや転圧を行い、数日間養生する。これによって、十分な強度を有するとともに、六価クロムの溶出量が十分に低減された固化処理土を得ることができる。
【0056】
<固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法>
本発明の固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法の実施形態について説明する。本実施形態の固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法は、上記製造方法で製造されたセメント系固化材(第2のセメント系固化材)と土壌とを、該土壌1mに対してセメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、混合物を固化させる固化工程とを有する。この調製工程及び固化工程は、上述の土壌の固化処理方法における調製工程及び固化工程と同様に行うことができる。このような固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法によれば、固化処理土からの六価クロムの溶出量が低減される。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(1)セメントの製造及び測定
(i)製造
組成の異なる複数のセメントクリンカーに排脱二水石膏をSO含有量が約2.9質量%となるように添加して、ボールミル粉砕を行い、組成の異なるC1〜C3のセメントを製造した。C1〜C3のセメントの化学組成及びf.CaO量は表1に示すとおりであった。なお、セメントの化学組成は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。また、f.CaO量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
(ii)測定
各セメント(C1〜C3)のSOの含有量、全クロムの含有量、六価クロムの含有量、硫化物硫黄の含有量、及びブレーン比表面積を測定した。その結果を表2に示す。なお、SOの含有量及び硫化物硫黄の含有量はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。
【0062】
全クロムの含有量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−52「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメントの微量成分の分析方法」に準じて測定した。また、六価クロムの含有量は、クリンカーをpH13のエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)溶液に溶解させると溶液中の三価クロムは水酸化クロム(溶解度積(22℃):6.3×10−31)として沈殿するため、溶液中にはクロムイオンのうち、六価クロムだけが存在することを利用して、クリンカー中の六価クロム含有量を測定した。なお、六価クロムの定量にはICP発光分光分析装置を用いた。
【0063】
ブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した。
【0064】
【表2】

【0065】
各セメント(C1〜C3)の鉱物組成は、下記式[1]〜[4]に示すボーグ式を用いて、表1に示す各セメントの化学組成から算定した。ボーグ式により算定したセメント(C1〜C3)の鉱物組成を表3に示す。式[1]〜[4]における質量%は、セメント全体に対する質量比率を示す。
【0066】
S質量(%)=(4.071×CaO質量%)−(7.602×SiO質量%)−(6.719×Al質量%)−(1.430×Fe質量%)−(2.852×SO質量%) ・・・[1]
S質量(%)=(2.876×SiO質量%)−(0.754×CS質量%) ・・・[2]
A質量(%)=(2.650×Al質量%)−(1.692×Fe質量%) ・・・[3]
AF質量(%)=3.043×Fe質量% ・・・[4]
【0067】
【表3】

【0068】
(2)石膏及び高炉スラグ微粉末の性状
表4に示す高炉スラグ微粉末A〜D及びフッ酸無水石膏を準備した。各高炉スラグ微粉末A〜D及びフッ酸無水石膏の性状を表4及び表5に示す。各高炉スラグ微粉末及びフッ酸無水石膏の化学成分は、JIS R 9101:1995「セッコウの化学分析方法」及びJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した。高炉スラグ微粉末中の硫化物硫黄の含有量を、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。また、硫化物イオン量は、水100mLに高炉スラグ微粉末20gを投入して1時間撹拌し、上澄み液を検液としてJIS K 0102:2008「工業用水試験方法」に基づいて測定した。
【0069】
表4及び表5の高炉スラグ微粉末A(K1〜K3)及びD(K6)は、実施例1〜8のセメント系固化材の製造に使用した高炉スラグ微粉末である。一方、高炉スラグB(K4)及びC(K5)は、対照として準備したものであり、高炉スラグA(K1〜K3)及びD(K6)と同じ測定方法で、組成を分析したものである。表4及び表5に示す測定結果は、高炉スラグの硫化物硫黄の含有量が、その種類、製造会社又は製造ロットによって、異なることを示している。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
(3)セメント系固化材の製造及び測定
[比較例1〜4]
(i)製造
上述のように製造したセメント(C2及びC3)に、フッ酸無水石膏及び高炉スラグ微粉末(K1、K4又はK6)を、表6に示す所定の割合で添加し、ロッキングミキサーを用いて混合して、第1のセメント系固化材(S1〜S4;比較例1〜4)を得た。
【0073】
(ii)測定
製造した各セメント系固化材中のSO量及び硫化物硫黄の含有量(RS)を、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。測定結果を表6に示す。
【0074】
セメント系固化材の全クロムの含有量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−52「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメントの微量成分の分析方法」に準じて測定した。また、セメント系固化材の六価クロムの含有量(Cr)は、セメント系固化材中のセメントの質量割合とセメント中の六価クロムの含有量(表2)から算出した。また、表5の硫化物イオン量から、セメント系固化材中の高炉スラグ微粉末の添加量(内割りで30質量%)を考慮してセメント系固化材中の硫化物イオン量(S)を計算で求めた。(例えば、実施例1は、6.7×0.3=2.0として算出した。)また、セメント系固化材のブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定した。これらの値を表7に示す。
【0075】
また、RS、B、Cr及びSの測定値を用いて、比較例1〜4のセメント系固化材のRS×B/Cr及びS/Crの値をそれぞれ算出した。この結果を表8に示す。
【0076】
[実施例1〜8]
比較例1〜4のセメント系固化材を第1のセメント系固化材とし、以下の手順で実施例1〜8のセメント系固化材を製造した。すなわち、表8に示す比較例1〜4のRS×B/Crの値に基づいて、比較例1で使用したセメント「C2」又は比較例2で使用したセメント「C3」をセメント「C1」に変更してフッ酸無水石膏及び高炉スラグ微粉末と混合し、第2のセメント系固化材を製造した。これを実施例1のセメント系固化材(S5)とした。また、比較例3で使用した高炉スラグ微粉末「K4」又は比較例4で使用した高炉スラグ微粉末「K5」を高炉スラグ微粉末「K2」に変更してセメント及びフッ酸無水石膏と混合し、第2のセメント系固化材を製造した。これを実施例2のセメント系固化材(S6)とした。
【0077】
さらに、同様に第1のセメント系固化材(S1〜S4;比較例1〜4)のRS×B/Crの値に基づいて、セメント「C1〜C3」及び/又は高炉スラグ微粉末「K1〜K6」の種類を変更して混合することにより、第2のセメント系固化材を製造した。これらを実施例3〜8のセメント系固化材とした(S7〜S12)。比較例1〜4のセメント系固化材と同様に各性状の測定を行い、RS×B/Cr及びS/Crの値をそれぞれ算出した。これらの結果を表6〜表8に示す。
【0078】
(3)固化処理土の作製と評価
固化処理用の土壌として関東ローム(含水比:103.1質量%)を準備した。上述の通り製造した各実施例及び各比較例のセメント系固化材を、関東ローム1mに対して300kg添加し、ホバートミキサーで3分間練り混ぜて、セメント系固化材(第1のセメント系固化材又は第2のセメント系固化材)と土壌とからなる混合物を調製した。
【0079】
調製した混合物を、直径50mm×高さ100mmの円柱型枠内にランマーを用いて3層詰めした後、20℃で材齢7日まで密封養生し、実施例1〜8及び比較例1〜4の固化処理土を作製した。
【0080】
作製した固化処理土について、環境庁告示46号(平成3年8月23日)に則って溶出試験を行い、六価クロムの溶出量を求めた。六価クロムの溶出量は、振とう後の濾液中の六価クロム濃度をジフェニルカルバジド吸光光度法にて定量することにより求めた。また、作製した固化処理土の材齢7日における一軸圧縮強さを、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準じて測定した。これらの測定結果を表8に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
【表8】

【0084】
表8に示す結果から、実施例1〜8のセメント系固化材S5〜S12を使用した場合、比較例1〜4のセメント系固化材S1〜S4を使用した場合に比べ、固化処理土からの六価クロムの溶出量が大幅に低減されることが確認された。また、実施例1〜8の固化処理土は、環境基準値(0.05mg/L以下)を満足していることが確認された。
【0085】
また、固化処理土の作製に使用したセメント系固化材のRS×B/Crの値と、固化処理土からの六価クロムの溶出量(mg/L)との関係を図1に示す。図1におけるS1〜S12は、固化処理土の作製に使用したセメント系固化材を示す。
【0086】
図1より、RS×B/Crの値と固化処理土からの六価クロムの溶出量(mg/L)には高い相関があり、RS×B/Crの値を45×10以上にすれば、六価クロムの溶出量が環境基準値(0.05mg/L以下)を満足することが確認された。
【0087】
また、表8に示した一軸圧縮強さの測定結果から、実施例1〜8のセメント系固化材S5〜S12を使用した固化処理土は、比較例1〜4のセメント系固化材S1〜S4を使用した固化処理土と比較しても、遜色のない圧縮強度を有することが確認された。
【0088】
固化処理土の作製に使用したセメント系固化材におけるS/Crの値と、固化処理土からの六価クロムの溶出量(mg/L)との関係を図2に示す。図2におけるS1〜S12は、固化処理土の作製に使用したセメント系固化材を示す。
【0089】
図2より、S/Crの値と固化処理土からの六価クロムの溶出量(mg/L)には高い相関があり、S/Crの値を0.09以上にすれば、六価クロムの溶出量が環境基準値(0.05mg/L以下)を満足することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと石膏と高炉スラグ微粉末とを混合して第1のセメント系固化材を得る第1の工程と、
前記第1の工程におけるRS×B/Crの値に基づいて、前記セメント及び/又は前記高炉スラグ微粉末の少なくとも一部を、前記セメント及び/又は前記高炉スラグ微粉末とは硫化物硫黄濃度、B及び六価クロムの含有量の少なくとも一つが異なるセメント及び/又は高炉スラグ微粉末に変更して混合し、前記RS×B/Crの値が45×10以上である第2のセメント系固化材を得る第2の工程と、
を有する、セメント系固化材の製造方法(ただし、RSはセメント系固化材中の硫化物硫黄の含有量(mg/kg)を示し、Bは高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積(cm/g)を示し、Crはセメント系固化材中の六価クロムの含有量(mg/kg)を示す)。
【請求項2】
前記第2の工程において、前記RS×B/Crの値に基づいて、セメント、石膏及び高炉スラグ微粉末の混合比を変更する、請求項1記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程で混合する高炉スラグ微粉末は、硫化物イオンの溶出量が4.5〜11.0(mg/L)である、請求項1又は2記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、S/Crの値が0.09以上である前記第2のセメント系固化材を得る、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント系固化材の製造方法(ただし、Sはセメント系固化材中の硫化物イオン量(mg/L)を示し、Crは請求項1に記載のものと同義である)。
【請求項5】
前記第2の工程で混合する高炉スラグ微粉末の前記硫化物硫黄の含有量は7000〜12000mg/kgであり、且つ、ブレーン比表面積は2400〜12000cm/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項6】
前記第2の工程で混合するセメントにおけるCSの含有量は57〜70質量%、CSの含有量は8〜17質量%、CAの含有量は8〜13質量%、CAFの含有量は5〜9質量%であり、前記セメントの六価クロムの含有量は20〜55mg/kgである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造されたセメント系固化材と土壌とを、該土壌1mに対して前記セメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、
前記混合物を固化させる固化工程と、を有する土壌の固化処理方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造されたセメント系固化材と土壌とを、該土壌1mに対して前記セメント系固化材が50〜350kgとなる比率で混合して混合物を調製する調製工程と、
前記混合物を固化させる固化工程と、を有する、固化処理土からの六価クロムの溶出量の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207952(P2011−207952A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75064(P2010−75064)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】