説明

セメント系無機質板

【課題】外壁、屋根、軒天井等の構造体に使用したときに、熱収縮率が小さく加熱時に生じるクラック及び反りを十分に低減し、優れた耐火性能を有するセメント系無機質板を提供すること。
【解決手段】本発明のセメント系無機質板は、セメント質材料を20〜50質量%、珪酸質材料を20〜60質量%、メジアン径が0.1〜40μmである石灰質材料を7〜40質量%、補強繊維材料を2〜10質量%及び熱収縮を抑制する添加材を1〜13質量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁材、屋根下地材、軒裏材等の建材用途に適した、耐火性能に優れたセメント系無機質板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント系無機質板は、普通ポルトランドセメント、フライアッシュセメント等のセメント類、珪砂、珪石粉、フライアッシュ、パーライト、フライアッシュバルーン、シラスバルーン等の珪酸質材料、パルプ、木片、ビニロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維補強材、ロックウール、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維補強材、繊維状ウォラストナイト、マイカ、バーミキュライト、タルク等の天然鉱物、ビニロン粉末、ポリプロピレン粉末、ポリエチレン粉末、ポリウレタン粉末等の樹脂粉末や樹脂中空体等を原料として、抄造法、押出成形法、フローオン成形法等の方法でグリーンシートを形成した後にプレス成形し、蒸気養生やオートクレーブ養生等の養生を行って製造されている。これらのセメント系無機質板は、通常、嵩比重が1.3以下と軽量であるため、作業性が良好で、住宅等の外壁材、屋根下地材、軒裏材等に広く使用されている。
【0003】
セメント系無機質板は、大部分がセメント系材料や珪酸質材料等の無機物質で構成されているため、良好な不燃性を示す。セメント系無機質板の不燃性は、JIS A 5430「繊維強化セメント板」に記載される発熱性試験及びその評価方法によって評価される。
【0004】
一方、セメント系無機質板を使用した外壁、屋根、軒裏等の構造の防耐火性能については、ISO 834に基づく加熱曲線によって構造体を加熱し、構造体の遮炎性、遮温性等の基準を満たすかどうかを判定される。従来のセメント系無機質板は、加熱していくと、300℃付近で内部に配合された有機質材料が燃焼して消失し、次いで800℃以上でセメント系無機質板中の、セメント質材料と珪酸質材料等との反応が進行し、ウォラストナイト(CaO・SiO)やアノーサイト(CaO・Al・2SiO)等の鉱物が生成し、収縮する。また、温度が上がるに連れて、有機質材料が消失してできた空隙も材料の軟化により緻密化してくるため、収縮量はさらに大きくなる。この収縮により、セメント系無機質板の中央部や、柱への留め付け部にクラックが発生したり、加熱面と非加熱面の温度差によってセメント系無機質板の表裏に収縮量差が発生することによって反りが発生して、セメント系無機質板の目地部が開いたり、クラックが発生することがある。このような状況になった場合、火炎が構造体内部に入り込み易くなり、非加熱面側の温度上昇が大きくなったり、さらには非加熱面側に火炎が噴出し、構造体の耐火性能が不十分となる傾向にある。
【0005】
そのため、防耐火性能を改善するため、種々の対策が提案されている。例えば、特許文献1では、100℃〜1000℃で不燃性ガスを放出する無機化合物粉粒体をエトリンジャイトに含有させることで、耐火性能を向上させた建築物の外壁用パネルが開示されている。また、特許文献2では、水酸化アルミニウムを添加することで、加熱分解時の吸熱により耐火性能を改善した押出成形用セメント組成物が開示されている。さらに、特許文献3では、セメント、珪酸質材料及び繊維材料を含む無機質成型体において、耐炎化繊維及び/又は炭素繊維からなる繊維材料を含むことで軽量し耐火性を向上した無機質成型体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−42100号公報
【特許文献2】特開平4−89342号公報
【特許文献3】特開2004−196602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の手法では、熱収縮によるクラックや反りの発生を抑制することは難しく、セメント系無機質板の耐火性能を十分に改善するまでに至っていない。また、特許文献3のように、炭素繊維のような比較的長い人造無機繊維を配合した場合、繊維がセメント系無機質板表面に突出し平滑性が損なわれ易く、ウォラストナイトのような短い繊維でも配合量を増やすと、同様に平滑性が損なわれてしまうため、その配合量が制限され、セメント系無機質板に十分な耐火性能を付与することは困難である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、外壁、屋根、軒天井等の構造体に使用したときに、熱収縮率が小さく加熱時に生じるクラック及び反りを十分に低減し、優れた耐火性能を有するセメント系無機質板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、セメント質材料は、CaO、SiO及びAlを主に含有し、珪酸質材料はSiOを主に含有し、石灰質材料はCaOを主に含有している。本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、これらを主原料としたセメント系無機質板を加熱した際に、800℃以上の温度域で鉱物組成が変化し、反応によってウォラストナイトやアノーサイト等の鉱物が生成した場合には、セメント系無機質板の熱収縮率が大きくなり、加熱された場合にクラックや反りが発生し易くなることを見出した。また、本発明者らは、加熱によりゲーレナイト(2CaO・Al・SiO)、ラーナイト(2CaO・SiO)及び酸化カルシウム(CaO)が生成した場合には、セメント系無機質板の熱収縮率が小さく、クラックや反りの発生が抑制されることを見出した。
【0010】
そして、本発明者らは、所定量のセメント質材料、珪酸質材料、石灰質材料、補強繊維材料及び熱収縮を抑制する添加材をそれぞれ含み、かつ、特定の範囲のメジアン径を有する石灰質材料を配合したセメント系無機質板を、外壁、屋根、軒天井等の構造体に使用したときに、加熱時に生じるクラック及び熱収縮差による反りを十分に低減できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、セメント質材料を20〜50質量%、珪酸質材料を20〜60質量%、石灰質材料を7〜40質量%、補強繊維材料を2〜10質量%及び熱収縮を抑制する添加材を1〜13質量%含み、石灰質材料のメジアン径が0.1〜40μmである、セメント系無機質板に関する。
【0012】
上記石灰質材料は、酸化カルシウムの含有率が30質量%以上であると、セメント系無機質板の熱収縮率を更に低減することができる。
【0013】
また、上記石灰質材料は、海水から水酸化マグネシウムを精製する際の副産物であり、炭酸カルシウムを55質量%以上含有すると、セメント系無機質板の熱収縮率をより一層低減することができる。
【0014】
さらに、安価な材料でセメント系無機質板の熱収縮率を低減することができることから、上記熱収縮を抑制する添加材は、マイカ及び/又はウォラストナイトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外壁、屋根、軒天井等の構造体に使用したときに、熱収縮率が小さく加熱時に生じるクラック及び反りを十分に低減し、優れた耐火性能を有するセメント系無機質板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で用いた海水残渣のX線回折図である。
【図2】実施例で用いた海水残渣の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例で用いたカルサイト型炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例で用いたアラゴナイト型炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真である。
【図5】反り測定用に作製した試験体を示す模式図である。
【図6】試験体の反り測定に用いた小型耐火炉を示す模式図である。
【図7】反りを測定するために小型耐火炉に試験体を取り付けた状態を示す模式図である。
【図8】クラック評価試験用に作製した試験体を示す模式図である。
【図9】クラックの発生を測定するために小型耐火炉に試験体を取り付けた状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセメント系無機質板は、セメント質材料を20〜50質量%、珪酸質材料20〜60質量%、石灰質材料を7〜40質量%、補強繊維材料を2〜10質量%及び熱収縮を抑制する添加材を1〜13質量%を含む。
【0018】
上記セメント質材料としては、一般的に使用されるセメント、例えば、普通ポルトランドセメント、早強セメント、中庸熱セメント、フライアッシュセメント、高炉スラグセメント及びアルミナセメントが挙げられる。これらのセメントは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
セメント質材料の配合量は、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、20〜50質量%であり、25〜45質量%が好ましく、25〜40質量%がより好ましい。セメント質材料の配合量が20質量%未満では、セメント系無機質板の曲げ強度や剥離強さ等の物性が低下し易く、50質量%を超えると、セメント系無機質板の嵩比重が重くなり、施工時の作業性等を低下させる。
【0020】
珪酸質材料としては、例えば、珪砂、珪石粉、フライアッシュ、珪藻土、粘土、ベントナイト、カオリン、パーライト、フライアッシュバルーン、シラスバルーン、ガラス発泡体等のSiOを多く含む材料が挙げられる。これらの珪酸質材料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
珪酸質材料の配合量は、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、20〜60質量%であり、20〜55質量%が好ましく、25〜50質量%がより好ましい。珪酸質材料の配合量が上記範囲にあれば、セメント系無機質板の曲げ強さ、嵩比重、吸水率、寸法安定性等を目的の範囲に設定することが可能となる。なお、珪酸質材料として、パーライト、フライアッシュバルーン、シラスバルーン等の単位容積質量が0.5g/cm以下の軽量骨材を配合する場合、嵩比重が軽くなりすぎ、曲げ強さや剥離強さ等の強度が弱くなることを防ぐため、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、軽量骨材の配合量が20質量%以下となるよう、他の珪酸質材料を併用することが好ましい。
【0022】
石灰質材料としては、例えば、カルサイト型炭酸カルシウム、アラゴナイト型炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等のCaOを多く含む材料を好適に使用できる。また、石灰質材料として、繊維形状のカルサイト型炭酸カルシウム及びアラゴナイト型炭酸カルシウムを用いることがより好ましい。さらに、石灰質材料として、海水から水酸化マグネシウムを製造する工程において、海水中の炭酸塩を除去する工程で副生する炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを主成分とする海水残渣を使用することが、廃棄物利用の観点から好ましい。
【0023】
ここで、CaOは、石灰質材料を加熱したときに生成するものであり、石灰質材料のCaO含有率は、石灰質材料を構成する炭酸カルシウムや水酸化カルシウムから換算することができる。石灰質材料のCaO含有率はセメント系無機質板の熱収縮を抑制する観点から、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。また、石灰質材料がSiOを含有する場合、セメント系無機質板の熱収縮をより一層抑制する観点から、その含有率は10質量%以下であることが好ましい。
【0024】
上記海水残渣中の炭酸カルシウムの含有量は、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、残渣中の水酸化マグネシウムの割合は、25質量%以下であることが好ましい。上記残渣中の炭酸カルシウムの含有量が55質量%未満では、換算されるCaOの含有率が小さくなるため、セメント系無機質板の熱収縮を十分に抑制でき難くなる。上記残渣中の水酸化マグネシウムの含有量が25質量%を超えると、相対的に炭酸カルシウムの含有率が小さくなるため、セメント系無機質板の熱収縮を十分に抑制でき難くなる。
【0025】
上記石灰質材料のメジアン径は0.1〜40μmであり、1〜30μmが好ましく、3〜20μmがより好ましい。石灰質材料のメジアン径はレーザー回折式粒度分布測定装置を使用して測定することができる。石灰質材料のメジアン径が0.1μmより小さい場合、粉体流動性が低下するため製造時の取り扱いが難しく、特に、抄造法でグリーンシートを製造する場合、粉体材料をスラリーとしたときのろ水性が低下する。一方、石灰質材料のメジアン径が40μmよりも大きい場合、セメント質材料及び珪酸質材料との反応が十分に進まず、十分な熱収縮の抑制効果が得られ難い。
【0026】
上記石灰質材料の配合量は、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、7〜40質量%であり、8〜35質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。石灰質材料の配合量が7質量%未満では、セメント系無機質板を800℃以上に加熱した場合の熱収縮が十分に抑制できない傾向にあり、40質量%を超えても、熱収縮の抑制効果は頭打ちとなる。
【0027】
繊維補強材としては、例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、これらをフィブリル化したパルプ、古紙を解繊したパルプ等のパルプ類、ビニロン繊維、アクリロニトリル繊維、ポリプロピレン繊維等の人造有機繊維補強材、ロックウール、ガラス繊維等の無機繊維補強材を使用するこができる。これらの繊維補強材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0028】
セメント系無機質板の強度の向上、靭性の付与のため、繊維補強材の配合量は、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、2〜10質量%であり、3〜9質量%であることが好ましく、4〜8質量%であることがより好ましい。繊維補強材の配合量が2質量%未満では、十分な補強効果が得られ難く、10質量%を超えると、セメント系無機質板表面に繊維が突出し、平滑性が損なわれることがある。ただし、1〜50mmの人造無機繊維補強材を繊維補強材として配合する場合は、セメント系無機質板の平滑性を良好にするために、セメント系無機質板を構成する材料の全量を基準として、その配合量が1.0質量%以下となるように他の繊維補強材を併用することが好ましい。
【0029】
熱収縮を抑制する添加材としては、1000℃以上で形状が安定した物質を用いることができ、熱収縮抑制性能及び価格の面から繊維状ウォラストナイト又はマイカを用いることが好ましい。これらの添加材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
セメント系無機質板の耐火性能を補完する観点から、熱収縮を抑制する添加材の配合量は、1〜13質量%であり、2〜10質量%とすることが好ましく、3〜9質量%とすることがより好ましい。熱収縮を抑制する添加材の配合量が1質量%より少ない場合、熱収縮の抑制を補完する効果が不十分となる傾向があり、13質量%を超えた場合、セメント系無機質板表面の平滑性を損なったり、表面と塗装との密着性が低下したりすることがある。
【0031】
繊維状ウォラストナイトは、単位容積質量が0.50g/cm以下であることが好ましい。ウォラストナイトの繊維長は単位容積質量が軽くなるほど長く、無機質板に配合した場合の熱収縮抑制効果は繊維長の長い方が高くなる傾向がある。このため、繊維状ウォラストナイトの単位容積質量は軽いものが好ましいが、0.25g/cmよりも軽い繊維状ウォラストナイトは建築材料用原料としては高価であり、実質的に0.25〜0.50g/cmの繊維状ウォラストナイトが好適に使用される。繊維状ウォラストナイトの単位容積質量が0.50g/cmより重くなると、熱収縮効果が小さく、結果的に添加量が多くなり、無機質板の表面平滑性が損なわれることがある。
【0032】
マイカは、平均粒径が200〜800μmであることが好ましい。マイカの平均粒径が200μmよりも小さいと、熱収縮抑制効果が不十分となることがあり、800μmを超えると、塗装後の塗膜の密着性が不十分となったり、抄造法によって製造した場合、層間の密着強度が低下することがある。
【0033】
本発明のセメント系無機質板には、上記材料の他に、様々な機能を付与するために、樹脂中空体、木片、木粉、樹脂粉末、消泡剤、凝集剤、撥水剤等の材料を、目的に応じて種々配合することが可能である。また、セメント系無機質板を加工する際に発生する端材等を粉砕したリサイクル材を適宜添加して使用することも可能である。
【0034】
本実施形態に係るセメント系無機質板の製造方法については特に限定はされず、一般的に用いられている抄造法、押出成形法、フローオン成形法、流し込み成形法等を用いることができる。セメント系無機質板は、これらの方法で成形したグリーンシートをプレス脱水した後、常温養生、蒸気養生、オートクレーブ養生等で養生して得ることが可能である。
【0035】
本発明のセメント系無機質板は上述の構成を備えることで、800℃以上に加熱した場合に、ゲーレナイト、ラーナイト、酸化カルシウム等の鉱物を生成させて収縮を抑制し、かつ、十分な耐火性能を有するものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例をを挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0037】
(1)使用材料
(i)セメント質材料
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント(株)製)
(ii)珪酸質材料
フライアッシュ(宇部興産(株)製、パーライト1型、単位容積質量0.21kg/L、粒度1.5mm全通)
(iii)石灰質材料
海水残渣(宇部マテリアルズ(株)製、主成分;アラゴナイト型炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、メジアン径12.8μm、、CaCO70%(CaO39%)、Mg(OH)23%)
カルサイト型炭酸カルシウム(宇部マテリアルズ(株)製、メジアン径7.6μm、、CaCO99%(CaO55%))
アラゴナイト型炭酸カルシウム(白石工業(株)製、メジアン径1.0μm、、CaCO99%(CaO55%))
水酸化カルシウム(宇部マテリアルズ(株)製、メジアン径4.0μm、CaO74.5%)
(iv)補強繊維材料
針葉樹パルプスラリー
古紙パルプスラリー
(v)熱収縮を抑制する添加材
ウォラストナイト(NYCO MINERAL,INC.製、単位容積質量0.38g/cm
マイカ(昭和技研(株)製、平均粒径200μm)
【0038】
(2)使用材料の分析
(i)粒度分布測定
石灰質材料のメジアン径を、(株)堀場製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「LA−500」を用いて測定した。
(ii)X線回折
海水残渣のX線回折を、(株)リガク製のX線回折測定装置「RINT2500」を用いて測定した。その結果を図1に示す。海水残渣の主要鉱物であるアラゴナイト型炭酸カルシウムのピークと、水酸化マグネシウム、カルサイト型炭酸カルシウム、石英等のピークが確認された。
(測定条件)
X線:Cu−Kα/35kV/110mA
走査軸:2θ/θ
走査モード:連続
【0039】
(iii)電子顕微鏡写真:
各石灰質材料の形状を、日本電子(株)製の電子顕微鏡「JSM−5400LV」を用いて観察した。海水残渣の電子顕微鏡写真を図2に、カルサイト型炭酸カルシウム電子顕微鏡写真を図3に、アラゴナイト型炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真を図4にそれぞれ示す。形状観察の結果、海水残渣はほとんどが繊維状粒子で、電子顕微鏡写真から測定される繊維径は0.2〜3.5μm(平均径1.0μm)であり、繊維長は5.0〜25.0μm(平均12.11μm)であった。カルサイト型炭酸カルシウム及びアラゴナイト型炭酸カルシウムは、いずれも粒状粒子であることが確認された。
【0040】
(3)小型供試体の作製
表1及び表2に示す配合割合(質量%)で各材料をその総量が630gとなるように配合し、水を加えて5リットルとした後、試験用小型パルパー(容量7リットル)で10分間混合しスラリーを得た。得られたスラリーを3等分して吸引ろ過し、グリーンシートを3枚形成した。このシート3枚を重ねて40kg/cmの圧力でプレス成形し、得られた成形体をビニール袋に密封して1日間常温養生後、80℃で1日間蒸気養生した。これを乾燥して厚さ12.5mmのセメント系無機質板の小型供試体を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
(4)小型供試体の評価方法
得られた小型供試体を50mm×50mmにカットして、寸法をマイクロメーターで測定した後、900℃に加熱した電気炉内で1時間熱処理し、熱処理後の寸法を再度マイクロメーターで測定して、下記(a)式により熱収縮率を算出した。結果を表3に示す。
熱収縮率=(加熱前の寸法−加熱後の寸法)/加熱前の寸法×100・・・(a)
【0044】
また、加熱後の小型供試体の鉱物組成をX線回折により同定した。最も大きいピークの強度を100としたときの各鉱物の第一ピークの相対強度を表3に示す。表中、dは格子面間隔を示す。
【0045】
さらに、加熱後の小型供試体の曲げ強さをJIS A 1408に準拠して測定し、剥離強さを丸菱科学機械製作所製の接着剥離試験器「BA−800」を用いJIS A 5908に準拠して測定し、嵩比重、吸水率及び吸水による寸法変化率をJIS A 5430に準拠して測定した。結果を表4に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
(5)小型供試体の評価結果
石灰質材料を配合していない比較例5及び7は、熱収縮率が大きく、X線回折ピークからは、主にフライアッシュに含まれている未反応の石英、反応生成鉱物としてはウォラストナイト及びアノーサイトのピークの相対強度が大きく、ゲーレナイト、ラーナイト及び酸化カルシウムのピークの相対強度が小さいことが確認された。石灰質材料の配合量が少ない比較例1〜4は、比較例5に比べてゲーレナイトのピークの相対強度が若干大きくなり、ウォラストナイト、アノーサイトのピークの相対強度が小さくなったものの、熱収縮率は比較例5と同等で、熱収縮率の低減効果は認められなかった。また、石灰質材料を添加せず、マイカの配合量を増やした比較例6は熱収縮率が低減できたものの、剥離強さが低くなった。また、比較例8及び9は、普通セメント及び珪酸質材料の配合量が本発明の範囲外であるため、比較例8は曲げ強さが低く、吸水率が高くなり、比較例9は嵩比重が重く、寸法変化率が高くなった。
【0049】
これに対し、実施例1〜6の加熱後の鉱物組成は、比較例1〜5に比べてゲーレナイト、ラーナイト及び酸化カルシウムのピークの相対強度が高く、石英、ウォラストナイト及びアノーサイトのピークの相対強度は低くなり、熱収縮率を低減でき、かつ、外壁、屋根、軒天井等の構造体に使用したとき求めらる曲げ強さ等の諸物性も良好であった。
【0050】
(6)大型供試体の作製
表5に示す配合割合で各材料をその総量が1000kgとなるように配合し、水を加えて約5mとした後、大型パルパー(容量7m)で10分間混合しスラリーを得た。次いで、得られたスラリーを丸網抄造法により抄造して作製したシートを6層に巻き取り、3000mm×3000mmのグリーンシートを成形した。得られたグリーンシートを13MPaで10秒間プレス成形し、得られた成形体を80℃で40時間蒸気養生を行った。これを120℃で乾燥した後、455mm×3030mmに切断して厚さ12.2mmのセメント系無機質板の大型供試体を得た。
【0051】
【表5】

【0052】
(7)大型供試体の評価方法
<反りの測定>
図5は、反り測定用に作製した試験体を示す模式図である。得られた大型供試体を横300mm×縦215mmに切断して供試体3を作製し、タテ側の一方の端部から20mmの部分を2箇所鉄製枠5にビス留めし、周囲を珪酸カルシウム板6で被覆し、供試体3と珪酸カルシウム板6の間をセラミックウール2で充填し、試験体1を作製した。図5(a)は、試験体1の加熱面側を示す図であり、図5(b)は試験体1の非加熱面側を示す図であり、図5(c)は(a)の点線部分の断面を示す図である。次いで、試験体1を、3本のバーナー(燃料;プロパンガス)と3本の熱伝対10が取り付けられた小型耐火炉7に取り付けた。図6は、試験体の反り測定に用いた小型耐火炉を示す模式図である。図6(a)は小型耐火炉を正面からみた図であり、図6(b)は、(a)の点線部分を断面からみた図である。また、図7は、反りを測定するために小型耐火炉7に試験体1を取り付けた状態を示す模式図である。熱伝対10は、試験体1の加熱面から100mm離し、試験体1の中央部と、中央部と上下端部の中間の位置になるよう調整した。さらに、図7に示すように、試験体1に取り付けた供試体3のビスで固定したタテ側の端部と反対側の端部から20mmの部分にワイヤー11を取り付け、これを変位計12を接続した。試験体1を、熱伝対の温度がISO 834の温度曲線に合うよう、バーナーで60分間加熱したときの供試体3の加熱面方向の反りを測定した。
【0053】
<クラック評価試験>
図8は、クラック評価試験用に作製した試験体を示す模式図である。大型供試体を500mm×500mmに切断し供試体14を作製し、鉄製枠5にビス留めし、周囲を珪酸カルシウム板6で被覆し、供試体14と珪酸カルシウム板6の間をセラミックウール2で充填し、試験体13を作製した。図8(a)は、試験体13の加熱面側を示す図であり、図8(b)は試験体13の非加熱面側を示す図であり、図8(c)は(a)の点線部分の断面を示す図である。次いで、試験体13を図6に示す小型耐火炉7に、取り付けた。図9は、クラックの発生を測定するために小型耐火炉7に試験体13を取り付けた状態を示す模式図である。熱伝対10は、試験体13の加熱面から100mm離し、試験体13の中央部と、中央部と上下端部の中間の位置になるよう調整した。試験体13を、熱伝対の温度がISO 834の温度曲線に合うようバーナーで60分間加熱して、クラックの発生状況を目視により確認した。また、小型供試体の評価と同様の方法で、熱収縮率を測定した。
【0054】
(8)大型供試体の評価結果
大型試験体の評価結果を表6に示す。比較例10及び11は熱収縮率が3.5%を超え、反りが大きく、30分前後にビス留め部にクラックが発生した。これに対し、石灰質材料として所定量の海水残渣を配合した実施例7〜9は、熱収縮率が低減され、反りが小さく、60分間加熱してもクラックの発生は認められなかった。
【0055】
【表6】

【0056】
以上のように、本発明のセメント系無機質板は、熱収縮率が低く抑えられるため、反りやクラックの発生を抑制可能であり、優れた耐火性能を有することがわかる。
【符号の説明】
【0057】
1…試験体、2…グラスウール、3…215mm×300mm供試体、4…ビス孔、5…鉄製枠、6…珪酸カルシウム板、7…小型耐火炉、8…断熱耐火煉瓦、9…ガスバーナー、10…熱伝対、11…ワイヤー、12…変位計、13…試験体、14…500mm×500mm供試体、15…ワイヤー取り付け孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント質材料を20〜50質量%、珪酸質材料を20〜60質量%、石灰質材料を7〜40質量%、補強繊維材料を2〜10質量%及び熱収縮を抑制する添加材を1〜13質量%含み、
前記石灰質材料のメジアン径が0.1〜40μmである、セメント系無機質板。
【請求項2】
前記石灰質材料は、酸化カルシウムの含有率が30質量%以上である、請求項1に記載のセメント系無機質板。
【請求項3】
前記石灰質材料は、海水から水酸化マグネシウムを精製する際の副産物であり、炭酸カルシウムを55質量%以上含有する、請求項1又は2に記載のセメント系無機質板。
【請求項4】
前記熱収縮を抑制する添加材は、マイカ及び/又はウォラストナイトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント系無機質板。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−116685(P2012−116685A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266370(P2010−266370)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】