説明

セメント組成物およびそれを用いたセメント成形体

【課題】溶融スラグの配合による曲げ強度の低下を防止する。
【解決手段】(A)セメント、(B)一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる水砕溶融スラグを含む細骨材、(C)粗骨材、および、(D)補強繊維、を含有するセメント組成物であって、(D)補強繊維は、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を含むセメント組成物、および、それを用いたセメント成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥溶融スラグなどの資源を含むセメント組成物、および、それを用いたセメント成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や廃棄物処理施設の負荷の軽減を図る目的で、下水汚泥や一般廃棄物の焼却灰を原料としたセメントを用いたセメント成形体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、そのような下水汚泥や一般廃棄物などの焼却灰を1200℃以上の高温で溶融処理して得られる溶融スラグを、セメント二次製品(例えば、歩車道境界ブロックなど)の原料、特に細骨材の内割りとして使用することが検討されている。特に、後者は下水汚泥や一般廃棄物の大量の有効利用が見込めることから、その技術に対する期待も大きい。
【0003】
しかしながら、溶融スラグと一般的な細骨材の性状の相違から、溶融スラグの配合量(細骨材に対する体積置換率)には限度があり、あまり多量に配合すると、二次製品の重要な要求特性の一つである曲げ強度が低下するという問題があった。
【0004】
一方、人々の生活様式の変化、下水道の普及率の増大などにともない、ゴミや下水の量は増え続けており、溶融スラグの生成量はますます増える傾向にある。このため、溶融スラグをより大量に配合することができる技術が求められている。
【特許文献1】特開2001−247349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、溶融スラグの配合による曲げ強度の低下を防止することができ、溶融スラグを従来に比べより大量に有効利用することが可能となるセメント組成物、および、これを用いたセメント成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる水砕溶融スラグに、特定の補強繊維を併用することにより、溶融スラグによる曲げ強度の低下を抑制することができることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明の一態様によれば、(A)セメント、(B)一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる水砕溶融スラグを含む細骨材、(C)粗骨材、および、(D)補強繊維、を含有するセメント組成物であって、前記(D)補強繊維は、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を含むことを特徴とするセメント組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の他の態様によれば、上記セメント組成物、すなわち、(A)セメント、(B)一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる溶融スラグを含む細骨材、(C)粗骨材、および、(D)補強繊維、を含有するセメント組成物であって、前記(D)補強繊維は、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を含むセメント組成物と水とを混練して得られるスラリーを成形してなることを特徴とするセメント成形体が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融スラグの配合による曲げ強度の低下を防止することができ、溶融スラグを従来に比べより大量に有効利用することが可能となるセメント組成物、および、これを用いたセメント成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いる(A)成分のセメントは、特に限定されるものではなく、例えば普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、エコセメントなどが挙げられる。これらのなかでも、普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0012】
本発明で用いる(B)成分の一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる溶融スラグは、一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を1200℃以上の高温で溶融し、冷却固化することにより得られ、JIS A 5031に規定されている下記物性値を有し、JIS A 1145、JIS A 1146またはJIS A 1804によるアルカリシリカ反応性が無害のものが好ましい。また、溶融スラグのなかでも、水砕溶融スラグが好ましい。
絶乾密度:2.5g/cm以上
吸水率:3.0%以下
安定性:10%以下
粒径判定実績率:53%以上
骨材の微粒分量試験法で失われる量:7.0%以下
【0013】
このような溶融スラグは、(B)成分全体の10〜50体積%含まれることが好ましく、15〜40体積%含まれることがより好ましい。特に好ましい範囲は20〜30体積%の範囲である。この場合、水砕溶融スラグとともに使用される他の細骨材としては、従来より細骨材として一般に使用されている、川、海、陸の砂、砕砂などが挙げられる。
【0014】
本発明で用いる(C)成分の粗骨材としては、従来より一般に使用されている、川、海、陸の砂利、砕石などが挙げられる。これらの骨材の一部を、人工の軽量骨材、再生骨材、充填材などで置換することも可能である。この場合の置換材料としては、高炉スラグ、鉱滓、石灰石、発泡パーライト、発泡黒曜石、炭酸カルシウム、バーキュライト、シラスバルーン、フライアッシュ、シリカヒュームなどが挙げられる。
【0015】
本発明で用いる(D)成分の補強繊維は、主として、上記の溶融スラグを配合することによる強度特性、特に、曲げ強度の低下を防止するために配合される成分である。本発明においては、(D)成分として、少なくとも耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を使用する。
【0016】
ここで、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維とは、セルロース繊維を、多価金属含有化合物および酸で処理したもので、例えば、米国BUCKEYE社社から「UltraFiber500」という商品名で販売されている。その物性値を、汎用のポリプロピレン繊維と比較して表1に示す。
【表1】

【0017】
この耐アルカリ処理されたセルロース繊維は、軽量で、腐食のおそれがなく、耐アルカリ性が良好で、セメントとの親和性、結合力にも優れ、かつ、ダイオキシンなども含まない安全性の高い材料である。
【0018】
本発明においては、上記の耐アルカリ処理されたセルロース繊維を、0.9〜3kg/m配合することが好ましく、1〜1.5kg/m配合することがより好ましい。耐アルカリ処理されたセルロース繊維の配合量が前記範囲より少ないと、溶融スラグの配合による曲げ強度の低下を十分に防止することができず、逆に、前記範囲より多いと、曲げ強度の低下を防止する効果はあまり変わらず、非経済的であるうえ、繊維の分散性が低下するおそれがある。
【0019】
なお、本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、耐アルカリ処理されたセルロース繊維以外の補強繊維を配合することができる。そのような補強繊維としては、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、スチール繊維などを含有させることができる。その他、バージンパルプ、古紙パルプなどのパルプに湿式解砕、乾式解砕などの処理を施したものも使用可能である。
【0020】
本発明のセメント組成物には、以上の各成分の他、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、粘性調整剤、収縮低減剤、その他の一般に使用される混和剤を必要に応じて配合することができる。
【0021】
これらのうち、減水剤、高性能減水剤としては、リグニンスルホン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤などが知られているが、これらのなかでも、ポリカルボン酸系減水剤を添加すると、前述した(D)成分の補強繊維(耐アルカリ処理されたセルロース繊維)の効果をより高めることができる。ポリカルボン酸系減水剤としては、例えば、フローリックVP10、フローリックVP700(以上、いずれも(株)フローリック製 商品名)などが例示される。
【0022】
また、増粘剤としては、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0023】
本発明のセメント組成物を用いてセメント成形体を製造するには、上述した(A)〜(D)成分と、必要に応じて配合される成分と、水とを混練してスラリーを調製する。水の配合量は、得られるセメント成形体の比重、強度などの物性を考慮して適宜決定されるが、通常、水/セメント比が、25〜65%となる範囲が好ましく、40〜60%となる範囲がより好ましい。
【0024】
スラリーの調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記各成分と水とを同時に混練して調製する方法、混和剤を予め水に添加しておく方法などの方法を用いることができる。混練時間は、使用する混練機にもよるが、一般には、全材料を混練機に投入後、少なくとも90秒以上であり、好ましくは90秒乃至5分間である。なお、(D)成分の耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維については、分散性を高めるために、予め水に分散させて使用することが好ましい。
【0025】
このようにして得られたスラリーを、通常、用いられている成形方法、例えば、型枠流込成形法、連続流込成形法、吹付成形法、加圧成型法、振動成型法、遠心力成型法、巻取成型法、真空成型法、押出成型法などにより成形することにより、本発明のセメント成形体を得ることができる。
【0026】
得られた成形体は、その後、必要に応じて切断加工や切削加工を施した後、養生させる。養生方法は、常温養生、蒸気養生、湿潤養生、加温養生、オートクレーブ養生などのいずれの方法を用いてもよい。
【0027】
本発明のセメント成形体の好ましい具体例としては、道路用側溝、道路用側溝蓋、片面歩車道境界ブロックなどの二次製品(プレキャスト製品)が挙げられるが、その他、スレート板、パネル、屋根板、道路舗装などのあらゆるセメント製品に適用可能である。また、これら以外の構造物や、堰防などの土木材料にも適用可能である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例、比較例1、2
表2に示す材料を用いて、表3に示す配合のセメントスラリーを得た。すなわち、粗骨材、水、溶融スラグ、細骨材、セメント、補強繊維、減水剤、AE剤の順に、重力式ミキサー(70L)に投入して、5分間混練した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
上記実施例および比較例1、2で得られたセメントスラリーについて、下記に示す方法で各種特性を評価した。
[スランプ]
JIS A 1101に準拠して測定した。
[空気量]
JIS A 1128に準拠して測定した。
[圧縮強度試験]
JIS A 1108に準拠して行った。
[曲げ強度試験]
JIS A 5371に準拠して行った。
【0033】
上記試験結果を表4に示す。
【表4】

【0034】
表4の結果から明らかなように、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を配合した実施例では、溶融スラグを細骨材に対し20体積%置換させたにもかかわらず、溶融スラグを細骨材に対し10体積%置換させた耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維未配合の比較例1に比べ、曲げ強度が向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント、
(B)一般廃棄物焼却灰および下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上を原料としてなる溶融スラグを含む細骨材、
(C)粗骨材、および、
(D)補強繊維、
を含有するセメント組成物であって、
前記(D)補強繊維は、耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維を含むことを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
さらに、(E)減水剤を含有することを特徴とする請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
(E)減水剤は、ポリカルボン酸系減水剤を含むことを特徴とする請求項2記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記耐アルカリ処理が施されたセルロース繊維は、セルロース繊維を多価金属含有化合物および酸で処理したものであって、平均繊維長2.1mm、平均引張強度(KSI)90〜130、比表面積25,000cm/g、見かけ密度1.10g/cmの繊維であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のセメント組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のセメント組成物と水とを混練して得られるスラリーを成形してなることを特徴とするセメント成形体。

【公開番号】特開2008−162867(P2008−162867A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356542(P2006−356542)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(503044237)株式会社フローリック (9)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【出願人】(503459316)太陽コンクリート工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】