説明

セメント組成物用収縮低減剤及びセメント組成物

【課題】本発明は、セメント組成物が良好な耐久性を発揮すると共に、十分な収縮低減性能を有するセメント組成物用収縮低減剤及びセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】A成分である水に対するA成分の20℃における飽和濃度が1重量%未満である非水溶性の化合物とB成分であるHLB値が9以上の界面活性剤とを有効成分とするセメント組成物用収縮低減剤、および、前記セメント組成物用収縮低減剤を含有するセメント組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント組成物用収縮低減剤及びセメント組成物に関する。詳しくは、水硬性に悪影響を及ぼさないため、セメント組成物の水和反応遅延、強度低下、凍結融解抵抗性の低下を誘引せず、良好なセメント組成物を形成し、乾燥収縮を十分に抑制したセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にセメント組成物用収縮低減剤(以下、収縮低減剤ということがある)は、得られるセメント組成物の耐久性に悪影響を及ぼす乾燥収縮量を低減する目的で使用される。
しかし、収縮低減剤の添加量の増加に伴い、添加されるセメント組成物の収縮抑制量は増加するが、一方で、セメント組成物の生成過程に影響を及ぼし、硬化遅延や強度低下を誘引することが報告されている。このような種々の耐久性上の問題に基づき、収縮低減剤の添加量をセメント組成物の生成過程に悪影響を及ぼさない程度に調整する必要があり、そのため添加量が少なくなり、目標とする収縮抑制量の確保が困難であるといった問題がある。一方、収縮低減剤の添加量は少量であっても、収縮低減剤が添加されたセメント組成物は耐凍害性(凍結融解抵抗性)が著しく劣化することも報告されている(日本建築学会大会学術講演梗概集、昭和60年10月、p.1254(非特許文献1)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2000年9月、p.1321(非特許文献2)、日本建築学会コンクリート材料の基準化に関するシンポジウム資料セメント・コンクリート用混和材料およびそれらの基準化に関する技術の現状と論文集、2006年9月、p.82(非特許文献3)参照)。
【0003】
従来の収縮低減剤の主成分として、特開昭56−37259号(特許文献1)に示される低級アルコールアルキレンオキシド付加物、特開昭59−152253号公報(特許文献2)に示されるポリプロピレングリコール、特開2001−163653号公報(特許文献3)に示される鎖状炭化水素基を有するアルキレンオキシド等の水溶性を保つ化合物が例示される。これらの化合物は水中でイオン解離しない特徴を有するため、セメント粒子に吸着しなかった化合物が、セメントの水和反応に必要なセメントの細孔中水分に溶解する。その結果、セメントの水和反応に悪影響を及ぼし、水和反応遅延、強度低下を誘引してしまう。このため、水溶性を有する収縮低減剤の場合、その使用量は耐久性上問題とならない量しか添加することができず、収縮低減効果を充分発揮することができなかった。
【0004】
この問題を解決するために収縮低減剤の有効成分として水溶性の化合物の代わりに非水溶性化合物を用いることも提案されている。例えば、特開平2−124750号公報(特許文献4)には疎水基部が2−エチルヘキシル基であるグリコールエーテル誘導体が示されている。しかしこの化合物は消泡性が強いためセメント組成物中の空気泡を破泡し、空気泡を連行できない問題があった。また、セメント組成物練り混ぜ後に非水溶性化合物が打設面に浮上してしまう問題もあった。さらに、セメント組成物のフレッシュ性状が著しく悪化する傾向があった。さらに、セメント組成物中の空気泡は単位水量を低減する働きも有するため、セメント組成物中の空気泡を破泡させる現象が生じるとセメント組成物の単位水量を増加させる事となり、結果としてセメント組成物の耐久性に悪影響を与える可能性がある。
【0005】
セメント組成物用収縮低減剤は、拘束条件下のコンクリート構造物で発生するひび割れを低減する目的で使用されることがある、しかし、従来の収縮低減剤はコンクリートの乾燥収縮は抑制しても水和反応に悪影響を及ぼすため、ひび割れを発生させないための耐力(ひび割れ応力)が劣ることになってしまう。そのため、必ずしもひび割れ抑制という点では大きな成果を挙げられているとはいえない。
【0006】
特開2004−175633号公報(特許文献5)には、樹脂エマルションと収縮低減剤の混合物がひび割れ抑止効果を持つことが記載されている。しかし、この混合物中の収縮低減剤は水溶性を保持していない。また、この混合物はセメント組成物中に練り混ぜ時に添加する添加剤ではなく、あくまでも練りあがったセメント組成物の表面に塗布する塗布剤である。
【0007】
【非特許文献1】日本建築学会大会学術講演梗概集、昭和60年10月、p.1254
【非特許文献2】日本建築学会大会学術講演梗概集、2000年9月、p.1321
【非特許文献3】日本建築学会コンクリート材料の基準化に関するシンポジウム資料セメント・コンクリート用混和材料およびそれらの基準化に関する技術の現状と論文集、2006年9月、p.82
【特許文献1】特開昭56−37259号公報
【特許文献2】特開昭59−152253号公報
【特許文献3】特開2001−163653号公報
【特許文献4】特開平2−124750号公報
【特許文献5】特開2004−175633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の従来の問題点に鑑み、セメント組成物が良好な耐久性を発揮すると共に、十分な収縮低減性能を有するセメント組成物用収縮低減剤及びセメント組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の2成分を有効成分とする収縮低減剤は、セメント組成物に添加した際に充分な収縮低減効果を発揮すると共に、水和反応遅延、強度低下、凍結融解抵抗性の低下を誘引しないことを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記の〔1〕〜〔4〕を提供するものである。
〔1〕下記A成分とB成分とを有効成分とするセメント組成物用収縮低減剤。
A成分:水に対するA成分の20℃における飽和濃度が5重量%未満である非水溶性の化合物
B成分:A成分を乳化または可溶化する界面活性剤であって、HLB値(ただし2種以上の界面活性剤の組み合わせの場合には前記界面活性剤を混合したときのHLB値)が9以上の界面活性剤
〔2〕前記A成分が、下記の(a)〜(c)から選択される1種または2種以上の化合物である〔1〕に記載のセメント組成物用収縮低減剤。
(a)脂肪油
(b)飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びそれらの誘導体
(c)HLB値(ただし2種以上の非イオン界面活性剤の組み合わせの場合には前記界面活性剤を混合したときのHLB値)が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載のセメント組成物用収縮低減剤をあらかじめ水に溶解した後、セメントに添加し製造することを特徴とするセメント組成物。
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載のセメント組成物用収縮低減剤を含有するセメント組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤によれば、セメント組成物の硬化時間、材齢3〜7日における初期強度、圧縮強度等の耐久性を低下させることなく、収縮抑制を実現し得る。
また、本発明のセメント組成物用収縮低減剤は添加量を増加させても耐久性に与える影響が少ないため、収縮抑制量に見合った添加量をセメント組成物に添加することが可能となる。
【0012】
更に本発明のセメント組成物用収縮低減剤は、その有効成分が非水溶性化合物であるにもかかわらず、水中油滴エマルション或いは可溶化した状態でセメント組成物に導入しうるので、セメント組成物中に空気泡が連行可能となり良好なフレッシュ性状となる。さらに、セメント組成物中の細孔中水分に収縮低減剤成分が残存しないため、セメント組成物の水和反応過程に悪影響を与えずに緻密なセメント組成物を形成し、それらの結果良好な耐凍害性を確保でき、上述のように耐久性にほとんど影響がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において収縮低減剤とは、乾燥収縮低減剤ともいい、セメント組成物の収縮量を抑制する成分であるセメント組成物用添加剤をいう。
【0014】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤は、下記A成分とB成分とを有効成分とする。
A成分:水に対するA成分の20℃における飽和濃度が5重量%未満である非水溶性の化合物
B成分:A成分を乳化または可溶化する界面活性剤であって、HLB値が9以上の界面活性剤
【0015】
本発明のA成分は、水に対するA成分の20℃における飽和濃度が5重量%未満、好ましくは1重量%である非水溶性の化合物である。飽和濃度は、例えばA成分1gを水1gに溶かして、水溶液の温度を20℃に調整して測定することができる。
【0016】
A成分としては、界面活性剤、油脂、脂肪酸、エステルから選ばれる1種又は2種以上の化合物が例示される。
【0017】
界面活性剤とは両親媒性を持つ分子をいい、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤に分類される。油脂とは一般に高級脂肪酸のグリセリンエステルからなる分子をいい、動物性および植物性のいずれをも含む。また、常温で液体の油脂(脂肪油)であってもよいし常温で固体の油脂であってもよい。
【0018】
A成分は、下記の(a)〜(c)から選択される1種または2種以上の化合物であることが望ましい。
(a)脂肪油
(b)飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びそれらの誘導体
(c)HLB値が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤
【0019】
以下に各化合物について、詳説する。
【0020】
(a)脂肪油
脂肪油とは、油脂のうち、融点が低く常温で液体のものを意味する。脂肪油の由来は特に問わず、動物由来(動物性脂肪油)のもの、および植物由来のものを利用することができる。脂肪油の融点は、通常45℃以下、好ましくは10℃以下である。下限は特に制限はないが、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸共に、通常−5℃以上である。脂肪油の例としては、オリーブ油、あまに油、きり油、鯨油、魚油、肝油、ミンク油などが挙げられる。
【0021】
(b)飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びそれらの誘導体
脂肪酸とは、一般式CnmCOOH(nは通常1以上の整数、好ましくは3〜19(ブタン酸〜5.8.11イコサテトラエン酸)の整数を示す。mは通常1以上の整数、好ましくは7〜41の整数を示す。)で表わされる、炭化水素の1価のカルボン酸である。脂肪酸は、炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有するか(不飽和度)によって分類がなされる。炭素鎖に二重結合あるいは三重結合を有しない(飽和である)ものを飽和脂肪酸といい、炭素鎖に二重結合、三重結合を有するものを不飽和脂肪酸という。脂肪酸としては例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。飽和脂肪酸の場合は短鎖〜中鎖脂肪酸(上記一般式中nが3〜10の脂肪酸)が好ましい。このうち、飽和脂肪酸のカプロン酸、不飽和脂肪酸のオレイン酸がより好ましい。
【0022】
飽和脂肪酸の誘導体、および不飽和脂肪酸の誘導体としては、上記飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸のエステル、アミド、ハロゲン化物、中性脂質などに含まれる脂肪酸グリセリンエステル;脂肪酸の分子末端に存在するカルボキシル基をアミノ基に誘導した脂肪族アミンが例示される。飽和脂肪酸の誘導体、および不飽和脂肪酸の誘導体の具体例としては、ラウリン酸クロライド、オレイン酸クロライドなどの脂肪酸のハロゲン化物;エチレン酸ビスステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド;ラウリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ラノリン酸イソプロピル、ミリスリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリルなどの脂肪酸エステル類、凝固点が0℃以下のジメチルラウリルアミンなどの脂肪族アミンなどが挙げられる。中でも、オレイン酸メチル、ラウリン酸ブチル、エルカ酸メチル、ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン(C1431NO)が好ましく、オレイン酸メチル、N,N−ジメチルドデシルアミン(C1431NO)がより好ましい。
【0023】
(c)HLB値が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤
HLB(Hydrophil−Lipophil−Balance)値とは、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であり、本発明においては、グリフィン法で算定した値である。
【0024】
非イオン界面活性剤とは、水に溶けたときにイオン化しない親水基を持つ界面活性剤を意味する。非イオン界面活性剤のHLB値は、全体として8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。ここで、「全体として」とは、2種以上の非イオン性界面活性剤を用いる場合には、かかる2種以上の非イオン界面活性剤を混合した際のHLB値を意味する。また、1種類の非イオン界面活性剤を用いる場合には、その非イオン界面活性剤のHLB値を意味する。HLB値は加成性があるためである。
【0025】
非イオン界面活性剤の疎水基部の炭素数は4〜18であることが好ましい。疎水基部とは、非イオン界面活性剤の構造のうち、前記界面活性剤を水中に添加したとき疎水性を示す部分を意味する。HLB値が8以下の非イオン界面活性剤としては、疎水基部の炭素数4以上のアルキレンオキシド付加物が例示される。疎水基部の炭素数に上限は特に限定されないが、通常は6以上、好ましくは8以上である。
【0026】
HLB値が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤の疎水基部のより好ましい形態としてはオクチル(炭素数8)、デシル(炭素数10)、ラウリル(炭素数12)、ミリスチル(炭素数14)、セチル(炭素数16)、ステアリル(炭素数18)が例示される。
【0027】
非イオン界面活性剤の、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数は、1以上30以下であることが好ましく、2以上20以下であることが好ましい。炭素数2〜3のオキシアルキレン基としては、エチレンオキサイド(オキシエチレン基)、プロピレンオキサイド(オキシプロピレン基)が挙げられる。炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数とは、エチレンオキサイドの付加モル数とプロピレンオキサイドの付加モル数の合計を意味する。エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドのそれぞれの合計モル数は特に限定されないが、通常はエチレンオキサイドの付加モル数は0以上20以下が好ましく、0以上10以下であることがより好ましい。プロピレンオキサイドの付加モル数は2以上20以下が好ましく、2以上12以下がより好ましい。
【0028】
前述したようにHLB値は加成性があるため、HLB値が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤として2種以上の非イオン界面活性剤を混合した場合も問題はない。
【0029】
HLB値が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤としては、C817−O−(PO)9H、C817−O−(EO)2(PO)9H、C1225−O−(PO)9H、C1633−O−(PO)9Hがより好ましい。HLBが8を超える非イオン界面活性剤を含むが全体としてHLBが8以下となる、2以上の非イオン界面活性剤の組み合わせ例として、C817−O−(PO)9H(HLB:0)とCH=CH−CH−O−(EO)−H(HLB:12)の組み合わせが挙げられる。この場合、C817−O−(PO)9HとCH=CH−CH−O−(EO)−Hの重量比率はHLBが8になる比率となるよう適宜調整できるが、通常は3.4〜9.5:0.5〜6.6、好ましくは5〜7:5〜3、より好ましくは7:3の範囲で調整される。
【0030】
このようなA成分としては、(a)〜(c)のうち(b)および(c)が好ましく、(b)のエルカ酸メチル、ラウリン酸ブチル、(c)オクチル〜ラウリルアルコールアルキレンオキシド付加体であることがより好ましい。
【0031】
尚、上述の通り、本発明においてはA成分として(a)〜(c)から選択される化合物を単独で、或いは2種類以上を使用することができる。
【0032】
本発明におけるB成分は界面活性剤である。B成分の界面活性剤のHLB値は、全体として9以上であり、好ましくは10以上である。ここで、「全体として」とは、2以上界面活性剤を用いる場合には、かかる2以上の界面活性剤を混合した際のHLB値を意味する。また、1種類の界面活性剤を用いる場合には、その界面活性剤のHLB値を意味する。HLB値は加成性があるためである。
【0033】
B成分の界面活性剤は、A成分を乳化または可溶化することができるものを1種類または2種類以上、全体としてHLB値が9以上であるように選択すれば特に限定されない。2種類以上を組み合わせる場合には、HLB値が9未満のもの、好ましくは5以上9未満のものでも用いることができる。このような界面活性剤としては、下記のような非イオン界面活性剤が例示される。
B成分の界面活性剤は、A成分を乳化または可溶化することができる界面活性剤である。すなわち、セメント組成物中の水或いは本発明の収縮低減剤が含有する水にA成分を溶解させエマルションまたは可溶化させることができる。エマルションとは一般に、水中におけるエマルション径が0.1〜10μmであることを意味する。可溶化とは一般に、水中におけるエマルション径が0.1μm以下、通常は0.001〜0.1μmであることを意味する。従って、B成分の界面活性剤は、セメント組成物中の水或いは本発明の収縮低減剤が含有する水における、A成分のエマルション径を10μm以下とし得る界面活性剤である。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等のポリオキシエチレン誘導体;ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン;アルキルアルカノールアミド;ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が例示される。このうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、C1427−O−(EO)12H、C1225−O−(EO)7Hが好ましい。
【0035】
好ましいA成分とB成分の組み合わせの例としては、C1225−O−(EO)3H(HLB:7.9)およびC1225−O−(EO)7H(HLB:12.1)、C1225−O−(EO)9H(HLB:13.3)をHLB9以上となるように混合したものが挙げられる。
【0036】
前記A成分とB成分の混合比率(混合質量比率)は、特に限定されない。
【0037】
例えば、A成分が20〜99.5重量部、B成分が0.5〜80重量部で混合することが望ましく、A成分が45〜95重量部、B成分が5〜55重量部で混合することがより望ましい。この範囲とすることにより、セメント組成物中にA成分とB成分との混合物を添加した場合にセメント組成物を構成する水に対し水中油滴エマルションを形成するか、あるいは前記組成物中のA成分を水に可溶化させることができる。なお、本発明のセメント組成物用収縮低減剤は、あらかじめ水に添加してからセメント組成物に添加することもできるが、この場合もセメント組成物を構成する水に対し水中油滴エマルションを形成するか、あるいは前記組成物中の水に可溶化させればよく、あらかじめ水に添加する段階では油中水滴エマルションを形成していてもよい。
【0038】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤においては、A成分およびB成分のほかに水を含有し得る。この場合、水中油滴エマルションを形成させるか、或いは水中にA成分を可溶化させる場合にはA成分とB成分の合計と水の重量比率は、水の比率の方が多ければよい。一般には、A成分とB成分の合計:水を、30:70〜1:99とすることが好ましく、30:70〜49:51とすることがより好ましい。なお、A成分とB成分の混合比率は、上記A成分とB成分の合計と水の比率とはかかわりなく上記範囲で調整することができる。
【0039】
一方、油中水滴エマルションを形成させる場合にはA成分とB成分の合計と水の比率は、水の比率の方が少なければよい。一般には、A成分とB成分の合計:水を、70:30〜99:1とすることがより好ましく、51:49〜99:1とすることがより好ましい。なお、A成分とB成分の混合比率は、上記A成分とB成分の合計と水の比率とはかかわりなく上記範囲で調整することができる。
なお、水中油滴エマルションとは水が連続相であり油が分散相である状態(油滴が水中に分散した状態)を意味する。油中水滴エマルションとは油が連続相であり水が分散相である状態(油滴が水中に分散した状態)を意味する。
【0040】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤が水を含有しなくともよいことは、言うまでもない。水を含有しない本発明のセメント組成物用収縮低減剤を、セメント組成物中に添加した場合には、該組成物中の水との間で水中油滴エマルションが形成されるか、或いはA成分がB成分の作用で水中に可溶化する。また、水を含有しない本発明のセメント組成物用収縮低減剤をあらかじめ水に溶解した後、セメントに添加してセメント組成物を製造することもできる。
【0041】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤には、必要に応じてその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、空気連行成分、消泡成分(制泡成分)などが例示される。空気連行成分をセメント組成物用収縮低減剤に含有させることにより前記収縮低減剤に制泡機能を付加することができる。空気連行成分としては、カルボン酸型化合物(例えば、樹脂酸塩、脂肪酸塩)、硫酸エステル型化合物(例えば、高級アルコール硫酸エステル塩)、スルホン酸型化合物(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩)、エーテル型・エステルエーテル型化合物(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)が例示される。消泡成分としてはポリエーテル系化合物、脂肪酸・脂肪酸誘導体類、アルコール類が例示される。空気連行成分、消泡成分とも上記具体例の中から1種を選択して、或いは2種類以上を組み合わせて利用することができる。
【0042】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤は、セメント組成物を構成する材料に添加し得る。
【0043】
セメント組成物とは、セメント、モルタル(セメントに細骨材、水を混ぜたもの)またはコンクリート(モルタルに粗骨材を加えたもの)等をいい、これら以外の材料(混和剤)を含み得る。
【0044】
セメントは、水硬性セメントであれば特に限定されない。セメントとしては例えば、普通、低熱、中庸熱、早強、超早強、耐硫酸塩等のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、エコセメント、シリカヒュームセメントが挙げられ、また、セメント組成物中の粉体としてシリカヒューム、フライアッシュ、石炭石微粉末、高炉スラグ微粉末、膨張材、その他の鉱物質微粉末等が挙げられる。
【0045】
細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂、重量骨材、軽量骨材、スラグ骨材、再生骨材等が例示される。
【0046】
粗骨材としては、川砂利、砕石、重量骨材、軽量骨材、スラグ骨材、再生骨材等が例示される。
【0047】
セメント組成物に使用できる水は特に限定されず、JIS A 5308付属書9に示される上水道水、上水道水以外の水(河川水、湖沼水、井戸水など)、回収水等が例示される。セメント組成物中の水含有量は、通常4〜50重量%である。一般にセメント組成物中の水含有量に対しセメント組成物用収縮低減剤が、1〜49重量%であると水中油滴エマルション、可溶化を形成する。
【0048】
セメント組成物においては、上述のようにセメントペースト、モルタル及びコンクリート以外の材料(混和剤)を併用し得る。かかる材料は、本発明の効果を損なわないもの、使用量であれば特に限定なく使用し得る。例えば、硬化促進剤、凝結遅延剤、防錆剤、防水剤、防腐剤等が挙げられる。
【0049】
コンクリート組成物の製造方法、運搬方法、打設方法、養生方法、管理方法などについて特に制限はなく、通常のコンクリートと同様の方法を取り得る。
【0050】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤のセメント組成物に対する添加量は、セメント、コンクリート、モルタル等の水硬性粉体およびそのほかに必要に応じて使用する粉体材料の合計に対して、0.2重量%〜10重量%であることが好ましく、1重量%〜4重量%であることが好ましい。
【0051】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤のセメント組成物への添加方法は、特に限定されないが、レディミクストコンクリート製造中、若しくは製造後のフレッシュコンクリート中に添加する方法が例示される。
【0052】
本発明のセメント組成物用収縮低減剤がセメント組成物中に添加されると、有効成分である不揮発成分の非水溶性化合物が、水中油滴エマルション、または油中水滴エマルションの形で組成物中に混入され得る。その結果、セメント組成物の細孔中水分に非水溶性化合物が残存しないので、セメント組成物の生成過程に悪影響を与えることなく、良好な水和反応、強度発現を発揮するセメント組成物が得られる。このため、本発明のセメント組成物用収縮低減剤は、従来の収縮低減剤より添加量が多くても耐久性に与える影響が少ないため、収縮抑制量に見合った添加量をセメント組成物に添加することが可能となる。また、水中油滴エマルションの形態でセメント組成物中に導入することで、空気泡を導入することが可能となり、セメント組成物のフレッシュ性状にも悪影響を与えない。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明の有効性を説明するが実施例にのみに本発明は限定されるものではない。
【0054】
実施例1−1〜1−4、実施例2〜10、比較例1、比較例2−1〜2−4および比較例3
表1に示す組成でA成分とB成分を、スターラーを用いて2分間攪拌混合して乳化製剤を調製した。実施例3については乳化製剤を水に添加した。表1中の数値はA成分、B成分の合計を100重量部とした際の各々の重量部割合を示す。また表1中の「PO」「EO」はそれぞれオキシプロピレン基、オキシエチレン基を示す。また、実施例のA成分の、水に対する飽和濃度(20℃)は、いずれも0.5重量%未満であった。
【0055】
【表1】

【0056】
〔セメントペースト試験〕
水セメント重量比0.5のセメントペーストから簡易断熱温度上昇試験を行った。使用材料は普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/m3)を使用し、環境温度20℃の室内で試験を実施した。計量したセメントに所定量の水道水及び収縮低減剤を投入し、ハンドミキサで1分間低速攪拌後、高速で1分間攪拌した。攪拌した試料をφ5cmの円筒型ビニル袋に250g量り取り、d=20cm、w=20cm、h=30cmのウレタンフォーム製の簡易断熱箱の中心部に入れ、T熱伝対を用いて試料中心部の発熱温度(水和発熱温度)を測定した。発熱温度はセメントの水和反応に伴う反応熱であり、本試験は、凝結時間や初期強度に影響を与える初期の水和反応の活性具合を確認できる試験である。比較例1から逸脱した発熱性状は初期の水和反応に影響を与えている結果である。
【0057】
表2にセメントペースト試験結果である最高温度到達時間と最高温度を示す。
【0058】
【表2】

【0059】
図1に経過時間と水和発熱温度の関係を示す。
【0060】
〔コンクリートの物性〕
表3に示すコンクリート調合条件で、普通ポルトランドセメント3種等量混合(密度=3.16g/m3、比表面積=3330cm2/g)、細骨材(掛川産山砂、密度=2.58g/m3)及び粗骨材(青梅産硬質砂岩砕石、密度=2.67g/m3)を使用して環境温度20℃の室内でコンクリートを混練した。全区分で、(株)フローリック社製のAE減水剤標準形フローリックSをセメント重量に対して1重量%添加した。目標スランプを19±1cmとし、空気量に関しては目標空気量を4.5±1.5%に設定し、目標空気量となるよう(株)フローリック社製のAE150(主成分ポリオキシエチレン型界面活性剤)を使用し調整した。収縮低減剤はコンクリート製造後、ミキサ内のコンクリートに、表3に示す所定量の収縮低減剤を混入しミキサで攪拌した。
【0061】
表4にスランプ値(SL)、空気量(Air)、凝結時間を示す。スランプ値はJIS A 1101に、空気量はJIS A 1128に、凝結時間はJIS A 1147に準拠し測定を行った。
【0062】
表5に圧縮強度、乾燥収縮及び凍結融解の試験結果を示す。圧縮強度は、JIS A 1108に準拠し、20℃の水中で養生し、材齢7日及び28日で試験を行い算出した。乾燥収縮試験はJIS A 1129に準拠して行った。コンクリートの打設後直ちに10×10×40cmの供試体を作製し、24時間後に脱形を行い、刻線を引いた後、20℃の水中で1週間養生を行い、その後、20℃、R.H.60%の恒温恒湿室で保存し乾燥収縮率の測定を行った。尚、表4中の乾燥収縮率は乾燥材齢13週時の値を示す。凍結融解試験はJIS A 1148−A法に準拠して行った。このコンクリートの打設後直ちに10×10×40cmの供試体を作製し、24時間後に脱形を行い、20℃の水中で4週間養生を行い、乾燥収縮率試験を開始した。300サイクル(c)時の相対動弾性係数を求めた。尚、相対動弾性係数比は60%以上が、耐凍害性が良好とされている。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
図1、表2、表4、及び表5から明らかなとおり、本発明の収縮低減剤は、セメント組成物に添加した際に充分な収縮低減効果を発揮すると共に、添加量を増量した場合にもセメント組成物の水和反応遅延、強度低下、凍結融解抵抗性の低下を誘引しないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】セメントペースト試験における経過時間と水和発熱温度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A成分とB成分とを有効成分とするセメント組成物用収縮低減剤。
A成分:水に対するA成分の20℃における飽和濃度が5重量%未満である非水溶性の化合物
B成分:A成分を乳化または可溶化する界面活性剤であって、HLB値(ただし2種以上の界面活性剤の組み合わせの場合には前記界面活性剤を混合したときのHLB値)が9以上の界面活性剤
【請求項2】
前記A成分が、下記の(a)〜(c)から選択される1種または2種以上の化合物である請求項1に記載のセメント組成物用収縮低減剤。
(a)脂肪油
(b)飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びそれらの誘導体
(c)HLB値(ただし2種以上の非イオン界面活性剤の組み合わせの場合には前記界面活性剤を混合したときのHLB値)が8以下、疎水基部の炭素数は4〜18、炭素数2〜3のオキシアルキレン基の合計付加モル数が2〜30である非イオン界面活性剤
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメント組成物用収縮低減剤をあらかじめ水に溶解した後、セメントに添加し製造することを特徴とするセメント組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のセメント組成物用収縮低減剤を含有するセメント組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−37116(P2010−37116A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199021(P2008−199021)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(503044237)株式会社フローリック (9)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】