説明

セメント調合物、タイル壁及びセメント調合物の判別方法

【課題】所定のセメント調合物であるか否かを容易かつ正確に判別することができるセメント調合物と、このセメント調合物を用いたタイル壁を提供する。
【解決手段】セメント及び細骨材を含有するセメント調合物において、該セメント調合物を用いたセメント硬化物であることを判別するための着色微粒子を含有させたことを特徴とする。壁面から試料を採取し、塩酸で溶解処理し、残渣について顕微鏡観察して着色微粒子の有無をチェックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル下地等を形成するためのセメント調合物と、このセメント調合物を用いたタイル壁と、タイル下地等が所定のセメント調合物によって形成されたものであるか否か判別する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
タイルの剥離を防止するためには、モルタル下地を適正に形成することが重要である。そのためには、タイル下地形成に適切な配合のセメント調合物を用い、指定された水セメント比となるように適正量の水を加えて混練し、鏝塗りを行う必要がある。そこで、近年、タイルメーカーより、タイル下地用のセメント調合物が市販され、タイル施工業者に当該セメント調合物を使用することが推奨されるようになってきている。
【0003】
このような背景より、施工されたタイル壁の下地が、指定のセメント調合物によって形成されたものであることを剥離事故発生時などに確認できるようにすることが望まれている。
【0004】
特開平11−1354には、コンクリート用粉状添加物に蛍光染料を混合しておくことにより、打設されたコンクリートが当該添加物を含有するものであるか否かを蛍光の有無によって判別する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−1354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開平11−1354のように蛍光染料を添加物に混入しても、セメント調合物全体からみるとその量は微量であり、明瞭な蛍光を生じさせて正確な判別を行うことは困難である。また、染料を多量に混入することは、コスト的に不利であると共に、硬化不良をひき起こす原因にもなりかねない。
【0006】
本発明は、所定のセメント調合物であるか否かを容易かつ正確に判別することができるセメント調合物と、このセメント調合物を用いたタイル壁を提供することを目的とする。また、本発明は、タイル下地等のセメント硬化物が所定のセメント調合物を用いて形成されたものであるか否かを容易かつ正確に判別することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)のセメント調合物は、セメント及び細骨材を含有するセメント調合物において、該セメント調合物を用いたセメント硬化物であることを判別するための着色微粒子を含有させたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のセメント調合物は、請求項1において、着色微粒子は着色した珪砂であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のセメント調合物は、請求項2において、珪砂に無機顔料を焼き付けることによって珪砂が着色されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4のセメント調合物は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記着色微粒子の平均粒径が0.02〜0.5mmであり、含有率が0.2〜5%であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5のセメント調合物は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記着色微粒子が有彩色又は黒色であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6のセメント調合物は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記着色微粒子が赤色であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7のセメント調合物は、請求項1ないし6のいずれか1項において、タイル下地を形成するためのモルタル用セメント調合物であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明(請求項8)のタイル壁は、壁面にセメント調合物によってタイル下地を形成し、その上にタイルを貼り付けたタイル壁において、該セメント調合物が請求項1ないし7のいずれか1項に記載のセメント調合物であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明(請求項9)のセメント調合物の判別方法は、セメント硬化物の一部を採取した後、破砕し、この破砕物を酸によって溶解処理し、残渣を顕微鏡観察することにより着色微粒子の有無を判別し、着色微粒子入りのセメント調合物によって形成されたセメント硬化物であるか判別することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、セメント調合物に着色微粒子を含有させておくので、タイル下地にこの着色微粒子が含有されているか否か判別することにより、本発明のセメント調合物によって形成されたタイル下地であるか否かを正確かつ容易に判別することができる。
【0017】
この判別を行うには、タイル壁等のセメント硬化物から試料を採取し、破砕した後、酸で溶解処理し、顕微鏡観察して残渣中に着色微粒子が含有されているか判別すればよい。
【0018】
なお、着色微粒子としては着色した珪砂が好ましく、特に無機顔料を焼き付けることによって着色した珪砂が、耐久性に優れ、好適である。
【0019】
無機顔料微粒子として、平均粒径が0.02〜0.5mmのものを用い、混入率を0.2〜5%とした場合には、肉眼では着色微粒子が殆ど認められないのに対し、顕微鏡観察によれば無機顔料微粒子が明瞭に認められる。
【0020】
本発明は、タイル下地に用いられたセメント調合物の判別に好適であるが、コンクリートに用いられたセメント調合物判別などにも利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明のセメント調合物は、セメント、細骨材及び着色微粒子を含有する。タイル下地用セメント調合物のセメントとしては早強セメントが好適であるが、普通ポルトランドセメントや白色セメントなどであってもよい。タイル下地用セメント調合物のセメントの配合量は45〜65重量%、特に50〜60重量%程度が好ましい。
【0023】
細骨材としては、珪砂を用いればよいが、さらにパーライトなどの軽量細骨材を含有してもよい。
【0024】
この細骨材としての珪砂の平均粒径は0.05〜0.5mm程度が好ましい。
【0025】
タイル下地用セメント調合物の場合、細骨材としての珪砂配合量は15〜25重量%特に18〜22重量%が好ましい。パーライトの配合量は1〜5重量%特に2〜4重量%が好ましい。
【0026】
着色微粒子としては、目立ち易い赤、青、黄、緑などの有彩色又は黒色に着色した微粒子が好適であり、中でも、顕微鏡で識別しやすい赤色に着色した微粒子が好適である。
【0027】
微粒子の平均粒径は0.02〜0.5mm程度が好適である。
【0028】
微粒子の素材としては珪砂が好適である。珪砂を着色するには、無機顔料を焼き付けるのが好適である。無機顔料を焼き付けることにより珪砂表面に形成された着色層は、堅牢であり、長期にわたって退色することがない。無機顔料を珪砂微粒子に焼き付けるには、無機顔料と若干量(例えば、無機顔料の10〜50重量%程度)のガラス成分(例えば珪酸ソーダ成分)との混合物をスラリーとし、このスラリー中に珪砂微粒子を浸漬した後、引き上げ、乾燥後、500〜700℃程度で焼成するのが好ましい。無機顔料の付着量を調整することにより、色の濃淡を調整することができる。
【0029】
赤色の無機顔料としては、ベンガラが好適である。青色の無機顔料としてはコバルトなどが好適であり、黄色の無機顔料としてはオードなどが好適であり、黒色の無機顔料としてはカーボンブラックなどが好適である。
【0030】
なお、着色微粒子としては、無機顔料で着色した珪砂に限定されるものではなく、鉄鉱石やジルコンサンドなどの有色岩石を破砕ないし粉砕した微粒子を用いてもよい。
【0031】
タイル下地用セメント調合物中の着色微粒子の含有量は0.2〜5重量%特に0.5〜2.0重量%程度が好適である。
【0032】
本発明のセメント調合物は、その他の配合物を含有してもよい。例えば、耐火性、白色性、収縮率の調整などを改善するために炭酸カルシウムを配合してもよい。また、モルタルのひび割れを防止するために、ナイロン製などの繊維を配合してもよい。さらに、保水剤、作業性改善剤、減水剤、AE剤などの添加剤を配合してもよい。
【0033】
本発明のセメント調合物を用いてモルタル下地を形成するには、セメント調合物に水を水セメント比が40〜60%となるように加えて混練した後、鏝によって壁面に塗りつければよい。モルタルが所定強度になるまで、硬化した後、弾性接着剤を用いてタイル貼りする。
【0034】
タイルの剥離事故などが生じた場合に、下地が本発明のセメント調合物を用いて形成されたものであるか否かを確認するには、下地の一部をハツリなどにより採取し、平均粒径10mm以下例えば平均粒径5〜10mm程度に粉砕した後、酸、好ましくは10%の塩酸中に入れ、必要に応じ加温しながら撹拌してセメント成分や炭酸カルシウムを溶解除去した後、水洗及び乾燥し、顕微鏡観察し、着色微粒子の有無を判別すればよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例及び比較例について説明する。
【0036】
実施例1
次の配合のセメント調合物を、各材料を秤量後、ブレンダーによって混合することによって調合した。
早強セメント 55重量部
珪砂(平均粒径0.1mm) 19.5重量部
着色珪砂(赤色、平均粒径0.1mm) 0.5重量部
炭酸カルシウム 20重量部
パーライト(平均粒径1.5mm) 3重量部
作業性改良剤 2重量部
保水剤 0.12重量部
このセメント調合物100重量部に対し水32重量部を加えて混練し、この混練モルタルを壁面に鏝で塗りつけてタイル下地を形成した。
【0037】
3日経過後、このモルタルよりなるタイル下地面に弾性接着剤を用いタイル張りを施した。
【0038】
また、タイル下地面の一部をはつって試料100gを採取した。これをハンマーによって破砕した後、10gを分取し、10%の塩酸に投入し、常温で、1時間撹拌し、セメント成分を溶解した。
【0039】
その後、残渣を濾別し、水洗した後、乾燥した。この乾燥物の表面を150倍の顕微鏡で拡大して観察すると共に、写真撮影した。その結果、写真の1cm当りに平均して50個の赤色微粒子が分散して存在することが認められた。
【0040】
比較例1
実施例1において、セメント調合物に着色珪砂を配合しなかったこと以外は同一配合のセメント調合物を調合した。
【0041】
このセメント調合物に上記と同一水セメント比にて水を加えて混練し、壁面に塗り付けた。3日後、試料を採取し、同様に破砕及び塩酸溶解処理を行い、残渣について顕微鏡観察したが、赤色微粒子は全く認められなかった。
【0042】
この実施例及び比較例より、本発明によると、モルタルが所定のセメント調合物を用いたものであるか容易にかつ確実に判別できることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び細骨材を含有するセメント調合物において、該セメント調合物を用いたセメント硬化物であることを判別するための着色微粒子を含有することを特徴とするセメント調合物。
【請求項2】
請求項1において、着色微粒子は着色した珪砂であることを特徴とするセメント調合物。
【請求項3】
請求項2において、珪砂に無機顔料を焼き付けることによって珪砂が着色されていることを特徴とするセメント調合物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記着色微粒子の平均粒径が0.02〜0.5mmであり、含有率が0.2〜5%であることを特徴とするセメント調合物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記着色微粒子が有彩色又は黒色であることを特徴とするセメント調合物。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記着色微粒子が赤色であることを特徴とするセメント調合物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、タイル下地を形成するためのモルタル用セメント調合物であることを特徴とするセメント調合物。
【請求項8】
壁面にセメント調合物によってタイル下地を形成し、その上にタイルを貼り付けたタイル壁において、該セメント調合物が請求項1ないし7のいずれか1項に記載のセメント調合物であることを特徴とするタイル壁。
【請求項9】
セメント硬化物の一部を採取した後、破砕し、この破砕物を酸によって溶解処理し、残渣を顕微鏡観察することにより着色微粒子の有無を判別し、着色微粒子入りのセメント調合物によって形成されたセメント硬化物であるか判別することを特徴とするセメント調合物の判別方法。

【公開番号】特開2008−115026(P2008−115026A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297926(P2006−297926)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】