説明

セラミックグリーンシートの製造装置

【課題】 膜厚変動や成膜不良を抑制したセラミックグリーンシートの製造装置を提供する。
【解決手段】 キャリアシート1を支持するステージ5の、キャリアシート1を介してブレード3と対向している位置に、ブレード3の形状に対応した溝10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品に用いられるセラミックグリーンシートを作製するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品は、圧電積層セラミックアクチュエータや積層セラミックコンデンサなど、多岐にわたり製造されている。その製造方法は、セラミック粉末と有機樹脂、溶剤、可塑剤などの添加物を加えて攪拌したセラミックスラリーを作製し、セラミックスラリーを一定の厚みで成膜、乾燥し、セラミックグリーンシートを製造する方法である。さらに、このセラミックグリーンシートに内部電極を形成し積層して、焼結により一体成形し、積層セラミック電子部品を得る方法が一般的である。
【0003】
積層セラミック電子部品の品質は、セラミックグリーンシートの品質に影響されやすい。このため、異物の混入、ピンホール、スジ、ムラなどの成膜不良が無いセラミックグリーンシートを製造することが重要である。
【0004】
ここで、従来のセラミックグリーンシート製造装置を用いた、セラミックグリーンシートの製造方法について説明する。図3は、従来のセラミックグリーンシートの製造装置を示す模式図である。この製造装置を使用した製造方法は、広範囲の厚み(約10〜100μm程度)のセラミックグリーンシート製造が可能で、一般的な製造方法のひとつである。図4は、従来のセラミックグリーンシートの製造装置の塗工部を示す平面図である。
【0005】
図3および図4に示すように、従来のセラミックグリーンシートの製造装置は、帯状のキャリアフィルム1を支持するステージ5と、キャリアフィルム1を進行方向11に移動させる駆動手段と、キャリアフィルム1の上部にセラミックスラリー6aを収容する貯蔵部2を備えている。さらに、貯蔵部2のキャリアフィルム1の進行方向11の下流側には、キャリアフィルム1の進行方向11に対して垂直になるように、板状のブレード3が設けられている。ブレード3は、キャリアフィルム1と所定の間隙をあけて対向している。キャリアフィルム1は、巻き出しロール8aと巻き取りロール8bの駆動により、一定の張力を維持した状態で、進行方向11に連続移動する。
【0006】
貯蔵部2に収容されているセラミックスラリー6aを、ブレード3とキャリアフィルム1の間隙から吐出し、キャリアフィルム1の表面にセラミックスラリー6aを一定の厚みで塗工する。また、ブレード3には、キャリアフィルム1との間隙の大きさを調整するダイヤルゲージ4等の調整手段が設けられている。この調整手段により、キャリアフィルム1とブレード3の間隙の大きさを調整することにより、セラミックスラリー6bの塗工厚みを調整することが可能となる。セラミックスラリー6bが塗工されたキャリアフィルム1は、さらに進行方向11に移動し、乾燥部7を通過してセラミックスラリー6bが乾燥し、セラミックグリーンシート6が得られる。
【0007】
特許文献1には、従来のセラミックグリーンシートの製造方法により、キャリアフィルム上にセラミックグリーンシートを製造する方法が記載されている。特許文献1では、セラミックスラリー溜めにセラミックスラリーを供給する供給口をセラミックスラリー溜めの幅まで押し広げる構成により、セラミックグリーンシートの歩留まりを向上する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4―25404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セラミックグリーンシートの品質を確保するために、セラミックグリーンシートの製造工程は、クリーンルーム内での作業が一般的である。しかし、キャリアフィルムには静電気が発生しやすく、静電気除去装置を使用したとしても、キャリアフィルムに付着する異物を完全に除去することが困難である。
【0010】
また、キャリアフィルムのセラミックグリーンシート形成面である表面には、剥離剤がコーティング処理されており、この剥離剤がキャリアフィルムの裏面に転写することがある。キャリアフィルムの裏面に転写した剥離剤は、キャリアフィルムを支持するステージ上に付着し、長時間の製造を行う場合には、ステージ上に付着した剥離剤が累積する問題がある。
【0011】
上述したキャリアフィルムの裏面に付着した異物や、ステージ上に累積した剥離剤がある状態で、セラミックスラリーを塗工した場合、キャリアフィルムの表面のセラミックスラリーの塗工面に影響を与える可能性が高い。具体的には、キャリアフィルムの裏面の異物やステージ上の剥離剤が原因となり、セラミックスラリーを塗工する部分である、ステージ上に支持されたキャリアフィルムとブレードの間隙の大きさが変動することがある。間隙の大きさが変動することにより、セラミックグリーンシートの膜厚変動やピンホール等の成膜不良を発生させるという課題がある。
【0012】
そこで本発明は、膜厚変動や成膜不良を抑制したセラミックグリーンシートの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、キャリアフィルムを支持するステージの、キャリアフィルムを介してブレードと対向している位置に、ブレードの形状に対応した溝を形成する構成である。この構成により、セラミックスラリーを塗工する部分において、ステージはキャリアフィルムを支持していない状態になる。したがって、ステージに剥離剤が付着せず、また、キャリアフィルムの裏面に付着した異物の逃げ部を形成し、セラミックスラリーの塗工面への影響を防ぐことができる。
【0014】
すなわち、本発明によれば、帯状のキャリアフィルムを支持するステージと、前記キャリアフィルムを一方向に進行させる駆動部と、前記キャリアフィルムの上部に配置されセラミックスラリーを収容する貯蔵部を備え、前記貯蔵部の前記キャリアフィルムの進行方向の下流側に、前記キャリアフィルムの進行方向に対して垂直に板状のブレードを設け、前記ブレードは、前記キャリアフィルムと間隙をあけて対向し、前記間隙からセラミックスラリーを吐出し、前記キャリアフィルム上に前記セラミックスラリーを塗工するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記ステージの前記ブレードと前記キャリアフィルムを介して対向する位置に、溝を有することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記溝の寸法は、前記ブレードの前記ステージに対向する面の各寸法に対して、−0.1mm〜+1mmであることを特徴とする上記のセラミックグリーンシート製造装置が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、膜厚変動や成膜不良を抑制したセラミックグリーンシートの製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のセラミックグリーンシートの製造装置の塗工部を示す平面図。
【図2】本発明のセラミックグリーンシートの製造装置を示す模式図。
【図3】従来のセラミックグリーンシートの製造装置を示す模式図。
【図4】従来のセラミックグリーンシートの製造装置の塗工部を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明のセラミックグリーンシートの製造装置の塗工部を示す平面図である。図2は、本発明のセラミックグリーンシートの製造装置を示す模式図である。
【0020】
図1に示すように、本発明のセラミックグリーンシートの製造装置は、帯状のキャリアフィルム1を支持するステージ5と、キャリアフィルム1の上部に配置しセラミックスラリー6aを収容する貯蔵部2と、貯蔵部2に配置する板状のブレード3が設けられている。図2に示すように、キャリアフィルム1は、巻き出しロール8aと巻き取りロール8bの駆動により、一定の張力を持った状態で進行方向11に連続移動する。
【0021】
貯蔵部2の、キャリアフィルム1の進行方向11の下流側には、ブレード3が設けられており、ブレード3は、進行方向11に対して垂直に配置されている。また、ブレード3は、キャリアフィルム1と所定の間隙をあけて対向している。
【0022】
貯蔵部2に収容されているセラミックスラリー6aを、ブレード3とキャリアフィルム1の間隙から吐出し、キャリアフィルム1の表面に一定の厚みで塗工する。また、ブレード3には、キャリアフィルム1との間隙の大きさを調整するダイヤルゲージ4等の調整手段が設けられている。この調整手段により、キャリアフィルム1とブレード3の間隙の大きさを調整することにより、セラミックスラリー6bの塗工厚みを調整することが可能となる。セラミックスラリー6bが塗工されたキャリアフィルム1は、さらに進行方向11に移動し、乾燥部7を通過してセラミックスラリー6bが乾燥し、セラミックグリーンシート6が得られる。
【0023】
本発明では、キャリアフィルム1を支持するステージ5の、ブレード3と対向する位置に溝10を形成する構成としている。キャリアフィルム1は、一定の張力を持ってステージ5上に配置されているため、ステージ5に溝10を形成しても、膜厚に影響することは少なく、従来と同様にセラミックスラリー6aの塗工が可能である。また、本発明のステージ5に設けた溝10は、異物やステージに付着した剥離剤等を検知したときのみ、ステージ5の溝10が形成されるような駆動機構とすることも可能である。さらに、溝10部分に位置するキャリアフィルム1の張力を補助的に維持するために、空気圧等を送ることにより、キャリアフィルム1を保持する手段を設ける構造にすることも可能である。
【0024】
ステージ5に設けられる溝10は、対向するブレードの対向面の形状と同様の形状とするのが好ましく、溝10の寸法は、ブレード3の対向面の寸法に対して−0.1mm〜+1mmの範囲で形成するのが好ましい。ブレード3の対向面の寸法に対して、−0.1mm〜+1mmの範囲で溝10を形成することにより、セラミックスラリー6aの塗工時に必要な張力をより確実に維持し、膜厚変動と異物の影響をさらに抑制することが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明のセラミックスラリーの製造装置を用いた実施例について説明する。
【0026】
セラミックグリーンシートの原料となる圧電セラミック粉末として、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とした粉末を使用した。また、バインダーとなる有機樹脂としてポリビニールブチラールを使用し、有機溶剤としてエチルセルソルブを使用し、可塑剤としてはブチルフタリルグリコール酸ブチルを使用した。セラミック粉末を、ポリビニールブチラールとともに、エチルセロソルブ液中へ分散して、ブチルフタリルグリコール酸ブチル等の添加物を投入し、これらを混合し、セラミックスラリーを作製した。
【0027】
キャリアフィルムは、セラミックスラリーを塗工する表面に剥離剤としてシリコン樹脂のコーティング処理がなされた、厚み50μmのPETフィルムを使用した。
【0028】
ブレードは、ステージと対向する対向面の形状が矩形状であるものを使用し、対向面の寸法が180mm×5mm(ブレード厚み)であるものを使用した。ステージのブレードと対向する位置には溝を形成し、この溝の寸法は、ブレードの対向面の寸法に対して+0.1mmの180.1mm×5.1mmとした。
【0029】
セラミックスラリーを、本発明のセラミックグリーンシートの製造装置の貯蔵部に投入し、ブレードとキャリアフィルムの間隙から吐出し、キャリアフィルムの表面にセラミックスラリーを塗工した。このとき、キャリアフィルムの張力20Nとなるように巻き出しロールと巻き取りロールを調整した。塗工厚みは、乾燥後のセラミックグリーンシートの膜厚が100μmとなるように調整した。その後、塗工したセラミックスラリーを乾燥させ、セラミックグリーンシートを得た。
【0030】
比較例として、溝を設けないステージを使用し、それ以外は実施例と同一条件でセラミックグリーンシートを作製した。
【0031】
実施例と比較例について、作製したセラミックグリーンシートの状態を以下のように評価した。セラミックグリーンシートの製造開始直後、1時間経過後、2時間経過後、3時間経過後のセラミックグリーンシートの膜厚をマイクロメータで測定した。測定箇所は、それぞれ任意に10箇所選択した。また、各時間経過後のセラミックグリーンシートについて、測定箇所(10箇所)での膜厚の最大値と最小値の差Rを算出した。さらに、作製したセラミックグリーンシート100mに対して、透過光によるピンホール発生数、目視によるスジ等の成膜不良の確認を行った。
【0032】
表1に、実施例と比較例のセラミックグリーンシートの評価結果を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、本発明は、成膜時間の経過に伴う膜厚変動が小さく、さらに測定箇所におけるバラツキも小さかった。さらに、ピンホール発生率が減少し、スジ等の成膜不良も発生しなかった。したがって、本発明により、膜厚変動や成膜不良を抑制したセラミックグリーンシートの製造装置を提供することが可能となった。
【0035】
なお、上述した実施例は、本発明の実施形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は、上述した実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 キャリアフィルム
2 貯蔵部
3 ブレード
4 ダイヤルゲージ
5 ステージ
6 セラミックグリーンシート
6a、6b セラミックスラリー
7 乾燥部
8a 巻き出しロール
8b 巻き取りロール
10 溝
11 進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のキャリアフィルムを支持するステージと、前記キャリアフィルムを一方向に進行させる駆動部と、前記キャリアフィルムの上部に配置されセラミックスラリーを収容する貯蔵部を備え、前記貯蔵部の前記キャリアフィルムの進行方向の下流側に、前記キャリアフィルムの進行方向に対して垂直に板状のブレードを設け、前記ブレードは、前記キャリアフィルムと間隙をあけて対向し、前記間隙からセラミックスラリーを吐出し、前記キャリアフィルム上に前記セラミックスラリーを塗工するセラミックグリーンシートの製造装置であって、前記ステージの前記ブレードと前記キャリアフィルムを介して対向する位置に、溝を有することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造装置。
【請求項2】
前記溝の寸法は、前記ブレードの前記ステージに対向する面の各寸法に対して、−0.1mm〜+1mmであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックグリーンシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−228827(P2012−228827A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98879(P2011−98879)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】