説明

セラミックシートの製造方法

【課題】溶剤を予め選定する必要がなく寸法変化が生じ難いセラミックシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくともセラミック粉末とバインダ12と可塑剤13とを混合、成形してなる未焼成シート10の表面100に、ペーストを印刷するセラミックシートの製造方法。未焼成シート10は、気孔率が5%以上である。また、上記製造方法においては、未焼成シート10に60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後、未焼成シート10の表面100にペーストを印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともセラミック粉末とバインダと可塑剤とを混合、成形してなる未焼成シートの表面に、ペーストを印刷するセラミックシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための積層型ガスセンサ素子を製造するに当たっては、図10(a)に示すごとく、セラミック粉末とバインダ912と可塑剤913等とを混合、成形してなる未焼成シート90の表面900に、電極パターンやヒータパターン等を形成するための導体ペーストを印刷すると共に、導体ペーストのない部分にセラミックペーストを導体パターンと逆パターンにより形成する。そして、上記未焼成シート90を複数枚積層したセラミック積層体を焼成することにより、積層構造のセラミックシートからなるガスセンサ素子が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、上記積層型ガスセンサ素子の構造が複雑化しており、かかる積層型ガスセンサ素子の製造工程において未焼成シート90の表面900へのペーストの印刷、及び未焼成シート90の積層回数が増えている。そのため、ペーストの印刷後に未焼成シート90を乾燥する回数も増えており、乾燥時に未焼成シート90が次第に変形してしまうことがある。すなわち、未焼成シート90に上記ペーストが印刷されると、未焼成シート90に膨潤・収縮が発生し、乾燥後の寸法が変化してしまうことがある。
【0004】
これは、以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、上記ペーストに含まれる溶剤が未焼成シート90に浸透して、この溶剤により未焼成シート90中のバインダ912等を溶解する。それゆえ、図10に示すごとく、セラミック粉末中のセラミック粒子911が互いに移動して再配列した状態で、未焼成シート90が乾燥することとなる。その結果、図10(b)に示すごとく、乾燥後の未焼成シート90の寸法が変化すると考えられる。
【0005】
かかる問題に対して、未焼成シート90に膨潤・収縮が生じ難い溶剤を選定するという方法が従来より採られてきた。
しかしながら、上記方法では、未焼成シート90同士の熱圧着力が低下することにより密着力も低下してしまうおそれがある。そのため、焼成時において未焼成シート90同士が剥離する等の不具合が生じてしまうという問題が生じていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−286680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶剤を予め選定する必要がなく寸法変化が生じ難いセラミックシートの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくともセラミック粉末とバインダと可塑剤とを混合、成形してなる未焼成シートの表面に、ペーストを印刷するセラミックシートの製造方法であって、
上記未焼成シートは、気孔率が5%以上であることを特徴とするセラミックシートの製造方法にある(請求項1)。
【0009】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
本発明の上記未焼成シートは、気孔率が5%以上であるため、上記未焼成シートの寸法変化を生じ難くすることができる。このメカニズムとして、以下の二つを考えることができる。すなわち、第一に、気孔率が5%以上と大きい場合には、未焼成シート内にペーストの溶剤が浸透したとしても、未焼成シート内に形成されている気孔を介して溶剤を速く外部に排出して乾燥し易くすることができる。これにより、バインダや可塑剤が溶解することを抑制し、セラミック粉末中のセラミック粒子の再配列を生じ難くすることができるものと考えられる。
【0010】
また、第二に、未焼成シートの状態において気孔率が5%以上であるという状態として、(1)上記セラミック粒子の粒径が大きい場合、(2)上記セラミック粒子が凝集している場合、(3)上記セラミック粒子が複雑な形状を有する場合等が考えられる。この場合には、通常、未焼成シートを成形した段階で、ある程度粒子間の間隔が詰まった状態でセラミック粒子が配列されている。そのため、セラミック粒子が再配列しても粒子間の間隔が詰まり難く、溶剤でバインダ等が溶解しても未焼成シートの寸法変化は生じ難い。
【0011】
しかし、(4)上記セラミック粒子の粒径が小さく、かつ、形状が整っている(例えば、球形に近いもの)場合は、未焼成シートの状態では気孔率が小さくなると共に、バインダ等が溶解したときセラミック粒子の再配列が生じ易くなる。そのため、セラミック粒子が再配列した状態で未焼成シートが乾燥することとなり、寸法変化が大きくなり易い。
以上のごとく、上記(1)〜(3)の場合のように、気孔率を大きく、すなわち、5%以上とすれば、溶剤を予め選定することなく上記未焼成シートの寸法変化を生じ難くすることができる。
【0012】
以上のごとく、本発明によれば、溶剤を予め選定する必要がなく寸法変化が生じ難いセラミックシートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明(請求項1)において、上記ペーストとしては、例えば、白金からなる導体ペーストやアルミナからなる絶縁ペースト等がある。
また、上記セラミック粉末として、例えばアルミナ、ジルコニア、チタニア等のいずれか一種以上からなるものを用いることができる。
また、上記バインダとして、上記セラミック粉末に成形性を付与することができるものであれば特に限定されることなく種々のものを用いることができるが、親油性のバインダであることが好ましい。該親油性のバインダとして、例えばポリビニルブチラール樹脂及びアクリル樹脂等がある。このうち、特にポリビニルブチラール樹脂は、上記セラミック粉末に対する化学吸着力が大きくシート結合性が良好であり、熱的使用範囲も広く、さらに不純物の混入量が少ないため好ましい。
【0014】
また、上記可塑剤として、上記バインダに対して可塑性を付与することができるものであれば特に限定されることなく種々のものを用いることができる。この場合、例えばBBP(ブチルベンジルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)、DBS(セバシン酸ジブチル)等を用いることができる。これらのうちでも、特にDBP、DOP等は蒸気圧が高く、揮発性が低く、かつ、沸点が高いため好ましい。なお、上記可塑剤は上記バインダの質量の30〜80%であれば良い。
なお、未焼成シートは、例えば未焼成シートに加圧を行う場合には、加圧を行う前の気孔率が5%以上であることが好ましい。
【0015】
また、上記未焼成シートは、気孔率が10%以上であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、気孔を介して溶剤を一層速く外部に排出して乾燥し易くすることができると共に、セラミック粒子が再配列しても粒子間の間隔を一層詰まり難くすることができる。そのため、上記未焼成シートの寸法変化を一層抑制することができる。
【0016】
また、上記未焼成シートは、気孔率が15%以上であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、気孔を介して溶剤をより一層速く外部に排出して乾燥し易くすることができると共に、セラミック粒子が再配列しても粒子間の間隔をより一層詰まり難くすることができる。そのため、上記未焼成シートの寸法変化をより一層抑制することができる。
【0017】
また、上記未焼成シートに、60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後、上記未焼成シートの表面に上記ペーストを印刷することが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記未焼成シートを硬く、かつ、その密度を大きくすることができる。そのため、セラミック粒子の再配列による寸法変化をより一層抑制することが可能となる。さらに、ペースト中の溶剤の未焼成シートへの浸透を抑制する効果もある。
一方、未焼成シートを60℃未満の温度、又は10MPa未満の圧力で加圧したときは、本発明の作用効果を充分に発揮することが困難となるおそれがある。
【0018】
また、上記未焼成シートは、該未焼成シートに60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後の気孔率が7.5%以下であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、未焼成シートの寸法変化を一層生じ難くすることができるため、より一層寸法精度の高いセラミックシートを得ることができる。
一方、加圧後の気孔率が7.5%を超える場合には、焼成収縮率が大きくなるためセラミックシートの寸法精度が低下してしまうとともに、緻密なセラミックシートを作製することが困難となってしまうおそれがある。
【0019】
また、上記セラミックシートは、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子の一部を構成することが好ましい(請求項6)。
この場合には、寸法精度の高いセラミックシートを用いることとなるため、信頼性の高いガスセンサ素子を得ることができる。
【0020】
また、上記未焼成シートは、表面において上記ペーストの印刷及び乾燥を複数回繰り返した前後の寸法変化が、気孔率を5%未満とした未焼成シートよりも小さいが好ましい(請求項7)。
この場合には、ペーストの印刷及び乾燥を複数回繰り返しても未焼成シートの寸法変化率を充分に小さくすることができるため、一層寸法精度の高いセラミックシートを得ることができる。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
本発明の実施例に係るセラミックシートの製造方法につき、図1、図2を用いて説明する。
本例のセラミックシート1の製造方法は、図1に示すごとく、セラミック粉末とバインダ12と可塑剤13等とを混合、成形してなる未焼成シート10の表面100に、ペーストを印刷することによって行う。なお、上記未焼成シート10には、分散剤等を混合することもできる。
【0022】
上記未焼成シート10は、気孔率が5%以上である。
気孔率は、以下のようにして算出される。すなわち、まず、バインダ等の有機物の体積とセラミック粉末の体積とを合計したものを未焼成シート10全体の体積で除したときの割合を示す、中身のある体積比率を算出する。そして、100%から該中身のある体積比率を減ずることよって気孔率を得る。
したがって、上記中身のある体積比率が95%以下であれば、気孔率が5%以上となる。
【0023】
また、本例の未焼成シート10は、表面100において上記ペーストの印刷及び乾燥を複数回繰り返した前後の寸法変化が、気孔率を5%未満とした未焼成シートよりも小さくなるよう構成されている。
【0024】
また、本例では、上記製造方法によって作製されたセラミックシート1を、図2に示すごとく、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子3の一部を構成するものとして使用する。
以下に、セラミックシート1及びこれを用いたガスセンサ素子3を製造する方法について詳細に説明する。
【0025】
本例の製造方法により作製されるガスセンサ素子3は、例えば、A/Fセンサ素子、O2センサ素子、NOxセンサ素子である。
ガスセンサ素子3は、図2に示すごとく、センサ層330として、酸素イオン伝導性の固体電解質体33と、該固体電解質体33の一方の面に設けた被測定ガス側電極34と、固体電解質体33の他方の面に形成した基準ガス側電極35とを有する。
【0026】
被測定ガス側電極34には、図2に示すごとく、外部に出力電流を出力するためのリード部341と端子部342とが接続されている。
基準ガス側電極35にも、被測定ガス側電極34と同様、リード部351と端子部352とが接続されている。そして、該端子部352は、被測定ガス側電極34側の固体電解質体33の表面に設けられた端子部353と導通している。
【0027】
また、固体電解質体33には、図2に示すごとく、基準ガス空間形成層36が基準ガス側電極35を覆うように積層されている。そして、基準ガス空間形成層36と固体電解質体33とによって囲まれた状態で基準ガス空間が形成される。該基準ガス空間には、基準ガスとしての大気が導入される。
【0028】
基準ガス空間形成層36には、図2に示すごとく、基準ガス側電極35側の面と反対側の面にヒータ層380が積層されている。該ヒータ層380は、通電により発熱する発熱部37と、該発熱部37に通電するためのリード部371と、端子部372と、これらを支持するためのヒータ基板38とを有する。
【0029】
また、図2に示すごとく、発熱部37及びリード部371を設けてある面とは反対側のヒータ基板38の表面には、端子部373が設けてある。該端子部373は、発熱部37側のヒータ基板38の表面に設けられた端子部372と導通している。
【0030】
また、固体電解質体33には、図2に示すごとく、被測定ガス側電極34を覆うように多孔質拡散抵抗層32が積層されている。さらに、多孔質拡散抵抗層32には、該多孔質拡散抵抗32を覆うように遮蔽層31が積層されている。
多孔質拡散抵抗層32は、ガス透過性の多孔質材料よりなる。また、多孔質拡散抵抗層32は、図2に示すごとく、側面320を介して被測定ガス側電極34まで被測定ガスを導くことができるよう構成されている。
【0031】
次に、ガスセンサ素子3の製造方法について説明する。
本例のガスセンサ素子3の製造方法においては、図2に示すごとく、多孔質拡散抵抗層32や基準ガス空間形成層36等を形成するための未焼成シート10を製造する。そして、未焼成シート10の状態で積層して構成したセラミック積層体を焼成することによりガスセンサ素子3を得る。
【0032】
まず、ヒータ層380の作製について説明する。
例えば、セラミック粉末としてのアルミナ粉末100gに対して、バインダ12としてブチラール樹脂を12g、可塑剤13としてブチルベンジルフタレートを9g、分散剤としてソルビタントリオレエレートを2g、さらにエタノール、2−ブタノール、及び酢酸イソアミルからなる混合溶媒等を所定量加えて混合し、スラリーを作製する。このスラリーを用いて、例えば、ドクターブレード法によりヒータ基板38用の未焼成シート10を作製する。また、未焼成シート10は、気孔率が5%以上となるように構成してある。なお、未焼成シート10は、気孔率が10%以上、さらには15%以上となるように構成することが好ましい。
【0033】
次いで、未焼成シート10に、60℃以上の温度において10MPa以上の圧力により加圧を行う。
この加圧は、例えば、WIP(Warm Isostatic Press)装置により行っても良いし、未焼成シート10を型に嵌めた後プレス機により押圧することによって行っても良い。
そして、ヒータ基板38用の未焼成シート10は、該未焼成シート10に上記条件にて加圧を行った後の気孔率が7.5%以下である。
【0034】
その後、ヒータ基板38用の未焼成シート10の表面100に、導電性を有する発熱部37用、リード部371用、及び端子部372、373用の導体ペーストをそれぞれ印刷する。
さらに、ヒータ基板38用の未焼成シート10の表面100における発熱部37用等の導体ペーストのない部分に、発熱部37用等の導体ペーストと同一膜厚となるように絶縁ペーストを逆パターンにより形成する。これにより、発熱部37用等の導体ペーストの段差をなくすことができる。次いで、上記未焼成シート10を乾燥させる。
【0035】
なお、発熱部37用の導体ペーストは、例えば、アルミナ粉末1.8gに白金15gを混合したものに対して、バインダ、溶媒等を所定量加えて混合したものを用いることができる。
また、端子部372、373用及びリード線371用の導体ペーストは、例えば、アルミナ粉末1gに白金15gを混合したものに対して、バインダ、溶媒等を所定量加えて混合したものを用いることができる。
【0036】
次に、基準ガス空間形成層36の作製について説明する。
基準ガス空間形成層36用の未焼成シート10は、例えば、ヒータ基板38用の未焼成シート10と同材料、同様の方法で作製することができる。そして、基準ガス空間形成層36用の未焼成シート10を複数枚積層する。なお、該基準ガス空間形成層36は、厚みが大きい一枚の基準ガス空間形成層36用の未焼成シート10により構成することもできる。
【0037】
次に、センサ層330の作製について説明する。
固体電解質体33は、例えば、セラミック粉末としてジルコニア粉末100gに対して、バインダ12としてブチラール樹脂を7g、可塑剤13としてブチルベンジルフタレートを5g、さらにエタノール、2−ブタノール、及び酢酸イソアミルからなる混合溶媒を所定量加えて混合したスラリーを用いることができる。
【0038】
固体電解質体33用の未焼成シート10も、ヒータ基板38用の未焼成シート10と同様、気孔率が5%以上となるように調整しておく。なお、未焼成シート10は、気孔率が10%以上、さらには15%以上となるように構成することが好ましい。
そして、作製した固体電解質体33用の未焼成シート10を、ヒータ基板38用の未焼成シート10を加圧する場合と同様の方法で、60℃以上の温度で10MPa以上の圧力条件下において加圧する。
そして、固体電解質体33用の未焼成シート10は、該未焼成シート10に上記条件にて加圧を行った後の気孔率が7.5%以下である。
【0039】
次いで、加圧した固体電解質体33用の未焼成シート10の表面100に、導電性を有する被測定ガス側電極34用、基準ガス側電極35用、リード部341、351用、及び端子部342、352、353用の導体ペーストをそれぞれ印刷する。
さらに、固体電解質体33用の未焼成シート10の表面100における被測定ガス側電極34用等の導体ペーストのない部分に、被測定ガス側電極34用の導体ペースト等と同一膜厚となるように絶縁ペーストを逆パターンにより形成する。これにより、被測定ガス側電極34用等の導体ペーストによる段差をなくすことができる。次いで、上記未焼成シート10を乾燥させる。
【0040】
なお、被測定ガス側電極34用及び基準ガス側電極35用のペーストとして、例えば、ジルコニア粉末2.9gに白金20gを混合したものに対して、バインダ、溶媒等を所定量加えて混合したものを用いることができる。
また、リード部341、351用、端子部342、352、353用のペーストは、ジルコニア粉末1.6gに白金20gを混合したものに対して、バインダ、溶媒等を所定量加えて混合したものである。
【0041】
次に、多孔質拡散抵抗層33の作製について説明する。
セラミック粉末として、例えば、セラミック粉末中のセラミック粒子11の平均粒径0.3μm、タップ密度1.4g/ccのアルミナ粉末と、平均粒径0.4μm、タップ密度0.81g/ccのアルミナ粉末とを1:9の割合で混合したアルミナ混合粉末100gに対して、バインダ12としてブチラール樹脂を22g、可塑剤13としてブチルベンジルフタレートを8g、分散剤としてソルビタントリオレエレートを2g、さらにエタノール、2−ブタノール、及び酢酸イソアミルからなる混合溶媒を所定量加えて混合したスラリーを用いることができる。このスラリーを用いて、ドクターブレード法により多孔質拡散抵抗層33用の未焼成シート10を作製する。
また、遮蔽層31の未焼成シート10も、ヒータ基板38用の未焼成シート10と同材料、同様の方法で作製することができる。
【0042】
上記のごとく、各層を作製したところで、以下のように積層することができる。
ヒータ層380と基準ガス空間形成層36とを、熱圧着により一体化させる。
また、センサ層330と多孔質拡散抵抗層32と遮蔽層31とを、熱圧着により一体化させる。
次に、作製したヒータ層380と基準ガス空間形成層36との一体品、センサ層330、及び多孔質拡散抵抗層32と遮蔽層31との一体品を積層し、接着剤によってこれらを接着する。
【0043】
このようにして、遮蔽層31、多孔質拡散抵抗層32、センサ層330、基準ガス空間形成層36、ヒータ層380によって構成されるセラミック積層体を得る。
最後に、このセラミック積層体を最高温度1400〜1550℃の範囲で焼成し、図2に示すようなガスセンサ素子3を得る。
なお、本例において示したガスセンサ素子3の構成及び製造方法は一例であって、上記構成に限定されるものではない。
【0044】
次に、本例の作用効果につき説明する。
本例の未焼成シート10は、気孔率が5%以上であるため、未焼成シート10の寸法変化を生じ難くすることができる。このメカニズムとして、以下の二つを考えることができる。すなわち、第一に、気孔率が5%以上と大きい場合には、未焼成シート10内にペーストの溶剤が浸透したとしても、未焼成シート10内に形成されている気孔14を介して溶剤を速く外部に排出して乾燥し易くすることができる。これにより、バインダ12や可塑剤13が溶解することを抑制し、セラミック粉末中のセラミック粒子11の再配列を生じ難くすることができるものと考えられる。
【0045】
また、第二に、未焼成シート10の状態において気孔率が5%以上であるという状態として、(1)セラミック粒子11の粒径が大きい場合、(2)セラミック粒子11が凝集している場合、(3)セラミック粒子11が複雑な形状を有する場合等が考えられる。この場合には、通常、未焼成シート10を成形した段階で、ある程度粒子間の間隔が詰まった状態でセラミック粒子11が配列されている。そのため、セラミック粒子11が再配列しても粒子間の間隔が詰まり難く、溶剤でバインダ12等が溶解しても未焼成シート10の寸法変化は生じ難い。
【0046】
しかし、(4)上記セラミック粒子11の粒径が小さく、かつ、形状が整っている(例えば、球形に近いもの)場合は、未焼成シート10の状態では気孔率が小さくなると共に、バインダ12等が溶解したときセラミック粒子11の再配列が生じ易くなる。そのため、セラミック粒子11が再配列した状態で未焼成シート10が乾燥することとなり、寸法変化が大きくなり易い。
以上のごとく、上記(1)〜(3)の場合のように気孔率を大きく、すなわち、5%以上とすれば、溶剤を予め選定する必要がなく未焼成シート10の寸法変化を生じ難くすることができる。なお、未焼成シート10は、気孔率を10%以上、さらには15%以上とすることにより、寸法変化をより一層抑制することができる。
なお、図1に示す未焼成シート10の状態を表す説明図は、例えば、上記(2)の場合の状態を示す一例である。
【0047】
また、未焼成シート10に、60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後、未焼成シート10の表面100にペーストを印刷するため、未焼成シート10を硬く、かつ、その密度を大きくすることができる。これにより、ペースト中の溶剤の未焼成シート10への浸透を充分に抑制することができる。
【0048】
また、未焼成シート10は、該未焼成シート10に上記条件にて加圧を行った後の気孔率が7.5%以下である。これにより、未焼成シート10の寸法変化を一層生じ難くすることができるため、一層寸法精度の高いセラミックシート1を得ることができる。 また、セラミックシート1は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子3の一部を構成する。この場合、寸法精度の高いセラミックシート1を用いることとなるため、信頼性の高いガスセンサ素子3を得ることができる。
【0049】
また、未焼成シート10は、表面100において上記ペーストの印刷及び乾燥を複数回繰り返した前後の寸法変化が、気孔率を5%未満とした未焼成シートよりも小さくなるよう構成されている。これにより、より一層寸法精度の高いセラミックシート1を得ることができる。
【0050】
以上のごとく、本例によれば、溶剤を予め選定する必要がなく寸法変化が生じ難いセラミックシートの製造方法を提供することができる。
【0051】
(実施例2)
本例は、図3、図4に示すごとく、未焼成シート10における中身のある体積比率を種々変化させた場合において、未焼成シート10の寸法変化率を調べた例である。
すなわち、上記中身のある体積比率を種々変化させた未焼成シート10の表面100に、セラミック粉末としてのアルミナ粉末と溶剤としてのテルピネオールとバインダとを含有してなるペーストを印刷した後、未焼成シート10を乾燥させた。その後、印刷後の未焼成シート10についての、印刷前の未焼成シート10に対する寸法変化率を調べた。
【0052】
なお、上記中身のある体積比率とは、バインダ等の有機物の体積とセラミック粉末の体積とを合計したものを未焼成シート10全体の体積で除した割合を示す値である。そして、気孔率は、得られた上記中身のある体積比率から以下の式1のごとく算出することができる。
(気孔率)=100(%)−(中身のある体積比率) ・・・(式1)
また、本例において使用した符号は、図1において使用した符号に準ずる。
【0053】
本例の測定を行うに当たっては、まず、未焼成シート10を作製し、図3の紙面における未焼成シート10の上、下、左、右の各辺についてピン孔4の中心の間隔w1、w2、w3、w4を測定した。次いで、未焼成シート10の表面100に、導体ペーストを印刷した。その後、未焼成シート10の表面100における上記導体ペーストのない部分に、該導体ペーストと同一膜厚となるように絶縁ペーストを逆パターンにより形成する。該絶縁ペーストは、3回印刷を行った。これにより、先に印刷した導体ペーストによる段差をなくした。
【0054】
次いで、この未焼成シート10全体を、55℃の温度にて20分間乾燥させた。その後、ピン孔4の中心の間隔w1、w2、w3、w4を再度測定することにより、ペースト印刷後の未焼成シート10の寸法変化を測定した。
そして、上、下、左、右の各辺における、ペースト印刷前のピン孔4間の寸法と、ペースト印刷後のピン孔4間の寸法とから、未焼成シート10の寸法変化率を算出した。なお、図4における寸法変化率は、未焼成シート10の上、下、左、右の各辺の寸法変化率を算出した後、各辺についての寸法変化率の平均値を算出した値である。
【0055】
結果を図4に示す。
同図からわかるように、未焼成シート10の相対密度が95%以下(気孔率が5%以上)である場合には、ペースト印刷後の寸法変化率が略0.2%以下であり、充分に小さいものとすることができる。
【0056】
一方、図4からわかるように、未焼成シート10の相対密度が95%を超えて大きくなる(すなわち、気孔率が5%未満)場合には、未焼成シート10の寸法変化率が急激に大きくなる。
以上からわかるように、未焼成シート10の相対密度が95%以下、すなわち、気孔率が5%以上であれば、ペースト印刷後の寸法変化を充分に抑制することができる。
【0057】
(実施例3)
本例は、図5に示すごとく、加圧条件である温度及び圧力を種々変化させて形成した未焼成シート10に、ペーストを一回印刷した場合における、未焼成シート10の寸法変化率を測定した例である。すなわち、本例では温度を0〜100℃まで変化させると共に、圧力を0〜49MPaまで変化させた。この加圧は、WIP装置に入れて行った。
なお、図5は、圧力を0MPaとした場合を○、2MPaで加圧した場合を□、8MPaで加圧した場合を◇、10〜49MPaで加圧した場合を◆として、それぞれの温度条件に対応させて未焼成シート10の寸法変化率をプロットしたものである。
その他の条件は、実施例2と同様である。
なお、本例において使用した符号は、図1において使用した符号に準ずる。
【0058】
結果を図5に示す。
同図からわかるように、60℃以上の温度において10MPa以上の圧力で加圧を行った場合、未焼成シート10の寸法変化率は0.2%を充分に下回り、寸法変化をより一層抑制することができる。
【0059】
一方、図5からわかるように、60℃未満の温度又は10MPa未満の圧力で加圧を行った場合には、未焼成シート10の寸法変化率が0.2%を上回り、寸法変化を充分に抑制することが困難となる。
以上からわかるように、未焼成シート10を加圧するに当たっては、60℃以上の温度で10MPa以上の圧力で加圧することが好ましい。
【0060】
(実施例4)
本例は、図6、図7に示すごとく、85℃の温度かつ50MPaの圧力で未焼成シート10を加圧した場合(以下、WIP有りという)と、未焼成シート10を加圧しなかった場合(以下、WIP無しという)とにおいて、複数回にわたってペーストを印刷して、未焼成シート10の寸法変化率の推移を調べた例である。
【0061】
なお、図6は、WIP有りの場合において、ペースト印刷前後の寸法w1(上辺)から算出した寸法変化率を◇、寸法w2(下辺)から算出した寸法変化率を□、寸法w3(左辺)から算出した寸法変化率を△、寸法w4(右辺)から算出した寸法変化率を○にてプロットしたものである。
また、図7は、WIP無しの場合における、ペースト印刷前後の寸法w1(上辺)から算出した寸法変化率を◇、寸法w2(下辺)から算出した寸法変化率を□、寸法w3(左辺)から算出した寸法変化率を△、寸法w4(右辺)から算出した寸法変化率を○にてプロットしたものである。
その他の条件は、実施例3と同様である。
【0062】
結果を図6、図7に示す。
図6からわかるように、WIP有りの場合には、ペーストを複数回印刷しても未焼成シート10の寸法変化率は±0.1%以下であり、寸法変化を充分に抑制している。
これに対して、図7からわかるように、WIP無しの場合には、ペーストの印刷回数が増すごとに未焼成シート10の寸法変化率の絶対値が大きくなっている。すなわち、WIP無しの場合には、ペーストの印刷が複数回にわたると未焼成シート10の寸法を充分に維持することが困難となることがわかる。
【0063】
(実施例5)
本例は、気孔率が5%以上である未焼成シートの製造方法の例である。
未焼成シートは、セラミック粉末とバインダと可塑剤と溶剤とを混合、成形して作製する。
【0064】
ここで、本例の未焼成シートの製造方法においては、セラミック粉末に対してバインダの含有量を7〜9重量%とする。この7〜9重量%というバインダの含有量は、例えば、従来の未焼成シートを作製するに当たって含有させるバインダの、約3/4と少量のものである。
【0065】
また、本例では、セラミック粉末にバインダと可塑剤と溶剤とを所定量加えた後にこれらを混合する時間を4〜8時間とする。この4〜8時間という混合時間は、従来の未焼成シートを作成するに当たってセラミック粉末とバインダと可塑剤と溶剤とを混合する時間の、例えば約1/6〜1/10と少ないものである。
上記バインダの含有量の調整及び上記混合時間の調整を行うことにより、気孔率が5%以上となる未焼成シートを容易に形成することができるが、上記二つの調整のいずれか一方を行うことによっても、気孔率が5%以上となる未焼成シートを充分容易に形成することができる。
【0066】
なお、上記混合時間を4時間未満とした場合、又はバインダの含有量を7重量%未満とした場合には、セラミック粉末とバインダとを充分に混合できなくなってしまうおそれがある。その結果、焼成によって、セラミックシートにひび割れが生じてしまうおそれがある。
また、上記混合時間が8時間を超えることとした場合、又はバインダ含有量が9重量%を超えることとした場合には、未焼成シート内に気孔を充分に形成することが困難となるおそれがある。その結果、未焼成シートの気孔率を充分に大きくすることが困難となるおそれがある。
【0067】
(実施例6)
本例は、図8、図9に示すごとく、未焼成シート10の気孔率を種々変更させて、ペースト印刷前後の未焼成シート10の寸法変化率を調べた例である。
【0068】
本例の測定を行うに当たっては、まず、四角形状の未焼成シート10を作製し、その未焼成シート10の四隅をピン41で留める。そして、表面100において4つのピン41を頂点とする四角形で囲まれた部分の一部である印刷対象領域101に、図8に示すように8点の測定端102を設定する。これらの測定端102のうちの一対の測定端102をつなぎ、未焼成シート10の辺に平行な6つの線分の長さをそれぞれ測定する。すなわち、6つの線分の長さとして、図8に示すD1〜D6を測定する。
そして、上記のピン41で囲まれた部分に、導体ペーストを印刷する。
【0069】
その後、未焼成シート10の表面100における導体ペーストが印刷されていない部分に、該導体ペーストと同一膜厚となるように絶縁ペーストを逆パターンにより形成する。これにより、先に印刷した導体ペーストによる段差をなくした。なお、導体ペースト及び絶縁ペーストは、それぞれ4回ずつ印刷を行った。
次いで、この未焼成シート10全体を、55℃の温度にて20分間乾燥させた。
その後、上記6つの線分の長さ(D1〜D6)を再度測定することにより、ペースト印刷後の未焼成シート10の寸法変化を測定した。
【0070】
そして、上記6箇所における、ペースト印刷前の間隔とペースト印刷後の間隔とから、未焼成シート10の寸法変化率を算出した。なお、図9における寸法変化率は、未焼成シート10における6つの線分の長さ(D1〜D6)の寸法変化率を算出した後、D1〜D6のすべての間隔についての寸法変化率の平均値を算出した値である。
【0071】
測定結果を図9に示す。なお、同図の横軸に示した気孔率は、加圧前の未焼成シート10の気孔率である。
同図からわかるように、未焼成シート10の気孔率が10%以上である場合には、ペースト印刷前後の寸法変化率がほとんど0%であり、充分に小さいものとすることができる。さらに、未焼成シート10の気孔率が15%以上である場合には、より一層寸法変化率を小さくすることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1における、未焼成シートの状態を示す説明図。
【図2】実施例1における、ガスセンサ素子の斜視展開図。
【図3】実施例2における、未焼成シートの上面図。
【図4】実施例2における、相対密度と寸法変化率との関係を示す線図。
【図5】実施例3における、加圧条件と寸法変化率との関係を示す線図。
【図6】実施例4における、WIP有りの場合の寸法変化率の推移を示す線図。
【図7】実施例4における、WIP無しの場合の寸法変化率の推移を示す線図。
【図8】実施例6における、未焼成シートの上面図。
【図9】実施例6における、気孔率と寸法変化率との関係を示す線図。
【図10】従来例における、(a)ペースト印刷前の未焼成シートの説明図、(b)ペースト印刷後の未焼成シートの説明図。
【符号の説明】
【0073】
10 未焼成シート
100 表面
12 バインダ
13 可塑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセラミック粉末とバインダと可塑剤とを混合、成形してなる未焼成シートの表面に、ペーストを印刷するセラミックシートの製造方法であって、
上記未焼成シートは、気孔率が5%以上であることを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記未焼成シートは、気孔率が10%以上であることを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、上記未焼成シートは、気孔率が15%以上であることを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記未焼成シートに、60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後、上記未焼成シートの表面に上記ペーストを印刷することを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、上記未焼成シートは、該未焼成シートに60℃以上の温度において10MPa以上の加圧を行った後の気孔率が7.5%以下であることを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、上記セラミックシートは、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ素子の一部を構成することを特徴とするセラミックシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、上記未焼成シートは、表面において上記ペーストの印刷及び乾燥を複数回繰り返した前後の寸法変化が、気孔率を5%未満とした未焼成シートよりも小さいことを特徴とするセラミックシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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