説明

セラミックス−金属複合材料からなるスパッタリングターゲット材およびその製造方法

【解決手段】 本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法は、セラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することを特徴としており、
本発明のスパッタリングターゲット材は、マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相と、これらの界面に形成されたセラミックス−金属反応相とを有してなり、かつ、相対密度が99%以上であることを特徴としている。
【効果】 本発明によれば、スパッタリング時のアーキングやスプラッシュの発生を効果的に防止することができ、とくにアーキングについては事実上皆無とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス−金属複合材料であるスパッタリングターゲット材およびその製造方法に関し、より詳しくは、セラミックス−金属複合材料からなり、相対密度が99%以上であるスパッタリングターゲット材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属をマトリックスとし、該金属マトリックス中にセラミックス相を均一に散在させた構造の複合材料薄膜は、従来より電子材料分野に用いられている。
とくに近年、磁気記録媒体や金属配線材料に関しても、このような複合材料薄膜を用いることで、従来にない特長が引き出せることが明らかになってきている。その代表例としては、磁気記録媒体に用いられるCo−Pt−SiO2などが挙げられる。
【0003】
このような複合材料薄膜を形成するには、その組成制御が容易である点から、一般にスパッタリング法が用いられる。たとえば、酸化物をその構成相の一部とする複合材料薄膜を得ようとする場合には、スパッタリングに用いるスパッタリングターゲット材に該酸化物を所定の比率で含有させることで、得られる複合材料薄膜中の酸化物の比率を制御することができる。
【0004】
しかしながら、実際に、たとえば、金属と酸化物とからなる複合材料をスパッタリングターゲット材として、スパッタリングを行うべく電圧を印加すると、スパッタリングターゲット材中の酸化物相が帯電することにより、アーキングやスプラッシュといった現象が生じ、得られる複合材料薄膜に欠陥を与える場合がある。とくに、磁気記録媒体や金属配線材料などの用途に用いられる複合材料薄膜の膜厚は、前者が200Å程度、後者でも2000Å程度と非常に薄いため、このような欠陥は致命的であった。また、使用するスパッタリングターゲット材中に空孔などの欠陥がある場合には、この欠陥がアーキングやスプラッシュの発生原因となりうる。
【0005】
ところで、このような複合材料薄膜の製造に用いられるスパッタリングターゲット材は、一般に焼結法により製造されている。焼結法とは、金属粉とセラミックス粉とを所望の比率で混合した後、成型、焼結、さらに、必要により研削や研磨などの仕上げ加工をすることによりスパッタリングターゲット材を製造する方法である。このような焼結法で製造されたスパッタリングターゲット材においては、その相対密度を可能な限り上げ、空孔などの欠陥を減少させることで、上述したアーキングやスプラッシュを低減できることが知られている。
【0006】
しかしながら、焼結反応は、原料粉体同士が接触し、その構成元素が互いに固相拡散することで進行するため、反応の進行を促進すべく加圧下で行ったとしても、固相中の拡散速度は著しく遅く、焼結法により得られるスパッタリングターゲット材の相対密度を限られた時間内で100%とすることは非常に困難である。
【0007】
これに対して、特許文献1には、金属と酸化物との混合体からなる磁気記録媒体製造用スパッタリングターゲット材中の酸化物相の粒径を10μm以下とすることで、酸化物相の帯電量が減少し、スプラッシュが減少すると記載されている。
【0008】
しかしながら、単にスパッタリングターゲット材中の酸化物相の粒径を小さくしただけでは、スパッタリングターゲット材中に空孔などの欠陥が存在するため、アーキングやス
プラッシュの発生を皆無にすることはできない。さらに、特許文献1には、どのような手段あるいは方法によればスパッタリングターゲット中の酸化物相の粒径を10μm以下とすることができるのか、具体的に何ら記載されていない。
【0009】
なお、本発明者らの検討によれば、スパッタリングターゲット材中の酸化物相の粒径を小さくする目的で平均粒径10μm以下の原料粉を用いて、スパッタリングターゲット材を作製した場合には、これらが凝集してしまい、スパッタリングターゲット材中の酸化物相の見かけ上の粒径が粗大化したものとなり、アーキングの発生を抑制できなかった。
【特許文献1】特開2001−236643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、スパッタリング時のアーキングやスプラッシュの発生を効果的に防止したスパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るスパッタリングターゲット材は、マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相と、これらの界面に形成されたセラミックス−金属反応相とを有してなり、かつ、
下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率で定義される相対密度が99%以上であることを特徴としている;
【0012】
【数3】

【0013】
(式中、C1〜Ciはそれぞれターゲット材の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1
ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
本発明では、さらに、前記セラミックス相の長軸粒径が、10μm以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記セラミックス−金属反応相の厚さは、5〜2000Åであることが好ましい。
さらに、本発明のスパッタリングターゲット材では、前記金属相は少なくともCoを含有してなり、かつ、前記セラミックス相はCo酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることが好ましい。
【0015】
また、前記セラミックス−金属反応相中に含まれているCoの量は、20〜80atom%の範囲内であることが好ましい。
さらに、前記金属相は、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなることが好ましく、前記Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物は、SiO2であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、
少なくとも、マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相とを有してなり、かつ、
下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率で定義される相対密度が99
%以上であるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
セラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することを特徴としている;
【0017】
【数4】

【0018】
(式中、C1〜Ciはそれぞれターゲット材の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1
ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
なお、前記スパッタリングターゲット材のセラミックス相の長軸粒径は10μm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法では、セラミックス粒子表面にセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の製造方法では、前記複合粒子を、セラミックス粒子と金属粉とを使用するメカニカルアロイング法によって製造することが好ましい。
また、前記金属粉は少なくともCoを含有してなり、かつ、前記セラミックス粒子はCo酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることが望ましい。
【0021】
さらに、前記金属粉は、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなることが望ましく、また、前記Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物は、SiO2であることが望ましい。
【0022】
なお、本明細書では、バッキングプレートを備えていないターゲット材料自体をスパッタリングターゲット材と呼び(以下、単にターゲット材と呼ぶ場合もある。)、該スパッタリングターゲット材にバッキングプレートを貼合したものをスパッタリングターゲットと呼ぶ。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスパッタリングターゲット材によれば、スパッタリング時のアーキングやスプラッシュの発生を効果的に防止することができ、とくにアーキングについては事実上皆無とすることができる。
【0024】
また、本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法によれば、セラミックス−金属複合材料からなり、かつ、相対密度が99%以上であるスパッタリングターゲット材を確実かつ効率的に提供することができる。
【0025】
したがって、本発明は、磁気記録媒体分野および金属配線材料分野に好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。
<スパッタリングターゲット材の製造方法>
本発明に係るスパッタリングターゲット材の製造方法は、少なくとも、マトリックスと
しての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相とを有してなり、かつ、相対密度が99%以上であるスパッタリングターゲット材を製造するための方法であって、
セラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することを特徴としている。
【0027】
本明細書中、相対密度とは、下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率として定義され、具体的には、得られたスパッタリングターゲット材の重量/体積(g/cm3)として求められる密度が該理論密度に占める割合(%)を意味する。
【0028】
【数5】

【0029】
(式中、C1〜Ciはそれぞれターゲット材の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1
ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)
たとえば、ターゲット材がCo−Ta−Cr−SiO2(各構成物質の含有量は、Co
50重量%、Ta37.2重量%、Cr6.6重量%、SiO26.2重量%)からなる
場合には、このターゲット材の理論密度ρ(g/cm3)は、
[[(50/100)/8.9]+[(37.2/100)/16.64]+[(6.6/100)/7.19]+[(6.2/100)/2.3]]-1=8.72(g/cm3)として求められる。
【0030】
したがって、この相対密度が100%に近ければ近いほど、内部に空孔などの欠陥が少なく密に詰まったスパッタリングターゲット材であることを示している。
上述したように、限られた時間の中で加圧などの焼結条件でスパッタリングターゲット材の相対密度を限りなく100%に近づけることは極めて困難であるが、本発明では、使用するセラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを原料粉体として、これらを混合した後、加圧焼結することにより、ターゲット材の相対密度を通常は99%以上、好ましくは99.5〜100%、より好ましくは99.9〜100%とすることが可能である。
【0031】
すなわち、原料粉体として使用するセラミックス粒子の表面にターゲット材の構成金属元素がコーティングされているかあるいは該セラミックスと該金属との反応層が形成され、複合粒子となっている場合には、これら複数の複合粒子間には、比較的延性に富む金属層か、格子欠陥を多く含んだセラミックス−金属反応層が介在することになる。これらが存在することにより、前者は複合粒子の芯材であるセラミックス粒子同士の間を粘結することができ、後者は欠陥を介することにより固相中の拡散速度を著しく大きくすると考えられる。
【0032】
さらに、本発明では、上記のように原料粉体として複合粒子と金属粉とを用いることにより、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径を通常は10μm以下、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.01〜2μmとすることができる。
【0033】
なお、本明細書中、長軸粒径とは、ターゲット材の切断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察し、SEM像500μm×480μm中に存在するセラミックス相のうち、その最長径を測定した値を意味する。
【0034】
一般に、同一種の材料粉が存在する場合には、その粒径サイズを小さくしていくと、これらの界面エネルギーにより凝集してしまうことが知られている。
本発明では、前記所定の構造の複合粒子を原料粉体として使用することにより、このような凝集を防止し、ターゲット材中のセラミックス相の分散性を制御することができる。
【0035】
これは、芯材であるセラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成されることにより、得られる複合粒子表面の形状が粗くなることに起因するものと考えられる。
【0036】
本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法では、前記複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結するが、本発明に用いられる金属粉としては、少なくともCoを含有してなる金属粉が挙げられ、好ましくは、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなる金属粉が挙げられる。具体的には、たとえば、Co−Cr−Taや、Co−W、Co−Ptなどの組み合わせが好ましく挙げられる。該金属粉の平均粒径は、通常0.1〜50μm、好ましくは0.1〜10μmである。なお、本明細書中、平均粒径とは、レーザー回折散乱法による頻度分布から求めたモード径をいう。
【0037】
また、本発明に用いられる複合粒子の芯材となるセラミックス粒子としては、Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなるものが挙げられ、該酸化物としては、たとえば、SiO2、MgO、Al23、TiO、ZrO2、HfO、V23、N25、Cr23などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を混合して用いてもよいが、これらのうちでは、SiO2からなるセラミックス粒子が好ましく、SiO2のみからなるセラミックス粒子がより好ましい。
【0038】
このようなセラミックス粒子の表面に、金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層を形成することで、前記の複合粒子を得ることができるが、該複合粒子を製造する方法としては、メッキなどの湿式法、蒸着などの薄膜形成法、メカニカルアロイング法などの固相反応法などが挙げられる。
【0039】
これらのうち、生産効率の点からは、金属粉とセラミックス粒子とを用いるメカニカルアロイング法によることが好ましく、この場合には、セラミックス粒子の表面に、セラミックス−金属反応層が形成された複合粒子を得ることができる。
【0040】
なお、芯材として使用するセラミックス粒子の平均粒径は、複合粒子化の方法によって異なるが、メッキや蒸着の場合には、通常0.01〜10μm、好ましくは0.01〜5μmであり、メカニカルアロイング法の場合には、通常0.01〜100μm、好ましくは0.01〜10μmである。
【0041】
メカニカルアロイング法に用いられる金属粉としては、ターゲット材の構成金属元素を含むものであればよく、たとえば、上述した、少なくともCoを含有してなる金属粉が好ましく挙げられる。該金属粉の平均粒径は、通常0.1〜50μm、好ましくは0.1〜10μmである。
【0042】
メカニカルアロイング法は、本来、異種金属粉末をボールミルのような装置内で機械的に攪拌混合することにより、粉末同士の圧着と粉砕を繰り返して機械的に合金を製造する方法であるが、本発明ではこれを複合粒子化の方法として好ましく用いることができる。その場合、芯材であるセラミックス粒子自体の粒径は粉砕により小さくなる一方、該セラミックス粒子の表面にはセラミックス−金属反応層が形成されていくことで、複合粒子が製造される。
【0043】
該メカニカルアロイング法の具体的な処理条件としては、たとえば、ボールミル、ポリエチレン製の2Lのミル容器、ジルコニア製のφ5mmのボール1800g、セラミックス粒子66g、金属粉34gを用いて、大気雰囲気下、150〜480時間の処理が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0044】
メカニカルアロイング法により得られる複合粒子の平均粒径は、使用するセラミックス粒子や金属粒子の大きさ、メカニカルアロイングの処理条件によって異なるが、通常0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmであり、その表面に形成されているセラミックス−金属反応層の厚みは、通常5〜2000Å、好ましくは5〜1000Åである。
【0045】
本発明では、上記複合粒子と金属粉とを混合し、必要に応じて整粒した後に加圧焼結する。混合、整粒の手段および条件はとくに限定されず公知の手段および条件によって行うことができる。
【0046】
加圧焼結条件はとくに限定されないが、通常、アルゴン雰囲気下、150〜250kgf/cm2の圧力で、1150〜1250℃、1〜2時間の条件を採用することができる。<スパッタリングターゲット材>
金属相をマトリックスとし、該金属マトリックス中にセラミックス相が散在しているセラミックス−金属複合材料のみからなるスパッタリングターゲット材を、スパッタリングしていくと、スパッタエッチが進行していくにつれて、セラミックス相がスパッタリングターゲット材の表面に露出してくるが、この場合、露出したセラミックス相の表面は、スパッタ時の再付着によりターゲット材の各構成元素によって覆われ、露出したセラミックス相の表面には再付着層が形成される。
【0047】
しかしながら、セラミックス相表面と再付着層との密着性は必ずしも強くはなく、スパッタリング時にこのセラミックス相が帯電し、アーキングや何らかの原因でブレークダウンが生じると、再付着層は容易にこのセラミックス相表面から剥離してしまう。そして、剥離した再付着層のかけらが成膜中の薄膜に到達した場合にスプラッシュとして認識されることになる。
【0048】
これに対して、本発明に係るスパッタリングターゲット材は、
マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相と、これらの界面に形成されたセラミックス−金属反応相とを有してなり、かつ、
前記相対密度が通常99%以上、好ましくは99.5〜100%、より好ましくは99.9〜100%である。
【0049】
このように、ターゲット材中のセラミックス相と金属相との界面にセラミックス−金属反応相を有する本発明のスパッタリングターゲット材の場合には、スパッタエッチが進行していくにつれて、セラミックス−金属反応相がスパッタリングターゲット材の表面に露出してくる。このセラミックス−金属反応相の表面もスパッタ時の再付着によりターゲット材の各構成元素によって覆われ、この相の表面にも再付着層が形成される。
【0050】
しかしながら、この場合には、セラミックス−金属反応相表面と再付着層との密着性が強固であるため、たとえ、仮にスパッタリング時にこのセラミックス−金属反応相が帯電し、アーキングや何らかの原因でブレークダウンが生じたとしても、再付着層は容易には剥離せず、スプラッシュの原因とはならないと推測される。
【0051】
また、本発明では、前記セラミックス相の長軸粒径は、通常10μm以下、好ましくは0.01〜5μm、より好ましくは0.01〜2μmである。
さらに、本発明では、前記セラミックス−金属反応相の厚さは、通常5〜2000Å、好ましくは5〜1000Åであることが望ましい。なお、該セラミックス−金属反応相の厚みとは、得られたスパッタリングターゲット材から、FIB(集束イオンビーム加工観察装置)によって、スパッタリングターゲット材の薄片試料(w×h×d=15μm×10μm×0.1μm)を作製し、これをTEM(透過型電子顕微鏡)観察し、このTEM像12μm×15μm中に存在するセラミックス−金属反応相の厚さを5点測定し平均した値をいう。
【0052】
セラミックス−金属反応相の厚さが上記範囲内の値であると、スパッタリング時に形成される再付着層とセラミックス−金属反応相表面との密着性を確保するのに充分である。また、このようなセラミックス−金属反応相は、単なるセラミックス相よりも帯電し難いという利点もあると推測される。
【0053】
さらに、本発明のスパッタリングターゲット材では、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径が上記数値範囲にあるため、セラミックス相の帯電量を減少させることができるとともに、相対密度が上記数値範囲にあるため、空隙などの欠陥が実質的に存在しないに等しく、これらに起因するアーキングやスプラッシュの発生も防止することができる。
【0054】
このようなターゲット材は、前記金属相が少なくともCoを含有してなり、かつ、前記セラミックス相がCo酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることが好ましく、この場合、前記セラミックス−金属反応相中には少なくともCoが含まれている。
【0055】
すなわち、前記金属相は、少なくともCoを含有してなることが好ましく、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなることがより好ましい。具体的には、たとえば、Co−Cr−Taや、Co−W、Co−Ptなどの組み合わせが好ましく挙げられる。
【0056】
また、前記セラミックス相は、Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることが好ましく、該Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物としては、たとえば、SiO2、MgO、Al23、TiO、ZrO2、HfO、V23、N25、Cr23などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上が組合わさってセラミック相を構成してもよいが、これらのうちでは、SiO2からなることがより好ましく、
SiO2のみからなることがさらに好ましい。
【0057】
また、前記セラミックス−金属反応相は、前記セラミックス相を構成しているセラミックスと、前記金属相を構成している金属元素の少なくとも一部とが反応することにより得られるものであり、前記セラミックス−金属反応相中には、少なくともCoが含まれていることが好ましい。前記セラミックス−金属反応相中に含まれているCoの量は、通常20〜80atom%、好ましくは30〜70atom%、より好ましくは40〜60atom%の範囲内である。なお、これらの値は、FIB(集束イオンビーム加工観察装置)によって、スパッタリングターゲット材の薄片試料(w×h×d=15μm×10μm×0.1μm)を作製し、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)、具体的には日立製作所(株)製H-9000NARを用いて、加速電圧300kV、分析ビーム径100Åにて、薄片試料中の
セラミックス−金属反応相を分析することによって求められる。この場合、分析ビーム径が100Åであるため、セラミックス−金属反応相の厚さがこれより薄い場合には、周囲の金属相やセラミックス相の組成をも拾ってしまうことになるが、そのような誤差はCoでは数atom%程度であると考えられるため、Coが上述した範囲内の量で検出されれば有意差があると推測される。
【0058】
前記セラミックス−金属反応相中にCoが上記範囲内の量で含まれていると、少なくともCoを含有してなる金属相と、セラミックス相の双方に対して密着性がよい。
このようなターゲット材は、上述した製造方法、好ましくはメカニカルアロイング法により得られた複合粒子と、金属粉とを原料粉体として用いた焼結法よって製造することができる。
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記の例において、各粉体、複合粒子の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(9320-HRAX100;日機装(株)製)により測定した。
【0060】
[実施例1]
<複合粒子の製造>
Co粉(添川理化学製、純度99.9重量%、平均粒径6μm)と、SiO2粉(東芝
セラミックス製溶融石英粉、純度99.9重量%、平均粒径35μm)とを用いて下記の条件でメカニカルアロイングを行い、平均粒径1.5μmの複合粒子を得た。
【0061】
メカニカルアロイング条件; ボールミル(伊藤製作所製)、2Lのポリエチレン製ミル容器、φ5mmのジルコニア製ボール1800g、Co粉34g、SiO2粉66g、
大気雰囲気下、回転数50rpm、120時間。
<スパッタリングターゲット材の製造>
上記メカニカルアロイングにより得られた平均粒径1.5μmの複合粒子30gに、前記Co粉155g、Ta粉(スタルク製、純度99.9重量%(3N)、平均粒径5μm)123g、Cr粉(添川理化学製、純度99.9重量%(3N)、平均粒径5μm)22gを加え、攪拌混合、整粒し、原料粉体を得た。
【0062】
得られた原料粉体を、所定の型に入れ、アルゴン雰囲気下、1200℃で1時間、面圧150kgf/cm2の条件でホットプレスし、平面研削盤でスパッタに供する面とボンディングに供する面の両面を研削しスパッタリングターゲット材を得た後、該スパッタリングターゲット材の一部を切断し、残りを1cm×1cm×0.45cmのサイズに加工した。加工後のサイズの重量は3.92gであった。
【0063】
上記スパッタリングターゲット材の理論密度ρは8.72(g/cm3)であり、該ターゲット材の密度は8.711(g/cm3)であることから、相対密度は、100×8.711/8.72=99.9%であった。
【0064】
上記において切断したターゲット材の一部を試料として、SEM(S2150;日立製作所(株)製)観察により、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径を測定したところ、最大4.8μmであった。
【0065】
SEM像を図1−1に示す。図1−1中、黒い部分はSiO2相を示している。
また、切断したターゲット材の一部を用いて、FIB(セイコーインスツルメンツ社製;SMI2050)によって、薄片試料(w×h×d=15μm×10μm×0.1μm)を作
製し、TEM−EDX(H-9000NAR;日立製作所(株)製)を用いて、加速電圧300kV、分析ビーム径100Åにて、TEM観察およびEDX分析を行ったところ、TEM観察によるセラミックス−金属反応相の厚さは、5点測定の平均値で400Åであり、セラミックス−金属反応相の組成は表1に示したとおりであった。
【0066】
TEM像を図1−2に示す。図1−2中、黒い部分はCo相であり、白い部分はSiO2相であり、その間の相がCo−SiO2反応相である。図1−2より、反応相の厚みは約
400Åであることが分かる。
<スパッタリング性能評価>
上記スパッタリングターゲット材と、バッキングプレートとを、Inをボンディング材として塗布し、接合した後、冷却し、スパッタリングターゲットを作製した。
【0067】
得られたスパッタリングターゲットを用いて、下記条件でスパッタリングを行い、スパッタリング時のアーキングを評価した。
スパッタ条件;
枚様式マグネトロンスパッタ、プロセスガス;Ar、プロセス圧力;0.5Pa、投入電力;5W/cm2
【0068】
アーキングの評価は、積算投入電力量(20Wh/cm2)に対するアーキング回数に
より評価した。積算投入電力量に対するアーキング回数が少ないほど、アーキング防止能が高いといえる。
【0069】
具体的には、アークカウンターとしてμ Arc Monitor(MAM Genesis)(ランドマーク
テクノロジー社製)を用いて、測定条件を検出モード;エネルギー、アーク検出電圧;100V、大−中エネルギー境界;50mJ、ハードアーク最低時間;100μsとして、
積算投入電力量が20Wh/cm2となるまでの累積アーキング回数を測定した。結果を
表1に示す。
【0070】
[比較例1]
<スパッタリングターゲット材の製造>
実施例1で用いたのと同じ、Co粉165g、Ta粉123g、Cr粉22g、SiO2粉20gを、攪拌混合、整粒し、原料粉体を得た。
【0071】
この原料粉体を用いたほかは、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット材を得て、同様に加工した。
上記スパッタリングターゲット材の理論密度は、実施例1と同じく8.72(g/cm3)であり、該ターゲット材の密度は8.35(g/cm3)であったことから、相対密度は、100×8.35/8.72=95.8%であった。
【0072】
上記ターゲット材について、実施例1と同様に、SEM観察により、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径を測定したところ、最大38μmであった。
SEM像を図2−1に示す。図2−1中、黒い部分はSiO2相を示している。
【0073】
また、実施例1と同様の条件および装置でTEM観察により、セラミックス−金属反応相の厚さを測定しようとしたところ、そのような相は見られなかった。
TEM像を図2−2に示す。図2−2中、黒い部分はCo相であり、白い部分はSiO2相である。
【0074】
また、実施例1と同様の条件および装置でEDX分析にて、セラミックス相と金属相との界面付近の組成を分析した結果を表1に示す。
使用したTEMの実質的な分解能は5Å以上であり、EDX分析による金属相とセラミックス相との界面付近の組成も実施例1のCo−SiO2反応相とは大きく異なっている
ことから、上記スパッタリングターゲット材にはCo−SiO2反応相は実質的に存在し
ないと考えられる。
<スパッタリング性能評価>
実施例1と同様にしてスパッタリング時のアーキングを評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
<スパッタリングターゲット材の製造>
実施例1で用いたのと同じ、Co粉165g、Ta粉123g、Cr粉22gのほかに、SiO2粉(アエロジル製;石英粉、純度99.9重量%、平均粒径0.05μm)2
0gを、攪拌混合、整粒し、原料粉体を得た。
【0076】
この原料粉体を用いたほかは、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット材を得て、同様に加工した。
上記スパッタリングターゲット材の理論密度は、実施例1と同じく8.72(g/cm3)であり、該ターゲット材の密度は8.46(g/cm3)であったことから、相対密度は、100×8.46/8.72=97%であった。
【0077】
上記ターゲット材について、実施例1と同様に、SEM観察により、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径を測定したところ、最大20μmであった。
SEM像を図3−1に示す。図3−1中、黒い部分はSiO2相を示している。
【0078】
また、実施例1と同様の条件および装置でTEM観察により、セラミックス−金属反応相の厚さを測定しようとしたところ、そのような相は見られなかった。
TEM像を図3−2に示す。図3−2中、黒い部分はCo相であり、白い部分はSiO2相である。
【0079】
また、実施例1と同様の条件および装置でEDX分析にて、セラミックス相と金属相との界面付近の組成を分析した結果を表1に示す。
使用したTEMの実質的な分解能は5Å以上であり、EDX分析による金属相とセラミックス相との界面付近の組成も実施例1のCo−SiO2反応相とは大きく異なっている
ことから、上記スパッタリングターゲット材にはCo−SiO2反応相は実質的に存在し
ないと考えられる。
<スパッタリング性能評価>
実施例1と同様にしてスパッタリング時のアーキングを評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
<スパッタリングターゲット材の製造>
メカニカルアロイングにより得られた実施例1の複合粒子(平均粒径1.5μm)21gに、Co粉(添川理化学製、純度99.9重量%、平均粒径6μm)121g、W粉(日本タングステン製、純度99.9重量%(3N)、平均粒径10μm)97gを加え、攪拌混合、整粒し、原料粉体を得た。
【0081】
この原料粉体を用いたほかは、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット材を得て、同様に加工した。
上記スパッタリングターゲット材の理論密度は、9.36(g/cm3)であり、該ターゲット材の密度は9.35(g/cm3)であったことから、相対密度は、100×9.35/9.36=99.9%であった。
【0082】
上記ターゲット材について、実施例1と同様に、SEM観察により、ターゲット材中のセラミックス相の長軸粒径を測定したところ、最大10μmであった。
また、実施例1と同様の条件および装置でTEM観察したところ、セラミックス相と金属相との間にセラミックス−金属反応相が観察された。
【0083】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1−1】図1−1は、実施例1のスパッタリングターゲット材のSEM像である。
【図1−2】図1−2は、実施例1のスパッタリングターゲット材のTEM像である。
【図2−1】図2−1は、比較例1のスパッタリングターゲット材のSEM像である。
【図2−2】図2−2は、比較例1のスパッタリングターゲット材のTEM像である。
【図3−1】図3−1は、比較例2のスパッタリングターゲット材のSEM像である。
【図3−2】図3−2は、比較例2のスパッタリングターゲット材のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相と、これらの界面に形成されたセラミックス−金属反応相とを有してなり、かつ、
下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率で定義される相対密度が99%以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット材;
【数1】

(式中、C1〜Ciはそれぞれターゲット材の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1
ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【請求項2】
前記セラミックス相の長軸粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項3】
前記セラミックス−金属反応相の厚さが5〜2000Åであることを特徴とする請求項2に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項4】
前記金属相が少なくともCoを含有してなり、かつ、前記セラミックス相がCo酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項5】
前記セラミックス−金属反応相中に含まれているCoの量が20〜80atom%の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項6】
前記金属相が、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなることを特徴とする請求項5に記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項7】
前記Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物が、SiO2であることを特
徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のスパッタリングターゲット材。
【請求項8】
少なくとも、マトリックスとしての金属相と、該金属マトリックス中に散在しているセラミックス相とを有してなり、かつ、
下記式で表される理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率で定義される相対密度が99%以上であるスパッタリングターゲット材の製造方法であって、
セラミックス粒子表面に金属被覆層あるいはセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法;
【数2】

(式中、C1〜Ciはそれぞれターゲット材の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1
ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【請求項9】
前記セラミックス相の長軸粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法;
【請求項10】
セラミックス粒子表面にセラミックス−金属反応層が形成された複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結することを特徴とする請求項9に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項11】
前記複合粒子を、セラミックス粒子と金属粉とを使用するメカニカルアロイング法によって製造することを特徴とする請求項10に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項12】
前記金属粉が少なくともCoを含有してなり、かつ、前記セラミックス粒子がCo酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項13】
前記金属粉が、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなることを特徴とする請求項12に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項14】
前記Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物が、SiO2であることを特
徴とする請求項12または13に記載のスパッタリングターゲット材の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公開番号】特開2006−45587(P2006−45587A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224306(P2004−224306)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】