説明

セラミックスの金装飾方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックスの金装飾方法に関し、特にサンドブラスト加工面を有するセラミックスに対して微細な金装飾を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】硝子製品に対して金等の貴金属を装飾する方法として、特開平6−24802号公報に記載の方法が知られている。
【0003】この硝子製品の加飾方法は、(a)硝子製品の表面に図案をサンド彫りする工程;(b)サンド彫り後の硝子製品を酸処理する工程;(c)酸処理後の硝子製品に貴金属を含む加飾材料をスプレーガンで吹き付け、自然乾燥又は仮焼する工程;及び(d)サンド彫り部分以外の加飾材料を除去し、サンド彫り部分のみに加飾材料を有する硝子製品を焼成する工程を含む硝子製品の加飾方法である。
【0004】また、硝子等のセラミックスに加飾材料を筆で塗布して図柄を描くことも行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来の硝子製品の加飾方法によって得られた硝子製品は、美しさが十分ではなかった。特に、加飾を必要としない部分(サンド彫り部分以外の部分)の美しさが十分ではなかった。
【0006】また、硝子等のセラミックスに加飾材料を筆で塗布して図柄を描く場合は、微細な部分への描画が困難であると共に熟練を要し、制作に多くの時間が必要で生産性が低い、という問題点がある。かかる問題点は、図柄が微細であればあるほど大きな問題点になっていた。
【0007】本発明は、上記従来技術の問題点を解決するセラミックスの金装飾方法及びその方法によって得られた金装飾セラミックスを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者は、次の事項を知見して本発明を完成するに至った。
【0009】上記従来の硝子製品の加飾方法においては、加飾材料(金を含有する液状体)をスプレーガンで吹き付け加飾を必要としない部分(サンド彫り部分以外の部分)からの加飾材料の除去を、前記公報に記載のようにスクレーパー(削りべら)等を用いて行った場合、肉眼では完全に除去したように見えるとしても、現実には、加飾を必要としない部分から加飾材料を十分完全に除去することは困難であり、加飾を必要としない部分に加飾材料の薄層が残留してしまい、焼成により加飾を必要としない部分に加飾材料の薄層が焼き付いてしまう、ということを知見した。
【0010】そのため本発明者は、セラミックス素地に金模様層形成用マスクを設け加飾を必要とする部分のみを露出し加飾を必要としない部分を被覆して加飾材料を付着すれば、加飾を必要としない部分への加飾材料の付着を防止することができると共に、熟練者でなくとも例えば刷毛塗り等で図柄を容易にかつ短時間で描くことができ、生産性を飛躍的に向上させることができる、と考えた。
【0011】しかしながら、金模様層形成用マスクとして樹脂等の有機材料のみを用いた場合には、加飾材料の溶媒として用いた有機溶剤等の付着により樹脂等の有機材料が膨潤ないし変形してしまい意図した図柄を正確に描くことができない。特に、図柄が微細であればあるほど問題になる。
【0012】一方、金模様層形成用マスクとして樹脂等の有機材料に無機材料を充填した場合には、マスクの膨潤ないし変形を防止することができるが、金模様層をセラミックス素地に焼付ける焼成時において前記金模様層形成用マスクに含まれる無機材料がセラミックス素地に結合してしまう。
【0013】そこで、本発明者は、無機充填剤を含有する有機材料層を金模様層形成用マスクとして用いると共に、焼成工程の前に仮焼工程を設けてその無機充填剤をセラミックス素地に固着させることなしに金模様層形成用マスクの有機材料層を燃焼ないし熱分解して金模様層形成用マスクを除去し金模様層のみをセラミックス素地に固着させる、ということを見出し本発明を完成するに至った。
【0014】即ち、本発明によれば、次のセラミックスの金装飾方法及び金装飾セラミックスにより、上記目的を解決することができる。
【0015】■金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地に対して金を含有する液状体を付着する金付着工程と、前記液状体を付着した後の前記セラミックス素地を仮焼して前記マスクを除去すると共に前記セラミックス素地に金模様固着層を残存させるマスク除去工程と、前記マスクを除去したセラミックス素地を本焼成して前記金模様固着層を前記セラミックス素地に焼付ける金模様層焼付工程を有し、前記金模様層形成用マスクとして、仮焼時に前記セラミックス素地に対して不活性な無機質充填剤を含有する有機材料層を用い、前記マスク除去工程において、前記無機質充填剤を前記セラミックス素地に固着させることなしに前記有機材料層を燃焼ないし熱分解して前記マスクを除去するセラミックスの金装飾方法。
【0016】■金模様焼付層を有するセラミックス素地であって、前記金模様焼付層は請求項1〜3の一に記載のセラミックスの金装飾方法により形成された金装飾セラミックス。
【0017】上記セラミックスの金装飾方法においては、好ましくは、セラミックス素地としてサンドブラスト加工面を有するセラミックス素地を用い、サンドブラスト加工面が露出するように金模様層形成用マスクを設ける(請求項2)。
【0018】上記セラミックスの金装飾方法においては、好ましくは、金模様層形成用マスクとして、セラミックス素地に対するサンドブラスト加工を行った時のセラミックス素地保護層を引き続き用いる(請求項3)。
【0019】なお、本願発明において数値範囲の記載は、両端値のみならず、その中に含まれる全ての任意の中間値を含むものとする。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明のセラミックスの金装飾方法は、金付着工程と、マスク除去工程と、金模様層焼付工程を有する。
【0021】(金付着工程)金付着工程は、金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地に対して金を含有する液状体を付着する工程である。
【0022】金模様層形成用マスクは、仮焼時にセラミックス素地に対して不活性な無機充填材を含有する有機材料層である。無機充填材を含有するので、金を含有する液状体(特に、溶媒)が金模様層形成用マスクに付着しても、金模様層形成用マスクが膨潤等により変形することを防止することができる。また、無機充填材として、仮焼時にセラミックス素地に対して不活性な無機充填剤を用いるので、マスク除去工程における仮焼により金模様層形成用マスクを容易に除去することができる。即ち、仮焼により有機材料層は熱分解すると共に、仮焼により無機充填剤がセラミックス素地に固着するということがなく無機充填剤はセラミックス素地から容易に分離することができる。
【0023】金模様層形成用マスクは、セラミックス素地に対して金を含有する液状体を選択的に付着して図柄を描くためのものであり、セラミックス素地を被覆するように密着して設ける。そして、金を含有する液状体を付着させようとするセラミックス素地の部分を開口部としてセラミックス素地を露出させている。
【0024】金模様層形成用マスクは、単層で良いが2層以上の多層にすることもできる。金模様層形成用マスクが2層以上の場合、金を含有する液状体が付着しても当該マスクが変形しない程度に、少なくとも1層以上に、好ましくは全ての層に前記特定の無機充填剤を含有させる。金模様層形成用マスクのうちのセラミックス素地に接する層をセラミックス素地との接着層にすることができる。
【0025】前記特定の無機充填剤は、好ましくは、カーボン、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、硅石、硅酸ジルコニウム、弁柄、ジルコン、珪砂、粘土、雲母、セリサイト等の無機質粉末、ムライト、アルミナその他の溶融ないし焼結体粉末のうちの1種以上を用いる。これらの無機充填剤の平均粒子径は、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜10μm、さらに好ましくは4〜8μmにする。前記特定の無機充填剤の金模様層形成用マスクにおける含有率は、好ましくは、0.1〜80重量%、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは30〜50重量%にする。
【0026】金模様層形成用マスクにおける有機材料層部分の有機材料としては、好ましくは、スチレン−ブタジエン系ゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、塩化ゴム、アクリルゴム等の合成ゴム、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート等のアクリル系、エチルセルロース、アセチルセルロース等のセルロース系、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系、酸化ロジン、ガムロジン等のロジン系、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂等の樹脂のうちの1種以上を用いることができる。
【0027】金模様層形成用マスクは、有機溶剤に上記有機材料を約20〜80重量%含有させた組成液と無機充填材の混合物を乾燥して形成することができる。前記有機溶剤としては、直鎖系、芳香族系、エステル系、アルコール系等の溶媒を用いることができる。
【0028】金模様層形成用マスクにおける有機材料層部分の含有率は、好ましくは、20〜99.9重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは50〜70重量%にする。
【0029】金模様層形成用マスクの厚さは、好ましくは、10〜100μmにする。
【0030】セラミックス素地に対して金を付着するには、金を含有する液状体をセラミックス素地に塗布することにより行うことができる。
【0031】金を含有する液状体としては、金、樹脂及び溶媒等を含有して成る金ペーストや、水金、金を王水に溶かした液あるいはこれらを溶媒で希釈したもの等を用いることができる。好ましい金ペーストの一例は、鱗片状金粉(幅8〜20μm、厚さ0.1〜0.5μm)48重量%、ガラス(例えば、硼珪酸鉛系ガラス)2重量%及びメジューム(例えばエチルセルロース等の有機化合物ないし樹脂と溶剤の混合物)50重量%から成るものである。この金ペーストを希釈して(例えば、鱗片状金粉の含有率が30〜60重量%のもの)セラミックス素地に塗布する。
【0032】金を含有する液状体をセラミックス素地に塗布するための塗布具としては、例えば筆や刷毛あるいはスクレーパーを用いることができる。セラミックス素地に金模様層形成用マスクを設けているので、刷毛でベタ塗りする場合でも金模様層形成用マスクに応じた金模様層を容易に形成することができる。
【0033】液状体に含まれる金の形状は、粒状、鱗片状のものにすることができる。粒状の金の粒径は、好ましくは、0.5〜2μmにする。鱗片状の金の寸法は、好ましくは、厚さ0.1〜0.5μm、面積16〜40μm2(より好ましくは2μm×8μm〜2μm×20μm)、厚さT(μm)と面積S(μm2)の比S/T(μm)は、好ましくは32〜400、より好ましくは160〜400にする。
【0034】液状体に含まれる金として鱗片状の金を用いた場合は、表面を磨くことなしに金色が鮮やかな金模様層を形成することができる。特に、セラミックス素地として透明なガラス(特にクリスタルガラス)を用いた場合は、セラミックス素地に接する側の金模様層の面も金色が鮮やかであることがわかるので、装飾的価値が極めて高い。
【0035】液状体に含まれる金は、金化合物であっても良い。かかる金化合物としては、後述のマスク除去工程における仮焼時あるいは金模様層焼付工程における本焼成時に分解して金に化学変化するものを用いることができる。
【0036】金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地は、好ましくは、サンドブラスト用転写紙を用いて得ることができる。
【0037】サンドブラスト用転写紙とは、セラミックス素地に転写される転写層が再湿潤性糊料膜を介して転写用台紙に固着したものであって、前記転写層は、サンドブラストに対して耐摩耗性を有する1層以上の模様層と、前記模様層を固定すると共に耐摩耗性が極めて弱い模様固定層を1層以上含むものである。かかる転写紙は、水に濡らすことによりデキストリン、澱粉等の再湿潤性糊料膜を溶解し前記転写層を転写用台紙から剥離してセラミックス素地の表面に付着して設けることができる。
【0038】かかる転写層を設けたセラミックス素地をサンドブラストすることにより、サンドブラスト方向において、耐摩耗性を有する模様層が存在しない領域の模様固定層の部分はより早く除去されて開口部が形成される。このようにして、耐摩耗性を有する模様層を残存させたセラミックス素地、即ち金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地を得ることができる。その理由は、上記好ましいものとして列挙された無機充填材及び有機材料から構成される金模様層形成用マスクは、サンドブラストに対して耐摩耗性をも有するからである。
【0039】上記方法によると、セラミックス素地に金模様層形成用マスクを設けると共に、セラミックス素地にサンドブラスト加工面を設けることができる。サンドブラスト加工面は、セラミックス素地に豪華な印象を与えるという効果があるという点から好ましい。しかしながら、セラミックス素地にサンドブラスト加工面を形成することなしに前記模様層が存在しない領域の模様固定層の部分を除去し開口部を形成しても良い。
【0040】サンドブラスト用転写紙としては、例えば、特公平1−33306号公報、特公平2−20382号公報、特公平3−2631号公報等に記載のサンドブラスト用転写紙を用いることができる。
【0041】特公平2−20382号公報に記載のサンドブラスト用の多層型転写紙によれば、セラミックス素地に2段以上の段差を有するサンドブラスト加工面を形成することができる。セラミックス素地としてガラス(特に、クリスタルガラス)を用いた場合は、グラビュール調の立体的で深い凹凸のサンドブラスト加工面を形成して、かかるサンドブラスト加工面に金模様層を形成することができる。
【0042】以上のように、セラミックス素地はサンドブラスト加工面を有するものでも良く、前記金模様層形成用マスクとして、前記サンドブラスト加工面を形成する際に用いたセラミックス素地の保護層(耐摩耗性を有する模様層)を引き続きそのまま用いることができる。
【0043】セラミックス素地としては、少なくとも金を付着することができる程度の強度を有するセラミックス素地を用い、好ましくは焼成素地を用いる。例えば、ガラス、施釉された焼成素地を用いることができる。ガラスとしては、各種のガラス、特にクリスタルガラスを用いることができる。
【0044】以下、セラミックス素地にサンドブラスト加工面を形成するサンドブラスト工程について説明する。
【0045】(サンドブラスト工程)サンドブラスト工程は、セラミックス素地の表面に高速度で研磨剤粒子を衝突させ、マット状の表面(サンドブラスト加工面)を得る加飾工程であり、セラミックス素地の表面に保護層(マスク)を設けることにより任意の位置及び形状のサンドブラスト加工面を形成すること、即ち、模様の彫り込みをすることができる。
【0046】サンドブラスト工程で用いる研磨剤粒子の材質としては、例えばZrO2やSiO2があり、研磨剤粒子の径は好ましくは数μm〜数10μmにし、吹き付け時の気体(例えば空気)の圧縮圧力は好ましくは1atm(1×105Pa)にする。
【0047】セラミックス素地の表面の保護層(マスク)の材質は、好ましくは、上記金模様層形成用マスクに用いる材料にする。例えば、ゴム系樹脂と無機質充填材から成るものにする。
【0048】サンドブラスト加工面を形成したセラミックス素地に研磨剤粒子が付着している場合は、例えば冷水で水洗することにより、研磨剤粒子をセラミックス素地から除去することができる。その際に保護層がセラミックス素地の表面から剥離させないようにていねいに行う。セラミックス素地に付着している水分は、例えば冷風を吹き付けることにより乾燥させて除去することができる。
【0049】(マスク除去工程)
マスク除去工程は、金付着工程で金を含有する液状体を付着した後のセラミックス素地を仮焼して金模様層形成用マスクを除去すると共に前記セラミックス素地に金模様固着層を残存させる工程である。即ち、金模様層形成用マスク(無機充填剤を含有する有機材料層)の無機充填剤をセラミックス素地に固着させることなしに金模様層形成用マスクの有機材料層を燃焼ないし熱分解して金模様層形成用マスクを除去し金模様層をセラミックス素地に固着させる工程であり、有機材料層の燃焼物ないし熱分解物や無機充填剤を容易にセラミックス素地から分離することができる。
【0050】仮焼温度は、好ましくは、セラミックス素地(例えば釉層)の軟化点以下でかつマスクとして用いた保護層が分解する温度以上の温度にする。より好ましくは、450〜480℃にする。仮焼時間は、好ましくは、1〜2時間程度にする。雰囲気は、通常は空気で良い。
【0051】仮焼後のセラミックス素地には、金模様層が残存する。残存する金模様層は、仮焼によりセラミックス素地に固着しており、刷毛等でこすっても剥離したり形状が変化したりしない。
【0052】仮焼後のセラミックス素地に金模様層形成用マスクの熱分解物(灰等)や無機充填剤が付着している場合は、例えば刷毛や筆等で前記熱分解物や無機充填剤を容易に払い落とすことができる。金模様層形成用マスクの熱分解物や無機充填剤は、残存する金模様層をセラミックス素地から剥離させたり形状を損なうことなしに刷毛等で払い落とすことができる。仮焼前の金模様層形成用マスクに付着していた金は、かかる金模様層形成用マスクの熱分解物や無機充填剤と共に回収することができる。金模様層形成用マスクの熱分解物や無機充填剤を払い落としたセラミックス素地は、好ましくは水洗する。
【0053】(金模様層焼付工程)金模様層焼付工程は、金模様層形成用マスクを除去したセラミックス素地を本焼成し金模様層をセラミックス素地に焼付ける工程である。
【0054】本焼成の温度は、セラミックス素地(例えば釉層)の軟化点温度以上の温度で行う。好ましくは750〜900℃、より好ましくは780〜850℃で0.5〜2時間、より好ましくは0.6〜1.5時間で行う。例えば600℃で40分程度で行うことができる。
【0055】セラミックス素地としてクリスタルガラスを用いた場合の焼成温度は、軟化温度より好ましくは100℃以上高い温度(より好ましくは軟化温度から110℃以上高い温度、さらに好ましくは軟化温度から110〜130℃だけ高い温度)にする。例えば、軟化温度が480℃のクリスタルガラス(PbO25重量%含有)の場合、590〜610℃で本焼成することができる。
【0056】セラミックス素地として、軟化点が低い釉層を有するセラミックス素地を用いる場合の焼成温度は、セラミックス素地としてガラスを用いる場合に準じる。
【0057】セラミックス素地として、軟化点が高い釉層を有するセラミックス素地を用いる場合の焼成温度は、好ましくは、750〜900℃、より好ましくは800〜850℃にする。例えば650℃以上、あるいは800℃程度で行うことができる。
【0058】
【実施例】
(実施例1)セラミックス素地として施釉されたセラミック焼成素地を用い、この素地にサンドブラスト用転写紙を用いて金模様層形成用マスクを設ける。即ち、以下のとおりである。
【0059】サンドブラスト用転写紙は、再湿潤性糊料膜を有する転写用台紙の前記再湿潤性糊料膜の表面に2層の転写層を有する深堀タイプのものを用いる。前記2層の転写層は、前記再湿潤性糊料膜に接触して設けられ耐摩耗性が弱い1層の模様固定層(下刷層)と、前記模様固定層の表面に設けられサンドブラストに対して耐摩耗性を有する1層の模様層(防護層)から成る。前記下刷層は、セラミックス素地の表面に対して接着性を有する。
【0060】前記下刷層は、ポリメチルアクリレート30重量%と珪酸ジルコニウム70重量%から形成されている。前記防護層は、スチレン−ブタジエンゴム(ソルプレン)50重量%とタルク50重量%から形成されている。
【0061】前記転写紙は、水に濡らすことにより再湿潤性糊料膜を溶解し前記転写層を転写用台紙から剥離し、接着性を有する前記下刷層をセラミックス素地の表面に接触させ、50℃で30分乾燥することにより、前記転写層をセラミックス素地の表面に設ける。
【0062】転写層を設けられたセラミックス素地をサンドブラストし、前記下刷層に開口部を設けて、金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地を得た。用いるサンドは、粒径数μm〜数10μmのZrO2・SiO2サンドである。研摩剤粒子を飛ばす為の気体(空気)の圧縮圧力は、例えば1atmにすることができる。サンドブラスト後は、セラミックス素地を冷水で水洗し砂を落とす。水洗後は冷風で乾燥する。
【0063】金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地にフレーク状の金を含有する金ペーストを筆で塗布し、その後440〜460℃で空気中で仮焼する。
【0064】仮焼後は、セラミックス素地に付着している金模様層形成用マスクの灰分(無機充填剤を含む)を払い落とす粉落としを行うと、金模様層以外が除去される。前記金模様層形成用マスクに付着した金ペーストに含まれる金も前記灰分に含まれており、金を回収することができる。灰分を払い落としたセラミックス素地は水洗する。
【0065】その後、600℃で40分本焼成して、金模様層をセラミックス素地に焼き付け、金装飾セラミックスを得る。
【0066】(実施例2)実施例1で用いたサンドブラスト用転写紙の代わりに、多段彫りタイプの転写紙を用いること以外は前記実施例1と同様の条件でセラミックスに対して金装飾を行い、グラビュール調の凹凸面に金を装飾したセラミックスを得る。
【0067】サンドブラスト用転写紙は、再湿潤性糊料膜を有する転写用台紙の前記再湿潤性糊料膜の表面に3層の転写層を有する多段彫りタイプのものを用いる。前記3層の転写層は、前記再湿潤性糊料膜に接触して設けられ耐摩耗性が弱い1層の模様固定層(下刷層)と、前記模様固定層の表面に設けられサンドブラストに対して耐摩耗性を有する1層の中間層と、前記中間層の表面に設けられサンドブラストに対して耐摩耗性を有する1層の模様層(防護層)から成る。前記下刷層は、セラミックス素地の表面に対して接着性を有する。
【0068】前記下刷層は、ポリメチルアクリレート30重量%と珪酸ジルコニウム70重量%から形成されている。前記防護層は、スチレン−ブタジエンゴム(ソルプレン)50重量%とタルク50重量%から形成されている。前記中間層は、スチレン−ブタジエンゴム(ソルプレン)5重量%とポリメチルアクリレート30重量%と珪酸ジルコニウム65重量%から形成されており、前記下刷層よりも耐摩耗性を有するが前記防護層程の耐摩耗性を有さない。
【0069】かかる転写層を設けられたセラミックス素地をサンドブラストし、前記防護層を有さない部分のサンドブラスト用転写紙に開口部を設けて、金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地を得る。前記下刷層のみの部分に対応するセラミックス素地の孔の深さは、前記下刷層と中間層のみの部分に対応するセラミックス素地の孔の深さより深い。
【0070】
【発明の効果】請求項1〜3のセラミックスの金装飾方法は、金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地に対して金を含有する液状体を付着する金付着工程と、前記液状体を付着した後の前記セラミックス素地を仮焼して前記マスクを除去すると共に前記セラミックス素地に金模様固着層を残存させるマスク除去工程と、前記マスクを除去したセラミックス素地を本焼成して前記金模様固着層を前記セラミックス素地に焼付ける金模様層焼付工程を有し、前記金模様層形成用マスクとして、仮焼時に前記セラミックス素地に対して不活性な無機質充填剤を含有する有機材料層を用い、前記マスク除去工程において、前記無機質充填剤を前記セラミックス素地に固着させることなしに前記有機材料層を燃焼ないし熱分解して前記マスクを除去するので、以下の基本的な効果を奏することができる。
【0071】(a)十分美しい金加飾セラミックスを得ることができる。特に、金加飾がある部分と無い部分が明瞭に区別できる十分美しい金加飾セラミックスを得ることができる。
【0072】(b)熟練者でなくても容易に図柄を描くことができる。即ち、熟練者でなくとも微細な部分への描画が容易であり、短時間で制作でき生産性が極めて高い。図柄が微細な場合であっても短時間で容易に描くことができる。
【0073】請求項2のセラミックスの金装飾方法は、前記セラミックス素地としてサンドブラスト加工面を有するセラミックス素地を用い、前記サンドブラスト加工面が露出するように前記金模様層形成用マスクを設けたので、サンドブラスト加工面に金模様層を形成することができる。
【0074】請求項3のセラミックスの金装飾方法は、前記金模様層形成用マスクとして、前記セラミックス素地に対するサンドブラスト加工を行った時のセラミックス素地保護層を引き続き用いるので、サンドブラスト加工面に金模様層を効率良く形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】金模様層形成用マスクを設けたセラミックス素地に対して金を含有する液状体を付着する金付着工程と、前記液状体を付着した後の前記セラミックス素地を仮焼して前記マスクを除去すると共に前記セラミックス素地に金模様固着層を残存させるマスク除去工程と、前記マスクを除去したセラミックス素地を本焼成して前記金模様固着層を前記セラミックス素地に焼付ける金模様層焼付工程を有し、前記金模様層形成用マスクとして、仮焼時に前記セラミックス素地に対して不活性な無機質充填剤を含有する有機材料層を用い、前記マスク除去工程において、前記無機質充填剤を前記セラミックス素地に固着させることなしに前記有機材料層を燃焼ないし熱分解して前記マスクを除去することを特徴とするセラミックスの金装飾方法。
【請求項2】前記セラミックス素地としてサンドブラスト加工面を有するセラミックス素地を用い、前記サンドブラスト加工面が露出するように前記金模様層形成用マスクを設けたことを特徴とする請求項1に記載のセラミックスの金装飾方法。
【請求項3】前記金模様層形成用マスクとして、前記セラミックス素地に対するサンドブラスト加工を行った時のセラミックス素地保護層を引き続き用いることを特徴とする請求項1〜2の一に記載のセラミックスの金装飾方法。
【請求項4】金模様焼付層を有するセラミックス素地であって、前記金模様焼付層は請求項1〜3の一に記載のセラミックスの金装飾方法により形成されたことを特徴とする金装飾セラミックス。

【特許番号】特許第3060945号(P3060945)
【登録日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【発行日】平成12年7月10日(2000.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−117053
【出願日】平成8年4月15日(1996.4.15)
【公開番号】特開平9−278566
【公開日】平成9年10月28日(1997.10.28)
【審査請求日】平成10年2月10日(1998.2.10)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−69787(JP,A)
【文献】特開 昭56−149390(JP,A)
【文献】特開 昭63−147885(JP,A)
【文献】特開 昭52−148515(JP,A)
【文献】特開 昭57−83365(JP,A)