説明

セラミックス中空粒子及びその製造方法

【課題】圧接混合装置を用いてセラミックス中空粒子を製造する方法において、樹脂粉末とセラミックス粉末とを混合する工程が不要で材料ロスもなく、これまでよりも安価に製造する。
【解決手段】回転自在でドラム状を呈するチャンバの内壁と、スクレーバーとの微小隙間に粉末を通過させて粉末同士を圧接しながら混合する圧接混合装置に、樹脂粉末と、樹脂粉末よりも小径のセラミックス粉末とを個別に投入し、チャンバを圧接混合時の回転速度よりも低速で回転させて樹脂粉末とセラミックス粉末とを混合し、次いで圧接混合を行いセラミックス粉末がその一部を埋込んだ状態で樹脂粉末の表面を被覆している前駆体を形成し、次いで前駆体を焼成して樹脂粉末を焼失させるとともにセラミックス粉末同士を焼結させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末同士で結合してなる多孔質殻層を形成して中空構造をなすセラミックス中空粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、材料の軽量化や強度の増強等を目的として、金属等の母材にアルミナ粒子等のセラミックス粒子を分散させた複合材料が広く使用されている。また、今日では、さらなる軽量化のために、セラミックス粉末同士が結合して略球状の多孔質殻層を形成し、内部を中空としたセラミックス中空粒子も使用されるようになってきている。
【0003】
このセラミックス中空粒子は、芯材となる大径の樹脂粉末の全面を、樹脂粉末よりも小径のセラミックス粉末からなる粉末層で被覆した前駆体を形成し、前駆体から樹脂粉末を除去するとともに、セラミックス粉末同士が結合した多孔質殻層を形成して製造するのが一般的である。例えば、特許文献1には、吸水膨潤した高吸水性ポリマー粉末と、アルミナ粉末とを接触させて高吸水性ポリマー粉末の全表面にアルミナ粉末による粉末層を形成して前駆体とし、この前駆体を高温乾燥あるいは焼成することにより高吸水性ポリマーを除去して中空構造とするアルミナ中空粒子の製造する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、図4に模式的に示すように、前駆体は、樹脂粉末10の表面にセラミックス粉末11が付着しているだけであるため、高温乾燥や焼成の際に、セラミックス粉末11が樹脂粉末10から容易に剥がれ落ち、粉末層を均一に保持し難いという問題がある。しかも、高温乾燥や焼成により樹脂粉末10が熱膨張したり、気化したりするため、セラミックス粉末11が外方に向かう圧力を受けて粉末層が崩壊し易くなる。このようなセラミックス粉末11の剥離や粉末層の崩壊の結果、均質な多孔質殻層が形成されず、セラミックス中空粒子の生産性を高める上で大きな障害となっている。
【0005】
また、今日では、軽量化をさらに進めるために、粒径が20μm以下という微細なセラミックス中空粒子への要望も高くなってきており、そのためにはサブミクロンオーダーのセラミックス微粉末の使用が余儀なくされる。しかし、このようなセラミックス微粉末による均一な粉末層を維持し、良好な多孔質殻層を形成するのはさらに困難となる。
【0006】
このような背景から本出願人は、特許文献2において、図2に示すような製造工程を経てセラミックス中空粒子を製造することを提案している。即ち、同図(a)、(b)に示すように、樹脂粉末10とセラミックス粉末11とを混合し、混合粉末5を同図(c)に示す圧接混合装置1のチャンバ2に投入して樹脂粉末10とセラミックス粉末11とを圧接混合する。この圧接混合装置1は、回転自在でドラム状を呈するチャンバ2の中心軸に、インナー3とスクレーバー4とを所定距離おいて配設して概略構成されている。インナー3は、混合粉体5の取り入れ及び送り出しを円滑に行えるように、チャンバ2の内壁と対向する側の面が断面略半円状を呈しており、またチャンバ2の内壁との間で僅かな隙間を形成している。そして、樹脂粉末10とセラミックス粉末11とを混合した混合粉末5をチャンバ2に投入してチャンバ2を高速で矢印方向に回転させることにより、混合粉末5は遠心力によりチャンバ2の内壁に押し付けられ、次いでインナー3とチャンバ2の内壁との隙間を通過する。この通過の際に、剪断力により樹脂粉末とセラミックス粉末とが相互に押し付け合い、セラミックス粉末の一部が樹脂粉末の表面に埋め込まれる。そして、インナー3を通過した混合粉末5はスクレーバー4により削り取られ、同様のプロセスが繰り返し行われ、最終的に、図3に示したように、樹脂粉末10の全表面を覆うようにセラミックス粉末11の一部が埋め込まれる。次いで、このセラミックス粉末11がその一部を埋込んだ状態で樹脂粉末10の表面を被覆している前駆体を焼成し、樹脂粉末10を焼失させるとともにセラミックス粉末11同士を焼結させて多孔質殻層を形成する。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の製造方法では、樹脂粉末10とセラミックス粉末11とを事前に混合する工程が別途必要であり、また、混合に用いる混合装置に樹脂粉末10やセラミックス粉末11が付着して材料ロスにもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−258223号公報
【特許文献2】特許第3955477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、圧接混合装置を用いてセラミックス中空粒子を製造する方法において、樹脂粉末とセラミックス粉末とを混合する工程が不要で材料ロスもなく、これまでよりも安価に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、セラミックス粉末同士が結合してなる多孔質殻層を形成して中空構造をなすセラミックス中空粒子の製造方法において、回転自在でドラム状を呈するチャンバの内壁と、スクレーバーとの微小隙間に粉末を通過させて粉末同士を圧接しながら混合する圧接混合装置に、樹脂粉末と、樹脂粉末よりも小径のセラミックス粉末とを個別に投入し、チャンバを圧接混合時の回転速度よりも低速で回転させて樹脂粉末とセラミックス粉末とを混合し、次いで圧接混合を行いセラミックス粉末がその一部を埋込んだ状態で樹脂粉末の表面を被覆している前駆体を形成し、次いで前駆体を焼成して樹脂粉末を焼失させるとともにセラミックス粉末同士を焼結させることを特徴とするセラミックス中空粒子の製造方法を提供する。また、本発明は、前記製造方法により得られ、完全中空粒子65〜100%と、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子0〜35%とからなることを特徴とするセラミックス中空粒子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧接混合装置を用いてセラミックス中空粒子を製造する方法において、セラミックス粉末と樹脂粉末とを混合することなく直接チャンバに投入するため、混合工程が無くなり、混合に伴う材料ロスも無くなることから、これまでよりも安価にセラミックス中空粒子を製造することができる。また、得られるセラミックス中空粒子は、完全中空粒子を65〜100%含んでおり、歩留まりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のセラミックス中空粒子の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】特許文献2に記載のセラミックス中空粒子の製造方法を説明するための工程図である。
【図3】本発明及び特許文献2に記載のセラミックス中空粒子の製造方法における、樹脂粉末とセラミックス粉末とからなる前駆体を模式的に示した図である。
【図4】特許文献1に記載のセラミックス中空粒子の製造方法における、樹脂粉末とセラミックス粉末とからなる前駆体を模式的に示した図である。
【図5】混合前のポリメチルメタクリレート粉末を撮影した電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図6】圧接混合後の粉末を撮影した電子顕微鏡写真(3000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明のセラミックス中空粒子の製造方法では、図1に示すように、樹脂粉末10と、セラミックス粉末11とを混合することなく、そのまま圧接混合装置1のチャンバ2に投入する。圧接混合装置1は図2(c)に示したとおりである。尚、圧接混合装置1として、例えばメカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン(株)製AMS−Lab)が知られている。
【0015】
圧接混合装置1では、混合粉末5を投入した後、圧接混合時よりも低速でチャンバ2を回転させる。この低速回転により、樹脂粉末10とセラミックス粉末11とが適度に混合される。尚、この混合のための回転数は、低すぎると混合に長時間を要するため、圧接混合時の回転数の65%〜95%が適当である。
【0016】
次いで、チャンバ2を、通常の圧接混合時と同様の回転数にて回転させ、圧接混合を行う。この圧接混合により、図3に示すような、セラミックス粉末11の一部が埋め込まれた状態で樹脂粉末10を被覆した前駆体が得られる。
【0017】
このときのセラミックス粉末11の樹脂粉末10への埋込量としては、高温乾燥や焼成の際の剥離防止をより確実にするために粉末体積の50〜80%程度が好ましく、処理時間やチャンバ2の内壁とインナー3との隙間を適宜調整する。
【0018】
また、圧接混合に際してチャンバ2を加熱してもよい。加熱により樹脂粉末10が軟化し、セラミックス粉末11が埋込まれ易くなる。但し、インナー3による押圧作用により若干発熱するため、特に時間の短縮等の必要がない場合には、常温で行うことができる。
【0019】
樹脂粉末10とセラミックス粉末11との混合比は特に制限されるものではなく、それぞれの粒径にもよるが、例えば樹脂粉末10とセラミックス粉末11とを重量比で等量ずつ投入すればよい。
【0020】
次いで、得られた前駆体を焼成して、樹脂粉末10をガス化して消失させるとともに、セラミックス粉末11同士を結合させる。焼成条件は、樹脂粉末10が完全に消失させるのに十分な温度、時間を、樹脂の種類に応じて適宜設定する。
【0021】
上記の前駆体の焼成工程において、前駆体を電気炉等に入れ、室温から徐々に昇温してガス化及び焼成する温度プロセスを採用してもよいし、樹脂粉末10が完全にガス化する温度に加熱された電気炉に前駆体を入れて処理した後、セラミックス粉末11同士が結合する温度に昇温する温度プロセスを採用してもよい。特に、後者の温度プロセスを採用することにより、樹脂粉末10が瞬時にガス化して消失するため、より真球に近いセラミックス中空粒子が得られる。また、後者の温度プロセスにおける前駆体の処理温度は、樹脂粉末10の種類にもよるが、700〜800℃が適当である。
【0022】
上記焼成により本発明のセラミックス中空粒子が得られるが、焼成に際してセラミックス粉末11が樹脂粉末10から剥がれ落ちることがないことから、均質で強固な多孔質殻層が形成される。
【0023】
尚、本発明において、樹脂粉末10の種類には制限がないが、セラミックス粉末11を埋め込むことができるように軟質の樹脂であることが好ましい。例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる粉末を好適に使用することができる。中でも、ポリメチルメタクリレート(PMMA)はポリスチレン(PS)やポリエチレン(PE)に比べて、より低温側で急激に分解して約350℃で略完全に残存物も無くなるため好ましい。このポリメチルメタクリレート粉末を使用することにより、より真球に近いセラミックス中空粒子が得られる。
【0024】
また、樹脂粉末10の粒径は、目的とするセラミックス中空粒子の粒径に応じて適宜選択される。本発明においては、粒径20μm以下のセラミックス中空粒子を生成することを目的の一つとしており、その際に樹脂粉末10として粒径20μm以下に分級されたものを使用する。
【0025】
一方、セラミックス粉末11にも制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。セラミックス粉末は1種類でもよく、2種以上を用いてもよい。また、粒径の異なる粉末を用いると、大径粉末と大径粉末とが結合して形成される隙間に、小径の粉末が入り込み、より緻密なセラミックス中空粒子が得られる。その際の大径粉末と小径粉末との混合比は、小径粉末を50質量%未満とすることが好ましく、セラミックス中空粒子の強度の点からは3〜20質量%とすることがより好ましい。
【0026】
このようにして得られるセラミックス中空粒子は、完全中空粒子の割合が65〜100%で、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子の割合が0〜35%となり、完全中空粒子の割合が高くなる。尚、このような割合は、得られたセラミックス中空粒子を適量採取し、電子顕微鏡で観察して、視野内における完全中空粒子、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子の数を数えることにより求められる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0028】
〔試験1:混合方法の検証〕
(実施例1)
圧接混合装置として、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン(株)製AMS−Lab;図1、2参照)を用意し、インナーとチャンバとの隙間を3mmに調整した。そして、平均粒径15μmに分級されたポリメチルメタクリレート粉末と、平均粒径0.2μmに分級されたアルミナ粉末と、平均粒径0.01μmに分級されたシリカ粉末とを表1に示す配合にてチャンバに投入し、1740rpmで低速回転して混合した後、2600rpmで高速回転して圧接混合した。
【0029】
【表1】

【0030】
圧接混合終了後にチャンバから粉末の一部を取り出して電子顕微鏡観察(3000倍)し、視野内の粒子を観察した。そして、アルミナ粉末で完全に被覆され、表面が露出している部分の無いポリメチルメタクリレート粉末の割合(コーティング率)を求めたところ、コーティング率は92.3%であった。
【0031】
また、図5に混合前のポリメチルメタクリレート粉末を撮影した電子顕微鏡写真(5000倍)、図6に圧接混合後の粉末を撮影した電子顕微鏡写真(5000倍)を示すが、低速での混合後に高速での圧接混合を行うことにより、ポリメチルメタクリレート粉末表面が,アルミナ粉末で完全に被覆されていることがわかる。
【0032】
(比較例1)
1500rpmで圧接混合した以外は、実施例1と同様の操作を行った。同様にしてコーティング率を求めたが、6.28%であり、アルミナ粉末による被覆は不十分であった。
【0033】
(比較例2)
ポリメチルメタクリレート粉末と、アルミナ粉末とを個別に圧接混合装置に投入後、低速での混合を経ずに2600rpmにて圧接混合を行った。同様にしてコーティング率を求めたが、43.9%であり、アルミナ粉末による被覆は不十分であった。
【0034】
〔試験2:アルミナ中空粒子の作製〕
(実施例2)
実施例1で得られた圧接混合後の粉末を800℃に加熱した電気炉に投入してポリメチルメタクリレートをガス化させた後、1600℃まで約5℃/分の昇温速度で昇温し、1600℃にて3時間保持して焼成した。次いで5℃/分の降温速度で室温まで冷却した。
【0035】
冷却後に電気炉から粉末を取り出し、電子顕微鏡で観察したところ、視野内において、完全中空粒子の割合が78%で、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子の割合が22%であった。
【0036】
また、実施例2の実験を10回繰り返して行い、同様にして求めたところ、完全中空粒子の割合が65〜100%の範囲で、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子の割合が0〜35%の範囲であった。
【0037】
(比較例3)
比較例1で得られた圧接混合後の粉末に対し、実施例2と同様の操作を行った。同様にして求めたところ、完全中空粒子の割合が5%で、破片粒子、中実粒子、及び不完全中空粒子の割合が95%であった。
【0038】
(比較例4)
比較例2で得られた圧接混合後の粉末に対し,実施例2と同様の操作を行った。同様にして求めたところ,完全中空粒子の割合が35%で,破片粒子,中実粒子,及び不完全中空粒子の割合が65%であった。
【0039】
(比較例5)
同じポリメチルメタクリレート粉末とアルミナ粉末とシリカ粉末とを混合装置にて混合して混合粉末とし,この混合粉末を用いて実施例1及び実施例2と同様の圧接混合、焼成を行った。同様にして求めたところ、完全中空粒子の割合が62%で、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子の割合が38%であった。
【符号の説明】
【0040】
1 圧接混合装置
2 チャンバ
3 インナー
4 スクレーバー
5 混合粉末
10 樹脂粉末
11 セラミックス粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末同士が結合してなる多孔質殻層を形成して中空構造をなすセラミックス中空粒子の製造方法において、
回転自在でドラム状を呈するチャンバの内壁と、スクレーバーとの微小隙間に粉末を通過させて粉末同士を圧接しながら混合する圧接混合装置に、樹脂粉末と、樹脂粉末よりも小径のセラミックス粉末とを個別に投入し、チャンバを圧接混合時の回転速度よりも低速で回転させて樹脂粉末とセラミックス粉末とを混合し、次いで圧接混合を行いセラミックス粉末がその一部を埋込んだ状態で樹脂粉末の表面を被覆している前駆体を形成し、次いで前駆体を焼成して樹脂粉末を焼失させるとともにセラミックス粉末同士を焼結させることを特徴とするセラミックス中空粒子の製造方法。
【請求項2】
粒径の異なる2種以上のセラミックス粉末を用いることを特徴とする請求項1記載のセラミックス中空粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られ、完全中空粒子65〜100%と、破片粒子、中実粒子及び不完全中空粒子0〜35%とからなることを特徴とするセラミックス中空粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105520(P2011−105520A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258924(P2009−258924)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】