セラミックス基複合部材およびその製造方法
【課題】一定方向への強い応力(遠心力等)に耐え、破壊し難い、タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材の提供。
【解決手段】タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【解決手段】タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス基複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジン部品等には、その使用時において、遠心力などの一定方向への強い応力が加わるものがある。そのような部品には耐熱性に加えて特に高い強度が要求されるので、通常、金属材料を用いて製造される。例えば、図7(a)は、一般的な航空機用ターボファンエンジンの概略斜視図であり、図7(b)は、そのタービン動翼の一部を拡大した概略図であるが、エンジンの駆動時にタービン動翼には翼部の長手方向へ強い遠心力がかかるので、通常、タービン動翼はNi基合金等から製造される。また、図7(b)に示すように、タービン動翼100は翼部102と、その主面に対して垂直方向へ伸びるプラットフォーム部104と、翼部102の一方端部に配置されたダブテール部106とを備える比較的複雑な形状を有するものであるものの、Ni基合金等の金属材料を用いて鋳込むことで、比較的容易に製造することができる。
【0003】
そして、近年、セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなるセラミックス基複合部材(CMC)のジェットエンジン部品への適用が期待されている。セラミックス基複合部材は軽量で耐熱性に優れるため、ジェットエンジン部品を利用することができれば、エンジンの重量削減および燃料消費率の低減が期待できる。
【0004】
従来、このようなセラミックス基複合材料を適用したジェットエンジン用部品やその製造方法がいくつか提案されている。
例えば特許文献1〜3には、翼部とプラットフォーム部とが十字状に交差した、セラミックス基複合部材(CMC)からなるタービン動翼について記載されている。具体的には翼部とプラットフォーム部とをマトリックスやロー材等で接着してなるタービン動翼が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7510379号明細書
【特許文献2】米国特許第7094021号明細書
【特許文献3】米国特許第4650399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1〜3に記載のような従来のセラミックス基複合部材を、タービン動翼として用いると、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐えられず、破壊してしまう場合があった。特に、接着された各部材間の接着部から破壊される場合があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、タービン動翼として用いても、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐え、破壊し難いセラミックス基複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討し、セラミックス基複合部材をタービン動翼として用いた場合、応力がかかる一定方向と、セラミックス基複合部材の主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維の方向とを平行とすることで、強い応力がかかってもセラミックス複合部材は破損し難いことを見出した。また、セラミックス複合部材を構成する複数の部分について、各々成形しマトリックスを形成した後に接着してセラミックス複合部材とすると、各部分間の接着強度が低くなり、ここを起点に破壊されてしまうものの、各部分を一体に成形しマトリックスを形成することで繊維レベルでの結びつきが強固になり、全体としての強度も高まり、破損し難いセラミックス複合部材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の(1)または(2)である。
(1)タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
(2)タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タービン動翼として用いても、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐え、破壊し難いセラミックス基複合部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)は本発明のタービン動翼の概略斜視図であり、図1(b)はそれを構成するセラミックス繊維織物の構造例を示す概略斜視図である。
【図2】一体三又繊維織物を表しており、図2(a)が概略側面図であり、図2(b)は図2(a)におけるA−A線断面図である。
【図3】一体三又繊維織物を変形させることを説明するための概略斜視図である。
【図4】図4(a)は主部になる繊維織物の概略側面図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線断面図であり、図4(c)は2枚のプラットフォーム部の概略正面図である。
【図5】図5(a)は主部になる繊維織物の概略側面図であり、図5(b)は図5(a)におけるC−C線断面図である。
【図6】縫合してなる繊維織物を変形させることを説明するための概略斜視図である。
【図7】図7(a)は、一般的な航空機用ターボファンエンジンの概略斜視図であり、図7(b)は、そのタービン動翼の一部を拡大した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。本発明はタービン動翼として用いるセラミックス基複合材料であって、図1に示すようなものであることが好ましい。
図1(a)は本発明のセラミックス基複合材料の好適例であるタービン動翼の概略斜視図であり、図1(b)はそれを構成するセラミックス繊維織物の構造例を示す概略斜視図である。
図1(a)に示すように、タービン動翼の外形は、通常のタービン動翼(例えば図7に示したもの)と同様であってよい。図1(a)に示すタービン動翼1は、翼部2と、その主面に対して垂直方向へ伸びるプラットフォーム部4と、翼部2の一方端部に配置されたダブテール部6とを備えている。また、図1(a)はダブテール部6がディスク部8に嵌められた状態を示している。このようなタービン動翼1は、その使用時においてディスク部8が回転することで、翼部2の長手方向へ強い遠心力がかかる。
【0013】
このようなタービン動翼1を構成するセラミックス繊維織物は、図1(b)に示すような3次元構造を備えていることが好ましい。3次元構造の繊維織物は、例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって得られる。具体的には、例えば、繊維束をX方向およびそれに垂直なY方向に配置してなる層を複数枚得た後、各層を重ね、その厚み方向(Z方向)に別の繊維束によって縫うことで、3次元構造の繊維織物を得ることができる。
なお、本発明において用いるセラミックス繊維織物は、3次元構造を備えるものでなくてもよいし、部分的に3次元構造を備えるものであってもよい。
【0014】
本発明のタービン動翼として用いるセラミックス基複合材料は、その主部(翼部およびダブテール部)を構成するセラミックス繊維織物における主繊維の方向が、遠心力がかかる方向と略平行である。
ここで、セラミックス繊維織物における主繊維とは、繊維織物を構成する繊維の中の特定方向に延びる繊維群を意味する。また、特定方向とは、例えば、セラミックス繊維織物が3次元構造を備える場合、X方向、Y方向またはZ方向を意味する。したがって、この場合、X方向の繊維束、Y方向の繊維束、Z方向の繊維束のいずれか1つの方向に延びる繊維束の群が主繊維である。
本発明のタービン動翼にかかる遠心力の方向と、主繊維の方向(X方向、Y方向またはZ方向)とが略平行であると、強い遠心力がかかっても破損し難い。
【0015】
また、主部である翼部およびダブテール部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維は連続繊維であることが好ましい。すなわち、前記主繊維は、主部の一方端部から他方端部において途中で切れたものではなく、連続する一本の繊維束であることが好ましい。主繊維が遠心力と略平行方向に延びており、かつ、連続繊維からなると、強い遠心力がかかっても主繊維は破損し難いため、結果として主部全体としても破壊し難く、使用に耐え得るものとなるからである。
【0016】
本発明のセラミックス基複合材料は、次に示す2つの態様のものに分類される。
【0017】
本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料は、タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材である。
このような本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料を、以下では単に態様1ともいう。
【0018】
また、本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料は、タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材である。
このような本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料を、以下では単に態様2ともいう。
【0019】
態様1について、図2、図3を用いて説明する。
図2(a)および(b)は、翼部およびダブテール部(主部)になるセラミックス繊維織物13と、プラットフォーム部(従属部)になるセラミックス繊維織物15とが繋がっている一体三又繊維織物11を表した図であり、図2(a)が概略側面図であり、図2(b)は図2(a)におけるA−A線断面図である。
【0020】
態様1では、このような一体三又繊維織物11を得た後、図3(a)に示すように、翼部およびダブテール部になるセラミックス繊維織物13に対して、プラットフォーム部になるセラミックス繊維織物15を所望の角度(タービン動翼の場合は略90度)をなすように折り曲げて、図3(b)に示すような態様の繊維織物を得る。
図3(b)に示す態様のものが得られた後は、2つのプラットフォーム部になる繊維織物15が重なった部分151を別の繊維束を用いて縫い合わせることが好ましい。得られる本発明のタービン動翼に用いるセラミックス繊維織物の強度がより高まるからである。
【0021】
ここで一体三又繊維織物11は、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって所望の形のものを得ることができる。
【0022】
また、セラミックス繊維の材質や太さ等は特に限定されない。例えばSiC、C、Si3N4、Al2O3、BNなどからなるセラミックス繊維を用いることができる。また、セラミックス繊維の太さは従来公知のセラミックス繊維と同様であってよく、例えば数μm〜数十μm程度であってよい。
【0023】
上記のようにして、図3(b)に示すような態様の繊維織物を得た後、得られた繊維織物を型に組みつけて一体に成形する。例えば6分割程度の型に繊維織物を組み付けて成形する。型は内部形状が、求める成形体の形状となっており、繊維織物を型に沿って変形させて組み付けることで、型の内部で繊維織物を一体に成形することができる。
このようにして得た成形体に気体からの化学反応や固体粉末をスラリー状にして流し込み焼結させる等の方法でセラミックスマトリックスを形成する。
例えば、型の内部で一体となった前記成形体をチャンバーの中で原料ガスに曝して化学反応によって前記成形体の表面にマトリックスを析出させる方法や、一体となった前記成形体に原料粉末固体をスラリー状にして含浸し、焼結する方法が挙げられる。
このようにして得られるものが、本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料(態様1)である。
【0024】
次に態様2について、図4、図5、図6を用いて説明する。
図4(a)、(b)および(c)は、翼部およびダブテール部(主部)になる繊維織物23と、プラットフォーム部(従属部)になる繊維織物25とを表した図であり、図4(a)が概略側面図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線断面図であり、図4(c)は2枚のプラットフォーム部の概略正面図である。
【0025】
態様2では、図4に示すような繊維織物23と繊維織物25とを得た後、これらを縫合して繋げることで、図5に示す態様の繊維織物21を得る。図5(a)は縫合して得られた繊維織物21の概略側面図であり、図5(b)は図5(a)におけるC−C線断面図である。図5に示す態様では、図5(b)に示すように、繊維織物23と繊維織物25とをダブテール部の付近で縫合して繋げている。
そして、次に、図6(a)に示すように、翼部およびダブテール部になる繊維織物23に対して、プラットフォーム部になる繊維織物25を所望の角度(タービン動翼の場合は略90度)をなすように折り曲げて、図6(b)に示す態様の繊維織物を得る。
図6(b)に示す態様が得られた後は、2つのプラットフォーム部になる繊維織物25が重なった部分251を別の繊維束を用いて縫い合わせることが好ましい。得られる本発明のタービン動翼の強度がより高まるからである。
【0026】
ここで繊維織物23および繊維織物25の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって所望の形のものを得ることができる。
【0027】
また、セラミックス繊維の材質や太さ等は特に限定されない。例えばSiC、C、Si3N4、Al2O3、BNなどからなるセラミックス繊維を用いることができる。また、セラミックス繊維の太さは従来公知のセラミックス繊維と同様であってよく、例えば数μm〜数十μm程度であってよい。
【0028】
上記のようにして、図6(b)に示すような態様の繊維織物を得た後、得られた繊維織物を型に組みつけて一体に成形する。例えば6分割程度の型に繊維織物を組み付けて成形する。型は内部形状が、求める成形体の形状となっており、繊維織物を型に沿って変形させて組み付けることで、型の内部で繊維織物を一体に成形することができる。
このようにして得た成形体に気体からの化学反応や固体粉末をスラリー状にして流し込み焼結させる等の方法でセラミックスマトリックスを形成する。
例えば、型の内部で一体となった前記成形体をチャンバーの中で原料ガスに曝して化学反応によって前記成形体の表面にマトリックスを析出させる方法や、一体となった前記成形体に原料粉末固体をスラリー状にして含浸し、焼結する方法が挙げられる。
このようにして得られるものが、本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料(態様2)である。
【符号の説明】
【0029】
1 本発明のタービン動翼
2 翼部
4 プラットフォーム部
6 ダブテール部
8 ディスク部
11 一体三又繊維織物
13 翼部およびダブテール部になる繊維織物
15 プラットフォーム部になる繊維織物
151 プラットフォーム部になる繊維織物の一部分
21 縫合してなる繊維織物
23 翼部およびダブテール部になる繊維織物
25 プラットフォーム部になる繊維織物
251 プラットフォーム部になる繊維織物の一部分
100 タービン動翼
102 翼部
104 プラットフォーム部
106 ダブテール部
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス基複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジン部品等には、その使用時において、遠心力などの一定方向への強い応力が加わるものがある。そのような部品には耐熱性に加えて特に高い強度が要求されるので、通常、金属材料を用いて製造される。例えば、図7(a)は、一般的な航空機用ターボファンエンジンの概略斜視図であり、図7(b)は、そのタービン動翼の一部を拡大した概略図であるが、エンジンの駆動時にタービン動翼には翼部の長手方向へ強い遠心力がかかるので、通常、タービン動翼はNi基合金等から製造される。また、図7(b)に示すように、タービン動翼100は翼部102と、その主面に対して垂直方向へ伸びるプラットフォーム部104と、翼部102の一方端部に配置されたダブテール部106とを備える比較的複雑な形状を有するものであるものの、Ni基合金等の金属材料を用いて鋳込むことで、比較的容易に製造することができる。
【0003】
そして、近年、セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなるセラミックス基複合部材(CMC)のジェットエンジン部品への適用が期待されている。セラミックス基複合部材は軽量で耐熱性に優れるため、ジェットエンジン部品を利用することができれば、エンジンの重量削減および燃料消費率の低減が期待できる。
【0004】
従来、このようなセラミックス基複合材料を適用したジェットエンジン用部品やその製造方法がいくつか提案されている。
例えば特許文献1〜3には、翼部とプラットフォーム部とが十字状に交差した、セラミックス基複合部材(CMC)からなるタービン動翼について記載されている。具体的には翼部とプラットフォーム部とをマトリックスやロー材等で接着してなるタービン動翼が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7510379号明細書
【特許文献2】米国特許第7094021号明細書
【特許文献3】米国特許第4650399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1〜3に記載のような従来のセラミックス基複合部材を、タービン動翼として用いると、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐えられず、破壊してしまう場合があった。特に、接着された各部材間の接着部から破壊される場合があった。
【0007】
本発明はこのような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、タービン動翼として用いても、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐え、破壊し難いセラミックス基複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討し、セラミックス基複合部材をタービン動翼として用いた場合、応力がかかる一定方向と、セラミックス基複合部材の主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維の方向とを平行とすることで、強い応力がかかってもセラミックス複合部材は破損し難いことを見出した。また、セラミックス複合部材を構成する複数の部分について、各々成形しマトリックスを形成した後に接着してセラミックス複合部材とすると、各部分間の接着強度が低くなり、ここを起点に破壊されてしまうものの、各部分を一体に成形しマトリックスを形成することで繊維レベルでの結びつきが強固になり、全体としての強度も高まり、破損し難いセラミックス複合部材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は以下の(1)または(2)である。
(1)タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
(2)タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タービン動翼として用いても、一定方向への強い応力(遠心力等)に耐え、破壊し難いセラミックス基複合部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)は本発明のタービン動翼の概略斜視図であり、図1(b)はそれを構成するセラミックス繊維織物の構造例を示す概略斜視図である。
【図2】一体三又繊維織物を表しており、図2(a)が概略側面図であり、図2(b)は図2(a)におけるA−A線断面図である。
【図3】一体三又繊維織物を変形させることを説明するための概略斜視図である。
【図4】図4(a)は主部になる繊維織物の概略側面図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線断面図であり、図4(c)は2枚のプラットフォーム部の概略正面図である。
【図5】図5(a)は主部になる繊維織物の概略側面図であり、図5(b)は図5(a)におけるC−C線断面図である。
【図6】縫合してなる繊維織物を変形させることを説明するための概略斜視図である。
【図7】図7(a)は、一般的な航空機用ターボファンエンジンの概略斜視図であり、図7(b)は、そのタービン動翼の一部を拡大した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。本発明はタービン動翼として用いるセラミックス基複合材料であって、図1に示すようなものであることが好ましい。
図1(a)は本発明のセラミックス基複合材料の好適例であるタービン動翼の概略斜視図であり、図1(b)はそれを構成するセラミックス繊維織物の構造例を示す概略斜視図である。
図1(a)に示すように、タービン動翼の外形は、通常のタービン動翼(例えば図7に示したもの)と同様であってよい。図1(a)に示すタービン動翼1は、翼部2と、その主面に対して垂直方向へ伸びるプラットフォーム部4と、翼部2の一方端部に配置されたダブテール部6とを備えている。また、図1(a)はダブテール部6がディスク部8に嵌められた状態を示している。このようなタービン動翼1は、その使用時においてディスク部8が回転することで、翼部2の長手方向へ強い遠心力がかかる。
【0013】
このようなタービン動翼1を構成するセラミックス繊維織物は、図1(b)に示すような3次元構造を備えていることが好ましい。3次元構造の繊維織物は、例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって得られる。具体的には、例えば、繊維束をX方向およびそれに垂直なY方向に配置してなる層を複数枚得た後、各層を重ね、その厚み方向(Z方向)に別の繊維束によって縫うことで、3次元構造の繊維織物を得ることができる。
なお、本発明において用いるセラミックス繊維織物は、3次元構造を備えるものでなくてもよいし、部分的に3次元構造を備えるものであってもよい。
【0014】
本発明のタービン動翼として用いるセラミックス基複合材料は、その主部(翼部およびダブテール部)を構成するセラミックス繊維織物における主繊維の方向が、遠心力がかかる方向と略平行である。
ここで、セラミックス繊維織物における主繊維とは、繊維織物を構成する繊維の中の特定方向に延びる繊維群を意味する。また、特定方向とは、例えば、セラミックス繊維織物が3次元構造を備える場合、X方向、Y方向またはZ方向を意味する。したがって、この場合、X方向の繊維束、Y方向の繊維束、Z方向の繊維束のいずれか1つの方向に延びる繊維束の群が主繊維である。
本発明のタービン動翼にかかる遠心力の方向と、主繊維の方向(X方向、Y方向またはZ方向)とが略平行であると、強い遠心力がかかっても破損し難い。
【0015】
また、主部である翼部およびダブテール部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維は連続繊維であることが好ましい。すなわち、前記主繊維は、主部の一方端部から他方端部において途中で切れたものではなく、連続する一本の繊維束であることが好ましい。主繊維が遠心力と略平行方向に延びており、かつ、連続繊維からなると、強い遠心力がかかっても主繊維は破損し難いため、結果として主部全体としても破壊し難く、使用に耐え得るものとなるからである。
【0016】
本発明のセラミックス基複合材料は、次に示す2つの態様のものに分類される。
【0017】
本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料は、タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材である。
このような本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料を、以下では単に態様1ともいう。
【0018】
また、本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料は、タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材である。
このような本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料を、以下では単に態様2ともいう。
【0019】
態様1について、図2、図3を用いて説明する。
図2(a)および(b)は、翼部およびダブテール部(主部)になるセラミックス繊維織物13と、プラットフォーム部(従属部)になるセラミックス繊維織物15とが繋がっている一体三又繊維織物11を表した図であり、図2(a)が概略側面図であり、図2(b)は図2(a)におけるA−A線断面図である。
【0020】
態様1では、このような一体三又繊維織物11を得た後、図3(a)に示すように、翼部およびダブテール部になるセラミックス繊維織物13に対して、プラットフォーム部になるセラミックス繊維織物15を所望の角度(タービン動翼の場合は略90度)をなすように折り曲げて、図3(b)に示すような態様の繊維織物を得る。
図3(b)に示す態様のものが得られた後は、2つのプラットフォーム部になる繊維織物15が重なった部分151を別の繊維束を用いて縫い合わせることが好ましい。得られる本発明のタービン動翼に用いるセラミックス繊維織物の強度がより高まるからである。
【0021】
ここで一体三又繊維織物11は、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって所望の形のものを得ることができる。
【0022】
また、セラミックス繊維の材質や太さ等は特に限定されない。例えばSiC、C、Si3N4、Al2O3、BNなどからなるセラミックス繊維を用いることができる。また、セラミックス繊維の太さは従来公知のセラミックス繊維と同様であってよく、例えば数μm〜数十μm程度であってよい。
【0023】
上記のようにして、図3(b)に示すような態様の繊維織物を得た後、得られた繊維織物を型に組みつけて一体に成形する。例えば6分割程度の型に繊維織物を組み付けて成形する。型は内部形状が、求める成形体の形状となっており、繊維織物を型に沿って変形させて組み付けることで、型の内部で繊維織物を一体に成形することができる。
このようにして得た成形体に気体からの化学反応や固体粉末をスラリー状にして流し込み焼結させる等の方法でセラミックスマトリックスを形成する。
例えば、型の内部で一体となった前記成形体をチャンバーの中で原料ガスに曝して化学反応によって前記成形体の表面にマトリックスを析出させる方法や、一体となった前記成形体に原料粉末固体をスラリー状にして含浸し、焼結する方法が挙げられる。
このようにして得られるものが、本発明における第1の態様のセラミックス基複合材料(態様1)である。
【0024】
次に態様2について、図4、図5、図6を用いて説明する。
図4(a)、(b)および(c)は、翼部およびダブテール部(主部)になる繊維織物23と、プラットフォーム部(従属部)になる繊維織物25とを表した図であり、図4(a)が概略側面図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線断面図であり、図4(c)は2枚のプラットフォーム部の概略正面図である。
【0025】
態様2では、図4に示すような繊維織物23と繊維織物25とを得た後、これらを縫合して繋げることで、図5に示す態様の繊維織物21を得る。図5(a)は縫合して得られた繊維織物21の概略側面図であり、図5(b)は図5(a)におけるC−C線断面図である。図5に示す態様では、図5(b)に示すように、繊維織物23と繊維織物25とをダブテール部の付近で縫合して繋げている。
そして、次に、図6(a)に示すように、翼部およびダブテール部になる繊維織物23に対して、プラットフォーム部になる繊維織物25を所望の角度(タービン動翼の場合は略90度)をなすように折り曲げて、図6(b)に示す態様の繊維織物を得る。
図6(b)に示す態様が得られた後は、2つのプラットフォーム部になる繊維織物25が重なった部分251を別の繊維束を用いて縫い合わせることが好ましい。得られる本発明のタービン動翼の強度がより高まるからである。
【0026】
ここで繊維織物23および繊維織物25の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって所望の形のものを得ることができる。
【0027】
また、セラミックス繊維の材質や太さ等は特に限定されない。例えばSiC、C、Si3N4、Al2O3、BNなどからなるセラミックス繊維を用いることができる。また、セラミックス繊維の太さは従来公知のセラミックス繊維と同様であってよく、例えば数μm〜数十μm程度であってよい。
【0028】
上記のようにして、図6(b)に示すような態様の繊維織物を得た後、得られた繊維織物を型に組みつけて一体に成形する。例えば6分割程度の型に繊維織物を組み付けて成形する。型は内部形状が、求める成形体の形状となっており、繊維織物を型に沿って変形させて組み付けることで、型の内部で繊維織物を一体に成形することができる。
このようにして得た成形体に気体からの化学反応や固体粉末をスラリー状にして流し込み焼結させる等の方法でセラミックスマトリックスを形成する。
例えば、型の内部で一体となった前記成形体をチャンバーの中で原料ガスに曝して化学反応によって前記成形体の表面にマトリックスを析出させる方法や、一体となった前記成形体に原料粉末固体をスラリー状にして含浸し、焼結する方法が挙げられる。
このようにして得られるものが、本発明における第2の態様のセラミックス基複合材料(態様2)である。
【符号の説明】
【0029】
1 本発明のタービン動翼
2 翼部
4 プラットフォーム部
6 ダブテール部
8 ディスク部
11 一体三又繊維織物
13 翼部およびダブテール部になる繊維織物
15 プラットフォーム部になる繊維織物
151 プラットフォーム部になる繊維織物の一部分
21 縫合してなる繊維織物
23 翼部およびダブテール部になる繊維織物
25 プラットフォーム部になる繊維織物
251 プラットフォーム部になる繊維織物の一部分
100 タービン動翼
102 翼部
104 プラットフォーム部
106 ダブテール部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【請求項2】
タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【請求項1】
タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とが繋がっていて一体三又繊維織物をなしており、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【請求項2】
タービン動翼として用いるセラミックス基複合部材であって、
翼部およびダブテール部となる主部ならびにプラットフォーム部となる従属部を有し、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物における主繊維が連続繊維であり、この方向と、応力がかかる方向とが平行であり、
前記主部を構成するセラミックス繊維織物と前記従属部を構成するセラミックス繊維織物とを縫合して繋げた後、前記主部を構成するセラミックス繊維織物に対して、前記従属部を構成するセラミックス繊維織物を所望の角度をなすように折り曲げ、型に組み付けて一体に成形し、得られた成形体にセラミックスマトリックスを形成してなる、セラミック基複合部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−87663(P2013−87663A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227221(P2011−227221)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]