説明

セラミックス多孔体及びその製造方法

【課題】反りなどの変形を抑えたセラミックス多孔体を提供する。
【解決手段】セラミックス多孔体に金属を浸透させて金属―セラミックス複合材料を得るためのセラミックス多孔体であって、セラミックス粉末のバインダーとしてシリコーンエマルジョンを用いたことを特徴とするセラミックス多孔体。シリコーンエマルジョンのミセル径が、前記セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍であり、セラミックス多孔体のセラミックス粉末の充填率が50〜80%、細孔径が1〜10μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス多孔体に関する。特に加圧浸透もしくは非加圧浸透などによりに金属を浸透させて複合化し、金属−セラミックス複合材料とするためのセラミックス多孔体に用いられる。このような複合材料は半導体製造装置や液晶製造装置など精密機械に使用される。
【背景技術】
【0002】
金属―セラミックス基複合材料を作製するためのプリフォームとしてセラミックス多孔体が用いられている。このような多孔体を作製する方法としてプレス成形や鋳込み成形などさまざまな方法がある。その方法のひとつとして、セラミックス粉末にバインダーと溶媒を添加し、型に流し込んで成形し、冷凍して固めた後、熱処理してバインダー成分を硬化させるセディメント法がある。この方法はスラリーを型に流し込むため、自由な形状ができ、熱処理後には製品とほぼ同形状にすることができる。そのため、金属と複合化した後の加工が少ないという利点がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、1.0〜100μmの平均粒径を有するSiC粉末に対し、バインダーとして水を分散媒とし、Na、もしくはNHを安定化剤とするコロイドの大きさが5〜50nmのコロイダルシリカ液を0.5〜25wt%(シリカとして0.1〜5.0wt%)加え成形した後、SiC粉末を沈降させて成形し、得られた成形体を冷凍して脱型し、その成形体を800〜1100℃の温度で1〜3時間焼成してプリフォームが作製されている。さらに、このプリフォームにアルミニウムを主成分とする合金を700〜1000℃の温度で含浸させて金属−セラミックス複合材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−102162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような製法で得られるプリフォームは、成形体の収縮が不均一となり、変形が生じる場合があった。変形すると所望の寸法が得られず、余分な加工が必要となるためコスト高となる。さらに、加工によっても回復できないような反りが発生したり、最悪の場合、割れが発生したりすることもあった。
【0006】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、反りなどの変形を抑えたセラミックス多孔体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するため、以下に示す(1)〜(5)の発明を提供する。
(1)セラミックス多孔体に金属を浸透させて金属―セラミックス複合材料を得るためのセラミックス多孔体であって、
セラミックス粉末の結合材としてシリコーンエマルジョンを用いたことを特徴とするセラミックス多孔体。
(2)前記シリコーンエマルジョンのミセル径が、前記セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍である(1)記載のセラミックス多孔体。
(3)前記セラミックス多孔体のセラミックス粉末の充填率が50〜80%、細孔径が1〜10μmである(1)または(2)記載のセラミックス多孔体。
(4)前記セラミックス粉末の体積に対する前記シリコーンエマルジョンの固形分が、0.5〜5体積%である(1)〜(3)記載のセラミックス多孔体。
(5)(1)〜(4)記載のセラミックス多孔体に金属を浸透させてなる金属―セラミックス複合材料。
(6)セラミックス粉末とシリコーンエマルジョンを含む溶媒とを混合してセラミックススラリーを調整する工程と、
前記セラミックススラリーを成形型に流し込む工程と、
前記セラミックス粉末を沈降充填させて充填物を得る工程と、
前記充填物を熱処理して硬化させる工程と、を含むセラミックス成形体の製造方法。
(7)前記充填物を得る工程及び前記充填物を熱処理して効果させる工程の間に、前記充填物を冷凍して固化させ、しかる後に脱型する工程を含む(6)記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(8)前記シリコーンエマルジョンのミセル径が、前記セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍である(6)または(7)記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
反りなどの変形を抑えたセラミックス多孔体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例4に係るセラミックス多孔体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセラミックス多孔体について、より詳細に説明する。
【0011】
上述のように、従来の製法で得られるプリフォームは、成形体の収縮が不均一となり変形が生じる場合があった。これは、溶媒として主に用いられている水が関係していると考えられる。溶媒として主に用いられている水は冷凍して固化する際に水の結晶外に不純物を排出するという特性がある。そのため、添加したバインダーも水の結晶外に排出され、均一に分布できない。特に冷凍工程で冷凍が均一に起こらない場合、最終凝固部分にバインダーが濃縮されてしまう。
【0012】
また、コロイダルシリカ(シリカゾル)のように分散されたバインダーを使用した場合、水の冷凍によってバインダーが濃縮されるとゾルの反発力が低下し、ゲル化するという現象が発生する。一度ゲル化が発生すると冷凍から解凍工程を経てもバインダーは分散せず、偏析した状態になる。このような状態で熱処理を行うと多孔体の収縮が不均一となり、変形が生じると考えられた。本発明者は、このような推測に基づいてセラミックス粉末のバインダーについて検討し、シリコーンエマルジョンを用いることを見出し発明に至った。
【0013】
シリコーンエマルジョンは、シリコーンを中心に含んだミセルが、水中に均一に分散したものである。ミセルは、シリコーンの周りに界面活性剤が親水基を外側にして集まった構造を有している。このようなシリコーンエマルジョンを用いることにより、水の冷凍によって発生する移動を抑制し、バインダーの偏析を低減させて、セラミックス多孔体の割れや反りなどを抑えることができる。
【0014】
シリコーンエマルジョンとしては、ジメチル系、アミノ系、エポキシ/エーテル系、メタクリル系、メルカプト系、フェニル系、アルキル系、レジン系、ゴム系等種々のものを用いることができる。
【0015】
さらに、シリコーンエマルジョンのミセル径を調整することによって、セラミックス多孔体の熱処理時の変形を抑えることができる。具体的には、セラミックス多孔体の細孔径に対して、0.01〜0.2倍とすることが好ましい。この範囲であれば、セラミックス粉末の間にミセルが捕獲され易いので、冷凍時のバインダーの移動が抑制でき、かつセラミックス粉末の充填を阻害することもない。ここでいうシリコーンエマルジョンのミセル径は、レーザー散乱式粒度分布測定により求めたメジアン径(D50)であり、セラミックス多孔体の細孔径は、水銀ポロシメーターにより求めたメジアン細孔径(D50)である。セラミックス多孔体の細孔径に対するシリコーンエマルジョンのミセル径を調整するには、予め実験により細孔径とミセル径との関係を求めておくと良い。
【0016】
本発明のセラミックス多孔体は、セラミックス粉末の充填率が50〜80%、細孔径が5〜10μmの範囲に調整されることが好ましい。このような範囲にすることにより、加圧浸透もしくは非加圧浸透などによりセラミックス多孔体に金属を浸透させて複合化させる方法を好適に用いることができる。
【0017】
セラミックス粉末としては、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア等種々のセラミックス粉末を用いることができる。セラミックス粉末の平均粒径は、5〜100μmのものが好適に用いられる。
【0018】
セラミックス粉末の体積に対するシリコーンエマルジョンの固形分は、0.5〜5体積%とすることが好ましい。この範囲内で調整することにより、大型であってもバインダーの偏析を低減できるので、割れや反りを抑えることができ、十分な強度を有するセラミックス多孔体が得られる。なお、ここでいう固形分は、800℃で5時間加熱して揮発せずに残った分とした。
【0019】
本発明のセラミックス多孔体は、従来、割れや反りの発生を抑制することが難しかった大型品の作製が可能である。例えば、平板形状であれば、最長部が1000〜1500mm、厚みが20〜150mmの大型のものであっても、熱処理による反り量を3mm以下にすることができる。すなわち最長部長さに対する反り量(反り量mm/最長部mm)を0.3%以下にすることができる。上述のように、反りは熱処理時のバインダーの偏析に起因する。バインダーは熱処理時の設置面側に偏る傾向にあるため、設置面側の収縮が大きくなる。そのため設置面側は凹型に、非設置面側は凸型に変形し易い。なお、本発明における反り量は、設置面側の反り上がった端部によって形成される面の位置を基準とし、最も低い位置までの深さによって求めた。
【0020】
また、バインダーがゲル化して設置面側に偏析した場合、セラミックス多孔体の強度にも影響を及ぼす。従来のセラミックス多孔体は熱処理時の設置面側と非設置面側との間で、非設置面側の強度に対して設置面側の強度は3倍以上となり、大きな強度比が生じたが、本発明のセラミックス多孔体は、設置面側と非設置面側との強度比(設置面側/非設置面側)が1.25以下に抑えられ、均一な強度を有している。
【0021】
次に、セラミックス多孔体の製造方法について説明する。
【0022】
はじめに、セラミックス粉末とシリコーンエマルジョンを含む溶媒とを混合してセラミックススラリーを調整する。シリコーンエマルジョンは、水で希釈して分散させることができるので、水を溶媒として用いれば、セラミックス粉末に対するシリコーンエマルジョンの固形分の調整が容易である。混合は、ボールミル、攪拌等の公知の方法を用いることができる。
【0023】
次にセラミックススラリーを成形型に流し込む。成形型は、セラミックス粉末を充填させた後の充填物の脱型が容易になるように、分割式の型や、変形能を有する材質の型を用いると良い。また、吸水性の型を用いても良い。
【0024】
セラミックス粉末を沈降充填させて充填物を得るには、適宜、振動を加えたり、成形型に吸水させたりすると良い。また、セラミックス粉末が充填した後に、適宜上澄みや余分な水分を除去したり、充填物の形を整えたりしても良い。
【0025】
得られた充填物を冷凍した後、脱型し、熱処理して硬化させる。冷凍は、充填物の内部の水分が固化するまで十分に行う。脱型後、冷凍された充填物を大気炉に設置し、加熱する。このとき、セラミックス粉末が十分に充填されていれば、解凍されても充填物の形が崩れることはない。また、本発明では、シリコーンエマルジョンをバインダーに用いていることから、解凍時にバインダーの偏析が起こり難い。
【0026】
熱処理は、大気中900〜1200℃で行うことができる。このような温度範囲で処理することにより、金属−セラミックス複合材料を作製するためのセラミックス多孔体として好適なものが得られる。
【0027】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0028】
[セラミックス多孔体の作製方法]
セラミックス粉末は市販の粒度#180と#800のSiC粉末を用いた。それぞれのメジアン径(レーザー散乱法にて測定)は#180:81μm、#800:15μmである。これらの粉末を#180/#800=6/4の割合で混合し、水およびバインダーと一晩混合した。スラリーとなったSiCを型に流し込み、余分な水分を除去した後−20℃で冷凍、脱型後、大気中1100℃で熱処理して多孔体を作製した。これら以外の作製条件については、以下の各実施例において説明する。多孔体のメジアン細孔径を水銀ポロシメーターで測定した。
【0029】
作製した多孔体について多孔体の充填率、強度、反りの状態を測定した。充填率は、アルキメデス法及び材料密度により求めた。強度は支持スパン30mmの3点曲げ試験により求めた。反りについては、設置面側の反り上がった端部によって形成される面の位置を基準とし、最も低い位置までの深さを測って求めた。
【0030】
[実施例1]
バインダーとして市販のシリコーンエマルジョン(平均粒径:110nm)を用い、添加量をSiCに対して固形分で1.5%となるように添加した。このSiCスラリーを用いて1500×1200×t70mmの板形状の多孔体を作製した。多孔体の充填率は68%であり、細孔径は1.5μmであった。多孔体の強度は熱処理時の設置面と非設置面について20×20×60mmの試験片を各5個ずつ切り出して測定したところ、非設置面側の平均値が3.6MPaで、設置面側の平均値が4.2MPaであり、その強度比(設置面側/非設置面側)は1.17であった。また、反りは0.68mmであった。
【0031】
[実施例2]
バインダーとして市販のシリコーンエマルジョン(平均粒径:420nm)を用い、添加量をSiCに対して固形分で1.5%となるように添加した。このSiCスラリーを用いて1500×1200×t70mmの板形状の多孔体を作製した。多孔体の充填率は62%であり、細孔径は4.0μmであった。多孔体の強度は熱処理時の設置面と非設置面について20×20×60mmの試験片を各5個ずつ切り出して測定したところ、非設置面側の平均値が3.8MPaで、設置面側の平均値が4.7MPaであり、その強度比(設置面側/非設置面側)は1.24であった。また、反りは0.45mmであった。
【0032】
[実施例3]
バインダーとして市販のシリコーンエマルジョン(平均粒径:240nm)を用い、添加量をSiCに対して固形分で1.5%となるように添加した。このSiCスラリーを用いて外寸が1000×1200×t70mmで、中央部に800×1000mmの抜きがある額縁形状の多孔体を作製した。多孔体の充填率は64%であり、細孔径は2.5μmであった。多孔体の強度は熱処理時の設置面と非設置面について20×20×60mmの試験片を各5個ずつ切り出して測定したところ、非設置面側の平均値が3.8MPaで、設置面側の平均値が4.7MPaであり、その強度比(設置面側/非設置面側)は1.20であった。また、反りは0.78mmであった。
【0033】
[実施例4]
バインダーとして市販のシリコーンエマルジョン(平均粒径:240nm)を用い、添加量をSiCに対して固形分で1.5%となるように添加した。このSiCスラリーを用いて図1に示した多孔体10を作製した。厚さtが30mm、高さHと幅Wがそれぞれ150mmと100mm、長さLが1500mmのL字形状である。多孔体の充填率は63%であり、細孔径は6.5μmであった。多孔体の強度は熱処理時の設置面と非設置面について20×20×60mm(図1:w×h×l)の試験片を各5個ずつ切り出して測定したところ、非設置面側の平均値が3.8MPaで、設置面側の平均値が4.2MPaであり、その強度比(設置面側/非設置面側)は1.11であった。また、反りは0.53mmであった。
【0034】
[比較例1]
添加するバインダーを平均粒径1.2μmのシリコーンエマルジョンとした以外は実施例1と同様の形状でセラミックス多孔体を作製した。この多孔体の充填率は52%であり、細孔径は3.0μmであった。実施例1と同様の方法で強度を測定したところ非設置面側の平均値が1.2MPaで、設置面側の平均値が1.3MPaであった。この多孔体は熱処理炉から移動する最中に割れが生じ、反りの測定を行うことはできなかった。
【0035】
[比較例2]
添加するバインダーが平均粒径20nmのシリカゾルとした以外は実施例1と同様の形状でセラミックス多孔体を作製した。この多孔体の充填率は52%であり、細孔径は2.5μmであった。実施例1と同様の方法で強度を測定したところ非設置面側の平均値が1.5MPaで、設置面側の平均値が5.6MPaであり、その強度比(設置面側/非設置面側)は3.73であった。また、反りは8.3mmであり、中央部に幅2mmのクラックが多孔体を横断する状態で発生した。
【0036】
表1に結果をまとめた。シリコーンエマルジョンのミセル径が、セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍である実施例1〜4では、設置面と非設置面との強度比が小さく均質であり、反りを抑制することができた。一方、シリコーンエマルジョンのミセル径が、セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍を外れる比較例1及び2では、強度が著しく低下したり、強度比が大きくなったりしたために割れや顕著な反りが発生した。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス多孔体に金属を浸透させて金属―セラミックス複合材料を得るためのセラミックス多孔体であって、
セラミックス粉末のバインダーとしてシリコーンエマルジョンを用いたことを特徴とするセラミックス多孔体。
【請求項2】
前記シリコーンエマルジョンのミセル径が、前記セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍である請求項1記載のセラミックス多孔体。
【請求項3】
前記セラミックス多孔体のセラミックス粉末の充填率が50〜80%、細孔径が1〜10μmである請求項1または2記載のセラミックス多孔体。
【請求項4】
前記セラミックス粉末の体積に対する前記シリコーンエマルジョンの固形分が、0.5〜5体積%である請求項1〜3記載のセラミックス多孔体。
【請求項5】
請求項1〜4記載のセラミックス多孔体に金属を浸透させてなる金属―セラミックス複合材料。
【請求項6】
セラミックス粉末とシリコーンエマルジョンを含む溶媒とを混合してセラミックススラリーを調整する工程と、
前記セラミックススラリーを成形型に流し込む工程と、
前記セラミックス粉末を沈降充填させて充填物を得る工程と、
前記充填物を熱処理して硬化させる工程と、を含むセラミックス成形体の製造方法。
【請求項7】
前記充填物を得る工程及び前記充填物を熱処理して効果させる工程の間に、前記充填物を冷凍して固化させ、しかる後に脱型する工程を含む請求項6記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーンエマルジョンのミセル径が、前記セラミックス多孔体の細孔径の0.01〜0.2倍である請求項6または7記載のセラミックス多孔体の製造方法。

【図1】
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