説明

セラミックス成形体の製造方法

【課題】より嵩密度の高いセラミックス成形体を製造することができるセラミックス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス粉末及び熱硬化性樹脂系のバインダ、又はさらに炭素粉末を混合して得られる混合物(試料21)を、成形型22に充填し、熱プレス機23によりバインダの硬化開始温度以上まで昇温させながら加圧成形することによりセラミックス成形体(プリフォーム25)を製造するに際し、混合物の昇温過程で、混合物の温度を一旦、全体的にバインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度とし、その後バインダの硬化開始温度以上まで昇温させながら加圧成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末に熱硬化性樹脂系のバインダ等を添加した混合物を昇温させながら加圧成形するセラミックス成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶製造装置や半導体製造装置におけるステージやチャック等の構成部材として、軽量で剛性の高いSiC−Si(炭化ケイ素−シリコン)複合材が好ましく用いられている。SiC−Si複合材は、所定のセラミックスプリフォームから得られるSiC多孔体にSiを含浸させることによって得ることができる。
【0003】
上記セラミックスプリフォームは、従来、SiC粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを添加し、又はさらに炭素粉末を加えた混合物を成形することによって得ることができる(たとえば、特許文献1参照)。混合物の成形には、混合物を加熱してバインダを熱硬化させながら加圧成形する熱プレス法が用いられる。その際、混合物は、バインダの硬化開始温度以上まで加熱される。
【0004】
上述のSiC−Si複合体を得るためには、まず、このようなセラミックスプリフォームを加熱処理してバインダを炭化させ、SiCとカーボンの多孔質複合体とする。そして、この多孔質複合体にSiを含浸させることにより、SiC−Si複合体を得ることができる。
【0005】
このようなSiC−Si複合体に要求される性質は、基本的には剛性の高さ、充填率(嵩密度)の高さである。したがって、SiC−Si複合体の製造に使用されるセラミックスプリフォームとしても、SiCの充填率の高いものが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−336076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述従来の熱プレス法によるセラミックスプリフォームの成形方法によれば、小型のセラミックスプリフォームを成形する場合には問題はないが、厚さが10mm以上のものを成形する場合には、成形されたセラミックスプリフォームの嵩密度が、小型品に比較して低下するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点に鑑み、より嵩密度の高いセラミックス成形体を製造することができるセラミックス成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、この目的を達成すべく鋭意研究した結果、セラミックス粉末及び熱硬化性樹脂系のバインダを含む混合物を昇温させながら加圧成形してセラミックス成形体を製造する際に、従来は、混合物を充填した成形型を、バインダの硬化開始温度以上まで直線的に昇温させるようにしていたため、厚いセラミックス成形体を製造する場合には、混合物内部のバインダが溶融する前に表面のバインダが硬化して内部に圧力が伝わらなくなり、セラミックス成形体の嵩密度を十分高めることができていないとの知見を得、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明のセラミックス成形体の製造方法は、セラミックス粉末及び熱硬化性樹脂系のバインダ、又はさらに炭素粉末を混合して得られる混合物を、該バインダの硬化開始温度以上まで昇温させながら加圧成形するセラミックス成形体の製造方法において、前記混合物の昇温に際し、該混合物の温度を一旦、全体的に前記バインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度とすることを特徴とする。
【0011】
この構成において、混合物の温度が、全体的にバインダの融点以上でかつ硬化開始温度未満の温度とされたとき、バインダの融解が混合物全体で生じる。このとき、並行して行われる加圧による圧力が混合物全体に伝達し、全体的に溶融状態となっているバインダが潤滑剤の役割を果たすので、セラミックス粉末が効率良く充填される。したがって、本発明によれば、厚いセラミックス成形体を製造する場合でも、セラミックス成形体の嵩密度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従ってセラミックス成形体が製造される様子を示す模式図である。
【図2】従来法によりセラミックス成形体が製造される様子を示す模式図である。
【図3】セラミックス成形体の嵩密度について評価を行うための試験片を作製する方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセラミック成形体の製造方法においては、セラミックス粉末及び熱硬化性樹脂系のバインダ、又はこれらに炭素粉末を混合して得られた混合物が用いられる。
【0014】
セラミックス粉末としては、たとえばSiC粉末、Si(窒化珪素)粉末、AlN(窒化アルミニウム)粉末、Al(アルミナ)粉末等を用いることができる。セラミックス粉末は、加圧したときに充填率が極力高くなるように粒度配合されたものが好ましい。
【0015】
熱硬化性樹脂系のバインダとしては、たとえばフェノール樹脂やエポキシ樹脂が用いられる。バインダの添加量は、セラミックス粉末をタップした際に生じる空隙の容積の30〜100vol%が好ましい。30vol%未満では、バインダ量が不足し、セラミックス粉末の流動性が低くなるので、セラミックス粉末を十分に充填することはできない。
【0016】
また、バインダの添加量が100vol%を超える場合には、セラミックス粉末の初期充填が良好に行われないため、得られるセラミックス成形体の嵩密度が低下する。さらにこの場合、セラミックス成形体の開気孔率が低下するので、硬化時にバインダの縮重合反応により発生する縮重合水の抜け道が減少する。このため、得られたセラミックス成形体について脱バインダ処理を行うに際し、セラミックス成形体中の縮重合水が急激に体積膨張することによってクラックが生じるおそれがある。
【0017】
セラミックス粉末及びバインダ、又はこれらに炭素粉末を加えたものの混合は、ボールミル等を用いて行うことができる。
【0018】
本発明においては、上述の混合物を、バインダの硬化開始温度以上まで昇温させながら加圧成形することにより、セラミックス成形体が製造される。その昇温に際し、混合物の温度が一旦、全体的にバインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度とされる。
【0019】
このとき、混合物内の温度の分布は、加熱箇所、加熱速度、混合物の寸法等の可変要素に左右されるので、混合物の温度を一旦、全体的にバインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度となるようにするためには、これらの可変要素を調整する必要がある。単に、バインダの融点近傍に達したときに、加熱速度を遅くするだけでもよい。
【0020】
このように、混合物の温度を一旦、全体的にバインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度とすることにより、バインダが一旦、混合物の全体にわたって溶融状態となる。これにより、溶融状態のバインダが、混合物の全体にわたって支障なく潤滑剤としての役割を果たす。この結果、セラミックス粉末が効率よく充填されることになる。したがってその後、バインダの硬化開始温度以上まで昇温させ、所定時間保持することにより、従来よりも高密度のセラミックス成形体を得ることができる。
【0021】
図1は、本発明の方法に従って比較的厚みのあるセラミックス成形体を製造する様子を示す。図2は、従来法により同様のセラミックス成形体を製造する様子を示す。これらの図に示すように、本発明の方法及び従来法のいずれの場合においても、セラミックス粉末に熱硬化性樹脂系のバインダを添加し、又はさらに炭素粉末を加えた混合物21を成形型22に充填し、熱プレス機23で混合物21を加圧しながら加熱することにより、セラミックス成形体が製造される。
【0022】
しかし、従来法の場合には、混合物21を加圧しながらバインダの硬化開始温度以上まで、昇温速度を緩めることなく直線的に昇温させることによってセラミックス成形体24を得るようにしている。このため、混合物21内部のバインダが溶融する前に、混合物21の表面近傍部分のバインダが硬化し始める。
【0023】
すなわち、その後、バインダの熔融が進み、図2(a)のように、混合物21の内部がバインダの熔融した部分21bとなったときには、表面近傍のバインダが硬化した部分21aにより、バインダの熔融した部分21bに圧力が加わり難い状態となっている。このため、従来法によれば、セラミックス粉末を、混合物21の全体にわたって偏りなく十分に充填することはできない。したがって、得られるセラミックス成形体24の嵩密度を十分高めることはできない。
【0024】
これに対し、本発明の方法によれば、混合物21を昇温させる際に一旦、混合物21の温度が全体的に、バインダの融点以上でかつ硬化開始温度未満の温度となるようにしている。このため、図1(a)に示すように、混合物21の全体において一旦、バインダが熔融した部分21bとなる。このとき、熔融したバインダは、混合物21の全体にわたって支障なく潤滑剤の役割を果たす。
【0025】
この結果、図1(b)に示すように、混合物21において、セラミックス粉末が効率よく充填されることになる。その後、混合物21をバインダの硬化開始温度以上まで昇温させ、この温度で所定時間保持することにより、図1(c)に示すように、従来よりも嵩密度の高いセラミック成形体25を得ることができる。
【0026】
なお、混合物21をバインダの硬化開始温度以上まで昇温させ、所定時間保持する工程を省いた場合には、混合物21内のバインダが硬化しないため、混合物21の保形性を得ることはできない。
【0027】
図3はこのようなセラミックス成形体として製造されるセラミックスプリフォームについて、嵩密度の評価を行うための試験片を作製する方法を示す。なお、このセラミックスプリフォームは、SiC−Si複合体を得るためのプリフォームであり、嵩密度が高いことが望まれる。
【0028】
同図(a)に示すように、評価対象となるセラミックスプリフォームは、幅×長さ×高さが300×400×50mmの直方体のプリフォーム10であるものとする。試験片の作製に際しては、まず、同図(a)のように、プリフォーム10を、長さ方向及び幅方向に切断して4等分し、幅×長さ×高さが150×200×50mmの分割されたプリフォームを得る。
【0029】
次に、4分割されたうちの1つのプリフォーム11について、同図(b)のように、両側の長さ面11aから幅方向に所定距離離れた2箇所から、長さ面11aに平行に切断することにより、幅×長さ×高さが50×200×10mmの2つの小片12及び13を得る。
【0030】
そして、各小片12及び13について、それぞれの両側の幅面12a及び13aから長さ方向に所定距離離れた2箇所において、幅方向に位置が異なる3箇所から、10mm角で所定の長さの角棒状の試験片を切り出す。このようにして切り出された12個の試験片1a〜1c、2a〜2c、3a〜3c、及び4a〜4cのプリフォーム10における水平方向位置は、試験片1a〜1cがプリフォーム10の中心に最も近い。
【0031】
試験片2a〜2cは、試験片1a〜1cに対し幅方向位置が同じで、その外側に位置する。試験片3a〜3cは、試験片1a〜1cに対し長さ方向位置が同じで、その外側に位置する。試験片4a〜4cはプリフォーム10の中心から最も遠い位置に位置する。プリフォーム10における各試験片の高さ方向位置は、試験片1a〜4aが最も高く、試験片1c〜4cが最も低く、試験片1b〜4bがこれらの中間の高さに位置する。
【0032】
なお、嵩密度の評価は、各試験片1a〜1c、2a〜2c、3a〜3c、及び4a〜4cの嵩密度を、JIS規格(JISR1634)に示されるアルキメデス法などにより測定し、測定結果の平均値及び標準偏差を求めることにより行うことができる。
【0033】
次に、実施例及び比較例について説明する。
[実施例]
粒度範囲が125〜250μmのものと、12〜46μmのものとを60対40の比率で粒度配合したSiC粉末(F90/#800=60/40)に対し、融点が80℃で熱硬化開始温度が110℃のフェノール樹脂を、該SiC粉末をタップした際に生じる空隙の容積の50vol%添加し、ボールミルで混合し、造粒粉を作製した。
【0034】
次に、作製した造粒粉を試料として成形型に充填し、成形型を熱プレス機に設置し、熱プレス機により、プレス圧力を加えながら、試料の中心部が80℃、試料の表面部が100℃となるように、試料を昇温させ、試料全体のバインダを溶融状態とした。この加圧及び溶融状態を1時間保持した後、同様にプレス圧力を加えながら、試料を150℃まで昇温させ、1時間保持することにより、300×400×50mmのセラミックスプリフォームを得た。
【0035】
次に、得られたセラミックスプリフォームについて、図3の方法に従い、試験片1a〜1c、2a〜2c、3a〜3c、及び4a〜4cを作製した。そして、各試験片の嵩密度を、JISR1634のアルキメデス法により測定し、測定値の平均値及び標準偏差σを求めることにより、嵩密度の評価を行った。この結果を表1の「実施例」の欄に示す。
[比較例1]
試料の中心部を80℃、試料の表面部を100℃とすることなく、成形型の温度を150℃まで直線的に昇温させた以外は実施例の場合と同様にして、300×400×50mmのセラミックスプリフォームを得た。なお、試料の昇温に際し、試料の中心部の温度が60℃のとき、試料の表面部分の温度は120℃であった。
【0036】
次に、得られたセラミックスプリフォームについて、上述実施例の場合と同様にして、嵩密度の評価を行った。この結果を表1の「比較例1」の欄に示す。
[比較例2]
試料の中心部を80℃、試料の表面部を100℃とすることなく、成形型の温度を150℃まで直線的に昇温させた以外は実施例の場合と同様にして、300×400×50mmのセラミックスプリフォームを得た。ただし、試料の昇温は、試料の中心部の温度が85℃のとき、試料の表面部分の温度が120℃となるように行った。
【0037】
次に、得られたセラミックスプリフォームについて、上述実施例の場合と同様にして、嵩密度の評価を行った。この結果を表1の「比較例2」の欄に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から、実施例で作製したセラミックスプリフォームの嵩密度の平均値は、比較例1及び2のいずれの場合よりも有意に大きいことがわかる。また、標準偏差σの値から、実施例の場合は比較例1及び2のいずれの場合よりも、嵩密度のばらつきが少ないことがわかる。
【符号の説明】
【0040】
10…セラミックスプリフォーム、21…混合物、22…成形型、23…熱プレス機、24,25…セラミックス成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末及び熱硬化性樹脂系のバインダ、又はさらに炭素粉末を混合して得られる混合物を、該バインダの硬化開始温度以上まで昇温させながら加圧成形するセラミックス成形体の製造方法において、前記混合物の昇温に際し、該混合物の温度を一旦、全体的に前記バインダの融点以上かつ硬化開始温度未満の温度とすることを特徴とするセラミックス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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