説明

セラミックス焼結体およびその製造方法

【課題】導電性および破壊靱性を向上させたセラミックス焼結体を提供する。
【解決手段】セラミックス焼結体13は、セラミックス粒子としてのアルミナ粒子12と、アルミナ粒子12の表面に単分散状態で存在しているナノからマイクロサイズの微小炭素系物質としてのCNT(カーボンナノチューブ)11とを備える。アルミナ粒子12同士は、粒界層を介して互いに結合している。CNT11の含有量は、0.1重量%〜3.0重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス焼結体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズの高機能材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」という)のようなナノカーボン材料が知られている。CNTに代表されるナノカーボン材料は、高い導電性や高強度等、高機能が要求される種々の材料に添加され、利用されている。
【0003】
カーボンナノ材料を含む組成物に関する技術が、特開2007−154246号公報(特許文献1)、特開2005−200723号公報(特許文献2)、特開2006−103994号公報(特許文献3)、特開2006−225205号公報(特許文献4)、特開2006−315893号公報(特許文献5)、特開2006−327886号公報(特許文献6)、特開2007−39623号公報(特許文献7)、および特開2008−69036号公報(特許文献8)に開示されている。例えば、特許文献1には、マグネシウムやアルミニウム等の金属粉末粒子表面にメカニカルアロイング法でカーボンナノ材料を付着させて複合材料を作り、その後この複合粉末を集合させて成形固化する技術が開示されている。特許文献2によると、ポリビニルアルコール水溶液にホウ砂を加えてなるゲル状の分散液中にカーボンナノファイバーを分散させ、この中に金属粉末を添加して混練し、その後に乾燥してカーボンナノファイバー金属系粉末を得ることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−154246号公報
【特許文献2】特開2005−200723号公報
【特許文献3】特開2006−103994号公報
【特許文献4】特開2006−225205号公報
【特許文献5】特開2006−315893号公報
【特許文献6】特開2006−327886号公報
【特許文献7】特開2007−39623号公報
【特許文献8】特開2008−69036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高硬度であって、かつ、高耐熱性が要求される場合に用いられるセラミックス焼結体については、一般的に、未焼結セラミックス粒子、すなわち、焼結前のセラミックスの微粒子を所定の形状となるように押し固めた後に焼成し、焼結体となるセラミックスを得ることとしている。このようなセラミックス焼結体については、物性面において、例えば、導電性が低い点が問題として挙げられる。すなわち、セラミックス焼結体について、導電性を向上させることができれば、産業用材料として非常に有望なものとなる。ここで、セラミックス焼結体に上記したカーボンナノ材料を添加し、導電性の向上を図ることが考えられる。
【0006】
この場合、特許文献1や特許文献2に示したように、セラミックス焼結体の基となる未焼結セラミックス粒子にナノカーボン材料を単純に添加して混練させる手法を採ると、非常に微小なカーボンナノ材料の凝集の問題が生じ、均一な材質のものが得られない。そうすると、焼成後の焼結体において、カーボンナノ材料の凝集体の残存等により、導電性を向上させることができないばかりか、セラミックス焼結体の本来有する破壊靱性等の物性が低下してしまうおそれがある。
【0007】
図8は、この場合におけるカーボンナノ材料としてのCNTとセラミックス粒子との分散状態を示す概念図である。図8を参照して、セラミックス焼結体101は、微小のセラミックス粒子103と、複数のCNT102とを備える。CNT102は、図8中の点線で示すように、複数本のCNT102が絡み合った凝集体104として存在している。図8に示すように、CNT102が凝集体104として存在し、セラミックス粒子103と一本一本のCNT102とが均一に分散していない状態であれば、凝集体104同士の境界付近でのセラミックス粒子103間の結合力が弱くなる。そうすると、図9に示すように、凝集体104の境界付近でセラミックス粒子103間の結合が容易に切断されてしまうことになる。その結果、セラミックス焼結体101の内部におけるセラミックス粒子103間の結合の切断や、セラミックス粒子103間の結合の切断により生ずる空孔あるいは空隙の影響で、セラミックス焼結体101について所望の導電性が得られないばかりか、セラミックス焼結体101の本来有する強度の著しい低下や破壊靱性の低下等を招いてしまう。
【0008】
また、所望の導電性が得られない要因として、CNT102の凝集体104が、セラミックス粒子103同士の結合により構成されるマトリックス上で孤立した状態で存在していることが考えられる。ここで、所望の導電性を得るために多量のCNT102の添加を図っても、セラミックス焼結体101内部における凝集体104の増加の影響で、破壊靱性のさらなる低下を招いてしまう。
【0009】
この発明の目的は、導電性および破壊靱性を向上させたセラミックス焼結体を提供することである。
【0010】
この発明の他の目的は、導電性および破壊靱性を向上させたセラミックス焼結体を容易に製造することができるセラミックス焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るセラミックス焼結体は、セラミックス粒子と、セラミックス粒子の表面に単分散状態で存在しているナノからマイクロサイズの微小炭素系物質とを備える。セラミックス粒子同士は、粒界層を介して互いに結合している。微小炭素系物質の含有量は、0.1重量%〜3.0重量%である。
【0012】
このようなセラミックス焼結体は、微小炭素系物質が単分散状態でセラミックス粒子の表面またはセラミックス粒子間に存在しており、密に繋がった微小炭素系物質からなるネットワークを形成し、かつ、セラミックス粒子同士も、粒界層を介して互いに結合している。このような単分散状態の微小炭素系物質のネットワークを有するセラミックス焼結体によれば、導電性を向上させることができる。すなわち、このようなセラミックス焼結体は、高い電気伝導度を有する。この場合、微小炭素系物質の含有率、すなわち、セラミックス焼結体に対する微小炭素系物質の添加率が多いほど、導電性が向上する。一方、破壊靱性については、微小炭素系物質の含有量を上記範囲内とすることにより、密に繋がった微小炭素系物質からなるネットワークを適切にして、破壊靱性を向上させることができる。したがって、このような構成のセラミックス焼結体は、導電性および破壊靱性を向上させることができる。
【0013】
ここで、「ナノからマイクロサイズ」とは、例えば、微小炭素系物質の径が10−6〜10−9mのオーダー、長さが10−4〜10−9m(好ましくは、10−6〜10−9m)のオーダーである物質をいう。また、「単分散状態」とは、大多数の微小炭素系物質が単独の状態で分散している状態、すなわち、凝集状態よりも広い間隔で互いの微小炭素系物質が個々に存在し、ネットワーク状、すなわち、凝集状態よりも広い間隔で存在する複数の微小炭素系物質同士が互いに1点または数点の箇所で接触し、網目構造を形成している状態を意味するものである。また、「存在」とは、セラミックス粒子の表面に付着している状態や粒界層を介して結合しているセラミックス粒子間の一部に生ずる空隙の内部に充填されている状態、その一部が結晶粒界内に取り込まれる状態やセラミックス粒子と弱い結合をしている状態をも含むものである。
【0014】
好ましくは、微小炭素系物質は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた物質である。
【0015】
さらに好ましくは、親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液に微小炭素系物質およびセラミックス粒子を添加した後に溶液の成分を除去してセラミックス粒子の表面に単分散状態の微小炭素系物質を付着させ、単分散状態の微小炭素系物質を付着させたセラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なうことにより製造される。
【0016】
さらに好ましくは、セラミックス焼結体中の微小炭素系物質の含有量は、1.5重量%〜2.5重量%である。微小炭素系物質の含有量がこのような範囲内であれば、確実に導電性および破壊靱性の向上を図ることができる。
【0017】
さらに好ましい一実施形態として、セラミックス粒子は、アルミナ、ムライト、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、および窒化アルミニウムのうちのいずれかである。
【0018】
この発明の他の局面においては、セラミックス焼結体の製造方法は、親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液を準備する工程と、溶液中に微小炭素系物質を添加し、溶液中に微小炭素系物質を単分散状態とする工程と、微小炭素系物質が単分散状態にある溶液をセラミックス粒子に接触させる接触工程と、セラミックス粒子を乾燥し、溶液の成分を介してセラミックス粒子の表面に単分散状態の微小炭素系物質を付着させる付着工程と、単分散状態の微小炭素系物質を付着させたセラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なう焼成工程とを含む。
【0019】
好ましくは、接触工程は、微小炭素系物質が単分散状態にある溶液中にセラミックス粒子を添加する工程である。
【0020】
さらに好ましい一実施形態として、溶液における溶媒は、水を含む。
【0021】
さらに好ましい一実施形態として、接触工程は、微小炭素系物質が単分散状態にある溶液を接触させたセラミックス粒子を、ボールミルまたはポットミルを用いて混合する工程を含む。
【発明の効果】
【0022】
このようなセラミックス焼結体は、微小炭素系物質が単分散状態でセラミックス粒子の表面またはセラミックス粒子間に存在しており、密に繋がった微小炭素系物質からなるネットワークを形成し、かつ、セラミックス粒子同士も、粒界層を介して互いに結合している。このような単分散状態の微小炭素系物質のネットワークを有するセラミックス焼結体によれば、導電性を向上させることができる。この場合、微小炭素系物質の含有率が多いほど、導電性が向上する。一方、破壊靱性については、微小炭素系物質の含有量を上記範囲内とすることにより、密に繋がった微小炭素系物質からなるネットワークを適切にして、破壊靱性を向上させることができる。したがって、このような構成のセラミックス焼結体は、導電性および破壊靱性を向上させることができる。
【0023】
また、このようなセラミックス焼結体の製造方法は、導電性および破壊靱性を向上させたセラミックス焼結体を容易に、具体的には、例えば、熱間静水圧プレス焼結法(HIP:Hot Isostatic Pressing)等のような特殊な装置を用いず、かつ、通常の常圧下で、得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の一部を示す概念図である。
【図2】この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法における代表的な工程を示すフローチャートである。
【図3】凝集したCNTを示す概念図である。
【図4】単分散状態のCNTを示す概念図である。
【図5】この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真であり、CNTの含有量が2.0重量%のものを示す。
【図6】従来におけるセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真であり、CNTの含有量が2.0重量%のものを示す。
【図7】従来におけるセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真であり、CNTの含有量が0.1重量%のものを示す。
【図8】従来におけるCNTとセラミックス粒子との分散状態を示す概念図である。
【図9】凝集体の境界付近でセラミックス粒子間の結合が切断された状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の構成について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の一部を示す概念図である。図1を参照して、この発明に係るセラミックス焼結体13は、セラミックス粒子としてのアルミナ粒子12と、微小炭素系物質としてのCNT11とを備える。
【0026】
アルミナ粒子12は、例えば、未焼結での一次粒子としての粒径が、1μm以下のものを使用する。このような粒径のアルミナ粒子12は、焼成により緻密化して、高靭性とすることができる。アルミナ粒子12の形状については、その表面に多少の凹凸や角部、平面が存在するものの略球形である。
【0027】
CNT11は、セラミックス焼結体13に多数本含まれている。CNT11については、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やアーク放電法等のような一般的な製造方法によって製造されたものである。
【0028】
CNT11は、単分散状態である。ここでは、図1に示すように、CNT11は、ネットワーク状となっている。すなわち、CNT11は、上記した図8中の点線で示すような複雑に絡み合った凝集体としてではなく、凝集状態よりも広い間隔で互いのCNT11が個々に存在し、凝集状態よりも広い間隔で存在する複数のCNT11同士が互いに1点または数点の箇所で接触しており、複数のCNT11同士で網目構造を形成している。そして、このようなネットワークを構成しているCNT11は、アルミナ粒子12の表面に付着するようにして存在している。また、その一部は、アルミナ粒子12間に存在している。
【0029】
アルミナ粒子12同士は、粒界層を介して互いに結合している。すなわち、アルミナ粒子12の間には、粒界層が介在し、アルミナ粒子12同士が粒界層を介して結合している状態となっている。
【0030】
ここで、セラミックス焼結体13中のCNT11の含有量は、0.1重量%〜3.0重量%である。セラミックス焼結体13中のCNT11の含有量をこのような範囲とすることにより、導電性を向上することができると共に、破壊靱性値も高くすることができる。理由については、後述する。
【0031】
このようなセラミックス焼結体13は、CNT11が単分散状態でアルミナ粒子12の表面またはアルミナ粒子12間に存在しており、密に繋がったCNT11からなるネットワークを形成し、かつ、アルミナ粒子12同士も、粒界層を介して互いに結合している。このような単分散状態のCNT11のネットワークを有するセラミックス焼結体13によれば、導電性を向上させることができる。この場合、CNT11の含有率が多いほど、導電性が向上する。一方、破壊靱性については、CNT11の含有量を上記範囲内とすることにより、すなわち、CNT11の含有率を、0.1重量%〜3.0重量%とすることにより、密に繋がったCNT11からなるネットワークを適切にして、破壊靱性を向上させることができる。したがって、このような構成のセラミックス焼結体13は、導電性および破壊靱性を向上させることができる。
【0032】
次に、上記したセラミックス焼結体の製造方法について説明する。図2は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法における代表的な工程を示すフローチャートである。なお、後述する図3および図4は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の製造方法において、初期および中間の工程におけるCNTの状態を示す概念図である。
【0033】
図2を参照して、まず、親水性および疎水性を有する界面活性剤からなる単一組成ミセルまたは混合ミセル水溶液を準備する(A)。次に、準備したミセル水溶液にCNTを添加し、分散処理によりCNT分散液を調製する(B)。添加量については、最終生成物となるセラミックス焼結体に対するCNTの含有比率を考慮した量とする。なお、親水性および疎水性を有する界面活性剤を含む溶液については、特許文献7に詳しく記載されている。
【0034】
ここで、図3に示すような凝集体としてのCNT11は、CNT分散液中においては、図4に示すように単分散状態となる。この場合、大多数のCNT11同士は、それぞれのCNT11からある程度離れた距離に存在すると共に、数点において互いに他のCNT11と接触した状態の網目構造となる。
【0035】
このようにして、CNTを単分散状態とする。その後、CNTを単分散状態とした分散液に、未焼結のセラミックス粒子を添加する(C)。このようにして、CNTが単分散状態にある溶液をセラミックス粒子に接触させる。ここで、ボールミルやポットミルを用いて混合を行う。なお、セラミックス粒子についても、最終生成物となるセラミックス焼結体に対するセラミックス粒子の含有比率を考慮した量のセラミックス粒子を添加する。すなわち、セラミックス焼結体中のCNTの含有量が、0.1重量%〜3.0重量%となるような量のセラミックス粒子を添加する。ここで、非常に径の小さい微小なセラミックス粒子については、セラミックス粒子が凝集している場合もあるため、予め解砕等により一次粒子状態とした後に添加することとしてもよい。
【0036】
次に、得られた分散液の乾燥を行なう(D)。乾燥は、所定の雰囲気下において、乾燥機等を用いて行なう。乾燥により、界面活性剤の溶液成分を除去する。このようにして、一次粒子状態のセラミックス粒子の表面に界面活性剤を介してCNTを付着させる。
【0037】
その後、得られた粉末粒子を造粒し、粒子を所定の形状に押し固めた後、常圧下または減圧下において、焼成を行なう(E)。このようにして、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体を得る。
【0038】
すなわち、この発明に係るセラミックス焼結体は、親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液にCNTおよびセラミックス粒子を添加した後に溶液の成分を除去してセラミックス粒子の表面に単分散状態のCNTを付着させ、単分散状態の微小炭素系物質を付着させたセラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なうことにより製造される。
【0039】
また、この発明に係るセラミックス焼結体の製造方法は、親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液を準備する工程と、溶液中にCNTを添加し、溶液中にCNTを単分散状態とする工程と、CNTが単分散状態にある溶液をセラミックス粒子に接触させる接触工程と、セラミックス粒子を乾燥し、溶液の成分を介してセラミックス粒子の表面に単分散状態のCNTを付着させる付着工程と、単分散状態のCNTを付着させたセラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なう焼成工程とを含む。
【0040】
この場合、溶液における溶媒としては、水を用い、上記した接触工程においては、CNTが単分散状態にある溶液を接触させたセラミックス粒子を、ボールミルまたはポットミルを用いて混合する工程を含む。
【0041】
このようなセラミックス焼結体の製造方法によれば、導電性および破壊靱性を向上させた上記構成のセラミックス焼結体を容易に得ることができる。
【0042】
この場合、溶媒として水を用いているため、取扱い性が容易である。また、ボールミルまたはポットミルによる混合であるため、容易に行なうことができる。
【0043】
すなわち、例えば、上記した特許文献4においては、CNTを含む導電性ジルコニア焼結体の製造方法を開示しているが、この製造方法によると、所望の性状を達成させるために、CNTを有機溶媒中に界面活性剤、および超音波ホモジナイザーを用いて分散させ、高価なHIP法を用いて製造することとしている。また、特許文献3や特許文献4によれば、有機溶媒を用いることとしている。さらに、特許文献5については、ジェットミルによる解砕や放電プラズマによる焼結を用いている。これらのような製造方法よりも、この発明に係るセラミックス焼結体の製造方法によれば、より容易に、すなわち、取扱いが容易で、HIP等の特殊な装置を要せず、通常の常圧焼結方法で、簡易に製造することができる。
【0044】
また、一般的なCNT分散液については、各種成形法を用いる上で複雑な形状を得る場合、CNT分散液中にバインダーや滑剤を添加する必要があるが、この場合、添加物によりCNTの分散が阻害されてしまう。しかし、上記した親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液については、このような問題は発生しない。すなわち、CNTの分散が阻害されることはない。また、この発明に係るセラミックス焼結体の製造方法に用いられるCNT分散液については、分散剤について熱分解処理した後、二酸化炭素として除去されるものである。
【実施例】
【0045】
まず、使用材料について説明する。セラミックス粒子としてのアルミナは、低温焼結性アルミナ(大明化学、ダイミクロンTM−DAR)を用いた。このアルミナは、一次粒子径が約0.1μm(100nm)と微細粒であり、1250℃〜1300℃で焼結して、焼結体を緻密化することができる。さらに、アルミナを均一に分散させるためのアルミナ分散剤(セルナD−305(中京油脂株式会社、ポリカルボン酸型分散剤))、および造粒した粒子の流動性向上のためのアルミナ滑剤(セロゾール920(中京油脂株式会社、ステアリン酸のエマルジョン))を用いた。微小炭素系物質としてのCNTについては、CVD法により製造されたCNTを用いた。また、ミセル水溶液としては、両性イオン界面活性剤および中性界面活性剤からなる混合ミセル水溶液を準備した。
【0046】
次に、製造方法について説明する。アルミナ原料については、アルミナ製ポットミルにおいて処理し、粒径を100nm以下とした。すなわち、処理により、アルミナを予め一次粒子状態とした。用いるアルミナの量は、100gとした。
【0047】
次に、このアルミナに対してCNTが所定の割合、すなわち、0.1〜3.0重量%となるようCNT分散液を秤量した。そして、CNT分散液、アルミナ、アルミナ分散剤としてのセルナD−305(アルミナに対して、0.5重量%)、アルミナ滑剤としてのセロゾール920(アルミナに対して、0.5重量%)を混合した。その後、得られた混合液の水分量が合計で150mlとなるように蒸留水を添加し、混合メディアとして直径5mmのアルミナボールを用い、12時間ポットミルで混合した。このようにして、CNT分散アルミナスラリーを得た。
【0048】
得られたスラリーを80℃の乾燥機中でスターラーを用いて攪拌させながら24時間保持して溶液成分を除去し、乾燥した。乾燥後、得られた粉末を乳鉢で解砕し、224μmの目開きの篩を全通するように造粒した。
【0049】
その後、金型を用い、98MPaの圧力で一軸加圧成形を行い、さらに200MPaの圧力で冷間等方圧成形を行った。このようにして所定の形状の成形体を得た。
【0050】
焼成については、得られた成形体を黒鉛粉末に埋めた後、雰囲気制御電気炉を用いて、アルゴンまたは窒素雰囲気下において、毎時200℃の昇温速度で、400℃で1時間保持、600℃で1時間保持、そして、1350℃で1時間保持の条件で行い、焼結体を得た。
【0051】
得られた焼結体の評価としては、かさ密度(アルキメデス法)、曲げ強度(万能試験機による3点曲げ試験)、破壊靱性値(SEPB(Single Edge Precracked Beam)法)、体積抵抗率(四端子法)で評価した。試験については、窒素雰囲気下で焼成した場合、アルゴン雰囲気下で焼成した場合について行なった。得られた焼結体の評価結果を、以下の表1、および表2に示す。
【0052】
表1は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体において、窒素雰囲気下で焼成した場合のCNT含有量の比率と各物性値との関係を示す表である。表2は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体において、アルゴン雰囲気下で焼成した場合のCNT含有量の比率と各物性値との関係を示す表である。なお、比較例として、表3に、CNTが単分散状態ではなく凝集したセラミックス焼結体におけるCNT含有量の比率と各物性値との関係を示す。表3に示すセラミックス焼結体については、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを用いて作製した。なお、表1および表2については、CNTの含有量が4.0重量%のもの、表3については、CNTの含有量が2.0重量%までのものを評価した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
体積抵抗値について見てみると、表1〜表3において、CNTを含有しない場合、絶縁性を示す10×1014Ωmという値を示している。表1〜表3のいずれの場合においても、CNT含有量が増加するにつれて体積抵抗値が低下する。ここで、表1および表2については、CNTの含有量を2.0重量%とした場合において、体積抵抗値は、それぞれ導電性を示す1.55×10Ωm、1.05×10Ωmという値となる。すなわち、CNT含有量が増加するにつれ、高い導電性を有するようになる。一方、表3においては、CNTの含有量を2.0重量%とした場合において、体積抵抗値は、5.25×10Ωmという値であり、高い導電性を有するとは言えないものである。また、表1、表2のいずれの雰囲気の場合も、CNT含有量が1.5重量%を超えると、CNTを含有しないものよりも、飛躍的に体積抵抗値が低下する。したがって、CNTの含有量を1.5重量%よりも多くすることにより、高い導電性を有するセラミックス焼結体を確実に得ることができる。これについては、CNTの含有量の比率が増えるにつれ、単分散状態のCNTのネットワークが適切にセラミックス粒子の表面およびセラミックス粒子間に形成され、セラミックス焼結体内部における導電性が向上した結果であると考えられる。
【0057】
次に、破壊靱性値について見てみると、表1においては、CNTを含有していない場合の3.01MPa・m1/2に対し、CNTの含有によりその値が上昇し、CNT含有量0.5重量%において、3.64MPa・m1/2となり、最大となっている。また、CNT含有量が1.5重量%の場合、破壊靱性値は3.42MPa・m1/2であり、CNTを含有していない場合に比べて、約14%もその値が向上している。3.0重量%のCNT含有量においても、破壊靱性値は3.11MPa・m1/2であり、CNTを含有していない場合よりも約3%も高い値である。表2においては、CNTを含有していない場合の3.09MPa・m1/2に対し、CNTの含有によりその値が上昇し、CNT含有量0.5重量%において、3.66MPa・m1/2となり、最大となっている。また、CNT含有量が1.5重量%の場合、破壊靱性値は3.50MPa・m1/2であり、CNTを含有していない場合に比べて、約13%もその値が向上している。3.0重量%のCNT含有量においても、破壊靱性値は3.22MPa・m1/2であり、CNTを含有していない場合よりも約4%も高い値である。一方、従来例における表3では、CNTを含有していない場合の3.01MPa・m1/2に対し、CNTの含有によりその値が下降し、CNT含有量0.5重量%においてその値が2.85MPa・m1/2となり、約5%も低下している。CNTの含有量が1.5重量%の場合に2.51MPa・m1/2となり、約17%も低下している。さらに、NTの含有量が2.0重量%の場合にその値が2.12MPa・m1/2となり、約30%も低下している。すなわち、CNTの含有量が多くなるほど、破壊靱性値の低下が大きくなる傾向にある。
【0058】
したがって、表1および表2に示すセラミックス焼結体においては、破壊靱性値について、CNTの含有量を0.1重量%〜3.0重量%の範囲とすることにより、その値を大きくすることができる。すなわち、破壊靱性を向上させるためには、CNTの含有量を0.1重量%〜3.0重量%の範囲内とすればよい。これについては、ある程度のCNTの含有量においては、CNTにより形成されるネットワークにより、破断面の伝播の阻止や、破断面の迂回現象を誘発させることによる破断面の進行の阻止が生じ、焼結体内部におけるセラミックス粒子間の切断が抑制されていると考えられる。
【0059】
なお、上記した体積抵抗値および破壊靱性値を考慮すると、CNTの含有量を1.5重量%〜2.5重量%とすることにより、確実に導電性および破壊靱性の向上を図ることができる。
【0060】
図5は、この発明の一実施形態に係るセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真である。図5に示すセラミックス焼結体において、CNTの含有量は、2.0重量%である。図5を参照して、セラミックス焼結体のうち、図5中の矢印で示す部分にCNTが存在している。この場合、単分散状態、すなわち、単独でCNTがアルミナ粒子の表面に存在している。また、アルミナ粒子同士は、粒界層を介して結合していることが把握できる。
【0061】
図6は、表3に示す比較例のセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真である。図6に示すセラミックス焼結体において、CNTの含有量は、2.0重量%である。図6を参照して、セラミックス焼結体内においては、図6中の矢印で示すCNTの凝集体が数箇所に存在していることが把握できる。
【0062】
図7は、表3に示す比較例のセラミックス焼結体の一部を示す電子顕微鏡写真である。図7に示すセラミックス焼結体において、CNTの含有量は、0.1重量%である。すなわち、図5に示すセラミックス焼結体よりも、20分の1程度、CNTの含有量が少ないものである。図7を参照して、CNTの含有量が20倍程度少ないにも関わらず、図7中の矢印で示すCNTの凝集体が数箇所に存在していることが把握できる。
【0063】
なお、上記の実施の形態においては、微小炭素系物質としてCNTを用いることとしたが、これに限らず、微小炭素系物質として、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた物質であればよい。
【0064】
また、CNTを単分散状態とした後にアルミナ粒子を添加することとしたが、これに限らず、CNTとアルミナ粒子を同時に、またはアルミナ粒子を先に混合ミセル水溶液に添加した後、CNTを添加することとしてもよい。すなわち、ミセル水溶液中に入れるCNTおよびアルミナ粒子の順序は、任意でよい。
【0065】
なお、上記の実施の形態においては、セラミックス粒子としてアルミナを用いることとしたが、これに限らず、他のセラミックス粒子、例えば、ムライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、および窒化アルミナのうちのいずれかを用いることとしてもよい。
【0066】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明に係るセラミックス焼結体およびその製造方法は、高い導電性が要求される場合に有効に用いられる。すなわち、高い破壊靱性値を保持し、かつ、高周波領域では高温になることに起因して高い耐熱性が要求される電磁波吸収材において使用されるセラミックスに用いられる。また、高強度かつ耐摩耗性も高いセラミックスにおいて、高い破壊靱性能力が要求されるモーターブラシ等にも、有効に利用される。
【符号の説明】
【0068】
11 CNT、12 アルミナ粒子、13 セラミックス焼結体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粒子と、
前記セラミックス粒子の表面に単分散状態で存在しているナノからマイクロサイズの微小炭素系物質とを備え、
前記セラミックス粒子同士は、粒界層を介して互いに結合しており、
前記微小炭素系物質の含有量は、0.1重量%〜3.0重量%である、セラミックス焼結体。
【請求項2】
前記微小炭素系物質は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレンおよびカーボンブラックからなる群から選ばれた物質である、請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液に前記微小炭素系物質およびセラミックス粒子を添加した後に前記溶液の成分を除去して前記セラミックス粒子の表面に単分散状態の前記微小炭素系物質を付着させ、単分散状態の前記微小炭素系物質を付着させた前記セラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なうことにより製造される、請求項1または2に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記セラミックス焼結体中の前記微小炭素系物質の含有量は、1.5重量%〜2.5重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記セラミックス粒子は、アルミナ、ムライト、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、および窒化アルミニウムのうちのいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス焼結体。
【請求項6】
親水性および疎水性を有する界面活性剤からなるミセルまたは混合ミセルを含む溶液を準備する工程と、
前記溶液中に微小炭素系物質を添加し、前記溶液中に前記微小炭素系物質を単分散状態とする工程と、
前記微小炭素系物質が単分散状態にある溶液を前記セラミックス粒子に接触させる接触工程と、
前記セラミックス粒子を乾燥し、前記溶液の成分を介して前記セラミックス粒子の表面に単分散状態の前記微小炭素系物質を付着させる付着工程と、
単分散状態の前記微小炭素系物質を付着させた前記セラミックス粒子を所定の形状として焼成を行なう焼成工程とを含む、セラミックス焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記接触工程は、前記微小炭素系物質が単分散状態にある溶液中に前記セラミックス粒子を添加する工程である、請求項6に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記溶液における溶媒は、水を含む、請求項6または7に記載のセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記接触工程は、前記微小炭素系物質が単分散状態にある溶液を接触させた前記セラミックス粒子を、ボールミルまたはポットミルを用いて混合する工程を含む、請求項6〜8のいずれかに記載のセラミックス焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−189214(P2010−189214A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34191(P2009−34191)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】