説明

セラミックス用分散剤

【課題】セラミックス粉末を高濃度に含有し、流動性、安定性が良好なセラミックス粉末の水スラリー用分散剤を提供する。
【解決手段】多価アルコールと多塩基酸との反応生成物からなるセラミックス粉末の分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粉末を高濃度に含有し、流動性が良好で、安定に水に分散させる分散剤、及び該分散剤を含有するセラミックス粉末の水スラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス粉末の水スラリーを用い成形・焼結等の処理を行い、各種目的にあったセラミックス成形体の調製が行われている。良好な成形体を得るにはスラリー中のセラミックス粉末の含有量を多くすると共に、スラリーの良好な流動性と安定性が要求される。セラミックス粉末の水スラリーが経時的に凝集、沈殿することは粘度の増加などをきたし、安定したセラミックス成形体を得ることが難しくなる。この問題を解決するために分散剤が種々検討されている。
一般に、セラミックスを水中に分散、スラリー化するには、合成ポリカルボン酸系分散剤が著効であって、例えば、2-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との共重合体の塩(特許文献1参照)や(メタ)アクリル酸の塩(特許文献2参照)が開示されている。また、有機媒質中にセラミックスを分散する方法として、多価ルコールと脂肪酸とのエステルが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、これらはいずれも十分な流動性、又は安定性が得ることが難しい。
【特許文献1】特開平9−299783号公報
【特許文献2】特開昭57−65317号公報
【特許文献3】特開平6−15157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、水系でのセラミックス粉末を分散させる場合に、分散質の流動性が良好でかつ凝集を防ぎ安定な分散体を形成するのに有効な分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多価アルコールと多塩基酸との反応生成物からなる分散剤がセラミックス粉末の水スラリー用分散剤として優れていることを見いだし、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は以下の構成をとる。
1. 多価アルコールと多塩基酸との反応生成物からなるセラミックス粉末の水スラリー用分散剤。
2. 多価アルコールがポリオキシアルキレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン、ソルビトール、及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1に記載の水スラリー用分散剤。
3. 多塩基酸が、炭素数4〜20の飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸及びそれらの無水物である前記1に記載のセラミックス粉末水スラリー用分散剤。
4. 前記1、2、又は3に記載のセラミックス粉末水スラリー用分散剤とセラミックス粉末を含有する水スラリー組成物。
【発明の効果】
【0005】
溶媒として水を用いたセラミックススラリーの分散状態を改善し良質なセラミックス成形体の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明記載の多価アルコールは、ポリオキシアルキレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン、ソルビトール、及びこれらの共重合体があげられる。本発明におけるポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-オキシプロピレン)グリコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシヘキサメチレン)グリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック又はランダム共重合体等が挙げられる。特に好ましいものはポリオキシエチレングリコール、ポリグリセリン、グリセリンである。
【0007】
本発明の多塩基酸は、炭素数が4〜20の飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸及びそれらの無水物である。炭素数4〜20の飽和脂肪族ジカルボン酸を例示すると、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等である。芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等である。脂環族ジカルボン酸としては1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジクロヘキシル-4,4’-ジカルボン酸等である。脂肪族オキシカルボン酸としてはクエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。これらのうちコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、及びこれらの無水物が特に好ましい。
【0008】
多価アルコールと多塩基酸とを反応させてなるエステル化反応は、特に制限されるものではなく、従来のエステル化の方法を用いることができる。すなわち、窒素雰囲気下において多価アルコールと多塩基酸を2:1〜1:2のモル比で仕込み、加熱攪拌することによって反応生成物が得られる。反応温度は120℃〜250℃で、特に好ましくは150〜180℃である。反応時間は4〜12時間である。
【0009】
セラミックス粉末の種類は特に限定されないが、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア、酸化鉄、酸化亜鉛、シリカ、マイカなどの酸化物、スピネル、ペロブスカイトなどの結晶形を持つ複酸化物、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭素などの非酸化物の粉末があげられる。本発明では酸化物が好ましく用いられる。セラミックス粉末の粒子径は、限定されるものではないが100ミクロン以下である。さらに好ましくは50ミクロン以下である。これらは単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0010】
本発明の分散剤の使用量は、セラミックス粉末の質量に対して0.01〜5.0質量%であり、好ましくは0.05〜2.0質量%である。水スラリー中のセラミックス粉末の濃度は50〜90質量%であり、好ましくは50〜75質量%である。
【0011】
水スラリーの製造方法は従来の方法が用いられ、例えばボールミルにセラミックス粉体、分散剤、及び水を加え、これを混合攪拌することによって得られる。
【実施例】
【0012】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
下記反応条件にて、分散剤1〜12を製造した。反応の終点はGPCで多塩基酸が消失した点とした。なお、GPC測定条件は次の通りである。
GPC測定条件
島津製作所製HPLC
検出器 :RID-10A示差屈折検出器
オートサンプラー :SIL-10A
ポンプ :LC-10AS
カラムオーブン :CTO-10A、カラム温度40℃
カラム :Shim-pack GPC-801×2
移動相 :テトラヒドロフラン1.00ml/min
【0014】
[製造例1]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400(東邦化学工業社製:トーホーポリエチレングリコール400、以下同様)を241.9g、クエン酸(和光純薬工業社製:特級クエン酸、以下同様)を58.1g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤1)を得た。
【0015】
[製造例2]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を227.2g、クエン酸を72.8g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤2)を得た。
【0016】
[製造例3]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を202.7g、クエン酸を97.3g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤3)を得た。
【0017】
[製造例4]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を174.4g、クエン酸を125.6g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤4)を得た。
【0018】
[製造例5]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を153.0g、クエン酸を147.0g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤5)を得た。
【0019】
[製造例6]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を253.7g、アジピン酸(ローディアジャパン社製:アジピン酸)を46.3g入れる。この中に窒素を導入しながら200℃まで加熱し、12時間反応させ、反応生成物(分散剤6)を得た。
【0020】
[製造例7]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を261.4g、無水コハク酸(新日本理化社製:無水コハク酸)を38.6g入れる。この中に窒素を導入しながら180℃まで加熱し、6時間反応させ、反応生成物(分散剤7)を得た。
【0021】
[製造例8]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール400を232.9g、SLB−12(岡村製油社製:ドデカン二酸)を67.1g入れる。この中に窒素を導入しながら230℃まで加熱し、12時間反応させ、反応生成物(分散剤8)を得た。
【0022】
[製造例9]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ポリエチレングリコール1000を273.7g(東邦化学工業社製:トーホーポリエチレングリコール1000)、クエン酸を26.3g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、2時間半反応させ、反応生成物(分散剤9)を得た。
【0023】
[製造例10]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ジグリセリン(阪本薬品工業社製:ジグリセリンS)を208.4g、アジピン酸(ローディアジャパン社製:アジピン酸)を91.6g入れる。この中に窒素を導入しながら200℃まで加熱し、12時間反応させ、反応生成物(分散剤10)を得た。
【0024】
[製造例11]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製:精製グリセリン)を146.8g、クエン酸(和光純薬工業社製:特級クエン酸)を153.2g入れる。この中に窒素を導入しながら160℃まで加熱し、4時間反応させ、反応生成物(分散剤11)を得た。
【0025】
[製造例12]
還流冷却管及び窒素導入管を付けた500mlの4口フラスコに、ソルビトール(花王社製:ソルビトール花王)を196.4g、クエン酸(和光純薬工業社製:特級クエン酸)を103.6g入れる。この中に窒素を導入しながら150℃まで加熱し、6時間反応させ、反応生成物(分散剤12)を得た。
【0026】
比較品
[比較品1]ポリアクリル酸アンモニウム(東亞合成社製:A-30SL)
[比較品2]カルボン酸系共重合体(アンモニウム塩)(東亞合成社製:A-6114)
[比較品3]グリセリンモノオレート(理研ビタミン社製:リケマールOL-100E)
[比較品4]コハク酸モノグリセライドステアリン系(理研ビタミン社製:ポエムB-10)
[比較品5]PEG400(東邦化学工業社製:トーホーポリエチレングリコール400)
[比較品6]クエン酸(和光純薬工業社製:特級クエン酸)
【0027】
[評価方法]
粘度:東京計器製B形粘度計により粘度測定を行った。測定条件はローターNO.2を使用し、ローター回転数を30rpmに設定し、測定開始後1分の粘度を測定した。
安定性:スラリーを有栓メスシリンダーに入れて24時間静置後のスラリーの分層状態を確認した。
○ :分層が見られない
× :分層が見られる
【0028】
[実施例1〜12 比較例1〜6]
100mlのアルミナ製ボールミル(日華工業社製:ボールミルNS-1)に、イオン交換水にアルミナ(住友化学工業社製:AKP-20)が75質量%、分散剤1〜12及び比較品1〜6を0.75質量%になるように加え、24時間混合攪拌を行い、アルミナのスラリーを得た。配合及び評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコールと多塩基酸との反応生成物からなるセラミックス粉末の水スラリー用分散剤。
【請求項2】
多価アルコールがポリオキシアルキレングリコール、ポリグリセリン、グリセリン、ソルビトール、及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の水スラリー用分散剤。
【請求項3】
多塩基酸が、炭素数4〜20の飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸及びそれらの無水物である請求項1に記載のセラミックス粉末水スラリー用分散剤。
【請求項4】
請求項1、2、又は3に記載のセラミックス粉末水スラリー用分散剤とセラミックス粉末を含有する水スラリー組成物。

【公開番号】特開2010−119930(P2010−119930A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294174(P2008−294174)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】