説明

セラミックメタルハライドランプ

【課題】セラミックメタルハライドランプの点灯始動時に片側電極の電極芯棒の後端側が挿通されたキャピラリ内を起点として発生したアーク放電が電極先端部間の安定したアーク放電に移行するまでの初期放電の時間を短縮して、その初期放電に起因した発光管の黒化や電極細りを抑制し、ランプ寿命を向上させる。
【解決手段】片側電極6Lの電極芯棒7に、該電極芯棒7が挿通されたキャピラリ3L内を放電起点Sとして発生したアーク16からキャピラリ3Lの開口端17付近で高熱の給与を受ける段部18が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管が透光性セラミックで形成されたセラミックメタルハライドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は本願出願人の製品に係るセラミックメタルハライドランプの従来例を示す断面図であって、該ランプは、透光性セラミックで成る発光管1の放電空間2内に金属ハロゲン化物、水銀、始動用の希ガス等が封入され、発光管1の両端に設けたアルミナセラミック等の細管で成るキャピラリ3L、3R内に一対の電極アセンブリ4L、4Rが挿通されている。また、キャピラリ3L、3R内には、その内部に挿通された電極アセンブリ4L、4Rを固定すると同時にその内部を気密にシールするガラスフリット5が充填されている。なお、図5に示すランプは、発光管1とキャピラリ3L、3Rとが各々個別に成形されているが、それら発光管1とキャピラリ3L、3Rが透光性セラミックで一体成形されたランプもある。
【0003】
電極アセンブリ4L、4Rは、夫々タングステンロッドで成る電極芯棒7の先端部付近にタングステン線8を密巻きして放熱コイル部9が形成された電極6L、6Rと、外周部にモリブデン線10を密巻きして位置決めコイル部11が形成されたモリブデンロッドで成る耐ハロゲン性中間材27と、アルミナ粉末とモリブデン粉末とを混合燒結して成る導電性サーメット12とが直列的に突合せ溶接され、該サーメット12には、各キャピラリ3L、3Rの後端に係止される一対の位置決め用高融点金属棒13、13が溶接されている。これにより、電極6L、6Rは、双方の電極芯棒7の後端に溶接した中間材27の外周部に形成された位置決めコイル部11によって同軸的に配置されると同時に、双方の導電性サーメット12に取り付けた位置決め用高融点金属棒13、13によって双方の電極先端部が一定の電極間距離を保って互いに対向するように配置されている。また、キャピラリ3L、3Rの後端から突出した導電性サーメット12の端部には、電力供給線となる外部リード14が溶接して接続されると共に、その接続箇所を保護するアルミナセラミック製の補強用リング15が被せられて、該リング15内にもキャピラリ3L、3R内と同じガラスフリット5が充填されている。
【0004】
なお、本願出願人の製品に係る図5のランプは、電極6L、6Rの電極芯棒7の後端に溶接した中間材27の外周部にモリブデン線10を密巻きして位置決めコイル部11が形成されているが、従来例としては、各電極の電極芯棒の後端側外周部にモリブデン線やタングステン線を密巻きして位置決めコイル部を形成するものもある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−187748号公報
【0005】
上記の如く構成されたセラミックメタルハライドランプは、その点灯始動時に片側電極6Lの電極芯棒7の後端部側が挿通されたキャピラリ3L内を放電起点Sとするアーク16が発生する特性を有している。すなわち、ランプを点灯始動させると、片側電極6Lの電極芯棒7の後端に溶接した中間材27に形成されている位置決めコイル部11の先端とキャピラリ3Lの内壁とが近接する箇所を放電起点Sとして反対側電極6Rの電極先端部に収束するアーク16が発生する。そして、時間の経過とともに放電起点S側の電極6Lが徐々に温められて該電極6Lの電極先端部から熱電子が放出されやすくなると、その電極先端部にアークの起点が移行して、電極6L及び6Rの電極先端部間の安定したアークが形成されるに至る。
【0006】
このようにキャピラリ3L内を放電起点Sとするアーク16が発生する初期放電の時間が長いと、そのキャピラリ3L内に電極芯棒7を挿通している電極6Lの材料であるタングステンが発光管1の内壁にスパッタリングされてその内壁に黒化が生じ、ランプ光束の低下を招くおそれがあると同時に、電極芯棒7が細くなって折れたり曲がったりする所謂電極細りを生じて早期不点となり、ランプ寿命が損なわれるおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ランプの点灯始動時に片側電極の電極芯棒の後端部側が挿通されたキャピラリ内を放電起点として反対側電極の電極先端部に収束するアークが発生する特性を有したセラミックメタルハライドランプに関して、そのアークが発生する初期放電の時間を短縮させることにより、当該初期放電に起因する発光管の黒化や電極細りを抑制して、ランプ寿命を向上させることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、透光性セラミックで成る発光管の両端に設けたキャピラリ内に電極芯棒の後端側を挿通した一対の電極が、電極芯棒の先端側を発光管の放電空間内に突出させて電極先端部を互いに対向させるように配置され、ランプの点灯始動時に片側電極の電極芯棒の後端側が挿通されたキャピラリ内を放電起点とするアークが発生する特性を有したセラミックメタルハライドランプにおいて、前記片側電極の電極芯棒に、該電極芯棒の後端側を挿通したキャピラリの開口端付近で前記アークから高熱の給与を受ける段部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、セラミックメタルハライドランプの点灯始動時にキャピラリ内を放電起点としたアークが発生すると、そのアークから、キャピラリ内に電極芯棒の後端部側を挿通した片側電極に高熱が給与されて、該電極がその電極先端部から熱電子が放出されやすくなる温度まで瞬時に温められるので、キャピラリ内を放電起点とするアークが発生する初期放電の時間が著しく短縮されて、当該初期放電に起因する発光管の黒化や電極細りが抑制され、ランプ寿命が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るセラミックメタルハライドランプの最良の実施形態は、透光性セラミックで成る発光管の両端に設けたキャピラリ内に電極芯棒の後端側を挿通した一対の電極が、電極芯棒の先端側を発光管の放電空間内に突出させて電極先端部を互いに対向させるように配置されると共に、ランプの点灯始動時に発生するアークの放電起点となるキャピラリ内に後端側を挿通した片側電極の電極芯棒に、キャピラリの開口端付近で前記アークから高熱の給与を受ける段部が形成されている。
【0011】
そして、片側電極の電極芯棒に形成する段部は、その電極芯棒の外周部にタングステン線等の高融点金属線を巻いて形成されると共に、該段部と、キャピラリの開口端との間の距離(mm)が、ランプ電力(W)をPとしたときに、0.006P+0.1以下に選定されている。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明に係るセラミックメタルハライドランプの一例を示す断面図であって、本例のランプは、図5に示すランプと同様、透光性セラミックで成る発光管1の両端に設けたキャピラリ3L、3R内に電極芯棒7の後端側を挿通した一対の電極6L、6Rが、電極芯棒7の先端側を発光管1の放電空間2内に突出させて電極先端部を互いに対向させるように配置されると共に、電極芯棒7の先端部付近にタングステン線8を密巻きして放熱コイル部9が形成され、キャピラリ3L、3R内に挿通する電極芯棒7の後端に溶接した中間材27の外周部にモリブデン線10を密巻きして位置決めコイル部11が形成され、ランプの点灯始動時に、片側電極6Lの電極芯棒7の後端側が挿通されたキャピラリ3L内を放電起点Sとするアーク16が発生する特性を有している。
【0013】
本例のランプが図5のランプと相違する点は、電極6Lの電極芯棒7がキャピラリ3Lの開口端17から発光管1の放電空間2内へ突出する長さを図5の場合よりも短くして、その電極芯棒7の先端部付近でタングステン線8を密巻きして形成された放熱コイル部9の後端をキャピラリ3Lの開口端17に近接させることにより、キャピラリ3Lの開口端17付近でアーク16から高熱の給与を受ける段部18が形成されている点である。すなわち、図1のランプは、電極6Lの電極芯棒7に形成された放熱コイル部9の後端が、キャピラリ3Lの開口端17付近でアーク16から高熱の給与を受けて電極6Lを急速加熱する段部18を形成している。
【0014】
なお、本発明者らが、定格電力P(W)が種々異なる同型のランプについてキャピラリ3Lの開口端17と電極6Lの電極芯棒7に形成した段部18との間の距離L(mm)を様々に変化させた点灯実験を行ったところ、その距離Lが小さくなるに従って、キャピラリ3L内を起点Sとするアーク放電から電極6L及び6Rの電極先端部間のアーク放電へ移行するまでのアーク移行時間t(sec)が短くなることが確認されると同時に、その距離Lが一定値以下になると、アーク16が段部18に接触するような状態となって、それまで数秒程度であったアーク移行時間tが約1秒前後まで一挙に短縮されることが確認された。すなわち、距離Lには、アーク移行時間tを急変させる臨界値Lcなるものが存在することが判った。また、その臨界値Lcは、ランプの定格電力Pに依存する傾向があることも判った。
【0015】
そこで、以下のようにランプの定格電力Pと臨界値Lcとの関係を求めた。
図2は、距離Lを様々に変化させた定格電力P=70W、150W、250W、400Wのランプについて、その距離Lとアーク移行時間tとの相関関係を表すデータをまとめたグラフであり、各データをグラフ上にプロットすることによって、アーク移行時間tが急変する臨界値Lcが存在することが判る。この臨界値Lc近傍の点を除いて距離Lが臨界値Lcより小さいデータ群と、臨界値Lcより大きいデータ群とに分け、夫々について最小二乗法により近似直線を求めて、その交点を臨界値Lcとした。これより、各定格電力Pに対する臨界値Lcは次表1のとおりとなった。
【0016】
【表1】

【0017】
次いで、これらのデータをグラフ上にプロットすると、図3のように直線性を有するので、最小二乗法により次の近似式を得た。
Lc=0.006P+0.1
【0018】
これより、例えば定格電力P=200Wの場合、距離Lの臨界値Lcは、
Lc=0.006×200+0.1=1.3(mm)
となる。
そこで検証のため、定格電力200Wのランプについて、臨界値Lcより0.1mm小さい距離L=1.2mmのものと、臨界値Lcより0.1mm大きい距離L=1.4mmのものとを各々10本ずつ作製して、それらについて点灯実験を行ったところ、次表2のような結果が得られた。
【0019】
【表2】

【0020】
すなわち、距離L=1.4mmのランプの平均アーク移行時間tは、5.29秒であるのに対し、距離L=1.2mmのランプの平均アーク移行時間tは、僅か1.27秒と、約4秒も短縮され、しかも、アーク移行時間の標準偏差σが、2.25から0.34に減少していることから、距離Lが臨界値Lc以下となると、アーク移行時間tが大幅に短縮されると同時にその移行時間tが一定でバラツキが小さいことが判る。
したがって、最短時間で電極先端部間のアーク放電に移行させるために、キャピラリ3Lの開口端17と段部18との間の距離L(mm)は、0.006P+0.1以下に選定されている
【実施例2】
【0021】
図4は、本発明に係るセラミックメタルハライドランプの他の例を示す要部の断面図であって、その要部となる電極6L部分を除く他の構成は図5に示す従来のランプと共通するので、その共通部分に関する説明は省略する。
【0022】
図1に示す実施例1のランプは、電極6Lの電極芯棒7がキャピラリ3Lの開口端17から発光管1の放電空間2内へ突出する長さを図5の場合よりも短くしているが、このようにすると、所望のランプ発光特性が得られないこともあるので、図4(a)及び(b)に示す各ランプは、いずれも、電極6Lの電極芯棒7がキャピラリ3Lの開口端17から発光管1の放電空間2内へ図5の場合と略同程度の長さ突出せられている。
【0023】
そして、図4(a)の電極6Lは、高融点金属線であるタングステン線19を電極芯棒7の先端部付近で3〜6ターン密巻きして放熱コイル部20が形成されると同時に、そのタングステン線19をキャピラリ3Lの開口端17付近まで延長させるように線径の2倍以上のピッチで疎巻きして、その開口端17付近でアーク16から高熱の給与を受ける段部21が形成されている。なお、放熱コイル部20からキャピラリ3Lの開口端17付近にかけてタングステン線19を疎巻きにするのは、該タングステン線19による放熱効果が過剰となってランプの発光特性が損なわれないようにするためである。
【0024】
一方、図4(b)の電極6Lは、電極芯棒7の先端部付近でタングステン線22を3〜6ターン密巻きして放熱コイル部23が形成されると共に、該放熱コイル部23とは別個に、キャピラリ3Lの開口端17付近でタングステン線(もしくはモリブデン線)24を電極芯棒7の外周部に数ターン密巻きしてコイル部25が形成され、該コイル部25によって、キャピラリ3Lの開口端17付近でアーク16から高熱の給与を受ける段部26が形成されている。なお、コイル部25は、線径0.1mmの極細のタングステン線24で形成しても、アーク16から高熱の給与を受けて電極6Lをその電極先端部から熱電子が放出されやすくなる温度まで瞬時に温める効果が十分認められるので、ランプの発光特性を損なわないようにするため、放熱コイル部23を形成するタングステン線22よりも細いタングステン線24で形成している。
【0025】
図4(a)及び(b)の如く構成されたランプも、電極6Lの電極芯棒7に段部21及び26を形成することによって、キャピラリ3L内を起点とするアーク放電から電極先端部間の安定したアーク放電に移行するまでのアーク移行時間が短縮され、特に、段部21及び26とキャピラリ3Lの開口端17との間の距離(mm)を0.006P+0.1以下に選定すれば、そのアーク移行時間が著しく短縮されて、発光管の黒化や電極細りが抑制され、ランプ寿命が向上する。なお、本発明の段部は、電極芯棒7の削り出し加工によって形成してもよいが、実施例の如く電極芯棒7の外周部にタングステン線等の高融点金属線を巻いて形成すれば加工コストが低減されるというメリットがある。
【0026】
また、発光管とキャピラリとが一体成形されている場合は、両者の境界が必ずしも明確ではないが、キャピラリの内径が発光管の放電空間内に向かって拡径し始める箇所をキャピラリの開口端として、該開口端と前記段部との間の距離を0.006P+0.1以下に選定すれば、上記の如くアーク移行時間が著しく短縮される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、セラミックメタルハライドランプを点灯始動してから電極先端部間の安定したアーク放電に移行するまでの時間を短縮させてランプ寿命の向上に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るセラミックメタルハライドランプの一例を示す断面図
【図2】本発明の作用効果を説明するためのグラフ
【図3】本発明の作用効果を説明するためのグラフ
【図4】本発明に係るセラミックメタルハライドランプの他の例を示す要部の断面図
【図5】従来のセラミックメタルハライドランプを示す断面図
【符号の説明】
【0029】
1 発光管
2 放電空間
3L キャピラリ
3R キャピラリ
6L 電極
6R 電極
7 電極芯棒
8 タングステン線(高融点金属線)
9 放熱コイル部
10 モリブデン線
11 位置決めコイル部
16 アーク
S アークの放電起点
17 キャピラリの開口端
18 段部
19 タングステン線(高融点金属線)
20 放熱コイル部
21 段部
22 タングステン線
23 放熱コイル部
24 タングステン線(高融点金属線)
25 コイル部
26 段部
27 中間材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックで成る発光管の両端に設けたキャピラリ内に電極芯棒の後端側を挿通した一対の電極が、電極芯棒の先端側を発光管の放電空間内に突出させて電極先端部を互いに対向させるように配置され、ランプの点灯始動時に片側電極の電極芯棒の後端側が挿通されたキャピラリ内を放電起点とするアークが発生する特性を有したセラミックメタルハライドランプにおいて、前記片側電極の電極芯棒に、該電極芯棒の後端側を挿通したキャピラリの開口端付近で前記アークから高熱の給与を受ける段部が形成されていることを特徴とするセラミックメタルハライドランプ。
【請求項2】
前記キャピラリの開口端と前記段部との間の距離(mm)が、ランプ電力(W)をPとしたときに、0.006P+0.1以下に選定されている請求項1記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項3】
前記段部が、電極芯棒の外周部に高融点金属線を巻いて形成されている請求項1又は2記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項4】
前記高融点金属線を電極芯棒の先端部付近で密巻きして形成された放熱コイル部の後端が前記段部を成している請求項3記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項5】
前記高融点金属線を電極芯棒の先端部付近で密巻きして放熱コイル部が形成され、更にその高融点金属線をキャピラリの開口端付近まで疎巻きして前記段部が形成されている請求項3記載のセラミックメタルハライドランプ。
【請求項6】
前記高融点金属線をキャピラリの開口端付近で電極芯棒の外周部に巻いて前記段部を成すコイル部が形成されている請求項3記載のセラミックメタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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