説明

セラミックメタルハライドランプ

【課題】パルス発生器が無い安定器で点灯可能で、高圧水銀ランプ及び高圧ナトリウムランプよりも高効率、高演色、且つ自然な色合いのセラミックメタルハライドランプを提供する。
【解決手段】発光管4を備え、パルス発生器が無い安定器で点灯可能なセラミックメタルハライドランプ10であって、前記発光管の添加物組成は、所定量の水銀に加えて、少なくとも、ヨウ化ツリウム(TmI3)と、ヨウ化セリウム(CeI3)と、ヨウ化タリウム(TlI)と、ヨウ化ナトリウム(NaI)とを含み、(TmI3)、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及びヨウ化ホルミウム(HoI3)の合計量を100wt%としたときの相対量で規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックメタルハライドランプに関する。更に具体的には、本発明は、従来別のランプが取り付けられていた照明器具へ適用するいわゆる「レトロフィット」のランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧水銀ランプ、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ等を総称し、高輝度放電灯(以下、「HIDランプ」という。)と言う。HIDランプを点灯するためには、安定器が必要となる。一般に、高圧水銀ランプは、商用交流電源200Vを使用する高圧水銀ランプ用安定器を使用して点灯することが出来る。
【0003】
これに対して、高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプは、始動時にパルスをかけて発光管内を絶縁破壊する必要がある。そのため、更に、イグナイターと称するパルス発生器が必要となる。従って、安定器には、パルス発生器関連の回路(以下、単に「パルス発生器」という。)が内蔵されている。
【0004】
本発明者は、HIDランプに関する次の特許文献を承知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-96966「高圧金属蒸気放電灯」(公開日:1999.04.09)(出願人:岩崎電気株式会社)
【特許文献2】特開2010-251252「セラミックメタルハライドランプ」(公開日:2010.11.04)(出願人:岩崎電気株式会社)
【特許文献3】特開2011-8935セラミックメタルハライドランプ」(公開日:2010.11.04)(出願人:岩崎電気株式会社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ランプ特性は記載が無い。このランプと同じ外管にセラミックメタルハライドランプを収めてセラミックメタルハライドランプならではの良好な発光特性を実現する必要があった。
【0007】
特許文献2には、少なくともヨウ化ツリウム、ヨウ化タリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化カルシウムが封入されると共に、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化カルシウムが、全ハロゲン化金属に対して夫々40〜80%及び30%未満のモル比率で封入することで、Ra 80以上、効率100[lm/W]以上の発光特性を実現する技術が開示されており、110〜360[W]のセラミックメタルハライドランプについての実施例が開示されている。
【0008】
特許文献3は、特許文献2と同等のハロゲン化金属を封入したセラミックメタルハライドランプにおいて、ランプ再点灯時の再始動時間を短縮させるための外管内不活性ガス封入圧力を規定している。
【0009】
「レトロフィット」のランプには大きく分けて2つの市場がある。1つは、高圧水銀ランプ用安定器を使用して点灯するランプの市場である。他の1つは、高圧ナトリウムランプ用安定器を使用して点灯するランプの市場である。
【0010】
高圧水銀ランプは安価なため広く普及しているが、発光効率は45[lm/W]程度と低く、平均演色評価数Raは約40、相関色温度Tcpは約4100[K]となっている。
【0011】
一方、高圧ナトリウムランプの発光効率は、83[lm/W]程度と高圧水銀ランプより高効率だが、平均演色評価数Raは、約25となり被照射物の色再現性が悪い。また相関色温度Tcpは、約2100[K]でオレンジ色の光となってしまう。
【0012】
近年、発光管にセラミックを採用し、発光管内にさまざまな金属ハロゲン化物を封入することにより、発光効率と色味の両方を向上させることができるHIDランプとして、セラミックメタルハライドランプが市場に投入されている。
【0013】
しかし、一般的なセラミックメタルハライドランプは、ランプ電圧や始動に必要な始動パルスといった特性が、従来の高圧水銀ランプまたは高圧ナトリウムランプの特性とは異なっている。
【0014】
本発明の課題は、高圧水銀ランプまたは高圧ナトリウムランプを取り付けていた照明器具に適用可能で、高圧水銀ランプ及び高圧ナトリウムランプよりも高効率、高演色、且つ自然な色合いのランプを提供することにある。具体的には、高圧水銀ランプ80W用安定器で点灯可能なランプにおいて、発光効率η≧105[lm/W]、Duv≦10、平均演色評価数Ra≧70、相関色温度3000≦Tcp≦4000[K]を目標として開発を進めた。
【0015】
産業界では、CO2排出量の少ない燃料への転換やエネルギー使用量の削減が求められている。これに呼応して、照明業界でも、ランプの発光効率向上によるCO2削減が求められている。電力消費量の少ない省エネのランプを開発することは、時代の要請でもある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題に鑑みて、本発明は、パルス発生器が無い安定器(主に、「高圧水銀ランプ用安定器」となる。)で点灯可能で、高圧水銀ランプ及び高圧ナトリウムランプよりも高効率、高演色、且つ自然な色合いのセラミックメタルハライドランプを提供することを目的とする。
【0017】
更に、本発明は、このようなセラミックメタルハライドランプに最適な発光管添加物の組成を提供することを目的とする。
【0018】
本発明に係るセラミックメタルハライドランプは、発光管を備え、パルス発生器が無い安定器で点灯可能なセラミックメタルハライドランプであって、前記発光管の添加物組成は、所定量の水銀に加えて、少なくとも、ヨウ化ツリウム(TmI3)と、ヨウ化セリウム(CeI3)と、ヨウ化タリウム(TlI)と、ヨウ化ナトリウム(NaI)とを含み、(TmI3)、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及びヨウ化ホルミウム(HoI3)の合計量を100wt%としたときの相対量で規定して、(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式2)の関係を満たし、(NaI)の量は、(式5)の関係を満たしている。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、更に、前記(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式3)の関係を満たしてもよい。
【0021】
【数3】

更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、更に、前記(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式4)の関係を満たしてもよい。
【0022】
【数4】

更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、更に、更に、(NaI)の量は、(式6)の関係を満たしてもよい。
【0023】
【数5】

更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、前記(TmI3)、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及びヨウ化ホルミウム(HoI3)の合計量を100wt%とは、(DyI3)及び(HoI3)が含まれず、(TmI3)単独で100wt%であってよい。
【0024】
更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、前記パルス発生器が無い安定器は、高圧水銀ランプ用安定器であってよい。
【0025】
更に、上記セラミックメタルハライドランプでは、前記セラミックメタルハライドランプは、定格ランプ電力45〜72Wのランプであってよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、パルス発生器が無い安定器で点灯可能で、高圧水銀ランプ及び高圧ナトリウムランプよりも高効率、高演色、且つ自然な色合いのセラミックメタルハライドランプを提供することが出来る。
【0027】
更に、本発明によれば、このようなセラミックメタルハライドランプに最適な発光管添加物の組成を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本実施形態に係るセラミックメタルハライドランプの構造を示す図である。
【図2】図2は、図1のセラミックメタルハライドランプに使用される代表的な発光管4の断面図である。
【図3A】図3Aは、表1のデータをグラフ化したものである。横軸に(CeI3)の量をとり、縦軸に発光効率ηをとっている。
【図3B】図3Bは、表1のデータをグラフ化したものである。横軸に(CeI3)の量をとり、縦軸にDuvをとっている。
【図3C】図3Cは、表1のデータをグラフ化したものである。横軸に(CeI3)の量をとり、縦軸に相関色温度Tcpをとっている。
【図4】図4は、行方向(縦軸)に表1の発光効率ηをとり、列方向(横軸)にDuvをとり、表1に示すサンプルNo.を、該当する発光効率η及びDuvのセルに記入した図表である。
【図5】図5は、判定基準を満たしたサンプルNo.の(TlI)の量と(CeI3)の量の関係を示す図表である。
【図6】図6は、表2に示す(NaI)の量とTcpの関係をグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るセラミックメタルハライドランプの実施形態に付いて、添附の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中、同じ要素に対しては同じ符号を付与して、重複した説明を省略する。
【0030】
[セラミックメタルハライドランプ]
(構成)
図1は、本実施形態に係るセラミックメタルハライドランプ10の構造を示す図である。外球2の内部に、ステム14に支持された2本の支柱16a,16bがあり、外球トップ側で湾曲した支柱16aにわたされた導体バーに発光管4の上端のリード線が接続されている。発光管4の下端のリード線は、支柱16bにつながる導体バーに接続されている。始動後安定した点灯状態では、支柱16a−発光管4−支柱16bのルートで電圧が印加され電流が流れる。
【0031】
始動時には、パルス発生器20の作用により電源回路に発生した高電圧パルスが支柱16aから発光管4に印加される。発光管内で絶縁破壊が起こり、アーク放電が発生して、発光管4の熱によりバイメタル21が開くと、このルートは遮断され安定した点灯状態になる。消灯してランプが冷えると、バイメタル21は閉じて、再始動の準備が整う。
【0032】
本発明者は、図2に示す発光管を開発して採用した。図2は、図1のセラミックメタルハライドランプ10に使用される代表的な発光管4の断面図である。ここで、図2(1)は、定格ランプ電力72Wのランプ(水銀灯80W用安定器で点灯させる。)の断面図である。この発光管4の仕様は、内容積0.7cm3、電極間距離8mm、最大内径9mm、管壁負荷(ランプ電力/発光部全内面積)17.4W/cm2となっている。
【0033】
以下に説明する発光管添加物の組成は、図2(1)を対象として研究・開発された。開発後、開発された発光管添加物の組成を利用して、図2(2)に示す定格ランプ電力45Wのランプに対しても確認実験を行った。その結果は、後述する。
【0034】
図2(2)は、その45Wランプ(水銀灯50W用安定器で点灯させる。)の発光管4−1断面図である。この発光管の仕様は、内容積0.4cm3、電極間距離6mm、最大内径8mm、管壁負荷(ランプ電力/発光部全内面積)18.3W/cm2となっている。
【0035】
本実施形態に係るセラミックメタルハライドランプ10は、72Wランプ及び45Wランプのように比較的小型のランプを対象としている。
【0036】
(発光管添加物の組成)
本発明者は、図1に示すランプ構造に関して最適な発光管添加物を決定する試作実験を行った。表1は、試作したランプの発光管添加物の組成と、その評価値とを示すデータである。
【0037】
【表1】

セラミックメタルハライドランプの発光管添加物に関しては、一般に効率の高い発光物質として、セリウム、ツリウム等の希土類ヨウ化物であるヨウ化セリウム(CeI3)、ヨウ化ツリウム(TmI3)が知られている。本発明者は、発光物質として、(TmI3)を基本添加物として採用した。発光管4,4−1の内容積の大小の影響を排除するため、(TmI3)の量を100wt%とし、他の添加物の量は、これに対する相対値で規定している。
【0038】
ヨウ化ツリウム(TmI3)に関して、店舗等の照明に広く使用されているセラミックメタルハライドランプでは、照明効率と演色性の両方を追求した発光物質(DyI3−HoI3−TmI3)−NaI−TlIを採用しており、短波長から長波長まで比較的均等に発光することが知られている。ここで分かるように、(TmI3)の一部又は全部は、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及び/又はヨウ化ホルミウム(HoI3)で置き換えることが出来る。即ち、(TmI3)単独でも良いが、発光特性を調整するために、(DyI3)や(HoI3)を追加し、又はこれらに置換することが知られている。以下の説明では、発光管の基本添加物として(TmI3)単独としているが、これは(TmI3)+(DyI3)+(HoI3)=100wt%の場合もあり、以下に説明する発光管添加物としての効果は変わらないことを承知されたい。
【0039】
(TlIの量とCeI3量の関係)
表1は、ヨウ化タリウム(TlI)の量とヨウ化セリウム(CeI3)の量との最適な相対量を求めるための実験データである。表中の「サンプルNo.」は、試作品グループの識別番号である。各サンプルNo.のデータは、5本のランプの試作品の平均値である。
【0040】
ヨウ化タリウム(TlI)は、高い緑色の発色が主であるため、発光効率ηを高めることが出来る。しかし、過剰な量の(TlI)は、その光色の色度座標上における点が、黒体輻射ラインからのずれを表す「Duv」が10を超え、緑感が強くなるという悪影響がある。今回の試作に於いては、(TlI)を20〜50wt%の範囲で変化させている。
【0041】
ヨウ化セリウム(CeI3)は、同様に、高い緑色の発色が主であるため、発光効率ηを高めることが出来る。しかし、過剰な量を入れると、Duvが10を超え、緑感が強くなるおそれがある。今回の試作に於いて、(CeI3)をゼロ〜60wt%の範囲で変化させている。
【0042】
具体的には、サンプルNo.C21〜C27は、(TlI)を20wt%に固定し、(CeI3)をゼロ〜60wt%としたサンプルである。同様に、C31〜C37は、(TlI)を30wt%に固定し、(CeI3)をゼロ〜60wt%としたサンプルである。同様に、C41〜C47は、(TlI)を40wt%に固定し、(CeI3)をゼロ〜60wt%としたサンプルである。同様に、C51〜C57は、(TlI)を50wt%に固定し、(CeI3)をゼロ〜60wt%としたサンプルである。
【0043】
図3A、3B、3Cは、表1のデータをグラフ化したものである。ここで、いずれも横軸に(CeI3)の量をとり、縦軸に、図3Aでは発光効率η、図3BではDuv、図3Cでは相関色温度Tcpをとっている。パラメータとして、(TlI)を、20wt%(●)、30wt%(■)、40wt%(▲)、50wt%(◆)と変化さている。
【0044】
図3Aからは、(CeI3)の量が増加すると、発光効率ηも高くなることが分かる。同じ(CeI3)の量では、(TlI)の量が多いほど発光効率ηも高くなる。
【0045】
図3Bからは、(CeI3)の量が減少すると、Duvも低くなることが分かる。同じ(CeI3)の量では、(TlI)の量が少ないほどDuvも低くなる。
【0046】
図3Cからは、(CeI3)の量が増加すると、Tcpも高くなることが分かる。同じ(CeI3)の量では、(TlI)の量が多いほどTcpも高くなる。
【0047】
(結果の判定)
目標基準は、相関色温度3000≦Tcp≦4000[K]である。表1に挙げられた試作品は全てこの基準を満たしている。そこで、評価値として、残る発光効率η及びDuvを選定し、目標基準を満たす試作品の添加物の組成を求めた。
【0048】
図4は、行方向(縦軸)に表1の発光効率ηをとり、列方向(横軸)にDuvをとり、表1に示すサンプルNo.を、該当する効率η及びDuvのセルに記入した図表である。目標基準である発光効率η≧105、且つDuv≦10を採用し、その範囲が太線で囲まれている。これにより、目標基準を満たすサンプルNo.を容易に特定できる。
【0049】
図5は、目標基準を満たしたサンプルNo.の(TlI)の量と(CeI3)の量の関係を示す図表である。行方向に(CeI3)の量をとり、列方向に(TlI)の量をとっている。図4において太線で囲まれたサンプルNo.を拾い出し、表1からそのサンプルNo.の(TlI)の量と(CeI3)の量を確認し、表5の該当するセルに丸印(○)を記入している。なお、特に、発光効率η≧110のサンプルNo.には二重丸(◎)を記入している。
【0050】
図5の図表から、目標基準を満たしたサンプルNo.の(TlI)の量と(CeI3)の量には一定の相関があることが分かる。図5の図表を、横軸をX、縦軸をYとするグラフと見ると、丸印(○)及び二重丸(◎)を囲む、次の上限と下限の(式1)が成り立つ。(式1)を満たせば、目標基準を満たしたサンプルとなる。
【0051】
【数6】

これを、実際の添加物の量に置き換えると、(式2)のように書き直すことができる。
【0052】
【数7】

この関係を、実際の添加物の量の代表的な値を用いて分かり易く表現すると、この関係は次のようになる。
【0053】
(1) (TlI)の量が20wt%の場合、(CeI3)は30〜60wt%
(2) (TlI)の量が30wt%の場合、(CeI3)は20〜50wt%
(3) (TlI)の量が40wt%の場合、(CeI3)は10〜40wt%
(4) (TlI)の量が50wt%の場合、(CeI3)はゼロ〜30wt%。
【0054】
次に、(TlI)の量が20wt%以下と比較的少ないと、ランプを数千〜数万時間継続して点灯したときの光束維持率が比較的悪くなることも判明した。この原因は、(CeI3)は希土類であり、希土類一般の傾向として点灯時間が経過するにつれ化学反応が起こり、光束が少なくなる傾向がある、ことに起因するものと推測される。しかし、(TlI)はその傾向が無いため、光束を比較的長期間維持できる利点を有している。(TlI)の量を20wt%以下にすると、光束維持率の面で懸念材料となる。従って、好ましくは、(TlI)の量を30wt%以上とする。(式2)は、好ましくは、(式3)となる。
【0055】
【数8】

この関係を、実際の添加物の量の代表的な値を用いて分かり易く表現すると、この関係は次のようになる。
【0056】
(1) (TlI)の量が30wt%の場合、(CeI3)は20〜50wt%
(2) (TlI)の量が40wt%の場合、(CeI3)は10〜40wt%
(3) (TlI)の量が50wt%の場合、(CeI3)はゼロ〜30wt%。
【0057】
更に、(CeI3)は、平均演色評価数Raを高く維持する利点を有する。(CeI3)の量をゼロにすると、平均演色評価数Raの面で懸念材料となる。従って、(CeI3)の量は、好ましくは、10wt%以上とする。(式3)は、更に好ましくは、(式4)となる。
【0058】
【数9】

この関係を、実際の添加物の量の代表的な値を用いて分かり易く表現すると、この関係は次のようになる。
【0059】
(1) (TlI)の量が30wt%の場合、(CeI3)は20〜50wt%
(2) (TlI)の量が40wt%の場合、(CeI3)は10〜40wt%
(3) (TlI)の量が50wt%の場合、(CeI3)は10〜30wt%。
【0060】
(NaIの量)
(TlI)の量と(CeI3)の量との最適な相対量が決定された段階で、相関色温度Tcpの関係でヨウ化ナトリウム(NaI)の量の実験を行った。
【0061】
希土類ヨウ化物(ヨウ化ツリウム(TmI3))だけでは電離電圧が高いため、発光管内のアークが収縮して揺れやすく、放電が不安定になる。(NaI)は、アークを太く安定させる効果があり、それ自体が比較的高率の高い発光をもたらす。反面、(NaI)は、オレンジ色単色の発色であるため、過剰な量は相関色温度Tcpの低下を招く懸念材料ともなる。
【0062】
そこで、図5の図表の代表値(即ち、((CeI3)を30wt%、(TlI)を40wt%)に固定し、ヨウ化ナトリウム(NaI)の量を120〜270wt%に変化させた試作品の実験を行った。
【0063】
表2は、その試作品No.N31〜N37の実験データである。
【0064】
【表2】

図6は、表2に示す(NaI)の量とTcpの関係をグラフ化したものである。図6により、(NaI)の量が120〜270wt%の範囲で、目標基準である3000≦Tcp≦4000[K]を満たしていた。しかし、グラフの傾向から、(NaI)の量が270wt%を超えていくと、Tcpが3000[K]未満になることが予想される。従って、今回の実験から確認された範囲として、(NaI)の量を(式5)のように規定した。
【0065】
【数10】

更に、相関色温度3200≦Tcp≦4000[K]を満たしていれば、一層好ましい。従って、(NaI)の量は、(式6)を満たせば一層好ましい。
【0066】
【数11】

(定格ランプ電力45Wのランプへの応用)
これまで定格ランプ電力72Wのランプ(図2(1)参照)の実験で得られた添加物組成の結果を、定格ランプ電力45Wのランプ(図2(2)参照)へ適用して評価試験を行った。その結果は、定格ランプ電力72Wのランプと同様の結果が得られた。
【0067】
(開発品のカタログ値)
表3は、以上で決定された発光管添加物の組成に基づきメタルハライドランプを量産し、量産によるバラツキを加味して、カタログ値を求めた結果を示す表である。比較のため、従来のほぼ同等のランプ電力の高圧水銀灯、高圧ナトリウム灯の数値も示している。
【0068】
【表3】

表3より、開発された72Wランプの場合は発光効率η=111[lm/W]であり、ランプ電力45Wの場合はランプ効率η=105(lm/W)であった。いずれも、目標基準である発光効率η≧105[lm/W]を満たしていた。
【0069】
開発された72Wランプの発光効率η=111[lm/W]は、従来の高圧水銀灯や高圧ナトリウム灯と比較して、非常に高い効率ηとなっている。全光束は、72(W)×111(lm/W)=7992(lm)となる。同じ明るさを高圧水銀灯で実現するには、7992(lm)÷45(lm/W)≒178(W)となる。同様に、高圧ナトリウム灯で実現するには、7992(lm)÷83(lm/W)≒96(W)となる。
【0070】
即ち、178(W)の高圧水銀灯を、開発された72Wランプで置き換えることが出来る。同様に、96(W)の高圧ナトリウム灯を、この72Wランプで置き換えることが出来る。
【0071】
ランプ電力45Wの場合の発光効率η=105(lm/W)も非常に高い値となっている。開発品の全光束は、45(W)×105(lm/W)=4725(lm)となる。同じ明るさを高圧水銀灯で実現するには、4725(lm)÷45(lm/W)≒105(W)となる。同様に、高圧ナトリウム灯で実現するには、4725(lm)÷83(lm/W)≒57(W)となる。
【0072】
即ち、105(W)の高圧水銀灯を、開発された45Wランプで置き換えることが出来る。同様に、57(W)の高圧ナトリウム灯を、この45Wランプで置き換えることが出来る。
【0073】
このように、今回の開発品は省エネに寄与するものである。
【0074】
相関色温度は、Tcp=3500〜3700であり、目標基準の3000≦Tcp≦4000[K]を満たしていた。開発されたランプのTcpは、オレンジ色の強い高圧ナトリウム灯(Tcp=2100)より高く、若干青白い高圧水銀灯(Tcp=4100)より低く、好ましい値となっている。
【0075】
平均演色評価数は、Ra=73〜76であり、目標基準のRa≧70を満たしていた。開発されたランプのRaは、高圧水銀灯及(Ra=40)及び高圧ナトリウム灯(Ra=25)より遙かに高く、白熱電球(Ra=100)に一層近付いた好ましい値となっている。
【0076】
開発されたランプの「壁面負荷」(ランプ定格電力/発光部全内面積)は、15〜25[W/cm2]の範囲であり、好ましい範囲のランプであることが確認された。
【0077】
(代替例等)
なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であって、本発明の範囲を何等限定するものではないことを承知されたい。本実施形態に対して、当業者が容易に成し得る追加・削除・変更・削除・改良等は、本発明の範囲内である。本発明の技術的範囲は、添附の特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。
【符号の説明】
【0078】
2:管球、 4,4−1:発光管、 6:口金、 10:セラミックメタルハライドランプ、 14:ステム、 16,16a,16b:支柱、 20:パルス発生器、 21:バイメタル、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管を備え、パルス発生器が無い安定器で点灯可能なセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記発光管の添加物組成は、所定量の水銀に加えて、少なくとも、ヨウ化ツリウム(TmI3)と、ヨウ化セリウム(CeI3)と、ヨウ化タリウム(TlI)と、ヨウ化ナトリウム(NaI)とを含み、
(TmI3)、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及びヨウ化ホルミウム(HoI3)の合計量を100wt%としたときの相対量で規定して、
(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式2)の関係を満たし、
(NaI)の量は、(式5)の関係を満たす、セラミックメタルハライドランプ。
【数1】

【数2】

【請求項2】
請求項1に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、更に、
前記(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式3)の関係を満たす、セラミックメタルハライドランプ。
【数3】

【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、更に、
前記(CeI3)の量及び(TlI)の量は、(式4)の関係を満たす、セラミックメタルハライドランプ。
【数4】

【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、更に、
(NaI)の量は、(式6)の関係を満たす、セラミックメタルハライドランプ。
【数5】

【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記(TmI3)、ヨウ化ジシプロシウム(DyI3)及びヨウ化ホルミウム(HoI3)の合計量を100wt%とは、(DyI3)及び(HoI3)が含まれず、(TmI3)単独で100wt%である、セラミックメタルハライドランプ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記パルス発生器が無い安定器は、高圧水銀ランプ用安定器である、セラミックメタルハライドランプ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のセラミックメタルハライドランプにおいて、
前記セラミックメタルハライドランプは、定格ランプ電力45〜72Wのランプである、セラミックメタルハライドランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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