説明

セラミック多孔体の製造方法とそれを用いて作製したセラミック多孔体および構造体

【課題】気泡導入を行う機械的な撹拌時に生じる気泡含有スラリー7の固形分の凝縮を抑制し、気孔、密度ばらつきを安定化させることによって、高品位のセラミック多孔体を得ることを目的とする。
【解決手段】気泡導入を行う機械的な撹拌は、容器回転装置10で気泡導入容器8を回転させるようにしてあるので、気泡導入容器8の内壁近傍は、スラリー7の慣性によってスラリー7の剪断流が起こり、澱みにくくなり付着するスラリー7の凝縮が抑制されるとともに、2軸の回転ビーター9aの中間となる位置が気泡導入容器8の回転によって、常に移動しているため、スラリー7の凝縮が発生したとしても、大きく成長することもなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック多孔体からなるセラミック成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミック多孔体は機能性材料として、高耐熱・軽量であることに加え、高透過率、大表面積、吸音、断熱性等のような特性を有しており、これらを利用した、フィルター、センサー、触媒、建材等に応用され、製品の種類や形状によって使い分けられている。
【0003】
これらのセラミック多孔体の製法の一つとして考えられたゲルキャスティング法は、スラリー中に溶解させたモノマーの重合反応によって成形する方法で、分散媒にセラミックス粉体、有機モノマーを含むスラリーを調製し、開始剤および触媒を混ぜた後、不透水型に流し込む。
【0004】
そして、型内でモノマーがラジカル重合することにより分散媒中にポリマーのネットワークが形成され、ゲル湿潤成形体が得られる。
【0005】
この方法では、スラリーの流動過程と固化過程が完全に分離し、粒子がその場で固定されるため、成形体中の不均一や欠陥が発生しにくいという利点がある。
【0006】
その他にも、スラリー調製が現在一般的に使用されている鋳込み成形やテープ成形と同様であり、高濃度スラリーが調製できれば適用可能であることや、複雑形状の型を用いたニアネットシェーピングが可能といった利点もある。
【0007】
また、ゲルキャスティング法では、重合前のスラリーに気泡を導入し重合を開始することにより、多孔質な成形体を得ることが可能である。
【0008】
多孔化する場合のゲルキャスティングの手順は、基本的には、緻密体を成形するのと同じ手順であるが、導入した気泡をスラリーが固化するまで維持するために、スラリーに界面活性剤を加える。
【0009】
気泡の導入は機械的な撹拌によって行われる。ゲルキャスティングを用いた多孔体成形は他の多孔体セラミック成形法に比べて非常に高い気孔率が得られ、80%以上の気孔率も可能である。
【0010】
さらに、ゲルキャスティング法を用いた多孔体製造における気孔制御は、基本的にはスラリー中に導入した気泡の状態変化を利用する。界面活性剤種類、ゲル化剤添加量やスラリー温度変化による固化時間、スラリー濃度等を変化させることにより気孔径や気孔率を制御可能である。
【0011】
界面活性剤の種類を変化させた場合、気泡の状態が変化し気孔径や気孔率が変化する。ゲル化剤添加量やスラリー温度変化ではゲル化時間が変化し、気泡の合体、膨張、収縮の結果、気孔径が変化する。
【0012】
したがって、界面活性剤の種類やゲル化時間を適切に変化させることにより、気孔径、気孔率が制御可能である(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「セラミックス基盤工学研究センター年報(2005)Vol.5」P33−40、竹上弘彰、藤井正督、高橋実 著「ゲルキャスティングによる多孔体セラミックス成形とその応用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記の従来のセラミック多孔体の製作過程に置いて、様々な課題が発生し、特に、スラリーに界面活性剤を加え機械的な撹拌によって気泡の導入を行うときに、スラリーの凝縮が発生し、スラリーを機械的な撹拌をするときに用いる気泡導入容器内壁に、分散媒が脱水され固形分が凝縮して付着し成長してしまう現象が顕れた。
【0014】
これは、気孔径を小さく高い気孔率を得る目的で効率よくスラリーに気泡の導入を行うため、機械的な撹拌を2軸の回転ビーターを組み合わせた回転装置を用いた場合に、スラリーの流れのよどみとなるところつまり、2軸の回転ビーターの中間となる気泡導入容器内壁の両側にスラリーの凝縮を多く生じ、できる気泡含有スラリーの気孔、密度ばらつきの原因になるばかりでなく、型に流し込む際に、混入すると、他の部分より密度の高い欠陥部分ができてしまうことがあった。
【0015】
このような対策として、気泡導入容器に気泡導入のための機械的な撹拌装置と同時に、気泡導入容器の内壁のスラリーの凝縮をかき取るような回転刃を有する回転装置を用いたり、気泡導入容器内壁に付着しにくいたとえばフッ素樹脂を用いることなどが考えられたが、前者は装置が複雑になり掃除などのメンテが大変になるうえに、気泡導入容器の内の回転刃の死角や容器とのクリアランスに不均一を生じてしまう欠点があった。
【0016】
また、後者では、もともとスラリーの流れのよどみで生じる現象であるため、殆ど効果がなく、やはり、内壁に分散媒が脱水され固形分が凝縮して付着し成長してしまう欠点があった。
【0017】
上記従来の技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、気泡導入を行う機械的な撹拌時に生じる気泡含有スラリーの固形分の凝縮を抑制し、気孔、密度ばらつきを安定化させることによって、高品位のセラミック多孔体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため本発明のセラミック多孔体の製造方法はセラミック粉体と有機モノマーを含むスラリーを調製し、前記スラリーに界面活性剤を添加するとともに、モノマー重合の開始剤と触媒を添加して機械的な撹拌をしてつくられた気泡含有スラリーを成形型に流し込み作製した成型品を乾燥・焼成して行うゲルキャスティング法を用いたセラミック多孔体の製造方法において、前記スラリーを入れる円筒状の気泡導入容器の略中央にその中心が位置する様に配設した2軸の回転ビーターを組み合わせた起泡回転装置と気泡導入容器を載置し回転させる容器回転装置とを設けるとともに、前記気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置で回転ビーターを回転させて行うと同時に、前記容器回転装置で気泡導入容器を回転させるようにしてある。
【0019】
上記した構成により、気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置で回転ビーターを回転させて行うようにしてあるので、2軸の回転ビーターの重なり合う回転の流れの衝突によって、スラリーに多く気泡が取り込まれ、効率よくスラリーに気泡の導入されて、気孔径を小さく高い気孔率を得ることができるようになる。
【0020】
また、同時に、前記容器回転装置で気泡導入容器を回転させるようにしてあるので、気泡導入容器の内壁近傍は、スラリーの慣性によってスラリーの剪断流が起こり、澱みにく
くなり付着するスラリーの凝縮が抑制されるとともに、2軸の回転ビーターの中間となる位置が気泡導入容器の回転によって、常に移動しているため、スラリーの凝縮が発生したとしても、大きく成長することもなくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、気泡導入容器の内壁近傍のスラリーの澱みにくくなり付着するスラリーの凝縮が抑制されるとともに、スラリーの凝縮が発生したとしても、大きく成長することもなくすことができ、高品位のセラミック多孔体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
第1の発明によるセラミック多孔体の製造方法は、セラミック粉体と有機モノマーを含むスラリーを調製し、前記スラリーに界面活性剤を添加するとともに、モノマー重合の開始剤と触媒を添加して機械的な撹拌をしてつくられた気泡含有スラリーを成形型に流し込み作製した成型品を乾燥・焼成して行うゲルキャスティング法を用いたセラミック多孔体の製造方法において、前記スラリーを入れる円筒状の気泡導入容器の略中央にその中心が位置する様に配設した2軸の回転ビーターを組み合わせた起泡回転装置と気泡導入容器を載置し回転させる容器回転装置とを設けるとともに、前記気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置で回転ビーターを回転させて行うと同時に、前記容器回転装置で気泡導入容器を回転させるようにしてある。
【0023】
そして、気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置で回転ビーターを回転させて行うようにしてあるので、2軸の回転ビーターの重なり合う回転の流れの衝突によって、スラリーに多く気泡が取り込まれ、効率よくスラリーに気泡の導入されて、気孔径を小さく高い気孔率を得ることができるようになる。
【0024】
また、同時に、前記容器回転装置で気泡導入容器を回転させるようにしてあるので、気泡導入容器の内壁近傍は、スラリーの慣性によってスラリーの剪断流が起こり、澱みにくくなり付着されるとともに、2軸の回転ビーターの中間となる位置が気泡導入容器の回転によって、常に移動しているため、スラリーの凝縮が発生したとしても、大きく成長することもなくすことができ、高品位のセラミック多孔体を得ることができる。
【0025】
第2の発明によるセラミック多孔体の製造方法は、特に、第1の発明の気泡導入を行う機械的な撹拌は、開始時に回転装置の2軸の回転ビーターの回転を少なくとも低い第1回転数で所定時間保持した後に、第1回転数より高い第2回転数で気泡導入を行うようにしてある。
【0026】
そして、界面活性剤はスラリーの比重の約半分以下であり混ざりにくく、浮いてしまい、気泡導入開始時に飛び散って界面活性剤が気泡導入容器の内壁に付着するとその部分が核となってスラリーの凝縮が生じやすいが、調製したスラリーに界面活性剤を添加して回転ビーターの回転を少なくとも低い第1回転数で所定時間保持して気泡導入を開始するようにしてあるので、界面活性剤が飛び散らずに気泡導入容器の内壁に付着することが抑制されるとともに、ゆっくりとスラリーに混ざりながら気泡導入され、スラリーと界面活性剤の分散不良によるスラリーの凝縮が抑制されるようになる。
【0027】
第3の発明による容器回転装置は、2軸の回転ビーターの中心を軌跡の中心として所定の距離離れて回転させる公転手段と気泡導入容器の中心を中心として回転させる自転手段を組み合わせ、回転ビーターに対し、気泡導入容器を自転と公転を組み合わせた回転を行うようにしてある。
【0028】
そして、容器回転装置は、回転ビーターに対し、気泡導入容器を自転と公転を組み合わ
せた回転を行うようにしてあるので、回転ビーターと気泡導入容器内壁が近い部分が移動しながら回転するので、第1の発明によるスラリーの凝縮とその成長の抑制の効果に加え、気泡導入容器の内壁のスラリーの凝縮をかき取る効果が得られ、スラリーの凝縮が発生したとしても、より、成長することを抑制でき、高品位のセラミック多孔体を得ることができる。
【0029】
第4の発明は、第1〜3のいずれか一つの発明の製造方法で製造したセラミック多孔体であり、第5の発明は、第1〜3のいずれか一つの発明の製造方法で製造したセラミック多孔体を構造体に用いたものである。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1〜図3において、本実施の形態のセラミック成形体1の製造方法は、気泡含有スラリー7を調製する気泡含有スラリー7調製工程と、気泡含有スラリー7を成形型内に注入して成形したのち成形物を脱型して成形物を取り出す成形工程と、成形物を乾燥させるための乾燥工程と、成形物を酸化焼成するための焼成工程とを行うものである。
【0032】
まず、気泡含有スラリー7調整工程について説明する。
【0033】
本実施の形態の気泡含有スラリー7調整工程は、無機粉末と、水もしくは有機溶媒あるいはその両方と、ゲル化剤を用いてスラリー7を調整するスラリー調整工程と、スラリー7に起泡剤を添加するとともに気泡を導入する気泡導入工程とを有するものである。
【0034】
上記のスラリー調整工程は、炭化ケイ素粉末、酸化物系セラミック材料、水、ゲル化剤を混合することにより行われる。
【0035】
この混合は、ポットミル、ボールミル等により炭化ケイ素粉末等を粉砕しながら、炭化ケイ素の平均粒径が、1〜20μm程度になるまで行われる。
【0036】
また、無機粉末に対して炭化ケイ素は、65重量%〜85重量%混合されている。
【0037】
次に、酸化物形成材料として、アルミナ及び木節粘土の混合物を使用し、アルミナは、5重量%〜20重量%混合し、粘土鉱物は、5重量%〜20重量%混合する。
【0038】
なお、酸化物系セラミック材料としては、これらに限定されるものではなく、酸化焼成下、収縮挙動を伴いながら相互に焼き付く性質のあるものであればいかなるものであってもよい。
【0039】
次に、炭化ケイ素粉末、酸化物系セラミック材料粉末を混濁する媒体としては、水もしくは有機溶媒あるいはその両方が使用され、環境的には好ましくは水であるが、有機溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類等を使用する。
【0040】
また、セラミックスラリー7中には、セラミック粉末を均一に含有させるため、分散剤を加えてもよい。
【0041】
水もしくは有機溶媒あるいはその両方は、炭化ケイ素粉末及び酸化物系セラミック材料粉末100重量部に対して、25〜40重量部、特に、30〜35重量部加えられる。
【0042】
ゲル化剤としては、合成樹脂もしくは天然高分子等を用いることができ、合成樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかを使用することができ、特に、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂がよく、メタクリルアミド(有機モノマー)とメチレンビスアクリルアミド(架橋剤)を使用することが好ましい。
【0043】
このゲル化剤としては、炭化ケイ素粉末、酸化物系セラミック材料の粉末を分散してゲル化可能であるとともに、焼成工程において分解され気化するものであればいかなるものであってもよい。
【0044】
そして、ゲル化剤は、炭化ケイ素粉末及び酸化物系セラミック材料粉末100重量部に対して、5〜20重量部、特に、10〜15重量部加える。また、スラリー7には、公知の潤滑剤及び増粘剤を添加してもよい。
【0045】
そしてまた、スラリー調整後もしくはスラリー調整工程中において減圧脱気することが好ましい。
【0046】
次に、スラリー7に起泡剤を添加するとともに気泡を導入する気泡導入工程について説明する。
【0047】
気泡導入工程は、スラリー7に界面活性剤、タンパク質系起泡剤等の起泡剤を添加して機械的な攪拌することにより行われる。
【0048】
この機械的な撹拌は、図3に示すように、スラリー7を入れる円筒状の気泡導入容器8の略中央にその中心が位置する様に配設した2軸の回転ビーター9aを組み合わせた起泡回転装置9と、気泡導入容器8を載置し回転させる容器回転装置10を設けるとともに、気泡導入を行う機械的な撹拌は、起泡回転装置9で回転ビーター9aを回転させて行うと同時に、容器回転装置10で気泡導入容器8を回転させるようにしてある。
【0049】
また、容器回転装置10は、2軸の回転ビーター9aの中心を軌跡の中心として所定の距離離れて設けた公転中心11aを中心に回転させる公転手段11と、気泡導入容器8の中心8aを同軸の中心12aとして回転させる自転手段12を組み合わせ、回転ビーター9aに対し、気泡導入容器8を自転と公転を組み合わせた回転を行うようにしてある。
【0050】
気泡導入について詳述すると、まず、気泡導入容器8にスラリー7を所定量7a位置まで入れ、つぎに、界面活性剤、タンパク質系起泡剤等の起泡剤を添加した後、容器回転装置10に載置する。
【0051】
次に、容器回転装置10で載置した気泡導入容器8を回転させるとほぼ同時に2軸の回転ビーター9aの回転を低い第1回転数で所定時間保持した後に、第1回転数より高い第2回転数にして気泡導入を行う。
【0052】
これにより、スラリー7に雰囲気の気体が取り込まれ、スラリー7内に微細な気泡となってスラリー7の容積を増やしていき、ついには、スラリー7が2軸の回転ビーター9aの上面まで覆い尽くし2軸の回転ビーター9aの上位置7bまで到達するようになり、この状態で、安定して気泡が形成されるように、2軸の回転ビーター9aの回転を所定時間保持することで、気泡含有スラリー7が作製される。
【0053】
この気泡含有スラリー7の気泡導入量で、最終のセラミック多孔体1の気孔率、密度が決定され、これは、気泡導入容器8にスラリー7を入れる量、スラリー7の粘度、2軸の回転ビーター9aの位置、2軸の回転ビーター9aの回転数や時間、界面活性剤、タンパ
ク質系起泡剤等の起泡剤を添加量で調整される。
【0054】
ここで、気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置9で回転ビーター9aを回転させて行うようにしてあるので、2軸の回転ビーター9aの重なり合う回転の流れの衝突によって、スラリー7に多く気泡が取り込まれ、効率よくスラリー7に気泡の導入されて、気孔径を小さく高い気孔率を得ることができるようになる。
【0055】
また、同時に、前記容器回転装置10で気泡導入容器8を回転させるようにしてあるので、気泡導入容器8の内壁近傍は、スラリー7の慣性によってスラリー7の剪断流が起こり、澱みにくくなり付着するされるとともに、2軸の回転ビーター9aの中間となる位置が気泡導入容器8の回転によって、常に移動しているため、スラリー7の凝縮が発生したとしても、大きく成長することもなくすことができ、高品位のセラミック多孔体を得ることができる。
【0056】
また、容器回転装置10は、回転ビーター9aに対し、気泡導入容器8を自転と公転を組み合わせた回転を行うようにしてあるので、回転ビーター9aと気泡導入容器8内壁が近い部分が移動しながら回転するので、スラリー7の凝縮とその成長の抑制の効果に加え、気泡導入容器8の内壁のスラリー7の凝縮をかき取る効果が得られ、スラリー7の凝縮が発生したとしても、より、成長することを抑制でき、高品位のセラミック多孔体を得ることができる。
【0057】
そしてまた、気泡導入容器8の内壁のスラリー7の凝縮をかき取るような回転刃を有する回転装置を用いると、構造が複雑になり掃除などのメンテが大変になるうえに、気泡導入容器8の内の回転刃の死角や気泡導入容器8とのクリアランスに不均一を生じてしまうが、容器回転装置10を用いると、気泡導入容器8を容器回転装置10の受け皿の部分に載置するだけでよく、気泡導入容器8内には、装置が回転ビーター9aしかないため、狭隘部や死角がないので、スラリー7の不均一な部分を生じやすい部分がなく、さらに、回転ビーター9aを上方へ上げるだけで、切り離しが簡単にでき、掃除などのメンテがやりやすくなる。
【0058】
さらに、界面活性剤はスラリー7の比重の約半分以下であり混ざりにくく、浮いてしまい、気泡導入開始時に飛び散って界面活性剤が気泡導入容器8の内壁に付着するとその部分が核となってスラリー7の凝縮が生じやすいが、調製したスラリー7に界面活性剤を添加して回転ビーター9aの回転を少なくとも低い第1回転数で所定時間保持して気泡導入を開始するようにしてあるので、界面活性剤が飛び散らずに気泡導入容器8の内壁に付着することが抑制されるとともに、ゆっくりとスラリー7に混ざりながら気泡導入され、スラリー7と界面活性剤の分散不良によるスラリー7の凝縮が抑制されるようになる。
【0059】
尚、この攪拌は、窒素雰囲気化にて行うことが好ましく、具体的に、スラリー7に開始剤、触媒、界面活性剤を所定量添加し、窒素雰囲気中で、2軸の回転ビーター9aにより、最終的な気泡導入量が20〜70%となるように数分間攪拌調整する。
【0060】
気泡導入工程によりスラリー7中に導入された気泡は、成形工程、乾燥工程、焼成工程後に、図2に示すように複数の気孔4となる。
【0061】
次に、気泡含有スラリー7を成形型内に注入して成形するゲルキャスティング法により行われる成形工程について説明する。
【0062】
まず、気泡導入工程で準備した気泡含有スラリー7を成形型内に流し込み、一定時間が経過してスラリー7がゲル化(固化)した後、ゲル化したセラミック多孔体1となる成形
物を成形型7から取り出す。
【0063】
このようにして、スラリー7が固化すると、スラリー7中に存在していた気泡も、ゲル状体中に保存される。
【0064】
この結果、固化体が多孔質となり、ゲル状多孔質成形体が得られる。これを脱型して、次の乾燥、脱脂、焼成する。
【0065】
次に、セラミック多孔体1となる成形物を乾燥させるための乾燥工程を行う。乾燥工程は、ゲル状多孔質成形体中に含まれている水、溶媒を蒸発させるように行う。
【0066】
乾燥条件(温度、湿度、時間等)は、スラリー7調製に用いた溶媒の種類とゲル状多孔質成形体の骨格部分を構成する成分(ゲル化剤あるいは重合体)によって適宜調整する。また、乾燥工程においてセラミック多孔体1となる成形物の寸法は、乾燥前セラミック多孔体1となる成形物の寸法(成形型7の寸法)より収縮する。
【0067】
成形型7から取り出されたセラミック多孔体1となる成形物は、湿度調整しながら40〜100hr間乾燥する。乾燥温度としては、15〜50℃、特に、25〜40℃であることが好ましく、乾燥工程の湿度としては、特に、40〜95%であることが好ましい。
【0068】
次に、乾燥させたセラミック多孔体1となる成形物を酸化焼成する焼成工程について説明する。
【0069】
焼成温度は、炭化ケイ素、酸化物系セラミック材料の融点より低い温度で行われる。具体的に、焼成温度は、1000℃〜1600℃、特に、1200℃〜1400℃で行うことが好ましい。
【0070】
焼成時間は、1.5〜2.5hrであることが好ましい。焼成することにより、上述したゲル化剤、ゲル化促進剤、触媒、水は分解もしくは気化し、図1に示すセラミック成形体1が作製される。
【0071】
このようにして作製されたセラミック成形体1は、セラミックマトリックスを形成するセラミック粒子間により形成された微細気孔5を有している。
【0072】
また、セラミックマトリックスは、図2に示すように、気孔4同士が隣接する部位に形成された中気孔6を有している。
【0073】
上記微細気孔5は、表面が酸化されて酸化ケイ素の膜で覆われた炭化ケイ素2、酸化物系セラミック材料粒子3の粒子間に形成された空孔である。微細気孔5は、気孔4もしくは外部と連通する平均孔径0.1〜5μmの開気孔あるいは孤立した閉気孔として形成されている。
【0074】
そして、セラミックマトリックス中には、表面が酸化されて酸化ケイ素の膜で覆われた炭化ケイ素粒子3が主に充填されており、その周囲にアルミナ粒子及び粘土粒子からなる酸化物系セラミック材料粒子3が分散していて、粒子間に微細気孔(空隙)6が存在する。
【0075】
また気孔4は、セラミックマトリックス内に形成されていて、セラミックマトリックス内に形成された外部と連通しない閉気孔、もしくは外部と連通する開気孔として形成されている。
【0076】
気孔4の形状としては、気泡から形状を形成するため、略球形、略楕円球形状等となっている。
【0077】
さらに中気孔6は、図2に示すように、気孔4を構成するマトリックス内壁において開口しており、隣接する気孔同士を連通するチャンネルとして形成されていて、中気孔6が形成されていることにより、気孔4は複数連通するものとなっている。
【0078】
ここで、該セラミック成形体1の強度は、セラミックマトリックスを形成する構造ができるだけ均一であることが望ましく、気泡導入時に気泡を均一に細かく導入することで、セラミックマトリックスにより形成された複数の気孔4が小気孔径でかつ気孔径分布を狭くすることができ、高い曲げ強度を有するように構成できるようになる。
【0079】
したがって、該セラミック成形体1は、高気孔率を維持しつつ小気孔径かつ気孔径分布が狭くすることで、高い曲げ強度を有するように構成できる。
【0080】
このようにして、作製されたセラミック成形体1は、高気孔率を維持しつつ高い曲げ強度を有するため、外径を加工した後、スライスして円盤状にすることが可能で、高気孔率の必要なセンサーやフィルター等の構造体の一部に用いられるようになる。
【0081】
尚、本実施の形態の容器回転装置10は気泡導入容器8を自転と公転を組み合わせた回転を行うようにしたもので説明したがこれは自転と公転のどちらか一方でもよく、また、撹拌は、開始時に回転装置の2軸の回転ビーター9aの回転を少なくとも低い第1回転数で所定時間保持した後に、第1回転数より高い第2回転数で気泡導入を行うように説明したが、これは、開始時に回転装置の2軸の回転ビーター9aの回転を徐昇させていってもよく、さらにスラリー7に別の手段で界面活性剤、タンパク質系起泡剤等の起泡剤を予め混合してもよく、その他各部の構成も本発明の目的を達成する範囲であればその構成はどのようなものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明にかかるセラミック多孔体の製造方法とそれを用いて作製したセラミック多孔体は、高気孔率を維持しつつ高い強度を有し、スライスして円盤状にすることなどの加工ができるので、センサーやフィルター等の構造体の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1におけるセラミック成形体の構造図
【図2】本発明の実施の形態1における同セラミック成形体の要部拡大断面拡大図
【図3】本発明の実施の形態1におけるスラリーに気泡導入するときの構成図
【符号の説明】
【0084】
1 セラミック成形体
8 気泡導入容器
9 起泡回転装置
9a 2軸の回転ビーター
10 容器回転装置
11 公転手段
12 自転手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉体と有機モノマーを含むスラリーを調製し、前記スラリーに界面活性剤を添加するとともに、モノマー重合の開始剤と触媒を添加して機械的な撹拌をしてつくられた気泡含有スラリーを成形型に流し込み作製した成型品を乾燥・焼成して行うゲルキャスティング法を用いたセラミック多孔体の製造方法において、前記スラリーを入れる円筒状の気泡導入容器の略中央にその中心が位置する様に配設した2軸の回転ビーターを組み合わせた起泡回転装置と気泡導入容器を載置し回転させる容器回転装置とを設けるとともに、前記気泡導入を行う機械的な撹拌は、前記起泡回転装置で回転ビーターを回転させて行うと同時に、前記容器回転装置で気泡導入容器を回転させるセラミック多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記気泡導入を行う機械的な撹拌は、開始時に回転装置の2軸の回転ビーターの回転を少なくとも低い第1回転数で所定時間保持した後に、第1回転数より高い第2回転数で気泡導入を行うようにした請求項1に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記容器回転装置は、2軸の回転ビーターの中心を軌跡の中心として所定の距離離れて回転させる公転手段と気泡導入容器の中心を中心として回転させる自転手段を組み合わせ、回転ビーターに対し、気泡導入容器を自転と公転を組み合わせた回転を行う請求項1または2に記載のセラミック多孔体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法で作製したセラミック多孔体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法で作製したセラミック多孔体を用いた構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84123(P2009−84123A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258271(P2007−258271)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】