説明

セラミック組成物及び金属構造物の防錆方法

【課題】複数種類の膜を用いることなく防錆が可能であり、補修の手間と費用を低減でき、また、環境への悪影響を防止できる防錆用のセラミック組成物と、それを用いた金属構造物の防錆方法を提供すること。
【解決手段】酸化マグネシウム40wt%、リン酸二水素カリウム26wt%、二酸化珪素12wt%、焼成カオリン10wt%、酸化アルミニウム7wt%、酸化鉄III3wt%、酸化カルシウム1.9wt%、ポリエステル繊維0.1wt%で構成されたセラミック組成物に対して、15wt%の水を添加し、混練して、スラリーを形成する。スラリーを被防錆面にスプレーガンで塗布し、セラミック膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼製橋梁等の金属構造物に対し、金属部材の防錆に用いられるセラミック組成物と、それを用いた金属構造物の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の鋼構造物には、鋼製部材の腐食を防止するため、防食塗装が施されている。従来、鋼構造物に施される防食塗装としては、ブラスト処理を行った構造物の表面にジンクリッチ塗料によって亜鉛系防錆膜を形成し、この防錆膜上に、エポキシ樹脂系塗料やウレタン樹脂系塗料によって有機塗装膜を形成したものが知られている。この種の防食塗装が適用される鋼構造物では、海水の飛沫に曝される等の腐食環境に設置される場合、亜鉛系防錆膜の上に、下塗り、中塗り膜及び上塗り膜等の複数の有機塗装膜を設けている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−137683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の防錆塗装は、亜鉛系防錆膜及び有機塗装膜を含む複数の膜で形成されるので、塗装作業に多大な手間がかかる問題がある。
【0005】
また、上記従来の防錆塗装は、有機塗装膜が経年変化により劣化し、付着力が低下して剥離しやすい。有機塗装膜の剥離が生じると、残留した有機塗装膜及び亜鉛系防錆膜を除去した後、新たな亜鉛系防錆膜と有機塗装膜を含む複数の膜を形成して、補修を行う必要がある。したがって、防錆塗装の補修に多大な手間と費用がかかり、鋼構造物の維持管理費用を増大させる大きな要因となっている。
【0006】
また、上記従来の防錆塗装は、亜鉛系防錆膜を形成するジンクリッチ塗料の有機溶剤が環境に悪影響を与えるという問題がある。ジンクリッチ塗料が水性である場合には、亜鉛成分が水との接触により水素ガスを発生する問題がある。さらに、ジンクリッチ塗料は、バインダーとしてクロム酸を含む場合が多く、クロムの溶出により環境に悪影響を与える問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、複数種類の膜を用いることなく防錆が可能であり、補修の手間と費用を低減でき、また、環境への悪影響を防止できる防錆用のセラミック組成物と、それを用いた金属構造物の防錆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のセラミック組成物は、金属構造物の防錆に用いられるセラミック組成物であって、リン酸塩系セラミックを主成分とすることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、リン酸塩系セラミックを主成分とするセラミック組成物は、金属の表面に高い付着力で付着すると共に、強固で緻密な組織を形成するので、金属を気密かつ液密に保持することができる。したがって、上記セラミック組成物を含んだセラミック膜を金属の被防錆面に形成するのみにより、従来のように、ジンクリッチ塗料による亜鉛系防錆膜と樹脂系塗料による有機塗装膜を形成することなく、金属の防錆を行なうことができる。したがって、従来よりも大幅に少ない手間により、金属構造物の防錆を行なうことができる。
【0010】
また、上記セラミック膜のみによって金属構造物の防錆を行なった場合、セラミック膜が劣化しても、単一種類であるセラミック膜のみを補修すればよい。したがって、亜鉛系防錆膜と有機塗装膜で防錆を行なうよりも、補修の手間を大幅に低減できる。また、上記セラミック膜は、収縮が少ないのでひび割れが生じにくく、また、耐酸性及び耐塩基性が高いので劣化しにくい。したがって、腐食環境においても高い耐久性を有し、補修の頻度を低減できる。このように、上記セラミック膜は、補修の手間と頻度を低減できるので、従来よりも補修費用を効果的に低減できる。
【0011】
また、リン酸塩系セラミックを主成分とするセラミック組成物は、安定であり、また、セラミック膜を形成する際に有機溶剤が不要である。したがって、従来の亜鉛系防錆膜を用いる場合のような、有機溶剤の拡散や、水素の発生や、クロムの溶出による環境への悪影響を防止できる。
【0012】
ここで、本発明において、金属構造物とは、例えば鋼等の金属製の部材を用いて、主に土木技術又は建築技術により構築される構造物をいう。例えば、SS400やSM400等の構造用鋼材を用いた橋梁の上部工、下部工、基礎工及び付属工、トンネル、ダム、擁壁、ケーソン、鉄塔、水槽、タンク、沿岸構造物並びに土留め等の仮設構造物を含む土木構造物や、ビルディング等の建築構造物や、これらの付帯構造物が該当する。なお、金属構造物は、鋼に限られず、アルミニウムや銅等の他の金属で形成された部材や、ステンレスや真鍮等の合金で形成された部材を用いて構築されたものが広く該当する。また、金属構造物は、全部が金属で形成されている必要はなく、防錆対象となる金属部材を一部に有する構造物が広く該当する。
【0013】
一実施形態のセラミック組成物は、酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含む。
【0014】
上記実施形態によれば、酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含むセラミック組成物は、水と混合されて高い流動性を発揮し、他の物質との密着性と付着力が高い上に、速い硬化速度を有する。したがって、水に混合された上記セラミック組成物は、容易に被防錆面に塗布され、迅速にセラミック膜を形成するので、良好な施工性で防錆作業を行うことができる。
【0015】
また、上記セラミック組成物は、金属構造物の被防錆面に水や塩が存在しても、高い付着力で密着できる。したがって、例えば、雨水や、河川水や、海水が存在する環境下でも、上記セラミック組成物を被防錆面に塗布して強固なセラミック膜を形成でき、安定して防錆効果を発揮させることができる。
【0016】
一実施形態のセラミック組成物は、20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含む。
【0017】
上記実施形態によれば、上記セラミック組成物は、添加する水の量と環境温度に応じて、硬化速度を5分〜15分にできる。
【0018】
一実施形態のセラミック組成物は、30wt%以下のカオリナイトが添加されている。
【0019】
上記実施形態によれば、各特性値を低下させることなく、添加物としてカオリナイトを用いることができる。
【0020】
一実施形態のセラミック組成物は、40wt%の酸化マグネシウムと、26wt%のリン酸二水素カリウムと、12wt%の二酸化珪素と、10wt%のカオリナイトと、7wt%の酸化アルミニウムと、3wt%の酸化鉄IIIと、1.9wt%の酸化カルシウムと、0.1wt%のポリエステル繊維を含む。
【0021】
上記実施形態によれば、上記セラミック組成物を用いることにより、硬化速度が速く、金属構造物の被防錆面に対する密着性と付着力の高いセラミック膜を形成できる。
【0022】
本発明の金属構造物の防錆方法は、上記セラミック組成物に水を添加し、混練してなるスラリーを、金属構造物の被防錆面に配置することを特徴としている。
【0023】
上記実施形態によれば、セラミック組成物に水を添加し、混練してなるスラリーは、流動性を高くできて良好な施工性で被防錆面に塗布でき、しかも、硬化速度が高速であるので、養生期間を大幅に短縮できる。
【0024】
一実施形態の金属構造物の防錆方法は、上記スラリーを、吹き付けによって被防錆面に配置する。
【0025】
上記実施形態によれば、セラミック組成物を吹き付けによって被防錆面に配置することにより、塗布作業を短時間で行うことができる。
【0026】
一実施形態の金属構造物の防錆方法は、上記被防錆面に、既存の塗装膜が残存している。
【0027】
上記実施形態によれば、既存の塗装膜として、例えばジンクリッチ塗料による亜鉛系防錆膜や樹脂系塗料による有機塗装膜が残存している場合、セラミック組成物は亜鉛系防錆膜や有機塗装膜に高い付着力で付着するので、既存の塗装膜の表面に、セラミック組成物を含むスラリーを配置することにより、金属構造物の防錆を問題なく行なうことができる。したがって、既存の塗布膜を除去することなく、少ない手間で金属構造物の防錆を行なうことができる。
【0028】
一実施形態の金属構造物の防錆方法は、上記被防錆面に、既存の錆が残存している。
【0029】
上記実施形態によれば、金属構造物の被防錆面には、錆びが残存している場合がある。ここで、セラミック組成物は、金属の錆びに高い付着力で付着するので、錆びが残存した状態の被防錆面に、セラミック組成物を含むスラリーを配置することにより、被防錆面の金属と錆びの両方に強固に付着するセラミック膜を形成できる。また、セラミック膜の水密性及び気密性により、被防錆面の金属の錆びの進行を止めることができる。その結果、既存の錆びを除去することなく、少ない手間で金属構造物の防錆を行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
(第1実施形態)
本実施形態では、防錆を行うセラミック膜を形成するため、リン酸塩系セラミックを主成分とするセラミック組成物に水を添加し、混練してスラリーを形成する。セラミック組成物は、酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含む。
【0032】
特に、セラミック組成物は、20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含むものを用いるのが好ましい。上記セラミック組成物に対して、15〜23wt%の水分比となる水を混合するのが好ましい。これにより、スラリーの流動性を、JIS
K−5400ストーマー粘度計法にて測定した粘度で80〜100KUとすることができる。
【0033】
本発明のセラミック組成物は、酸化マグネシウムとリン酸二水素カリウムが、水の混合により、下記の化学式(1)の反応でリン酸カリウムマグネシウム6水和物を形成し、セラミック部材の主要な特性を発揮する緻密かつ高強度の固体を形成する。
MgO+KHPO+5HO→MgKPO・6HO・・・(1)
【0034】
なお、セラミック組成物には、全重量に対して、0.1から30wt%の添加物を添加することができる。添加物としては、例えば、フィラー、骨材、顔料、着色剤、繊維、シリカヒューム微粉末、カオリナイト、繋ぎ用ポリマ、乳化剤、凝集防止剤を用いることができる。
【0035】
(実施例1)
ケイ酸カルシウム36wt%、リン酸二水素カリウム34wt%、酸化マグネシウム30wt%のセラミック組成物を、32重量部の細骨材に対して18重量部の割合で混合してドライミックスを形成した。セラミック組成物として、株式会社イーグル・ヴィジョン製のEagle8シリーズを用いた。なお、米国グランクリート社のグランクリートシリーズを用いることもできる。更に、ドライミックスに対して、20wt%の水分比となる水を添加し、混練して、スラリーを形成した。このスラリーは、粘度が85KUとなり、金属部材としての鋼板への塗布を、スプレー及び刷毛のいずれで行なうことも可能であった。また、スラリーが硬化してなるセラミック膜は、3日強度で55.16N/mmの圧縮強度が得られると共に、鋼板に対して十分な付着力を発揮することが確認できた。
【0036】
(実施例2)
酸化マグネシウム40wt%、リン酸二水素カリウム26wt%、二酸化珪素12wt%、焼成カオリン10wt%、酸化アルミニウム7wt%、酸化鉄III3wt%、酸化カルシウム1.9wt%、ポリエステル繊維0.1wt%で構成されたセラミック組成物に対し、15wt%の水を添加し、混練して、スラリーを形成した。このスラリーは、3日強度で72.96N/mmの圧縮強度が得られると共に、鋼板に対して十分な付着力を発揮することが確認できた。
【0037】
(第2実施形態)
本実施形態では、試験片を用いて、スラリー及びセラミック膜の付着性に関する試験を行う。
【0038】
試験片は、短辺が20cm、長辺が50cmかつ厚みが6mmであり、SS400の鋼板で形成されたものを用いる。この試験片の表面にスラリーを塗布し、スラリーの付着状態と、スラリーが硬化してなるセラミック膜の付着力とを確認する。
【0039】
(スラリーの付着性試験1)
第1実施形態のセラミック組成で形成したスラリーを、錆びの存在しない試験片と、錆びの存在する試験片とに塗布して、スラリーの付着性の確認と比較を行う。
【0040】
錆びの存在する試験片は、塩水を試験片に噴霧し、数日放置することにより、表面に錆びを形成する。こうして作成した錆びの存在する試験片と、錆びの存在しない試験片の表面に、スプレーガンでスラリーを吹き付ける。
【0041】
スラリーは、実施例2のセラミック組成物を用いて作成する。すなわち、酸化マグネシウム40wt%、リン酸二水素カリウム26wt%、二酸化珪素12wt%、焼成カオリン10wt%、酸化アルミニウム7wt%、酸化鉄III3wt%、酸化カルシウム1.9wt%、ポリエステル繊維0.1wt%で構成されたセラミック組成物に対し、15wt%の水を添加し、混練して作成する。セラミック組成物と水の混練は、密閉したケーシング中に攪拌羽根が設けられた攪拌装置で行う。上記攪拌装置から、ポンプ装置によってスラリーを圧送管で圧送し、圧送管の先端に接続されたスプレーガンのノズルから、試験片の表面に向けてスラリーを噴射する。こうして、試験片の表面に、吹き付けによってスラリーを塗布する。
【0042】
錆びの存在する試験片と、錆びの存在しない試験片とについて、夫々に塗布したスラリーの状態を比較したところ、いずれの試験片も同様に、付着不良を生じることなくスラリーが塗布されたことが確認された。
【0043】
(スラリーの付着性試験2)
スラリーの付着性試験1と同じスラリーを、水が塗布面に残留する試験片と、塗布面が乾燥した試験片とに塗布して、スラリーの付着性を確認する。
【0044】
水が塗布面に残留する試験片は、錆びの存在しない試験片に水を噴霧し、表面に水を付着させて形成する。付着させた水が残留した状態で、試験片にスプレーガンでスラリーを吹き付ける。一方、塗布面が乾燥した試験片については、錆びが存在せず、水を付着させていない試験片の表面に、スプレーガンでスラリーを吹き付ける。
【0045】
水が塗布面に残留する試験片と、塗布面が乾燥した試験片とについて、夫々に塗布したスラリーの状態を比較したところ、いずれの試験片も同様に、付着不良を生じることなくスラリーが塗布されたことが確認された。
【0046】
(セラミック膜の付着性試験)
スラリーの付着性試験1,2によるスラリーの塗布から3日を経た後、スラリーが硬化してなるセラミック膜を鋼製ハンマーで叩いて付着性の比較を行う。
【0047】
その結果、錆びの存在する試験片と、錆びの存在しない試験片とのいずれについても、セラミック膜の剥がれが生じなかった。したがって、錆びの存在する鋼の被防錆面に、錆びの存在しない鋼の被防錆面と同等の付着力のセラミック膜を形成でき、いずれの被防錆面についても錆びの進行を抑制できるといえる。
【0048】
また、水が塗布面に残留する試験片と、塗布面が乾燥した試験片とのいずれについても、セラミック膜の剥がれが生じなかった。したがって、水が残留する鋼の被防錆面にスラリーを配置してセラミック膜を形成しても、乾燥した鋼の被防錆面にセラミック膜を形成した場合と同等の付着力を得ることができ、いずれの被防錆面についても錆びの進行を抑制できるといえる。
【0049】
以上の試験結果から、本実施形態のセラミック組成を用いることにより、例えば橋梁の上部工の桁端部等のような腐食環境となりやすい被防錆面に対して、水が残留した状態でも良好にスラリーを塗布することができ、また、十分な付着力を有するセラミック膜を形成して防錆効果を奏することができるといえる。また、錆びが残存した被防錆面に対して、良好にスラリーを塗布することができ、また、十分な付着力を有するセラミック膜を形成して防錆効果を奏することができるといえる。
【0050】
したがって、本実施形態のセラミック組成を用いることにより、橋梁の上部工等の金属構造物に、被防錆面の乾燥工程やブラスト工程を行うことなく、少ない工程により、セラミック膜を形成して防錆を行なうことができる。また、金属構造物が新設であるか既設であるかに関わらず、いずれの金属構造物についても、十分な付着力を有するセラミック膜を形成して防錆を行なうことができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、上記セラミック組成を用いた単一種類のセラミック膜を形成することにより、金属構造物の防錆を行うことができる。したがって、従来のように、亜鉛系防錆膜や有機塗装膜等の複数の膜を形成する必要が無いので、従来よりも大幅に少ない手間によって金属構造物の防錆を行なうことができる。
【0052】
なお、本実施形態によれば、橋梁の上部工の桁端部以外に、上部工の他の部分や、橋梁の下部工や、基礎工や、付属工等についても本発明を適用することができる。また、橋梁に限らず、トンネル、ダム、擁壁、ケーソン、鉄塔、水槽、タンク、沿岸構造物並びに土留め等の仮設構造物を含む他の土木構造物にも本発明を適用することができる。また、ビルディング等の建築構造物や、これらの付帯構造物にも本発明を適用することができる。
【0053】
また、錆びの残存する被防錆面に限らず、例えば亜鉛系防錆膜や有機塗装膜等の既存の塗料膜が残存する被防錆面に対しても、セラミック組成物を用いたスラリーを塗布してセラミック膜を形成することができる。したがって、既存の塗布膜を除去することなく、少ない手間で金属構造物の防錆を行なうことができる。
【0054】
また、鋼に限らず、アルミニウムや銅等の他の金属で形成された部材や、ステンレスや真鍮等の合金で形成された部材を用いて構築された金属構造物に、本発明を適用することができる。また、金属構造物は、全てが金属で形成されている必要はなく、防錆対象となる金属部材を一部に有する構造物が広く該当する。
【0055】
上記各実施形態のセラミック組成を用いたセラミック膜は、補修においても、従来の防錆塗装よりも手間と費用を削減できる。すなわち、上記セラミック膜のみによって金属構造物の防錆を行なった場合、セラミック膜が劣化しても、単一種類であるセラミック膜のみを補修すればよい。したがって、亜鉛系防錆膜と有機塗装膜で防錆を行なうよりも、補修の手間を大幅に低減できる。また、上記セラミック膜は、収縮が少ないのでひび割れが生じにくく、また、耐酸性及び耐塩基性が高いので劣化しにくい。したがって、上記セラミック膜は、腐食環境においても高い耐久性を有し、補修の頻度を低減できるので、補修の手間と頻度を低減でき、従来よりも補修費用を効果的に低減できる。
【0056】
また、上記各実施形態のセラミック組成物は、安定であり、また、セラミック膜を形成する際に有機溶剤が不要である。したがって、従来の亜鉛系防錆膜を用いる場合のような、有機溶剤の拡散や、水素の発生や、クロムの溶出による環境への悪影響を防止できる。
【0057】
第2実施形態において、スラリーは、実施例2のセラミック組成物を用いて作製したが、実施例1のセラミック組成物を用いて作成してもよい。すなわち、ケイ酸カルシウム36wt%、リン酸二水素カリウム34wt%、酸化マグネシウム30wt%で構成されたセラミック組成物に、32重量部の細骨材に対して18重量部の割合で混合してドライミックスを形成し、このドライミックスに対して、20%の水分比となる水を添加し、混練してなるスラリーを用いることができる。すなわち、セラミック組成物は、酸化マグネシウムが20〜40wt%、リン酸二水素カリウムが25〜45wt%の範囲の割合で形成することができる。また、17〜35重量部の上記セラミック組成物に、混合物を混合して50重量部のドライミックスを形成し、このドライミックスに対して、15〜23%の水分比の水を混合することができる。また、ドライミックスは、必ずしも混合物は混合しなくてもよく、実施例2のように、セラミック組成物のみをドライミックスとしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造物の防錆に用いられるセラミック組成物であって、リン酸塩系セラミックを主成分とすることを特徴とするセラミック組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック組成物において、
酸化マグネシウム及びリン酸二水素カリウムを含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック組成物において、
20〜40wt%の酸化マグネシウムと、25〜45wt%のリン酸二水素カリウムを含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミック組成物において、
30wt%以下のカオリナイトが添加されていることを特徴とするセラミック組成物。
【請求項5】
請求項3に記載のセラミック組成物において、
40wt%の酸化マグネシウムと、26wt%のリン酸二水素カリウムと、12wt%の二酸化珪素と、10wt%のカオリナイトと、7wt%の酸化アルミニウムと、3wt%の酸化鉄IIIと、1.9wt%の酸化カルシウムと、0.1wt%のポリエステル繊維を含むことを特徴とするセラミック組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つのセラミック組成物に水を添加し、混練してなるスラリーを、金属構造物の被防錆面に配置することを特徴とする金属構造物の防錆方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属構造物の防錆方法において、
上記スラリーを、吹き付けによって被防錆面に配置することを特徴とする金属構造物の防錆方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の金属構造物の防錆方法において、
上記被防錆面に、既存の塗装膜が残存していることを特徴とする金属構造物の防錆方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の金属構造物の防錆方法において、
上記被防錆面に、錆びが残存していることを特徴とする金属構造物の防錆方法。

【公開番号】特開2010−209390(P2010−209390A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55773(P2009−55773)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(505413255)阪神高速道路株式会社 (46)
【出願人】(508061549)阪神高速技術株式会社 (20)
【出願人】(507311876)株式会社イーグル・ヴィジョン (4)
【Fターム(参考)】