説明

セリア−ジルコニア固溶体ゾル及びその製造方法

【課題】 自動車排ガス浄化用触媒用として貴金属等の触媒との均一混合性に優れ、高い助触媒機能を有する高分散性のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを提供する。
【解決手段】 動的光散乱法による平均粒子径が5〜100nmであるセリア−ジルコニア固溶体ゾルである。
この様なセリア−ジルコニア固溶体ゾルは、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合塩水溶液を塩基で共沈させたセリア−ジルコニアゲルを洗浄液の電気伝導度50mS/m以下となるまで洗浄した後、これをCeとZrのモル数の合計に対して0.2〜2.0(モル比)の塩酸又は硝酸で解膠することを特徴として製造することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガス浄化用触媒、殊に排ガス浄化用触媒の助触媒として用いられるセリア−ジルコニア固溶体を得るためのセリア−ジルコニア固溶体ゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境保全の高まりから自動車の排ガスに対する規制が益々強化される方向にある。現在、自動車の内燃機関から排出されるガスに含まれる未燃焼のHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)およびNOx(窒素酸化物)の3種の有害物質は、三元触媒と呼ばれるPt/Rh/Pdの貴金属表面上で無害なCO2(二酸化炭素)、H2O(水)、N2(窒素)に変換・浄化されている。この3種の有害物質を全て浄化するためには、HC及びCOを酸化し、NOxを還元するために酸化と還元を同時に行う必要があり、酸素分圧を調整する必要がある。そこで、セリウムはCe+3とCe+4の双方をとりうるため、外部の酸素分圧に応じて酸素の吸蔵と放出を行なう特性を有し、白金系の触媒に対する助触媒としてセリア即ち酸化セリウムが多用されている。一般に貴金属や助触媒等の触媒成分は、コージェライト製ハニカム上にスラリーとして流し込まれた後、乾燥、焼成工程を経て自動車排ガス浄化用触媒として使用されている。
【0003】
この自動車排ガス浄化用触媒は、他の化学工業で使用する触媒とは異なりエンジン始動直後の低温時から自動車が定速走行に入った高温時までの幅広い温度領域での機能発現が求められている。しかしながら、助触媒にセリアのみを添加してなる三元触媒では高温下でセリアの凝集・粒成長による比表面積の低下、貴金属のシンタリングが生じ触媒自体の性能が低下することが知られている。そこで、耐熱性の改善方法として1988年にセリアとジルコニア即ち酸化ジルコニウムとの固溶体が報告され、現在においてもその改良研究開発が進められている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
セリアにジルコニアを固溶させてなるセリア−ジルコニア固溶体粉末の製造方法としては、セリウムおよびジルコニウムの硝酸塩混合溶液中にアンモニア水を添加して共沈させた後、空気中1000℃程度で焼成する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。更には、セリウムおよびジルコニウムの混合塩溶液を酸化雰囲気中で噴霧加熱してセリア−ジルコニア固溶体粉末を得る方法などが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらセリア−ジルコニア固溶体粉末は一次粒子が凝集した二次粒子からなり、粉砕したとしても数ミクロンから数十ミクロンの比較的大きな粒子であり、貴金属等の触媒とは微視的には均一に混合し難い分散性が低いものである。従って、この様な触媒を高温度の排ガスに接触させたとしても浄化効率の低いものとなって、三元触媒の助触媒として適しているとは言い難い。
【0005】
一方、セリウムおよびジルコニウムの混合塩水溶液を同時並行的に加水分解することから得られる固溶体微粒子およびその製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この開示された技術によれば複合塩水溶液を100℃/168時間もしくは240℃/48時間での水熱処理を行い、その後、得られたゲル状生成物を遠心分離し、乾燥により分散性に優れた固溶体微粒子が得られることを報告している。当該文献には、水熱処理によって生じた固溶体を分散した状態のまま利用する旨の記載もあるが、このような状態の分散体の粒子径は小さく見積もっても数百ナノメートルであり、助触媒として分散性に優れたものとは言い難い。また、このような高温または長時間の水熱処理条件は工業的に不利であり、量産を踏まえた現実的な反応条件とは言い難い。
【0006】
以上のことから、容易に且つ経済的に製造でき、触媒上へ担持したときの分散性の優れた助触媒としての機能を発現する固溶体の開発が急務となっている。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−116741号
【特許文献2】特開平8−73221号
【特許文献3】特開2001−348223号
【非特許文献1】日本金属学会誌 第59巻(1995)第1237〜1246頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、現在適用されている自動車排ガス浄化用触媒の課題とするところは、貴金属等の触媒との均一混合性に優れ、高い助触媒機能を有する高分散性のセリア−ジルコニア固溶体を提供する材料開発にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これを解決する方法として、本発明者らは公知の手法により得られるセリア−ジルコニア共沈ゲルに一定量の酸を添加した後、熱処理することで極めて安定なセリア−ジルコニア固溶体ゾルが得られることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成したものである。
即ち、本発明は動的光散乱法による平均粒子径が5〜100nmであるセリア−ジルコニア固溶体ゾルとその製造方法に関する。更には、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1質量%時のヘイズ率が10%以下であるセリア−ジルコニア固溶体ゾルに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られるセリア−ジルコニア固溶体ゾルは、動的光散乱法による平均粒子径が5〜100nmであることが最大の特徴である。セリア−ジルコニア固溶体の改善の大きな目的は、粒子径が小さく比表面積の大きな固溶体粉末を得て、分散性をよくすることである。それによって担体上へ小さな粒子が均一に分散担持されることになり、高温でもセリアの凝集抑制が達成され、より浄化効率の高い触媒を得ることができる。よって、本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの平均粒子径は5〜100nmであり、明らかに既存の固溶体粒子に比較して微細な粒子である。
【0011】
このような本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを利用して担体に含浸担持させると、高い分散状態のまま担体上に固溶体ゾル粒子が付着することになる。ところで、本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルは、100℃程度の乾燥温度で乾燥したもののX線回析によれば非常に弱いセリア−ジルコニア固溶体のX線回折線を与える。即ち、ゾル粒子自体は、固溶体であるが結晶が充分に成長していない状態にある。しかし、たとえば300℃以上、好ましくは500℃で熱処理するとセリア−ジルコニア固溶体独自の結晶相、即ち回折パターンを示すようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明のゾルについて詳細に説明する。
本発明のゾルは、後述する動的光散乱法で測定される平均粒子径が5〜100nmの粒子が均一に分散したセリア−ジルコニア固溶体ゾルである。このようなゾルは比表面積が大きく、分散性が良好なことから触媒成分としては非常に好ましいものである。ところが、5nmを下廻る平均粒子径からなる超微細な粒子では粒子の表面積が非常に大きくなり過ぎるために濃度が高い場合はゾルが増粘し易くなり、もはや分散性が改善することによる効果は大きくなく、過剰な分散剤を必要とするなど、必ずしも効果的でない。一方、平均粒子径が100nmを超える大きな粒子のゾルでは、粒子が安定分散せず重力によって沈殿を生じるため好ましくない。また、このような沈降性の粒子は担体に担持する場合にも分散性の面から不均一になりやすく、所望の担持状態を得ることができない。このようなことから平均粒子径としては5〜100nm、好ましくは7〜50nm、より好ましくは10〜30nmが推奨される。
【0013】
更に、本発明のゾルは、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1質量%時のヘイズ率が10%以下であるセリア−ジルコニア固溶体ゾルである。即ち、ヘイズ率とは、ゾル溶液の濁りからゾル粒子の単分散の程度をしめすものであり、平均粒子径が5〜100nmの範囲内にあってもヘイズ率が10%を超えると分散性に優れたセリア−ジルコニア固溶体層を担体上に形成することができない。よって、本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの1質量%時のヘイズ率に関しては、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下が助触媒機能をより高めることができる。
【0014】
次いで、本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを構成するセリウムとジルコニウムの固溶組成に関しては、Ce/Zr(モル比)が20/80〜95/5の範囲で作成することができる。通常セリウムとジルコニウムのモル比は用途に応じて変更されるが、本発明のゾルは上記モル比の範囲内であれば問題なく製造することができる。
【0015】
本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの解膠剤としては塩酸又は硝酸が好ましく用いることができる。解膠剤の添加量に関しては、ゾルを構成する粒子の大きさにもよるが、ゾル中のCeとZrのモル数の合計に対して0.2〜2.0(モル比)含有するように添加すればよく、塩酸又は硝酸は単独で用いても良いし、塩酸と硝酸の両方を併用しても良い。工業的な利用を考慮し、固溶体が担持された後に触媒が加熱焼成されることを想定すると、焼成炉等に対する腐食性の低い硝酸で分散されたゾルがより汎用的である。また、本発明のゾルの濃度に関しては、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1〜30質量%の範囲内で用いることができ、この範囲内であれば、加熱濃縮や限外ろ過による濃縮により高濃度化しても濃度に応じて粘度が増加するだけで充分安定である。
【0016】
次に本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法について説明する。本発明の固溶体ゾルは、上述したようにその分散しているゾル粒子の平均粒子径が5〜100nmであることに特徴を有し、ゲルを特定の酸で解膠してゾル化することに特徴を有する。従って、ゾルの原料となるセリウムとジルコニウムが複合化されたゲルの作成方法そのものについては特段、制限されることなく、公知の方法を用いるができる。本発明で推奨する方法に関して述べれば、水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合塩水溶液を塩基で中和し、セリウムとジルコニウムが共沈したセリアージルコニアゲルを挙げることができる。
【0017】
水溶性セリウム塩としては、硝酸セリウム、塩化セリウムなどを例示することができる。また、水溶性ジルコニウム塩としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウムなどを例示することができる。更に本発明で用いる塩基としては、アンモニア、尿素、水酸化アルカリなどを例示することができる。この共沈法によるセリアージルコニアゲルの作成方法は古くから知られており、中和してゲルが生成するときにセリウムとジルコニウムが共存していれば塩基に混合塩水溶液を加えても良いし、混合塩水溶液に塩基を加えても良い。また、中和時の温度や中和の速度を変更することでゲルの性状を変化させることもできるが、いずれの場合でも本発明に使用できるゲルを得ることができる。ところで、このような中和による共沈によりゲルを作成するときには、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として10質量%以下の濃度で中和することが必要である。10質量%を超えて中和した場合、後段の酸による解膠時に十分にゲルが解膠しなかったり、多量の酸を必要としたり、また時には数百ナノメートル以上の粗大な粒子が発生することがある。後段の解膠工程を考慮すると、5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下で中和を行うことが好ましい。さて、このようにして共沈させたゲルは通常の乾燥、焼成を施すことで粉体状のセリア−ジルコニア固溶体が得られるが、乾燥、焼成時に平均粒子径が数ミクロン以上の粗大な粒子が生成することで利用上問題があることはいうまでもない。
【0018】
本発明において重要な点は、共沈させたセリア−ジルコニアゲル中の中和によって生成した副生塩類を洗浄により除去した後、酸で解膠することである。この副生塩類が多く残存すると後段のゾル化が充分進行しないか、所望するゾルを得ることができない。洗浄の目安としては、洗浄液の電気伝導度50mS/m以下、好ましくは30mS/m以下となるまで洗浄することが重要である。次いで、これをCeとZrのモル数の合計に対して0.2〜2.0(モル比)の塩酸又は硝酸を添加し加熱処理して解膠する。
【0019】
塩酸又は硝酸の添加量が0.2を下廻る場合は本発明の粒子径のゾルは得られず全体が粗大粒子からなるスラリー状を呈したり、部分的に粗大粒子を含んだゾルとなるため好ましくない。また2.0を超えて使用した場合は、もはや酸量を増加させることによる効果がなく、またセリウム及びジルコニウム成分が溶解し、所望する組成比率のセリアージルコニア固溶体が得られない。よって、ゾルの性状や経済性を考慮すると、好ましくはモル比0.3〜1.2の範囲の酸を用いて解膠することが望ましい。一方、塩酸又は硝酸を添加する方法としては特段限定されなく、高濃度の酸溶液をそのままゲルに添加しても良いし、希釈して添加しても良い。またそのときのゲルの濃度も特に制限はなく任意の濃度で酸を添加することができる。
【0020】
ゾル化のための加熱処理条件に関しては、用いる酸の種類や量によって特定できないが、加熱温度50〜200℃の範囲で1〜10時間加熱することで本発明のゾルを得ることができる。具体的に例示すれば、モル比1.0程度の硝酸を用いるときは、90℃で5時間程度の加熱でゾルを得ることができ、更に水熱条件下120℃では3時間程度でゾル化させることができる。
【0021】
ところで、固溶体組成がセリウムリッチな場合は、ゲルが上記の解膠条件においても、解膠し難く、更に高い温度や長時間の加熱を必要とする場合がある。このような場合は、ゲルに含まれるCe1モルに対して0.2モル以上の酸化剤を添加することで解膠を容易に行うことができる。本発明に用いる酸化剤としては、過酸化水素、オゾン、アジ化ナトリウム等のアジ化物、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等を例示することができる。しかし、これら酸化剤のうち、反応によって塩類が副生しないという点で過酸化水素又はオゾンを使用することが最も望ましい。酸化剤の添加方法としては、共沈ゲル生成時、例えば水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩の混合塩水溶液に添加しても良いし、生成した共沈ゲルに添加しても良く、また共沈ゲルに酸を添加した後に添加してもよい。
【0022】
このようにして得られた本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルはその後、150℃以下で乾燥することでセリア−ジルコニア固溶体ゾル用粉体とすることができる。本発明においてセリア−ジルコニア固溶体ゾル用粉体とは、その粉体を水に再び懸濁させたときに本発明の5〜100nmの平均粒子径を有するゾルに戻ることを意味する。乾燥粉体は80質量%以上のセリア−ジルコニア粒子を含むことになり、そのまま、あるいは少量の水に分散することによりさらに高濃度で使用することができる。
【0023】
乾燥方法としては噴霧乾燥、静置乾燥、気流乾燥など通常用いられる方法が採用できる。乾燥温度に関しては、ゾル粒子に吸着している塩酸や硝酸が遊離しない温度で乾燥することが重要である。よって、乾燥温度としては150℃以下が好ましい。
【0024】
次にオキシカルボン酸で安定化されたゾルについて説明する。本発明によるオキシカルボン酸で安定化されたゾルは、硝酸や塩酸を用いることができない場合に有用であり、特にアルカリ性のゾルが得られることが特徴である。即ち、本発明は、塩酸又は硝酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶ゾルに、そのゾルに含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比0.2〜2.0のオキシカルボン酸を添加した後、塩基でpHを7以上にすることを特徴とするオキシカルボン酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルに関する。
【0025】
以下、オキシカルボン酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法に関して、硝酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルを原料とした場合について詳述する。本発明の硝酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルに対して所定量のオキシカルボン酸を添加した後、塩基を添加してpHを7以上にすることで、先ず硝酸とオキシカルボン酸で分散したアルカリ性のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを得ることができる。本発明に用いるオキシカルボン酸の種類に関しては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が例示でき、殊にクエン酸やリンゴ酸が好ましい。一方、本発明に用いる塩基としては、水酸化アルカリ、アンモニア、アミン類のいずれでもよいが、水酸化アルカリはナトリウム、カリウム又はリチウムがゾル中に残存することから、一般的にアンモニアが工業的に好ましく利用することができる。オキシカルボン酸の量に関しては、硝酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルに含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比0.2〜2.0の範囲で添加でき、アンモニアの添加量に関しては、pHを7以上、好ましくは8〜10になるように添加すればよい。
【0026】
このようにして得られたゾルは硝酸とオキシカルボン酸を共に含んだ状態でも安定であるが、必要に応じて、更に限外ろ過等を用いて洗浄すれば硝酸が優先的に除去され、最終的にオキシカルボン酸のみで分散したゾルを得ることができる。上記方法で得られるゾルはアルカリ性で安定であり、用途、例えば他のアルカリ性原料と混合する場合、殊に有利に利用することができる。本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルをアルカリ型に変性する際のゾルの濃度に関しては、特段限定されないが、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として通常1〜30質量%の濃度で処理することができる。
【0027】
以上述べてきたように本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルは、アルミナゾル等と混合してコージェライト製ハニカム等に含浸してセリア−ジルコニア固溶体を担持した触媒を作成することができる。このようにして得られた触媒は、本発明のセリア−ジルコニア固溶体粒子の良好な分散性の結果、高温で処理された後でも高い効果を示す。発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの用途に関しては、自動車用触媒の他、工業用各種触媒や酸素センサー用材料等として使用することができる。
【0028】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。また、実施例中の限外濾過装置は、限外濾過膜として「ラボモジュール」型式SLP−1053(旭化成(株)製)を用いた。
【実施例】
【0029】
本発明のセリア−ジルコニア固溶体ゾル、易分散性粉体及びそれらの焼成品の物性は、以下の方法で測定した。
【0030】
(1)平均粒子径の測定
平均粒子径は、動的光散乱色粒度分布測定装置LB-500(堀場製作所(株)製)を用いて測定した。
(2)ヘイズ率の測定
ヘイズ率は、色差計COH-300A(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。測定条件としては、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1.0%に調整した試料を光路長1cmのガラスセルに入れて測定した。
(3)電気伝導度の測定
電気伝導度は、電気伝導度計CM-14P(TOA ELECTRON Ltd.製)を用いて測定した。
(4)X線回折の測定
X線回折は、X線回折装置 XRD-7000(島津製作所(株)製)を用いて測定した。
(5)保存安定性の試験
保存安定性の試験は、試料を50cc容サンプル瓶に入れて封入し、50℃の恒温槽で行なった。
【0031】
[実施例1]
1.0%アンモニア水4312gにCeO換算で1.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)5000g及びZrO換算で1.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)3580gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=50/50)を撹拌下で添加し、共沈ゲルを生成させた。次いで限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまでゲル中の塩化アンモニウムを除去し、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として2.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゲル溶液を得た。次いで、ゲル中に含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比で0.4の5.0%硝酸溶液を添加し、オートクレーブで120℃/3hの水熱処理を行ない、セリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。更に限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで濾過及び濃縮を行い、10.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。
得られたゾルは、平均粒子径16nm、電気伝導度0.5S/m、pH2.3、ヘイズ率は1.0%であった。また1ヶ月間での保存安定性は増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。
【0032】
得られたゾルを100℃で乾燥させてセリア−ジルコニア固溶体ゾル用粉体を得た。次いで、これを水中に再分散させることで再び元の10.0%のゾルを得ることができた。再分散によって得られたゾルの平均粒子径は17nmであった。尚、セリア−ジルコニア固溶体ゾル用粉体のX線回折パターンを図1に示す。図1から明らかなように本発明のゾルの100℃乾燥品は、弱いピークではあるがセリア−ジルコニア固溶体の回折パターンを示している。また、参考のため500℃及び1000℃での1時間熱処理後のX線回折は、図1に示すようにASTMカードNo.38−1436で示される明確なセリア−ジルコニア固溶体を示す回折パターンを示している。
【0033】
[実施例2]
2.0%アンモニア水溶液3742gにCeO換算で2.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)2500g及びZrO換算で2.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)4176gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=30/70)を撹拌下で添加し、共沈ゲルを生成させた。次いで限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまでゲル中の塩化アンモニウムを除去し、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として2.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゲル溶液を得た。次いで、ゲル中に含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比で0.56の5.0%塩酸溶液を添加し、オートクレーブで100℃/5hの水熱処理を行ない、セリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。更に限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで濾過及び濃縮を行い、10.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。
【0034】
得られたゾルは、平均粒子径13nm、電気伝導度0.4S/m、pH2.4、ヘイズ率は0.9%であった。また1ヶ月間での保存安定性は増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。このゾルを100℃で恒量になるまで乾燥した後、これを500℃で1時間熱処理した後のX線回折では、図2に示すようにASTMカードNo.38−1437とASTMカードNo.38−1436に近似した明確なセリア−ジルコニア固溶体を示す回折パターンを示している。
【0035】
[実施例3]
1.0%アンモニア水2952gにCeO換算で1.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)5000g及びZrO換算で1.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)1534gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=70/30)を撹拌下で添加し、共沈ゲルを生成させた。次いで限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまでゲル中の塩化アンモニウムを除去し、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として2.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゲル溶液を得た。次いで、ゲル中に含まれるCe1モルに対して1.0モルの35.0%過酸化水素を添加した。さらにCeとZrのモル数の合計に対してモル比で0.24の5.0%塩酸溶液を添加し、オートクレーブで100℃/5hの水熱処理を行ない、セリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。
次にこのゾルに、ゾル中に含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比で0.3の10.0%クエン酸溶液を添加し、更に3.0%アンモニア水を用いてゾルpH9.5にした後、限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで濾過及び濃縮を行い、10.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを得た。
【0036】
得られたゾルは、平均粒子径13nm、電気伝導度0.5S/m、pH8.2、ヘイズ率は0.2%であった。また1ヶ月間での保存安定性は増粘や沈殿物の発生もなく良好であった。このゾルを100℃で恒量になるまで乾燥した後、これを500℃で1時間熱処理した後のX線回折では、図2に示すようにASTMカードNo.28−271に近似した明確なセリア−ジルコニア固溶体を示す回折パターンを示している。
【0037】
[比較例1]
1.0%アンモニア水4312gにCeO換算で1.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)5000g及びZrO換算で1.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)3580gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=50/50)を撹拌下で添加し、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として0.7%の共沈ゲルを生成させた。このゲルを洗浄することなく、このゲル中に含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比で0.4の5.0%硝酸溶液を添加し、オートクレーブで120℃/3hの水熱処理を行なった。水熱処理をおこなったゲルの平均粒子径は2.2μm、ヘイズ率は、89.7%であり、解膠は認められなかった。
【0038】
[比較例2]
1.0%アンモニア水4312gにCeO換算で1.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)5000g及びZrO換算で1.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)3580gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=50/50)を撹拌下で添加し、共沈ゲルを生成させた。次いで限外濾過装置により濾液の電気伝導度が50mS/m以下になるまでゲル中の塩化アンモニウムを除去し、セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として2.0%のセリア−ジルコニア固溶体ゲルを得た。
次いで、ゲル中に含まれるCeとZrの合計モル数に対してモル比で0.4の5.0%シュウ酸溶液を添加し、オートクレーブで100℃/5hの水熱処理を行なった。水熱処理をおこなったゲルの平均粒子径は2.5μm、ヘイズ率は、90.3%であり、解膠は認められなかった。
【0039】
[比較例3]
CeO換算で2.0%の塩化セリウム溶液(太陽鉱工(株)製)2500g及びZrO換算で2.0%のオキシ塩化ジルコニウム(第一稀元素化学工業(株)製:ジルコゾールZC−20)1193gの混合塩溶液(Ce/Zr(モル比)=60/40)をセリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1.5%溶液に希釈した後、Ceに対して等モルの10.0%ペルオクソ二硫酸アンモニウム溶液を添加して混合した。次いで、これをステンレス製の容器に収容し、内容物を撹拌しながら100℃/168hの加水分解を行った。得られた生成物の平均粒子径は1.5μmであり、沈降性を有する粗大粒子であり、分散性に優れた微粒子を得ることはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1において、Ce/Zr(モル比)=50/50のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの100℃乾燥品並びに500℃及び1000℃で1時間加熱処理した後のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例2及び3において、Ce/Zr(モル比)=30/70及び70/30のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの100℃乾燥品を500℃で1時間加熱処理した後のX線回折パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法による平均粒子径が5〜100nmであるセリア−ジルコニア固溶体ゾル。
【請求項2】
セリウム(CeOとして)とジルコニウム(ZrOとして)の合量として1質量%時のヘイズ率が10%以下である請求項1記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾル。
【請求項3】
Ce/Zr(モル比)が20/80〜95/5である請求項1又は2のいずれかに記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾル。
【請求項4】
塩酸、硝酸又はオキシカルボン酸で安定化されたものである請求項1〜3のいずれかに記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾル。
【請求項5】
塩酸、硝酸又はオキシカルボン酸含有量がCeとZrのモル数の合計に対して0.2〜2.0(モル比)である請求項1〜4のいずれかに記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾル。
【請求項6】
水溶性セリウム塩と水溶性ジルコニウム塩との混合塩水溶液を塩基で共沈させたセリア−ジルコニアゲルを洗浄液の電気伝導度50mS/m以下となるまで洗浄した後、これをCeとZrのモル数の合計に対して0.2〜2.0(モル比)の塩酸又は硝酸で解膠することを特徴とするセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法。
【請求項7】
セリア−ジルコニアゲル共沈時又はその洗浄したゲルにCe1モルに対して0.2モル以上の酸化剤を添加することを特徴とする請求項6記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法。
【請求項8】
酸化剤が過酸化水素又はオゾンである請求項7記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法。
【請求項9】
塩酸又は硝酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルに、そのゾルに含まれるCeとZrのモル数の合計に対してモル比0.2〜2.0のオキシカルボン酸を添加した後、塩基でpH7以上にすることを特徴とするオキシカルボン酸で安定化されたセリア−ジルコニア固溶体ゾルの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のセリア−ジルコニア固溶体ゾルを温度150℃以下で乾燥させることを特徴とするセリア−ジルコニア固溶体ゾル用粉体の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31192(P2007−31192A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214974(P2005−214974)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】