説明

セルロースアシレートフィルムとその製造方法、位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】湿熱条件下での寸法変化率が良好であり、かつ、液晶表示装置に組み込んだ際に黒色味変化が小さいフィルムを提供する。
【解決手段】波長630nmにおける面内方向のレターデーションと波長450nmにおける面内方向のレターデーションとの差ΔReが式(1)を満たし、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率がフィルム搬送方向およびそれに直交する方向において式(2)を満たすセルロースアシレートフィルム。
1nm≦ΔRe≦15nm (1)
−0.5%≦{(L'−L0)/L0}×100≦0.5% (2)
(式(2)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L’は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度安定性および湿熱耐久性を改良したセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。また、該フィルムを用いた位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置として、光学補償フィルムを用いた楕円偏光板を組み込んだ液晶表示装置が知られている。このような液晶表示装置の視野角特性は、主として黒表示時の光漏れによって発生する。このような黒表示時の光漏れが温度および湿度に応じて生じる光学補償フィルムの歪みに起因して起こることが見出されており、湿熱環境下での寸度変化率が小さいフィルムを用いることで液晶表示装置の黒表示時の光漏れを改善し、視野角特性を改善できることが開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。さらに、特許文献1には、上記の延伸により、湿熱環境下での寸度変化率が小さい上、特定の範囲のレターデーションを発現させた位相差フィルムが開示されている。
【0003】
湿熱環境下での寸度変化率が小さいフィルムを製造する方法として、まず特許文献1では、溶液流延によって製膜したフィルムを特定条件下で延伸する方法、詳しくは延伸時の温度制御と延伸完了時のフィルムの残留溶媒量を制御する方法が開示されている。一方、特許文献2では、溶液流延によって製膜したフィルムを加湿処理する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの光学補償フィルムを用いた液晶表示装置であっても未だ視野角特性は満足いくレベルではなく、さらなる視野角特性の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−151640号公報
【特許文献2】特開2002−179819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、これまで特許文献1および2等において湿熱条件下での光学補償フィルムの寸法変化率の改良については議論されてきたが、液晶表示装置の黒表示時の光漏れの原因を細分化して検討することは検討されていなかった。すなわち、従来は液晶表示装置の視野角特性を改善できる光学補償フィルムの開発方向として、液晶表示装置の黒表示時の光漏れをより小さくしてゼロへ近づける方向でなされていたのが実情である。
【0007】
本発明者らは、液晶表示装置のさらなる視野角特性の改善を求め、黒表示時における光漏れの原因をより細分化して検討した。その結果、黒表示時の光漏れが発生した際、液晶表示装置における黒色味の変化が生じており、黒色味の変化が黒表示時の光漏れを認識しやすくさせていることを見出すに至った。そこで、液晶表示装置の黒表示時において光漏れが小さいだけでなく、仮に光漏れが起きても非常に黒色味変化が小さく、光漏れが認識されにくい改善されたフィルムを得ることを目的とした。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、湿熱条件下での寸法変化(歪み)率が良好であり、かつ、液晶表示装置に組み込んだ際に黒色味変化が小さいフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、波長分散が逆分散化されたフィルムを液晶表示装置に組み込むと、驚くべきことに黒色味変化が小さくなることを見出した。すなわち、湿熱条件下での寸法変化率が良好で波長分散が逆分散化された下記セルロースアシレートフィルムが上記課題を解決できることを見出し、また、下記の特定の延伸条件および特定の湿熱処理条件下で製造することによってこのような特性のセルロースアシレートフィルムを製造できることを見出し、以下に記載する本発明を完成するに至った。なお、特許文献1および2には、光学補償フィルム自体の色味の変化改良に関しては言及されていなかった。
【0010】
[1] 波長630nmにおける面内方向のレターデーションと波長450nmにおける面内方向のレターデーションとの差ΔReが下記式(1)を満たし、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率がフィルム搬送方向およびそれに直交する方向において下記式(2)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
1nm≦ΔRe≦15nm (1)
−0.5%≦{(L'−L0)/L0}×100≦0.5% (2)
(式(2)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L’は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
[2] 波長590nmにおける面内方向のレターデーションReが下記式(3)を満たし、波長590nmにおける膜厚方向のレターデーションRthが下記式(4)を満たすことを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
30nm≦Re≦70nm (3)
90nm≦Rth≦300nm (4)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (4’)
(式(4’)中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
[3] 前記セルロースアシレートフィルムに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度が、下記式(5)および(6)を満たすことを特徴とする[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
0≦B≦1 (6)
(式(5)および(6)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
[4] 2層以上の積層構造であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 最もセルロースアシレートの総アシル置換度が高い層の総アシル置換度DSaと、最もセルロースアシレートの総アシル置換度が低い層の総アシル置換度DSbが、下記式(7)を満たすことを特徴とする[4]に記載のセルロースアシレートフィルム。
0.1≦DSa−DSb≦0.5 (7)
[6] セルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(8)を満たす温度で延伸し、延伸後のフィルムを下記式(9)および式(10)を満たす条件で湿熱処理することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (8)
Te=T[tanδ]−ΔTm (8’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (8’’)
(式(8)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアシレートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。)
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (9)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (10)
[7] 下記式(5)および式(11)を満たすセルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(12)を満たす温度で延伸し、延伸したフィルムを下記式(13)および式(14)を満たす条件で湿熱処理することを特徴とする請求項6に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
B=0 (11)
(式(5)および(11)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
Te−20℃≦延伸温度≦Te+20℃ (12)
Te=T[tanδ]−ΔTm (12’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (12’’)
(式(12)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアシレートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。)
70℃≦湿熱処理温度≦120℃ (13)
250g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦400g/m3 (14)
[8] [6]または[7]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
[9] [1]〜[5]および[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
[10] [1]〜[5]および[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、あるいは、[9]に記載の位相差フィルム、を少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
[11] [1]〜[5]および[8]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、[9]に記載の位相差フィルム、あるいは、[10]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、湿熱条件下での寸法変化率が良好であり、かつ波長分散が逆分散化されている本発明のセルロースアシレートフィルムを得ることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムによれば、液晶表示装置に組み込んだ際に黒表示時の光漏れ自体の改良と、その時に発生する黒色味変化を同時に抑制することができ、黒表示時の光漏れが起きても視認しにくい。そのため、本発明のセルロースアシレートを用いると、該セルロースアシレートフィルムを組み込んだ液晶表示装置の視野角視認性を顕著に改善することができる。このようなフィルムや、該フィルムを用いた偏光板は液晶表示装置に好ましく用いることができ、特にVA用液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の液晶表示装置の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムやその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中、MD方向とはフィルム搬送方向を表し、TD方向とはMD方向に直交する方向を表す。また、波長630nmにおける面内方向のレターデーションが、波長450nmにおける面内方向のレターデーションよりも大きいフィルムを逆分散フィルムまたは波長分散が逆分散化されたフィルムと言う。
【0014】
[セルロースアシレートフィルム]
本発明のセルロースアシレートフィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は波長630nmにおける面内方向のレターデーションと波長450nmにおける面内方向のレターデーションとの差ΔReが下記式(1)を満たし、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率がMD方向およびTD方向において下記式(2)を満たす。
1nm≦ΔRe≦15nm (1)
−0.5≦{(L'-L0)/L0}×100≦0.5 (2)
(式(2)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L’は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
以下、本発明のフィルムの好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0015】
(セルロースアシレート)
本発明に用いられるセルロースアシレートは、そのアシル基の置換度は特に限定されない。アシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0016】
本発明のフィルムに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。本発明のフィルムは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。これらのフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0017】
(セルロースアシレート)
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりアシル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がアシル化している割合(各位における100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0018】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはアセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基(アシル基が炭素原子数2〜4である場合)であり、より特に好ましくはアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)である。
【0019】
セルロ−スのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0020】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0021】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0022】
本発明のフィルムは、フィルムに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度が、下記式(5)および(6)を満たすことが好ましい。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
0≦B≦1 (6)
(式(5)および(6)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
A+Bが2.6以下であれば光学発現性が向上し、A+Bが2.3以上であれば寸度変化率が改善されるため好ましい。また、Bが1以下であれば光学発現性が向上するため好ましい。
本発明のフィルムに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度は下記式(5’)および(6’)を満たすことがより好ましい。
2.35 ≦A+B≦ 2.55 (5’)
0≦B≦0.7 (6’)
本発明のフィルムに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度は下記式(5’’)および(6’’)を満たすことが特に好ましい。
2.4≦A+B≦2.5 (5’’)
B=0 (6’’)
本発明の好ましい態様では、アシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムであっても湿熱条件下での寸度変化率と波長分散を同時に改善することができ、該アシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムを製造することができる。このようなアシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムは従来の製造条件では湿熱条件下での寸度変化率が悪く、製造することはできなかった。
【0023】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0024】
(セルロースアシレートフィルムの層構造)
本発明のフィルムは、前記式(1)および(2)の条件を満たしていれば、単層構造であっても、2層以上の積層構造であってもよい。また、積層構造である場合は、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は均一であっても、複数のセルロースアシレートを一つの層に混在させてもよいが、各層中におけるセルロースアシレートのアシル基置換度は全て一定であることが光学特性の調整の観点から好ましい。
本発明のフィルムが単層構造である場合、該フィルムに含まれるセルロースアシレートは、アシル置換度がすべて前記式(5)および(6)を満たすことが好ましく、前記式(5’)および(6’)を満たすことがより好ましく、前記式(5’’)および(6’’)を満たすことが特に好ましい。
【0025】
本発明のより好ましい態様によれば、従来のセルロースアシレート系フィルムでは実現できなかった湿熱条件下での寸法変化率が良好であり、かつ波長分散が逆分散化されているセルロースアシレート積層フィルムを提供することができる。さらに溶液流延製膜時において、フィルム形成後の支持体からのフィルムの剥離性を改良することもできる。
本発明のフィルムは、2層以上の積層構造を有することが、溶液製膜時の支持体からの剥離性を改善する観点から好ましい。
また、本発明のフィルムが2層以上の積層構造のとき、少なくとも1つの層が前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートを含有し、該前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートを含有する層とは別の少なくとも1つの層が下記式(15 )を満たすセルロースアシレートを含有することが、溶液製膜時の支持体からの剥離性を改善する観点から好ましい。
2.6<A+B<3.0 (15 )
(式(15)中、DSはセルロースアシレートのアシル基置換度を表す。)
なお、本明細書中、1つの層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートである層のことを低置換度層と言うことがあり、1つの層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(15 )を満たすセルロースアシレートである層のことを高置換度層と言うことがある。
前記高置換度層に含まれるセルロースアシレートは、下記式(15’)を満たすことがより好ましく、下記式(15’’)を満たすことが特に好ましい。
2.7≦A+B≦2.9 (15’ )
2.75≦A+B≦2.85 (15’’ )
【0026】
また、本発明のフィルムは、2層以上の積層構造を有しており、溶液製膜で製造する際に支持体と接する層(以下、スキンB層もしくはSB層とも言う)が前記式(15 )を満たすセルロースアシレートを含有し、その他の層が前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートを含有することが溶液製膜時の支持体からの剥離性をさらに改善する観点から好ましい。さらに、本発明のフィルムは、2層以上の積層構造を有しており、スキンB層が高置換度層であり、その他の層低置換度層であることが、溶液製膜時の支持体からの剥離性をさらに改善する観点からより好ましい。
【0027】
本発明のフィルムが2層構造であるとき、該フィルムのスキンB層が高置換度層であり、もう一方の層が低置換度層であることが好ましい。各層のより好ましい範囲は上記の好ましい範囲と同様である。なお、本発明のフィルムが2層構造であるときに、スキンB層以外のもう一方の層(すなわち表面層)のことを便宜上コア層と言うことがあるが、後述する本発明のフィルムが3層以上の構造であるときのコア層(内部層を表す)とは異なる意味である。
【0028】
本発明の特に好ましい態様によれば、低置換度セルロースアシレート層の両面に高置換度セルロースアシレート層を有する場合、フィルムの物理的性質(カール)も好適に制御することができる。 本発明のフィルムは、3層以上の積層構造を有していることが、環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
また、本発明のフィルムは、3層以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層(以下、コア層もしくはC層とも言う)が前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートを含有し、両面の表面層が前記式(15 )を満たすセルロースアシレートを含有することが、光学補償フィルムとして所望の光学特性を実現させる工程における自由度向上の観点から好ましい。さらに、本発明のフィルムは、3層以上の積層構造を有しており、少なくとも1つの内部層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(5)および(6)を満たすセルロースアシレートであり、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートが全て前記式(15 )を満たすセルロースアシレートであることがより好ましい。なお、本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有している場合に限り、フィルム製膜時に支持体と接していない側の表面層のことをスキンA層もしくはSA層とも言う。
【0029】
本発明のフィルムは3層構造であることがより好ましい。すなわち、本発明のフィルムはスキンB層/コア層/スキンA層の3層構造であることが好ましい。本発明のフィルムが3層構造の場合、高置換度層/低置換度層/高置換度層という構成であっても低置換度層/高置換度層/低置換度層という構成であってもよいが、高置換度層/低置換度層/高置換度層の構成であることが、溶液製膜時の支持体からの剥離性を改善する観点および環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
本発明のフィルムが3層構造であるとき、両面の表面層に含まれるセルロースアシレートは同じアシル置換度のセルロースアシレートを用いることが、製造コストや環境湿熱変化に伴うカール量低減の観点から好ましい。
【0030】
本発明のフィルムは、最もセルロースアシレートの総アシル置換度が高い層の総アシル置換度DSaと、最もセルロースアシレートの総アシル置換度が低い層の総アシル置換度DSbが、下記式(7)を満たすことが好ましい。
0.1≦DSa−DSb≦0.5 (7)
DSa−DSbの値が0.5以下であれば剥離性が良好な上、各層間の相溶性も改善されるためフィルムの白化を抑制することができる。DSa−DSbの値が0.1以上であれば各層間の相溶性が良好な上、剥離性も改善される。
【0031】
また、本発明のフィルムは、積層構造であるか単層構造であるかによらず、フィルム全体としての膜厚が20〜130μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、40〜80μmであることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明のフィルムが2層以上の積層構造を有する場合、低置換度層(好ましくはスキンB層以外の層)の膜厚は15〜125μmであることが好ましく、20〜95μmであることがより好ましく、35〜75μmであることが特に好ましい。
【0033】
また、本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、低置換度層(好ましくはコア層)の膜厚は15〜125μmであることが好ましく、20〜95μmであることがより好ましく、35〜75μmであることが特に好ましい。
本発明のフィルムが3層以上の積層構造を有する場合、フィルム両面の表面層の膜厚がともに
0.2〜10μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることが特に好ましく、1〜4μmであることがより特に好ましい。
【0034】
本発明の好ましい態様の1つとして、3層以上の積層構造を有し、少なくとも1つの内部層(コア層)が低置換度層であり、表面層(スキンB層およびスキンA層)が高置換度層である積層構造を挙げることができる。さらに、前記表面層の膜厚(スキンB層およびスキンA層)は、内部層よりも薄いことが好ましい。前記表面層の膜厚の好ましい条件は上記のとおりである。
【0035】
本発明のより好ましい態様の1つとして、3層の積層構造を有し、内部層(コア層)が低置換度層であり、表面層(スキンB層およびスキンA層)が高置換度層である積層構造を挙げることができる。前記スキンB層およびスキンA層の膜厚は、前記コア層よりも薄いことがさらに好ましい。前記表面層の膜厚の好ましい条件は、本発明のフィルムが3層以上の積層構造の場合と同様である。
【0036】
(ΔRe)
本発明のフィルムは、波長630nmにおける面内方向のレターデーションRe(630)と波長450nmにおける面内方向のレターデーションRe(450)との差ΔRe(すなわち、ΔRe=Re(630)−Re(450))が下記式(1)を満たす逆分散フィルムである。
1mm≦ΔRe≦15mm (1)
前記ΔReが前記式(1)の範囲であると、黒色味を顕著に改善することができる。前記ΔReは、1〜14mmであることがより好ましく、1.5〜13mmであることが特に好ましい。
【0037】
(寸度変化率)
本発明のフィルムは、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率がフィルム搬送方向およびそれに直交する方向において下記式(2)を満たす。
−0.5%≦{(L'-L0)/L0}×100≦0.5% (2)
前記L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さを表し、L’は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さを表す。)
前記寸度変化が前記式(2)の範囲であると、液晶表示装置に組み込んだ際の黒表示時の光漏れを抑制することができる。前記寸度変化率は、−0.4〜0.4%であることがより好ましく、−0.3〜0.3%であることが特に好ましい。
【0038】
(Re、Rth)
本発明のフィルムは、波長590nmにおける面内方向のレターデーションReが下記式(3)を満たし、波長590nmにおける膜厚方向のレターデーションRthが下記式(4)を満たすことが、位相差フィルムとして液晶表示装置用の光学補償に用いる観点から、好ましい。
30nm≦Re≦70nm (3)
90nm≦Rth≦300nm (4)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (4’)
(式中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
前記Reは、35〜65nmであることがより好ましく、40〜60nmであることが特に好ましい。
前記Rthは、95〜250nmであることがより好ましく、100〜210nmであることが特に好ましい。
【0039】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(4)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0040】
【数1】

【0041】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(4)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0042】
<添加剤>
本発明では添加剤として、セルロースアシレートフィルムの添加剤として公知の高分子量添加剤および低分子量添加剤を広く採用することができる。添加剤の含量は、セルロース系樹脂に対して、1〜35質量%であり、4〜30質量%であることが好ましく10〜25質量%であることがさらに好ましい。添加量を1質量%以下では、温度湿度変化に対応できず、添加量を30質量%以上ではフィルムが白化してしまう。さらに、物理的特性も劣るものとなってしまう。
ここで、本発明における添加剤とは、本発明の光学フィルムの諸機能の向上等を目的として添加される成分であり、セルロース樹脂に対し、1質量%以上の範囲で含まれている成分をいう。すなわち、不純物や残留溶媒等は、本発明における添加剤ではない
本発明では、特に、高分子量添加剤の含量が、セルロース系樹脂に対して、4〜30質量%であることが好ましく10〜25質量%であることがより好ましい。
本発明では、2種類以上の添加剤を用いることができる。2種類以上用いることにより、それぞれの添加剤により、光学特性、フィルム弾性率、フィルム脆性や、ウェブハンドリング適性を両立できるというメリットがある。
【0043】
(高分子量添加剤)
本発明のフィルムに用いられる高分子量添加剤は、その化合物中に繰り返し単位を有するものであり、数平均分子量が700以上10000以下のものが好ましい。高分子量添加剤は、溶液流延法において、溶媒の揮発速度を速めたり、残留溶媒量を低減したりするために用いられる。また、溶融製膜法によるフィルムにおいても、高分子量添加剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、本発明のフィルムに該高分子量添加剤を添加することは、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。
【0044】
ここで、本発明における高分子量添加剤の数平均分子量は、より好ましくは数平均分子量700以上10000未満であり、さらに好ましくは数平均分子量800〜8000であり、よりさらに好ましくは数平均分子量800〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量1000〜5000である。このような範囲とすることにより、より相溶性に優れる。
以下、本発明に用いられる高分子量添加剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明するが、本発明で用いられる高分子量添加剤がこれらのものに限定されるわけでないことは言うまでもない。
【0045】
高分子系添加剤としては、特に制限はないが、ポリエステル系ポリマーが好ましく、脂肪族ポリエステルおよび芳香族ポリエステル系ポリマーがより好ましい。
【0046】
ポリエステル系ポリマー
本発明で用いられるポリエステル系ポリマーは、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸の混合物と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールとの反応によって得られるものであり、かつ反応物の両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。本発明のポリエステル系ポリマーに使用されるジカルボン酸は、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸残基または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましい。
【0047】
本発明で好ましく用いられる炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
また炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0048】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸であり、芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0049】
本発明では、前述の脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸のそれぞれの少なくとも一種類を組み合わせて用いられるが、その組み合せは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。
【0050】
高分子量添加剤に利用されるジオールまたは芳香族環含有ジオールは、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールから選ばれるものである。
【0051】
炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0052】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0053】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
【0054】
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
【0055】
本発明においては、特に末端がアルキル基あるいは芳香族基で封止された高分子量添加剤であることが好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。
本発明のポリエステル添加剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0056】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0057】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0058】
かかる本発明の高分子量添加剤の合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系添加剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
以下に、本発明で用いることができるポリエステル系ポリマーの具体例を記すが、本発明で用いることができるポリエステル系ポリマーはこれらに限定されるものではない。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

表1および表2中、PAはフタル酸を、TPAはテレフタル酸を、IPAはイソフタル酸を、AAはアジピン酸を、SAはコハク酸を、2,6−NPAは2,6−ナフタレンジカルボン酸を、2,8−NPAは2,8−ナフタレンジカルボン酸を、1,5−NPAは1,5−ナフタレンジカルボン酸を、1,4−NPAは1,4−ナフタレンジカルボン酸を、1,8−NPAは1,8−ナフタレンジカルボン酸をそれぞれ示している。
【0061】
<低分子量添加剤>
低分子量添加剤としては、レターデーション低減剤・調整剤、剥離促進剤、マット剤、低分子量可塑剤、赤外線吸収剤、劣化防止剤、紫外線防止剤等を挙げることができる。これらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はセルロースアシレート溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。さらにまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。
【0062】
本発明の光学フィルムは、レターデーション低減剤を含んでいてもよく、レターデーション低減剤としては、特に限定されない。
【0063】
レターデーション低減剤は、セルロース系樹脂に対し、0.01〜30質量%の割合で添加することが好ましく、0.1〜20質量%の割合で添加することがより好ましく、0.1〜10質量%の割合で添加することが特に好ましい。上記添加量を30質量%以下とすることにより、セルロース系樹脂との相溶性を向上させることができ、白化を抑制させることができる。2種類以上のレターデーション低減剤を用いる場合、その合計量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0064】
(レターデーション調整剤)
本発明の光学フィルムは、レターデーション調整剤を含んでいてもよく、Rth/Re値を上昇させる観点からは、具体的には、芳香環を1個以上有する化合物が好ましく、2〜15個有することがより好ましく、3〜10個有することがさらに好ましい。化合物中の芳香環以外の各原子は、芳香環と同一平面に近い配置であることが好ましく、芳香環を複数有している場合には、芳香環同士も同一平面に近い配置であることが好ましい。また、Rthを選択的に上昇させるため、添加剤のフィルム中での存在状態は、芳香環平面がフィルム面と平行な方向に存在していることが好ましい。このような化合物の具体例としては、例えば、特開2006−235483号公報の6〜38頁に「レタデーション上昇剤」として記載があり、これらを適宜用いることができ、中でも下記構造の化合物が特に好ましい。
【0065】
【化1】

【0066】
本発明のフィルムには、剥離促進剤を加えることが好ましい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1重量%の割合で含めることができる。剥離促進剤としては、特開2006−45497号公報の段落番号0048〜0069に記載の化合物を好ましく用いることができる。本発明のフィルムが2層以上の積層構造であるときは、前記剥離促進剤は前記スキンB層に含まれることが、溶液製膜時における支持体からの剥離性を改善する観点から好ましい。
【0067】
本発明のフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。本発明のフィルムが2層の積層構造であるときは、前記剥離促進剤は前記スキンB層に含まれることが、剥離の観点から好ましい。また、本発明のフィルムが3層以上の積層構造であるときは、前記剥離促進剤は前記スキンB層およびスキンA層の両方に含まれることが、フィルムカールの観点から好ましい。
【0068】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0069】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0070】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行いこれを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0071】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0072】
本発明のフィルムは低分子量可塑剤を含んでいてもよい。前記低分子量可塑剤としては例えばエステル系可塑剤が挙げられ、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のセルロースアシレートよりも疎水的なものを単独あるいは併用するのが好ましい。これらの中でも、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤およびグリコールエステル系可塑剤から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸エステル系可塑剤を含むことがより好ましい。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
なお、これらの低分子量可塑剤はRth制御剤として用いてもよい。
【0073】
[セルロースアシレートフィルムの製造方法]
本発明のセルロースアシレート積層フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、 セルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(8)を満たす温度で延伸し、延伸後のフィルムを下記式(9)および式(10)を満たす条件で湿熱処理することを特徴とする。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (8)
Te=T[tanδ]−ΔTm (8’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (8’’)
(式(8)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアシレートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。)
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (9)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (10)
以下、本発明の製造方法の詳細を順に説明する。
【0074】
(ドープの調製)
本発明の製造方法では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いて本発明のフィルムを製造する。
前記有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0075】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0076】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0077】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0078】
(共流延)
積層フィルムを得る場合、調製した2種以上のセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレテートフィルムを製造することも好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0079】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0080】
本発明では得られたセルロースアシレート溶液(ドープ)を、支持体としての平滑なバンド上或いはドラム上に前記2種以上の複数のセルロースアシレート液を流延して製膜する。本発明のフィルムの製造方法としては、上記以外に特に制限はなく公知の共流延方法を用いることができる。例えば、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。また、特開昭56−162617号公報に記載の高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高,低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出すセルロースアシレートフィルム流延方法でもよい。更に又、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号の各公報に記載の外側の溶液が内側の溶液よりも貧溶媒であるアルコール成分を多く含有させることも好ましい態様である。
【0081】
あるいは、また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により金属支持体に成型したフィルムを剥離し、金属支持体面に接していた側に第二の流延を行なうことでより、フィルムを作製することでもよく、例えば特公昭44−20235号公報に記載されている方法である。流延するセルロースアシレート溶液は同一の溶液でもよいし、異なるセルロースアシレート溶液でもよく特に限定されない。複数のセルロースアシレート層に機能を持たせるために、その機能に応じたセルロースアシレート溶液を、それぞれの流延口から押出せばよい。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、UV吸収層、偏光層など)を同時に流延することも実施しうる。本発明のフィルムを製造する方法としては、製膜が同時または逐次での多層流延製膜であることが好ましい。
【0082】
従来の単層液では、必要なフィルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアシレート溶液を押出すことが必要であり、その場合セルロースアシレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良であったりして問題となることが多かった。この解決として、複数のセルロースアシレート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に金属支持体上に押出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアシレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができた。
【0083】
共流延の場合、内部層と表面層の厚さは特に限定されないが、好ましくは表面層が全膜厚の1〜50%であることが好ましく、より好ましくは2〜30%である。ここで、3層以上の共流延の場合は金属支持体に接した表面層と空気側に接した表面層の合計膜厚を表面層の厚さと定義する。
【0084】
共流延の場合、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースアシレート溶液を共流延して、積層構造のセルロースアシレートフィルムを作製することもできる。例えば、スキンB層/コア層/スキンA層といった構成のセルロースアシレートフィルムを作ることが出来る。例えば、マット剤は、スキンB層に多く、又はスキンB層のみに入れることが出来る。可塑剤、紫外線吸収剤は両スキン層よりもコア層に多くいれることができ、コア層のみにいれてもよい。また、コア層と両スキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば両スキン層に低揮発性の可塑剤および/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。また、剥離剤を金属支持体側のスキン層(スキンB層)のみ含有させることも好ましい態様である。また、冷却ドラム法で金属支持体を冷却して溶液をゲル化させるために、両スキン層に貧溶媒であるアルコールをコア層より多く添加することも好ましい。両スキン層とコア層のTgが異なっていてもよく、両スキン層のTgよりコア層のTgが低いことが好ましい。また、流延時のセルロースアシレートを含む溶液の粘度も両スキン層とコア層で異なっていてもよく、両スキン層の粘度がコア層の粘度よりも小さいことが好ましいが、コア層の粘度が両スキン層の粘度より小さくてもよい。
【0085】
本発明のフィルムの製造方法では、セルロースアシレート溶液を共流延せずに波長分散が前記一般式(1)の範囲のΔReを有し、寸度変化率が前記一般式(2)を満たす単層フィルムを製造することもでき、セルロースアシレート溶液を共流延することで波長分散が前記一般式(1)の範囲のΔReを有し、寸度変化率が前記一般式(2)を満たすセルロースアシレート積層フィルムを得ることもできる。前記各層に含まれるセルロースアシレートのアシル置換度の好ましい態様については、前記本発明のフィルム各層におけるセルロースアシレートのアシル置換度の好ましい範囲と同様である。
本発明では、単層または多層流延されたドープを乾燥させて支持体から剥離する。
【0086】
(乾燥工程)
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法は特に制限されないが、例えば以下の方法を用いることができる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
【0087】
(延伸)
本発明の製造方法は、ドープをある程度乾燥させて支持体から剥離する工程の後に、ドープ中に含まれるセルロースアシレートに対してx質量%の残留溶媒を含む状態で剥離した剥離後のフィルムを、下記式(8)を満たす温度で延伸する工程を含む。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (8)
Te=T[tanδ]−ΔTm (8’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (8’’)
このように延伸時におけるフィルム中の残留溶媒量に応じて延伸温度を変化させることが本発明の特徴の一つである。本発明の製造方法は、延伸温度がTe−30℃以上であれば、得られたフィルムを湿熱環境下で経時させた際の寸度変化率が顕著に改善されることを見出したものである。また、延伸温度がTe+30℃以下であれば、得られたフィルムを湿熱環境下で経時させた際の寸度変化率が実用上十分に小さい上、セルロースアシレート樹脂や添加剤等が熱分解し難くなる観点からも好ましい。
また、更に延伸温度を式(8)を満たす範囲とすることにより、得られるフィルムの波長分散ΔReが前記式(1)の範囲を満たし易くなる。
なお、延伸時におけるフィルム中の残留溶媒量がドープ中に含まれるセルロースアシレートに対して0質量%の場合はTe=T[tanδ]となるため、T[tanδ]−30℃≦延伸温度≦T[tanδ]+30℃で延伸することとなる。
【0088】
前記T[tanδ]は、バイブロンにより残留溶媒量0%のセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示した温度であり、フィルムごとに固有の温度である。動的粘弾性を測定する際に用いるバイブロンとしては特に制限はないが、例えば、IT計測制御株式会社社製、商品名DVA200を用いることができる。
【0089】
前記Tm(0)は残留溶媒量0%のセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、前記Tm(x)はセルロースアシレートに対して残留溶媒量x%のセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。一般的に剥離後のフィルムの残留溶媒量とフィルムの結晶融解温度Tmの関係は、残留溶媒量が高まるにつれてTmが低下する関係がある。前記結晶融解温度の測定は、DSCを用いた公知の方法を採用することができ、例えば公開技報2001-1745 11〜12頁に記載の方法で測定することができる。
【0090】
ここで、前記T[tanδ]は残留溶媒を含んだフィルムでは測定できない。しかしながら、本発明の式(8)で規定する延伸温度とすることで、残留溶媒を含んだフィルムを延伸した場合であっても、得られたフィルムを湿熱環境下で経時させた際の寸度変化率を顕著に改善させることができる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、前記式(8’’)により求めたΔTmだけ残留溶媒の影響があると勘案して前記式(8)および(8’)にて延伸温度を補正して延伸することで、残留溶媒を含んだフィルムを延伸した場合であっても驚くべきことに上記の寸度変化率が顕著に改善される。
【0091】
本発明のフィルムの製造方法では、フィルム中の残留溶媒量に応じて延伸温度を設定できるため延伸時におけるフィルム中の残留溶媒量に特に制限はないが、支持体から剥離したフィルムを、フィルム中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られにくいため、延伸時におけるフィルム中の残留溶媒量のより好ましい範囲は0質量%〜80質量%、特に好ましい範囲は0質量%〜60質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分なReおよびRthの位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0092】
本発明の製造方法では、下記式(5)および式(11)を満たすセルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(12)を満たす温度で延伸することが、低置換度のセルロースアシレートフィルムの寸度変化率を改善する観点から好ましい。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
B=0 (11)
(式(5)および(11)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
Te−20℃≦延伸温度≦Te+20℃ (12)
Te=T[tanδ]−ΔTm (12’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (12’’)
【0093】
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量とすることで高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。すなわち、溶剤が残留する状態で延伸工程を行っても、乾燥後延伸工程を行ってもよい。
また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムのReおよびRthを本発明の範囲に制御するために有効である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボ−イング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボ−イング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。
以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.2〜2.0倍、0.7〜1.0倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にするとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0094】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。すなわち、製膜方向に対して横方向に延伸しても、縦方向に延伸しても、両方向に延伸してもよく、さらに両方向に延伸する場合は同時延伸であっても、逐次延伸であってもよい。なお、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
また、本発明の製造方法は、前記延伸工程後のフィルムを再度延伸する工程を含むことが、光学発現性、特にNzファクターの低減等による光学発現域の拡大等の観点から好ましい。
【0095】
(湿熱処理)
本発明の製造方法は、下記式(8)を満たす温度で延伸した後のフィルムを下記式(9)および式(10)を満たす条件で湿熱処理する工程(水蒸気接触工程)を含む。
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (9)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (10)
上記式(8)に記載の延伸条件とすることで、フィルムに前記式(1)の範囲の逆波長分散性を付与できたとしても、フィルムを湿熱環境下で経時変化させた際の寸度変化率を完全に改良するには至らなかった。いかなる理論に拘泥するものでもないが、寸度変化率が大きいフィルムを液晶表示装置に組み込んだ際、問題となるのは例えば60℃、相対湿度90%の条件下に長時間おいた際にフィルム寸度が不可逆変化をしてしまうことに起因する。このような課題に対し、本発明の製造方法では、前記式(9)および式(10)を満たす条件で湿熱処理を施すことで、積極的にフィルム製膜中に不可逆変化を発生させて解決している。
このような特別な条件での湿熱処理を従来の延伸フィルム、すなわち本発明の範囲外の温度で延伸した後の寸度変化率が大きいフィルムに対して行うとシワが発生してしまう。その結果、得られるフィルムは波長分散を含めて光学特性に問題がある上、ハンドリングすることすら出来なかった。本発明の製造方法では、上記式(8)を満たす延伸温度で延伸されたある程度寸度が改良されたフィルムに対し、更に湿熱処理を加えることにより、従来の知見に反し、予想外にも本発明の波長分散の範囲および寸度変化率の範囲に制御されたフィルムを得ることができる。さらに、本発明の製造方法の好ましい態様で得られたフィルムは、光学特性も液晶表示装置用の位相差フィルムとして好ましい範囲に制御することができる。
【0096】
前記湿熱処理温度は、70〜125℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。なお、ここで言う湿熱処理温度とは、接触気体との接触させた後のセルロースアシレートフィルムの温度のことを言う。
【0097】
前記湿熱処理絶対湿度量は、250〜400g/m3であることが好ましく、280〜390g/m3であることがより好ましい。
【0098】
接触気体の相対湿度は、10%〜100%であることが好ましく、15〜100%であることがより好ましく、20〜100%であることが特に好ましい。
【0099】
(接触気体)
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムに接触される気体(接触気体)は水蒸気を含む気体であり、水蒸気を主たる成分として含む気体であることがより好ましく、水蒸気であることがさらに好ましい。ここで、主たる成分として含む気体とは、単一の気体からなる場合には、その気体のことを示し、複数の気体からなる場合には、構成する気体のうち、最も質量分率の高い気体のことを示す。
【0100】
前記接触気体は、湿潤気体供給装置によって生成される気体であることが好ましい。具体的には、液体状態の溶媒をボイラで加熱して気体状態とした後、ブロアによって送られるものであり、接触気体には、適宜空気を混合させてもよく、ブロアによって送られた後に加熱装置を経由させてさらに加熱してもよい。ここで、該空気は加熱されたものであることが好ましい。このようにして生成された接触気体の温度は、70〜200℃であることが好ましく、80〜160℃であることがより好ましく、100〜140℃であることが最も好ましい。上限温度よりも高いとフィルムのカールが強くなり、好ましくなく、下限温度よりも低いと十分な効果が得られないことがある。
【0101】
(接触工程)
湿熱処理工程におけるセルロースアシレートフィルムと前述の接触気体との接触方法としては、前記接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、接触気体で満たされた空間にセルロースアシレートフィルムを配置する方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法を用いることができ、接触気体をセルロースアシレートフィルムに当てる方法、または接触気体で満たされた空間を通過させる方法が好ましい。また、セルロースアシレートフィルムと接触気体との接触は、セルロースアシレートフィルムを千鳥状に配置された複数のローラで案内しながら実施されることが好ましい。
【0102】
接触気体との接触時間は、特に限定されないが、本発明の効果が発揮される範囲内であれば、生産効率の点から出来るだけ短いほうが好ましい。処理時間の上限値として、例えば、60分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましい。一方、処理時間の下限値として、例えば、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。
接触気体との接触する前のセルロースアシレートフィルムの温度は特に限定されないが、80〜130℃であることが好ましい。
【0103】
また、前記湿熱処理前のセルロースアシレートフィルムの残留溶媒量は特に限定されないが、セルロースアシレート分子の流動性がほとんど消失していることが好ましく、0〜5質量%であることが好ましく、0〜0.3質量%であることがより好ましい。
セルロースアシレートフィルムと接触した接触気体は、冷却装置が接続された凝縮装置に送られ、加熱気体と凝縮液とに分けられてもよい。
【0104】
本発明の製造方法では、前記式(5)および式(11)を満たすアシル置換度のセルロースアシレートを含むフィルムを、前記式(12)を満たす温度で延伸した後、下記式(13)および式(14)を満たす条件で湿熱処理することが、低置換度のセルロースアシレートの寸度変化率を改善する観点から、より好ましい。
70℃≦湿熱処理温度≦120℃ (13)
250g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦400g/m3 (14)
本発明の製造方法のより好ましい態様は、低置換度のセルロースアシレートフィルムに対して湿熱処理を行う際は絶対湿度量を厳密に制御する必要があることを見いだしたことに基づくものである。例えば、アシル置換度が2.9前後のセルロースアシレートフィルムで最適とされていた絶対湿度量を低置換度セルロースアシレートフィルムに照射すると、湿熱処理工程において大きく搬送方向に延伸されてしまう。このように低置換度のセルロースアシレートを用いた場合における湿熱処理温度、絶対湿度量および相対湿度量の好ましい範囲は、上記の特に置換度の制限がない場合の湿熱処理時におけるより好ましい範囲と同様の範囲である。
【0105】
(乾燥工程)
このようにして接触気体と接触したセルロースアシレートフィルムは、そのまま略室温まで冷却してもよいし、フィルム中に残存した接触気体分子の量を調整するために、続いて乾燥ゾーンへ搬送してもよい。乾燥ゾーンへ搬送する場合、ロール群で搬送されているセルロースアシレートフィルムやテンターで両端をクリップされながら搬送されているセルロースアシレートフィルムに対し、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法、熱線を照射する方法、昇温されたロールに接触させる方法等があるが、熱風もしくは温風や、ガス濃度の低い風をあてる方法が好ましい。なお、水蒸気接触工程が熱処理工程の前に実施される場合には、熱処理工程を乾燥工程とすることもできる。
【0106】
(熱処理工程)
本発明のフィルムの製造方法湿熱処理工程終了後に前述のような熱処理工程を設けることが好ましい。本発明では湿熱処理工程後から乾燥工程前までの間に行ってもよく、湿熱処理工程後に熱処理工程を乾燥工程と兼ねて行ってもよく、あるいは湿熱処理工程と乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けてもよい。本発明においては湿熱処理工程後から乾燥工程前までの間に前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。
このような処理によりフィルムの収縮率を小さくできる理由は明確ではないが、延伸工程にて延伸される処理を経たフィルムにおいては、延伸方向の残留応力が大きいため、熱処理によって前記残留応力が解消されることにより、熱処理温度以下の領域での収縮力が低減されるものと推定される。
【0107】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理乾燥時は絶対湿度量が0g/m3であることが好ましい。熱処理工程における熱処理温度も前記湿熱処理工程と同じ温度とすることが結露防止およびフィルム収縮の観点から好ましい。
【0108】
なお前記熱処理工程において、フィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。この収縮を可能な限り抑制しながら熱処理することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましく、幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンター方式)が好ましい。さらに、フィルムの幅方向および搬送方向に、それぞれ0.9倍〜1.5倍に延伸することが好ましい。
【0109】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0110】
(位相差フィルム、偏光板)
本発明のフィルムは、偏光板用位相差フィルムに好ましく用いることができる。偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
【0111】
(液晶表示装置)
本発明のフィルムは、液晶表示装置に好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた液晶表示装置を提供することができる。特に本発明のフィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での黒表示時の光漏れが顕著に改善されており、劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
(セルロースアシレートの調製)
特開平10−45804号、同08−231761号に記載の方法で、セルロースアシレートを合成し、その置換度を測定した。具体的には、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することでアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0114】
(フィルムの製造)
実施例に用いた各セルロースアシレートフィルムの製造方法について説明する。
【0115】
(実施例1〜9、11、比較例1〜8)
原料ドープの調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルロースアシレート(下記表3に記載の置換度) 89.3質量部
添加剤 下記表3に記載の種類および量 (単位:質量部)の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 82質量部
メタノール 13.5質量部
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープを調製した。
なお、原料ドープのセルロースアシレート濃度は22重量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルター(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0116】
表3中、CAはセルロースアセテート、CAPはセルロースアセテートプロピロネートを表す。また、比較例3のCOPはシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン(株)製、商品名ZEONOR−ZF14)を表し、セルロースアシレートの代わりに熱可塑性樹脂として用いた。表3に記載の添加剤は、T1は前記表2に記載の高分子可塑剤P−64、T2はTPP/BDP=1:1(重量比)、T3は下記化合物、T4は前記表1に記載の高分子可塑剤P−6である。
【0117】
【化2】

【0118】
フィルム製造設備を用いてフィルムを製造した。インラインミキサーで原料ドープを攪拌して流延ドープを得た。
流延バンドの走行方向における周面の速度を20m/分〜100m/分の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延バンドの周面の温度を、0℃〜35℃の範囲内でほぼ一定となるように保持した。
流延ダイは、流延ドープを周面上に流延し、周面に流延膜を形成した。自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラを用いて、流延ドラムから流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取った。
剥取不良を抑制するために流延ドラムの速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フィルムは、渡り部、テンター部、及び乾燥室へ順次搬送された。渡り部、テンター、及び乾燥室は、湿潤フィルムに乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフィルムを冷却室に送った。冷却室では、フィルムを30℃以下になるまで冷却した。
その後、フィルムに、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室に搬送した。巻取室では、プレスローラで所望のテンションを付与しつつ、フィルムを巻き取った。フィルム製造設備により製造されたフィルムは、幅が1300〜2500mmであり、いずれも膜厚が70μmであった。
【0119】
(実施例10、12および13)
(コア層(C層)用セルロースアシレートドープの調整)
セルロースアシレート樹脂:表3に記載のもの 100質量部
添加剤:表3に記載のもの 表3に記載の量(単位:質量部)
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
【0120】
(スキンB層(SB層)用セルロースアシレートドープの調整)
セルロースアシレート樹脂:表3に記載のもの 100質量部
添加剤:表3に記載のもの 表3に記載の量(単位:質量部)
マット剤 0.05重量部
剥離促進剤 0.03質量部
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
【0121】
(スキンA層(SA層)用セルロースアシレートドープの調整)
セルロースアシレート樹脂:表3に記載のもの 100質量部
添加剤:表3に記載のもの 表3に記載の量(単位:質量部)
マット剤 0.05重量部
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
【0122】
(マット剤)
日本エアロジル(株)社製、アエロジルR972(商品名、二酸化ケイ素微粒子(平均粒径15nm、モース硬度 約7)。
【0123】
(剥離促進剤)
クエン酸の部分エチルエステル化合物。
【0124】
上記のセルロースアシレートドープをミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアシレートドープを調製した。
【0125】
次に、上記により調製した各層用ドープを用い、下記に記載した以外は実施例1と同様にして、フィルムを製造した。
【0126】
ドープを流延する際には、走行する流延バンドの上に流延ダイから上記ドープを共に流延した。ここで、各ドープの流延量を調整することにより低置換度層(コア層、C層)が最も厚くなるように同時多層流延を行い、流延膜を形成させた。
【0127】
(湿熱処理)
延伸処理を経た各フィルムに、結露防止処理、湿熱処理(水蒸気接触処理)及び熱処理を順次行った。
結露防止処理では、各フィルムに乾燥空気をあてて、フィルム温度(100℃)Tf0を調節した。
湿熱処理(水蒸気接触処理)では、湿潤気体接触室内の湿潤気体の絶対湿度(湿熱処理絶対湿度)が表3に示す値となるように、そして、湿潤気体の露点は、各フィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節し、各フィルムの温度(湿熱処理温度)が表3に示す値となる状態を、処理時間(60秒)だけ維持しながら、各フィルムを搬送した。
熱処理では、熱処理室内の気体の絶対湿度(熱処理絶対湿度)を0g/m3とし、各フィルムの温度(熱処理温度)を湿熱処理温度と同じ温度に設定して、処理時間(2分)だけ維持した。フィルム表面温度は、テープ型熱電対表面温度センサー(安立計器(株)製STシリーズ)をフィルムに3点貼り付け、それぞれの平均値から求めた。
その後、室温まで冷却した後で各フィルムを巻き取り、各実施例および比較例のフィルムを得た。
【0128】
(延伸処理)
上記方法で得られた各フィルムを、オフライン延伸設備の供給室に収納した。供給ローラにより、供給室からフィルムをテンター部に供給した。そのときの各実施例および比較例のフィルムの残留溶媒量を表3に記載した。テンター部ではポリマーフィルムに延伸処理を施した。この延伸処理の延伸倍率および延伸温度は、表3に示すとおりであった。
【0129】
(湿熱処理)
延伸処理を経た各フィルムに、結露防止処理、湿熱処理(水蒸気接触処理)及び熱処理を順次行った。
結露防止処理では、各フィルムに乾燥空気をあてて、フィルム温度(100℃)Tf0を調節した。
湿熱処理(水蒸気接触処理)では、湿潤気体接触室内の湿潤気体の絶対湿度(湿熱処理絶対湿度)が表3に示す値となるように、そして、湿潤気体の露点は、各フィルムの温度Tf0よりも10℃以上高い温度となるように調節し、各フィルムの温度(湿熱処理温度)が表3に示す値となる状態を、処理時間(60秒)だけ維持しながら、各フィルムを搬送した。
熱処理では、熱処理室内の気体の絶対湿度(湿熱処理絶対湿度)が表3に示す値になるように調節し、各フィルムの温度(湿熱処理温度)が表3に示す値となる状態を、処理時間(2分)だけ維持した。フィルム表面温度は、テープ型熱電対表面温度センサー(安立計器(株)製STシリーズ)をフィルムに3点貼り付け、それぞれの平均値から求めた。
その後、室温まで冷却した後で各フィルムを巻き取り、各実施例および比較例のフィルムを得た。
【0130】
得られたフィルムのRe、Rth、ΔReおよびMD方向とTD方向の寸度変化率を上記評価方法に従って評価し、得られた結果を下記表3に記載した。
【0131】
(剥ぎ取り適性)
各実施例および比較例において、支持体から流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る際(延伸前における剥ぎ取り)の剥離点の変動幅を測定し、剥ぎ取り適性の評価を行った。
A:剥離点の変動幅 0mmで変動しない(非常に軽い)。
B:剥離点の変動幅 2mm以内で変動する(軽い)。
C:剥離点の変動幅 5mm以内で変動する(やや重い)。
D:剥離点の変動幅 10mm以上で変動する(重い)。
以上の評価にしたがって、剥ぎ取り適性を評価し、得られた結果を下記表3に記載した。なお、比較例3については剥ぎ取り適性の評価を行わなかった。
【0132】
[偏光板の作製]
上記で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムの表面をアルカリ鹸化処理した。1.5規定の水酸化ナトリウム水溶液に55℃で2分間浸漬し、室温の水洗浴槽中で洗浄し、30℃で0.1規定の硫酸を用いて中和した。再度、室温の水洗浴槽中で洗浄し、さらに100℃の温風で乾燥した。続いて、厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して厚さ20μmの偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、前記のアルカリ鹸化処理した各ポリマーフィルムと、同様のアルカリ鹸化処理したフジタックTD80UL(富士写真フィルム社製)を用意し、これらの鹸化した面が偏光子側となるようにして偏光子を間に挟んで貼り合わせ、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムとTD80ULが偏光子の保護フィルムとなっている偏光板をそれぞれ得た。この際、各セルロースアシレートフィルムのMD方向およびTD80ULの遅相軸が、偏光子の吸収軸と平行になるように貼り付けた。
【0133】
[液晶表示装置の作製]
VAモードの液晶TV(KDL−32J5000、SONY(株)製)の表裏の偏光板および位相差板を剥して、液晶セルとして用いた。図1の構成で、外側保護フィルム(不図示)、偏光子11、各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム14、液晶セル13(上記のVA液晶セル)、光学異方性フィルム(フジタックTD80UL)15、偏光子12および外側保護フィルム(不図示)をこの順に粘着剤を用いて貼り合わせ、各液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。
【0134】
この液晶表示装置を60℃相対湿度90%の恒温恒湿槽内に500時間置いた後、取り出して、25℃相対湿度60%で24時間経過させた。得られた液晶表示装置について、測定機(EZ−contrast 160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示状態で方位角45°での極角60°における黒輝度を測定した。これを斜め黒輝度と呼ぶ。測定した斜め黒輝度を、下記の評価基準にしたがって評価した。その結果を表3に示す。
A 0cd/m2以上0.15cd/m2未満
B 0.15cd/m2以上0.25cd/m2未満
C 0.25cd/m2以上0.4cd/m2未満
D 0.4cd/m2以上
【0135】
【表3】

【0136】
表3より、本発明実施例のフィルムはいずれも、波長分散および寸度変化率が本発明の範囲内であった。また、光学特性も好ましい範囲であった。
一方、比較例1のフィルムは、湿熱処理温度および湿熱処理絶対湿度が本発明の範囲外であり、寸度変化率が悪かった。比較例2のフィルムは、延伸温度が本発明の下限値以下であり、寸度変化率が悪かった。比較例3のフィルムは、用いた樹脂が本発明の範囲外であり、波長分散が本発明の下限値以下であった。比較例4のフィルムは、延伸温度が本発明の範囲外であり、寸度変化率が悪かった上、茶色に変色し、光学用途用のフィルムとして用いることに適さないものであった。比較例5および6はそれぞれ湿熱処理温度を本発明の下限値未満、上限値外としたものであり、いずれも寸度変化率が悪かった。比較例7および8はそれぞれ湿熱処理絶対湿度を本発明の下限値未満、上限値外としたものであり、いずれも寸度変化率が悪かった。
【符号の説明】
【0137】
11 偏光子
12 偏光子
13 液晶セル
14 各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルム
15 フジタックTD80UL

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長630nmにおける面内方向のレターデーションと波長450nmにおける面内方向のレターデーションとの差ΔReが下記式(1)を満たし、60℃相対湿度90%で24時間経過前後の寸度変化率がフィルム搬送方向およびそれに直交する方向において下記式(2)を満たすことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
1nm≦ΔRe≦15nm (1)
−0.5%≦{(L'−L0)/L0}×100≦0.5% (2)
(式(2)中、L0は60℃相対湿度90%で24時間経過させる前のフィルム長さ(単位:mm)を表し、L’は60℃相対湿度90%で24時間経過させ、さらに2時間調湿した後のフィルム長さ(単位:mm)を表す。)
【請求項2】
波長590nmにおける面内方向のレターデーションReが下記式(3)を満たし、波長590nmにおける膜厚方向のレターデーションRthが下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
30nm≦Re≦70nm (3)
90nm≦Rth≦300nm (4)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (4’)
(式(4’)中、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
【請求項3】
前記セルロースアシレートフィルムに含まれるセルロースアシレートのアシル置換度が、下記式(5)および(6)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
0≦B≦1 (6)
(式(5)および(6)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
【請求項4】
2層以上の積層構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
最もセルロースアシレートの総アシル置換度が高い層の総アシル置換度DSaと、最もセルロースアシレートの総アシル置換度が低い層の総アシル置換度DSbが、下記式(7)を満たすことを特徴とする請求項4に記載のセルロースアシレートフィルム。
0.1≦DSa−DSb≦0.5 (7)
【請求項6】
セルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(8)を満たす温度で延伸し、延伸後のフィルムを下記式(9)および式(10)を満たす条件で湿熱処理することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
Te−30℃≦延伸温度≦Te+30℃ (8)
Te=T[tanδ]−ΔTm (8’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (8’’)
(式(8)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアシレートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。)
60℃≦湿熱処理温度≦130℃ (9)
200g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦500g/m3 (10)
【請求項7】
下記式(5)および式(11)を満たすセルロースアシレートを含むフィルムを、下記式(12)を満たす温度で延伸し、延伸したフィルムを下記式(13)および式(14)を満たす条件で湿熱処理することを特徴とする請求項6に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.3≦A+B≦2.6 (5)
B=0 (11)
(式(5)および(11)中、Aはセルロースアシレートのアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースアシレートのプロピオニル基またはブチリル基の置換度を表す。)
Te−20℃≦延伸温度≦Te+20℃ (12)
Te=T[tanδ]−ΔTm (12’)
ΔTm=Tm(0)−Tm(x) (12’’)
(式(12)中、T[tanδ]は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの動的粘弾性tanδを測定した際にtanδがピークを示す温度を表し、Tm(0)は残留溶媒量が0%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表し、Tm(x)は該セルロースアシレートに対する残留溶媒量がx%のときのセルロースアシレートの結晶融解温度を表す。)
70℃≦湿熱処理温度≦120℃ (13)
250g/m3≦湿熱処理絶対湿度量≦400g/m3 (14)
【請求項8】
請求項6または7に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜5および8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする位相差フィルム。
【請求項10】
請求項1〜5および8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項1〜5および8のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項9に記載の位相差フィルム、あるいは、請求項10に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−250298(P2010−250298A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61300(P2010−61300)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】